(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄道車両の床面をなす台枠と、該台枠下方に延び、車両長手方向前方壁及び後方壁を形成する端塞ぎ板により構成され、前記端塞ぎ板の下端から車両長手方向前方及び後方に延び、前記台枠の下方に備えられる機器を覆う下塞ぎ板により区画される台車キャビティと、を有する鉄道車両において、
前記鉄道車両の進行方向上流側となる前記台車キャビティの近傍に、空気吹き出し口を形成し、鉄道車両走行時、該空気吹き出し口から空気を吹き出すことにより、前記台車キャビティの内部において、進行方向上流側となる前記端塞ぎ板周辺に負圧領域が発生するのを抑止するようにし、
前記台車キャビティの近傍において、進行方向下流側となる前記下塞ぎ板に空気吹き出し口を形成し、この空気吹き出し口から空気を吹き出すことにより、前記台車キャビティの内部において、進行方向下流側となる前記端塞ぎ板周辺に正圧領域が発生するのを抑止するようにしたことを特徴とする鉄道車両。
前記空気吹き出し口から吹き出される空気は、前記台車キャビティに備えられた台車から離れる方向であって、前記下塞ぎ板から所定の角度をなす方向に吹き出されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉄道車両。
前記空気吹き出し口から吹き出される空気は、前記台車キャビティに備えられた台車に向かう方向であって前記下塞ぎ板を延長した面から所定の角度をなす方向に吹き出されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉄道車両。
前記鉄道車両の進行方向が変更される時、前記空気吹き出し口を前記空気吸い込み口に変更するとともに、前記空気吸い込み口を前記空気吹き出し口に変更することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の鉄道車両。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が高速で走行する場合、鉄道車両には空気の抵抗力が生じている。この空気の抵抗力は、鉄道車両の速度の2乗に比例して大きくなることが知られており、鉄道車両が高速で走行すればするほど、この抵抗力が急激に大きくなるので、走行に供される電気エネルギが損失したり、騒音が発生したりする原因となっている。
【0003】
一般に、鉄道車両の高速走行時に発生する主な空気抵抗力は、次の2つに分類することができる。
第1の空気抵抗力は、車両の表面で発生する空気との摩擦によって生じる摩擦抵抗であり、第2の空気抵抗力は、車両の表面に凹凸がある場合、この凹凸の部分に空気が衝突したり,さらに流れがはく離したりすることにより、局所的に圧力の高い部分や低い部分が生じることに起因する圧力抵抗である。
こうした圧力抵抗を小さくすることによって車両の抵抗力の低減、さらには空力騒音の低減する技術として、下記特許文献1が挙げられる。
【0004】
特許文献1では、鉄道車両の中でも音源となっているとされる車両間の空間部分における圧力の変化を低減するための技術が示されている。具体的には、車両と車両との間の空間部分に軟質ウレタンフォームなどの弾性変形に富む部材が設置されており、この部位における空気の圧力変化を抑制するものである。
鉄道車両には、上記の空間部分のほかにも、車両表面に凹凸が生じている部分が種々あり、これらの部分においても、当然に圧力抵抗が発生している。
【0005】
このような凹凸部として、圧力抵抗の大きな要因となるものが、鉄道車両の長手方向の両端部に備えられるとともに、鉄道車両を支持して軌道上を転動する台車が備えられる部分(以下、台車部と称する。)である。
鉄道車両の台車部では、車輪や台車枠から構成される台車が、曲線通過時に水平面内で旋回動作や、縦曲線(勾配が変化するところ)の通過に伴い、台車がピッチング動作を行う。このため、こうした動作が阻害されないように、台車と車体との間には、上流及び下流側に垂直に近い段差を有する大きな隙間(以下、台車キャビティと称する場合もある)が設けてある。
【0006】
