(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ウェブの凹部に対応する部分の肉厚に対する、前記複数の凹部のうち互いに隣接する2つの凹部の間の幅の比が、1.3以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂歯車。
前記ウェブの凹部以外の部分の肉厚に対する、前記ウェブの凹部に対応する部分の肉厚の比が、0.3以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂歯車。
前記ウェブの凹部に対応する部分の肉厚に対する、前記外周円の半径と前記内周円の半径との差の比が、2.3以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂歯車。
前記ウェブ用キャビティにおいて凸部に対応する部分の空間の厚みに対する、前記複数の凸部のうち互いに隣接する2つの凸部の間の幅の比が、1.3以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂歯車用成形型。
前記ウェブ用キャビティにおいて凸部以外の部分の空間の厚みに対する、前記ウェブ用キャビティにおいて凸部に対応する部分の空間の厚みの比が、0.3以下であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の樹脂歯車用成形型。
前記ウェブ用キャビティにおいて凸部に対応する部分の空間の厚みに対する、前記外周円の半径と前記内周円の半径との差の比が、2.3以上であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の樹脂歯車用成形型。
請求項6乃至10のいずれか1項に記載の樹脂歯車用成形型を用い、前記各ゲートに溶融樹脂を注入して、前記ウェブ用キャビティ、及び前記ウェブ用キャビティを通じて前記リム用キャビティに溶融樹脂を充填し、冷却固化して樹脂歯車を成形する樹脂歯車の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る樹脂歯車の概略構成を示す説明図である。
図1(a)は、樹脂歯車の平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の樹脂歯車のA−A断面図である。
図1(c)は、樹脂歯車の凹部の拡大平面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る樹脂歯車用成形型の断面図である。
図1に示す樹脂歯車100は、複写機、プリンタ等の電子機器に適用される。樹脂歯車100は、不図示の射出成形装置により、
図2に示す樹脂歯車用成形型としての金型200に射出成形により溶融樹脂を射出することにより成形される。
【0012】
図1に示すように、樹脂歯車100は、円板状のウェブ101と、ウェブ101の外周に接続された円筒状のリム102と、を備えている。リム102は、ウェブ101の中心軸(歯車回転軸)C0に対して同軸に構成される。リム102の外周には不図示の歯が複数形成されている。
【0013】
一方、
図2に示すように、射出成形により樹脂歯車100を成形するのに用いられる金型200は、第1成形型である固定型(固定金型)201と、第2成形型である可動型(可動金型)202と、を備えている。
【0014】
可動型202は、固定型201に対して移動することで、型締め及び型開きが可能となっている。なお、第1成形型が固定型であるとしたが、可動型であってもよい。つまり、第1成形型及び第2成形型の少なくとも一方が移動して、第1成形型に対して第2成形型が相対的に移動すればよい。
【0015】
固定型201及び可動型202の少なくとも一方、本実施形態では、固定型201には、円周上に互いに間隔をあけて、溶融樹脂の注入口である複数のゲート203が形成されている。
【0016】
固定型201及び可動型202が型締めされたときに、固定型201と可動型202との間には、複数のゲート203に連通するキャビティ210が形成される。キャビティ210は、ウェブ101を成形するためにウェブ101に対応する形状のウェブ用キャビティ211と、リム102を形成するためにリム102に対応する形状のリム用キャビティ212と、からなる。
【0017】
ウェブ用キャビティ211は、複数のゲート203に連通し、複数のゲート203を繋ぐ円と同心(同軸)の円板状に形成された空洞部である。リム用キャビティ212は、ウェブ用キャビティ211の外周に接続され、外周が歯形状に形成された空洞部である。
【0018】
金型200において、各ゲート203に溶融樹脂を注入すると、放射状に溶融樹脂が流動して、ウェブ用キャビティ211に樹脂が充填されると共に、ウェブ用キャビティ211を介してリム用キャビティ212に樹脂が充填される。その後、冷却固化することにより、樹脂歯車100が製造される。
