(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように膜厚変調DBRを垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)に使用すれば、様々な特性を改善することができる。しかしながら、その場合、以下に説明するように、共振波長が設計値からずれてしまうという課題が生じる。
上記特許文献には、膜厚変調DBR単独の特性については記載されているが、それを組み合わせて形成した共振器の光学特性については何も記載されていない。我々が検討を行ったところ、膜厚変調DBRを使用した場合は、従来のDBRを使用した場合と同じ設計指針で共振器を設計しても、所望の光学特性を持った共振器が得られないという課題が判明した。
【0006】
この課題について、計算結果をもとに具体的に説明する。
図7は、膜厚変調DBRを使用した垂直共振器構造の一例を示す模式図である。波長λ=400nmにおいて1λ共振器となるように、
光学膜厚400nmのGaN膜710の上下を、
SiO
2層701とNb
2O
5層702を交互に7ペア積層した誘電体DBR700と、
AlN層721とGaN層722を交互に20ペア積層した半導体DBR720と、
によって挟んだ形状の共振器が、GaN基板730上に形成されている。
なお、図を簡略化するために、DBRは実際よりも少ないペア数で図示している。
【0007】
半導体DBR720は、一般的にはAlN層721とGaN層722の光学膜厚がそれぞれλ/4で、2つの層を合計した1周期の光学膜厚がλ/2となるように設計される。
ここで、半導体DBR720の各層の光学膜厚をλ/4からずらして膜厚変調DBRにする場合について計算する。
なお、本計算において、反射率の低下を抑えるために1周期の光学膜厚はλ/2を保つようにした。例えば、AlN層の膜厚を薄くする場合はその分、GaN層の膜厚を厚くして調整する。
【0008】
図8は、
図7に示した構造に図の上側から平面波を入射した場合の反射スペクトルを計算した結果である。
半導体DBR720を構成するAlN層721の光学膜厚を0.15λ〜0.35λの範囲で変化させた場合の共振波長の変化を計算した。
反射率が急激に低下するディップ波長が共振波長に相当する。
なお、誘電体DBR700の膜厚は変調しておらず、各層の光学膜厚はλ/4である。
半導体DBRを膜厚変調していない構成(AlN層とGaN層の光学膜厚が0.25λ)の場合は、共振波長は設計値通り400nmであるが、膜厚変調が加わると変調の度合いに応じて共振波長がずれる。
AlN層の膜厚を薄くしてGaN層の膜厚を厚くすると共振波長は短波長側にずれ、逆にAlN層の膜厚を厚くしてGaN層の膜厚を薄くすると共振波長は長波長側にずれる。
以上のように、VCSELの反射鏡を一般的なDBRから膜厚変調DBRに単純に置き換えると、共振波長が設計値からずれてしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、膜厚変調DBRを垂直共振器型面発光レーザの反射鏡として使用しても、共振波長のずれを抑制することが可能となるレーザ共振器および該レーザ共振器により構成される垂直共振器型面発光レーザの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のレーザ共振器の
一つの態様は、
分布ブラッグ反射鏡を有する第1の反射鏡と第2の反射鏡とが対向配置された構成を備え、波長λの光を共振させるレーザ共振器であって
、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における
分布ブラッグ反射鏡を構成する多層膜のうちの少なくとも一部の層
の光学膜厚
がλ/4
の奇数倍とは異なるように膜厚変調された構成を有し
、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における
分布ブラッグ反射鏡の前記膜厚変調の方向が逆になるように構成され
、前記第1の反射鏡が誘電体で構成され、前記第2の反射鏡が半導体で構成されていることを特徴とする。
