特許第6039394号(P6039394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039394
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】コート槽及びディップコータ
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/09 20060101AFI20161128BHJP
   B05C 9/08 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B05C3/09
   B05C9/08
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-272743(P2012-272743)
(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公開番号】特開2014-117634(P2014-117634A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】100075281
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 和憲
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 真吾
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 三弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 邦明
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−009371(JP,A)
【文献】 特開2005−091558(JP,A)
【文献】 特開平05−208156(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0253036(US,A1)
【文献】 特開平05−341541(JP,A)
【文献】 特開2007−203145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00−3/20
B05C7/00−21/00
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留した塗布液中にプレートが浸漬されて引き上げられることにより前記プレートの表面に前記塗布液の被膜を形成するコート槽において、
前記塗布液を貯留する槽本体と、
前記塗布液の液面を覆うように前記槽本体の上部に配され、鉛直に起立した姿勢の前記プレートを昇降することにより出し入れするための開口が形成された蓋とを備え、
前記蓋は、被膜が形成され始める液面上の形成位置に向けて前記開口側の端部が延びており、
前記開口側の端部は、前記塗布液の液面からの高さが前記開口に向かって漸減または階段状に低くされていることを特徴とするコート槽。
【請求項2】
前記塗布液は加水分解性をもつことを特徴とする請求項1に記載のコート槽。
【請求項3】
前記塗布液はアルコキシド系の化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコート槽。
【請求項4】
前記蓋の開口側の端部上で前記開口の長手方向における一端側から他端側に向けて不活性ガスと乾燥空気との少なくともいずれか一方を送出する送出手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコート槽。
【請求項5】
塗布液の液体成分の蒸気と不活性ガスと乾燥空気との少なくともいずれかひとつを前記蓋と液面との間に供給する供給手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコート槽。
【請求項6】
コート槽内の塗布液にプレートを浸漬して引き上げることにより、前記プレートの表面に前記塗布液の被膜を形成するディップコータにおいて、
前記プレートを鉛直に起立した姿勢に保持する保持手段と、
前記保持手段を昇降させることにより前記プレートを昇降させる昇降機構とを備え、
前記コート槽は、
前記塗布液を貯留する槽本体と、
前記塗布液の液面を覆うように前記槽本体の上部に配され、前記プレートを昇降することにより出し入れするための開口が形成された蓋とを有し、
前記蓋は、被膜が形成され始める液面上の形成位置に向けて前記開口側の端部が延びており、
前記開口側の端部は、前記塗布液の液面からの高さが前記開口に向かって漸減または階段状に低くされていることを特徴とするディップコータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレートの表面に塗布液からなる被膜を形成するコート槽及びディップコータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、またソーラー発電用の太陽電池パネルなどのカバーガラスには、ガラス製のプレートの表面に、用途や使用環境に応じて種々の膜が形成されたものがある。例えば太陽電池パネルのカバーガラスとしては、ガラスからなるプレートに対して、直射日光や風雨降雪に対する耐久性を高めるためにオーバーコート膜が設けられたもの、太陽光をできるだけ効率よく受光体に取り込むために反射防止膜が設けられたもの、さらには様々な汚れの付着を防ぐための防汚膜が設けられたものがあり、中には機能が異なるこれらの膜を積層したものもある。
【0003】
