(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記録ヘッドによって記録されたテストパターンを読み取って、前記第1の搬送ローラの回転位相に対応した第1の搬送誤差量と、前記第2の搬送ローラの回転位相に対応した第2の搬送誤差量とを取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記第1の搬送誤差量と前記第2の搬送誤差量とを記憶する記憶手段と、を更に備え、
前記第1の補正値は前記第1の搬送誤差量に基づいて決定され、前記第2の補正値は前記第2の搬送誤差量に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
前記第2の搬送状態における回転位相に対応した搬送誤差量を、前記第1の搬送ローラの負荷に対するスリップしにくさと前記第2の搬送ローラの負荷に対するスリップしにくさとを重み付け係数として、前記第1の搬送誤差量と前記第2の搬送誤差量とを加重平均して算出する算出手段を更に備え、
前記補正手段は、前記算出手段によって算出された搬送誤差量に基づいて、前記回転量を補正することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
前記記録ヘッドによって記録されたテストパターンを読み取って、前記第1の搬送ローラの原点位相からの位相位置に応じた搬送の周期的な変動である第1の搬送周期変動量と、前記第2の搬送ローラの原点位相からの位相位置に応じた搬送の周期的な変動である第2の搬送周期変動量とを取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記第1の搬送周期変動量と前記第第2の搬送周期変動量とを記憶する記憶手段と、を更に備え、
前記第1の補正値は前記第1の搬送周期変動量に基づいて決定され、前記第2の補正値は前記第2の搬送周期変動量に基づいて決定されることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
前記第2の搬送状態における搬送周期変動量を、前記第1の搬送ローラの負荷に対するスリップしにくさと前記第2の搬送ローラの負荷に対するスリップしにくさとを重み付け係数として、前記第1の搬送周期変動量と前記第2の搬送周期変動量とを加重平均して算出する算出手段を更に備え、
前記補正手段は、前記算出手段によって算出された搬送周期変動量に基づいて、前記回転量を補正することを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、以下に図面を参照して説明する。
【0014】
(実施形態1)
まず本記録装置の主要機構部について説明する。
図1は本実施形態における記録装置の機構部の斜視図である。記録装置は、主にシートである記録媒体に記録を行う記録部、記録媒体を給紙する給紙部、記録媒体を搬送する送紙部、各機構の動作をコントロールする制御部から成る。以下各部について説明する。
【0015】
(A)記録部
記録部は、キャリッジ1に搭載された記録ヘッド(不図示)により、記録媒体に画像を記録するものである。後述する送紙部により搬送された記録媒体は、プラテン9により下方から支持され、その上部に位置する記録ヘッドからインクを吐出することによって、記録画像情報に基づいた画像が記録される。キャリッジ1は、搬送方向と交差する方向である
図1のXで示す走査方向に移動可能になっており、走査方向に移動しながら記録媒体に画像記録を行う。
【0016】
(B)給紙部
給紙部(不図示)は記録部の搬送方向上流に設けられ、記録媒体の束から1枚ずつ記録媒体を分離し、送紙部に供給する。
【0017】
(C)送紙部
送紙部は、給紙部の搬送方向下流側に設けられ、給紙部から給紙された記録媒体を高精度に搬送するものである。送紙部の主な機構は、主側板10と右側板11と左側板12に取り付けられている。送紙部での記録媒体の搬送は、主搬送ローラ2と排紙ローラ6にて実施される。主搬送ローラ2は金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングした構成になっており、その両端の金属軸部分は右側板11と左側板12に支持されている。ピンチローラホルダ4には、ピンチローラ3が複数架持されている。ピンチローラホルダ4はピンチローラばね(不図示)によってモーメントを受け、主搬送ローラ2に対してピンチローラ3を従動可能に圧接させている。
【0018】