近年、高速車両では走行時の空気抵抗や空力騒音を低減する目的で、鉄道車両の床下に設置される各種の電機品は、鉄道車両の側面をなす側構体の下端部から垂下する態様で備えられる側方カウルと、各種電機品の底面を連続的に覆う下塞ぎ板によって覆われている。
【0007】
下記特許文献2と特許文献3には、台車部における着雪を低減するために、台車キャビティの長手方向の端部形状を変更することや、台車の下部に空気の流れを整流する整流板を設置することによって、台車キャビティに起因する圧力抵抗を抑制する技術が開示されている。
台車部において、特に着雪が著しい箇所は、台車を通過した流れが台車部に再付着する点及びその近傍である。このため、台車部の流れを改善することによって着雪を抑制できることは、台車部に起因する圧力抵抗を低減できることにも大きく寄与しているものと推測される。さらに、台車部の流れを改善できるので、台車部を通過する流れの乱れに伴う空力騒音の発生も抑制することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図を用いて説明する。
[実施例1]
図1は台車キャビティの前後に空気吹き出し口を備える、本実施例の鉄道車両の側面図であり、
図2はその下面図である。
ここで、台車キャビティとは、車両2の長手方向両端部の下部に設けられるとともに、台車が備えられる空間領域であり、車両2の床面をなす台枠15と、台枠15から下方に延伸する前後の端塞ぎ板56と、これら端塞ぎ板に接続するとともに車両2の前後方向の水平方向に備えられる下塞ぎ板16と、から構成される。下塞ぎ板16は、台枠15の下方に備えられる各種の機器を覆うとともに、車両2の最下面に平滑な面を形成している。
【0017】
すなわち、この空間領域(台車キャビティ)は、台車を車両2の長手方向に挟む態様で車体幅方向に沿って備えられ、車両2の長手方向両端に位置する塞ぎ板56を垂直壁とし、これら垂直壁で挟まれる台車の上部に位置する台枠15を上面壁とする凹状の領域である。そして、車両2の長手方向両端に位置する塞ぎ板56の下端部には、下塞ぎ板16が、車両2の長手方向に沿って前方側、後方側に水平方向に延び、この凹状の領域を区画している。以下、これを台車キャビティ17と称する。なお、この台車キャビティ17の側面を除く台枠15の下面は、台枠15の幅方向の端部から下方に延びる態様で備えられる側方カウル14と、左右(台枠15の幅方向の両端部)の側方側カウル14の下端部とを接続する態様で備えられる下塞ぎ板16によって覆われている。
【0018】
車両2を支持する台車は、台車枠53と、台車枠53に回動可能に保持される車軸58と、その両端部に備えられる車輪51、52と、車軸58を回転させる主電動機54などを備えている。台車は、車両2の長手方向の両端部に位置する台車キャビティ17の内部に配備され、台車枠53の上部に備えられる空気ばね(図示せず)を介して車両2を支持している。
【0019】
車両2が進行方向を示す矢印1の方向に進むとき、
図2に示されるように、台車キャビティ17の上流側に位置する車両2の下面(下塞ぎ板16)に、空気が吹き出されるスリット状の吹き出し口10aが車両2の幅方向に沿う方向に備えられている。
また、この実施例では、台車キャビティ17の下流側に位置する車両2の下面(下塞ぎ板16)にも、スリット状の吹き出し口10bが車両2の幅方向に沿う方向に形成されている。
【0020】
吹き出し口10aと吹き出し口10bとは、台車キャビティ17を挟んでほぼ平行(車軸56にも平行な態様)に形成されており、車両2の床下(台枠15の下面の側方カウル14で覆わる部位)には、
図1に示すように、吹き出し口10a、10bへ圧縮空気を供給する送風機80a、80bが配備されている。
【0021】
送風機80a、80bの運転を制御する送風機運転制御装置(図示せず)が接続されている。送風機運転制御装置には車両2の速度情報が入力されており、車両2の速度が所定の速度より小さい速度で運転される場合や、車両2が駅で停車している場合などには送風機80a、80bの運転を停止し、車両2が所定の速度より大きい速度(所定の速度)で運転される場合にのみ、送風機運転制御装置からの指令基づいて送風機80a、80bが稼働される。