一般普及型の太陽電池パネルには、そのサイズが100cm×120cmを越える大型のカバーガラスも用いられている。このようなサイズのカバーガラスを製造するにあたり、反射防止等の機能をもった膜をプレート上に形成する場合には、蒸着やスパッタリングのような乾式法を用いることは得策ではない。というのは、これらの乾式法は高精度の厚みコントロールは可能であるが、真空槽や真空排気系の設備が不可欠で設備コストが高く、また真空引きやリーク処理を自動化して連続的に成膜を継続させるようにした量産装置は製造コストが高くなるからである。このため、前述のような機能をもった各膜を形成する際は、ディップコート法、スリットコート法、スピンコート法、カーテンフローコート法、ロールコート法、スプレイ法、あるいはインクジェット法などの湿式法が用いられるのが通常である。
【0004】
中でも、特許文献1や特許文献2で知られるように、膜の材料となる塗布液をコート槽内に満たし、そこに処理対象物(ワーク)としてのプレートを浸漬してから引き上げるディップコート法は、他の湿式法と比較して量産性に優れ、設備コスト及び製造コストを共に抑えることができる。さらに、ディップコート法は、特許文献1記載のように、反射防止膜としては多層膜にも対応し得る程度にまで精密な厚み制御を行うことも可能であり、太陽電池パネルのカバーガラスのような量産品の製造において用途に応じた様々な種類の膜を形成する上で非常に有効な手法である。
【0005】
さらに、ディップコート法については、厚みがより均一な膜を形成するための方法として、特許文献3に記載されるように、コート槽に満たした塗布液の液面上に気流を生じさせ、浸漬後引き上げたプレート上の塗布液からなる被膜に気流を作用させる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−058703号公報
【特許文献2】特開2007−203145号公報
【特許文献3】特開2007−38210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ディップコート法に使用する塗布液には、空気中の水分に接するとその水分で加水分解するものがある。例えばアルコキシド系の成分を含む塗布液は、そもそも加水分解を利用して膜となるものであるので、空気中の水分で加水分解する。アルコキシド系の成分を含む塗布液は、太陽電池パネルのカバーガラスにおける反射防止膜を形成する塗布液として広く用いられている。このような加水分解性をもつ塗布液は、コート槽に貯留されている間に液面が空気に触れているので、長時間放置しておくと劣化してしまう。
【0008】
また、このような加水分解性をもつ塗布液を使用した場合には、浸漬して引き上げたプレート上の被膜も、空気に触れることで加水分解することがあり、引き上げ環境に応じて、得られる膜の特性が変わってしまう。例えば、引き上げ中に空気中の水分量が変化すると、得られる膜は均一ではなくなる。また、複数のプレートに対して順次、膜を形成する場合には、引き上げ環境に応じて特性が互いに異なる膜が個々のプレートに形成されてしまう。このように、従来の方法は、膜の再現性に優れるとは言えない。
【0009】
このような加水分解による塗布液の劣化や膜の再現性の悪さは、特許文献3のように塗布液の液面上で気流を生じさせる場合に、特に顕著である。
【0010】
塗布液やプレート上の被膜の加水分解を抑制する方法としては、塗布液の液面上の雰囲気を除湿したり、液面上を不活性ガスで満たすなどして、その雰囲気下でプレートを塗布液から引き上げる方法がある。しかし、この方法では、液面上の雰囲気を調整する空調機に負荷がかかりすぎ、設備と稼働との両コストがかさむ。
【0011】
さらに、加水分解性をもつ塗布液の中には塗布環境下で蒸発するものもあり、前述のアルコキシド系の成分を含む反射防止膜用の塗布液にはこれにあたるものがある。塗布環境下で蒸発する塗布液は、プレート上の被膜に悪影響を与え、膜の再現性が悪くなることがある。例えば、浸漬後引き上げられている或いは引き上げたプレート上の被膜に塗布液の蒸気が触れることにより、被膜の部位によって乾燥速度が異なるようになり、得られる膜は均一ではなくなる。
【0012】
そこで、本発明は上記事情を考慮してなされたもので、コート槽に貯留した塗布液の劣化を防止し、一定品質の膜を再現性よく形成するコート槽と、ディップコータとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、貯留した塗布液中にプレートが浸漬されて引き上げられることによりプレートの表面に塗布液の被膜を形成するコート槽において、塗布液を貯留する槽本体と、塗布液の液面を覆うように槽本体の上部に配され、鉛直に起立した姿勢のプレートを昇降することにより出し入れするための開口が形成された蓋とを備え、蓋は、被膜が形成され始める液面上の形成位置に向けて上記開口側の端部が延びており、開口側の端部は、塗布液の液面からの高さが開口に向かって漸減または階段状に低くされていることを特徴として構成されている。
【0014】
塗布液が加水分解性をもつ場合、塗布液がアルコキシド系の化合物を含む場合に、効果が大きい。蓋の開口側の端部上で開口の長手方向における一端側から他端側に向けて不活性ガスと乾燥空気との少なくともいずれか一方を送出する送出手段を備えることが好ましい。コート槽は、塗布液の液体成分の蒸気とAr(アルゴン)やN2(窒素)等の不活性ガスと乾燥空気との少なくともいずれかひとつを蓋と塗布液の液面との間に供給する供給手段を備えることがより好ましい。
【0016】