主搬送ローラ2の回転力は、DCモータからなる搬送モータ13の駆動力が搬送モータプーリ14とタイミングベルト15を介して主搬送ローラ2の軸上に設けられたプーリギア16に伝達されることによって得られている。主搬送ローラ2の同軸上には150〜360lpiのピッチでスリットを形成したコードホイール19が直結されている。そして、コードホイール19上のスリットが通過する回数やタイミングを読み取る搬送ローラエンコーダセンサ20が左側板12に固定されている。またコードホイール19上には、搬送ローラの原点位相を検出するためのZ相スリットが形成されており、前記スリットと同様に搬送ローラエンコーダセンサ20によって検出され、主搬送ローラ2の原点位相位置が検出できるよう構成されている。
【0019】
プーリギア16は、プーリ部とギア部からなり、このギア部からの駆動がアイドラギア17を介して排紙ローラギア18に伝達されることによって、排紙ローラ6が駆動される。排紙ローラ6は金属軸に設けられたゴムローラにより構成される。排紙ローラ6と対向する位置に設けられた拍車ホルダ(不図示)には複数の拍車7が取り付けられている。これら拍車7は棒状のコイルバネである拍車バネ8によって回転可能に軸支され、拍車バネ8の両端は拍車7が排紙ローラ6に接触した状態で拍車バネ8が撓むように支持されている。撓んだ拍車バネ8の復元力によって拍車7は排紙ローラ6へ押圧されている。
【0020】
本実施形態では、主搬送ローラ2、排紙ローラ6の回転比は1:1で構成されている。加えて、主搬送ローラ2と排紙ローラ6への駆動伝達手段である搬送ローラギア16、アイドラギア17、排紙ローラギア18も回転比が1:1で構成されている。この構成により、主搬送ローラ2の回転周期と排紙ローラ6の回転周期及び伝達ギアの回転周期が等しくなるため、主搬送ローラ2を1周期分回転すると排紙ローラ6および伝達ギアも1周期分回転するようになっている。つまり、ローラの偏芯やギアの伝達誤差などにより発生する、各ローラやギアの回転位相に応じて変動する搬送量誤差は、主搬送ローラ2の1回転分に全て集約することになる。本記録装置では、搬送ローラエンコーダ20によってコードホイール19上のスリット数をカウントする事で、主搬送ローラ2と排紙ローラ6の回転量を共通して管理する。
【0021】
本記録装置は、主搬送ローラ2と排紙ローラ6を1/4周回転させる毎に走査方向に移動する記録ヘッドによって画像記録を行う動作を繰り返すことで画像を形成する。この1/4周回転は記録媒体を理想位置に搬送するために要する基準回転量であり、本発明ではこれにローラの位相位置に応じた搬送周期変動量補正を実施することで、回転量を補正する。この回転量は先のコードホイール19上のスリットのカウント数によって管理される。
【0022】
ここで、主搬送ローラ2を第1の搬送ローラ、排紙ローラ6を第2の搬送ローラと呼ぶ。また、第1の搬送ローラのみで記録媒体を搬送する状態を第1の搬送状態、第1の搬送ローラと第2の搬送ローラで協働して記録媒体を搬送する状態を第2の搬送状態、第2の搬送ローラのみで記録媒体を搬送する状態を第3の搬送状態と呼ぶことにする。
【0023】
また本記録装置は第1の搬送状態の搬送周期変動量(つまり主搬送ローラ2の搬送周期変動量)と、第3の搬送状態の搬送周期変動量(つまり排紙ローラ6の搬送周期変動量)が既知であるとして、第2の搬送状態の算出搬送周期変動量を計算式によって算出する。搬送周期変動量と計算式については後述する。
【0024】
(D)制御系
図2は、本実施形態の記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。制御系は記録装置の各機構部の動作をコントロールするが、ここでは本発明の特徴とする部位についてのみ述べる。ROM504には後述する計算式が記憶されている。EEROM508には前述の第1の搬送状態の搬送周期変動量と、第3の搬送状態の搬送周期変動量が回転位相間隔ごとに格納されている。CPU501は、ROM504に記憶された計算式に従って、EEROM508に格納された2つの搬送周期変動量から、算出搬送周期変動量を算出する。記録媒体搬送時には、CPU501はモータドライバ507を介してモータ506を駆動し、主搬送ローラ2と排紙ローラ6を回転駆動する。この際CPU501は、センサ505に属する搬送ローラエンコーダセンサ20から、主搬送ローラ2と排紙ローラ6の原点位相情報と回転量情報を取得し精密な回転駆動を行う。またこの時CPU501は、センサ505に属するエッジセンサから記録媒体の搬送状態を判断し、これに従ってそれぞれの搬送状態に該当する搬送周期変動量ないし算出搬送周期変動量に基づいて、主搬送ローラ2と排紙ローラ6の回転駆動量を補正する。
【0025】
次に、
図3、表1および
