(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(ii)において、前記第一の電圧を前記第一の電極と前記基体との間に印加して前記放電を生起させた後、かつ前記第二の電圧を前記第一の電極と前記基体との間に印加する前に、極性が前記第一の電圧と同じであり、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値である第三の電圧を前記第一の電極と前記基体との間に1m秒以上印加する請求項1に記載の堆積膜形成方法。
前記堆積膜がアモルファスシリコンの堆積膜であり、前記堆積膜の形成を起こさないガスはケイ素原子含有ガスを含まないガスであり、前記堆積膜の形成を起こすガスはケイ素原子含有ガスを含むガスである請求項1〜4のいずれか1項に記載の堆積膜形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、プラズマCVD法によって、基体上に堆積膜を形成する堆積膜形成方法である。
【0015】
図1は、上記工程(ii)において電位を接地電位(「アース電位」とも呼ばれる。)とした第一の電極と第二の電極を兼ねる基体との間に印加する電圧を説明するための図であり、電圧として矩形波の電圧(交播電圧)を採用した例を示している。すなわち、
図1に示す例では、第一の電極が接地電極となっている。また、「第二の電極を兼ねる基体」とは、上記工程(i)において反応容器の内部に設置された基体が、その後の工程において第二の電極として機能しうることを意味する。
図1では、第一の電極と基体との間に印加する電圧を上記第一の電圧とする期間と上記第二の電圧とする期間とが複数回繰り返している例を示しているが、本発明においては、第一の電極と基体との間に印加する電圧を上記第一の電圧とする期間と上記第二の電圧とする期間とがこの順に少なくとも1回ずつあればよい。
【0016】
図1(a)は、第一の電極の電位(接地電位)に対する基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を第一の電極と基体との間に印加した場合の基体の電位の変化を示す図である。
図1(a)の例では、第一の電極に対する基体の電位が正となるときの第一の電極と基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V1)となっており、負になるときの第一の電極と基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V2)となっている。第一の電極の電位は接地電位で一定であるため、基体の電位が
図1(a)に示すように矩形状に変化する。
図1(a)の例では、V1が上記第一の電圧に対応しており、V2が上記第二の電圧に対応している。
【0017】
図1(a)中のTは、矩形波の周期を表しており、矩形波の周波数(パルス周波数)によって決まる。本発明では、好ましくは、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波が用いられ、より好ましくは、周波数10kHz以上100kHz以下の矩形波が用いられる。また、
図1(a)中のt1は、第一の電極に対する基体の電位がV1(正電位)となっている時間(期間)を表しており、t2は、第一の電極に対する基体の電位がV2(負電位)となっている時間(期間)を表している。また、本発明では、t1をTで除した値(t1/T)をDuty比(%)と定義する。
図1(a)の例では、Duty比を50%としている。
【0018】
このような矩形波の交播電圧は、例えば、第一の電極に対する基体の電位がV1(正電位)となる電圧およびV2(負電位)となる電圧を直流電源から発生させて、スイッチ素子をON/OFF制御し、直流電源からの電圧を時分割パルス状にすることによって得ることができる。スイッチ素子としては、例えば、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)、MOSFETなどの半導体スイッチ素子を用いたものがある。これらのスイッチ素子によれば、Duty比や周波数を変化させることもできる。
【0019】
図1(a)中のt1の期間では、第一の電極に対する基体の電位(正電位)の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V1)となっているため、第一の電極と基体との間に放電が生起し、プラズマが生成される。
【0020】
上記工程(ii)は、堆積膜の形成を行う上記工程(iii)より前の工程であり、上記工程(ii)において生成されるプラズマは、堆積膜の形成を起こさないガスの雰囲気で生成されたプラズマであることが必須である。堆積膜の形成を起こさないガス種としては、例えば、水素、ヘリウム、アルゴン、窒素などが挙げられる。なお、「プラズマが生成される」とは、第一の電極と基体との間に放電が生起し、ガスが電離して、荷電粒子(イオンや電子)が生成されることを意味している。
【0021】
図1(a)の例では、まず、極性が正であり、かつ絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値である電圧(第一の電圧)を第一の電極と基体との間に印加すると、すなわち、第一の電極に対する基体の電位をV1(正電位)とすると、堆積膜の形成を起こさないガスのプラズマが生成される。そして、プラズマ中の電子および/または陰イオンは、電位がV1(正電位)となった基体の表面に付着したダストに到達し、電子および/または陰イオンが持つ負の電荷により、ダストは負電位にチャージアップする。
【0022】
次に、極性が負であり、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値であり、かつ基体に付着したダストを基体から引き離すのに必要な値である電圧(第二の電圧)を第一の電極と基体との間に印加することで、すなわち、第一の電極に対する基体の電位をV1(正電位)とは逆の極性となるV2(負電位・ダストを基体から引き離すのに必要な値)とすることで、上記負電位にチャージアップしたダストは、電気的な斥力によって基体から引き離されることになる。ここでもし、第一の電極と基体との間に印加される極性が負の電圧(第二の電圧)の絶対値が放電維持電圧の絶対値以上であると、t1の期間で生成されたプラズマがt2の期間でも維持されるため、プラズマ中の陽イオンが基体の表面に付着したダストに到達することになる。そうすると、t1の期間において負電位にチャージアップしたダストが、陽イオンが持つ正の電荷によってチャージアップが緩和されてしまい、電気的な斥力によってダストを基体から引き離す効果が得られにくくなる。ダストのチャージアップの緩和を抑制するためには、t2の期間においてはプラズマを消滅させる必要がある。そのため、第一の電極と基体との間に印加される極性が負の電圧(第二の電圧)の絶対値は、放電維持電圧の絶対値未満にすることが必要である。また、電気的な斥力によって基体からダストを引き離すためには、第一の電極と基体との間に印加される極性が負の電圧(第二の電圧)の絶対値は、放電維持電圧の絶対値以上にならない範囲で、なるべく大きいことが好ましい。具体的には、第一の電極と基体との間に印加される極性が負の電圧(第二の電圧)の絶対値は、放電維持電圧の絶対値の40%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。後述の第二の電圧の極性が正である場合も、同様である。
