特許第6039306号(P6039306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039306
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20161128BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20161128BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20161128BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20161128BHJP
   B23K 26/60 20140101ALI20161128BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B23K26/36
   B23K26/53
   B28D5/00 Z
   C03C23/00 D
   B23K26/60
   C03B33/09
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-185679(P2012-185679)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-42921(P2014-42921A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(72)【発明者】
【氏名】下井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 佳祐
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−144312(JP,A)
【文献】 特開2011−098384(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/050938(WO,A1)
【文献】 特開2009−066851(JP,A)
【文献】 特開2005−268752(JP,A)
【文献】 特開2008−018547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
B23K 26/53
B23K 26/60
B28D 5/00
C03B 33/09
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離予定部分を含む加工対象物を用意する工程と、
前記加工対象物を用意した後に、前記剥離予定部分を規定する基準線に沿って前記加工対象物に亀裂を形成する工程と、
前記加工対象物に前記亀裂を形成した後に、前記剥離予定部分に第1のレーザ光を照射することによって、前記加工対象物から前記剥離予定部分を剥離する工程と、
を備え、
前記剥離予定部分は、前記加工対象物の縁部を含み、
前記基準線は、前記加工対象物の前記縁部を形成する表面及び側面に設定されており、
前記剥離予定部分を剥離する工程においては、前記加工対象物の前記縁部に沿って前記剥離予定部分に前記第1のレーザ光を照射することによって前記剥離予定部分を剥離し、
前記加工対象物の面取りを行い、
前記亀裂を形成する工程においては、前記加工対象物の面取り形状が前記基準線に沿って延びる複数の面から構成されるように複数列の前記亀裂を形成する、
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記亀裂を形成する工程においては、第2のレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で前記基準線に沿って前記第2のレーザ光を前記加工対象物に照射することにより、前記基準線に沿って前記加工対象物の少なくとも内部に前記亀裂を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記亀裂を形成する工程においては、前記基準線に沿って連続的に前記亀裂を形成する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記亀裂を形成する工程においては、前記基準線に沿って断続的に前記亀裂を形成する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光の照射によって加工対象物の一部分を剥離するレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野の従来の技術として、例えば、特許文献1に記載のU字状溝加工方法が知られている。このU字状溝加工方法においては、ガラス基板の表面にレーザビームを走査してガラス基板を急加熱することによって、加熱部分の熱膨張により非加熱部分との境界近傍から加熱部分を剥離し、ガラス基板の表面に断面U字状の溝を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再公表特許WO2009/050938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1に記載の方法によれば、レーザ光の照射によってガラス基板等の加工対象物の一部分を剥離することができる。しかしながら、特許文献1に記載の方法にあっては、加工対象物から一部分を剥離して形成される溝の断面形状がU字状に限定されたり、剥離される部分の幅にばらつきが生じたりするため、所望する形状の加工を行うことができないという問題がある。