本発明のレーザ共振器の別の態様は、分布ブラッグ反射鏡を有する第1の反射鏡と第2の反射鏡とが対向配置された構成を備え、波長λの光を共振させるレーザ共振器であって、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における分布ブラッグ反射鏡を構成する多層膜のうちの少なくとも一部の層の光学膜厚がλ/4の奇数倍とは異なるように膜厚変調された構成を有し、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における分布ブラッグ反射鏡の前記膜厚変調の方向が逆になるように構成され、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡の少なくとも一方が、GaNまたはAlNを含む半導体を有することを特徴とする。
本発明のレーザ共振器の別の態様は、分布ブラッグ反射鏡を有する第1の反射鏡と第2の反射鏡とが対向配置された構成を備え、波長λの光を共振させるレーザ共振器であって、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における分布ブラッグ反射鏡を構成する多層膜のうちの少なくとも一部の層の光学膜厚がλ/4の奇数倍とは異なるように膜厚変調された構成を有し、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における反射時の位相ずれの符号が逆になるように構成され、前記第1の反射鏡が誘電体で構成され、前記第2の反射鏡が半導体で構成されていることを特徴とする。
本発明のレーザ共振器の別の態様は、分布ブラッグ反射鏡を有する第1の反射鏡と第2の反射鏡とが対向配置された構成を備え、波長λの光を共振させるレーザ共振器であって、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における分布ブラッグ反射鏡を構成する多層膜のうちの少なくとも一部の層の光学膜厚がλ/4の奇数倍とは異なるように膜厚変調された構成を有し、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡は、各反射鏡における反射時の位相ずれの符号が逆になるように構成され、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡の少なくとも一方が、GaNまたはAlNを含む半導体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膜厚変調DBRを使用しても共振波長のずれを抑制することが可能となるレーザ共振器および該レーザ共振器により構成される垂直共振器型面発光レーザを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態におけるレーザ共振器(以下、共振器と記す。)、および垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)について説明する。
まず、本明細書における用語の定義を行う。
本明細書中では、素子の基板側を下側、基板と反対側を上側と定義する。
本明細書中で層の厚さに言及する場合、特に断りが無ければ物理膜厚ではなく光学膜厚を意味することとする。
本明細書中では、DBRを構成する2種類の層のうち、相対的に屈折率の低い材料からなる層を低屈折率層、相対的に屈折率の高い材料からなる層を高屈折率層と呼ぶこととする。
本明細書中では、DBRに光が入射する場合、光が入射する側に近い順から第1の層、第2の層と呼ぶこととする。
一般的にDBRは第1の層と第2の層を交互に積層して構成される。一対のDBRを対向させて共振器を形成した場合、光は共振器内側からDBRに入射するとみなし、共振器内側から順に第1の層、第2の層となる。
本明細書中では、DBRを構成する各層の光学膜厚がλ/4になっているものを無変調DBRと呼ぶこととする。
本明細書中では、膜厚変調とは、DBRを構成する各層の光学膜厚をλ/4からずらすことを意味する。以下において、膜厚変調されたDBRのことを膜厚変調DBRと呼ぶこととする。
本明細書中では、DBRを構成する各層の光学膜厚がλ/4であると言った場合、光学特性が光学膜厚λ/4と同等の場合も含むこととする。具体的には、光学膜厚がλ/4の奇数倍である場合も含む。
ここで、本明細書における膜厚変調の方向について定義する。
便宜的に、各DBRの第1の層を光学膜厚λ/4より薄くする場合の膜厚変調の方向を負(−)、それとは逆に第1の層を光学膜厚λ/4より厚くする場合の膜厚変調の方向を正(+)と定義する。