【0023】
図1(b)も、第一の電極の電位(接地電位)に対する基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を第一の電極と基体との間に印加した場合の基体の電位の変化を示す図である。
図1(b)の例では、第一の電極に対する基体の電位が負となるときの第一の電極と基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V1)となっており、正になるときの第一の電極と基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V2)となっている。第一の電極の電位は接地電位で一定であるため、基体の電位が
図1(b)に示すように矩形状に変化する。
図1(b)の例では、V1が上記第一の電圧に対応しており、V2が上記第二の電圧に対応している。
【0024】
基体の表面に付着したダストをプラズマ中の荷電粒子によりチャージアップさせる点では、
図1(a)と(b)のように極性の正負が異なっていても本発明の効果は得られる。ただし、一般的にプラズマ中において基体に付着したダスト(特に、堆積膜の小片)は負電位にチャージアップしやすいため、
図1(a)の例のように、上記第一の電圧の極性は正であることが好ましい。
【0025】
図1(a)および(b)においては、V1からV2への切り替わりおよびV2からV1への切り替わりは瞬時に行われるように示しているが、一般的な市販電源では、電源回路特性の限界から、V1からV2への切り替わりおよびV2からV1への切り替わりには、ある程度の時間を要する。その切り替わりに要する時間は、一般的な市販電源においては1μ秒以下の程度である。
【0026】
また、
図1(a)および(b)においては、完全な矩形波を示しているが、一般的な市販電源では、矩形波のエッジ部になまりが生じたり、オーバーシュートによって若干鋭角状となったり、V1やV2になるときにリンギングが生じたりすることもある。このような場合でも、本発明の効果は得られる。
【0027】
図3も、上記工程(ii)において第一の電極と基体との間に印加する電圧を説明するための図であり、電圧として矩形波の電圧(交播電圧)を採用した例を示している。
図3の例における矩形波の波形は、
図1の例における矩形波とは別の波形である。
【0028】
図3の例では、まず、極性が正であり、かつ絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値である電圧(第一の電圧)が第一の電極と基体との間に印加される。
図3中のV1が第一の電圧に対応している。次に、極性が正であり、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値である電圧(第三の電圧)が第一の電極と基体との間に印加される。
図3中のV3が第三の電圧に対応している。次に、極性が負であり、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値であり、かつ前記基体に付着したダストを前記基体から引き離すのに必要な値である電圧(第二の電圧)が第一の電極と基体との間に印加される。
図3中のV2が第二の電圧に対応している。第一の電極の電位は接地電位で一定であるため、基体の電位が
図3に示すように矩形状(階段状)に変化する。
【0029】
図3中のt1は、第一の電極に対する基体の電位がV1(正電位)となっている時間(期間)を表しており、t3は、第一の電極に対する基体の電位がV3(正電位)となっている時間(期間)を表しており、t2は、第一の電極に対する基体の電位がV2(負電位)となっている時間(期間)を表している。
【0030】
図1(a)および(b)のように、第一の電極に対する基体の電位をV1からV2へ変化させた場合、V2が放電維持電圧の絶対値未満の値であるため、放電が維持できなくなり、プラズマは維持できなくなる。しかしながら、t1の期間で生成された荷電粒子(イオンや電子)は、瞬時には消滅せずにt2の期間において徐々に減衰しながらしばらくの間は残存する。この状態は、一般にアフターグローと呼ばれ、新たに荷電粒子(イオンや電子)は生成されないが、残存した荷電粒子(イオンや電子)により、上記ダストのチャージアップの緩和が生じてしまう場合がある。そのため、本発明においては、このアフターグローによるダストのチャージアップの緩和を抑制するため、例えば
図3で示すように、第一の電極に対する基体の電位をV1からV2へ変化させる間に、第一の電極に対する基体の電位が、V1と同じ極性で、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満のV3となるように、第一の電極と基体との間に新たな電圧を印加することが好ましい。すなわち、上記工程(ii)において、上記第一の電圧を第一の電極と基体との間に印加して放電を生起させた後、かつ上記第二の電圧を第一の電極と基体との間に印加する前に、極性が第一の電圧と同じであり、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値である第三の電圧を第一の電極と基体との間に印加することが好ましい。
【0031】
アフターグローの寿命は、数十μ秒から数m秒程度であるため、第一の電極と基体との間に第三の電圧を1m秒以上印加することが好ましい、すなわち、t3の時間は1m秒以上であることがより好ましい。一方、前処理工程の効率の観点から、50m秒以下印加することが好ましい。
【0032】
本発明においては、上記第一の電圧を第一の電極と基体との間に印加し、第一の電極に対する基体の電位をV1とし、第一の電極と基体との間に放電を生起させ、プラズマを生成することによって、基体に付着したダストを負または正電位(V1とは逆の極性)にチャージアップさせる。次に、上記第二の電圧を第一の電極と基体との間に印加し、第一の電極に対する基体の電位をV1とは逆の極性のV2(チャージアップしたダストと同じ極性)とすることにより、電気的な斥力によって基体に付着したダストを基体から引き離す。そのためには、上記第一の電圧を第一の電極と基体との間に印加した際に、基体に付着したダストを十分にチャージアップさせる必要がある。ダストを十分にチャージアップさせるためには、上記第一の電圧を大きくすることや、上記第一の電圧を第一の電極と基体との間に印加する期間(t1)をできるだけ長くすることが効果的である。特に、t1の期間を長くすることが効果的である。
【0033】
図3の例のような階段状の波形の電圧は、例えば、第一の電極に対する基体の電位がV1(正電位)、V3(正電位)、V2(負電位)となる電圧をそれぞれ3台の直流電源から発生させて、それら3台の直流電圧をON/OFF制御して、所定の時間で切り替えることによって得ることができる。
図3の例のような階段状の波形の電圧の場合も、上記と同様にt1の期間を長くすることが効果的であり、具体的には、上記第一の電圧を第一の電極と基体との間に10秒以上印加することが好ましい。一方、前処理工程の効率の観点から、100秒以下印加することが好ましい。
【0034】