ここで、送風機の運転を開始する速度は、車両2からなる編成全体の抵抗のうち、台車キャビティ17に起因する圧力抵抗が支配的になる速度(例えば、180km/h以上)である。車両2がこの速度より大きい速度で運転される場合に、送風機80a、80bから送風された空気が吹き出し口10a及び吹き出し口10bから車両2の下方に向けて吹き出される。
【0022】
吹き出される空気量は多いほど圧力抵抗を低減する効果があるが、大きい空気量を吹き出すためには大きな送風機が必要となり、軌道に沿って敷設されるバラスト(砂利)を飛散させる原因となることがあるため、送風機80a(80b)の風速は車両2の走行速度の約20%程度に相当する吹出し風速としている。
台車キャビティ17近傍の圧力抵抗は、台車キャビティ17を通過する流れが、台車キャビティ17の上流側ではく離することに伴い発生する負圧領域と、台車キャビティ17の下流側への再付着で発生する正圧領域とによって、車両2の進行方向1と反対方向に作用する力によるものである。
【0023】
したがって、吹き出し口10aと10bから吹き出される空気流によって、台車キャビティ17を通過する空気の流れ、つまり、はく離や再付着の態様を変化させることによって、台車キャビティ17の近傍で生じる圧力抵抗が減少し、車両2の運行に要する消費電力が低減され、省エネルギを実現できる。
具体的には、上流側の端塞ぎ板56下端から、この端塞ぎ板56に沿って台車キャビティ17内に流れ込もうとする空気流が、吹き出し口10aの空気流により変向されるとともに、上流側端塞ぎ板56周辺で発生するはく離領域(負圧領域)に、吹き出し口10aから空気が供給されることにより、はく離域の範囲及び負圧が軽減される。
【0024】
一方、台車キャビティ17における下流側の端塞ぎ板56周辺で発生する再付着領域(正圧領域)では、吹き出し口10bからの吹き出し空気によって、台車キャビティが通過した流れが下方へ導かれ、再付着(端塞ぎ板56あるいは下塞ぎ板16への流れの衝突)が軽減され、正圧領域の範囲及び正圧の低減によって、車両2に作用する圧力抵抗が軽減される。
このように、台車キャビティ17周りの流れに変化を与えることによって、上述した圧力抵抗の軽減に加え、台車キャビティ17への着雪を抑制するとともに、台車キャビティ17から生じる空力騒音を低減することができる。
【0025】
この実施例では、台車キャビティ17に対し上流側、下流側に位置する下塞ぎ板16にそれぞれ吹き出し口10a、10bを設けている。しかし、台車キャビティ17の上流側に位置する下塞ぎ板16に吹き出し口10aを設けることにより、台車キャビティ17の内部に流れ込もうとする空気流自体を下方(線路側)に向けて変向することができるので、下流側の塞ぎ板56周辺で発生する再付着領域もある程度は低減される。
【0026】
そこで、鉄道車両の運行上の最高速度がさほど高くなく、例えば、180km/h〜200km/h程度であれば、必ずしも、下流側に位置する下塞ぎ板16に吹き出し口10bを設けなくても、所期の圧力抵抗の軽減効果、着雪・空力騒音の抑制効果を得ることができる。
また、吹き出し口10aと10bとを車両2の下面に備えられる下塞ぎ板16に備えた例を示したが、吹き出し口10aと10bを、台車キャビティ17をなす端塞ぎ板56に備えても、台車キャビティ17を通過する空気の流れの態様に変化を与えることができるので、同様の効果を奏することができる。特に、吹き出し口10aを負圧領域に対応させることにより、はく離域の発生範囲を効果的に抑制することができる。
【0027】
[実施例2]
図3は台車キャビティ前後に吹出しを備える鉄道車両(実施例2)の側面図である。実施例2では、実施例1と同様の機能や構成の説明を省略し、実施例1と異なる機能や構成についてのみ説明する。
実施例2では、車両2の台車キャビティ17(
図1参照)に対し、上流側、下流側に位置する下塞ぎ板16(
図1参照)に吹き出し口10aと吹き出し口10bが形成され、これらから吹き出される空気の方向に特徴がある。台車キャビティ17の上流側(進行方向1の側)の吹き出し口10aから吹き出される空気は、台車から離れる方向に下塞ぎ板16から角度α(たとえばα=45度)をなす方向に吹き出される。
【0028】