また、共振器を形成する一対のDBRの膜厚変調の方向を示す符号が異なる場合、例えば、上側DBRの膜厚変調の方向が負、下側DBRの膜厚変調の方向が正となっている場合は、上下のDBRの膜厚変調の方向が逆であると言うこととする。
【0014】
つぎに、上記した課題が生じる原因について、本発明者が考察した内容について説明する。
前述の共振波長ずれは、DBRの膜厚変調の度合いに応じて反射光の位相がずれることによって引き起こされる。
図9(a)と
図9(b)を用いて、DBRの膜厚変調の度合いが反射光の位相に与える影響について説明する。
図9(a)に示したDBRは、
図7に示したレーザ共振器の下側の半導体DBR720と同じものである。
なお、
図9(a)において、半導体DBR720の上面725のみで光反射が起こっているような描写になっているが、実際には上面725だけでなく各層の界面で光反射が起こり、それらを合成したものがDBR全体としての反射光となる。本明細書中の計算では、DBR上面725における入射光と反射光(合成波)の位相の差を計算で求めて、その差を反射時の位相ずれと見なしている。
【0015】
一般的な、光学膜厚λ/4の層を積層した無変調DBRの場合、波長λにおける反射光の位相ずれは0またはπである。入射側媒質の屈折率がDBRの第1の層の屈折率より大きい場合には位相ずれは0となり、逆に第1の層の屈折率より小さい場合には位相ずれはπとなる。
図9(a)に示した半導体DBR720の入射側媒質はGaN(屈折率2.54)であるとした。第1の層はAlN層721(屈折率2.09)であり、第1の層より入射側媒質の屈折率が大きいので、膜厚変調を加えていない場合の反射光の位相ずれは0である。
DBRに膜厚変調が加わると、変調の度合いに応じて反射光の位相がずれる。
図9(b)は
図9(a)の半導体DBR720の膜厚変調の度合いと反射光の位相ずれの関係を計算した結果である。
なお、本計算においても半導体DBR720の1周期の光学膜厚はλ/2を保つようにしてある。
図9(b)から、膜厚変調の度合いに比例して反射光の位相が変化していることが読み取れる。第1の層であるAlN層721の膜厚を薄くして第2の層であるGaN層722の膜厚を厚くすると位相が負の方向にずれ、逆にAlN層721の膜厚を厚くしてGaN層722の膜厚を薄くすると位相が正の方向にずれる。DBRでの光反射時の位相が変化すると、実効的な光路長が伸び縮みすることになる。
位相が正の方向にずれる場合は光路長が伸びることと等価であり、位相が負の方向にずれる場合は光路長が縮むことと等価である。
その結果、実際の共振器長が変化していないにも関わらず、
図8に示したような共振波長ずれが起きると考えられる。
【0016】
図10に、膜厚変調DBRでの反射光の位相ずれの仕組み(どのような構成でどのように位相がずれるか)をより詳細に説明するための、別の計算結果を示す。
光の入射側から見て低屈折率層が先に並んでいる場合、つまり第1の層が低屈折率層である場合(
図10(a))と、高屈折率層が先に並んでいる場合、つまり第1の層が高屈折率層である場合(
図10(b))の2通りのDBR構造について、平面波を入射した場合の反射光の位相を計算した。
なお、図中の矢印の向きは光の入射方向を表している。
計算に使用したパラメータは、入射側と出射側の屈折率は1.5、低屈折率層の屈折率は1.0、高屈折率層の屈折率は2.0または3.0、DBRのペア数は10とした。
また、ここでもDBRの1周期の光学膜厚はλ/2を保つようにし、その中の膜厚比率を変えて計算を行った。
【0017】
図10(c)は
図10(a)に示した構造の、
図10(d)は
図10(b)に示した構造の計算結果である。
それぞれ、高屈折率層の屈折率が2.0の場合と3.0の場合をグラフに示している。
図10(c)と
図10(d)を比較すると、どちらも位相のずれは膜厚変調の度合いに比例している。しかしグラフの傾きの正負は逆である。
図10(c)では、低屈折率層が厚くなるにしたがって位相ずれが大きくなる。
図10(d)では、低屈折率層が厚くなるにしたがって位相ずれが小さくなる。これは、光の入射側から見て先に並んでいる層の膜厚が増すと位相が正に、膜厚が減ると位相が負にずれるというように理解できる。
