(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039389
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ゴムローラの押出し成形機、およびゴムローラの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 47/92 20060101AFI20161128BHJP
B29C 47/02 20060101ALI20161128BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20161128BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
B29C47/92
B29C47/02
F16C13/00 B
B29K21:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-267220(P2012-267220)
(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-113701(P2014-113701A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】浅田 克己
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆
(72)【発明者】
【氏名】永田 之則
(72)【発明者】
【氏名】高野 秀人
【審査官】
鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−329911(JP,A)
【文献】
特開2011−154178(JP,A)
【文献】
特開2009−66808(JP,A)
【文献】
特開2010−58278(JP,A)
【文献】
特開2008−229967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 47/00−47/96
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の長さの芯金の複数本を、該芯金の長手方向に連続してクロスヘッドに送り込む芯金送り手段と、溶融状態のゴム材料を該クロスヘッドに送り込むゴム送り手段と、を有し、
該各芯金の周りを該ゴム材料で覆ったゴムローラを前記クロスヘッドの出口から押し出すゴムローラの押出し成形機であって、
前記クロスヘッドの出口から押し出されたゴムローラの外径を測定する外径測定手段と、該外径測定手段により測定されたゴムローラの外径測定値に基づいて、ゴムローラの外径が所定の外径目標値と一致するように、前記芯金送り手段による芯金の送り速度を制御する第1制御器と、を具備する第1フィードバック制御系と、
前記芯金送り手段による芯金の送り速度を入力として、芯金の送り速度の低周波成分を出力する推定器と、該推定器から出力された芯金の送り速度の低周波成分に基づいて、前記芯金送り手段による芯金の送り速度の平均値が所定の平均速度目標値と一致するように、前記ゴム送り手段によるゴム材料の送り速度を制御する第2制御器と、を具備する第2フィードバック制御系と、を有することを特徴とするゴムローラの押出し成形機。
【請求項2】
前記推定器は、ローパスフィルタを含み、該ローパスフィルタのカットオフ周波数fcは、1秒あたりのゴムローラの生産数をTPと設定した場合に、fc<TPとすることを特徴とする請求項1記載のゴムローラの押出し成形機。
【請求項3】
前記推定器は、ノッチフィルタを含み、該ノッチフィルタの中心周波数foは、1秒あたりのゴムローラの生産数をTPと設定した場合に、fo=TPとすることを特徴とする請求項1または2記載のゴムローラの押出し成形機。
【請求項4】
前記第1フィードバック制御系の制御帯域BW1と、前記第2フィードバック制御系の制御帯域BW2とが、BW1>BW2であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のゴムローラの押出し成形機。
【請求項5】
所定の長さの芯金の複数本を、該芯金の長手方向に連続してクロスヘッドに送り込む芯金送り手段と、溶融状態のゴム材料を該クロスヘッドに送り込むゴム送り手段と、を有し、該各芯金の周りを該ゴム材料で覆ったゴムローラを前記クロスヘッドの出口から押し出す押出し成形機によるゴムローラの製造方法であって、
