(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039454
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】スピニングリールの糸係止具及びそれを用いたスピニングリールのスプール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/01 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
A01K89/01 H
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-28651(P2013-28651)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-155469(P2014-155469A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】503230070
【氏名又は名称】シマノコンポネンツ マレーシア エスディーエヌ.ビーエッチディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャン イク フイ
【審査官】
本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−086762(JP,U)
【文献】
欧州特許出願公開第01588614(EP,A1)
【文献】
特開2010−142220(JP,A)
【文献】
特開2000−225477(JP,A)
【文献】
特開2006−204153(JP,A)
【文献】
実開昭63−015777(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピニングリールのスプールに設けられる装着部と、
前記装着部に取り付けられ、釣り糸を係止するため係止具本体と、を含むスピニングリールの糸係止具であって、
前記係止具本体は、
外周端部の前記スプールに対面する第一面の少なくとも一部に設けられる釣り糸導入部と、
前記外周端部の前記第一面と反対側の第二面の少なくとも一部に前記釣り糸導入部と対向して設けられる膨出部と、を有する、スピニングリールの糸係止具。
【請求項2】
前記第二面は、少なくとも一部に平面を有し、
前記膨出部は、前記平面から隆起するように膨出変形されたものである、請求項1記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項3】
前記係止具本体の外周端部は、略円形であり、前記外周端部の少なくとも一部に前記膨出部及び前記釣り糸導入部が設けられている、請求項1又は2に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項4】
前記係止具本体の外周端部は、略三角形であり、その略三角形の少なくとも一つの頂点付近に前記膨出部及び前記釣り糸導入部が設けられている、請求項1又は2に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項5】
前記頂点付近は、円弧状に丸められている、請求項4に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項6】
前記膨出部の前記外周端部の一端部からの長さと、前記釣り糸導入部の外周端部の一端部からの長さは、実質的に同一である、請求項1から5のいずれか1項に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項7】
前記釣り糸導入部の前記外周端部の一端部からの長さは、前記膨出部の外周端部の一端部からの長さよりも短い、請求項1から5のいずれか1項に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項8】
前記釣り糸導入部は、前記第一面側から前記第二面側に向かって前記スプールから離れる方向に傾斜する傾斜面を有している、請求項1から7のいずれか1項に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項9】
前記傾斜面は、平面で構成され、前記傾斜部の平面と第一面とのなす角度が30度から40度の範囲である、請求項8に記載のスピニングリールの糸係止具。
