【実施例】
【0016】
図2には、原子力発電設備内の主要な建屋および施設の概略と電気的な接続構成を示している。ここで原子力発電設備の敷地1内のRは原子炉建屋、隣接するTはタービン建屋であり、原子炉建屋R内の原子炉で発生した蒸気を用いて、タービン建屋T内のタービン発電機により電力を発生する。
【0017】
発生電力は、電力供給ラインL1を介して変圧器建屋(屋外施設の場合もある)Trに送られ、主変圧器で適宜の送電電圧に変換され、その後、電力供給ラインL2から施設内開閉所Sを経由して送電線Lから電力系統100に送られる。
【0018】
その他、施設1内にはタービン建屋Tに隣接して廃棄物処理建屋Wを備え、また施設1内の各種機器の制御のための制御建屋C,ガスタービン発電機あるいはディーゼル発電機などの非常用電源設備E(この設備は高台に設置されることが多いので高台発電機と称することがある)を備えている。
【0019】
これらの建屋および施設のうち、変圧器建屋Tr内の所内変圧器と原子炉建屋Rの間には所内動力供給ラインL3が敷設され、また高台発電機Eと原子炉建屋Rの間には非常用電力供給ラインL4が敷設されている。なお、供給ラインL3、L4を介して原子炉建屋Rに供給された電力は他の隣接する建屋にも適宜電力配分されて供給されているが、ここでは供給ラインの図示を省略している。その他、制御建屋C内の中央操作室と原子炉建屋Rの間には電力および制御信号の供給ラインL5が設けられている。
【0020】
図2において「●」の部分が、電力および制御信号の供給ラインが各建屋の壁を貫通している部分(貫通部P)である。本発明は貫通部P11に特徴を有するが、この点については後述する。
図2は施設内の建屋および施設の平面配置を示しているが、これを高さ方向で示したものが
図3である。
【0021】
図3に示すように、電力供給ラインL2,L4は、地下に配設されたピット内に収納されており、電力供給ラインL1は相分離母線構成とされている。なお、
図3では貫通部P7をタービン建屋Tに設置した図を示している。また
図3において、MTr/ATrは主変圧器、所内変圧器を表しており、Gは発電機、M/Cは原子炉建屋内の電源盤を示している。
【0022】
上記した原子力発電設備内の主要な建屋および施設の関係において、本発明では地震、津波などにより、タービン建屋T内の発電機が停止状態にあって発電不可能であり、外部電源である電力系統100を喪失し、かつ高台発電機Eからの電力給電が行えない状態(全電源喪失状態)を想定している。係る状態では、原子炉を安全に停止し冷却するために使用する非常用機器、あるいは非常用制御装置に給電するための電源が全くない状態である。
【0023】
勿論、外部電源である電力系統100あるいは高台発電機Eからの電力給電の機能回復に努めるわけであるが、より迅速に必要最小限の非常用機器、あるいは非常用制御装置に給電することが望まれる。本発明は係る場面で効力を発揮する。
【0024】
このために本発明の非常時用電力供給装置では、
図2の貫通部P11を
図1のように構成し、かつ
図3に示すように電源車30から貫通部P11を介して原子炉建屋内の電源盤M/Cに給電する。
【0025】
図1は、ペネトレーション工法による本発明のケーブル接続を説明するための図である。
図1において、外壁110を貫通して電力ケーブルを通すための一般の貫通部Pは、建屋外壁110に開口部101を設け、ケーブルトレイ103に載置したケーブルを通す。その後、外壁の外部側をシール材102で封止している。
図2、
図3の一般的な貫通部Pは係る工法によりケーブルが貫通配置されている。
【0026】
図1において、PRは原子炉格納容器の内外部間にケーブル配置する時のペネトレーションによる工法を示している。このケースでは、壁に開口部を設置してペネトレーションを設定したのちに、開口部全体にモルタルなどを充填し、最後に元の開口部の外部側に保護用蓋106を設ける。なお、一般的に壁と同等の機能(水密、気密等)を具備するものをペネトレーションと呼んでいる。
【0027】
本発明の貫通部では、ペネトレーションによる工法を建屋外壁に適用している。