【0005】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光の照射により加工対象物の一部分を所望の形状に剥離可能なレーザ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工方法は、剥離予定部分を含む加工対象物を用意する工程と、加工対象物を用意した後に、剥離予定部分を規定する基準線に沿って加工対象物に亀裂を形成する工程と、加工対象物に亀裂を形成した後に、剥離予定部分に第1のレーザ光を照射することによって、加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このレーザ加工方法においては、第1のレーザ光の照射により加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程に先だって、剥離予定部分を規定する基準線に沿って亀裂を形成する。このようにすると、剥離予定部分を剥離する工程において、その亀裂に沿って剥離予定部分の剥離を生じさせることができる。よって、このレーザ加工方法によれば、基準線及び亀裂の態様を制御することによって、所望の形状に剥離予定部分を剥離することが可能となる。
【0008】
本発明に係るレーザ加工方法においては、亀裂を形成する工程において、第2のレーザ光の集光点を加工対象物の内部に位置させた状態で基準線に沿って第2のレーザ光を加工対象物に照射することにより、基準線に沿って加工対象物の少なくとも内部に亀裂を形成することができる。この場合には、例えばスクライブ等の方法によって表面に亀裂を形成することが困難な材料からなる加工対象物に対しても、基準線に沿って好適に亀裂を形成することができる。
【0009】
本発明に係るレーザ加工方法においては、剥離予定部分は、加工対象物の表面を含み、基準線は、加工対象物の表面に沿って複数設定されており、亀裂を形成する工程においては、複数の基準線のそれぞれに沿って加工対象物に亀裂を形成し、剥離予定部分を剥離する工程においては、複数の基準線のそれぞれに沿って剥離予定部分に第1のレーザ光を照射することによって、加工対象物から剥離予定部分を剥離することができる。この場合には、加工対象物の表面を含む剥離予定部分を剥離して加工対象物の平滑な面を露出させることにより、加工対象物の表面平滑化を行うことができる。
【0010】
本発明に係るレーザ加工方法においては、剥離予定部分は、加工対象物の縁部を含み、基準線は、加工対象物の縁部を形成する表面及び側面に設定されており、剥離予定部分を剥離する工程においては、加工対象物の縁部に沿って剥離予定部分に第1のレーザ光を照射することによって剥離予定部分を剥離し、加工対象物の面取りを行うことができる。この場合には、加工対象物の縁部を含む剥離予定部分を剥離することにより、加工対象物の面取りを行うことができる。特に、上述したように、亀裂に沿って剥離予定部分の剥離を生じさせることができるので、基準線及び亀裂の態様を制御することによって、所望の形状に面取り加工を行うことができる。
【0011】
本発明に係るレーザ加工方法においては、亀裂を形成する工程において、加工対象物の面取り形状が基準線に沿って延びる複数の面から構成されるように複数列の亀裂を形成することができる。このようにすれば、加工対象物の面取り形状を複数の面から構成される形状にすることができる。
【0012】
本発明に係るレーザ加工方法においては、亀裂を形成する工程において、基準線に沿って連続的に亀裂を形成することができる。この場合、剥離予定部分の剥離を、基準線及び亀裂に確実に沿うように生じさせることができる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工方法においては、亀裂を形成する工程において、基準線に沿って断続的に亀裂を形成することができる。この場合、亀裂の形成量を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザ光の照射により加工対象物の一部分を所望の形状に剥離可能なレーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るレーザ加工方法における加工対象物の斜視図である。
図2】加工対象物に亀裂を形成する工程の要部を示す図である。
図3】加工対象物に亀裂を形成する工程の要部を示す図である。
図4】加工対象物に亀裂を形成する工程の要部を示す図である。
図5】加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程の要部を示す図である。
図6】加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程の要部を示す図である。
図7】第1実施形態に係るレーザ加工方法の変形例を説明するための図である。
図8】第1実施形態に係るレーザ加工方法の変形例を説明するための図である。
図9】本実施形態における亀裂の変形例を示す図である。