【請求項10】
釣り糸を前方に繰り出すスピニングリールのスプールであって、
前記釣り糸を巻き付けるための糸巻き胴部と、
前記糸巻き胴部の前部に設けられる前フランジ部と、
前記前フランジ部と対面して配置された後フランジ部、前記後フランジ部の外周部から後方に延びる筒状部、及び前記筒状部に外周面から平面的に凹んで形成された底面を有する凹部、を含むスカート部と、
前記凹部の底面に装着される、請求項1から9のいずれか1項に記載の前記糸係止具と、
を備えるスピニングリールのスプール。
【請求項11】
前記膨出部と前記釣り糸導入部との境界部分は、前記スプールの外周面よりも径方向内側に配置される、請求項10項に記載のスピニングリールのスプール。
【請求項12】
前記境界部分は、円弧状に丸められている、請求項11に記載のスピニングリールのスプール。
【請求項13】
前記膨出部は、前記筒状部の外周面よりも径方向外方に配置される頂部を有する、請求項9から12のいずれか1項に記載のスピニングリールのスプール。
【請求項14】
前記第一面と前記スプールとの間に配置されたシート部材をさらに備える、請求項10から13のいずれか1項に記載のスピニングリールのスプール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニングリールの糸係止具及びそれを用いたスピニングリールのスプールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スピニングリールのスプールは、ハンドルの回転に応じて前後に往復移動する。スピニングリールは、糸巻き胴部と、前フランジ部と、スカート部とを、有する。スカート部には糸巻き胴部に巻かれた釣り糸を止めるための糸係止具が設けられている。
【0003】
このような糸係止具は、糸巻き胴部に巻かれた釣り糸の先端部分を係止し、糸巻き胴部に巻かれた釣り糸の状態を維持するためのものである。
【0004】
糸係止具は、たとえば合成樹脂製の係止具本体と、係止具本体と一体成形された板状の取付部とを有する。係止具本体は、たとえばスカート部の前部外周面に形成された凹部に収納され、外周面に沿って露出し、スカート部と僅かな隙間をあけて後方側に開口するように配置される。係止具本体の開口側の先端下面には、釣り糸を導入するため釣り糸導入部が設けられる。釣り糸導入部は、先端に向かって徐々に上方を向くように湾曲して傾斜する下面傾斜部が形成され、係止具本体の上面には、釣り糸導入部に向かって湾曲して傾斜する上面傾斜部が形成される。下面傾斜部と上面傾斜部が交わる境界部分の先端が丸められている。境界部分は、係止具本体の厚みの実質的に中央部分に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−273626号公報
【特許文献2】特開2010−142220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の糸係止具では、傾斜部と釣り糸導入部との境界部分が厚み方向のほぼ中央部分に形成されるので、釣り糸を釣り糸導入部に挿入しにくく、特に、比較
的太い釣り糸を使用する場合には、非常に挿入しにくくなる。そこで、特許文献2のように、境界部分を中央部分よりもやや径方向外方にずらすように配置することが考えられる。しかし、境界部分を径方向外方にずらすと、境界部分が形成される糸係止具の先端部分の肉厚が薄くなる。糸係止具の先端部分の肉厚が薄くなると、塑性変形しやすくなり、釣り糸を保持しにくい。これを避けるために、糸係止具全体の厚みを厚くすると、糸決めするときに糸係止具が弾性変形しにくくなったりして、釣り糸を糸係止具に止めにくくなる。そのため、特許文献2のように、別途バネ部材を設けたり、釣り糸を係止する係止凹部を設けたりすることが必要となり、コストの増加になるという問題点もある。
【0007】
本発明の課題は、スピニングリールの糸係止具において、安価かつ容易な構成で、塑性変形を抑えて釣り糸を止めやすくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるスピニングリールの糸係止具は、スピニングリールのスプールに設けられる装着部と、装着部に取り付けられ、釣り糸を係止するため係止具本体と、を含む。係止具本体は、外周端部のスプールと対面する第一面の少なくとも一部に設けられる釣り糸導入部と、外周端部の第一面と反対側の第二面の少なくとも一部に釣り糸導入部と対面して設けられる膨出部とを、有する。
