【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂組成物中のアニオン量を低減させることによって、上記の課題を解決できることを見出した。そして更に検討を進めることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば上記課題は、(1)樹脂組成物中に存在するアニオン量が5ppm以下であることを特徴とする超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物により達成される。
本発明の好適な態様の1つは、(2)(A)アクリロニトリル系成分とスチレン系成分とを共重合成分として含むスチレン系熱可塑性樹脂(A成分)を含有することを特徴とする上記構成(1)の超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(3)A成分がポリブタジエンなどのジエン系ゴムを共重合成分として含むスチレン系熱可塑性樹脂であることを特徴とする上記構成(2)の超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(4)A成分100重量部に対し、(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂(B成分)5〜1900重量部を含有する上記構成(2)〜(3)のいずれかの超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(5)A成分とB成分との合計100重量部に対し、(C)A成分以外の衝撃改質剤(C成分)0.1〜50重量部を含有する上記構成(2)〜(4)のいずれかの超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(6)A成分とB成分との合計100重量部に対し、(D)難燃剤(D成分)1〜300重量部を含有する上記構成(2)〜(5)のいずれかの超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(7)A成分とB成分との合計100重量部に対し、(E)フィブリル形成能を有する含フッ素滴下防止剤(E成分)0.05〜50重量部を含有する上記構成(2)〜(6)のいずれかの超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(8)超臨界発泡成形に使用される超臨界流体が窒素である上記構成(1)〜(7)のいずれかの超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(9)上記構成(1)〜(8)のいずれかの超臨界発泡成形用スチレン系熱可塑性樹脂組成物からなる発泡成形品である。
本発明の好適な態様の1つは、(10)軽量化率が3%以上である事務機、家庭用電化製品、電気電子機器、車両に用いられる部品である上記構成(9)の発泡成形品である。
本発明は、(11)樹脂組成物中に存在するアニオン量が5ppm以下であるスチレン系熱可塑性樹脂組成物を使用することにより、超臨界発泡成形における金型の腐食を防止する方法である。
【0008】
以下、本発明の詳細について説明する。
<A成分について>
本発明で使用するA成分は、アクリロニトリル系成分とスチレン系成分とを共重合成分として含むスチレン系熱可塑性樹脂である。さらに、ポリブタジエンなどのジエン系ゴム、エチレン・プロピレン系ゴム、アクリル系ゴム、及びポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(以下IPN型ゴム)を含有することが好ましく、特にポリブタジエンなどのジエン系ゴムを含有することが好ましい。
【0009】
かかるスチレン系樹脂としては、例えばアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)などの樹脂、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0010】
尚、かかるスチレン系熱可塑性樹脂はその製造時にメタロセン触媒などの触媒使用により、シンジオタクチックポリスチレンなどの高い立体規則性を有するものであってもよい。更に場合によっては、アニオンリビング重合、ラジカルリビング重合などの方法により得られる、分子量分布の狭い重合体及び共重合体、ブロック共重合体、及び立体規則性の高い重合体、共重合体を使用することも可能である。またポリカーボネート樹脂との相溶性改良などを目的として、かかるスチレン系樹脂に無水マレイン酸やN置換マレイミドといった官能基を持つ化合物を共重合することも可能である。
【0011】
これらの中でも、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましい。また、スチレン系樹脂を2種以上混合して使用することも可能である。本発明で使用するAS樹脂とは、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体である。かかるシアン化ビニル化合物としては、前記記載のものを挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。また芳香族ビニル化合物としては、同様に前記記載のものが使用できるが、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく使用できる。AS樹脂中における各成分の割合としては、全体を100重量%とした場合、シアン化ビニル化合物が好ましくは5〜50重量%、より好ましくは15〜35重量%、芳香族ビニル化合物が好ましくは95〜50重量%、より好ましくは85〜65重量%である。更にこれらのビニル化合物に、前記記載の共重合可能な他のビニル系化合物を混合使用することもでき、これらの含有割合は、AS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。また反応で使用する開始剤、連鎖移動剤などは必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。かかるAS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよいが、好ましくは塊状重合によるものである。また共重合の方法も一段での共重合、または多段での共重合のいずれであってもよい。またかかるAS樹脂の還元粘度としては、0.2〜1.0dl/gが好ましく、より好ましくは0.3〜0.5dl/gである。還元粘度は、AS樹脂0.25gを精秤し、ジメチルホルムアミド50mlに2時間かけて溶解させた溶液を、ウベローデ粘度計を用いて30℃の環境で測定したものである。なお、粘度計は溶媒の流下時間が20〜100秒のものを用いる。還元粘度は溶媒の流下秒数(t
0)と溶液の流下秒数(t)から次式によって求める。
還元粘度(η
sp/C)={(t/t
0)−1}/0.5
還元粘度が0.2dl/gより小さいと衝撃が低下し、1.0dl/gを越えると流動性が悪くなる場合がある。
【0012】