また、本発明は、コート槽内の塗布液にプレートを浸漬して引き上げることにより、プレートの表面に塗布液の被膜を形成するディップコータにおいて、プレートを鉛直に起立した姿勢に保持する保持手段と、保持手段を昇降させることによりプレートを昇降させる昇降機構とを備え、コート槽は、塗布液を貯留する槽本体と、塗布液の液面を覆うように槽本体の上部に配され、プレートを昇降することにより出し入れするための開口が形成された蓋とを有し、前記蓋は、被膜が形成され始める液面上の形成位置に向けて前記開口側の端部が延びており、前記開口側の端部は、前記塗布液の液面からの高さが前記開口に向かって漸減または階段状に低くされていることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コート槽に貯留した塗布液の劣化が抑えられるとともに、一定品質の膜を再現性よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】カバーガラスの断面図である。
図2】太陽電池パネルの概略側面図である。
図3】ディップコータの概略断面図である。
図4図3のIV−IV線に沿う断面図である。
図5】2枚の基板の一体化についての説明図である。
図6】供給装置を備えるコート槽の概略図である。
図7】送出ユニットを備えるコート槽の概略図である。
図8】別の実施形態であるコート槽の概略図である。
図9】別の実施形態であるコート槽の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明により製造されるものとしては、例えば、太陽電池パネルに用いられるカバーガラスがある。カバーガラス10は、図1に示すように、白板ガラス仕様のプレート(板)である基板11と、基板11の一方の表面(以下、第1面と称する)11aに配された反射防止膜12とを備え、厚みが略均一である。
【0020】
基板11の第1面11aは略平坦とされている。基板11の他方の表面(以下、第2面と称する)11bは、略平坦の場合もあるが、本実施形態では微細な凹凸が形成されたエンボス面とされている。このように、基板11はいわゆるエンボスガラスである。反射防止膜12は、単層構造であり、後述のように塗布液から形成される。なお、単層構造の反射防止膜12に代えて、複層構造の反射防止膜(図示無し)とされる場合もある。この場合には、例えば後述の塗布を複数回行い、これにより厚み方向Tに重なる複数の被膜を形成するとよい。
【0021】
カバーガラス10は、例えば図2に示すように、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)15と太陽電池セル16等と組み合わせた構造とすることで太陽電池パネル17となる。EVA15は、カバーガラス10の基板11側に、すなわち基板11の第2面11b上に配される。太陽電池セル16はEVA15中に包埋されており、EVA15は封止材として機能する。EVA15のカバーガラス10が配されている面とは反対側の面には、保護膜として機能するバックシート18が配されている。太陽電池パネル17は、太陽光がカバーガラス10側から入射するように備えられて用いる。なお、太陽電池パネルの構造は図2の態様に限られず、周知のとおり、例えば、バックシート18に代えてガラス板が用いられている場合もあるし、太陽電池セル16が基板11の第2面11b上に設けられてこの太陽電池セル16をEVAが覆う場合もある。
【0022】
以下、カバーガラス10を製造する場合を例にして本発明を説明するが、本発明により製造される材料はカバーガラス10に限定されない。例えば、両面が平坦な板状のワークに塗布液を塗布して被膜を形成して得られる材料に本発明は適用される。中でも、少なくとも一部成分が塗布の際に蒸発するような塗布液を用いる場合や、ワーク上に形成された塗布液からなる被膜が外気中の水分で変質しやすい場合に、本発明は有効である。
【0023】
カバーガラス10は、基板11の第1面11aに反射防止膜12を形成することで製造される。反射防止膜12は、乾燥や焼成等の所定の処理を経ることにより反射防止膜として機能する塗布液から形成される。単層の反射防止膜12を基板11上に形成する第1の実施形態について、図3及び図4にしたがって説明する。ディップコータ20は、2枚の基板11の各第1面11aに塗布液21からなる被膜22を形成するためのものであり、保持部材25と、変位装置26と、コート槽27とを備える。
【0024】
2枚の基板11は、各々の第2面11b(図1図2参照)を対向させて互いに一体化されている。保持部材25は、一体化された2枚の基板11を鉛直に起立した姿勢(以下、鉛直姿勢と称する)に保持するためのものであり、グリップ30と、つり下げ部31とを備える。なお、2枚の基板11は端面の合わせ目がシール材で封止されているが、図の煩雑化を避けるために図3図4においてはシール材の図示を略している。2枚の基板11の一体化についての詳細は、別の図面を用いて後述する。グリップ30は、図3の紙面の奥行き方向に長い形状であり、鉛直姿勢の両基板11の上端部を把持することで基板11の鉛直姿勢を保持する。グリップ30はつり下げ部31の下端に取り付けられており、つり下げ部31は、グリップ30に把持された両基板11をつり下げた状態で支持する。
【0025】
変位装置26は、基板11を搬送したり、下降及び上昇させるためのものであり、搬送機構32と昇降機構33とを備える。変位装置26は、つり下げ部31に接続しており、搬送機構32と昇降機構33とを切り替えて保持部材25を変位させる。
【0026】
搬送機構32は、グリップ30がコート槽27の真上に位置するようにつり下げ部31を移動させて停止させる。このように、搬送機構32は、つり下げ部31を例えば水平方向に移動させて所定の位置で停止させる。
【0027】