【0019】
ウェブ用キャビティ211における互いに対向する2つの平面231,232のうち少なくとも一方の平面、本実施形態では、固定型201においてウェブ用キャビティ211を形成する平面231に、複数の凸部241が設けられている。複数の凸部241は、複数のゲート203を繋ぐ円よりも半径方向外側に、周方向に互いに間隔をあけて設けられている。これら凸部241は、等間隔に配置されている。したがって、ウェブ用キャビティ211において凸部241に対応する部分の空間の厚みが、ウェブ用キャビティ211において凸部241以外の部分の空間の厚みよりも薄くなる。
【0020】
この金型200により成形される樹脂歯車100のウェブ101は、
図1に示すように複数のゲート203に対応する複数のゲート対応部分103があり、複数のゲート対応部分103を繋ぐ円C1と同心(同軸)の円板状に形成される。そして、ウェブ101には、2つの平面131,132のうち少なくとも一方の平面、本実施形態では、平面131に、複数のゲート対応部分103を繋ぐ円C1よりも半径方向外側に、周方向に互いに間隔をあけて複数の凹部141が形成される。これら凹部141は凸部241に対応して等間隔に配置されている。したがって、ウェブ101において凹部141に対応する部分の肉厚が、ウェブ141において凹部141以外の部分の肉厚よりも薄肉となる。つまり、凹部141と凹部141との間の部分は、凹部141に対応する部分よりも厚肉であり、補強用のリブ142として機能する。
【0021】
各凹部141は、各平面131,132に垂直な垂直方向Xから見たときに、同一形状の扇形状に形成されている。具体的には、
図1(c)に示すように、各凹部141は、ウェブ101の中心軸C0から半径方向に延びる2本の直線L3,L4、ウェブ101の中心軸C0を中心とする内周円C2、及び内周円C2よりも大径の外周円C3で囲まれた扇形状に形成される。内周円C2と外周円C3とは軸C0を中心とする同心円である。つまり、金型200における各凸部241は、各平面231,232に垂直な垂直方向Xから見たときに、同一形状の扇形状に形成されている。具体的には、各凸部241は、ウェブ用キャビティ211の中心軸から半径方向に延びる2本の直線、ウェブ用キャビティ211の中心軸を中心とする内周円、及び内周円よりも大径の外周円で囲まれた扇形状に形成される。これら各凹部141(各凸部241)は、歯車回転軸と同軸に配置されている。
【0022】
図1(b)において、R1はゲート対応部分103(ゲート203)の配置半径、R2は凹部141(凸部241)の内周円C2の半径、R3は凹部141(凸部241)の外周円C3の半径、R4はリム102(リム用キャビティ212)の内周半径である。T1はウェブ101の凹部141以外の部分の肉厚(ウェブ用キャビティ211の凸部241以外の部分の空間の厚み)であり、T2はウェブ101の凹部に対応する部分の肉厚(ウェブ用キャビティ211の凸部241に対応する部分の空間の厚み)である。
【0023】
図3は樹脂歯車の拡大平面図である。垂直方向X(
図1参照)から見て、ウェブ101の中心軸C0から半径方向に延び、複数の凹部141のうちの任意の1つの凹部(例えば凹部141
1)を二等分する二等分線をL11とする。そして、二等分線L11とリム102の内周面との交点を第1交点P1とする。
【0024】
また、凹部141
1に隣接する2つの凹部141
2,141
3のうち、一方の凹部が凹部141
2であり、他方の凹部が凹部141
3であるものとする。そして、ウェブ101の中心軸C0から半径方向に延び、凹部141
1と凹部141
2との間の部分を二等分する二等分線をL12とする。また、ウェブ101の中心軸C0から半径方向に延び、凹部141
1と凹部141
3との間の部分を二等分する二等分線をL13とする。そして、二等分線L12と外周円C3との交点を第2交点P2とし、二等分線L13と外周円C3との交点を第3交点P3とする。θは第1交点P1が第2、第3交点P2,P3を見込む角度である。
【0025】
なお、樹脂歯車100について定義したが、金型200についても同様に定義できる。即ち、各平面231,232に垂直な垂直方向Xから見て、ウェブ用キャビティ211の中心軸から半径方向に延び、複数の凸部241のうちの1つの凸部を二等分する二等分線と、リム用キャビティ212の内周面との交点を第1交点P1とする。また、垂直方向Xから見て、ウェブ用キャビティ211の中心軸から半径方向に延び、1つの凸部と1つの凸部に隣接する2つの凸部のうちの一方の凸部との間の部分を二等分する二等分線と、外周円との交点を第2交点P2とする。また、垂直方向Xから見て、ウェブ用キャビティ211の中心軸から半径方向に延び、1つの凸部と1つの凸部に隣接する2つの凸部のうちの他方の凸部との間の部分を二等分する二等分線と、外周円との交点を第3交点P3とする。