図1の貫通部P11はペネトレーション工法により建屋外壁にケーブル104を埋設しているが、外部側には接続部107を形成している。接続部107は接続部保護用箱109内に収納されている。なお非常時には、接続部108を備えたケーブル111がペネトレーション側の接続部107に接続されることで、外部からの電力供給を行う。接続部107と接続部108は、例えばソケットとコンセントのような雌雄関係とされる。
図1の貫通部P11によれば、津波などの水没に耐え、かつ非常時の外部給電が迅速に可能である。なお、以下の説明では外壁にペネトレーション工法を施したものを壁ペネと呼ぶことにする。
【0028】
図4は壁ペネの好ましい内部構成の一例を示している。
図4において、壁ペネ120は電気を通すための導通部6と、建屋内外とのケーブル104を接続する接続部107と、水圧及び水の漏洩を検知する検知部8と、検知した信号を無線で伝達するためのバッテリーを保有する電源部9によって構成される。なお、壁ペネ120の導通部6は、原子炉格納容器内外を貫通する電気配線貫通部のようにモジュール内にケーブルが入っているようなタイプでも良いし、発電所の接地網のようにコンクリート内に銅を埋め込んでおくタイプでもよい。
【0029】
図3に示したように、貫通部P11には電源車30からの電力供給ラインが接続される。
図5は、非常時に原子炉建屋に電力供給可能な電源車30の一例を示している。電源車30は、車両に電源、制御機能、通信機能を搭載したものであり、これらの機能がコンテナ内にモジュール化され収納された電気室であることからこれをモジュール電気室と称することにする。
【0030】
図5に示すモジュール電気室30は、地上を移動するための動力部10と、大容量のバッテリー又は小型のディーゼル発電機を保有するための電源部11と、建屋内の機器4を監視するための制御部12と、ケーブル111を壁ペネ120の接続部107と接続するための接続部108と、電源部11と制御部12と接続部108を包含するコンテナ部14と、コンテナ部14を吊り上げる際に用いる吊り上げ部15と、外部へそのデータを送信するためのアンテナ部16によって構成される。
【0031】
モジュール電気室30は、全電源喪失などの重大事故時に出動して原子炉建屋Rに予め設置されている本発明の壁ペネによる貫通部P11に接近し、ケーブル111の接続部108を貫通部P11の接続部107に接続する。
図6は、重大事故時の壁ペネ貫通部からの電力供給の様子を示す図である。
【0032】
図6は、このときの接続状態を示しており原子炉建屋Rの外壁に構成された複数の壁ペネのうち、ケーブル接続機構を備えた壁ペネ貫通部P11aに接続して給電する状態を表している。原子炉建屋Rなどの建屋は、津波や洪水に晒される可能性があることから全ての貫通部P11b,P9も壁ペネ構成とされて水密性を有する構造とされるのが良い。
【0033】
なお原子炉建屋R内には、多くの動力機器(ポンプなど)4b、4dや、多くの計測機器4a、4cが設置されている。全電源喪失状態以前であれば、これ等の全ての機器に対しては供給ラインL3、L4を介して所内電源、非常用電源からの電力が供給されて運用される。しかし、本発明によりモジュール電気室30から電源供給せねばならぬような状態では、全ての機器に対し電源供給することが容量的に困難である。
【0034】
このため接続機構を備えた壁ペネ貫通部P11aからの内部配線は、予め特定機器に特化して接続されていることが望ましい。係る最終的な運転状態では、原子炉冷却に不可欠な機器あるいはその制御に必要な制御装置に特化して電源供給ラインを構成し、制御可能状態としておくのが良い。
図7ではモジュール電気室30は、動力機器4bと計測機器4aに給電するように予め配線されており、動力機器4dと計測機器4cに対する給電ラインを備えない。
【0035】
なお、制御建屋Cと原子炉建屋Rの間の貫通部P9も壁ペネ構成とされるのが良いが、常時接続状態とされるために、この部分での接続機構の設置は不要である。貫通部P9以降の内部配線は、全ての動力機器4b、4d、計測機器4a、4cおよび電気盤3に対して接続されている。なお、電気盤3は津波などの浸水に対する防御のために防水シャッター18に囲われている。
【0036】
このモジュール電気室30には、大容量バッテリーとしての機能だけではなく、制御室の機能を具備することで、建屋内の電気盤3や機器4への電源供給だけではなく、建屋内部の機器4のモニタリングを実施することが出来る。また、テレビの中継車のように、アンテナ部16を具備しているため、遠隔地17へも内部の情報を伝達し、共有することが出来る。