図4を用いて、第1および第3の搬送状態の搬送周期変動量を取得する方法について述べる。なお、搬送周期変動量は、以下に述べる方法以外の、公知の技術を使って取得してもよい。また、この搬送周期変動量の取得は、実際の印字が行われる前に、工場、あるいはユーザー先にて実施される。
【0026】
ここで、
図3は、ローラ外周を8分割して形成される8つの回転位相間隔S1〜S8の概念図を示したものである。同図において、ポジションps1〜ps8は、後述するテストパターンの記録時において、用紙搬送が開始されるローラの回転位相の位置を示すものである。なお、本実施形態では、主搬送ローラ2と排紙ローラ6ともにローラ外周を8分割して、8つの回転位相間隔S1〜S8ごとに搬送周期変動量を格納し、これを元に基準回転量1/4周に対して搬送周期変動量補正を実施する。
【0027】
表1は、各搬送状態での回転位相間隔ごとに設定される搬送量周期変動量Dを格納するテーブルを示したものである。
【0029】
表1において、搬送量周期変動量Dは、第1および第3の搬送状態について、8つの回転位相間隔S1〜S8ごとに格納される。また、
図4は、第1および第3の搬送状態に関わる搬送量周期変動量Dを取得するためのテストパターンの一例を示したものである。
【0030】
初めに、前述したローラの原点位相検出処理を行うことによりローラの原点を確定させ、ローラの回転位相を管理可能な状態にする。その状態において、
図4に示すようなテストパターンの記録を行う。
【0031】
このテストパターンの記録にあたっては、まず第1の搬送状態である主搬送ローラ2のみの搬送でのテストパターン記録を行う。用紙先端が主搬送ローラ2を通過した後、主搬送ローラ2の回転位相がポジションps1に到達するまで用紙搬送を行う。このポジションps1の用紙の位置にて、1回目のテストパターン2001を記録する。パターン記録終了後、ポジションps1より用紙の搬送を開始し、ローラの回転位相がポジションps2に到達するまで用紙搬送を行い、2回目のテストパターン2002を記録する。これにより、1回目のテストパターン2001と2回目のテストパターン2002とのパターン間隔(ピッチ、例えば両パターンの下流側の縁同志の距離)は、ポジションps1からps2までの回転位相間隔s1での搬送量に相当する。同様にして、2回目のパターン記録終了後、ポジションps2より用紙の搬送を開始し、ローラの回転位相がポジションps3に到達するまで用紙搬送を行い、3回目のテストパターン2003を記録する。
【0032】
以上の動作を、主搬送ローラ2の回転位相が再びポジションps1に戻ってくるまで繰り返し行う。本実施形態の場合、当該動作を繰り返し行うことにより9本のテストパターン2001〜2009が記録される。
【0033】
引き続き、第3の搬送状態である排紙ローラ6のみの搬送でのテストパターン記録を行う。用紙後端が主搬送ローラ2のニップ部を通過し、排紙ローラ6の回転位相がps1に到達した後、1回目のテストパターン2011を記録する。次に、ポジションps1より用紙の搬送を開始し、回転位相がポジションps2に到達するまで用紙搬送を行い、2回目のテストパターン2012を記録する。以上の動作を、排紙ローラ6の回転位相が再びポジションps1に戻ってくるまで繰り返し行う。これにより、9本のテストパターン2011〜2019が記録される。
【0034】
全てのテストパターン記録終了後、印刷済みの用紙をもう一度通紙し、テストパターン2001〜2009および2011〜2019のパターン間隔を、キャリッジ1に備え付けられた光学センサ101により測定する。
【0035】
ここで、テストパターン2001〜2009までのパターン間隔は主搬送ローラ2の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量TLF1〜TLF8に対応し、テストパターン2011〜2019のパターン間隔は排紙ローラ6の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量TEJ1〜TEJ8に対応する。そのため、テストパターン2001〜2009のパターン間隔を測定することにより、第1の搬送状態の回転位相間隔S1〜S8それぞれにおける搬送量TLF1〜TLF8を取得することができる。同様に、テストパターン2011〜2019のパターン間隔を測定することにより、第3の搬送状態の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量TEJ1〜TEJ8を取得することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、第1および第3の搬送状態それぞれで9本のテストパターンを記録してパターンの間隔数を8とし、記録装置で管理しているローラの回転位相間隔数と同じにしている。しかし、例えば測定精度の向上のためパターンの間隔数をローラの回転位相間隔数より多くしてもよく、測定時間の短縮のためパターンの間隔数をローラの回転位相間隔数より少なくしてもよい。ただし、パターンの間隔数と管理するローラ回転位相間隔数が異なる場合は、測定値の補間処理などを行って回転位相間隔ごとの搬送量を算出する必要がある。