また、高屈折率層の屈折率が2.0の場合と3.0の場合の比較より、グラフの傾きの大きさはDBRを構成する層の屈折率に依存することがわかる。
【0018】
このしくみを簡単なモデルを使って説明する。
図11に、DBR1100に平面波が入射した場合の反射の様子をあらわした模式図を示す。
光の入射側から第1の層1101、第2の層1102が並んでおり、それ以降も第1の層、第2の層、第1の層といった具合に第1の層と第2の層が交互に同一周期で積層されている。
なお、ここでは理論を簡略化するために、多重反射を無視して各界面で一度だけ反射された光のみを取り扱うこととする。
DBR1100の上側の界面1105で反射される光を基準に、各界面で反射されて界面1105まで戻ってきた光の位相差を考える。
界面1105で反射した光と、界面1115で反射して界面1105まで戻ってきた光との位相差は、
第1の層の光学膜厚×2×2π/λ+反射時位相ずれπ
であらわされる。
第1の層の光学膜厚がλ/4の場合には位相差は2πとなり、実質的な位相差はない。第1の層の光学膜厚がλ/4より薄い場合には位相差は2πより小さく、λ/4より厚い場合には位相差は2πより大きくなる。
界面1105で反射した光と、界面1125で反射して界面1105まで戻ってきた光との位相差は、
(第1の層の光学膜厚+第2の層の光学膜厚)×2×2π/λ
であらわされる。
【0019】
第1の層の光学膜厚と第2の層の光学膜厚を足し合わせた1周期の光学膜厚がλ/2であれば、界面1105と界面1125での反射光の位相差は2πとなり、実質的な位相差はない。
前述したように、これ以降の層も第1の層と第2の層を同一周期で積層しているので、これ以降の反射光も位相差という点では同様の関係となる。
結局、1周期の光学膜厚がλ/2を保ったままの膜厚変調DBRの場合は、反射光の位相が無変調DBRに比べて正の方向にずれるか負の方向にずれるかは第1の層の光学膜厚だけで表現することができる。前述のように、第1の層の光学膜厚がλ/4より薄い場合には位相差は2πより小さく、λ/4より厚い場合には位相差は2πより大きくなる。
全体の反射光は各界面からの反射光の合成波なので、各界面での反射光がそれぞれどの程度の強度をもっているかによって全体に及ぼす影響が変わってくる。各界面での反射光の強度は各界面の反射率に依存する。界面における光の反射率はその界面の前後の屈折率に依存する。そのため、DBRを構成する材料の屈折率が変化すると、
図10に示したように位相ずれの大きさが変わる。
以上、膜厚変調DBRでの反射光の位相ずれについて説明した。
【0020】
本発明は以上の知見に基づくものである。
本発明の基本的な思想は、共振器を挟むように配置された一対のDBRのうち片方のDBRで生じる位相ずれを、もう片方のDBRで生じる位相ずれで打ち消すようにすることで、共振波長のずれを抑制することである。
位相ずれを打ち消し合うためには、上下のDBRで生じる位相ずれの符号(正負)が逆になればよい。
上下のDBRの位相ずれの符号が逆で絶対値が等しい場合は完全に打ち消し合うので、最も好ましい。
位相ずれの符号を逆にする具体的な構成としては、上下のDBRの膜厚変調の方向が逆になるようにすればよい。
【0021】
図1に、本発明を適用した共振器の構造と計算結果の一例を示す。
基板130上に、波長λ=1000nmで共振するように共振器が形成されている。
屈折率が2.0、物理膜厚が500nmで、光学膜厚が1λに相当する厚さのスペーサ層110の上下に、第1の反射鏡であるDBR100と第2の反射鏡であるDBR120を対向配置することで共振器が形成されている。
DBR120は、第1の層121を屈折率1.0の層で、第2の層122を屈折率2.0の層で形成し、第1の層と第2の層を交互に5周期積層して形成されている。
DBR100も、DBR120と同様に第1の層101を屈折率1.0の層で、第2の層102を屈折率2.0の層で形成し、第1の層と第2の層を交互に5周期積層して形成されている。
なお、図を簡略化するため上下のDBRともに3周期だけ図示している。
【0022】
この共振器では、第1の反射鏡と第2の反射鏡の膜厚変調の方向が逆である。具体的には、第1の反射鏡であるDBR100は、第1の層101の厚さをλ/4の0.5倍に薄くして第2の層102の厚さをλ/4の1.5倍に厚くしており、本明細書中の定義に則ると膜厚変調の方向は負である。
