特許第6039320号(P6039320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6039320金属微粒子分散液及びその製造方法並びにそれを用いて形成した電極、配線パターン、塗膜、その塗膜を形成した装飾物品、抗菌性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039320
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】金属微粒子分散液及びその製造方法並びにそれを用いて形成した電極、配線パターン、塗膜、その塗膜を形成した装飾物品、抗菌性物品
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20161128BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20161128BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20161128BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20161128BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20161128BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20161128BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20161128BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B22F9/00 B
   B22F9/24 F
   B22F1/02 B
   H01B1/22 Z
   H01B1/00 E
   H01B5/14 Z
   H01B5/14 B
   H01B13/00 Z
   C09D5/24
   C09D7/12
   C09D201/00
   C09D11/00
   B01J13/00 B
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-193162(P2012-193162)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-47413(P2014-47413A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井田 清信
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 満
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091621(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ダイヤモンドライクカーボン状構造を有するフェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子、高分子分散剤及び誘電率が40以下の有機溶媒を含む分散液であって、
前記の高分子分散剤は、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が1937mgKOH/gであり、
前記高分子分散剤の配合量(A)と前記フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体の量(B)との比率(B/A)が0.1〜1である金属微粒子分散液。
【請求項2】
前記の高分子分散剤の配合量が、金属微粒子100重量部に対して5〜20重量部である請求項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項3】
動的光散乱法で粒度分布を測定した時に、金属微粒子のメジアン径が1〜500nmである請求項1又は2に記載の金属微粒子分散液。
【請求項4】
金属微粒子の濃度が5重量%以上である請求項1〜のいずれかに記載の金属微粒子分散液。
【請求項5】
更に樹脂を含む請求項1〜のいずれかに記載の金属微粒子分散液。
【請求項6】
少なくとも、ダイヤモンドライクカーボン状構造を有するフェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子と、誘電率が40以下の有機溶媒に溶解した高分子分散剤を混合して分散させる工程を有し、
前記の高分子分散剤のアミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が1937mgKOH/gであり、
前記高分子分散剤の配合量(A)と前記フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体の量(B)との比率(B/A)が0.1〜1である金属微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成される塗膜。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成される配線。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成される電極。
【請求項10】
少なくとも基材の表面の一部に請求項に記載の塗膜を形成した装飾物品。
【請求項11】
少なくとも基材の表面の一部に請求項に記載の塗膜を形成した抗菌性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子を配合した金属微粒子分散液及びその製造方法、並びにそれを用いて形成した電極、配線パターン、塗膜、更にはその塗膜を形成した装飾物品、抗菌性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子を配合した分散液は、その金属微粒子の性質を活用して、例えば電気的導通を確保するため、あるいは帯電防止、電磁波遮蔽又は金属光沢、抗菌性等を付与するためなどの種々の用途に用いられている。近年、平均粒子径がナノオーダーの金属微粒子を配合した分散液が用いられるようになり、その用途は多方面に拡大してきている。特に、プリンテッドエレクトロニクス(以降PEと記載する)と呼ばれる、印刷技術を利用した電子回路、デバイス等の形成技術が、低コスト化、生産性向上、省資源など環境調和性等の面から期待されており、例えば、PEによるフレキシブル配線形成技術に金属微粒子分散液の利用が検討されている。
【0003】
この技術は、金属微粒子を配合した分散液を、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の塗装手法でパターン状に基板に塗布し、必要に応じて加熱等により金属含有膜とし、電極や回路配線とするものである。印刷方法については種々の方法が検討されているが、特にスクリーン印刷法は、レジストでパターンを形成したスクリーンを被印刷物に配置し、分散液をスクリーンの開口部から押し出して印刷するという方式であり、低抵抗化が図れる厚膜の形成に好適と考えられている。一方、インクジェット印刷とは、分散液の液滴を微細な孔(ノズル)から吐出して基材に着弾させることで所定の形状のパターンを形成する方法であり、マスクレスで多品種生産が容易、材料使用量の低減、廃液排出がない、プロセスが単純になりエネルギー消費量が少なくなる等のメリットがある。
【0004】
分散液としては、印刷中の分散媒の揮発が抑制できること、表面張力が低く印刷面との親和性が高いこと、取扱いが簡易であること、樹脂等の配合の選択肢が広いことなどの種々のメリットから、非水溶媒を用いた分散液が求められるようになってきている。なお、PE用の分散液には一般に、金属微粒子が高度に分散していること、高濃度であること及び短期長期の分散安定性、塗装時成膜時の高精細化可能、表面平滑、印刷面との密着、低温焼結、低抵抗などが求められる。特にスクリーン印刷用途には、スクリーンをスムーズに透過する流動性、版離れ時の糸引き抑制、硬化までの形状維持性なども求められる。一方、インクジェット印刷用途には、低粘度であること、ノズルを目詰まりさせないこと、乾燥速度が速すぎないこと、分散安定性が高いことなども求められる。
【0005】
当社は特許文献1において、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子が溶媒に分散した金属コロイド液を開示している。この金属微粒子はコロイド液としたときに凝集状態の粒子が少なく分散性の良い金属微粒子であるため、電極や配線、塗膜など種々の用途に好適に用いることができる。
【0006】
上記文献のほか、金属微粒子や金属微粒子を分散した分散液として、例えば、特許文献2は、金属ナノ粒子と、この金属ナノ粒子を被覆する保護コロイドとで構成された金属コロイド粒子を含む分散液であって、前記保護コロイドが、カルボキシル基を有する有機化合物と、高分子分散剤とで構成されている分散液を開示している。該分散液は保存安定性に優れ、それを用いて製造された金属膜は低抵抗で基材に対する密着性が高いとされている。ここで、カルボキシル基を有する有機化合物としては、脂肪族カルボン酸及びヒドロキシカルボン酸から選択された少なくとも1種が好ましく、C1−24脂肪族カルボン酸が特に好ましいこと、高分子分散剤としては特に限定されないが、酸基、特にカルボキシル基を有するものが好ましいことが記載されている。