図10】本実施形態における亀裂の変形例を示す図である。
図11】第2実施形態に係るレーザ加工方法における加工対象物の斜視図である。
図12】加工対象物に亀裂を形成する工程を示す図である。
図13】加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程を示す図である。
図14】第3実施形態に係るレーザ加工方法における加工対象物の斜視図である。
図15】加工対象物に亀裂を形成する工程の要部を示す図である。
図16】加工対象物に亀裂を形成する工程の要部を示す図である。
図17】加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程を示す図である。
図18】第3実施形態に係るレーザ加工方法の変形例を説明するための図である。
図19】第3実施形態に係るレーザ加工方法の変形例を説明するための図である。
図20】本実施形態に係るレーザ加工方法の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るレーザ加工方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下に説明するレーザ加工方法では、レーザ光の照射によって加工対象物の一部分を剥離する。
[第1実施形態]
【0017】
まず、本発明の第1実施形態に係るレーザ加工方法について説明する。このレーザ加工方法では、まず、図1の(a)に示されるように、加工対象物1を用意する。加工対象物1は、例えば、ガラス(強化ガラスを含む)、SiC、シリコン、又はサファイア等からなる。加工対象物1は、矩形板状を呈している。加工対象物1は、表面3と、表面3の反対側の裏面4と、表面3と裏面4とを互いに接続する側面6とを有している。加工対象物1は剥離予定部分10を含む。剥離予定部分10は、加工対象物1の表面3に設定された一対の基準線BLによって規定されている。
【0018】
基準線BLは、所定の間隔をもって互いに平行になるように、加工対象物1の一端から他端にわたって延在する仮想線である。したがって、剥離予定部分10は、加工対象物1の表面3の一部分を含むように、加工対象物1の一端から他端にわたって一定の幅で延在するストライプ状に設定されている。後に、この剥離予定部分10にレーザ光を照射して加工対象物1から剥離予定部分10を剥離(除去)し、図1の(b)に示されるように加工対象物1の表面3に溝11を形成する。
【0019】
続く工程では、基準線BLに沿って加工対象物1に亀裂(初亀裂)を形成する。この工程について詳細に説明する。図2図4は、加工対象物に亀裂を形成する工程の要部を示す図である。特に、図2の(b)は図2の(a)のII−II線に沿って部分断面図であり、図3の(b)は図3の(a)のIII−III線に沿っての部分断面図であり、図4の(b)は図4の(a)のIV−IV線に沿っての部分断面図である。
【0020】
この工程では、まず、図2に示されるように、一方の基準線BLに沿ってレーザ光(第2のレーザ光)L2を照射する。より具体的には、加工対象物1の表面3をレーザ光L2の入射面としてレーザ光L2の集光点Pを加工対象物1の内部に位置させた状態において、一方の基準線BLに沿って(矢印A2の方向に)集光点Pを相対移動させることにより、その基準線BLに沿って加工対象物1にレーザ光L2を照射(走査)する。これにより、図3に示されるように、一方の基準線BLに沿って加工対象物1の内部に改質領域7が形成される。
【0021】
レーザ光L2は、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点P近傍において特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される。改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理特性が周囲と異なる状態になった領域を含む。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後に再固化した領域、溶融状態にある領域、及び溶融状態から再固化する途中の状態にある領域の少なくとも一つを含む領域を意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、及び、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。
【0022】
さらに、改質領域7としては、加工対象物1の材料において改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、さらに、それらの領域の内部や改質領域7と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック等)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域7の全体に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
【0023】