昇降機構33は、基板11を鉛直姿勢の状態で昇降させることにより、基板11をコート槽27内に出し入れするためのものである。昇降機構33は、保持部材25を下降させて、基板11が浸漬される最終下降位置PD(図3の二点破線で示す)で停止するように保持部材25を停止させる。また、昇降機構33は、保持部材25を上昇させて、基板11を最終下降位置PDから液面21s上へと引き上げる。このように、昇降機構33は、つり下げ部31を昇降させることにより、グリップ30に把持されている基板11をつり下げた状態で昇降させる。なお、変位装置26は、保持部材25を変位させるものであれば公知の他のものに代えてもよい。
【0028】
コート槽27は、案内された2枚の基板11の各第1面11aに塗布液21からなる被膜22を形成するためのものであり、槽本体36と、蓋37とを備える。槽本体36は、塗布液21を貯留する。
【0029】
蓋37は、貯留されている塗布液21の液面21s上の雰囲気と外部空間とを仕切り、液面21s上に塗布液21の蒸気を滞留させるためのものであり、液面21sを覆うように槽本体36の上部に配される。蓋37には、鉛直姿勢の基板11が昇降して通過するための開口37aが形成されている。なお、基板11が最終下降位置PDにあるときのグリップ30の位置は、蓋37の上面よりも高く、最終下降位置PDにある基板11の上部は蓋37から外部へ出た状態とされる。基板11の上部である非塗布部分の面積ができるだけ小さくなるように、グリップ30は、蓋37の上面にできるだけ近づいた位置にまで下降する。開口37aは、被膜22が形成された基板11が通過できる程度に、できるだけ小さなサイズに形成される。このように開口37aをできるだけ小さく形成することで、液面21s上の雰囲気と外部空間とをより効果的に仕切り、液面21s上の空間27aの独立性を高めている。
【0030】
蓋37により、外部空間から独立する液面21s上の空間27aには塗布液21の蒸気が滞留するようになり、この塗布液21の蒸気は蓋37よりも上の外部空間へは拡散しにくく、拡散しても極めて微量である。このように、塗布液21の蒸気は、蓋37により液面21s上に滞留し、コート槽27の上方外部への拡散が抑制される。この拡散の抑制により、浸漬後にコート槽27の外部へと引き上げられた被膜22には塗布液21の蒸気が接触しない、あるいは接触しても蒸気量はわずかである。また、引き上げ中の基板11については、コート槽27内の液面21s上の雰囲気に触れる時間が蓋37が無い場合よりも短い。以下の説明においては、外部空間と仕切られた液面21s上の空間27aをガス溜まりと称する。
【0031】
蓋37により形成するガス溜まり27aの容積は特に限定されない。しかし、ガス溜まり27aの容積が小さすぎると、基板11の出し入れに伴い、水分を含んだ外部空気がガス溜まり27aに流入したり、ガス溜まり27aに滞留していた塗布液21の蒸気が開口37aを通って外部へ流出するなどして、ガス溜まり27aにおける塗布液21の蒸気の濃度が変動しやすい。一方、ガス溜まり27aの容積が大きすぎると、蓋37を配する効果が薄れる。そこで、本実施形態では、基板11が最終下降位置PDにあるときの液面21sから概ね15cmの高さになるように、蓋37を配している。この高さは、蓋37の高さが一定で無い場合には、最も高い部分におけるものである。
【0032】
蓋37は、開口37a側の端部37bが、コート槽27の内側に曲がって形成されており、液面21sに向かって延びていることが好ましい。ただし、液面21sの高さが基板11の出し入れにより変動しても開口37aが液面21sに触れないように、端部37bを形成している。このように端部37bを液面21s側に向かうように曲げて形成することで、塗布液21の蒸気をガス溜まり27aに滞留しやすくしている。これにより、基板11を出し入れしても、ガス溜まり27aにおける塗布液21の蒸気の濃度が変動しにくい。また、端部37bをこのような液面に向かう形状にすることで、引き上げ中の基板11上に形成されている被膜22が塗布液21の蒸気に触れる時間をより短くしている。なお、開口37aが液面21sと通過する基板11上の被膜22とにできるだけ近い位置となるように、被膜22が形成され始める液面21s上の形成位置P22に向けて端部37bを延ばして形成することが好ましい。
【0033】
端部37bは、基板11が昇降して通過する通過路と交差するような角度をもって、液面21sへ向けて延びていることがより好ましい。すなわち、開口37aを通過する基板11の両面と端部37bの外壁面とがなす角度θは0°より大きく90°より小さくすることが好ましい。さらに、乾燥した気体(以下、乾燥気体と称する)、すなわち水分量を低減させた気体を送り出す送出ユニット41を用いることが好ましい。送出ユニット41は、引き上げ中の基板11に形成されている被膜22を、蓋37から出た時点から常に一定の条件で乾燥するためのものである。
【0034】
送出ユニット41は、例えば、送風機42と、ダクト43と、コントローラ44とを備える。送風機42は、乾燥気体を生成し、生成した乾燥気体をダクト43に送る。コントローラ44は、送風機42に対して、生成すべき乾燥気体の温度や湿度、ダクト43に送る乾燥気体の流量の制御を行う。これにより、温度や湿度、流量等の条件が制御された乾燥気体がダクト43から被膜22へ供給される。ダクト43は、図3及び図4に示すように、スリット状に形成した開口37aの長手方向における一端側に設けられるとともに、乾燥気体の流出口43aが蓋37の開口37a側の端部37bよりも上になるように配される。これにより、ダクト43から出た乾燥気体は、図4に示すように、開口37aの長手方向における一端側から他端側に向けて流れ、基板11上の被膜22と平行に乾燥気体が流れる。乾燥気体としては、水分を含まない乾燥した空気(以下、乾燥空気と称する)と、Ar(アルゴン)やN(窒素)等の不活性ガスとが挙げられる。これらのうち1種類のみを乾燥気体として用いてもよいし、これらのうち少なくとも2種類を混合した混合物を乾燥気体として用いてもよい。なお、図4においては、図の煩雑さを避けるために、保持部材25の図示を略している。