前記クロスヘッドの出口から押し出されたゴムローラの外径を測定し、該測定されたゴムローラの外径測定値に基づいて、ゴムローラの外径が所定の外径目標値と一致するように、前記芯金送り手段による芯金の送り速度を制御する第1フィードバック制御工程と、
前記芯金送り手段による芯金の送り速度を入力として、芯金の送り速度の低周波成分を推定し、該推定された芯金の送り速度の低周波成分に基づいて、前記芯金送り手段による芯金の送り速度の平均値が所定の平均速度目標値と一致するように、前記ゴム送り手段によるゴム材料の送り速度を制御する第2フィードバック制御工程と、を有することを特徴とするゴムローラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムローラを製造するための押出し成形機、およびゴムローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に用いられる帯電ローラや現像ローラなどには、芯金を中心とする円柱状のゴム部材であるゴムローラが用いられる。一般的に、ゴムローラの製造過程において、押出し成形機が用いられる。
【0003】
一般的な押出し成形機は、クロスヘッドに、溶融状態のゴム材料と、所定の長さの芯金と、が同時に送り込まれ、芯金の外周に所定の厚さのゴム材料が被覆されたゴムローラがクロスヘッドの出口から押し出される構成である。このような押出し成形機では、クロスヘッドの出口から、各芯金について1つのゴムローラが連続的に得られる。
【0004】
ゴムローラにおけるゴム材料の厚さは、芯金のクロスヘッドへの送り速度や、ゴム材料のクロスヘッドへの送り速度を変化させることにより調整可能である。これにより、ゴムローラは、例えば、
図5に示すように、芯金61の長手方向の中央部においてゴム材料62の外径が大きい、いわゆるクラウン形状などに成形することが可能である。押し出されたゴムローラの両端部のゴム材料は、後の別工程にて除去される。したがって、
図5に示すように、完成したゴムローラ60では芯金61の両端部が露出している。
【0005】
ゴムローラの外径は5mmから10mm程度、クラウン形状部分の最大径と最小径の差は例えば200μm程度である。ゴムローラの長さは、A4サイズの用紙に対応するもので250mm程度、A3サイズの用紙に対応するもので370mm程度である。芯金の外径は4mmから8mm程度のものが使われる。
【0006】
近年、電子写真装置の高性能化に伴い、ゴムローラの形状精度の向上が求められている。ゴムローラの形状精度を向上させるための押出し成形機のフィードバック制御の技術が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0007】
特許文献1および特許文献2に開示された押出し成形機のフィードバック制御では、クロスヘッドの出口端近傍に設置された外径測定器にて得られるゴムローラの外径測定値に基づいて、芯金の送り速度やゴム材料の送り速度を制御する。これにより、所定のクラウン形状に対するゴムローラの形状誤差の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−066808号公報
【特許文献2】特開2010−058278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2に開示された押出し成形機によれば、フィードバック制御系の働きによって、所定のクラウン形状に対するゴムローラの形状誤差が低減されるように、操作量である芯金の送り速度あるいはゴム材料の送り速度を変化させている。この時、ゴム材料の物性値変化や温度変化等の外乱の影響でゴムローラの形状が変動しても、それに応じて操作量が余分に変化して、それら外乱の影響を排除するよう動作する。
【0010】
しかしながら、数時間後や1日、あるいは何日にも亘る長期の稼働中に、外乱が大きく変動する場合は、芯金の送り速度も大きく変化してしまうことがある。
【0011】
このため、芯金の送り速度が上限値や下限値に飽和し、形状誤差が大きくなるという問題や、芯金の送り速度が上限値と下限値の間を周期的に大きく変動して単位時間あたりのゴムローラの生産数が大きく変動することがあった。
【0012】