【0009】
このスピニングリールの糸係止具では、係止具本体の外周端部の少なくとも一部に、スプールに取り付けられたとき、スプールと対面する第一面(内側面)に、釣り糸導入部を設けると共に、その反対の第二面(外側面)に、膨出部を設けたので、糸係止具の釣り糸保持力を維持しつつ、釣り糸導入部を大きくすることができる。これにより、糸係止具において、安価かつ容易な構成で、塑性変形を抑えて釣り糸を止めやすくなる。
【0010】
外面側の少なくとも一部に平面で構成し、膨出部をその平面から隆起するように膨出変形させてもよい。これにより、釣り糸が保持された際、塑性変形が係止具本体の外周端部だけでなく、より全体で塑性変形させることができるので、比較的太い釣り糸が係止された場合でも、保持力を維持することができる。
【0011】
係止具本体の外周端部を略円形に構成し、その外周端部の少なくとも一部に膨出部及び釣り糸導入部が設けられてもよい。係止具本体を、略円形にすることにより、スプールへの取り付けの自由度が上がる。また、外周端部の全周に膨出部及び釣り糸導入部を設けた場合、より一層スプールへの取り付けの自由度が上がる。
【0012】
係止具本体の外周端部を略三角形に構成し、その略三角形の少なくとも一つの頂点付近に膨出部及び釣り糸導入部が設けられてもよい。また、頂点付近は、円弧状に丸められていてもよい。これらにより、略三角形の頂点付近に、膨出部及び釣り糸導入部が設けられているので、係止しやすく、また、その保持力も、十分維持できる。
【0013】
膨出部の外周端部の一端部からの長さと、釣り糸導入部の外周端部の一端部からの長さをほぼ同一としてもよい。この場合、釣り糸導入部の形成で、塑性変形の保持力がやや低下した部分と同一で一致した部分に、膨出部を形成したので、保持力を維持しつつ、比較的大きな釣り糸導入部を形成することができる。
【0014】
釣り糸導入部の外周端部の一端部からの長さは、膨出部の外周端部の一端部からの長さよりも短い。この場合、比較的細い糸を使用した場合でも、釣り糸を保持することができるので、釣り糸の太い細いに関係なく、確実に保持することができるようになる。
【0015】
釣り糸導入部は、第一面側から第二面側に向かってスプールから離れる方向に傾斜する傾斜面を有してもよい。釣り糸導入部を傾斜面とすることで、釣り糸を確実に、保持位置にまで、導入(ガイド)することができ、また、製作が容易にでき、さらに、塑性変形を管理しやすくなる。
傾斜面を平面で構成し、その平面と第一面とのなす角度が30度から40度の範囲で設けてもよい。これによって、釣り糸の導入と保持力、釣り糸の太さについても、バランス良く使い勝手の良いものとなる。
【0016】
釣り糸を前方に繰り出すスピニングリールのスプールを、釣り糸を巻き付けるための糸巻き胴部と、糸巻き胴部の前部に設けられる前フランジ部と、前フランジ部と対面して配置された後フランジ部、後フランジ部の外周部から後方に延びる筒状部、及び筒状部に外周面から平面的に凹んで形成された底面を有する凹部、を含むスカート部で構成し、凹部の底面に上記の釣り糸係止具を設けてもよい。
【0017】
スプールのスカート部の凹部の底面に、本発明における、少なくとも膨出部を有する釣り糸係止具を設けることで、比較的太い釣り糸でも、膨出部によって、確実に保持できるだけでなく、膨出部による影響を最小限に抑えることができる。
【0018】
膨出部と釣り糸導入部との境界部分をスプールの外周面よりも径方向内側に配置してもよい。これにより、釣り糸が不用意に引っかかる等の不具合が生じにくくなる。
境界部分を円弧状に丸めてもよい。これにより、より一層、不用意な引っかかりを抑えることができる。
【0019】
膨出部は、筒状部の外周面よりも径方向外方に配置される頂部を有してもよい。この場合には、膨出部が筒状部の外周面よりも径方向外方に配置されても、釣り糸が引っ掛かりにくい。
【0020】
第一面とスプールとの間に配置されたシート部材をさらに備えてもよい。この場合には、シート部材に摺動性が高い合成樹脂を用いることにより、導入した釣り糸をスムーズに第一面とシート部材の間に配置できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スプールと対面する第一面側に釣り糸導入部と、釣り糸導入部のスプールと反対の第二面側に膨出する膨出部とが、係止具本体の外周端部の少なくとも一部分に設けられたことにより、釣り糸を釣り糸導入部に挿入しやすくなり、釣り糸を止めやすくなるとともに、これらによって、塑性変形による釣り糸の係止を確実に行うことができやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態が採用されたスピニングリールの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態を採用したスピニングリール100は、