【0035】
送出ユニット41を用いる場合には、開口37aの他端側に気体を吸引するためのダクト45を設けることがより好ましい。これは、送出ユニット41を用いる後述の他の実施形態においても同様である。ダクト45は、気体を吸引する吸引機(図示無し)を備え、気体を引き入れる開口45aが送出ユニット41のダクト43の流出口43aと対向するように配される。これにより、ダクト43から出た乾燥気体は、開口37aの長手方向における一端側から他端側に向けてより確実に流れ、基板11上の被膜22に沿ってより確実に流れる。この結果、被膜22はより効率的に乾燥する。
【0036】
コート槽27には、所定のガスをガス溜まり27aに供給する供給装置47を設けてもよい。供給装置47は、ガス溜まり27aにおける気体の水分量をより低減するためのものである。供給するガスは、塗布液21の液体成分として用いる液の蒸気と、乾燥気体との少なくともいずれか一方である。乾燥気体としては、ArやN等の不活性ガスと、乾燥空気との少なくともいずれかひとつが挙げられる。これらのうち1種類のみを用いてもよいし、これらのうち少なくとも2種類を混合した混合物を用いてもよい。供給するガスが塗布液21の液体成分として用いる液の蒸気である場合には、供給装置47は、塗布液21の液体成分として用いる液を気化させて、生成した蒸気をガス溜まり27aに供給する。この態様は、塗布液21と同じ処方からなる液を気化させて、生成した蒸気をガス溜まり27aに供給する場合も含む。
【0037】
供給装置47からのガスを塗布液21の液体成分として用いる液の蒸気とすることは、槽本体36中の塗布液21の劣化を抑える点では有効である。しかし、被膜22をできるだけ早い時点から乾燥し始める観点を加えると、供給装置47からのガスを乾燥気体とすることがより好ましい。また、乾燥気体の中でも、ArやN等の不活性ガスは、乾燥空気よりも水分の含有量が小さいので、塗布液21の劣化をより効果的に抑えられ、好ましい。
【0038】
このように供給装置47から所定のガスをガス溜まり27aに供給する場合には、蓋37は、塗布液21の蒸気に代えて、あるいは加えて上記所定のガスを液面21s上に滞留させる作用を有する。本実施形態では、蓋37に開口37cを設け、この開口37cに供給装置47を接続することにより、開口37cを介してガスをガス溜まり27aへ供給している。開口37cは、コート槽27内に形成したガス溜まり27a全体へ所定のガスを滞留させることができればその数や形成する位置は特に限定されない。一例として、図3においては、開口37aに関して右の蓋37に1つの開口37cを形成した場合を図示してある。なお、蓋37に開口37cを設けることに代えて、槽本体36における液面21sよりも上に開口(図示無し)を設け、この開口から、所定のガスをガス溜まり27aへ供給してもよい。
【0039】
なお、浸漬する基板11の体積が、貯留される塗布液21の体積に比べて非常に小さい場合には、基板11の出し入れに伴う液面21sの高さの変動は小さい。一方、浸漬する基板11の体積が貯留される塗布液21の体積に比べて大きすぎると、基板11の出し入れに伴い、液面21sの高さが大きく変動してしまう。この変動量が大きいと、蓋37の開口37a側の端部37bと液面21sとの隙間も大きく変動してしまい、この隙間が広がることで外部空間からのガス溜まり27aの独立性が低下する。そこで、槽本体36の下部36Dの容積はそのまま維持しながらも、上部36Uの容積を大きくすることが好ましい。これにより、基板11の出し入れに伴う液面21sの高さの変動が小さく抑えられるので、蓋37の開口37a側の端部37bと液面21sとの隙間の変動が小さくなる。
【0040】
基板11の出し入れに伴い、ガス溜まり27aには外部空気が入り込むことがあるが、外部空気が入り込んだ場合のガス溜まり27aにおける外部空気の体積の割合(以下、外部空気の置換率と称する。)は30%以下に抑えることが好ましく、20%以下に抑えることがより好ましい。外部空気の置換率をこの程度に抑えるために、上部36Uの幅(図3の横方向における長さ)は、基板11の出し入れに伴う液面21sの高さの変動が4cm以内、より好ましくは2.5cm以内となるように決定することが好ましい。
【0041】
2枚の基板11は、前述のように、各々の第2面11b(図1図2参照)を対向させて互いに一体化されている。両基板11は、図5に示すように、塗布液21が一方の基板11と他方の基板11との間に侵入することがないように各々の端面の相互の合わせ目51がシール材52で封止されていることが好ましい。シール材52は、基板11の各端面において2枚の基板11を接着して一体化すると同時に端面の合わせ目51の隙間を密封している。したがって2枚の基板11を塗布液3に浸漬し、停止させた状態にしておいても各々の第2面11bの間にまで入り込むことはない。これにより、反射防止膜12(図1図2参照)となる被膜22は、2枚の基板11の各第1面11aにのみ形成される。シール材52としては、例えば光の照射により硬化する光硬化性材料が用いられる。なお、2枚の基板11の一体化については、例えば特開2012−125746号公報に記載される方法を適用することができる。
【0042】