図6に、従来例にかかる押出し成形機の性能を示す数値シミュレーション結果を示す。上段は、所定のクラウン形状r1と外径測定値zの波形の重ね書きである。約45秒間に9本のゴムローラが押出されるため9つのクラウン形状が現れている。中段は、所定のクラウン形状r1と外径測定値zの差分である外径誤差e1の波形である。最大外径誤差は±20μm程度と、ゴムローラの形状誤差を十分低減できている。ところが、この時、下段の芯金の送り速度w1、およびその平均速度w1bは、徐々にドリフトして小さくなっている。このままだと、芯金の送り速度が下限値に飽和して形状誤差が大きくなるという問題や、芯金の送り速度が飽和はしなくても大きく変動することによって、単位時間あたりのゴムローラの生産数がばらつく場合がある。
【0013】
そこで、本発明は、外乱が長期的に大きく変動しても、操作量が飽和したり、周期的に大きく変動したりすることを抑制し、ゴムローラの形状誤差を安定して低減できるゴムローラの押出し成形機、およびゴムローラの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題点を解決するために本発明のゴムローラの押出し成形機は、
所定の長さの芯金の複数本を、該芯金の長手方向に連続してクロスヘッドに送り込む芯金送り手段と、溶融状態のゴム材料を該クロスヘッドに送り込むゴム送り手段と、を有し、該各芯金の周りを該ゴム材料で覆ったゴムローラを前記クロスヘッドの出口から押し出すゴムローラの押出し成形機であって、
前記クロスヘッドの出口から押し出されたゴムローラの外径を測定する外径測定手段と、該外径測定手段により測定されたゴムローラの外径測定値に基づいて、ゴムローラの外径が所定の外径目標値と一致するように、前記芯金送り手段による芯金の送り速度を制御する第1制御器と、を具備する第1フィードバック制御系と、
前記芯金送り手段による芯金の送り速度を入力として、芯金の送り速度の低周波成分を出力する推定器と、該推定器から出力された芯金の送り速度の低周波成分に基づいて、前記芯金送り手段による芯金の送り速度の平均値が所定の平均速度目標値と一致するように、前記ゴム送り手段によるゴム材料の送り速度を制御する第2制御器と、を具備する第2フィードバック制御系と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、前記推定器は、ローパスフィルタを含み、該ローパスフィルタのカットオフ周波数fcは、1秒あたりのゴムローラの生産数をTPと設定した場合に、fc<TPとすることを特徴とする。
【0016】
また、前記推定器は、ノッチフィルタを含み、該ノッチフィルタの中心周波数foは、1秒あたりのゴムローラの生産数をTPと設定した場合に、fo=TPとすることを特徴とする。
【0017】
また、前記第1フィードバック制御系の制御帯域BW1と、前記第2フィードバック制御系の制御帯域BW2とが、BW1>BW2であることを特徴とする。
【0018】
上記問題点を解決するために本発明のゴムローラの製造方法は、
所定の長さの芯金の複数本を、該芯金の長手方向に連続してクロスヘッドに送り込む芯金送り手段と、溶融状態のゴム材料を該クロスヘッドに送り込むゴム送り手段と、を有し、該各芯金の周りを該ゴム材料で覆ったゴムローラを前記クロスヘッドの出口から押し出す押出し成形機によるゴムローラの製造方法であって、
前記クロスヘッドの出口から押し出されたゴムローラの外径を測定し、該測定されたゴムローラの外径測定値に基づいて、ゴムローラの外径が所定の外径目標値と一致するように、前記芯金送り手段による芯金の送り速度を制御する第1フィードバック制御工程と、
前記芯金送り手段による芯金の送り速度を入力として、芯金の送り速度の低周波成分を推定し、該推定された芯金の送り速度の低周波成分に基づいて、前記芯金送り手段による芯金の送り速度の平均値が所定の平均速度目標値と一致するように、前記ゴム送り手段によるゴム材料の送り速度を制御する第2フィードバック制御工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、外乱が長期的に大きく変動しても、操作量が飽和したり、周期的に大きく変動したりすることを抑制し、ゴムローラの形状誤差を安定して低減できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るゴムローラの押出し成形機の概略構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る推定器の周波数伝達特性である。
【
図3】本発明の押出し成形機の性能を示す数値シミュレーション結果である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る推定器の周波数伝達特性である。
【
図5】押出し成形機にて製造されるゴムローラである。
【