また、台車キャビティ17の下流側(進行方向1の反対側)の吹き出し口10bから吹き出される空気は、台車から離れる方向に下塞ぎ板16から角度αの方向に吹き出される。
本実施例でも、180km/h以上の走行、及び、50m
3/min以上の送風量で、実施例1と同様の圧力抵抗低減効果、着雪・騒音抑止効果が数値解析により確認されている。しかも、上述した方向に、吹き出し口10aと10bとから空気を吹き出すと、軌道に沿って敷設されるバラストに空気が到達するまでの距離が大きくなるため、バラストを飛散させるおそれを低減することができる。
【0029】
[実施例3]
図4は台車キャビティ前後に吹出しを備える鉄道車両(実施例3)の側面図である。
実施例3では、前述した実施例と同様の機能や構成に係る説明を省略し、前述した実施例と異なる機能や構成についてのみ説明する。
本実施例では、車両2の台車キャビティ17(
図1参照)に対し、上流側、下流側に位置する下塞ぎ板16(
図1参照)に備えられる吹き出し口10aと吹き出し口10bから吹き出される空気の方向に特徴がある。台車キャビティ17の上流側(進行方向1の側)の吹き出し口10aから吹き出される空気は、台車の中心部に向かう方向に下塞ぎ板16を延長した面から角度β(たとえばβ=45度)をなす方向に吹き出される。また、台車キャビティ17の下流側(進行方向1の反対側)の吹き出し口10bから吹き出される空気は、台車の中心部に向かう方向に下塞ぎ板16を延長した面から角度βの方向に吹き出される。
本実施例によっても、実施例1、2と同様に、180km/h以上の走行、及び、50m
3/min以上の送風量で、実施例1と同様の圧力抵抗低減、着雪・騒音抑止効果が数値解析により確認されている。
【0030】
図5は、台車キャビティの前後に吹き出し口を備える鉄道車両に備えられる空気供給管路構成の一例であり、実施例1から実施例3で説明した台車キャビティ17の前位(上流側)と後位(下流側)に配設される吹き出し口10a、10bから吹き出される空気の供給装置の一例を示したものである。
新幹線(登録商標)に代表される高速車両では、乗客の乗降に供される側出入り口などに膨張性シールゴム等を用いて気密性を高くした気密車両が採用されている。このため、強制的に車内外の空気を入れ換える強制換気装置(以下、換気装置と称する。)が、各車両に搭載されている。換気装置は、一台の電動機の両軸端に給気送風機と排気送風機とを備えたものや、独立した給気送風機及び排気送風機から構成されている。
【0031】
本供給装置では、台車キャビティ17の近傍に備えられる吹き出し口10a、10bから吹き出される空気として、上述の車内から車外へ排出される排気空気を利用し、新たな送風機を設けることなく、低コストで圧力抵抗の低減、着雪・騒音抑止を実現するものであり、以下に具体的な構成を説明する。
【0032】
換気装置を構成する(排気)送風機80cの上流側に管路88接続されており、管路84は客室87と洗面台(トイレ、喫煙室など)86に接続されている。さらに、送風機80の下流側には管路89が備えられており、管路89の下流端は吹き出し口10a、10bに接続されている。
【0033】
上述した空気供給管路構成によって、車両2に予め配備される(排気)送風機80cを利用して、吹き出し口10aと10bとから吹き出される空気流によって台車キャビティ17を通過する空気の流れを変向することができる。すなわち、台車キャビティ17の下流側で発生するはく離や、下流側で発生する再付着の態様を変化させることによって、台車キャビティ17の近傍で生じる圧力抵抗を低減して、車両2の運行に要する消費電力量を低減し、省エネルギを実現できる。
さらに、台車キャビティ17周りの流れに変化を与えることによって、台車キャビティ17への着雪を抑制するとともに、台車キャビティ17から生じる空力騒音を低減することができる。
【0034】
送風機80cから吹き出される空気の流量が所定の流量に満たない時は、実施例1から実施例3で示したように、車両2の床下に、専用の送風機80a、80bを備えて、送風機80cの風量を補ってもよい。
【0035】
[実施例4]
図6は、台車キャビティの前後に吹出しと吸込みとを備える鉄道車両(実施例4)の側面図である。実施例4では、前述した実施例で説明した同様の機能や構成の説明を省略し、前述した実施例と異なる機能や構成についてのみ説明する。