【0007】
特許文献3は、塗膜の構成材料として、金属コロイド粒子と、凝集助剤と高分子分散剤とで構成される分散剤と、バインダ樹脂、分散媒を含む導電ペーストを開示している。該導電ペーストを用いて製造された金属膜は低抵抗で緻密かつ基材に対する密着性が高く、また、コロイド粒子の製造工程において粒子の回収が容易であり、コロイド粒子の分散安定性も高いとされている。ここで、凝集助剤としては、カルボキシル基を有する低分子の有機化合物が好ましいこと、高分子分散剤としては特に限定されないが、酸基、特にカルボキシル基を有するものが好ましいことが記載されている。
【0008】
特許文献4は、気圧0.1MPaの状態での沸点が150〜350℃である非水溶性有機溶媒と、該有機溶媒中に分散した金属微粒子および/または水素化金属微粒子と、JIS K7237の規定によるアミン価が10〜190mgKOH/gであるアミノ化合物とを含む、導電膜形成用インクを開示している。該導電膜形成用インクはポリイミドを含む電気絶縁体層との密着性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−91621号公報
【特許文献2】特開2010−80442号公報
【特許文献3】特開2011−93297号公報
【特許文献4】特開2008−34358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の金属微粒子は、水系溶媒への分散性は非常に高く、水系の分散液への適用には好適であるが、非水系の分散媒にそのまま配合すると凝集し易い傾向がみられ、非水系分散液としたときの長期安定性や印刷適性の面で問題がある。
【0011】
特許文献2に記載されているカルボキシル基を有する有機化合物と高分子分散剤とで構成されている保護コロイド被覆金属ナノ粒子分散液では、カルボキシル基を有する有機化合物、高分子分散剤それぞれについて、多種多様な物質が大量に列挙され、特に制限なく用いることができるとしている。しかし本発明者らが追試した結果、有機化合物と高分子分散剤の組み合わせによっては、該被覆を有する金属ナノ粒子を非水系分散媒へ配合すると、著しい増粘が起こり分散液が得られない場合があること、増粘の程度が低いとしても金属ナノ粒子の沈降により高濃度の金属ナノ粒子分散液が得られない場合があることがわかった。
【0012】
特許文献3に記載されている凝集助剤と高分子分散剤を含む分散液では、凝集助剤、高分子分散剤それぞれについて、多種多様な物質が大量に列挙され、特に制限なく用いることができるとしている。しかし本発明者らが追試した結果、凝集助剤として記載されているカルボキシル基を有する低分子の有機化合物と高分子分散剤の組み合わせによっては、それらと金属ナノ粒子を非水系分散媒へ配合すると、著しい増粘が起こり分散液が得られない場合があること、増粘の程度が低いとしても金属ナノ粒子の沈降により高濃度の金属ナノ粒子分散液が得られない場合があることがわかった。
【0013】
特許文献4に記載されている導電膜形成用インクでは、アミン価が10〜190mgKOH/g(好ましくは40〜120)であるアミノ化合物を含むが、これは、ポリイミドを含む電気絶縁体層との密着性に着目したものである。また、当該アミノ化合物以外には分散を促進させる材料については何ら記載されておらず、金属粒子が高濃度で配合された分散液では、金属粒子の凝集が問題となる。さらに、分散を促進させる材料を2種以上併用した場合に生じる問題はなんら考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子、アミン価−酸価の値が特定範囲内の高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液とすることで、分散液の製造時に増粘等の不具合無く、金属微粒子が高濃度でかつ高度に分散し、各種印刷方法に対しても印刷適性に優れた非水系金属微粒子分散液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち本発明は、
(1)少なくとも、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液であって、
前記の高分子分散剤は、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gである金属微粒子分散液であり、
(2)前記高分子分散剤の配合量(A)と前記フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体の量(B)との比率(B/A)が0.1以上である(1)の金属微粒子分散液であり、
(3)前記の高分子分散剤の配合量が、金属微粒子100重量部に対して5〜20重量部である(1)又は(2)の金属微粒子分散液であり、
(4)動的光散乱法で粒度分布を測定した時に、金属微粒子のメジアン径が1〜500nmである(1)〜(3)のいずれかに記載の金属微粒子分散液であり、
(5)金属微粒子の濃度が5重量%以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の金属微粒子分散液であり、
(6)更に樹脂を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の金属微粒子分散液であり、
(7)少なくとも、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子と、有機溶媒に溶解した高分子分散剤を混合して分散させる工程を有し、
前記の高分子分散剤のアミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gである金属微粒子分散液の製造方法であり、
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成される塗膜であり、
(9)(1)〜(6)のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成される配線であり、
(10)(1)〜(6)のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成される電極であり、
(11)少なくとも基材の表面の一部に(8)の塗膜を形成した装飾物品であり、
(12)少なくとも基材の表面の一部に(8)の塗膜を形成した抗菌性物品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、少なくとも、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子、アミン価−酸価の値が特定範囲内の高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液であって、分散液の製造時に増粘等の不具合無く、金属微粒子が高濃度でかつ高度に分散した非水系金属微粒子分散液である。このため、印刷中の分散媒の揮発が抑制でき、表面張力が低く印刷面との親和性が高く、取扱いが簡易であり、樹脂等の配合の選択肢が広く、短期長期の分散安定性に優れた印刷用非水系金属微粒子分散液となる。特に、インクジェット印刷用途においては、低粘度であること、ノズルを目詰まりさせないこと、乾燥速度が速すぎないこと、分散安定性が高いことなどの要求特性を満足できる。また、スクリーン印刷用途においては、スクリーンをスムーズに透過する流動性、版離れ時の糸引き抑制、硬化までの形状維持性などの要求特性を満足できる。この分散液を金属膜形成用分散液として用いることで、高精細で、表面が平滑で、低温焼結が可能で、低抵抗で、意匠性が高く、特に印刷面との密着性に優れた金属含有膜を作製することができる。さらに水系金属微粒子分散液用に製造した金属微粒子をそのまま非水系金属微粒子分散液用にも使用できることとなり、水系用と非水系用とで金属微粒子を作り分ける必要がなくなり、製造効率が高まる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の技術的構成及びその作用効果は、以下の通りである。ただし、作用機構については推定を含んでおり、その正否は本発明を制限するものではない。
【0018】
本発明は、金属微粒子を有機溶媒に分散した分散液であって、少なくとも、金属微粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含み、前記金属微粒子は、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体をその表面に少なくとも有し、前記の高分子分散剤は、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gである金属微粒子分散液である。本発明の「分散液」とは、高分子分散剤を含有する有機溶媒に金属微粒子が分散したものはもちろん、必要に応じてそれにバインダや分散剤、粘度調整剤などの添加剤を更に配合した、一般に分散体、コーティング剤、塗料、ペースト、インキ、インクなどと称される組成物を包含する。
【0019】