図1に示すように、ハンドル1を回転自在に支持するリール本体2と、ロータ3と、スプール4とを備えている。ロータ3は、スプール4に釣り糸を巻き付けるものであり、リール本体2の前部に回転自在に支持される。スプール4は、外周面に釣り糸を巻き取るものであり、ロータ3の前部に前後移動自在に配置される。なお、ハンドル1は、リール本体2の左側及び右側のいずれにも装着可能である。
【0024】
リール本体2は、
図1及び
図2に示すように、開口を有するリールボディ2aと、開口を塞ぐようにリールボディ2aに着脱自在に装着された蓋部材2bと、蓋部材2bから斜め上前方に延びる竿取付脚2cとを有する。リールボディ2aは内部に空間を有する。この空間内には、ハンドル1の回転に連動してロータ3を回転させるロータ駆動機構5と、スプール4を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取るためのオシレーティング機構6とが設けられている。
【0025】
ロータ駆動機構5は、
図2に示すように、ハンドル1が固定された駆動ギア軸10とともに回転する駆動ギア11と、この駆動ギア11に噛み合うピニオンギア12とを有する。ピニオンギア12は、筒状に形成され、ロータ3の中心部を貫通する。そして、ピニオンギア12の前部12aが、ナット13によってロータ3に固定される。また、ピニオンギア12の中間部と後端部とが、それぞれ軸受14a、14bを介してリール本体2に回転自在に支持される。
【0026】
オシレーティング機構6は、
図2に示すように、スプール4の中心部を貫通してドラグ機構60に連結されたスプール軸15を前後方向に移動させることで、スプール4をドラグ機構60とともに前後移動させるための機構である。オシレーティング機構6は、スプール軸15の下方に平行に配置された螺軸21と、螺軸21に沿って前後方向に移動するスライダ22と、螺軸21の先端に固定された中間ギア23とを有する。スライダ22は、スプール軸15の後端に回転不能に固定される。中間ギア23は、図示しない減速機構を介してピニオンギア12に噛み合う。この減速機構によって、オシレーティング機構6の前後移動速度が遅くなり、釣り糸をスプール4に緻密に巻き付けることができる。
【0027】
ロータ3は、
図2に示すように、ピニオンギア12に一体回転可能に連結される連結部30と、連結部30の側方に互いに対向して設けられた第1ロータアーム31及び第2ロータアーム32とを有する。連結部30と第1ロータアーム31及び第2ロータアーム32とは一体に成形される。
【0028】
連結部30の前部には前壁33が形成され、この前壁33の中央部にはボス部33aが設けられている。ボス部33aの中心部には貫通孔が形成され、この貫通孔をピニオンギア12の前部12a及びスプール軸15が貫通する。前壁33の前部にはナット13が配置され、このナット13によってピニオンギア12の前部12aがロータ3に固定される。
【0029】
第1ロータアーム31は、連結部30から外方に向けて凸状に湾曲して前方へと延びている。第1ロータアーム31の先端外周側には、第1ベール支持部材40が揺動自在に装着される。第1ベール支持部材40の先端には、釣り糸をスプール4に案内するためのラインローラ41が装着される。第2ロータアーム32は、連結部30から外方に凸に湾曲して前方に延びている。第2ロータアーム32の先端外周側には、第2ベール支持部材42が揺動自在に装着される。ラインローラ41と第2ベール支持部材42との間には、線材を略U状に湾曲させたベール43が固定される。これらの第1ベール支持部材40、第2ベール支持部材42、ラインローラ41及びベール43によって、ベールアーム44は構成される。ベールアーム44は、
図2に示す糸案内姿勢とそれから反転した糸開放姿勢との間で揺動自在である。
【0030】