台車キャビティ17の上流側(車両2の進行方向1の側)にスリット状の吹き出し口10aを備え、台車キャビティ17の下流側(車両2の進行方向1の反対側)にスリット状の吸い込み口11bを備えたものであり、車両2の進行方向の変更に応じて、吹き出しと吸い込みとを変更するものである。
【0036】
吹き出し口10aを台車キャビティ17の上流側に備えることによって、車両2の表面に沿う空気の流れがはく離して生成される負圧領域に空気を供給して負圧の程度を改善する。さらに、吸い込み口11bを台車キャビティ17の下流側に備えることによって、はく離した空気の流れが、車両2に再付着する際に生成される正圧領域の近傍から空気を吸い込むことによって、正圧が低減される。
【0037】
つまり、吹き出し口10aから吹き出される空気流と、吸い込み口11bから吸い込まれる空気流により、台車キャビティ17を通過する空気の流れを変向させ、はく離や再付着の範囲や圧力値を変化させて、台車キャビティ17の近傍で生じる圧力抵抗を減少させ、車両2の運行に要する消費電力量を低減し省エネルギを実現できる。さらに、台車キャビティ17周りの流れに変化を与えることによって、台車キャビティ17への着雪を抑制するとともに、台車キャビティ17から生じる空力騒音を低減することができる。
【0038】
実施例4では、車両2の進行方向の変更に伴って、吹き出しと吸込みとを変更する機構が必要になるものの、実施例1から実施例3と同一風量を与えた場合に、実施例1から実施例3と比較して、台車キャビティ17における下流側に発生する正圧領域を直接的に消滅させることができるので、運行上の最高速度によっては、数値解析上より大きな圧力抵抗を低減できることを確認している。
【0039】
図7は、実施例4で使用する空気供給管路構成の一例を示し、台車キャビティの前後に吹き出しと吸込みとを備える鉄道車両に備えられる空気供給管路構成の具体例を示す図である。
実施例4で説明したように、車両2の進行方向の変更に対応して、車両2が一方の方向に進行する場合に台車キャビティ17の前位(上流側)の下塞ぎ板16(
図2参照)に形成される開口部を吹き出し口10aとする。そして、台車キャビティ17の後位(下流側)の下塞ぎ板16(
図2参照)に備えられる開口部を吸い込み口11bとし、車両2が一方から他方の方向へ進行方向を変更した場合に、吹き出し口10aを吸い込み口11bに切り換え、吸い込み口11bを吹き出し口10aに変更できる空気供給管路構成の一例である。
【0040】
空気供給管路構成は、台車キャビティ17の近傍の下塞ぎ板16(
図2参照)に設けられる一方の開口部60から送風機80dの吸い込み側に接続される管路91と、台車キャビティ17の近傍の下塞ぎ板16(
図2参照)に設けられる他方の開口部61から送風機80dの吸い込み側に接続される管路93と、送風機80dの吐き出し側から延伸するとともに管路91に合流する管路94と、送風機80dの吐き出し側から延伸するとともに管路93に合流する管路92とから構成されている。
【0041】
さらに、管路94との合流点から送風機80dの吸い込み口に至る管路91に備えられる弁81と、管路92との合流点から送風機80dの吸い込み口に至る管路93に備えられる弁84と、送風機80dの吐き出し側と管路91と管路94との合流点に至る管路94に備えられる弁82と、送風機80dの吐き出し側と管路92と管路93との合流点に至る管路92に備えられる弁83とが配設されている。
【0042】
図示はしないが、車両2には、弁81から弁84の各弁に開閉を指令する弁開閉制御装置と、この弁開閉制御装置に車両2の進行方向を伝える制御信号線などが備えられている。
車両2が一点鎖線で示される矢印1の方向に進む時、弁81と弁83とが閉じられるとともに弁82と弁84が開けられ、送風機80dの運転に伴い一点鎖線98で示される空気の流れが形成される。そして、開口部60は吹き出し口10aとして機能し、開口部61は吸い込み口11bとして機能する。つまり、台車キャビティ17の上流側(進行方向側)に位置する下塞ぎ板16に吹き出し口が形成され、台車キャビティ17の下流側(進行方向の反対側)に位置する下塞ぎ板16に吸い込み口11bが形成される。