また、レーザ光L2がパルスレーザ光である場合には、改質領域7は、1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)によって形成される改質スポットの集合として構成される。さらに、改質領域7は、改質スポットから延びる複数の亀裂を含む場合がある。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット、若しくは屈率変化スポット、またはそれらの少なくとも2つが混在するもの等が挙げられる。
【0024】
ここでは、レーザ光L2の照射条件を、例えば以下のように設定することができる。
波長:532nm
エネルギー:18μJ
パルス幅:500ps
走査速度:500mm/s
【0025】
これにより、加工対象物1の内部に上述したように改質領域7を形成すると共に、改質領域7から亀裂8を生じさせる。亀裂8は、基準線BLに沿うように加工対象物1の一端から他端にわたって連続的に形成されている。また、亀裂8は、加工対象物1の表面3に至っている。そして、同様の手順で他方の基準線BLに沿ってレーザ光L2を照射することにより、図4に示されるように、その基準線BLに沿って改質領域7及び亀裂8を形成する。
【0026】
続く工程では、剥離予定部分10にレーザ光を照射することによって、加工対象物1から剥離予定部分10を剥離する。この工程について詳細に説明する。図5は、加工対象物から剥離予定部分を剥離する工程の要部を示す図である。特に、図5の(b)は図5の(a)のV−V線に沿っての部分断面図であり、図6の(b)は図6の(a)のVI−VI線に沿っての部分断面図である。
【0027】
この工程では、まず、図5に示されるように、加工対象物1の表面3をレーザ光(第1のレーザ光)L1の入射面としてレーザ光L1のビームスポットSPを剥離予定部分10に位置させた状態において、ビームスポットSPを基準線BLに沿って(矢印A1の方向に)相対移動させることにより、加工対象物1の一端から他端にわたって基準線BLに沿って剥離予定部分10にレーザ光L1を照射(走査)する。
【0028】
これにより、図6に示されるように、レーザ光L1のビームスポットSPの移動に伴って(すなわち、レーザ光L1の走査に伴って)、加工対象物1から剥離予定部分10がめくり上がるようにして剥離される。このとき、加工対象物1には、基準線BLに沿って亀裂8が形成されているので、剥離予定部分10の剥離は亀裂8によって規定され、亀裂8に沿って(基準線BLに沿って)進行することとなる。これにより、先に図1の(b)にて示したように、基準線BLに沿って加工対象物1から剥離予定部分10が剥離され、剥離予定部分10の表面3にストライプ状の溝11が形成される。
【0029】
なお、剥離予定部分10の剥離は、レーザ光L1の照射で加工対象物1が加熱され、その加熱によって生じるせん断力に応じてビームスポットSPの移動方向(レーザ光L1の走査方向)に連続的に加工対象物1に亀裂が生じ、その後に、加工対象物1の表面3が自然空冷により収縮することによって生じるものと考えられる。このような剥離を生じさせるためのレーザ光L1の照射条件は、例えば以下のように設定することがきる。レーザ光L1の光源としては例えばCOレーザ等を用いることができる。
ビームスポット径φ:1.0mm
出力:100W
走査速度:1000mm/s
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、レーザ光L1の照射により加工対象物1から剥離予定部分10を剥離する工程に先だって、剥離予定部分10を規定する基準線BLに沿って亀裂8を形成する。このようにすると、剥離予定部分10を剥離する工程において、その亀裂8に沿って剥離予定部分10の剥離を生じさせることができる。よって、このレーザ加工方法によれば、基準線BL及び亀裂8を所望の態様(位置・形状等)に制御することによって、例えば加工形状の直線性を向上させる等、所望の形状に剥離予定部分10を剥離することが可能となる。
【0031】
なお、上述したように、基準線BL及び亀裂8の形状は、所望する加工形状に応じて任意に設定することができる。例えば、図7の(a)に示されるように、基準線BLを、加工対象物1の外周部から所定距離内側において矩形環状に設定すると共に、その基準線BLに沿って(矢印A2の方向に)レーザ光L2を照射して亀裂8を形成することができる。この場合には、図7の(b)に示されるように、その基準線BL及び亀裂8で規定される矩形の剥離予定部分10に対してレーザ光L1を照射することにより剥離予定部分10を剥離し、図7の(c)に示されるように、加工対象物1の表面3に矩形の溝11を形成することができる。
【0032】
同様にして、基準線BLを円環状に設定して円環状の亀裂8を形成することもできるが、例えば、図8の(a)に示されるように、剥離予定部分10を剥離するためのレーザ光L1のビームスポットSPの径に対して、基準線BLで規定された剥離予定部分10が広い場合には、図8の(b)に示されるように、剥離予定部分10を複数(ここでは2つ)の領域10aに分割するように亀裂8を形成することができる。このようにすれば、その複数の領域10aのそれぞれにレーザ光L1を照射して剥離し、剥離予定部分10の全体を剥離することができる。
【0033】
また、亀裂8は、上述したものに限定されず、以下のようなものを含む。すなわち、亀裂8は、図9の(a)に示されるように、加工対象物1の表面3に到達していなくてもよい。この場合には、レーザ光L1の照射によって、亀裂8が加工対象物1の表面3に到達し、剥離予定部分10の剥離を生じさせることができる。このように、亀裂8は、加工対象物1の少なくとも内部に形成されていればよい。