次に、上記の構成の作用について説明する。まず、鉛直姿勢の基板11の上部をグリップ30で把持することにより、一体化された2枚の基板11はつり下げ部31によりつり下げた状態で支持される。つり下げ部31は、変位装置26の搬送機構32により、コート槽27の上方に移動される。この際、つり下げ部31は、基板11が蓋37の開口37aの真上となるように移動制御され、開口37aの真上で停止する。停止した後に、つり下げ部31の制御は、搬送機構32から昇降機構33へ切り替えられる。
【0043】
槽本体36には塗布液21が予め貯留してあり、これにより、ガス溜まり27aの水分を含む空気は塗布液21の蒸気に置換され、ガス溜まり27aには塗布液21の蒸気が滞留する。これにより塗布液21の劣化が防止され、さらに、昇降機構33の停止等の稼働停止時であっても塗布液21の滞留状態は維持されるので塗布液21は劣化しにくい。稼働を長期間停止する場合等には、ガス溜まり27aにおける塗布液21の蒸気の濃度をさらに高めるとよい。ガス溜まり27aにおける塗布液21の蒸気の濃度を高める場合には、供給装置47により塗布液21と同じ処方の液、もしくは塗布液21の液体成分として用いる液を気化させ、その蒸気をガス溜まり27aに供給する。供給は、基板11の出し入れに関わらず連続的または断続的に行うことが好ましい。
【0044】
昇降機構33によりつり下げ部31は下降し、基板11が図3の二点破線で示す最終下降位置PDに達する位置で停止する。基板11は、つり下げ部31の下降により、槽本体36内の塗布液21に浸漬される。
【0045】
昇降機構33によりつり下げ部31を上昇させて、浸漬されている基板11を引き上げる。ガス溜まり27aは水分濃度が低められており、ガス溜まり27aに滞留したガスは蓋37により外部への拡散が抑制されている。このため、基板11上の被膜22は塗布液21の蒸気によって乾燥状態にむらが生じることが抑えられる。これにより、一定品質の反射防止膜12が再現性よく形成される。
【0046】
なお、ディップ式のコーティングでは、形成される被膜の厚みは、塗布液の密度や粘度だけでなく基板11等のワークを塗布液から引き上げる速度によって決まることが知られている。引き上げる速度が遅い場合であっても、液面21sに向けて延びている端部37bにより、塗布液21の蒸気による被膜22の乾燥のむらは抑えられ、再現性よく一定品質の反射防止膜12が形成される。
【0047】
また、供給装置47により乾燥気体をガス溜まり27aへ供給すると、ガス溜まり27aには、塗布液21の蒸気に代えて、あるいは加えて乾燥気体が滞留する。こうして、ガス溜まり27aにおける水分濃度はさらに確実に低下する。
【0048】
供給装置47から乾燥気体をガス溜まり27aに供給すると、貯留されている塗布液21の劣化が抑制されるとともに、被膜22の乾燥は均一な状態でより確実に進む。乾燥気体は、基板11の出し入れに関わらず、連続的または断続的に供給することが好ましい。
【0049】
なお、蓋37による前述のような拡散の抑制効果は、ガス溜まり27aに滞留させるガスの重さに応じて多少異なる。例えば、塗布液21の蒸気や、不活性ガスであるAr(アルゴン)は、外部空間に存在する水分を含む空気よりも通常は重いので、上記のような蓋37による拡散の抑制効果は非常に高い。これに比べてN(窒素)や乾燥空気は、水分を含む空気と略同等の重さである。このため、Nや乾燥空気は、塗布液21の蒸気や、不活性ガスであるArに比べて蓋37による拡散の抑制効果は少し低い。そこで、Nや乾燥空気をガス溜まり27aに滞留させる場合には、連続的に微量を供給すること、または、塗布液21の蒸気とArとの少なくともいずれか一方と共存する状態でガス溜まり27aに滞留させることのいずれか一方により、蓋37による拡散の抑制効果をより確実に上げることができる。
【0050】
さらに、基板11を引き上げる際に、送出ユニット41のダクト43から乾燥気体を流出することが好ましい。これにより、基板11及び被膜22の通過路周辺における雰囲気中の水分濃度が低下し、形成した直後の被膜22は加水分解を抑制された状態で乾燥する。また、ダクト43からの乾燥気体の流出により、塗布液21の蒸気が開口37aから出てきても被膜22近傍から除去されるとともに、条件が制御された乾燥気体が被膜22に供給されるので、被膜22は、蓋37から出た時点から常に一定の乾燥状態が維持される。被膜22の乾燥の均一化は、外部空気中の水分の影響を受けやすいアルコキシド系の成分を塗布液21が含む場合に特に顕著である。以上のように一定の乾燥状態が維持されることにより、再現性よく一定品質の反射防止膜12が形成される。
【0051】
また、ダクト43は、乾燥気体が蓋37の上部を開口37aの長手方向における一端側から他端側へ流れるように乾燥気体を流出する。これにより、乾燥気体は被膜22の膜面に平行に流れるので、被膜22の平滑さを損なうことなく被膜22の乾燥が促進される。また、開口37aの他端側に気体を吸引するダクト45を設けることにより、ダクト43から出た乾燥気体は、開口37aの長手方向における一端側から他端側に向けてより確実に流れ、基板11上の被膜22に沿ってより確実に流れる。この結果、被膜22は、平滑さが損なわれることなく、より効率的に乾燥する。
【0052】
基板11が蓋37よりも上方に引き上げられると、つり下げ部31に対する制御は、昇降機構33から搬送機構32へ切り替えられる。搬送機構32は、つり下げ部31を移動制御して、これにより基板11を次工程等の目的とする位置に搬送する。この搬送中、あるいは搬送後に、被膜22を形成すべき新たな基板11がコート槽27へ案内される。
【0053】
ガス溜まり27aには塗布液21の蒸気や乾燥気体が滞留しているので、貯留されている塗布液21は劣化せず、このため、新たな基板11に対して塗布が継続して実施され、形成される被膜22は乾燥等の後処理を経ることにより目的とする機能を発現する。塗布液21の劣化は、塗布液21がアルコキシド系の成分を含む場合に、特に顕著に抑制される。