一方、第2の反射鏡であるDBR120は、第1の層121の厚さをλ/4の1.5倍に厚くして第2の層122の厚さをλ/4の0.5倍に薄くしており、膜厚変調の方向が正である。
なお、前述したように、片側のDBRだけ膜厚変調した場合は共振波長が設計値の1000nmからずれる。
例えば、DBR120だけ
図1に示した構造と同様に変調して、DBR100は無変調DBRとした場合は、共振波長が1027nmとなる。
図1のように、対向配置されたDBRの膜厚変調の方向を逆にすることで影響を打ち消し合って、設計値通り1000nmで共振する共振器が得られる。
【0023】
本発明において、第1の反射鏡と第2の反射鏡が同一の材料系のDBRで構成されている必要は無い。
むしろ、異なる材料系で構成されている方が好ましい場合もある。同一の材料系で構成されていると、逆方向に膜厚変調する事が現実的に難しい場合も考えられるからである。
例えば、半導体DBRを構成する2種類の半導体層のうち、基板との格子不整合が大きい方の半導体層を薄くしてクラック抑制を狙った膜厚変調DBRを第1の反射鏡として使用する場合を考える。
第1の反射鏡で生じた位相ずれを第2の反射鏡で打ち消すためには、第1および第2の反射鏡の膜厚変調の向きを逆にする必要がある。
第1および第2の反射鏡を同一の半導体材料系で構成する場合、第2の反射鏡では基板との格子不整合が大きい半導体層を厚くすることになる。その結果、クラックが発生しやすくなってしまう。
ここで、第2の反射鏡を誘電体DBRで形成すれば、クラック発生を気にすることなく、位相を打ち消し合うのに適した構成にすることができる。
【0024】
本発明において、膜厚変調DBRの変調の度合いは、必要とされる反射率や帯域によって制限される場合がある。
図2に、DBRにおける膜厚変調と反射率の関係を計算した一例を示す。
AlN層とGaN層を交互に20ペア積層した半導体DBRに波長400nmの平面波を入射した場合の反射率を示している。なお、本計算でも、DBRの1周期の光学膜厚はλ/2を保つようにした。
膜厚変調の度合いが小さい場合には反射率はあまり低下しないが、ある程度以上に変調が加わると急激に反射率が低下する。
許容される膜厚変調の度合いは必要な反射率によって異なる。
例えば、98%以上の反射率が必要な場合は各層の膜厚が(0.25±0.15)λの範囲で膜厚変調を行う事ができ、99.5%以上の反射率が必要な場合は各層の膜厚が(0.25±0.10)λの範囲で膜厚変調を行う事ができる。
【0025】
本発明を利用して垂直共振器型面発光レーザを構成する場合、共振器中に発光層である活性層を配置することになるが、その活性層の位置についても注意する必要がある。
反射時の位相がずれるということは、共振器端面での光分布が腹や節からずれることを意味する。
その結果、無変調DBRを使用した場合に比べて、光分布が全体的に上側または下側にずれることになる。
一般的に、活性層の位置は光分布の腹の位置に合わせる必要があるので、光分布のずれを予め見積もってそれに合わせて活性層を配置することが望ましい。
一例として、
図1に示した共振器構造のスペーサ層110近傍の屈折率分布と光分布を
図3に示す。
屈折率分布を実線で、光強度分布を破線で、スペーサ層110の厚さ方向の中心位置を一点鎖線で示している。なお、図示の都合上、
図1と
図3は向きが90°異なっている。
図1の上側が
図3の左側、
図1の下側が
図3の右側に相当する。
【0026】
図3(a)は
図1に示した上下とも膜厚変調DBRで構成された共振器の計算結果である。
図3(b)は比較のために示した、上下とも無変調DBRで構成された共振器についての計算結果である。
図3(b)では、光強度分布の腹の位置とスペーサ層の中心位置が一致しているので、スペーサ層の中心に活性層を配置すればよい。
一方、
図3(a)では光強度分布の腹の位置とスペーサ層の中心位置が一致していない。より詳しく言うと、膜厚変調の方向が正である下側のDBR120の方に、光強度の腹の位置が寄っている。
このように、膜厚変調DBRを用いて共振器を形成する場合は、膜厚変調の方向が正のDBRの方に光強度分布が偏る傾向があり、活性層などの層を光強度分布に合わせた位置に置きたい場合は考慮に入れる必要がある。
【0027】
本発明において、DBRを構成する多層膜の全ての層を一様に膜厚変調する必要は無い。