【0037】
次に、上記で得られた回転位相間隔ごとの搬送量を用いて、搬送周期変動量Dの算出を行う。本実施形態においては、搬送周期変動量Dは、平均搬送量Zからの搬送ズレ量を示す値とする(他の形態として回転位相間隔ごとの搬送量を搬送周期変動量としてもよい)。まず、この平均搬送量Zの算出を行う。各搬送状態の平均搬送量は先に実施された回転位相間隔ごとの搬送量の平均値Zとなる。すなわち、主搬送ローラ2の平均搬送量ZLFは、回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量TLF1〜TLF8の合計を8で割ることによって算出できる。排紙ローラ6の平均搬送量ZEJは回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量TEJ1〜TEJ8の合計を8で割ることによって算出できる。
平均搬送量の算出後、各搬送状態毎に回転位相間隔ごとの搬送量から先の平均搬送量を引いたものを搬送周期変動量として、表1のテーブルのDLF1〜DLF8およびDEJ1〜DEJ8に格納する。すなわち DLFn=TLFn−ZLF、DEJn=TEJn−ZEJ。nは1〜8の整数である。
【0038】
以上の一連の動作により、第1および第3の搬送状態それぞれの回転位相間隔ごとの搬送周期変動量Dを取得することができる。
【0039】
次に2つの搬送周期変動量から残る1つの算出搬送周期変動量を算出する計算式について説明する。本実施形態では第1の搬送状態と第3の搬送状態の各々の搬送周期変動量がEEPROM508に格納され既知であるので、この第1と第3の搬送状態での搬送周期搬送量から、第2の搬送状態の搬送周期変動量を算出する。
【0040】
ここで計算式を簡潔に導くために、まず搬送周期変動量ではなく搬送量の関係を考える。すなわち第1の搬送状態と第3の搬送状態の搬送量から第2の搬送状態の搬送量を算出する計算式を導く。
【0041】
第1の搬送状態の搬送量をβLF、第3の搬送状態の搬送量をβEJとする。また第2の搬送状態の搬送量をβLFEJとする。
【0042】
ここで第2の搬送状態は、先にも述べたように、主搬送ローラと排紙ローラの搬送量が作用する搬送状態である。今主搬送ローラ単独の搬送量(βLF)と排紙ローラ単独の搬送量(βEJ)はそれぞれ相互に独立した搬送量となっているが、βLFEJはこれらとは等しくならない。すなわち第2の搬送状態では主搬送ローラと排紙ローラの間で搬送量調整が行われβLFとβEJとは異なった値としてβLFEJが決まる。
【0043】
記録媒体の搬送量は、記録媒体を介して負荷が発生すると、スリップして送り量が少なくなることが知られている。これは、既知の重さの重りをつるして、記録媒体に負荷をかけつつ記録媒体の搬送量を実測することで、重りの負荷に対してどの程度スリップが発生するかを簡単に実験で求めることができる。この実験により、例えば
図7のようなグラフを得ることができる。このように、負荷が大きくなるとスリップ量が大きくなり、搬送量は減少していく。ここで、
図7のようなグラフの傾きの値を、搬送特性係数αと呼ぶ。この搬送特性係数αとは負荷に対するスリップ量を示す値であり、具体的にαを説明すると、{(負荷をかけた時の搬送量)―(負荷をかけない時の搬送量)}/(負荷の大きさ)により算出される。よって、単位は(mm/N)となり、負の値をとる。このαは、搬送ローラと排紙ローラそれぞれに対して、実験によって得ることができる。この値をαLF、αEJとする。
【0044】
ここで主搬送ローラと排紙ローラの2軸間で何らかの力を相互に作用させてβLFEJが決まると仮定すると、各ローラ上の記録媒体の搬送量は(式1)のように書ける。ここで主搬送ローラにかかる負荷をFLF、排紙ローラにかかる負荷をFEJとした。
【0046】
ここで(式1)において作用・反作用の法則からFLFとFEJは、FLF=−FEJとなる。この関係を(式1)に用いて、βLFEJについて整理するとβLFEJは(式2)のように書ける。
【0048】
このようにして導出された(式2)によると、βLFEJは、1/αLFおよび1/αEJを重み付け係数としてβLFおよびβEJを加重平均したものになっていることがわかる。ところで、αは負荷に対するスリップ量を表す数値であるため、この逆数1/αは負荷に対するスリップしにくさを示す数値となる。ここで、この負荷に対するスリップしにくさを示す1/αを、搬送強さと呼ぶ。このスリップしにくさをγ(=1/α)とすると。式2は次のようになる。