【0026】
図4は、金型における凸部通過後の樹脂の流動状態を示す模式図である。交点P2,P3を通過した樹脂の近似流動先端形状は、形状11となる。L1はリブ142を通過した樹脂のリブ通過後の近似流動距離であり、L2は隣接するリブ142の中間部の樹脂の近似流動距離である。つまり、L1は、各交点P2,P3を通過した樹脂が半径方向に流動した際の半径方向の近似流動距離であり、L2は、各交点P2,P3を通過した樹脂が中間点で交わった際の半径方向の近似流動距離である。
【0027】
隣り合うゲート203,203から注入された溶融樹脂は放射状にキャビティ210内に充填されるため、ゲート203に比較してゲート203,203の中間部では樹脂の充填に遅れが生じる。
【0028】
本実施形態では、ゲート203の配置に起因する樹脂充填の不均一を抑制するため、金型200における凸部241(樹脂歯車100における凹部141)は、ゲート配置半径R1よりも半径方向外側に設定している。この凸部241(凹部141)では樹脂の流動抵抗が大きくなるめ、樹脂のゲート配置に起因する流動速度差が低減される。
【0029】
また、凹部141,141間のリブ142は、樹脂流動を抑制する効果を有しないため、
図4に示すように部分的に流動が速くなるが、見込み角度θを40°以下とすることにより、
図4に示す近似流動距離L1と近似流動距離L2との差が5%以下となる。したがって、リム用キャビティ212の内周到達時の樹脂の流れを均一にすることができる。よって、樹脂歯車100の噛み合い誤差が低減する。
【0030】
また凹部141は、歯車回転中心に対して同軸に複数配置している。このように複数の凹部141を間隔をあけて配置することで、凹部141,141の間をウェブ101における補強用のリブ142として機能させることができる。また、ウェブ101において、凹部141に対応する部分が隣り合うリブ142,142に連結されている。したがって、凹部141を間隔をあけて複数配置することで、貫通孔とする場合と比較して、樹脂歯車100の強度を確保することができる。
図4に示す近似流動距離L1と近似流動距離L2との差を小さくするうえで、見込み角度θはより小さいことが望ましいがリブ142の補強用リブとしての強度を確保するためには幅W3が0.5mm以上であることが望ましい。また凹部141を形成する金型200の凸部241の強度を確保するためには、凸部241(即ち凹部141)の外周円C3上の幅W1を0.5mm以上に設定することが望ましい。この場合、近似流動距離L1が60mmで見込み角度θが1°となる。よって、見込み角度θは、1°以上40°以下とすることが好ましい。
【0031】
なお、本実施形態では、凹部141(即ち凸部241)を一方の平面131(平面231)に形成したが、これに限定するものではない。凹部141は、少なくとも一方の平面に形成されていればよく、
図5に示すように、両面131,132に形成されていてもよい。この場合、金型200においては、少なくとも一方の平面として、両面231,232に凸部241が形成されていればよい。
【実施例】
【0032】
次に、上記実施形態で説明した金型200を用いて、各種パラメータを変更して成形した樹脂歯車100における評価結果について説明する。
【0033】
以下の表1に、第1交点P1から第2、第3交点P2,P3を見込む角度θを変更した際の比較結果を示す。樹脂が凸部241(凹部141)を通過した直後である成形品体積の73%充填時における流動先端の歯車中心からの最大距離と最少距離の差を評価した。
【0034】
樹脂歯車は歯先円直径Φ132.54、モジュール0.8、圧力角14.5°、歯数132、ねじれ角は左に30°のものとした。ゲート配置半径R1は30、絞り形状外周半径R3は47.5、リム内周半径R4は59.5であった。なお表中に樹脂歯車の精度判定結果として、噛合い誤差がJGMA1級以上を◎印、JGMA2級を○印、JGMA3級以下を×印で示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、見込む角度θを小さくすることにより流動距離差が小さくなる傾向が見られ、θ≦40°である場合に急激に流動距離差が改善されることが確認された。即ち、実施例1〜4に示すように、見込角度θが40°以下である場合に日本歯車工業会規格(JGMA116−02)で規格される噛合い精度等級が2級以上となる樹脂歯車が得られた。また、見込角度θが23°以上である場合に、JGMA116−02で規格される噛合い精度等級が2級以上となる樹脂歯車が得られた。なお、比較例1〜4に示すように、見込角度θが40°よりも大きい場合、JGMA116−02で規格される噛合い精度等級が3級以下であった。
【0037】
また同ピッチで配置した円柱形の凹部と扇形の凹部との樹脂流動の比較を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