【0043】
車両2がターミナル駅等に到着し折り返す場合など、車両2の進行方向が一点鎖線で示される矢印1から点線で示される矢印1の方向に変更されると、車両2の進行方向の変更が伝えられた弁開閉制御装置(図示なし)によって、弁82と弁84とが閉じられ、一方、弁81と弁83が開けられ、送風機80dの運転に伴い点線99で示される空気の流れが形成される。これにより、開口部60は吸い込み口11bとして機能し、開口部61は吹き出し口(10a)として機能する。つまり、台車キャビティ17の上流側(進行方向側)に位置する下塞ぎ板16に吹き出し口が形成され、台車キャビティ17の下流側(進行方向の反対側)に位置する下塞ぎ板16に吸い込み口11bが形成される。
【0044】
以上の構成によって、吸込み用送風機と吐き出し用送風機の2台を備えることなく、上述した管路構成と1台の送風機によって、吹き出し口10aから吹き出される空気流と、吸い込み口11bから吸い込まれる空気流とを発生させることができる。
このように構成することで、台車キャビティ17を通過する空気流に対し、台車キャビティ17における上流側に発生するはく離や、下流側に発生する再付着の領域、圧力分布を変化させることによって、台車キャビティ17の近傍で生じる圧力抵抗を低減して、車両2の運行に要する消費電力量を低減し省エネルギを実現できる。さらに、台車キャビティ17周りの流れに変化を与えることによって、台車キャビティ17への着雪を抑制するとともに、台車キャビティ17から生じる空力騒音を低減することができる。
【0045】
図8は、台車キャビティの前後に備えられる吹き出し口または吸い込み口の配置の形態を示す図である。
台車キャビティ17の車両2の長手方向に離置される吹き出し口、吸い込み口を、車両2の幅方向(枕木方向)に分散して配置した例である。具体的には、吹き出し口を備える場合、台車キャビティ17の上流側の近傍に位置する下塞ぎ板16に、車軸56の長手方向に沿う態様で車両2の幅方向の両端部に吹き出し口10a1、10a3を備え、車両2の幅方向中央部に吹き出し口10a2を備えており、台車キャビティ17の下流側の近傍に位置する下塞ぎ板に同様の態様で吹き出し口10b1から10b3が備えられている。
なお、下流側に吸い込み口11b1〜11b3を設ける場合も、吹き出し口が備えられる場合と同様の態様で備えられ、
図7に示されるような空気供給管路構成により、進行方向に応じて、吸い込み口11a1〜11a3として切り換えられる。
【0046】
ところで、台車の下流側には、台車を構成する車輪51、52による後流の影響を受けて激しく乱れている領域がある。これらの領域において、吹き出し口から空気を吹き出したり、吸い込み口から空気を吸い込んだりしても、後流の影響によって、吹き出しや吸込みによる台車キャビティ17を通過する空気の流れを変更する効果が十分に得られない可能性がある。
このため、
図8に示すように、吹出しや吸込みの効果が期待できない車輪51、52の後流の影響を受ける位置については吹き出し口あるいは吸い込み口の設置を避け、送風機(80a〜80d)の効率を高めている。
【0047】
このような配置によって、送風機の効率を一層高めるとともに、台車キャビティ17を通過する流れを変更できる部位への空気の吹出し量あるいは吸込み量を大きくすることができ、車両2に生じる圧力抵抗の低減を図ることができる。
【0048】
図9は、台車キャビティ17の前後に備えられる吹き出し口または吸い込み口の配置の他の形態を示す図である。
図9には、台車キャビティ17の前位と後位とに離置される吹き出し口10あるいは吸い込み口11を、車軸56に平行に配置するのではなく、車両2の幅方向の中央部において、進行方向(上流側)に向けて凸状に配置するとともに、進行方向の反対側(下流側)に向けて凸状となるように配置したものである。
吹き出し口10あるいは吸い込み口11をこのような形態に配置することによって、車両2の床下面に沿って流れる流れを、台車キャビティ17の左右方向(車両2の幅方向、枕木方向)に向かわせることができ、台車キャビティ17に起因する圧力抵抗を低減するものである。
【0049】
なお、
図8と