図6】従来の押出し成形機の性能を示す数値シミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るゴムローラの押出し成形機100の概略構成図である。押出し成形機100は、芯金1の全周にわたってゴム材料を被覆して、中心に芯金1が入ったゴムローラ7を製造するための装置である。
【0022】
押出し成形機100には、芯金1と溶融状態のゴム材料2が送り込まれるクロスヘッド3と、クロスヘッド3に芯金1を送り込む芯金送り手段である駆動ローラ6と、クロスヘッド3にゴム材料を送る通路であるシリンダ4とが設けられている。
【0023】
駆動ローラ6は、複数本の芯金1を長手方向に連続的にクロスヘッド3に送り込む。1aは異なる芯金1の端が接触する当接部である。シリンダ4は、内部にスクリュ5を備えている。スクリュ5は、ご溶融状態のゴム材料2をクロスヘッド3内に送り込むためのゴム送り手段であり、スクリュ5の回転により、溶融状態のゴム材料2がクロスヘッド3内に送り込まれる。
【0024】
芯金1は、クロスヘッド3内に送り込まれると、シリンダ4からクロスヘッド3内に送り込まれた溶融状態のゴム材料2に全周を覆われる。そして、芯金1は、クロスヘッド3の出口3aから、表面にゴム材料2が付着した状態のゴムローラ7として送り出される。
【0025】
押出し成形機100において、芯金1の長手方向の中央部においてゴム材料2の外径が大きい、いわゆるクラウン形状のゴムローラ7を形成するためには、駆動ローラ6による芯金1の送り速度(以下、芯金速度と称す)や、スクリュ5によるゴム材料2の送り速度(以下、ゴム速度と称す)を変化させればよい。ゴム速度を変化させる他の方法としては、クロスヘッド3に貼付したヒータにてゴム材料2を余分に加熱するという方法もある。
【0026】
芯金1に付着するゴム材料2の厚さは、芯金速度を速くすると相対的に薄くなり、遅くすると相対的に厚くなる。
【0027】
一方で、芯金1に付着するゴム材料2の厚さは、ゴム速度を速くすると相対的に厚くなり、遅くすると相対的に薄くなる。
【0028】
このように、被制御量であるゴムローラ7の外径は、2つの操作量、即ち第1操作量である芯金速度と、第2操作量であるゴム速度の何れによっても調整することができる。
【0029】
しかし、ゴム材料2の厚さを変化させる時の応答は、スクリュ5によってゴム速度を変化させるよりも、駆動ローラ6によって芯金速度を変化させた方が早い。そのため、ゴムローラ7の外径は、駆動ローラ6によって芯金速度を制御することにより調整することがより有効である。
【0030】
駆動ローラ6による芯金速度は、駆動ローラ6に接続されたサーボモータ8によって調整する。サーボモータ8はエンコーダ9を備え、エンコーダ9によってサーボモータ8の回転速度や回転角度を検出可能である。スクリュ5によるゴム速度は、スクリュ5に接続された誘導モータ25の回転速度によって調整する。クロスヘッド3の出口3aから送り出されたゴムローラ7は、引取機10によって、1つの芯金1あたり1つずつ受け取られ、順次パレット(不図示)に載置される。
【0031】
次に、押出し成形機100における制御系について説明する。制御系は、外径測定器11、第1制御器16、ドライバ17、第2制御器23、インバータ24、および推定器21などにより構成される。なお、図中のC1、K1、C2、K2、H2は各周波数伝達特性を示している。
【0032】
外径測定器11は、ゴムローラ7を挟んでシート状のレーザ光を投受光して遮光寸法を計測する原理のものが好適である。外径測定器11は、クロスヘッド3の出口3aの近傍に配置して、出口3aから送り出されたゴムローラ7の外径を測定し、その外径測定値zを第1制御器16に伝達する。
【0033】
第1制御器16は、所定のクラウン形状である外径目標値r1と、外径測定器11によるゴムローラ7の外径測定値zと、の差分である外径誤差e1を入力として、芯金速度指令値w1を出力する。第1制御器16には、典型的にはPID制御器が用いられる。そして、ドライバ17を介して外径誤差e1が小さくなるようにサーボモータ8の回転速度を制御する。ここで、芯金速度指令値w1は、芯金速度に比例する値であり、ドライバ17、サーボモータ8、駆動ローラ6を介して、第1操作量である芯金速度に変換される。
【0034】