ロータ3の連結部30の内部にはロータ3の逆転を禁止・解除するための逆転防止機構50が配置される。逆転防止機構50は、内輪が遊転するローラ型のワンウェイクラッチ51と、ワンウェイクラッチ51を作動状態(逆転禁止状態)と非作動状態(逆転許可状態)とに切り換える切換機構52とを有する。
【0031】
スプール4は、たとえばアルミニウム合金を鍛造成形して得られた大小2段の円筒状の部材である。スプール4は、ロータ3の第1ロータアーム31と第2ロータアーム32との間に配置されている。スプール4は、スプール軸15の先端にドラグ機構60を介して装着される。スプール4は、2つの軸受16、17によりスプール軸15に回転自在に装着される。スプール4は、外周に釣り糸が巻かれる筒状の糸巻き胴部4aと、糸巻き胴部4aの前部に一体で形成された前フランジ部4bと、大径筒状のスカート部4cと、糸係止具70と、を有する。糸巻き胴部4aは、前フランジ部4b及びスカート部4cと一体成形された部材であり、前方側からドラグ機構60が装着される。
【0032】
前フランジ部4bの外周部には、キャスティング時に釣り糸をスムーズに繰り出すための先拡がりのテーパ面を有するスプールリングカラー8が装着される。スプールリングカラー8は、糸巻き胴部4aの前端に装着された固定部材9によって前フランジ部4bに固定される。固定部材9は、糸巻き胴部4aの内周面に螺合する。
【0033】
スカート部4cは、前フランジ部4bと対向して配置される後フランジ部4dと、後フランジ部4dの外周部に一体形成された筒状部4eと、を有する。スカート部4cは、ロータ3の連結部30を覆うように筒状に糸巻き胴部4aと一体で鍛造成形される。また、スカート部4cの後フランジ部4dと筒状部4eとの境界部分の外周面には、
図3及び
図4に示すように、糸係止具70を装着可能な平坦な底面4gを有する凹部4fが形成される。凹部4fの後フランジ部4d側には、筒状部4eを貫通し、糸係止具70を取付可能な矩形の貫通孔4hが形成される。糸係止具70の後述する第一面と凹部4fの底面4gとの間には、板状のシート部材80が装着される。シート部材80は、例えば摺動性が高いポリアセタール等の合成樹脂製である。
【0034】
糸係止具70は、
図3及び
図4に示すように、凹部4fの外周部に面して外方に露出して設けられた係止具本体72と、係止具本体72から略直角に配置され、貫通孔4hを貫通してスカート部4c内部に延びる装着部74とを有する。糸係止具70は、弾性力を有する合成樹脂製部材である。
【0035】
係止具本体72は、平面視で外周端部73が、角が丸められた概略三角形状の部分である。係止具本体72は、釣り糸を凹部4fの底面4gとの間で挟持する。係止具本体72は、後方側に延びる先端部72aを有する。先端部72
aは外周端部73の一端部の一例である。先端部72aには側部から見て境界部分72bが形成される。境界部分72bは、円弧状に丸められる。境界部分72bは、この先端部72aを指先で持ち上げることによって、係止具本体72と凹部4fとの間に隙間が形成される。この隙間に釣り糸を挟み込むことによって、釣り糸が係止具本体72に係止される。
【0036】
係止具本体72は、
図3に示すように、第一面72cと、第二面72dと、釣り糸導入部72eと、膨出部72fと、を有する。第一面72cは、凹部4fの底面4gと対面する内側面である。第二面72dは、第一面72cとは反対で、第一面72cと対向する外側面である。釣り糸導入部72eは、外周端部73の第一面72cの少なくとも一部(この実施形態では一部)の先端部72aに設けられる。釣り糸導入部72eは、先端部72aから第二面72d側に向かって斜めに形成される。膨出部72fは、外周端部73の第二面72dの少なくとも一部で、この実施形態では釣り糸導入部72eと対向した一部である先端部72
aに設けられる。膨出部72fは、釣り糸導入部72eとの間に境界部分72bが形成されるように第二面72dから膨出する。境界部分72bは、係止具本体72の第一面72cと第二面72dとの中央部分よりも第二面72d側に配置される。境界部分72bは、筒状部4eの外周面4iよりも径方向内側に配置される。
【0037】
釣り糸導入部72eの先端部72aから長さL2は、膨出部72
fの先端部72aからの長さL1よりもやや短い(L2<L1)。また、釣り糸導入部72eは、平面で構成され、釣り糸導入部72eと第一面72cとのなす角度αは、25度から45度、好ましくは、30度から40度の範囲である。このような角度範囲であると、釣り糸を第一面72cとシート部材80との間に引き込みやすい。膨出部72fは、筒状部4eの外周面4iよりも径方向外方に配置される頂部72gを有する。