図9に示した吹き出し口10及び吸い込み口11の配置形態は、上述した各実施例に適用できる。
図8または
図9に示される吹き出し口10及び吸い込み口11の配置形態によって、吹出し空気または吸込み空気を生成する送風機の効率を高めてより少ない消費電力で車両2の圧力抵抗を低減することができる。
【0050】
[実施例5]
図10は、台車キャビティ17の前後に実施例1〜5の鉄道車両を組み込むことによって編成された車両編成の側面図である。
車両2から車両9からなる8両編成の車両編成の各台車キャビティ17の前後に吹き出し口10aから10ffが設置された例である。
【0051】
このような長い車両編成の場合、車両編成の前方から後方に向けて境界層が発達するため、この境界層によって各車両の台車キャビティを通過する空気の流れが、車両編成の前方と後方とで異なることになる。
特に、車両編成の後方では、発達した境界層によって台車キャビティ17を通過する流速が、車両編成の前方の台車キャビティを通過する流速に比較して減少し、車両編成の前方の台車キャビティにおいて生じる圧力抵抗の方が、車両編成の後方の台車キャビティにおいて生じる圧力抵抗に比較して大きくなる。
【0052】
そこで、車両編成が進行方向1aに向けて高速で進行する場合において、車両編成の前方の半分の車両2から車両5の吹き出し口10aから10pから空気を吹き出すとともに、車両編成の後方の半分の車両6から車両9の吹き出し口10qから10ffの各吹き出し口から空気の吹き出しを休止する。
【0053】
同様に、車両編成が進行方向1bに向けて高速で進行する場合において、車両編成の前方の半分の車両6から車両9の吹き出し口10qから10ffの各吹き出し口から空気を吹き出すとともに、車両編成の後方の半分の車両2から車両5の吹き出し口10aから10pの各吹き出し口から空気の吹き出しを休止する。
【0054】
この構成によって、車両編成全体の圧力抵抗を決める車両編成の前方の車両の台車キャビティの前後に配設された吹き出し口のみから空気を吹き出すので、運転する送風機の台数を必要最小限とし、送風機の運転に伴う電力を低減することができる。
【0055】
以上の説明は、台車キャビティの前後に吹き出し口を備える実施例1から実施例3を例に挙げて示したが、実施例4に示すように台車キャビティの車両の前後方向の一方の側に吹き出し口を備え、他方の側に吸い込み口を備える実施例4の場合であっても、上述した効果を得ることができる。
【0056】
さらに、車両編成を構成する車両の数が大きくなった場合、例えば16両の車両からなる車両編成の場合であって、1号車を先頭に16号車が最後尾となる場合には、1号車から4号車(先頭車両から複数番目までの鉄道車両)及び12号車から16号車(最後尾車両から複数番目までの鉄道車両)の台車キャビティの前後にのみ、吹き出し口あるいは吸い込み口を配備し、車両編成の中間部に相当する5号車から11号車までの車両の台車キャビティ17については、これらの車両が常時中間部に編成される場合には、必ずしも吹き出し口、吸い込み口を配備する必要はなく、通常の車両を組み込んでもよい。
【0057】
このような車両編成において、1号車が先頭となる場合には、1号車から4号車の台車キャビティに備えられる吹き出し口あるいは吸い込み口のみを稼働して、12号車から16号車の吹き出し口あるいは吸い込み口を休止し、16号車が先頭なる場合は、16号車から12号車の台車キャビティに備えられる吹き出し口あるいは吸い込み口のみを稼働して4号車から1号車の吹き出し口あるいは吸い込み口を休止する運用すればよい。
【0058】
したがって、車両編成の中間車に該当する車両には吸い込み口あるいは吹き出し口及びこれらに空気を供給する送風機を備える必要がないので、車両費用を小さく維持しながら車両編成の圧力抵抗を小さくできるので、高速で走行する車両編成に供される消費される電力を小さくすることができる。
もちろん、吹き出し機能を搭載した車両としては、車両編成の態様や、運行上の最高速度に応じて、実施例1〜実施例4のいずれのものを選択しても問題はなく、また、鉄道車両の進行方向先頭車両からみて、どの車両まで、実施例1〜実施例4の車両を組み込みか等についても、運行状況に合わせて様々に変更することができる。