本発明で使用するABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体とシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体の混合物である。このABS樹脂を形成するジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン及びスチレン−ブタジエン共重合体などのガラス転移温度が−30℃以下のゴムが用いられ、その割合はABS樹脂成分100重量%中5〜80重量%であるのが好ましく、より好ましくは8〜50重量%、特に好ましくは10〜30重量%である。ジエン系ゴム成分にグラフトされるシアン化ビニル化合物としては、前記記載のものを挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。またジエン系ゴム成分にグラフトされる芳香族ビニル化合物としては、同様に前記記載のものを使用できるが、特にスチレン及びα−メチルスチレンが好ましく使用できる。かかるジエン系ゴム成分にグラフトされる成分の割合は、ABS樹脂成分100重量%中95〜20重量%が好ましく、特に好ましくは90〜50重量%である。更にかかるシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物の合計量100重量%に対して、シアン化ビニル化合物が5〜50重量%、芳香族ビニル化合物が95〜50重量%であることが好ましい。更に上記のジエン系ゴム成分にグラフトされる成分の一部についてメチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、無水マレイン酸、N置換マレイミドなどを混合使用することもでき、これらの含有割合はABS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。更に反応で使用する開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などは必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
【0013】
本発明のABS樹脂においては、ゴム粒子径は0.1〜5.0μmが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0μm、特に好ましくは0.3〜1.5μmである。かかるゴム粒子径の分布は単一の分布であるもの及び2山以上の複数の山を有するもののいずれもが使用可能であり、更にそのモルフォロジーにおいてもゴム粒子が単一の相をなすものであっても、ゴム粒子の周りにオクルード相を含有することによりサラミ構造を有するものであってもよい。
【0014】
またABS樹脂がジエン系ゴム成分にグラフトされないシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物を含有することは従来からよく知られているところであり、本発明のABS樹脂においてもかかる重合の際に発生するフリーの重合体成分を含有するものであってもよい。かかるフリーのシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物からなる共重合体の還元粘度は、先に記載の方法で求めた還元粘度(30℃)が0.2〜1.0dl/gが好ましく、より好ましくは0.3〜0.7dl/gであるものである。
またグラフトされたシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物の割合はジエン系ゴム成分に対して、グラフト率(重量%)で表して20〜200%が好ましく、より好ましくは20〜70%のものである。
【0015】
かかるABS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよいが、特に塊状重合によるものが好ましい。塊状重合の場合には乳化剤などに由来するアルカリ金属塩などを実質的に含まないため、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性をより良好に保つことが可能となる。また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。また、かかる製造法により得られたABS樹脂に芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル成分とを別途共重合して得られるビニル化合物重合体をブレンドしたものも好ましく使用できる。
【0016】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂に含まれるアニオン量は5ppm以下であることが好ましく、より好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。
スチレン系樹脂に含まれるアニオン量は、樹脂1gを塩化メチレン100mlに溶解させた後、水20mlを加え、水層溶解成分についてイオンクロマト測定することにより定量される。
【0017】
<B成分について>
本発明の樹脂組成物は、B成分として芳香族ポリカーボネート樹脂を含有することが好ましい。この芳香族ポリカーボネート樹脂の含有により、衝撃強度の改善が可能であり、良好な難燃性も発現可能となる。
【0018】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、通常使用されるビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。ポリカーボネート樹脂はまた3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、または二価の脂肪族または脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは1.3×10
4〜4.0×10
4、より好ましくは1.5×10
4〜3.8×10
4である。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。かかるポリカーボネート樹脂の詳細については、特開2002−129003号公報に記載されている。
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4M
0.83
c=0.7
【0019】
他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、下記のものが好適に例示される。
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、ビスフェノールA成分が10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCF成分が5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつ1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0020】
ポリカーボネート樹脂はバージン原料のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネートを利用することが可能である。その使用済みの製品としては、水ボトルに代表される容器、光学ディスクおよび自動車ヘッドランプなどが例示される。