以上により、芯金1は、ゴムローラ7の外径測定値zが外径目標値r1に一致するように駆動ローラ6によってクロスヘッド3内に送り込まれる。即ち、押出し成形機100は、ゴムローラ7の外径測定値zに基づいて、第1の操作量である芯金速度を変化させる第1制御器16を有する第1フィードバック(FB)制御系の働きによって、所定のクラウン形状に対するゴムローラ7の形状誤差が低減されるように動作する。更にゴム材料2の物性値変化や温度変化等の外乱の影響にてゴムローラ7の形状が変動しても、それに応じて芯金速度が余分に変化して、それらの外乱の影響を排除するよう動作する。
【0035】
しかしながら、数時間後や1日、あるいは何日にも亘る長期の稼働中に、外乱が大きく変動する場合は、芯金速度も大きく変化してしまう。
【0036】
このため、芯金速度が上限値や下限値に飽和し、形状誤差が大きくなるという問題や、芯金速度が上限値と下限値の間を周期的に大きく変動して単位時間あたりのゴムローラの生産数が大きく変動するという問題が発生することがある。
【0037】
そこで、本発明の押出し成形機100では、芯金速度の平均値に基づいて、第2の操作量であるゴム速度を調整する第2フィードバック(FB)制御系を構成する。
【0038】
第2制御器23は、所定の芯金平均速度目標値r2と、後述する推定器21にて算出された芯金速度平均値w1bと、の差分である芯金平均速度誤差e2を入力として、ゴム速度指令値w2を出力する。第2制御器23には、典型的にはPID制御器が用いられる。そして、インバータ24を介して芯金平均速度誤差e2が小さくなるように誘導モータ25の回転速度を制御する。ここで、ゴム速度指令値w2は、ゴム速度に比例する値であり、インバータ24、誘導モータ25、スクリュ5を介して、第2操作量であるゴム速度に変換される。
【0039】
所定の芯金平均速度目標値r2は、1秒あたりのゴムローラ生産数TPと芯金長Lから、数式1によって算出されて設定される。r2は、ゴムローラ生産数を一定とするため、基本的には一定値とする。
【0040】
r2=TP×L (数式1)
芯金速度平均値w1bは、芯金速度を入力として、芯金速度の低周波成分を出力する推定器21によって算出される。推定器21は、基本的な演算内容として低周波の波形成分を抽出できるローパスフィルタの特性を含んでいる。ローパスフィルタのカットオフ周波数fcは、1秒あたりのゴムローラ生産数TP以下、即ち、数式2のように設定すれば、芯金速度の変化成分が小さくなって、その平均値を推定しやすくできる。
【0041】
fc<TP (数式2)
例えば、ゴムローラ7を1本当たり5秒で押し出す場合には、TP=0.2[1/秒]となる。
図2に、TP=0.2[1/秒]の場合に、fc=0.1[Hz]と設定した2次のローパスフィルタの周波数伝達関数を示す。推定器21の演算内容は、デジタルフィルタや移動平均で実現しても良い。また、平均値でなく実効値で代用することも可能である。このような演算には全てローパスフィルタ特性が含まれ、芯金速度の低周波成分を抽出している。
【0042】
推定器21の入力となる芯金速度は、幾つかの方法で得ることができる。例えば、芯金速度を直接検出するセンサをクロスヘッド3の上部か下部に設置する方法、芯金速度に比例する駆動ローラ6の回転速度を検出するセンサを設置する方法、芯金速度に比例するサーボモータ8の回転速度を検出するエンコーダ9を設置する方法などがある。
図1では、特別なセンサが不要で簡易に実施できるので、芯金速度に比例する芯金速度指令値w1を入力として用いる構成を示した。
【0043】
以上により、ゴム材料2は、芯金平均速度w1bが芯金平均速度目標値r2に一致するようにスクリュ5によってクロスヘッド3内に送り込まれる。即ち、本発明の押出し成形機100は、芯金平均速度w1bに基づいて、第2操作量であるゴム速度を変化させる第2制御器23を有する第2フィードバック(FB)制御系の働きによって、所定の芯金平均速度目標値r2に対する芯金平均速度w1bの芯金平均速度誤差e2が低減されるように動作する。
【0044】
外乱入力を起点として、本発明の押出し成形機100の特有の動作を更に詳しく説明する。今、ゴム材料の物性値変化や温度変化等の外乱の影響で、押し出されるゴム量が増えると、ゴムローラ7の外径は外径目標値r1よりも太くなる。すると、第1フィードバック制御系は、芯金速度を速くして外径を細くしようと動作する。この時、芯金平均速度も速くなっている。一方、第2フィードバック制御系は、芯金平均速度が速くなっていることを推定器21により検出しており、ゴム速度を遅くして押し出されるゴム量を減らそうとする。
【0045】
逆に、外乱の影響で押し出されるゴム量が減ると、ゴムローラ7の外径は外径目標値よりも細くなる。すると、第1フィードバック制御系は、芯金速度を遅くして外径を太くしようと動作する。この時、芯金平均速度も遅くなっている。一方、第2フィードバック制御系は、芯金平均速度が遅くなっていることを推定器21により検出しており、ゴム速度を速くして押し出されるゴム量を増やそうとする。