図3においては、V1からV3への切り替わりとV3からV2への切り替わりは図示するようにできるだけ瞬時に行われることが効果的である。具体的には、ダストが十分チャージアップされた状態で電圧を切り替えるという観点から、切り替わりにかかる時間は50m秒以下であることが好ましく、10m秒以下であることがより好ましい。
【0035】
次に、放電開始電圧および放電維持電圧について詳細に述べる。
【0036】
第一の電極と基体との間の放電は、第一の電極と基体との間にわずかながら存在している電子が電界によって正電位側に運ばれ、その途中でガス分子に衝突してこれを電離させて、電子とイオンを生成するα作用が継続することによって始まる。この電離を生じさせるためには、衝突時の電子のエネルギーが、ガス分子の電離エネルギー以上であることが必要となる。電子がガス分子に衝突する際のエネルギーは、電界が大きくなるほど、すなわち、第一の電極と基体との間に印加する電圧が大きくなるほど大きくなる。第一の電極と基体との間に印加する電圧を徐々に上げていき、電子がガス分子に衝突する際のエネルギーがガス分子の電離エネルギーに達すると、ガス分子が電離する。ガス分子の電離によって第一の電極と基体との間に存在する電子が増加して、衝突によるガス分子の電離が継続して起こることで放電が始まる。この放電が始まる時点の電圧を放電開始電圧という。
【0037】
また、放電が開始した状態から、第一の電極と基体との間に印加する電圧を下げていくと、ある電圧よりも小さくなった時点で放電が維持できなくなる。放電が維持できる最低電圧を放電維持電圧という。放電維持電圧は、通常、放電開始電圧よりも低い。これは、放電が生起した状態では、放電が生起していない状態と比べて放電空間内の電子の数が多く、第一の電極と基体との間の印加電圧の絶対値が放電開始電圧の絶対値未満になっても、放電維持電圧の絶対値以上であれば、ガス分子を電離可能なエネルギーを持った電子が放電維持に必要な数以上存在するためである。
【0038】
また、γ作用と呼ばれる現象も、放電維持電圧が放電開始電圧よりも低くなる理由の1つとなっている。γ作用とは、ガス分子が電離して生じたイオンが第一の電極や基体に衝突する際、それらから二次電子が放出される現象である。放電が生起した後は、このγ作用によって生じた電子もガス分子の電離に寄与するので、放電開始電圧よりも低い電圧で放電が維持可能となる。
【0039】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス分子の電離電圧および電子がガス分子に衝突するときのエネルギーが支配的な要素となる。ガス分子の電離電圧は、ガス種が決まれば決定される。また、ガス分子に衝突するときの電子のエネルギーは、電界強度および電子がガス分子に衝突するまでの移動距離の関数となる。言い換えれば、印加電圧、第一の電極と基体との間の距離および電子がガス分子に衝突するまでの移動距離の関数となる。また、電子がガス分子に衝突するまでの移動距離は、ガスの密度の関数、言い換えれば、圧力の関数となる。
【0040】
なお、複数のガス種からなる混合ガスを用いる場合、各々のガスの電離電圧とともに、ガスの混合比率も、放電開始電圧および放電維持電圧を決定付ける要素となる。
【0041】
これら以外に放電開始電圧および放電維持電圧に影響を及ぼすものとしては、第一の電極の表面材質、形状および温度などがあるが、これらは電離電圧、印加電圧、第一の電極と基体との間の距離および圧力に比べて影響度は小さい。
【0042】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス種、ガスの混合比率、第一の電極と基体との間の距離および圧力によって異なるため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって固有の値を持つこととなる。すなわち、使用するプラズマCVD装置と使用するガス条件が決まれば、放電開始電圧および放電維持電圧は一意に決まる。
【0043】
本発明においては、放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものよりも、正および負のいずれか一方の電界で放電を生起させ、続いて、それとは逆極性の電界で放電が維持しないレベルにすることが効果を得るために重要である。そのため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものは変わるものの、本発明の条件を満たせば、本発明の効果を得ることができる。例えば、堆積膜の形成を起こさないガスとして、水素ガスを用いた場合と、ヘリウムガスを用いた場合では、放電開始電圧および放電維持電圧は異なる。しかしながら、どちらの場合においても、本発明の条件を満たすことによって、本発明の効果を得ることができる。
【0044】
放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かは、例えば、電圧−電流特性から判断する方法や、プラズマ発光を検知して判断する方法などがある。
【0045】
図4は、放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。
図4(a)は、
図2に示すプラズマCVD装置を用いて、第一の電極と基体との間に電圧を印加し、放電開始電圧を求めたときの電圧−電流特性を示す図である。
図4(b)は、
図4(a)と同様、
図2に示すプラズマCVD装置を用いて、放電維持電圧を求めたときの電圧−電流特性を示す図である。このような電圧−電流特性から、放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かを判断し、放電開始電圧および放電維持電圧を求めることができる。
【0046】
第一の電極に対する基体の電位が負になったときに放電を生起させて上記工程(ii)(上記工程(iii)(堆積膜形成工程)の前処理工程)を行おうとする場合には、
図4(a)の例のように負電位の放電開始電圧と、
図4(b)の例のように正電位の放電維持電圧を求めることになる。
【0047】
まず、
図2に示すプラズマCVD装置の制御部230で、電圧を0Vと設定電圧を繰り返す矩形波の電圧(パルス電圧)として、周波数50kHzおよびDuty比50%の条件で出力波形を制御した。そして、設定電圧を0Vから負の方向に10V刻みで大きくしていき(0V→−10V→−20V…)、そのときの電流変化を測定した。
図4(a)に示すように、設定電圧を0Vから徐々に負の方向に大きくしていくと、電流が急に増加する点が観測される。そのときの電圧が放電開始電圧である。なお、放電開始電圧に至るまでも、若干の電流が計測されているが、その電流は放電に伴うものではなく、第一の電極と基体との間に存在した荷電粒子が動くことによる暗流と、プラズマCVD装置内での漏れ電流である。なお、
図4(a)においては、設定電圧が−335Vの際の電流を100%として示している。
【0048】
次に、
図4(b)に示すように、設定電圧を+400Vまで上げて第一の電極と基体との間に放電を生起させる。この状態から設定電圧を0Vの方向に10V刻みで小さくしていくと(+400V→+390V→+380V…)、電流が急に減少する点が観測される。電流が急に減少する直前の電圧が放電維持電圧である。なお、
図4(b)においては、設定電圧が+400Vの際の電流を100%として示している。
【0049】
図2は、電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