【0054】
また、槽本体36は上部36Uの容積が大きくされているので、基板11の出し入れに伴う端部37bと液面21sとの隙間の変動が小さくなる。このため、ガス溜まり27aに滞留させた塗布液21の蒸気や不活性ガス等のガス濃度が略一定に維持される。しかも、槽本体36は下部36Dの容積が上部36Uよりも小さいので、基板11の出し入れに伴う上記隙間の変動を小さく抑えるに際し、塗布液21の貯留量をさほど増やす必要がない。
【0055】
ディップ式のコーティング設備は特許文献2でも知られるようにこれまでも種々のものが実用化されており、基板11等のワークの自動搬送、浸漬及び引き上げの速度制御の手法も公知である。したがって、これら公知の設備・機構を利用して基板11を保持したグリップ30の移動を制御し、またコート槽27内への塗布液21の供給も自動化して自動成膜ラインを構成することができる。
【0056】
なお、ディップコータ20によるディップコート処理を行う前に、基板11の表面を清浄にしておくことが望ましく、この場合には、例えばグリップ30で把持した状態のまま基板11の清浄化処理を行えばよい。
【0057】
基板11を塗布液21から引き上げた後は、よく知られるように、被膜22の乾燥処理等が行われる。例えば、アルコキシド系の化合物を含む塗布液21から被膜22を形成して反射防止膜12とするためには、被膜22を乾燥する乾燥処理と、この乾燥処理の後の被膜22を加熱する加熱処理とを行う。このように、ディップコート処理の後に公知の各種処理工程を経て、最終的には表面に反射防止膜12が成膜されたカバーガラス10が得られる。
【0058】
反射防止用の被膜を得るために用いられる塗布液21としては、フッ素を含有する等の各種ポリマー系の材料やSiO,TiO系のゾル液材料などのほかにも、被膜として透明なものであれば種々のものを用いることができる。特に、本発明は、加水分解性をもつ塗布液、中でも塗布環境下で蒸発するような塗布液を使用する場合に特に有効であり、例えば、アルコキシド系の化合物を含む塗布液を用いる場合に有効である。
【0059】
また、例えば屈折率が異なる二種以上の薄膜を積層させた多層膜構成にする場合には、複数種類の塗布液を満たした2槽以上のコート槽27に順次に基板11を浸漬して引き上げればよい。なお、基板11の表面に反射防止膜12となる一定の厚みで塗布液21を安定的にディップコートするには、塗料粘度としては2〜10[mPa・s]、表面張力としては15〜25[dyne/cm]程度にしておくのがよく、また固形分は2〜10%程度にするのがよく、これにより90%程度の塗着効率を維持することができる。
【0060】
上記の第1実施形態では、送出ユニット41と供給装置47との両方を用いているが、いずれか一方のみを用いてもよい。例えば、供給装置47が、乾燥気体のみをガス溜まり27aに供給するものである場合には、送出ユニット41は用いなくてもよい。このように送出ユニット41を用いない第2の実施形態について、図6を参照しながら説明する。
【0061】
ガス溜まり27aにある水分を含む空気を乾燥気体に置換し、さらに、ガス溜まり27aの圧力が開口37aの上方における圧力よりも高くなるように、供給装置47から乾燥気体を供給する。これにより、図6に示すように、ガス溜まり27aに滞留した乾燥気体は、開口37aを通過して蓋37の上部における被膜22の通過路周辺に案内される。このように供給装置47からの乾燥気体が被膜の通過路周辺に供給された後、あるいは供給中に、浸漬した基板11を塗布液21から引き上げる。
【0062】
このようにして、被膜の通過路周辺における水分を含む空気は、供給装置47から供給される乾燥気体に置換される。従って、送出ユニット41を用いることなく、供給装置47からの乾燥気体の供給によっても、槽本体36に貯留した塗布液21の劣化は防止されるとともに、被膜22は一定条件で乾燥がすすみ、一定品質の反射防止膜12が再現性よく得られる。
【0063】
また、送出ユニット41を用いるが供給装置47を用いない第3の実施形態について、図7を参照しながら説明する。なお、この場合には、図7に示すように蓋37の開口37cを閉じる、もしくは開口37cが形成されていない蓋(図示無し)を用いることが好ましい。
【0064】
ダクト43からの乾燥気体は、第1実施形態で説明したように被膜22(図3図4参照)の通過路周辺に流れる。さらに、塗布液21に浸漬した基板11を引き上げる前、例えば、基板11をコート槽27(図3参照)内へ案内する前に、ダクト43から乾燥気体を流出することにより、図7に示すように乾燥気体は開口37aを介してコート槽27(図3参照)内へと入っていく。これにより、ガス溜まり27aには乾燥気体が滞留するようになる。
【0065】
送出ユニット41からの乾燥気体がガス溜まり27aに滞留した後に、浸漬した基板11を塗布液21から引き上げる。このため、供給装置47を用いなくても、送出ユニット41からの乾燥気体の供給によって、槽本体36に貯留した塗布液21の劣化は防止されるとともに、被膜22は一定条件で乾燥がすすみ、一定品質の反射防止膜12が再現性よく得られる。
【0066】
第1実施形態〜第3実施形態では、蓋37の端部37bを、基板11の通過路と交差するような角度をもつように傾斜させ、液面21sへ向けて延びている形状にしている。これは、貯留された塗布液21の蒸気が形成された被膜22にできるだけ接触しないようにするためである。この観点から、蓋の開口側端部の形状は端部37b(図3図6参照)のように外壁面が平坦なものである必要はなく、開口37aの近傍上方にダクト43からの乾燥気体や供給装置47からのガスを供給する空間が形成される形状であればよい。