本発明で用いる金属微粒子はその表面に後述のフェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体(以下、総称して「フェノール類酸化重合物」と記載することもある)が存在したものである。金属微粒子の構成成分や構造、形状等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。構成成分としては、1種の金属であっても良く、合金にしたり積層するなどして2種以上の金属で構成されていても良い。また、1種の金属微粒子であっても良いし、2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良く、例えば平均粒子径が異なる2種以上の金属微粒子、構成成分が異なる2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良い。その金属成分としては周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及びIB族(銅、銀、金)からなる群より選ばれる少なくとも1種であれば、導電性が高いので好ましく、中でも銀、金、白金、パラジウム、銅は特に導電性が高くより好ましく、電極、回路配線の形成に用いるには、導電性とコストのバランスから銀又は銅が特に好ましい。また、着色剤、装飾用途に用いるには、銀、金、銅等が好ましく、発色剤としては金等が好ましい。なお、金属微粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属、その他不純物を含有していても良く、あるいは、金属微粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物などが含まれていても良い。
【0020】
金属微粒子の粒子径は、入手し易いことから1nm〜10μm程度の平均粒子径を有する金属微粒子を適宜用いるのが好ましく、1nm〜1μm程度の平均粒子径の金属微粒子がより好ましく、多方面の用途に用いることができることから1〜500nm程度の平均粒子径を有する金属微粒子が更に好ましく、より微細な電極、回路配線パターンを得るためには、5〜400nmの範囲の平均粒子径を有する金属微粒子を用いるのが更に好ましく、10〜300nmの範囲が一層好ましい。本発明では金属微粒子の平均粒子径とは、動的光散乱法粒度分布測定装置(日機装社製 UPA−EX150)を用いて測定されるD50(メジアン径)のこととする。具体的には、金属微粒子分散液を、それを構成する分散媒で希釈し、10分間超音波照射した後の希釈分散液を、粒度分布測定装置のサンプルホルダーに滴下する。次いで、希釈分散液の反射光(散乱光)強度が測定可能範囲になるように前記分散媒にて濃度を調整する。調整ができたら、5分間(300秒×1回)測定し、D50を求める。
【0021】
本発明の金属微粒子分散液に含まれる金属微粒子は、その表面に、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体が少なくとも存在する。フェノール化合物は、芳香族炭化水素核の水素原子を水酸基で置換した芳香族ヒドロキシ化合物であって、酸化重合物とは、このフェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成する炭素縮合多環性化合物である。酸化重合物の分子は、2〜20個程度の芳香族炭化水素核で構成されているのが好ましく、2〜10個程度がより好ましく、2〜5個程度が更に好ましい。また、酸化重合物の分子内には、少なくとも1個の水酸基が含まれているのが好ましく、還元力の点から2個以上の水酸基が含まれているのがより好ましく、2〜5個の水酸基が含まれているのが更に好ましい。酸化重合物には、同種のフェノール化合物の酸化重合物であっても、2種以上の異種のフェノール化合物の酸化重合物であっても良い。このような酸化重合物は、これらの水酸基や酸素原子等を介して配位したり、吸着したりして、金属微粒子の表面に存在する。
【0022】
また、酸化重合物の酸化体は、前記重合物が有する水酸基の水素原子が解離したり、更に酸化が進み環状構造の一部が開環してカルボキシル基が生成した、酸化状態の化合物であり、具体的には後述する還元反応に使われて酸化状態となったり、溶液中において水素イオンが解離した酸化状態で配位するなどして、金属微粒子の表面に存在する。
【0023】
前記の酸化重合物としては、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン及びそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオンなど、
(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、及び6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン及びそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)など、
(3)(1)又は(2)の化合物を更に酸化重合した化合物、
(4)(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0024】
金属微粒子の表面に存在する成分やその化学結合状態は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)、NMR(核磁気共鳴)、XPS(X線光電子分光分析装置)、RAMAN(ラマン分光分析)等の分析方法により確認できる。本発明の分散液中のフェノール類酸化重合物を有する金属微粒子表面をRAMAN(Jobin Yvon社製、Ramanor T−64000)で分析すると、少なくとも一部が、金属微粒子表面にπ電子共役系が広がったダイヤモンドライクカーボン(DLC)状構造を有することが確認される。また、13C−固体NMR測定(Chemagnetics社製CMX−300 nfinity)での表面分析により、水酸基、カルボキシル基だけでなく、ケトン、キノン、アルデヒド基、またベンゼン環を結合するエチレン炭素やエーテル炭素、二重結合炭素や三重結合炭素、ベンゼン環に置換したメチル基などの存在が確認できる。
【0025】
数nm程度の結晶子サイズを持つsp構造とsp構造から形成されているDLC膜では1550cm−1付近に主ピーク(Gバンド)を持ち、1400cm−1付近にショルダーバンド(Dバンド)を有する非対称なラマンバンドが観測される。本発明の分散液中のフェノール類酸化重合物を有する金属微粒子表面のラマンスペクトルを測定すると、1580cm−1付近にメインのラマンバンドを有し、1400cm−1付近にショルダーを有する、DLC状のスペクトルが検出される。これは、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体で形成されるDLC状構造を有する化合物であることが推定される。本願では、ダイヤモンドライクカーボン状構造とは、上記のラマンスペクトルを示す構造のことを言う。
【0026】
フェノール類酸化重合物は、金属微粒子表面を完全に被覆した状態で存在してもよく、部分的に被覆した状態でもよく、島状に点在して付着した状態でもいずれでもよいが、分散剤を緻密に吸着させることができるため、金属微粒子表面を完全に被覆した状態で存在するのが好ましい。これは、アミン価の高い分散剤が、フェノール類酸化重合物の持つ親水性を示す水酸基やカルボキシル基の電荷を相殺するため、表面を疎水性に改質でき、非水系溶媒中での分散性が向上するものと推測される。ここで、フェノール類酸化重合物が金属微粒子表面を完全に被覆した状態とは、任意の場所を10点選びラマン分光分析を行ったときに、いずれの場合でも前記DLC状構造のラマンスペクトルが検出されることを言う。金属微粒子には、他の有機化合物、例えばゼラチン等の保護コロイドや、アルカノールアミン、クエン酸、チオール化合物等の配位化合物や錯化剤等が表面に存在していてもよい。
【0027】
高分子分散剤は、塗料、インキ分野などで着色剤粒子の分散に一般に用いられており、酸性又は塩基性の官能基を有することにより、着色剤粒子の表面と相互作用し、一方、高分子鎖によって着色剤どうしが接近、再凝集することを防ぐ(立体安定化効果)ことにより、着色剤粒子を分散媒へ安定的に分散させる作用を有する高分子化合物である。前掲の特許文献にも多種多様な高分子分散剤が記載され、特許文献2,3では、いずれの高分子分散剤でも使用でき、特に酸基を有する高分子分散剤が好ましいとされているが、本発明のフェノール類酸化重合物を表面に少なくとも有した金属微粒子を含む分散液においては、高分子分散剤のアミン価と酸価の差(アミン価−酸価)は、10〜40mgKOH/gとする。
【0028】