B成分の含有量は、A成分100重量部に対して、5〜1900重量部であることが好ましく、より好ましくは100〜1000重量部、さらに好ましくは200〜600重量部である。B成分の含有量が5重量部未満では所望の衝撃強度を得られない場合があり、逆に1900重量部を超えると成形時の流動性が不十分となるため好ましくない。
【0021】
<C成分について>
本発明で用いられるC成分はA成分以外の衝撃改質剤である。例えば、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、シリコーン・アクリル複合ゴム系グラフト共重合体などのコア−シェル型グラフト共重合体樹脂、あるいはシリコン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。C成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.1〜50重量部が好ましく、より好ましくは1〜30重量部であり、さらに好ましくは3〜20重量部である。C成分の含有量が0.1重量部未満では所望の衝撃強度が得られない場合があり、逆に50重量部を超えると難燃性が不十分となる場合がある。
【0022】
<D成分について>
本発明の樹脂組成物は、D成分として難燃剤を含有することが好ましい。かかる難燃剤としては、特に限定するものではなく、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、塩系難燃剤、シリコン系難燃剤などの樹脂用難燃剤が使用可能であるが、その中でも、環境性能と難燃性能のバランスに優れたリン系難燃剤、特に有機リン酸エステル化合物が好ましい。
【0023】
有機リン酸エステル化合物としては、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、およびホスファゼンオリゴマーなどが好適に例示される。更にリン酸エステルとしては、下記式(1)で示される化合物が好適である。
【0024】
【化1】
【0025】
[式中、Xは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、およびビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドからなる群より選ばれる化合物から誘導される二価の基である。nは0〜5の整数であり、n数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0〜5の平均値である。R
11、R
12、R
13、およびR
14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子で置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、およびp−クミルフェノールからなる群より選ばれる化合物より誘導される一価の基である。]
【0026】
更に好ましいものとしては、上記式中のXが、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルからなる群より選ばれる化合物から誘導される二価の基であり、R
11、R
12、R
13、およびR
14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子で置換したもしくはより好適には置換していないフェノール、クレゾール、およびキシレノールからなる群より選ばれる化合物から誘導される一価の基であり、nが1〜3の整数である成分を主成分として含む化合物が挙げられる。
【0027】
D成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、1〜300重量部が好ましく、より好ましくは10〜250重量部であり、50〜200重量部がさらに好ましい。D成分が上記範囲を超えて多すぎる場合には、組成物の耐熱性および物性低下を起こす場合がある。逆に、少なすぎる場合は、所望の難燃性を得られない場合がある。
【0028】
<E成分について>
本発明の樹脂組成物は、E成分としてフィブリル形成能を有する含フッ素滴下防止剤を含有することが好ましい。この含フッ素滴下防止剤の含有により、成形品の物性を損なうことなく、良好な難燃性を達成することができる。
【0029】
含フッ素滴下防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができ、かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、など)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)である。フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において好ましくは100万〜1000万、より好ましく200万〜900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン工業(株)のポリフロンMPA FA500およびF−201Lなどを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1およびD−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30Jなどを代表として挙げることができる。混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、さらに該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。これら混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3800」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などを挙げることができる。混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量%中、PTFEが1〜60重量%が好ましく、より好ましくは5〜55重量%である。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。なお、上記D成分の割合は正味の含フッ素滴下防止剤の量を示し、混合形態のPTFEの場合には、正味のPTFE量を示す。
【0030】
E成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.05〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜30重量部である。含フッ素滴下防止剤が上記範囲を超えて多すぎる場合にはPTFEが成形品表面に析出し外観不良となるばかりでなく、樹脂組成物のコストアップに繋がり好ましくなく、逆に少なすぎる場合には、滴下防止効果が充分に発揮されない場合がある。
【0031】
<その他の成分について>
本発明の樹脂組成物には本発明の効果を発揮する範囲において、その他の熱可塑性樹脂や充填材、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、発泡剤、染顔料、難燃助剤等を配合することも出来る。
【0032】