図2(a)は縦断面図であり、
図2(b)は横断面図である。
【0050】
本発明では、例えば、
図2に示すようなプラズマCVD装置を用いて堆積膜形成工程の前処理工程を行い、続いて堆積膜形成工程を行う。
図2に示すプラズマCVD装置は、第一の電極214の電位に対する基体(円筒状の基体)212(212A、212B)の電位が交互に正と負になるように、例えば周波数50kHzの矩形波の交播電圧を第一の電極214と基体212(212A、212B)との間に印加して、基体212(212A、212B)に付着したダストの除去を行う。
【0051】
電源231から出力され、第一の電極214と基体212(212A、212B)との間に印加される矩形波の交播電圧は、制御部230によって周波数、電圧値、Duty比などが制御される。
【0052】
図2に示すプラズマCVD装置は、プラズマ処理によって円筒状の基体212(上側基体212A、下側基体212B)上(基体212の外周面)に堆積膜を形成するための円筒状の反応容器211と、基体212(212A、212B)を加熱するためのヒーター216を備えている。また、基体212(212A、212B)を保持する基体ホルダー213Aおよび213B、反応容器211の内部にガス(堆積膜の形成を起こさないガス、堆積膜の形成を起こすガス)を導入するためのガスブロック235を備えている。ガスブロック235は、第一の電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造となっている。
【0053】
反応容器211の内部には、第一の電極214、ベースプレート219および上蓋220により減圧可能な空間(放電空間)が形成されている。第一の電極の電位を一定にすることで、第一の電極214と反応容器211中の他の部分との電位差を一定に保つことができるため、製造する電子写真感光体の特性の再現性が向上する。さらに、第一の電極の電位を接地電位(接地電位で一定)とすることで、すなわち、第一の電極を接地電極とすることで、プラズマCVD装置の取り扱いが容易になり、製造する電子写真感光体の特性の再現性がより向上する。
【0054】
また、
図2に示すプラズマCVD装置は、ガス(堆積膜の形成を起こさないガス、堆積膜の形成を起こすガス)の流量を調整するためのマスフローコントローラー(不図示)を内包するガス混合装置225とガス流入バルブ224を備えている。
【0055】
基体212(212A、212B)を保持する基体ホルダー213Aおよび213Bは回転可能に支持されている。この回転支持機構は、支軸222と、支軸222と歯車で接続されたモーター221とを有している。
【0056】
基体ホルダー213Aおよび213Bの内側には、接合電極217Aおよび217Bが接合している。接合電極217Aおよび217Bは、支軸222を介して電源231に接続されている。第一の電極214と基体212(212A、212B)、基体ホルダー213A、213Bは、中心軸が一致するように配置されている。
【0057】
ヒーター216の外面は接地されていて、ヒーター216と基体212(212A、212B)との間に絶縁部材215Aが設けられていることで、ヒーター216と基体212(212A、212B)とは絶縁されている。ヒーター216の内側には、支軸222との間に絶縁部材215Bが設置され、ヒーター216と支軸222が絶縁されている。
【0058】
図2に示すプラズマCVD装置は、排気系として、反応容器211の排気口に連通された排気配管226と、排気メインバルブ227と、真空ポンプ228とを有している。真空ポンプとしては、例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプなどが挙げられる。この排気系により、反応容器211に設けられた真空計223を見ながら、反応容器211内を所定の圧力に維持することができる。
【0059】
電源231からの出力は、制御部230によって制御される。制御部230は、電源231を制御することにより、第一の電極214と基体212(212A、212B)との間に所定の周波数の矩形波の交播電圧を印加可能になっている。
【0060】
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)および上記工程(iii)(堆積膜形成工程)を行うための放電空間(減圧可能な空間)は、第一の電極214と、第一のされたベースプレート219に取り付けられた絶縁板218Bと、第一のされた上蓋220に取り付けられた絶縁板218Aによって規定されている。
【0061】
基体212(212A、212B)と第一の電極214との間の距離Dについて説明する。距離Dが5mm以上であれば、基体212(212A、212B)設置時の基体212(212A、212B)と第一の電極214との同軸性のずれなどによって生じる距離Dのロットごとのばらつきの影響が生じにくいため、安定した再現性を得やすくなる。ただし、距離Dが大きいほど、反応容器211が大きくなるため、単位設置面積当たりの生産性は低下する。このため、距離Dは、5mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0062】
以下、
図2に示すプラズマCVD装置を用いた電子写真感光体の製造方法の上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の一例について説明する。
【0063】
旋盤などを用いて表面に鏡面加工を施した基体212(212A、212B)を、基体ホルダー213A、213Bに装着し、反応容器211内の基体加熱用のヒーター216を包含するように反応容器211内に設置する。
【0064】
次に、ガス供給装置内の排気を兼ねて、ガス流入バルブ224を開き、排気メインバルブ227を開いて、反応容器211内およびガスブロック235内を排気する。真空計223の読みが所定の圧力(例えば0.67Pa以下)になった時点で、堆積膜の形成を起こさないガス(例えば水素ガス)をガスブロック235から反応容器211に導入する。そして、反応容器211内が所定の圧力になるようにガスの流量、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。
【0065】
以上の手順によって上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の準備を完了した後、基体212(212A、212B)に付着したダスト除去処理を行う。具体的には、反応容器211内の圧力が安定したのを確認した後、第一の電極214と基体212との間に所定の第一の電圧および第二の電圧を順に印加する。例えば、
図1(a)に示す波形(電圧波形)となるように、電源231で第一の電圧および第二の電圧の値に設定し、制御部230で所定の周波数(例えば50kHz)およびDuty比(例えば50%)に設定する。これにより、支軸222および基体ホルダー213A、213Bを通じて基体212(212A、212B)と第一の電極214との間に矩形波の交播電圧が印加される。その結果、基体212(212A、212B)に付着したダストは、電気的な斥力により基体から引き離され、排気配管を通して反応容器211外に排出される。なお、上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)を行っている間は、基体212(212A、212B)をモーター221によって所定の速度で回転させてもよい。また、基体212(212A、212B)をヒーター216により所定の温度(例えば300℃)に加熱しながら、上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)を行ってもよい。