フェノール類酸化重合物を表面に有する金属微粒子は、前記のフェノール類酸化重合物により金属微粒子の立体障害性が大きくなり、また、水系溶媒中ではそれらの持つカルボキシル基やフェノール性水酸基等が溶液中で解離して電気的に陰性を示すので、静電的な効果により分散安定化する。しかしながら、非水系溶媒中では、立体障害性が十分でなく、静電反発も無いので凝集し易い。ところで、高分子分散剤も、水酸基、酸性基、塩基性基等を有することからアミン価及び酸価を有するが、非水系溶媒を用いる分散液において、金属微粒子表面のフェノール類酸化重合物のもつ酸価(酸点)を補償(中和)する程度以上のアミン価(塩基点)をもつように高分子分散剤を用いると、すなわち、高分子分散剤の種類及び量を、(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gとすると、有機溶媒中での凝集を著しく改善できるとともに、分散液の生産性や印刷適性が優れたものとなる。これは、高分子分散剤が、その塩基点を介してフェノール類酸化重合物の酸点と静電的に結合することにより立体障害性がさらに大きくなり、立体障害による斥力が粒子に付与されるものと考えられる。高分子分散剤の(アミン価−酸価)が10mgKOH/g未満であったり、40mgKOH/gを超えたりすると、有機溶媒中での凝集を抑制できないのみならず、各成分の混合中に著しく増粘して分散液が製造できなくなることもある。増粘回避のため、金属微粒子濃度や高分子分散剤量を低減させると、印刷適性が低下する。(アミン価−酸価)は、10~40mgKOH/gの範囲とすると好ましく、15~40mgKOH/gの範囲とするとより好ましく、19~37mgKOH/gの範囲とすると更に好ましく、20~25mgKOH/gの範囲とするとより一層好ましい。
【0029】
高分子分散剤のアミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に対して等量の水酸化カリウムのmg数で表す。また、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表す。具体的には、アミン価、酸価は下記のJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。なお、例えば市販の高分子分散剤は溶液等の形で販売されているものも多いが、そのような分散性向上に寄与する成分(有効成分)以外の成分(溶媒等)を含む高分子分散剤の場合、前記高分子分散剤のアミン価及び酸価は、有効成分当たりのアミン価及び酸価を意味する。これら有効成分量は不揮発分と表示されていることもある。
(アミン価の測定方法)
高分子分散剤5g、ブロモクレゾールグリーンエタノール溶液数滴を300mlのエタノールと純水の混合溶媒に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1M HClエタノール溶液を添加し、ブロモクレゾールグリーン指示薬の黄色が30秒続いた時の0.1M HClエタノール溶液の滴定量からアミン価を算出する。
(酸価の測定方法)
高分子分散剤5g、フェノールフタレイン液数滴を300mlの純水に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1M KOHエタノール溶液を添加する。フェノールフタレイン指示薬の薄紅色が30秒続いた時の0.1M KOHエタノール溶液の滴定量から酸価を算出する。
【0030】
高分子分散剤としては、(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gである高分子分散剤であればいずれのものでも用いることができる。例えば、第3級アミノ基、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基等の塩基性基を有する高分子や共重合物であり、カルボキシル基等の酸性基を有していても良い。高分子分散剤の塩基性基は、フェノール類酸化重合物被覆金属微粒子に対して親和性のある官能基となるため、高分子の主鎖及び/又は側鎖に1個以上もつものが好ましく、数個もつものがより好ましい。塩基性基、酸性基は、高分子の主鎖の片末端及び/又は側鎖の片末端に有していても良い。高分子分散剤は、A−Bブロック型高分子等の直鎖状の高分子、複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子等を用いることができる。高分子分散剤の重量平均分子量には制限がないが、ゲル浸透クロマトグラフィー法で測定した重量平均分子量が2000〜1000000の範囲が好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり易い。より好ましくは4000〜1000000の範囲であり、更に好ましくは10000〜1000000の範囲である。また、高分子分散剤にはリン、ナトリウム、カリウムの元素が少ないものが好ましく、それらの元素が含まれていないものがより好ましい。高分子分散剤にリン、ナトリウム、カリウムの元素が含まれていると、加熱焼成して電極や配線パターン等を作製した際に、灰分として残存するため好ましくない。このような高分子分散剤の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0031】
高分子分散剤としては具体的には、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸等の高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような高分子分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、
ディスパービック(DISPERBYK)(登録商標)161、ディスパービック(DISPERBYK)162、ディスパービック(DISPERBYK)163、ディスパービック(DISPERBYK)167、ディスパービック(DISPERBYK)168、ディスパービック(DISPERBYK)182、ディスパービック(DISPERBYK)183、ディスパービック(DISPERBYK)184、ディスパービック(DISPERBYK)185、ディスパービック(DISPERBYK)2000、ディスパービック(DISPERBYK)2001、ディスパービック(DISPERBYK)2163、ディスパービック(DISPERBYK)2164(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−15BHFS、フローレン17HF、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−33、フローレンDOPA−44(以上共栄社化学社製)、ED−212、ED−213、ED−216(以上楠本化成社製)等を挙げることができる。
【0032】
有機溶媒は適宜選択することができ、具体的にはトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン等の炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール、IPA(イソプロピルアルコール)、ノルマルプロピルアルコール、2−ブタノール、TBA(ターシャリーブタノール)、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオール、α―ピネン、パインオイル、ジヒドロターピニルアセテート等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、DAA(ジアセトンアルコール)等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、MTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。インクジェット印刷用のような低粘度が求められる金属微粒子分散液に用いる有機溶媒は低粘度のものが好ましく、1〜20mPa・sの範囲のものが好ましい。このような有機溶剤としては、トルエン、ブチルカルビトール、ブタノール、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、ブチルセロソルブ、テトラデカン、等が好適に用いられる。本発明のように、フェノール類酸化重合物を表面に少なくとも有した金属微粒子と(アミン価−酸価)の値が特定範囲内の高分子分散剤を組み合わせて用いると、極性の高い有機溶媒はもちろん、低極性溶媒、具体的には誘電率が40以下の有機溶媒においても、分散液の製造時に増粘等の不具合無く、金属微粒子が高濃度でかつ高度に分散し、各種印刷方法に対しても印刷適性に優れた非水系金属微粒子分散液が得られる。誘電率が40以下の有機溶媒としては例えば、メタノール、シクロヘキサノン、ターピネオール、PGMEA、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートが挙げられる。
【0033】
本発明の金属微粒子分散液において、高分子分散剤の配合量(A)とフェノール類酸化重合物の量(B)との重量比率(B/A)は0.1以上とすることが好ましく、0.1〜5の範囲とすることがより好ましく、0.1〜1の範囲とすることがさらに好ましい。この比率が高すぎると、印刷後に焼成する場合に金属微粒子の焼結の妨げになる。低すぎると金属微粒子が凝集してしまい、分散液が増粘してしまうため好ましくない。Bの値は、例えば、TG(熱重量分析)により求めることができ、120℃から350℃までの重量減少を、熱重量分析計を用いて測定することにより求めることができる。なお、市販の高分子分散剤のような溶媒を含むものを用いる場合には、高分子分散剤の配合量(A)とは、有効成分(不揮発分)を意味する。
【0034】
本発明の金属微粒子分散液において、高分子分散剤は金属微粒子100重量部に対し5〜20重量部の範囲であれば所望の効果が得られるので好ましく、この範囲より少なすぎると本発明の効果が得られ難いため好ましくなく、多すぎると電極材料用途では導電性を阻害し、装飾用途では白濁などを生じ仕上り外観が低下する場合があるので好ましくない。より好ましい範囲は、8〜12重量部である。