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドなどのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。
【0033】
その他充填材としては、例えばタルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、各種ウイスカーなどを挙げることができる。
【0034】
熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等のリン系の熱安定剤が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル化合物、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等のリン酸エステル化合物、更にその他のリン系熱安定剤として、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−ビフェニレンホスホナイト等の亜ホスホン酸エステル化合物等を挙げることができる。これらのうち、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−ビフェニレンホスホナイトが好ましい。これらの熱安定剤は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる熱安定剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0035】
酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。これら酸化防止剤の配合量は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる酸化防止剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0036】
紫外線吸収剤としては、例えば2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤、および例えば2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールおよび2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールに代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が例示される。更にビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等に代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も使用することが可能である。かかる紫外線吸収剤、光安定剤の配合量は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる紫外線吸収剤、光安定剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0037】
帯電防止剤としては、例えばポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。かかる帯電防止剤の配合量は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる帯電防止剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0038】
<樹脂組成物について>
本発明の樹脂組成物に含まれるアニオン量は5ppm以下であり、好ましくは3ppn以下、より好ましくは1ppm以下である。アニオン含有量が5ppmを超えた樹脂組成物を用いて超臨界発泡成形を行った場合、使用金型が腐食する。ここで、アニオンとしては具体的には塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等が挙げられる。また、樹脂組成物中のアニオン量は、樹脂組成物1gを塩化メチレン100mlに溶解させた後、水20mlを加え、水層溶解成分についてイオンクロマト測定することにより定量される。また、アニオン量を低減させる方法としては、スチレン系樹脂、衝撃改質剤の製造において、水もしくは有機溶媒による洗浄を長時間に渡って行うことなどが挙げられる。
【0039】
<樹脂組成物の製造>
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。好ましくは2軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、任意の成分をサイドフィーダー等を用いて第2供給口より、溶融混合された他の成分中に供給することが好ましい。
【0040】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.5mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜4mmである。
【0041】
<超臨界発泡成形について>
該樹脂組成物は、スクリュー中間部にチェックリング(以下中間リングと記載する)、先端3点セットと中間リングの間に超臨界ガスの注入口、および外部機器として超臨界ガス発生および注入装置を設置した、射出成形機において、ホッパー口からペレットを投入し、成形機スクリューの搬送ゾーン、圧縮ゾーンで加熱溶融させた後、計量ゾーン部分の加熱筒に具備された専用のガス注入口より窒素または二酸化炭素の超臨界ガスを導入することにより、超臨界発泡成形を行う。かかる超臨界発泡成形においては、金型コントロール側において必要に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成型、コアバック成形を採用することで、前記超臨界ガスの注入量だけでなく、その発泡倍率を制御することが可能である。また金型のランナーはコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することが可能であるが、後者のホットランナー方式の方が発泡倍率を制御しやすい点では好ましい。更に、成形機のノズルは、オープンノズル、シャットオフバルブいずれも使用可能であるが、金型にシャットオフ機能がない場合には後者のシャットオフバルブが好ましい。
【0042】
<成形品について>
本発明の成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。表面処理としては、ハードコート、撥水・撥油コート、親水性コート、帯電防止コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理を行うことができる。表面処理方法としては、液剤のコーティングの他、蒸着法、溶射法、およびメッキ法が挙げられる。蒸着法としては物理蒸着法および化学蒸着法のいずれも使用できる。物理蒸着法としては真空蒸着法、スパッタリング、およびイオンプレーティングが例示される。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法などが例示される。
また、本発明の成形品の外観に意匠性を持たせるため、各種のインサート成形が可能であり、フィルムインサート成形、インモールド成形などが例示される。