図4に、上側DBR400と、下側DBRの上部2ペア420だけ膜厚変調DBRで構成し、下側DBRの下部421は無変調DBRで構成した共振器構造を示す。
この下側DBRのように一部の層のみ膜厚変調を行ったDBRを一部膜厚変調DBRと呼ぶこととする。
一部膜厚変調DBRでも、その膜厚変調の度合いに応じて反射光の位相は変化する。
したがって、それに合わせてもう一方のDBRの膜厚変調の度合いを調整し、位相ずれの影響を打ち消し合う必要がある。
【0028】
本発明において、DBRの各層の界面が急峻ではなく組成が連続的に変化するグレーデッドDBRと呼ばれる構造を使用することも可能である。
その場合、組成が連続的に変化している領域(グレーデッド領域)の中心を疑似的な界面とみなして膜厚を見積もる。
本発明は特定の材料系に限らず、DBRを形成することが可能なあらゆる材料系に適用することができる。DBR材料の組み合わせとしては、例えば、GaN/AlGaN、GaN/AlInN、InGaN/GaN、GaAs/AlGaAs、GaInAsP/InP、TiO
2/SiO
2、Ta
2O
5/SiO
2、Nb
2O
5/SiO
2などである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用したVCSELについて、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施例におけるVCSELの層構造を示す断面模式図である。
本実施例におけるVCSELは窒化物半導体と誘電体で形成され、真空中の波長λ=400nmでレーザ発振するように設計されている。
共振器の出射側には、五酸化ニオブ(Nb
2O
5)層502と二酸化ケイ素(SiO
2)層501が交互に7ペア積層された誘電体DBR500が反射鏡として形成されている。非出射側には AlN層521とGaN層522が交互に11ペア積層された半導体DBR520が形成されている。
【0030】
半導体DBR520は、AlNをλ/4より薄い0.125λ、GaNをλ/4より厚い0.375λの厚さにした膜厚変調DBRである。半導体DBRを膜厚変調した理由は、GaN基板530との格子不整合が大きいAlNの膜厚を薄くすることでクラック発生を抑制するためである。
誘電体DBR500は、SiO
2層501をλ/4より厚い0.4λ、Nb
2O
5層502をλ/4より薄い0.1λの厚さにした膜厚変調DBRである。半導体DBR520とは異なり、誘電体DBR500単体では膜厚変調を行う理由は特にないが、半導体DBR520の膜厚変調が共振波長に与える影響を低減する目的で誘電体DBR500も膜厚変調を行っている。
なお、本実施例においても膜厚変調時にDBRの1周期の光学膜厚がλ/2を保つようにしている。
【0031】
活性領域540をn−GaN560とp−GaN550で挟んだ構造となっており、n−GaN560、活性領域540、p−GaN550を合わせた光学厚さが1波長となるように設計されている。
活性領域540は、厚さ2.5nmのIn
0.09Ga
0.91Nからなる量子井戸が厚さ7.5nmのud−GaN層を挟んで2層配置された構成になっている。
誘電体DBR500を膜厚変調した効果を示すために、
図6に誘電体DBR500の膜厚変調の度合いと共振波長の関係を示す計算結果を示す。
SiO
2層501とNb
2O
5層502の光学膜厚がともに0.25λの場合が無変調DBRに相当する。この場合、共振波長は392.5nmであり、設計波長より短くなってしまう。
誘電体DBR500を適切な方向に膜厚変調することで共振波長を設計波長に近づけることができ、本実施例のようにSiO
2層の膜厚を0.4λ、Nb
2O
5層の膜厚を0.1λの厚さにした場合に設計波長の400nmで共振するVCSELが得られる。
【0032】
以上、実施例について説明したが、本発明の構造は記載した実施例に限定されるものではない。材料の種類や組成、形状や大きさは本発明の範囲内で適宜変更できる。
また、上記実施例では、レーザ発振波長として400nmのものを示したが、適切な材料や構造の選択により、任意の波長での動作も可能である。
また、本発明の面発光レーザを同一平面上に複数配列してアレイ光源として使用してもよい。
以上説明した本発明の面発光レーザは、複写機、レーザプリンタなどの画像形成装置が有する感光ドラムへ描画を行うための光源としても利用することができる。