円柱状の凹部(比較例5,6)に比較して、扇形状の凹部を設定した場合(実施例1,4)に流動距離差が改善されていることが確認された。
【0040】
また、扇形状の凹部141をウェブ101の片面131にのみ配置した場合と、ウェブ101の両面131,132に対向して配置した場合の比較を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
片面131のみ配置した場合と両面131,132に配置した場合において有意差は見られず、いずれの場合においても、噛合い精度等級が2級以上となる効果が得られることが確認された。
【0043】
次に、リブ142の幅W3を扇形凹部の肉厚T2で除した比率W3/T2を変更した際の比較を表4に示す。この比率W3/T2は、ウェブ101の凹部141に対応する部分の肉厚T2に対する、複数の凹部141のうち互いに隣接する2つの凹部の間の外周円C3上の幅W3の比である。換言すると、ウェブ用キャビティ211において凸部241に対応する部分の空間の厚みT2に対する、複数の凸部241のうち互いに隣接する2つの凸部の間の外周円上の幅W3の比である。
【0044】
【表4】
【0045】
実施例4、実施例7〜実施例10は凹部の肉厚T2を1.5[mm]に、実施例11〜15は凹部の肉厚T2を1[mm]とした。幅W3を変化させることで、それぞれの凹部の肉厚T2における比率W3/T2の樹脂流動への影響を評価した。
【0046】
T2の値によらず、W3/T2が小さくなると流動距離差が小さくなる傾向が見られ、W3/T2が1.3以下である場合に急激に流動距離差が改善され、JGMA116−02で規格される噛合い精度等級が1級以上であることが確認された。
【0047】
即ち、W3/T2≦1.3の関係を満たすことにより、リブ142を通過する樹脂の速度を制限し、凹部141とリブ142の樹脂の流動速度差を低減し、より高精度な歯車の成形が可能となることが確認された。
【0048】
次に、凹部141に対応する部分の肉厚T2のウェブ101の凹部以外の部分の肉厚T1に対する比率T2/T1を変更した際の比較を表5に示す。この比率T2/T1は、ウェブ101の凹部以外の部分の肉厚T1に対する、ウェブ101の凹部141に対応する部分の肉厚T2の比である。換言すると、ウェブ用キャビティ211において凸部以外の部分の空間の厚みT1に対する、ウェブ用キャビティ211において凸部241に対応する部分の空間の厚みT2の比である。
【0049】
【表5】
【0050】
実施例4、実施例16〜19では、肉厚T1を一定の5[mm]とし、肉厚T2を変化させた。
【0051】
T2/T1が小さいほど流動距離差が小さくなる傾向が見られ、T2/T1が0.3以下である場合に急激に流動距離差が改善され、JGMA116−02で規格される噛合い精度等級が1級以上であることが確認された。
【0052】
即ち、T2/T1≦0.3の関係を満たすことにより、さらに凹部141の流動抑制効果が向上し、凹部141通過直後の段階でのゲート配置に起因する樹脂流動の速度差を低減し、高精度な歯車の成形が可能となることが確認された。
【0053】
次に、凹部141の外周円C3の半径R3と内周円C2の半径R2との差W2を、凹部の肉厚T2で除した比率W2/T2を変更した際の比較を表6に示す。この比率W2/T2は、ウェブ101の凹部141に対応する部分の肉厚T2に対する、外周円C3の半径R3と内周円C2の半径R2との差W2の比である。換言すると、ウェブ用キャビティ211において凸部241に対応する部分の空間の厚みT2に対する、凸部241の外周円の半径と凸部241の内周円の半径との差W2の比である。
【0054】
【表6】
【0055】
実施例20〜22、実施例4は、凹部肉厚T2を1.5[mm]に、実施例23〜26は凹部肉厚T2を1[mm]に設定し、W2を変化させることでそれぞれの凹部肉厚T2におけるW3/T2の樹脂流動への影響を評価した。
【0056】
T2の値によらず、W2/T2が大きくなると流動距離差が小さくなる傾向が見られ、W2/T2が2.3以上で流動距離差が改善され、JGMA116−02で規格される噛合い精度等級が1級以上であることが確認された。
【0057】
即ち、W2/T2≧2.3の関係を満たすことで、さらに凹部141の流動抑制効果が向上し、凹部141通過直後の段階でのゲート配置に起因する樹脂流動の速度差を低減し、高精度な歯車の成形が可能となることが確認された。
【0058】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0059】
本発明は、結晶性熱可塑性樹脂であるPOMに限らず、PA、PBT、PC、ABS等の熱可塑性樹脂全般に適用が可能であり、繊維、タルク等を添加した熱可塑性樹脂に対しても適用可能である。