【0050】
従って、複数のローラで記録媒体を搬送する搬送状態である搬送量βLFEJは、各ローラの搬送量βLF、βEJについて、各ローラの搬送強さ(スリップ)しにくさγLF(=1/αLF)、γEJ(=1/αEJ)を用いた加重平均によって算出することができる。
【0051】
これを踏まえて搬送周期変動量について考える。ここで搬送周期変動量は平均搬送量からの搬送誤差量を示す値であった。よって搬送量βは平均搬送量と搬送周期変動量を足したものと等しくなる。ここで各搬送状態の平均搬送量をZとして(式2)を整理すると、(式4)のように書ける。
【0053】
ここで搬送周期変動量Dの添え字のnは任意の回転位相を示す。(式4)を見ると両辺の第2項は回転位相によらない平均搬送量の関係を表すものであり、両辺の第1項は搬送周期変動量の関係(つまり添え字n付きの量)を表したものになる。回転位相によって変動する要素である両辺の第1項のみを取り出すと(式5)のようになる。
【0055】
結局、算出搬送周期変動量DLFEJnを算出する計算式は(式2)の搬送量βを搬送周期量Dに入れ替えるだけであることがわかる。よって(式5)を用いれば回転位相間隔ごとの搬送周期変動量を算出できることがわかる。
【0056】
図5を用いて、実際の記録動作を行いながら各搬送状態での搬送周期変動量補正を行う方法について説明する。
図5は、実際の記録動作時における補正の制御フローである。
【0057】
まず、記録装置が画像記録動作の信号を受けると、給紙部より用紙が給紙され、用紙が主搬送ローラ2の上流にあるエッジセンサへ進入する。この際、
図5を参照するに、ステップS0601においてエッジセンサにより用紙先端位置を検知し、実際の記録開始位置までのローラ回転量の算出を行う。次に、ステップS0602により、算出されたローラ回転量を基に用紙搬送を行い、記録開始位置に用紙を位置決めする。この際、用紙先端は主搬送ローラ2を通過するため、第1の搬送状態へと移行する。
【0058】
次に、ステップS0603により、用紙先端領域の記録動作を行う。記録動作は、キャリッジ1による記録ヘッドの移動と、主搬送ローラ2による搬送が繰り返され実行される。ここで、この第1の搬送状態における搬送では、搬送周期変動量DLFを用いて以下のような回転量補正が行われる。まず搬送ローラエンコーダセンサ20からのスリット数のカウント情報に基づいて現位相位置が割り出される。次に当該位相から停止予定の位相までに格納された搬送周期変動量の加算値に基づいてローラ回転量が調節されることで、第1の搬送状態での搬送周期変動量補正が実施される。すなわち、回転開始位相から停止予定位相までの周期変動量の加算値は、搬送動作後に理想搬送に対して0になっていることが望ましいので、ローラの回転量の補正によって、周期変動によるずれ量を補正する。本実施形態における基準回転量は1/4周(つまりπ/2)であるので、例えば現時点での位相が
図3のp3上にあるとすると、搬送周期変動量の加算値は(DLF3+DLF4)である。補正すべき回転量はローラ回転量をθ(rad)とすると、(式6)により算出される。よってこの場合、先のスリットのカウント数に基づいて、主搬送ローラ2を(式7)に示す角度回転させればよい。
【0061】
これを一般化して位相pnの場合の補正すべき回転角θnは(式8)によって算出できる。
【0063】
よって、主搬送ローラ2をπ/2回転させたときの搬送量を理想的な搬送量に近づけるためには、(式9)に示す角度回転させればよい。
【0065】
ここでLはローラ1回転で搬送される記録媒体の理想搬送量である。なお回転開始位相や停止予定位相が、搬送周期変動量を格納した位相間隔の間に存在する場合には、従来から知られている比率を用いた位相区間補正手法等を用いれば補正精度を向上させることができる。またLは本実施形態では理想搬送量としたが、ローラの搬送量を実測した値であってもよい。この第1の搬送状態での補正は、用紙先端が排紙ローラ6に突入する直前の搬送まで継続して行われる。その後、用紙先端が排紙ローラ6に突入し、第2の搬送状態へ移行する(ステップS0604)。
【0066】