【0046】
上記動作をさせる場合に、第1制御器16のPIDゲインと第2制御器23のPIDゲインを調整することによって、第1フィードバック制御系の制御帯域BW1[Hz]と、第2フィードバック制御系の制御帯域BW2[Hz]と、を決定する。通常は制御系の性能を良くするために、制御帯域を極力広くする必要があるが、本発明の第2フィードバック制御系の制御帯域BW2を広くし過ぎると、第1フィードバック制御系の制御性能を損なう場合がある。このため、発明者らは、少なくともBW1>BW2とする必要があることを見出しており、一例として好ましくは、数式3とするのが良い。
【0047】
BW1>5×BW2 (数式3)
このようにして、本発明の押出し成形機100は、第1フィードバック制御系により、ゴムローラ7の外径が外径目標値r1と一致するように動作し、同時に第2フィードバック制御系により、芯金平均速度のドリフトや変動を抑制しながら、芯金平均速度が芯金平均速度目標値r2と一致するように動作するようになる。
【0048】
図3に、本発明の押出し成形機の性能を示す数値シミュレーション結果を示す。上段は、所定のクラウン形状r1と外径測定値zの波形の重ね書きである。約45秒間に9本のゴムローラが押出されるため9つのクラウン形状が現れている。中段は、所定のクラウン形状r1と外径測定値zの差分である外径誤差e1の波形である。最大外径誤差は±20μm程度と、ゴムローラ7の形状誤差を十分低減できている。ここまでの性能は従来の押出し成形機の性能を示した
図6と同等である。また、
図6においては、芯金速度が徐々にドリフトする原因となっていた外乱も同様に作用している。しかしながら、
図6とは違い、本発明の押出し成形機100の性能を示す
図3では、下段の芯金速度w1およびその平均速度w1bが、外乱の作用でドリフトするのが抑制されていることがわかる。
【0049】
以上の構成と動作により、本実施形態では、外乱が長期的に大きく変動しても、操作量が飽和したり、周期的に大きく変動したりすることを抑制し、ゴムローラ7の形状誤差を安定して低減できる。
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る推定器21の周波数伝達特性である。本実施形態に係る押出し成形機100は、以下に述べる推定器21以外の構成は、第1の実施形態に係る押出し成形機100と共通している。
【0050】
第1の実施形態で述べたように、推定器21に含まれるローパスフィルタのカットオフ周波数fcは、1秒あたりのゴムローラ生産数TP以下に設定すれば、芯金速度の変化成分が小さくなって平均値を推定しやすくすることができる。
【0051】
第2の実施形態では、推定器21は更に、ノッチフィルタを含む。ノッチフィルタの中心周波数foは、1秒あたりのゴムローラ生産数TPと等しく、即ち、数式4のように設定すれば、芯金速度の変化成分が更に小さくなって平均値を推定しやすくすることができる。あるいは、実測された芯金速度w1の周波数分析にて得られたスペクトル特性の中で、卓越する幾つかの周波数をfoとして複数設定しても良い。
【0052】
fo=TP (数式4)
所定の芯金平均速度目標値r2は、1秒あたりのゴムローラ生産数TPと芯金長Lから、数式1によって算出されて設定されることを述べたが、押出し成形機100の稼働に当たって、r2やTPを変更する場合は、foを手動または自動で変更するのが望ましい。
【0053】
以上の構成と動作により、本実施形態では、外乱が長期的に大きく変動しても、操作量が飽和したり、周期的に大きく変動したりすることを抑制し、ゴムローラ7の形状誤差を安定して低減できる。
【0054】
なお、本実施形態では、推定器21が、ノッチフィルタおよびローパスフィルタの双方を含む構成について述べたが、ノッチフィルタのみを含む構成でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置に用いられる帯電ローラ、転写ローラ等のゴムローラの押出し成形機に関する。
【符号の説明】
【0056】
1 芯金
2 ゴム材料
3 クロスヘッド
4 シリンダ
5 スクリュ
6 駆動ローラ
7 ゴムローラ
8 サーボモータ
9 エンコーダ
10 引き取り機
11 外径測定器
16 第1制御器
17 ドライバ
21 推定器
23 第2制御器
24 インバータ
25 誘導モータ
100 押出し成形機