【0037】
さらに、津波等で発電所構内の道路上に瓦礫が散乱して当該の壁ペネ貫通部P11a近傍までモジュール電気室30を移動することが難しい場合を考慮して、モジュール電気室30は動力部10とコンテナ部14を分離できるようにしておき、吊り上げ部15を用いてヘリコプター等で上空へ吊り上げて移動できる構造にしておくと良い。
【0038】
以上本発明についてその概略の説明をしたが、本発明の各部についてはさらに以下のように改善され、利用されるのが良い。
【0039】
まず原子力関連建屋における壁ペネの配置(
図6に一例を示している)について追加説明する。壁ペネの配置に関し、基本的には建屋の内部と外部のケーブルはこの壁ペネを介して接続することで、あらかじめ貫通部の水密試験を工場で実施することが可能となり、水密性及び施工性の向上を図ることができる。また、津波や洪水等で発電所構内に浸水してきても電気配線貫通部から建屋内への水の浸入を防げる。なお、ここでいう建屋は原子炉建屋Rに限らず、その他の一般建築物であってもよい。
【0040】
しかしながら、何らかの原因で壁ペネから浸水した場合や、その他の大口径の開口部から大量に水が浸入してきた場合は、依然として電気盤3が水没してしまう可能性がある。そのため、
図6に示す予備の壁ペネP11bを建屋外壁の比較的高所に設定しておき、予め原子炉建屋R内部の機器4(非常用冷却系等の設備)とケーブル5を接続しておく。非常時にはこの予備の壁ペネP11bにモジュール電気室30を接続し、機器4へ電源を供給しながら、その状態を監視することが可能となる。
【0041】
なお、予備の壁ペネの設定場所は、津波や洪水等のファーストヒットの衝撃を避けるために、海側以外の場所に設定しても良いし、海側であっても想定津波高さより高い位置に設定することで回避しても良い。また、建屋内部の電気配線を鑑みて壁ペネは1箇所だけではなく、機器4の近くに数箇所設定することで多重化・分散化を図っても良い。
【0042】
次に、壁ペネ部での具体的な接続方法(
図1、
図4に一例を示している)について、追加説明する。予備の壁ペネの接続部107とモジュール電気室30側ケーブル111の接続部108との接続は、ビス(ネジ)止めでも良いが、プラグイン等でスムーズに行なえるよう、ケーブルの先端をコネクタのような形状にしておくと良い。
【0043】
また、ケーブル数本若しくは全数を纏めて1つのコネクタにしておき、端子の配置等で誤接続が出来ないようにしておくことで、接続を円滑に進めることが出来る。さらに、発電所構内の放射線のレベルが何らかの原因で高い場合を考慮して、コネクタはモジュール電気室30内部から遠隔操作で接続できるようにしておいても良い。
【0044】
なお、原子炉建屋Rの電気盤3が水没した場合は、予備の壁ペネを使用して直接機器4へ電源を供給し、その監視を行なうが、制御建屋Cの電気盤やケーブルが使用できなくなってしまった場合は、制御建屋C側の壁ペネのケーブルを取り外してモジュール電気室30を接続することで、原子炉建屋Rの電気盤3を介して内部を監視しても良い。
【0045】
つまり、予備の壁ペネとモジュール電気室との接続は、原子炉建屋の電気盤が水没した場合は予備の壁ペネを使用して直接機器へ電源を供給し、その監視を行なうが、制御建屋の電気盤が水没した場合は、原子炉建屋側の電気盤は利用可能なため、制御建屋側の壁ペネのケーブルを取り外してモジュール電気室を接続することで、原子炉建屋の電気盤を介して内部を監視することが出来る。
【0046】
次に水浸入検知の具体手法(
図4に一例を示している)について、追加説明する。壁ペネには検知部8を具備することで、万一壁ペネを介して建屋内に水が浸入しても、速やかに検知して建屋内の防水シャッター18(
図6)を稼動させて、水の浸入を最小限に抑えることが出来る。
【0047】
検知部8からの検知信号は直接防水シャッター8に導く形でも良いし、一度制御建屋Cに導いてから、その信号を元に水の浸入拡大の防止措置を講じるかどうか判断する形式でも良い。なお、水浸入の検知方法は、壁ペネの内部で水の漏洩を電気的な信号として検知する方法でも良いし、壁ペネの外部で水圧を検知する方法等何でも良いが、その用途に適したものを使用すればよい。さらに、制御建屋Cへの信号伝達方法は有線でも無線でも良いが、非常時にケーブルが断線した場合でも信号が送れるように、電源部11から電源を受電できるようにしておくと良い。