【0035】
フェノール類酸化重合物は金属微粒子100重量部に対し、1〜10重量部程度の範囲で存在していれば、所望の効果が得られるので好ましく、更に好ましい範囲は2〜5重量部程度である。
【0036】
本発明の分散液中の金属微粒子の配合量は特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。本発明の分散液を、例えば、金属ペーストや塗料、インキ等の製造のための原料として用いる場合には、40〜90重量%程度とすることができる。電極材料用途における金属微粒子の配合量の上限値は、90重量%程度が可能であり、85重量%が好ましく、80重量%がより好ましく、70重量%、65重量%としてもよく、その下限値は5重量%程度が可能であり、20重量%程度としてもよい。装飾用途においてはコストの面から、より低濃度の金属微粒子を用いて鏡面を呈する塗膜が得られることが望ましく、その配合量の上限値は50重量%であれば良く、20重量%であればより好ましく、15重量%であれば更に好ましく、その下限値は5重量%程度である。
【0037】
本発明の金属微粒子分散液は、金属微粒子が充分分散しているため高濃度であっても分散液の粘度を比較的低く調整することができ、例えば、分散液の粘度を好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは1〜30mPa・s、更に好ましくは1〜20mPa・sとすることができる。また、分散液中の金属微粒子の濃度を高くすると粘度が高くなり易いが、本発明の分散液は金属微粒子の濃度を5重量%以上としても前記の粘度を維持することができ、このように低粘度、高濃度が可能であるためにインクジェット印刷、スプレー塗装等に好適に用いることができる。本発明の分散液に分散した金属微粒子を動的光散乱法粒度分布測定装置で測定したメジアン径(D50)は、使用する金属微粒子の大きさに依存するものの、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは1〜300nm程度である。このようなことから、本発明の金属微粒子分散液の好ましい態様は、金属微粒子の濃度が5重量%以上であり、金属微粒子のメジアン径が1〜300nmであって、分散液の粘度が100mPa・s以下である。
【0038】
本発明の金属微粒子分散液は、さらに樹脂を含ませることができる。樹脂としては具体的には、バインダ、表面張力調整剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、密着性付与剤、レべリング剤等として機能する樹脂が挙げられる。
【0039】
バインダとしては、低極性非水溶媒に対する溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型等を制限なく用いることができる。また、樹脂種としては、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。バインダの配合量は、金属微粒子100重量部に対し0.5〜20重量部程度(0.5〜20重量部)の範囲が好ましく、より好ましい範囲は1〜15重量部程度(1〜15重量部)であり、2〜13重量部程度(2〜13重量部)であれば更に好ましい。
【0040】
このうち、可撓性の不要な導電性接着剤、リジット基板の回路用導電ペースト、スルーホール用導電性ペーストなどの用途にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂でも使用できるが、PETフィルム、ITO蒸着PETフィルム、ポリイミドフィルムなどのフレキシブルで比較的難接着性の基材を用いる場合は、耐屈曲性と基材に対する密着性の面から、ポリエステル樹脂、上記の変性ポリエステル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などが好ましく、最も好ましくは、共重合ポリエステル樹脂及び/又は変性ポリエステル樹脂であり、特にこのようなフレキシブルな基材に用いた時にその特徴が発揮できる。
【0041】
バインダとしては、さらに具体的には、数平均分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/又は変性ポリエステル樹脂を用いることが好ましく、非常に優れた耐屈曲性、基材への密着性が得られる。数平均分子量は8000以上が好ましく、より好ましくは10000以上である。上限は50000以下が好ましい。数平均分子量が3000未満であると良好な耐屈曲性が得られず、また、ペースト粘度が低下する傾向にある。耐屈曲性と硬度の面からガラス転移点温度は−20℃以上が好ましく、より好ましくは−5℃以上である。好ましい上限は70℃以下である。
【0042】
さらに、バインダとして活性エネルギー光線硬化型の樹脂を使用することもできる。活性エネルギー線硬化性化合物とは、活性エネルギー線を照射することにより重合する化合物であり、エチレン性不飽和基を有する化合物が好適に用いられる。エチレン性不飽和基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート系化合物、ビニルエーテル系化合物、ポリアリル化合物などが挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0043】
本発明の金属微粒子分散液には、前記の金属微粒子、有機溶媒、高分子分散剤、バインダの他に、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、界面活性剤、非界面活性型分散剤、表面調整剤(レベリング剤)等を必要に応じて適宜配合することもできる。
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤が好ましく、水性溶媒中で解離して電気的に陽性を示す部分が、界面活性能を有する化合物である。例えば、(1)4級アンモニウム塩((a)脂肪族4級アンモニウム塩([RN(CH、[RR'N(CH、[RR'R''N(CH)]、[RR'R''R'''N]等:ここでR、R'、R''、R'''は同種又は異種のアルキル基を、XはCl、Br、I等のハロゲン原子を表す、以下同じ)、(b)芳香族4級アンモニウム塩([RN(CHAr)]、[RR'N(CHAr)等:ここでArはアリール基を表す)、(c)複素環4級アンモニウム塩(ピリジニウム塩([CN−R])、イミダゾリニウム塩([R−CN(CNR'R'')C)等)、(2)アルキルアミン塩(RHNY、RR'HNY、RR'R''NY等:ここでYは有機酸、無機酸等を表す)が挙げられ、これらを1種用いても2種以上用いても良い。具体的には、脂肪族4級アンモニウム塩としては、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリステアリルメチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム等が挙げられる。芳香族4級アンモニウム塩としては、塩化デシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。複素環4級アンモニウム塩としては、塩化セチルピリジニウム、臭化アルキルイソキノリウム等が挙げられる。アルキルアミン塩としては、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ヤシ油アミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、トリオクチルアミン、トリステアリルアミン、ジオクチルメチルアミン等を塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や、酢酸等のカルボン酸等で中和した中和生成物が挙げられる。あるいは、金属微粒子表面のメルカプトカルボン酸及び/又はその塩とアルキルアミンを反応させて得られる中和生成物を、アルキルアミン塩として用いても良い。4級アンモニウム塩の中では、特に炭素数が8以上のアルキル基又はベンジル基を少なくとも1個有しているものが好ましく、そのような4級アンモニウム塩としては、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(アルキル基の炭素数:18)、塩化オクチルトリメチルアンモニウム(同:8)、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム(同:12)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(同:16)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(同:16)、臭化テトラオクチルアンモニウム(同:8)、塩化ジメチルテトラデシルベンジルアンモニウム(同:14)、塩化ジステアリルジメチルベンジルアンモニウム(同:18)、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム(同:18)、塩化ベンザルコニウム(同:12〜18)が挙げられる。また、アルキルアミン塩のアルキルアミンの中でも、炭素数が8以上のアルキル基を少なくとも1個有しているものが好ましく、そのようなアルキルアミンとしては、オクチルアミン(同:8)、ラウリルアミン(同:12)、ステアリルアミン(同:18)、ジオクチルアミン(同:8)、ジラウリルアミン(同:12)、ジステアリルアミン(同:18)、トリオクチルアミン(同:8)、トリラウリルアミン(同:12)が挙げられる。