【0066】
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)を行った後、続いて、同じプラズマCVD装置を用いて、上記工程(iii)(堆積膜形成工程)を行い、電子写真感光体を製造する。
【0067】
具体的には、ガス供給装置内の排気を兼ねて、ガス流入バルブ224を開き、排気メインバルブ227を開いて、反応容器211内およびガスブロック235内を排気する。真空計223の読みが所定の圧力(例えば0.67Pa以下)になった時点で、加熱用の不活性ガス(例えばアルゴンガス)をガスブロック235から反応容器211に導入する。そして、反応容器211内が所定の圧力になるように加熱用の不活性ガスの流量、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。その後、温度コントローラー(不図示)を作動させて、基体212(212A、212B)をヒーター216により加熱し、基体212(212A、212B)の温度を所定の温度(例えば20〜500℃)に制御する。基体212(212A、212B)が所定の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止める。これと並行して、堆積膜の形成を起こすガス(原料ガス)(例えば、SiH
4、Si
2H
6などの水素化ケイ素ガスや、CH
4、C
2H
6などの炭化水素ガスなど。少なくとも1種はケイ素原子含有ガス(例えば水素化ケイ素ガス)であることが好ましい。)を、また、ドーピングガス(例えば、B
2H
6、PH
3など。)を、ガス混合装置225により混合した後に、反応容器211内に徐々に導入する。次に、ガス混合装置225内のマスフローコントローラー(不図示)によって、各ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器211内が所定の圧力に維持されるように真空計223を見ながら、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。
【0068】
以上の手順によって上記工程(iii)(堆積膜形成工程)の準備を完了した後、基体212(212A、212B)上に堆積膜の形成を行う。具体的には、反応容器211内の圧力が安定したのを確認した後、基体212に所定の電圧を印加する。具体的には、
図1(b)に示す波形(電圧波形)となるように、電源231で第一の電圧および第二の電圧の値に設定し、制御部230で所定の周波数(例えば50kHz)およびDuty比(例えば50%)に設定する。これにより、支軸222および基体ホルダー213A、213Bを通じて基体212(212A、212B)と第一の電極214との間に矩形波の交播電圧を印加して、グロー放電を生起させる。この放電のエネルギーによって反応容器211内に導入した各ガス(堆積膜の形成を起こすガス)が分解され、基体212(212A、212B)上に所定の堆積膜が形成される。なお、
図1(b)に示す波形(電圧波形)以外に、例えば、所定の電圧と0Vを矩形状で繰り返した電圧(以下、DCパルスと表記する)を用いることもできる。
【0069】
堆積膜の形成を行っている間は、基体212(212A、212B)をモーター221によって所定の速度で回転させてもよい。
【0070】
所定の膜厚の堆積膜の形成を行った後、交播電圧の印加を止め、反応容器211へのガスの流入を止めて、反応容器内を一旦高真空になるように排気する。その後、基体212(212A、212B)を反応容器211から排出した後、反応容器211の内部は、ClF
3ガス等によりクリーニング処理される。
上記のような操作を繰り返し行うことによって、電子写真感光体を製造することができる。
【0071】
また、
図5は、上記工程(iii)(堆積膜形成工程)を実施するためのプラズマCVD装置の他の例を示した模式図であり、グロー放電を生起させるのに高周波電力を印加した例を示している。
【0072】
図5の例では、反応容器511中にはアースに接続された基体512(512A、512B)が設置され、第一の電極514は高周波マッチングボックス530を介して高周波電源531に接続されている。また、第一の電極514は、絶縁部材533(533A、533B)により底壁519および上壁520と絶縁されている。そして、接地電位とした基体512(512A、512B)と第一の電極514との間に高周波の周波数を13.56MHzに設定された高周波電力を印加して、グロー放電を生起させる。この放電のエネルギーによって反応容器511内に導入した各ガス(堆積膜の形成を起こすガス)が分解され、基体512(512A、512B)上に所定の堆積膜が形成される。
【0073】
また、
図5の例の反応容器511を使用して上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)を行う場合は、第一の電極514と第二の電極を兼ねた基体512(512A、512B)の接続を変更することで前処理を行うことができる。具体的には、高周波電源531と高周波マッチングボックス530を第一の電極514から切り離し、第一の電極514を底壁519とアース線で繋ぐことで接地電位とする。そして、基体512(512A、512B)を接地電位から切り離し、その後、制御装置230と高圧電源231に接続することで所望の波形の電圧を印加することができる。
【0074】
本発明では、基体の表面(基体の外周面)に、プラズマCVD法によって堆積膜を形成して電子写真感光体を製造する。堆積膜としては、例えば、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面層などが挙げられ、これらの層を基体側から順次積層して電子写真感光体を製造することが一般的である。
【0075】
下部電荷注入阻止層は、基体から光導電層への電荷の注入を抑制(阻止)するための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。
【0076】
光導電層は、電子写真感光体にレーザー光などの像露光光を照射することによって電荷を発生させるための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。光導電層の膜厚は、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上60μm以下であることがより好ましい。
【0077】
上部電荷注入阻止層は、電子写真感光体の表面を帯電した際の電子写真感光体の表面の電荷が光導電層に注入することを抑制(阻止)するための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。また、上部電荷注入阻止層の材料は、a−Siに炭素(C)、ホウ素(B)、窒素(N)または酸素(O)を含有させたものが好ましい。上部電荷注入阻止層の膜厚は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0078】