ステップS0604まで到達すると、ステップS0605により、ここまで適用していた搬送周期変動量DLFを算出搬送周期変動量に切り替える。算出搬送周期変動量は前述のように第1の搬送状態の搬送周期変動量DLFと、第2の搬送状態の搬送変動量DEJと両ローラの位相位置を元に(式2)によって算出することができる。ステップ0605では先のステップと同様に搬送ローラエンコーダセンサ20からのスリット数のカウント情報に基づいて現位相位置を割り出しつつ、今度は算出搬送周期変動量に従ってローラ回転量を調節しながら、第2の搬送状態の記録動作が実行される。この算出搬送周期変動量を用いた補正は、用紙後端が主搬送ローラ2を通過する直前の搬送まで継続して行われる。なお、用紙後端が主搬送ローラ2を通過するタイミングは、用紙先端検知位置と記録する画像情報によって入力される用紙長さとを基に算出してもよく、また、エッジセンサにより新たに用紙後端位置を検知して算出してもよい。
【0067】
次に、ステップS0606のように用紙後端が主搬送ローラ2を通過し、第3の搬送状態へ移行すると、ステップS0607において適用する搬送周期変動量をDEJに切り替える。その後、前述の補正方法と同様に、DEJにより搬送量を補正しながら、用紙後端領域の記録動作が実行される。この記録動作が終了すると、用紙全領域の画像記録が完了する。その後、画像記録された用紙は、排紙ローラ6によって排紙トレイ上へ排出され、画像記録動作が完了することになる。
【0068】
本実施形態では、第2の搬送状態の算出搬送周期変動量を、記録動作中に算出しローラ回転量を調整した。この算出搬送周期変動量を記録前に予め算出し、記録装置内部に記憶しておいて、記録動作中に記憶した算出搬送周期変動量に従って回転量を調整してもよい。
【0069】
また、本実施形態では第1の搬送状態と第3の搬送状態の搬送周期変動量を既知としたが、これに限られるものではなく、3つの搬送状態の内、いずれか2つの搬送状態がわかっていればよい。
【0070】
また、本実施形態では、第2の搬送状態の搬送周期変動量を、第1の搬送状態と第3の搬送状態の搬送周期変動量から算出したが、実測を行って搬送周期変動量を予め取得しておいてもよい。ただしこの場合には、本実施形態に比べ実測にかかるコストが増加する恐れがある。
【0071】
また、本実施形態は、従来より実施されている搬送ローラ径の大小や、搬送パス内に発生するバックテンションによるスリップといった、周期変動と区別される定常的な搬送ズレを補正する定常搬送補正と同時に実施すれば、さらに画像品質を向上させることができる。
【0072】
なお本実施形態では、搬送周期変動量という搬送量を用いてローラの回転量を補正したが、逆数である補正値として算出を行ってもよい。
【0073】
以上、本実施形態によれば、第1の搬送ローラのみによって搬送される搬送状態と、第1の搬送ローラと第2の搬送ローラによって協働して搬送される搬送状態と、第2の搬送ローラのみによって搬送される搬送状態における、搬送周期変動量をそれぞれ補正することができるので、従来の技術に比べて画像品質を向上させることができる。
【0074】
搬送変動量を平均の搬送量に対する誤差の搬送量として算出したが、理想的な目標搬送量に対する誤差として計算してもよい。
【0075】
(実施形態2)
実施形態1では、記録媒体の種類、サイズが変わった場合の対応については述べていない。本実施形態では記録する記録媒体の種類、サイズが変わった場合の搬送周期変動量補正に対応する。本実施形態のうち、実施形態1との違いは記録媒体の種類、サイズに応じた算出搬送周期変動量の算出を実施することである。その他の構成については実施形態1と同じであるため説明を省略する。
【0076】
先にも述べたように搬送ローラの周期的な搬送量の変動は駆動伝達手段の振れによるものである。よって記録媒体の種類やサイズが変わっても、単一の搬送ローラで記録媒体を搬送する際には搬送周期変動量は変わらない。一方、負荷に対するスリップ量を示した値である搬送特性係数αは、記録媒体の種類とサイズが変わった場合、変化することがわかっている。よって複数の搬送ローラで記録媒体を搬送する状態においては、(式2)より搬送周期変動量が種類、サイズによって変わることがわかる。
【0077】
本実施形態では、記録媒体の種類とサイズに応じてαを表2のように予め格納しておく。
【0079】
記録動作時の第2の搬送状態の回転補正時(
図5のステップS0605)には、記録媒体の種類とサイズに応じてαを切り替えて算出搬送周期変動量を計算する。なお本実施形態では記録媒体の種類はA、B、Cの3種、サイズは大、中、小の3種が存在する。
【0080】
以上、本実施形態によれば、第1の搬送ローラのみによって搬送される搬送状態と、第1の搬送ローラと第2の搬送ローラによって協働して搬送される搬送状態と、第2の搬送ローラのみによって搬送される搬送状態における、搬送周期変動量を記録媒体の種類とサイズに応じて、それぞれ補正することができるので、実施形態1の記録装置に比べて画像品質向上の適用範囲を拡大することができる。
【0081】
(実施形態3)