また、表面調整剤は有機溶剤分散体の表面張力をコントロールして、ハジキ、クレーター等の欠陥を防止するものであり、アクリル系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。界面活性剤、表面調整剤の添加量は適宜調整することができ、例えば金属微粒子100重量部に対し2.0重量部以下が好ましく、0.2重量部以下がより好ましい。
【0044】
本発明の金属微粒子分散体は、前述の樹脂を含ませて粘度を高めて使用することもできる。そのようにして得られる金属ペーストは、粘性及び弾性両方をあわせた性質をもつ粘弾性体であり、粘弾性のレオロジー特性のパラメータとして一般に用いられる複素弾性率で表し、動粘弾性測定器(Thermo Haake社製型番RS600)を用いて25℃、1Pa、1rad/sの周波数で正弦振動させたときの複素弾性率が1000Pa以下、好ましくは1〜800Paであり、更に好ましくは5〜700Paとすると、特にスクリーン印刷用金属ペーストとして好適に用いることができる。特に高精細であり、クラック、断線、短絡、滲み等の発生が防止された、信頼性の高いパターンを作製できる印刷適性を有するペーストとなる。複素弾性率が1000Pa以下だと、印刷性、特にメッシュへの充填性や版離れ性が好ましい。複素弾性率は、粘弾性体に正弦波形のひずみを入力したときの応力の応答によって定義され、複素弾性率はE+iωηとなる。ただしiは虚数単位、ωは入力の角周波数である。Eはばね係数でありエネルギーを蓄積する効果を、またηは粘性係数でありエネルギーを散逸させる効果を表している。このことから、複素弾性率Gの実部を貯蔵弾性率G’、虚部を損失弾性率G’’と呼ぶことがある。貯蔵弾性率は動粘弾性測定器を用いて25℃、1Pa、1rad/sの周波数で正弦振動させたとき、1000Pa以下が好ましく、より好ましくは1〜900Paであり、更に好ましくは1〜700Paである。貯蔵弾性率が1000Pa以下だと、印刷性、特にメッシュへの充填性が好ましい。損失弾性率G’’を貯蔵弾性率G’で除した値tanδが1以下であると固体的であり、1以上であると液体的であるといわれている。動粘弾性測定器を用いて25℃、1Pa、0.1〜100rad/sの周波数で正弦振動させたときの貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’の比tanδは0.2以上が好ましく、0.2〜1.0の範囲がより好ましく、0.2〜0.8の範囲が更に好ましい。tanδが0.2以下だと印刷性、特にメッシュへの充填性や版離れ性が好ましい。
【0045】
前記金属ペーストは、複素弾性率のほかに揺変度(チキソインデックス、チキソ指数)も適宜調整してよく、4.5以下が好ましく、1〜4.5がより好ましく、2〜4.5が更に好ましい。揺変度を低減することにより、連続印刷時のペースト粘度の低下が少なくなり、膜厚が安定する。すなわち、回路抵抗が安定する。揺変度が4.5以下だと印刷時のシェアにより粘度が低下し、クラック、断線、短絡、滲み等が発生したり、連続印刷時に膜厚が低下し、抵抗値が増大する問題が発生しづらいため好ましい。本発明において揺変度は、E型回転粘度計により25℃で測定したズリ速度6s−1における粘度(η)とズリ速度60s−1における粘度(η60)との比(η/η60)で表す。
【0046】
前記金属ペーストは、揺変度の他に粘度も適宜調整してよい。好ましい粘度は、E型回転粘度計(Thermo Haake社製型番RS600)により25℃で測定したズリ速度60s−1における粘度(η60)で測定した場合において、1500Pa・s以上であり、より好ましく2000Pa・s以上である。上限は6000Pa・s以下が好ましく、より好ましくは4500Pa・s以下である。1500Pa・s以上ではクラック、断線、短絡、滲み等が発生したり、膜厚が低くなる等が起こりにくいため傾向にあるため好ましい。6000Pa・sを超えるとカスレが発生しにくい傾向にあるため好ましい。
【0047】
次に、本発明は金属微粒子分散液の製造方法であって、
少なくとも、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子と、有機溶媒に溶解した高分子分散剤を混合して分散させる工程を有し、
前記の高分子分散剤のアミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gである金属微粒子分散液の製造方法である。
【0048】
本発明の金属微粒子分散液の製造方法では、フェノール類酸化重合物を表面に有する金属微粒子を事前に準備しておき、当該金属微粒子と、有機溶媒に溶解した高分子分散剤を混合して分散させること、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が10〜40の高分子分散剤を用いることが重要である。金属微粒子の製造時(金属イオンの還元時)に高分子分散剤を配合しておくことは、均一に吸着させることができないため好ましくない。また、水系金属微粒子分散液用に製造した金属微粒子をそのまま非水系金属微粒子分散液用にも使用できることとなり、水系用と非水系用とで金属微粒子を作り分ける必要がなくなり、製造効率が高まる。
【0049】
有機溶媒、高分子分散剤は前記のものを用いることができ、混合方法としては湿式混合機を用い、例えば、撹拌機、らせん型混合機、リボン型混合機、流動化型混合機等の固定型混合機、円筒型混合機、双子円筒型混合機等の回転型混合機、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル等の湿式粉砕機、ペイントシェーカー等の振とう機、超音波分散機等の分散機などを用いることができる。このようにして、金属微粒子を有機溶媒に分散した金属微粒子分散液が得られる。また、混合の前に必要に応じて、圧縮粉砕型、衝撃圧縮粉砕型、せん断粉砕型、摩擦粉砕型等の粉砕機を用いて、金属微粒子を粉砕しても良く、また、粉砕の際に同時に混合しても良い。バインダ、表面張力調整剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、密着性付与剤、レべリング剤等の混合も前記方法と同様の方法で行ってよい。
【0050】
フェノール類酸化重合物を表面に有する金属微粒子は、(1)予め公知の方法で調製した金属微粒子を溶媒に分散させ、次いで、フェノール化合物の酸化重合物やその溶液を混合し、必要に応じて加熱して、前記酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体を金属微粒子の表面に存在させる方法、(2)フェノール化合物の酸化重合物と金属化合物溶液とを混合し金属化合物を還元して、前記酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体が表面に存在した金属微粒子を製造する方法等を用いて製造することができるが、(2)の方法では還元反応の際に前記酸化重合物等が存在しており、微細な金属微粒子が分散した状態で得られるため好ましい方法である。
【0051】
前記の(2)の方法について以下に詳述する。
(2)の方法において用いる、フェノール化合物の酸化重合物は還元力があって、金属化合物を還元するとともに、還元反応等で酸化されたものや過剰なものが、配位や吸着して、生成した金属微粒子の表面に存在する。フェノール化合物の酸化重合物しては、前記のとおりフェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成した炭素縮合多環性化合物を用いることができ、例えば、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種を好ましく用いられる。
(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン及びそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオンなど、
(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、及び6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン及びそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)など、
(3)(1)又は(2)の化合物を更に酸化重合した化合物、
(4)(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0052】