表面層は、電子写真感光体の表面を摩耗などから保護するための層であり、例えば(水素化)アモルファスシリコンカーバイドや、(水素化)アモルファスシリコンナイトライドや、(水素化)アモルファスカーボンなどにより形成される。表面層は、電子写真感光体に照射される像露光光が吸収されることのないように、像露光光に対して十分に広い光学的バンドギャップを有していることが好ましい。また、静電潜像を十分に保持しうる抵抗値(好適には10
11Ω・cm以上)を有していることが好ましい。
【0079】
また、上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)および上記工程(iii)(堆積膜形成工程)は、同一の反応容器で行っても構わないが、異なる反応容器で処理することがより好ましい。具体的には、上記工程(ii)を前処理工程専用の反応容器で処理が実施される。上記工程(iii)で使用される反応容器は、堆積膜形成後、堆積膜除去を目的に反応容器内をクリーニング処理される。しかし、除去しきれなかった残存堆積膜やクリーニングガスとの副生成物(以下、「クリーニング残渣」と表記する)が反応容器内の一部に残ってしまう場合がある。これらの除去しきれなかった残存堆積膜やクリーニング残渣はプラズマに曝されるとスパッタされ、スパッタされた原子がプラズマ中に混入される。そして、上記工程(ii)を上記工程(iii)で使用された反応容器で処理する時には、プラズマ処理時、プラズマ中に混入した残存堆積膜の原子が基体212(212A、212B)の一部分に蒸着される場合がある。基体212(212A、212B)の一部分に膜が蒸着されても、通常求められる電子写真特性においては影響を及ぼさなさないレベルであるが、特性の均一性の要求が厳しい分野に対しては蒸着を抑えることが効果的となる場合がある。
【0080】
図6は、上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)および上記工程(iii)(堆積膜形成工程)を実施するための連続生産装置の例を示す模式図である。上記(ii)で使用する前処理工程専用の反応容器611Aと上記工程(iii)で使用する反応容器611Bを備え、基体は基体搬送機構650を用いて真空状態で搬送することができる。これより、基体612を反応容器611Aと611B間で移動した場合に新たにダストが基体612表面に付着するのが抑制可能となる。
【0081】
基体搬送機構650は、上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の反応容器611A、上記工程(iii)(堆積膜形成工程)の反応容器611Bに接続するための上下機構を有し、真空気密可能な搬送容器651を持つ。搬送容器651は、下部にゲート弁640C、内部に基体ホルダー613を保持する保持部652を有する。
【0082】
搬送容器651内は、搬送容器651の下部側から排気ポンプ656及び排気バルブ654によって排気し、大気圧から所定の真空度になるまで減圧する。
【0083】
所定の真空度に到達した時点で、搬送容器651を、予め真空保持した前処理工程専用の反応容器611A上に移動させる。
【0084】
その後、開閉ゲート640Cを開閉ゲート640Aに接続させ、排気バルブ655を開けて排気ポンプ656にて開閉ゲート間を真空にする。開閉ゲート640Cと640Aの間が所定の真空度に到達した段階で、双方の開閉ゲートを開き、基体ホルダー613に設置された基体612をチャッキング部材652により反応容器611A内に移動させる。基体612を反応容器611A内に設置し、チャッキング部材652を搬送容器651内に引き上げた後、双方の開閉ゲートを閉じ、開閉ゲート間リークバルブ653からリーク用ガスを流し、開閉ゲート間を大気圧にする。その後、搬送容器651の開閉ゲート640Cは開閉ゲート640Aから切り離される。
また、搬送容器651と堆積膜形成工程専用の反応容器611Bとの接続、基体搬入、基体設置、基体搬出は、上記と同様に行われる。
搬送容器651はレール657上を水平方向に移動可能となっている。この基体搬送機構650によって、基体612が装着された基体ホルダー613を、上記工程(ii)の反応容器611Aと上記工程(iii)の反応容器611Bが真空状態のまま、搬入、設置、搬出することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0086】
〈実施例1および比較例1〉
実施例1および比較例1では、
図2に示すプラズマCVD装置を用い、基体(外径84mm、長さ381mm、厚さ3mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状の基体)212を設置した(上記工程(i))。
【0087】
次に、表1および表2に示す条件で上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)を行った。
【0088】
実施例1および比較例1の上記工程(ii)では、
図1(a)に示すように、第一の電圧(第一の電極に対する基体の電位V1)の極性を正とし、第二の電圧(第一の電極に対する基体の電位V2)の極性を負とした。また、第一の電極と基体との間に印加する電圧は、第一の電圧と第二の電圧を繰り返す矩形波の交播電圧とし、矩形波の交播電圧の周波数は50kHzとし、Duty比を50%とした(t1=0.01m秒)。
【0089】
次に、表3に示す条件で上記工程(iii)(堆積膜形成工程)を行い、電子写真感光体を製造した。その際、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面層の順に堆積膜の形成を行った。
【0090】
実施例1および比較例1の上記工程(iii)では、第一の電極と基体との間に印加する電圧を、第一の電圧と第二の電圧を繰り返す矩形波の交播電圧とした。そして、ここで用いた矩形波の交播電圧は、
図1(b)に示すように、第一の電圧(第一の電極に対する基体の電位V1)の極性を負とし、第二の電圧(第一の電極に対する基体の電位V2)の極性を正とする矩形波の交播電圧とした。また、矩形波の交播電圧の周波数は60kHzとし、Duty比を70%とした。
【0091】
1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、6バッチ(6例)で計12本製造した。放電開始電圧および放電維持電圧は、あらかじめ、上記工程(ii)および(iii)(堆積膜形成工程の前処理工程および堆積膜形成工程)を行う際の反応容器内の圧力およびガス条件で、前述した方法により測定した値である。
【0092】
また、上記工程(ii)および(iii)(堆積膜形成工程の前処理工程および堆積膜形成工程)は同一の反応容器で行った。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
表2中の比較例1−1のV2(450V)は放電維持電圧の絶対値(235V)以上であるため、正確にはV2ではないが、実施例のV2と比較する値であるため、便宜上「V2」と表記している。以下同様である。
【0097】
実施例1および比較例1で製造したそれぞれ12本の電子写真感光体を以下の方法で評価した。評価結果を表4に示す。
【0098】
(画像欠陥)
画像欠陥については、以下のように評価した。
【0099】