【0034】
また、亀裂8は、図9の(b)に示されるように、加工対象物1の表面3及び裏面4に垂直な方向に対して傾斜するように形成されてもよい。この場合には、断面台形状の剥離予定部分10が剥離され、加工対象物1に断面台形状の溝が形成されることとなる。また、亀裂8は、上述したように改質領域7から生じるものに限定されない。つまり、亀裂8は、所定のレーザ光の照射により改質領域7の形成を伴わずに形成されたものであってもよいし、図9の(c)に示されるように、工具切削やレーザスクライブ等によって加工対象物1の表面3に形成されたスクライブ溝であってもよい。
【0035】
また、亀裂8は、図9の(d)に示されるように、剥離される剥離予定部分10の断面形状の外形が直線と曲線とで形成されるように形成することができる。さらに、亀裂8は、基準線BLに沿って連続的に形成されるものに限定されず、図10に示されるように、基準線BLに沿って断続的に形成されるものであってもよい。以上の亀裂8の変形例については、以下の実施形態においても同様に適用することができる。
[第2実施形態]
【0036】
引き続いて、本発明の第2実施形態に係るレーザ加工方法について説明する。このレーザ加工方法では、まず、図11の(a)に示されるように、加工対象物1Aを用意する。加工対象物1Aは、例えば、ガラス(強化ガラスを含む)、SiC、シリコン、又はサファイア等からなる。加工対象物1Aは剥離予定部分10Aを含む。剥離予定部分10Aは、複数(ここでは5つ)の基準線BLによって規定されている。
【0037】
基準線BLは、所定の間隔をもって互いに平行となるように加工対象物1Aの一端から他端にわたって延在する仮想線であり、加工対象物1Aの表面3に沿って(表面3の全体にわたって)配列されている。したがって、剥離予定部分10Aは、一対の基準線BLで規定されるストライプ状の領域10aの集合として、加工対象物1の表面3の全体を含むように設定されている。後の工程においては、図11の(b)に示されるように、この剥離予定部分10Aにレーザ光を照射して加工対象物1Aから剥離予定部分10Aを剥離(除去)し、加工対象物1Aの加工面3Aを露出させる。
【0038】
続く工程では、上記第1実施形態と同様にして、基準線BLのそれぞれに沿ってレーザ光L2を照射することにより、図12に示されるように、基準線BLのそれぞれに沿って加工対象物1Aの内部に改質領域7を形成すると共に、改質領域7から亀裂8を生じさせる。これにより、加工対象物1Aの内部から加工対象物1Aの表面3に至る亀裂8を、基準線BLのそれぞれに沿って加工対象物1Aの一端から他端にわたって連続的に形成する。なお、図12の(b)は、図12の(a)のXII−XII線に沿っての断面図である。
【0039】
続いて、剥離予定部分10Aにレーザ光L1を照射することによって、加工対象物1Aから剥離予定部分10Aを剥離する。より具体的には、図13の(a)に示されるように、加工対象物1Aの表面3をレーザ光L1の入射面として、剥離予定部分10Aのうちの1つの領域10aにレーザ光L1のビームスポットSPを位置させる。その状態において、ビームスポットSPを基準線BLに沿って(矢印A1の方向に)相対移動させることにより、その領域10aにレーザ光L1を照射(走査)する。これにより、図13の(b)に示されるように、その領域10aを加工対象物1Aから剥離する。
【0040】
同様の手順を他の領域10aに対して繰り返し行うことにより、全ての領域10aを剥離して、図11の(b)に示されるように、剥離予定部分10A全体を剥離する。これにより、加工対象物1Aの表面3の全体が剥離され、加工対象物1Aの加工面3Aが露出する。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物1Aの表面3の全体を含む剥離予定部分10Aを剥離することにより、加工対象物1の平滑な加工面3Aを露出させて、加工対象物1Aの表面平滑化を行うことができる。
[第3実施形態]
【0042】
引き続いて、本発明の第3実施形態に係るレーザ加工方法について説明する。このレーザ加工方法では、まず、図14の(a)に示されるように、加工対象物1Bを用意する。加工対象物1Bは、例えば、ガラス(強化ガラスを含む)、SiC、シリコン、又はサファイア等からなる。加工対象物1Bは剥離予定部分10Bを含む。剥離予定部分10Bは、一対の基準線BLによって規定されている。
【0043】
基準線BLは、加工対象物1Bの縁部12を形成する加工対象物1Bの表面3及び側面6のそれぞれに設定されている。基準線BLのそれぞれは、加工対象物1Bの一端から他端にわたって延在している。したがって、剥離予定部分10Bは、加工対象物1Bの一端から他端にわたって、加工対象物1Bの縁部12を含むように延在している。後に、図14の(b)に示されるように、この剥離予定部分10Bにレーザ光を照射して加工対象物1Bから剥離予定部分10B(及び縁部12)を剥離(除去)し、加工対象物1Bの面取りを行う。
【0044】