フェノール化合物の酸化重合は、フェノール化合物を酸化剤で酸化させながら行うのが好ましく、酸化剤の添加量、酸化反応時間等でその重合度を制御することかできる。具体的には、フェノール化合物と酸化剤を混合したり、あるいはフェノール化合物を水溶媒、アルコール等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒に溶解させた後、この溶液と酸化剤とを混合することで得られる。酸化剤には空気、酸素等の酸化性ガスや、過酸化水素、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム等の化合物を用いることができ、特に空気を用いるのが経済的に有利で好ましい。フェノール化合物溶液と空気等の酸化性ガスとの混合は、開放系で溶液を撹拌して行っても、溶液中に空気等の酸化性ガスをバブリングして行っても良い。溶媒としては金属化合物溶液と同様に、取り扱い易さや経済性の点で水溶媒を用いるのが好ましい。フェノール化合物が酸化されると、透明な溶液が赤褐色、茶褐色、黒褐色等に変色し、重合が進むと更に濃色に変化するので、目視より酸化重合物の生成を確認できる。前記フェノール化合物溶液のpHを6以上に調整すると、重合が進み易いので好ましく、pHが11以下であれば好ましく、6〜13の範囲がより好ましく、8〜11の範囲が一層好ましい。
【0053】
前記酸化重合物は、2価又は3価のフェノール化合物やそれらの誘導体を前記の条件で酸化重合させたものが好ましく、2価のフェノール化合物としては、ヒドロキノン、カテコール、レソルシノール等が、3価のものとしては、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン等が、誘導体としてはピロガロールの誘導体である没食子酸等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を用いるのがより好ましい。中でも水酸基が3個のものが好ましく、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンであれば更に好ましい。具体的には、ピロガロールの酸化重合物としては、1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、プルプロガリン(2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン)等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。フロログルシノールの酸化重合物としては、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの酸化重合物としては、1,3−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−6,8−ジオン、1,3,4,7−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる、また、これらの誘導体としては、例えば、没食子酸の酸化重合物である1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。このような炭素縮合多環性化合物を用いるのが好ましい。また、前記多環性化合物を更に酸化重合したもの、あるいは、前記多環性化合物又はその酸化重合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合したもの、更にはそれらの誘導体を作製して用いることができる。
【0054】
金属微粒子を製造するための原料である金属化合物は、例えば、前記金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等を用いることができる。金属化合物を溶解する溶媒は、水溶媒、アルコール等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、取り扱い易さや経済性の点で水溶媒を用いるのが好ましい。金属化合物の溶媒中の濃度は、金属化合物が溶解する範囲であれば特に制約はないが、工業的には5ミリモル/リットル以上とすることが好ましい。
【0055】
次いで、金属化合物溶液と、前記酸化重合物やその溶液とを撹拌下で混合し、金属化合物を還元して、金属微粒子を製造する。酸化重合物の使用量は適宜設定することができるが、フェノール化合物の単体を基準として金属化合物のモル比で0.1〜10の範囲の量が好ましく、0.2〜5の範囲の量がより好ましい。還元温度は適宜設定することができるが、5〜105℃程度の範囲で行うことができ、過剰の冷却や加熱を行わず、経済的に製造を行うためには、10〜80℃程度がより好ましい。なお、前記の還元反応には補助的に別の還元剤、例えば、アルコール類やアミン類を添加しても良い。このようにして金属微粒子が製造でき、必要に応じて透析、固液分離、洗浄して余剰成分や不要なイオン成分を除去したり、更に必要に応じて乾燥等を行うことができる。
【0056】
前記の還元反応によって製造した金属微粒子は溶媒に分散していることから金属コロイド液の状態となっている。また、前記のように洗浄した金属微粒子、あるいは乾燥した金属微粒子を溶媒に再度分散しても、金属コロイド液を製造することができる。金属微粒子を分散させる溶媒は特に制限はなく、水溶媒、アルコール、トルエン等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。また、金属微粒子の分散性を更に向上させるために、アルカノールアミン等の分散剤、界面活性剤等を分散の際に添加しても良い。分散方法は特に制限されないが、例えば、ディスパー等の撹拌機を用いた撹拌混合、サンドミル、コロイドミル等の湿式粉砕混合、超音波分散などの方法を用いることができる。
【0057】
前記の方法によりフェノール類酸化重合物を粒子表面に有する金属微粒子を生成した後、金属微粒子を固液分離し、洗浄して、金属微粒子の固形物を得る。固液分離する手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。洗浄に用いる洗浄液には特に制限は無く、水、有機溶媒等を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。必要に応じて、金属微粒子の固形物を通常の方法により乾燥しても良い。乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行っても、大気中で行ってもよい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行っても良い。金属微粒子の固形物は完全に乾燥されていなくてもよく、反応媒や洗浄に用いた溶媒が残存したいわゆるケーキ状のものでもよい。このようにして得られた金属微粒子の固形物を用いて、前述の方法により金属微粒子分散液を製造する。
【0058】
次に、本発明の金属微粒子分散液の使用例について説明する。
本発明の金属微粒子分散液を電極、回路配線パターン等の形成に用いるには、例えば、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷又はオフセット印刷等の汎用の印刷方法や転写方法、スプレー、スリットコーター、カーテンコーター、バーコーター、刷毛、筆又はスピンコーター等を使用した汎用の塗装法により、基板に塗布した後、塗布物を適当な温度で加熱焼成したり、レーザー、キセノンランプ等で光を照射する。また、塗膜の形成に用いるには、例えば、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等の方法により、基材に塗布し乾燥したり、レーザー、キセノンランプ等で光を照射したりする。あるいは、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷方法や転写方法を用いて塗膜を形成することもできる。
【0059】
具体的にはスクリーン印刷等により、金属微粒子粒子をフィルム又は基板上に塗布又は印刷、硬化することにより導電性を与え、回路を形成したり、電子部品の端子やリード線の接着を行ったり、ビアホールを充填したり、電子装置を電磁波障害(EMI)から保護するために利用できる。例えば、PETフィルムなどに金属微粒子分散液を印刷したメンブレン回路は低コストで軽量であり、キーボード、透明タッチパネル、スイッチ、EL発光体、面状発熱体などに広く使用されている。更に、印刷技術を利用したフレキシブル配線を搭載した電子回路、デバイス等をプリンテッドエレクトロニクスにより製造することができる。
【0060】
本発明の非水系金属微粒子分散液をスクリーン印刷用の金属ペーストとして用いることにより、印刷中の分散媒の揮発が抑制でき、表面張力が低く印刷面との親和性が高く、取扱いが簡易であり、樹脂等の配合の選択肢が広く、短期長期の分散安定性に優れ、特にスクリーン印刷用途に好適な、スクリーンをスムーズに透過する流動性、版離れ時の糸引き抑制、硬化までの形状維持性を有する分散液が得られ、この分散液を用いることで、高精細で、表面が平滑で、印刷面との密着性が高く、低温焼結が可能で、低抵抗な金属微粒子含有膜を作製することができる。
【0061】
また、本発明の非水系金属微粒子分散液は、インクジェット印刷用インキやスプレー塗装用の塗料として用いることにより、印刷中の分散媒の揮発が抑制でき、表面張力が低く印刷面との親和性が高く、取扱いが簡易であり、樹脂等の配合の選択肢が広く、短期長期の分散安定性に優れ、特にインクジェット印刷用途に好適な、低粘度であること、ノズルを目詰まりさせないこと、乾燥速度が速すぎないこと、分散安定性が高いことなどの特性を有する分散液が得られ、この分散液を用いることで、高精細で、表面が平滑で、印刷面との密着性が高く、低温焼結が可能で、低抵抗な金属微粒子含有膜を作製することができる。また、マスクレスで多品種生産が容易、材料使用量の低減、廃液排出がない、プロセスが単純になりエネルギー消費量が少なくなるなどの生産上のメリットも得られる。