製造した電子写真感光体をマイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製の複写機(商品名:iRC6800)の改造機に設置した。また、この複写機の黒色用現像器を外し、表面電位計(TREK社製の表面電位計(商品名:Model344)およびプローブ(商品名:Model555−P))を設置して、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0100】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力し、電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
【0101】
画像欠陥を厳しく評価するために、ポチが出やすくなる条件で画像を出力した。具体的には、シアン色の現像条件のDCバイアス条件を調整して、かぶり(現像操作によって本来非画像部となるべき部分にトナーが付着する現象)が生じている画像を出力した。画像出力の際の現像は、シアントナーを用いた現像器のみでの現像とした。
【0102】
以下の手順により、かぶり濃度の測定を行い、かぶり濃度が0.4〜0.8%の範囲になる現像条件で出力したものを評価用画像とした。評価用画像の反射率を測定し、さらに未使用の紙の反射率を測定した。評価用画像の反射率の値を未使用の紙の反射率の値から引いてかぶり濃度とした。反射率は、東京電色製の白色光度計(商品名:TC−6DS)にアンバーのフィルターを装着して測定した。
【0103】
画像出力は、温度23℃/湿度60%RHの常温常湿環境下で行った。以下も同様である。
【0104】
出力紙としてキヤノンマーケティングジャパン株式会社の紙A3用紙(商品名:CS−814(81.4g/m2))を用い、連続して10枚のベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力して、最後の2枚を用いて評価を行った。
【0105】
画像の電子写真感光体の1周分(=紙の搬送方向の先端から約264mm)×画像領域幅292mmの域内にある直径0.05mmの円以上の大きさ(0.05mmの円を重ねたときに円からはみ出る部分があるもの)のポチ(シアン色のポチ)の個数を数えた。
【0106】
評価は、実施例および比較例のそれぞれ2本の電子写真感光体について、それぞれ2枚の出力画像についてポチの個数を数え、評価数4枚の平均値を計算し、小数点以下は切り上げて整数の値で示した。
【0107】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
AA・・・2個以下
A・・・・3個以上8個以下
B・・・・9個以上16個以下
C・・・・17個以上29個以下
D・・・・50個以上
この評価においては、ランクC以上で本発明の効果が得られていると判断した。
【0108】
【表4】
【0109】
表4の評価結果より、比較例1−1では、上記工程(ii)におけるV2が放電維持電圧の絶対値以上の値であるため、基体に付着したダストのチャージアップの緩和が発生してしまい、ダストを基体から電気的な斥力で引き離す効果が十分に得られないことがわかる。
【0110】
比較例1−2および1−3では、上記工程(ii)におけるV2がダストを電気的な斥力で引き離すのに十分な値ではなかったため、十分な効果が得られていないことがわかる。
【0111】
〈実施例2および比較例2〉
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の条件を表5に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。上記工程(ii)におけるV1およびV2については、表6に示す条件とした。
【0112】
実施例2および比較例2では、実施例1および比較例1に対して、上記工程(ii)におけるV1およびV2の極性をそれぞれ逆にした(
図1(b))。すなわち、V1を負電位とし、V2を正電位とした。
【0113】
製造した各条件2本、合計12本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
【0114】
評価結果を表7に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
【表6】
【0117】
【表7】
【0118】
表7の評価結果より、実施例2−1〜2−3では、実施例1−1〜1−3に対して、上記工程(ii)におけるV1およびV2の極性をそれぞれ逆にしているが、画像欠陥の個数は減少している。これにより、ダストのチャージアップする極性によらず本発明の効果が得られることがわかる。
【0119】
また、実施例1−2と実施例2−2の比較から、第一の電圧の極性が正である方が、より本発明の効果が得られることがわかる。
【0120】
〈実施例3〉
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の条件を表8および9に示す条件とし、上記工程(iii)(堆積膜形成工程)の条件を表10に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0121】
実施例3の上記工程(ii)では、
図3に示すように、第一の電圧(第一の電極に対する基体の電位V1)の極性を正とし、第二の電圧(第一の電極に対する基体の電位V2)の極性を負とした。また、第一の電圧を第一の電極と基体との間に印加して放電を生起させた後、かつ第二の電圧を第一の電極と基体との間に印加する前に、極性が第一の電圧と同じ正であり、かつ絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値である第三の電圧(第一の電極に対する基体の電位V3)を第一の電極と基体との間に印加した。電圧の印加は、3台の直流電源を用い、直流電圧をON/OFFを所定の時間で切り替え、第一の電圧、第三の電圧および第二の電圧は繰り返さず、1回の処理とした。
【0122】
また、実施例3の上記工程(iii)(堆積膜形成工程)では、表10に示す条件となるように第一の電極と基体との間に印加する電圧をDCパルス電圧とした。
【0123】
製造した各条件2本、合計16本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
【0124】
評価結果を表11に示す。
【0125】
【表8】
【0126】
【表9】
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
表11の評価結果より、第三の電圧を第一の電極と基体との間に印加した3−1〜3−7は、印加していない実施例3−8に比べて、本発明の効果がより得られている。また、t3が1m秒以上である実施例3−2〜3−6では、画像欠陥の個数が特に少なかった。
【0130】
〈実施例4〉
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の条件を表12および13に示す条件とした以外は、実施例3と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0131】
実施例4では、実施例3に対して、上記工程(ii)におけるV1、V3およびV2の極性をそれぞれ逆にした。すなわち、V1およびV3を負電位とし、V2を正電位とした。