【0038】
装着部74は、底面4gに形成された貫通孔4hを貫通して後フランジ部4dの後面にスタッ
ドボルト82によって固定される。
【0039】
糸係止具70の係止具本体72の第一面72cの凹部4fの底面4gとの間には、板状のシート部材80が装着される。シート部材80は、例えば摺動性が高いポリアセタール等の合成樹脂製である。したがって、釣り糸は、シート部材80と係止具本体72の第一面72cとの間に挟持される。
【0040】
ドラグ機構60は、スプール4とスプール軸15との間に装着され、スプール4にドラグ力を作用させるための機構である。ドラグ機構60は、ドラグ力を手で調整するためのつまみ部61と、つまみ部61によりスプール4側に押圧される複数枚のドラグ板62とを有する。
【0041】
次に、リールの操作及び動作について説明する。
【0042】
釣りを行う際、キャスティングしてリール本体2から釣り糸を繰り出すために、ベールアーム44を反転させてベールアーム44を糸開放姿勢にする。この状態で、釣り竿を握る手の人差し指で釣り糸を引っかけながら釣り竿をキャスティングする。すると、釣り糸は仕掛けの重さによって勢いよく前方に放出される。そして、ハンドル1を糸巻取方向に回転させると、ロータ駆動機構5によりロータ3が糸巻取方向に回転し、ベールアーム44が図示しないベール反転機構により糸巻取位置に復帰し、釣り糸がスプール4に巻き付けられる。
【0043】
釣りを終わって釣り竿からスピニングリール100を外し、スピニングリール100をしまう時には、釣り糸の先端部を糸係止具70に引っ掛ける。このとき、係止具本体72の先端部72aを釣り糸で引っ掛けて持ち上げることによって、係止具本体72とスカート部4cとの間に隙間を形成する。そして、この隙間に釣り糸を挟み込むことによって、釣り糸が係止具本体72に係止される。このとき、係止具本体72の第一面72c側の先端部に釣り糸導入部72eが形成されているため、係止具本体72を釣り糸で持ち上げやすくなり、釣り糸を糸係止具70に容易に止めることができる。また、係止具本体72の第二面72d側の先端部に膨出部72fが形成されるため、釣り糸導入部72eを設けても係止具本体72の先端部の肉厚が薄くならない。このため、係止具本体72の持ち上げ操作を繰り返して行っても、係止具本体72の先端部72aが塑性変形しにくくなる。
【0044】
また、膨出部72fを設けたので、糸係止具70の釣り糸保持力を維持しつつ、釣り糸導入部72eを大きくすることができるので、安価かつ容易に構成できるだけでなく、釣り糸が保持された際、塑性変形が係止具本体72の外周端部73だけでなく、より全体で塑性変形させることができる。よって、比較的太い釣り糸が係止された場合でも、保持力を維持することができる。
【0045】
<特徴>
上記実施形態は、下記のように表現可能である。
【0046】
(A)スピニングリール100のスプール4は、糸巻き胴部4aと、前フランジ部4bと、スカート部4cと、糸係止具70と、を備える。糸巻き胴部4aは、釣り糸を巻き付けるためのものである。前フランジ部4bは、糸巻き胴部4aの前部に設けられる。スカート部4cは、前フランジ部4bと対面して配置された後フランジ部4d、後フランジ部4dの外周部から後方に延びる筒状部4e、及び後フランジ部4dと筒状部4eとの境界部分に外周面から平面的に凹んで形成された底面4gを有する凹部4f、を有する。糸係止具70は、係止具本体72及び装着部74を有する。係止具本体72は、第一面72cと第二面72dと釣り糸導入部72eと膨出部72fとを有する。第一面72cは底面4gに対面する面である。第二面72dは第一面72cと反対側の面である。釣り糸導入部72eは、第一面72cの先端部に第二面72dに向かって傾斜して形成される。膨出部72fは、第二面72dの先端部に形成され釣り糸導入部72eとの間に境界部分72bが形成されるように第二面72dから膨出する。境界部分72bは、係止具本体72の第一面72cと第二面72dとの中央部分よりも第二面72d側に配置される。装着部74は、係止具本体72の第一面72cに一体形成され、底面4gを貫通して後フランジ部4dの後面に取り付けられる板状のものである。
【0047】
このスピニングリール100のスプール4では、糸係止具70の先端部の底面4gに対面する第一面72cに釣り糸導入部72eが形成されるとともに、境界部分72bによって釣り糸導入部72eと連結される膨出部72fが第二面72d