実施形態1、2では第1の搬送ローラと第2の搬送ローラの回転比は1:1とした。本発明はローラの回転比が1:1の場合だけでなく、任意のm:nの場合にも適用できる。そこで実施形態3では搬送ローラの回転比が2:1の場合について述べる。回転比以外の要素は実施形態1と同じであるため説明を省略する。
【0082】
ここで第1の搬送ローラの回転量をθLF、第2の搬送ローラの回転量をθEJとすると、回転比は2:1であるのでθEJ=2・θLFとなる。今、2本の搬送ローラの回転量を検出する搬送ローラエンコーダセンサ20は第1の搬送ローラ上に設けられているので、第2の搬送ローラの回転量はθLFを用いて調整する必要がある。
【0083】
一方搬送ローラの周期的な搬送量の変動は必ず搬送ローラの1周で循環する変動量である。よって2本の搬送ローラの搬送周期変動量ELF,EEJは、各ローラの1周に渡って位相毎に格納される。表3は搬送周期変動量ELF、EEJを格納したテーブルを示す図である。
【0085】
表3に示すように第1の搬送ローラ基準で格納される第2の搬送ローラの搬送周期変動量は、第1の搬送ローラ基準で見ると1/2周分のデータとなる。回転周期が2つのローラ間で異なったとしても、実際の印字時において回転開始位相と停止予定位相がわかっていれば回転量の補正算出方法は同様であり、実施形態1で述べた搬送周期変動量補正方法を用いれば、回転量の補正が実施できる。
【0086】
なお回転比の関係で第1の搬送ローラ上に設けられたセンサのみでは、2つの搬送ローラの原点位相を管理できなくなる場合がある。その場合は両ローラにセンサをとりつければよい。
【0087】
(実施形態4)
実施形態1から3では、記録媒体の搬送に2本の搬送ローラを用いていた。本発明は2本のローラを用いる場合だけでなく、さらに多くの搬送ローラを用いる場合にも適用できる。そこで実施形態4では記録媒体の搬送に3本の搬送ローラを用いる場合について述べる。本実施形態では、3本の搬送ローラの各ローラについてそれぞれ1軸で記録媒体を搬送した際の搬送周期変動量が既知とする。記録媒体搬送中に存在する、その他の搬送状態の搬送変動量については、実施形態1同様に搬送周期変動量を計算式によって算出し、回転補正する。
【0088】
図6は本実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための断面模式図である。本実施形態での記録媒体の搬送は、上流ローラ60および中間ローラ70、下流ローラ80の3つのローラを用いて実施される。各ローラの回転比は1:1:1である。給紙された記録媒体は、不図示のガイド部材により案内され、上流ローラ60およびピンチローラ62からなる上流ローラ対に進入し搬送が行われる。上流ローラ対により搬送された記録媒体は、中間ローラ70および中間拍車72からなる中間ローラ対に進入し搬送され、その後、下流ローラ80および下流拍車82からなる下流ローラに進入する。このように、上流ローラ60および中間ローラ70、下流ローラ80にて搬送動作を行う間に、各ローラ間に配置された2つの記録ヘッドによって画像記録を行い、記録媒体に画像が記録される。画像記録が完了すると、最終的に下流ローラ80により、不図示の排紙トレイに排出される。
【0089】
画像記録時の記録媒体の搬送は、搬送状態を変更しながら実施される。ここで、記録媒体の搬送状態として、上流ローラ60および中間ローラ70、下流ローラ80それぞれのローラのみで搬送される搬送状態を、搬送状態CAおよび搬送状態CB、搬送状態CCとする。また、2軸での搬送状態について、上流ローラ60と中間ローラ70との2軸で搬送される搬送状態を搬送状態CAB、中間ローラ70と下流ローラ80との2軸で搬送される搬送状態を搬送状態CBCとする。また、3軸での搬送について、上流ローラ60と中間ローラ70と下流ローラ80との3軸で搬送される搬送状態を搬送状態CABCとする。記録媒体の搬送方向の長さにもよるが、本実施形態の搬送は、上記の最大6つの搬送状態により実施されることになる。
【0090】
ここで、表4は本実施形態における各搬送状態の搬送周期変動量を回転位相間隔ごとに格納したテーブルを示したものである。
【0092】
表4に示すように搬送状態CAの搬送周期変動量はTA1〜TA8、搬送状態CBの搬送周期変動量はTB1〜TB8、搬送状態CCの搬送周期変動量はCA1〜CA8である。以後各搬送状態の搬送周期変動量はTAのように位相を示す添え字を省略して表す。表5は各搬送状態の搬送周期変動量の算出に必要な搬送特性係数αを格納したテーブルを示したものである。
【0094】
先に述べたように、搬送特性係数αは、各搬送ローラ毎の負荷に対するスリップ量を示す値であるので、各ローラ1軸のみでの搬送状態である搬送状態CAおよびCB、CCだけに設定される。