【0132】
製造した各条件2本、合計16本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
【0133】
評価結果を表14に示す。
【0134】
【表12】
【0135】
【表13】
【0136】
【表14】
【0137】
表14の評価結果より、実施例4−1〜4−8では、実施例3−1〜3−8に対して、上記工程(ii)におけるV1、V3およびV2の極性をそれぞれ逆にしているが、画像欠陥の個数は減少している。これにより、第三の電圧を第一の電極と基体との間に印加した場合であっても、ダストのチャージアップする極性によらず本発明の効果が得られることがわかる。また、t3が1m秒以上である実施例4−2〜4−6では、画像欠陥の個数が特に少なかった。
【0138】
また、実施例3−5と実施例4−5の比較から、第一の電圧の極性が正である方が、より本発明の効果が得られることがわかる。
【0139】
〈実施例5〉
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の条件を表15に示す条件とする以外は、実施例3と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0140】
製造した各条件2本、合計8本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
【0141】
評価結果を表16に示す。
【0142】
【表15】
【0143】
【表16】
【0144】
表16の評価結果より、t1が10秒以上である実施例5−3および5−4では、画像欠陥の個数が特に少なかった。
【0145】
〈実施例6〉
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)の条件を表17に示す条件とする以外は、実施例4と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0146】
実施例6では、実施例5に対して、上記工程(ii)におけるV1、V3およびV2の極性をそれぞれ逆にした。すなわち、V1およびV3を負電位とし、V2を正電位とした。
【0147】
製造した各条件2本、合計8本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
【0148】
評価結果を表18に示す。
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
【0151】
表18の評価結果より、実施例6−1〜6−4では、実施例5−1〜5−4に対して、上記工程(ii)におけるV1、V3およびV2の極性をそれぞれ逆にしているが、画像欠陥の個数は減少している。これにより、第三の電圧を第一の電極と基体との間に印加した場合であっても、ダストのチャージアップする極性によらず本発明の効果が得られることがわかる。また、t1が10秒以上である実施例6−3および6−4では、画像欠陥の個数が特に少なかった。
【0152】
〈実施例7〉
上記工程(iii)(堆積膜形成工程)の条件を表19に示す条件とし、用いるプラズマCVD装置を
図5に示すプラズマCVD装置とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0153】
なお、実施例7の上記工程(iii)(堆積膜形成工程)では、表19に示す条件となるように、第一の電極と接地電位とした基体との間に、周波数13.56MHzの高周波電力を印加した。
【0154】
製造した各条件2本、合計6本の電子写真感光体は、実施例1と同様に評価した。
【0155】
評価結果を表20に示す。
【0156】
【表19】
【0157】
【表20】
【0158】
表20の評価結果より、上記工程(iii)(堆積膜形成工程)をRFの周波数帯で行っても、本発明の効果が得られることがわかる。
【0159】
〈実施例8〉
上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)と上記工程(iii)(堆積膜形成工程)を異なる反応容器で行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0160】
実施例8の上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)では、堆積膜形成を行わない上記工程(ii)の前処理工程専用の反応容器を使用した。
【0161】
具体的には、
図6に示す前処理工程専用の反応容器611Aで上記工程(ii)を行い、その後、基体搬送機機構650を用いて、基体を真空状態で堆積膜形成工程専用の反応容器611Bへ移動し、上記工程(iii)を行った。
【0162】
製造した各条件2本、合計6本の電子写真感光体は、実施例1と同様の評価を行い、さらに以下の評価を行った。
【0163】
(母線ムラ(明部電位))
製造した電子写真感光体を実施例1の評価で用いた複写機(商品名:iRC6800)の改造機に設置し、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0164】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力し、電子写真感光体の母線方向中央位置の表面電位が、表面電位計(TREK社製の表面電位計(商品名:Model555P−4))で測定したときの周方向の測定値の平均値が−450V(暗部電位)になるように、一次帯電器の電流値を調整した。
【0165】
次に、ベタ黒画像(静電潜像形成用レーザー露光)を出力しながら、静電潜像形成用レーザー光(波長655nm)を電子写真感光体の表面に照射し、静電潜像形成用レーザーの光量を調整して、電子写真感光体の母線方向中央位置の表面電位が周方向の測定値の平均値が−100V(明電位)となるようにした。
【0166】
その後、表面電位計の電位プローブを電子写真感光体の母線方向に移動させて、母線方向に40mm間隔の9点(先に測定した母線方向中央位置を含む)での周方向の表面電位の測定を行った。そして、各点での周方向の測定値の平均値を算出して、平均値をその測定点での明部電位とし、9点の明部電位の最大値と最小値の差を算出して、母線ムラ(明部電位)として評価した。
【0167】
この母線ムラ(明部電位)について、実施例1−1の電子写真感光体を基準として、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・・実施例1−1の電子写真感光体に対して98%より小さい
B・・・・実施例1−1の電子写真感光体に対して98%以上102%より小さい
C・・・・実施例1−1の電子写真感光体に対して102%以上
この評価においては、ランクAで実施例1−1に比べて、電子写真感光体の特性(堆積膜の特性)の均一性が、より向上していると判断できる。
【0168】
評価結果を表21に示す。
【0169】
【表21】
【0170】
表21の評価結果より、上記工程(ii)(堆積膜形成工程の前処理工程)を専用の反応容器(上記工程(iii)(堆積膜形成工程)の反応容器とは異なる反応容器)で処理した実施例8−1、8−2、8−3は、実施例1−1、1−2、1−3に比べて、電子写真感光体の特性(堆積膜の特性)の均一性が、より向上していることがわかる。