に形成される。膨出部72fを設けることにより、釣り糸導入部72eが設けられる係止具本体72の先端側の肉厚を部分的に厚くする。これにより、係止具本体72において釣り糸導入部72eが設けられた先端部72aでの塑性変形を抑えつつ弾性変形を生じやすくすることができる。また、境界部分72bは、係止具本体72の第一面72cと第二面72dとの中央部分よりも第二面72d側、すなわち径方向外方に配置される。境界部分72bを中央部分よりも第二面72d側に配置するにより、釣り糸を釣り糸導入部72eに挿入しやすくなり、釣り糸を止めやすくなる。これらによって、塑性変形を抑えて釣り糸を止めやすくなる。
【0048】
(B)スプール4において、境界部分72bは、筒状部4eの外周面4iよりも径方向内側に配置されてもよい。この場合には、境界部分72bがスカート部4cの筒状部4eの外周面4iから突出しないので、釣り糸が境界部分72bに引っ掛からない。
【0049】
(C)スプール4において、膨出部72fは、筒状部4eの外周面4iよりも径方向外方に配置される頂部72gを有してもよい。この場合には、膨出部72fが筒状部4eの外周面4iよりも径方向外方に配置されても、釣り糸が引っ掛かりにくい。
【0050】
(D)スプール4において、釣り糸導入部72eは、平面で構成され、釣り糸導入部72eと第一面72cとのなす角度が30度から40度の範囲である。この場合には、釣り糸導入部72eの角度αが大きいので、釣り糸を釣り糸導入部72eに導入しやすい。
【0051】
(E)スプール4において、境界部分72bの先端は、円弧状に丸められている。この場合には、境界部分72bが円弧状に丸められているので、釣り糸が傷付きにくい。
【0052】
(F)スプール4において、第一面72cと底面4gとの間に配置されたシート部材80をさらに備える。この場合には、シート部材80に摺動性が高い合成樹脂を用いることにより、導入した釣り糸をスムーズに第一面72cとシート部材80の間に配置できる。
【0053】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0054】
(a)前記実施形態では、フロントドラグ機構を有するスピニングリールを例にあげて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、リアドラグ機構を有するスピニングリール、ロータを制動するレバーブレーキ機構を有するスピニングリール等の全てのスピニングリールにも本発明を適用できる。
【0055】
(b)前記実施形態では糸係止具の取付部を後フランジ部4dの後面に固定したが、本発明はこれに限定されない。取付部を径方向移動可能かつ径方向内方に付勢された状態で後フランジ部の後面に配置してもよい。
【0056】
(c)前記実施形態では、シート部材80を設けたが、シート部材を設けなくてもよい。
【0057】
(d)前記実施形態では、スカート部4cの筒状部4eがロータ3の連結部30を収納する形状であったが、本発明のスプールはこれに限定されない。糸巻き胴部にロータの連結部が収納されスプールにも本発明を適用できる。この場合、スカート部の筒状部のスプール軸方向の長さは短いものになる。
【0058】
(e)前記実施形態では、釣り糸導入部72eの先端部72aからの長さL1が膨出部72fの先端部72aからの長さL2よりも短かったが、実質的に同一であってもよい。
【0059】
(f)前記実施形態では、係止具本体72の外周端部73が略三角形であり、外周端部の一部に膨出部及び釣り糸導入部を設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、係止具本体の外周端部が略円形である場合、外周端部の全部に釣り糸導入部及び膨出部を設けてもよい。これにより、糸係止具のスプールへの取り付けが容易になるとともに、釣り糸の糸係止具への係止も容易になる。
【符号の説明】
【0060】
4 スプール
4a 糸巻き胴部
4b 前フランジ部
4c スカート部
4d 後フランジ部
4e 筒状部
4f 凹部
4g 底
面
4i 外周面
70 糸係止具
72 係止具本体
72a 先端部
72b 境界部分
72c 第一面
72d 第二面
72e 釣り糸導入部
72f 膨出部
72g 頂部
73 外周端部
74 装着部
80 シート部材
100 スピニングリール