続く工程では、図15,16に示されるように、基準線BLに沿ってレーザ光L2を照射して、加工対象物1の内部に改質領域7を形成する。より具体的には、まず、図15に示されるように、加工対象物1Bの表面3をレーザ光L2の入射面としてレーザ光L2の集光点Pを加工対象物1Bの内部に位置させた状態において、基準線BLに沿って(矢印A2の方向に)集光点Pを相対移動させることにより、基準線BLに沿って加工対象物1Bにレーザ光L2を照射(走査)する。
【0045】
これにより、図16に示されるように、基準線BLに沿って一列の改質領域7が形成される。ここでは、改質領域7は、上述したような亀裂を内包しているので、この工程においては、基準線BLに沿って一列の亀裂が形成されることとなる。なお、図15の(b)は、図15の(a)のXV−XV線に沿っての部分断面図であり、図16の(b)は、図16の(a)のXVI−XVI線に沿っての部分断面図である。
【0046】
続いて、図17に示されるように、剥離予定部分10Bにレーザ光L1を照射し、加工対象物1Bから剥離予定部分10Bを剥離する。より具体的には、図17の(a)に示されるように、加工対象物1Bの表面3をレーザ光L1の入射面として、レーザ光L1のビームスポットSPの少なくとも一部分を剥離予定部分10Bに位置させた状態において、ビームスポットSPを基準線BLに沿って(矢印A1の方向に)相対移動させることにより、縁部12に沿って剥離予定部分10Bにレーザ光L1を照射(走査)する。
【0047】
これにより、図17の(b)及び図14の(b)に示されるように、加工対象物1Bの縁部12を含む剥離予定部分10Bを加工対象物1Bから剥離し、加工対象物1Bの面取りを行う。その後、必要に応じて、剥離予定部分10Bの他の縁部を含む剥離予定部分に対して同様の手順を繰り返し行うことによって、加工対象物1Bの全体の面取りを行うことができる。
【0048】
なお、ここでのレーザ光L1の照射条件は、例えば以下のように設定することができる。
ビームスポット径:0.34mm
出力:100W
走査速度:300mm/s
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物1Bの面取り加工を行うことができる。特に、剥離予定部分10Bの剥離が改質領域7(改質領域7に内包される亀裂)によって規定されることとなるので、改質領域7の形成位置を制御することによって、加工対象物1Bの面取り形状(例えば深さ)を制御することができる。
【0050】
なお、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、剥離予定部分10Bの剥離を規定する改質領域7の形成の態様は、上述したものに限定されない。例えば、図18に示されるように、一対の基準線BLのそれぞれに沿って改質領域7を形成してもよい。この場合、2列の改質領域7及び亀裂8が形成されることとなる。図18の(b)は、図18の(a)のXVIII−XVIII線に沿っての部分断面図である。
【0051】
これにより、図19の(a)に示されるように、加工対象物1Bの面取り形状Fが、2列の亀裂8のそれぞれによって規定されることとなるので、基準線BLに沿って延びる2つの面から形成されることとなる。このように、このレーザ加工方法においては、加工対象物1Bの面取り形状が基準線BLに沿って延びる任意の複数の面から構成されるように、加工対象物1Bに複数列の改質領域7及び亀裂8を形成することができる。なお、面取り形状Fを形成する各面の基準線BLに直交する面内(図中の紙面内)における延在方向は、基準線BLに直交する面内における亀裂8の延在方向に対応している。
【0052】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、図19の(b)に示されるように、レーザ光L2の入射面として、表面3に比べて改質領域7の形成位置に近い側面6を用いてもよい。このように、このレーザ加工方法においては、改質領域7の形成の態様に応じて、任意の面をレーザ光L2の入射面とすることができる。
【0053】
以上の実施形態は、本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態を説明したものである。したがって、本発明に係るレーザ加工方法は、上述したものに限定されない。本発明に係るレーザ加工方法は、特許請求の範囲に記した各請求項の要旨を変更しない範囲において、上述したものを任意に変更することができる。
【0054】
例えば、図20に示されるように、加工対象物の表面3が3次元的に湾曲している場合、上記実施形態における亀裂8を形成する工程において、加工対象物の厚さ方向についてのレーザ光L2の集光点Pの位置を表面3の変位に応じて変更しながら(すなわち、加工対象物の厚さ方向における集光点Pの表面3からの距離を一定に保ちながら)レーザ光L2を加工対象物に照射することによって、加工対象物の厚さ方向において表面3から一定の位置に亀裂8を形成することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,1A,1B…加工対象物、3…表面、6…側面、8…亀裂、10,10A,10B…剥離予定部分、12…縁部、L1…レーザ光(第1のレーザ光)、L2…レーザ光(第2のレーザ光)、P…集光点、F…面取り形状、BL…基準線。
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