【0095】
ここで既知のCA、CB、CC以外の搬送状態の搬送周期変動量の算出方法について説明する。基本的な算出の考え方は、先に述べたものと同様である。つまり、「複数の搬送手段の協働搬送量は、各搬送手段の負荷に対するスリップしにくさを重み付け係数として各搬送手段の搬送量を加重平均した搬送量である」関係に基づく。実施形態1では搬送に関与するローラが2軸である場合を述べたが、この考え方は2軸に限らずより多くのローラが関与する場合であっても適用可能である。
【0096】
ここでも先の計算式を導くために、実施形態1と同じように搬送周期変動量ではなく搬送量の関係を考える。各搬送状態の搬送量をβとする。まず、2軸が関与する搬送状態の搬送量、つまり、搬送状態CABおよびCBCの搬送量βABおよびβBCに関しては、実施形態1の(式2)と同様の形で、以下の(式10)および(式11)のように記述することができる。
【0099】
また、3軸が関与する搬送状態の搬送量、つまり、搬送状態CABCの搬送量βABCに関しては、同様の考え方に基づき、以下の(式12)の形で記述することができる。つまり、βABCは、搬送量βAおよびβB、βCを、搬送強さ1/αAおよび1/αB、1/αCを重み付け係数として加重平均したもので表せる。
【0101】
よって上記の(式10)および(式11)、(式12)により、3つの搬送状態の搬送量から6つすべての搬送状態の搬送量を算出することができる。先の実施形態1の計算式の考え方に従えば、搬送量βを搬送周期変動量Tに置き換えることができる。つまり今TA、TB、TCの3つの搬送状態の搬送周期変動量がわかっているので、(式10)、(式11)、(式12)を用いて、6つ全ての搬送状態の搬送周期変動量を計算することができる。
【0102】
このように算出された搬送周期変動量と予め格納された搬送周期変動量を用いれば、先の実施形態と同様に各搬送状態に応じた搬送周期変動量補正を実施する事ができる。
【0103】
搬送周期変動量の実測に用いる用紙長さが、上流ローラ60と下流ローラ80との間隔より長い場合、中間ローラ70のみでの搬送による搬送状態CBは存在しない。このような場合においても、次のような組み合わせにより、3つの搬送状態の搬送周期変動量の実測から、全ての搬送状態の搬送周期変動量を求めることが可能になる。例えば、TAとTCに加えTABを実測により求めた場合でも、(式5)によりTBを算出でき、その後、算出したTBを用いて(式4)および(式5)を解けば、全ての搬送状態の搬送周期変動量が求まる。また、TAとTABとTABCを実測により求めた場合でも、同様の考え方により全てを求めることができるのは説明するまでもない。従って、記録媒体の搬送に3つのローラを用いた場合に関しては、適切に選択した3つの搬送状態の搬送周期変動量の実測から、残る全ての搬送状態の搬送周期変動量を求めることができる。
【0104】
なお、本実施形態では、3つのローラを用いた場合を述べたが、より多くのローラを用いた場合でも、用いたローラの数だけの搬送状態の搬送周期変動量の実測により、全ての搬送状態の搬送周期変動量を求めることが可能である。例えば、記録媒体の搬送において、n本のローラを用いた場合、最大{n・(n+1)/2}の数の搬送状態が存在することになるが、nの数だけの搬送状態の実測を行えばよい。なぜならば、複数のローラを協働して搬送する搬送状態の搬送周期変動量は、各ローラ1軸での搬送周期変動量および搬送特性係数により計算式を立てられるので、各ローラ1軸での搬送周期変動量が求まれば全ての搬送周期変動量を算出できるからである。また、任意のローラでの1軸の搬送周期変動量が実測されなくても、そのローラが関与している搬送状態の搬送周期変動量により換算できることは説明するまでもない。
【0105】
上記各実施形態においては、各位相区間S1〜S8における搬送量の変動量を求め、変動量に基づいて駆動量(回転角)の補正値を求めた。これに対し各位相区間S1〜S8における搬送量の変動量を求め、変動量に基づいて回転速度の(回転角速度)の補正値を求めてもよい。
【0106】
このように記録媒体を搬送する搬送ローラの組み合わせに応じた、回転位相間隔ごとの搬送周期変動量を実測、あるいは計算によって取得し、実際の記録時には搬送ローラの位相に応じて搬送周期変動量を元に各搬送ローラの回転量を変更する。計算は「複数の搬送手段の協働搬送量は、各搬送手段の負荷に対するスリップしにくさを重み付け係数として各搬送手段の搬送量を加重平均した搬送量である」関係に基づいて行う。
【0107】
以上のように、単一あるいは複数の搬送ローラでの搬送による搬送状態の搬送周期変動に対して各搬送状態に応じた搬送周期変動量補正を実施し、画像全域の品質を向上させることができる。