【0067】
例えば図8の蓋60は図3図4図6,7に示す蓋37に代えて用いるものであり、この蓋60には、開口37aと同様に、鉛直姿勢の基板11が昇降して通過するための開口60aが形成されている。蓋60は、側縁から開口60aに向かうに従い液面21s側に傾斜した形状とされている。すなわち、液面21sから蓋60までの距離は、側縁から開口60aに向かうに従い漸減する。なお、図8においては、図の煩雑化を避けるために、送出ユニット41のうちダクト43のみを図示してある。
【0068】
蓋60は、基板11が昇降して通過する通過路と交差するような角度をもって、液面21sへ向けて延びている。すなわち、開口60aを通過する基板11の両面と蓋60の開口側の端部60bの外壁面とがなす角度θは、蓋37におけるθと同様に0°より大きく90°より小さくしてある。
【0069】
蓋60には供給装置47に接続する開口60cが形成されている。供給装置47からの気体の供給を行う場合にはこの開口60cを開状態とする。送出ユニット41のダクト43は、図8に示すように、スリット状の開口60aの長手方向における一端側に設けられるとともに、乾燥気体の流出口43aが蓋60の端部60bよりも上になるように配される。
【0070】
このように蓋60は、図3図4図6の蓋37と同様に、開口60aの近傍上方にダクト43や供給装置47からの乾燥気体を供給する空間が形成される形状をもつ。したがって、蓋60は、図3図4図6における蓋37と同様の作用をもつ。この結果、槽本体36に貯留した塗布液21の劣化が防止されるとともに、被膜22の乾燥条件が制御され、一定品質の反射防止膜12が再現性よく得られる。
【0071】
また、図7の蓋37に代えて蓋60を用いる場合には、開口60cは閉じることが好ましい。開口60cを閉じた場合の蓋60は、図7の蓋37と同様に、開口60aの近傍上方にダクト43からの乾燥気体を供給する空間が形成される形状をもつとともに、その乾燥気体を開口60aを介してガス溜まり27aへ供給する形状をもつ。したがって、蓋60は、図7における蓋37と同様の作用をもつ。この結果、槽本体36に貯留した塗布液21の劣化が防止されるとともに、被膜22の乾燥条件が制御され、一定品質の反射防止膜12が再現性よく得られる。
【0072】
また、図9に示す蓋70は、図3図4図6,7に示す蓋37に代えて用いるものであり、この蓋70には、開口37aと同様に、鉛直姿勢の基板11が昇降して通過するための開口70aが形成されている。蓋70は、液面21sからの高さが開口70aから側縁に向けて階段状に高くされている。具体的には、蓋70は、液面21s近くとなるように低くされている開口70a側の低部70bと、この低部70bよりも高い位置にある側縁側の高部70dとを有する。開口70aを通過する基板11の両面と蓋70の開口70a側の端部である低部70bの外壁面とがなす角θは、略90°とされている。以上の構成により、高部70dと液面21sとの間には、ガス溜まり27aが形成されるとともに、開口70a側の端部である低部70b上にはダクト43から送出される気体が流れる流れ空間が形成される。なお、図9においては、図の煩雑化を避けるために、送出ユニット41のうちダクト43のみを図示してある。
【0073】
蓋70には供給装置47に接続する開口70cが形成されている。供給装置47からの気体の供給を行う場合にはこの開口60cを開状態とする。送出ユニット41のダクト43は、図9に示すように、スリット状の開口70aの長手方向における一端側に設けられるとともに、乾燥気体の流出口43aが蓋70の低部70bよりも上になるように配される。
【0074】
このように蓋70も、図3図4図6の蓋37と同様に、開口70aの近傍上方にダクト43や供給装置47からの乾燥気体を供給する空間が形成される形状をもつ。したがって、蓋70は、図3図4図6における蓋37と同様の作用をもつ。この結果、槽本体36に貯留した塗布液21の劣化が防止されるとともに、被膜22の乾燥条件が制御され、一定品質の反射防止膜12が再現性よく得られる。
【0075】
また、図7の蓋37に代えて蓋70を用いる場合には、開口70cは閉じることが好ましい。開口70cを閉じた場合の蓋70は、図7の蓋37と同様に、開口70aの近傍上方にダクト43からの乾燥気体を供給する空間が形成される形状をもつとともに、その乾燥気体を開口70aを介してガス溜まり27aへ供給する形状をもつ。したがって、蓋70は、図7における蓋37と同様の作用をもつ。この結果、槽本体36に貯留した塗布液21の劣化が防止されるとともに、被膜22の乾燥条件が制御され、一定品質の反射防止膜12が再現性よく得られる。
【0076】
本発明は、反射防止膜12だけでなく、他の機能をもった薄膜、例えば透明導電膜、透明保護膜や防止汚膜など、種々の薄膜を太陽電池パネルのガラス製のプレートにディップコートする際に用いることができる。さらに、太陽電池パネルのカバーガラス以外にも、一般のガラス製プレートやプラスチック製のプレートなど、透明、不透明に限らず種々のプレート材の表面に被膜を形成する場合に適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
11 基板
12 反射防止膜
20 ディップコータ
21 塗布液
22 被膜
25 保持部材
27 コート槽
27a ガス溜まり
33 昇降機構
36 槽本体
37,60,70 蓋
37a,60a,70a 開口
37b 端部
41 送出ユニット
47 供給装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9