【0048】
最後に、非常時における本発明装置、設備を用いた一連の処理の流れを
図7に纏めてフローとして説明する。
【0049】
最初の処理S1では電力系統100がまだ使用可能であるかを確認する。災害が発生して津波や洪水等で発電所構内に水が浸入したときには、まず外部の電力系統100から電源を確保することができるかを確認する。鉄塔の転倒、ケーブル断線により確保できない可能性がある。外部電源が確保できているのであれば、処理S12においてこれを利用した原子炉建屋内機器の冷却を図ればよい。
【0050】
しかしながら、不幸にして鉄塔の転倒や途中のケーブルの断線等で電力系統が利用出来ない場合は、次に処理S2で壁ペネにて建屋内への浸水を防げたかを確認する。浸水していない場合には、建屋内の非常用D/G又はバッテリーが利用可能であり、処理S13において建屋内の非常用D/G又はバッテリーから電源を確保する。
【0051】
さらに、万一壁ペネから建屋内への浸水があった場合でも、処理S3において
図4の検知部8にて検知して
図6の防水シャッター18を稼動して電気盤3(非常用D/G、バッテリー含む)の水没を防ぐ。
【0052】
処理S3の防水シャッター18の稼動で、無事に建屋内の電気盤3の水没を防げた場合(処理S4)は、処理S14において建屋内の非常用D/G又はバッテリーから電源を確保する。
【0053】
一方で、防水シャッター18の稼動が遅かった場合や、浸水量が多かった場合等で浸水を防ぎきれなかった場合は、電気盤3(非常用D/G又はバッテリー含む)が水没して使えなくなってしまうので、高台の発電設備が健全であることを処理S5で確認し、健全な時には処理S15において高台の発電設備から電源を確保する。
【0054】
高台の発電設備においても、原子炉建屋Rまでは距離があるため、津波や洪水の影響で途中のケーブルが断線してしまっている場合がある。その際は、モジュール電気室30を壁ペネへ接続して電源を供給しなければならない。
【0055】
モジュール電気室30の移動に際しては、まず処理S6において発電所構内に散らばる瓦礫の散乱状況によって移動方法を検討する必要がある。
【0056】
発電所構内道路の瓦礫が少ない場合(処理S7)は、ホイールローダー等を用いて簡単に壁ペネまでの進路を確保することができるので、動力部10にて地上を移動してモジュール電気室30を移動する。
【0057】
一方、瓦礫が多い場合は、地上の移動は困難であるため処理S16においてコンテナ部14を動力部10から切り離して、吊り上げ部15を用いてヘリコプター等を用いて空を移動してコンテナ部14のみを壁ペネまで移動する。
【0058】
モジュール電気室30(コンテナ部14)と壁ペネとのケーブルコネクタ接続は、発電所構内の放射線レベルを確認して接続方法を選定する必要がある(処理S8)。
【0059】
発電所構内の放射線レベルが低い場合(処理S9)は、電源復旧のスピードを重視して人手でモジュール電気室30の接続部108のケーブルコネクタをプラグインにて壁ペネに接続する。
【0060】
一方、発電所構内の放射線レベルが高い場合は、被曝低減の観点からケーブルコネクタの先端をアームのような形にしておき、処理S17においてモジュール電気室30内から遠隔操作することでモジュール電気室30の接続部108のケーブルコネクタを壁ペネに接続する。
【0061】
モジュール電気室30を壁ペネに接続することで機器4への電源供給が可能となる(処理S10)。
【0062】
さらに処理S10の作業をすることで、モジュール電気室30にてプラント(機器4)の状態監視が可能となり、さらに、アンテナ部16から情報を送信することで、遠隔地17でも同様にプラントの状態監視が可能となる(処理S11)。
【0063】
上記フローにより、本システムではこれまでに無い非常用電路の構築とそのシステムを提供することで、電力系統、非常用D/G・バッテリー、高台の発電設備からの電源供給が出来なくなった際にも、発電所構内への電源を確保することが可能となった。