【0062】
前記の塗膜を基材の表面に形成すると、金属微粒子の金属色や光沢を基材表面に付与することができ、基材表面の全面にわたって着色し光沢を付与したり、基材表面の一部分に意匠、標章、ロゴマークを形成したり、その他の文字、図形、記号を形成したりすることもできる。基材としては、金属、ガラス、セラミック、コンクリートなどの無機質材料、ゴム、プラスチック、紙、木、皮革、布、繊維などの有機質材料、前記の無機質材料と有機質材料とを併用あるいは複合した材料を用いることができる。それらの材質の基材を使用物品に加工する前の原料基材に塗膜を形成して装飾を施すこともでき、あるいは、基材を加工した後のあらゆる物品に装飾を施すこともできる。また、それらの基材表面に予め塗装したものの表面に装飾を施すこともできる。
装飾を施す物品の具体例としては、
(1)自動車、トラック、バスなどの輸送機器の外装、内装、バンパー、ドアノブ、サイドミラー、フロントグリル、ランプの反射板、表示機器等、
(2)テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、パーソナルコンピューター、携帯電話、カメラなどの電化製品の外装、リモートコントロール、タッチパネル、フロントパネル等、
(3)家屋、ビル、デパート、ストアー、ショッピングモール、パチンコ店、結婚式場、葬儀場、神社仏閣などの建築物の外装、窓ガラス、玄関、表札、門扉、ドア、ドアノブ、ショーウインド、内装等、
(4)照明器具、家具、調度品、トイレ機器、仏壇仏具、仏像などの家屋設備、
(5)金物、食器などの什器、
(6)飲料水、タバコなどの自動販売機、
(7)合成洗剤、スキンケア、清涼飲料水、酒類、菓子類、食品、たばこ、医薬品などの容器、
(8)表装紙、ダンボール箱などの梱包用具、
(9)衣服、靴、鞄、メガネ、人口爪、人口毛、宝飾品などの衣装・装飾品、
(10)野球のバット、ゴルフのクラブなどのスポーツ用品、つり具などの趣味用品、
(11)鉛筆、色紙、ノート、年賀はがきなどの事務用品、机、椅子などの事務機器、
(12)書籍類のカバーやオビ等、人形、ミニカーなどのおもちゃ、定期券などのカード類、CD、DVDなどの記録媒体、などが挙げられる。また、人間の爪、皮膚、眉毛、髪の毛などを基材とすることができる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0064】
実施例1〜14、比較例1〜9
水44L中に、ピロガロール1.4モルを溶解し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調整した後、大気中で40分間撹拌しピロガロールの酸化重合物の溶液を調製した。この還元剤溶液中に1モルの硝酸銀を含む水溶液680mlを添加し、撹拌機を用いて、室温にて1時間撹拌した後、遠心分離し、銀固形物を回収した。回収した銀固形物を水5lで洗浄し、再び遠心分離にて銀固形物を回収した後、得られた銀固形物をアセトン10l中に入れ、銀固形物中の水分を除去した後、真空濾過で銀固形物を分取し、室温で1時間真空乾燥を行い銀粉を得た。該銀粉の熱重量分析(RIGAKU製ThermoplusTG8120)を行った結果、銀固形分が90.65%、ピロガロール酸化重合物又はその酸化体(120℃から350℃の重量減少分)が4.0%、残分がアセトン、水等の溶媒(120℃までの重量減少分)であった。また透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製H−7000)にて該銀粉の平均粒子径(粒子100個の粒子径を測定し、平均する)を求めた結果、12.5nmであった。得られた銀粉のRAMAN分析(Jobin Yvon社製、Ramanor T−64000)を行った結果、そのスペクトルから、銀粒子表面にπ電子共役系が広がったダイヤモンドライクカーボン状構造の存在が確認された。また、13C−固体NMR測定(Chemagnetics社製CMX−300 nfinity)での表面分析により、水酸基、カルボキシル基、ケトン、キノン、アルデヒド基、またベンゼン環を結合するエチレン炭素やエーテル炭素、二重結合炭素や三重結合炭素、ベンゼン環に置換したメチル基などの存在が確認された。
上記方法にて合成した銀粉と所定量の高分子分散剤を溶解した非水溶媒を混合・懸濁し、ペイントシェーカーにて1時間分散させ、実施例1〜14及び比較例1〜9の各試料につき分散液の調製を試みた。それぞれの試料ついて、銀粉、非水溶媒と高分子分散剤の種類及び配合量を表1に、各高分子分散剤の不揮発分、酸価及びアミン価を表2に示す。実施例7,9,13,14及び比較例1〜9は銀配合濃度65重量%、他は銀配合濃度50重量%である。
【0065】
比較例10
硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)696g、クエン酸三ナトリウム二水和物(Na・2HO)1.5kgを1lの水に添加し溶解させた。この溶液を300rpmにて撹拌しながら、0.83モル/lの硝酸銀水溶液2Lを一括添加し、60分間撹拌した。その後、1000rpm、300秒の遠心分離を行い、上澄みを除去し銀固形物を回収した後、0.42モル/lのクエン酸三ナトリウム二水和物水溶液20l中に入れ、撹拌し洗浄した。再び上澄みを除去し、クエン酸三ナトリウム二水和物水溶液20lで洗浄し銀固形物を回収する作業を2回繰り返した。回収した銀固形物をアセトン10l中に入れ、銀固形物中の水分を除去した後、真空濾過で銀固形物を分取し、室温で1時間真空乾燥を行い表面がクエン酸化合物で被覆された銀粉を得た。該銀粉の熱重量分析を行った結果、銀固形分が90.0%、クエン酸化合物が4.5%、残分がアセトン、水等の溶媒であった。また透過電子顕微鏡にて該銀粉の平均粒子径(粒子100個の粒子径を測定し、平均する)を求めた結果、20nmであった。
上記方法にて合成した銀粉、高分子分散剤を溶解した非水溶媒を表1に記載の配合で混合・懸濁し、ペイントシェーカーにて1時間分散させ、分散液を得た。この試料の銀配合濃度は50重量%である。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表3に各試料の外観を示す。「×」は試料が増粘し、分散液となっていなかったことを示し、「○」は増粘が見られなかったことを示す。比較例1〜9はいずれも著しい増粘が認められ、分散液として採取することができなかった。
【0069】
表4に実施例1〜14及び比較例10の各試料の初期及び1か月保管後銀濃度と動的光散乱法粒度分布測定装置(日機装社製 UPA−EX150)で測定したメジアン径を示す。初期とは、製造した直後に測定した銀濃度であり、1か月後とは、常温で1か月静置した後に上澄みを採取し、測定した銀濃度である。銀濃度は、熱重量分析(800℃まで10℃/minで昇温したときの重量)により求めた。比較例10の分散液では初期の時点から金属銀粒子の沈降が激しく、高濃度の金属銀分散液が得られなかった。一方、実施例1〜14の分散液では、初期及び1か月保管後のいずれの場合も外観上明確な金属銀粒子の沈降は見られず、ほぼ配合量に近い銀濃度の金属銀分散液が得られていることから、銀粒子の分散性が高く、また、長期の分散安定性も高いことがわかる。また、前記銀微粒子の製造方法で得られる銀粒子の透過電子顕微鏡法で測定した平均粒子径は一般的には5〜50nm程度であるが、表中に示す通りメジアン径は95〜250nmで、かつ、長期保管しても沈降が認められないことから、本発明の非水系分散液では、銀微粒子がミセルを形成した状態で高度に分散しているものと推測される。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例7の金属銀分散液6.15gに、ビヒクル(溶剤としてのブチルカルビトールアセテート100重量部に対し、バインダとしてのエチルセルロース20重量部を溶解したもの)0.8gとPGMEA0.359gを撹拌脱泡機にて混合し、銀ペーストとした。この銀ペーストの銀濃度は52重量%であった。得られた銀ペーストを、スクリーン印刷機を用いてガラス板に印刷し、220℃の温度で30分間乾燥させて塗膜化した。印刷時のペースト状態、塗膜表面の外観について確認した。印刷時のペースト状態は、印刷中の分散媒の揮発が抑制でき、表面張力が低く印刷面との親和性も問題なく、分散安定性に優れ、スクリーンをスムーズに透過する流動性があり、版離れ時の糸引きが抑制され、乾燥まで形状を維持していた。分散液塗膜外観は金属光沢があり、クラック、断線、短絡、滲み等もなく表面状態は良好であった。また、この塗膜の表面抵抗を抵抗率計(三菱化学アナリテック社製 Loresta−GP MCP-T600)で測定した結果、5.3×10−2Ω/□であり、低抵抗であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、非水系金属微粒子分散液は従来のものに比べて、分散液の製造時に増粘等の不具合無く、金属微粒子が高濃度でかつ高度に分散した非水系金属微粒子分散液である。このため、印刷中の分散媒の揮発が抑制でき、表面張力が低く印刷面との親和性が高く、取扱いが簡易であり、樹脂等の配合の選択肢が広く、短期長期の分散安定性に優れた金属膜形成用非水系金属微粒子分散液となる。この分散液を用いることで、高精細で、表面が平滑で、低温焼結が可能で、低抵抗で、意匠性が高く、特に印刷面との密着性に優れた金属含有膜を作製することができる。