(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切刃部を構成する切刃チップが工具本体の先端に裏打層を介してロウ付けしてなるとともに、前記逃げ面にて前記裏打層の前記切刃チップとの界面から100μm離れた位置の前記裏打層におけるWCの前記すくい面に対して垂直方向の残留応力σ11と、前記すくい面に対して水平方向の残留応力σ22とを2D法で測定した際に、前記σ11および前記σ22のどちらも圧縮応力であり、かつ1.0<σ11/σ22<1.2である請求項1または2記載の切削工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の立方晶窒化硼素焼結体のように、TiB
2とcBNのXRDピークとのピーク高さの比を0.06より小さくし、TiCNの(220)面ピークのピーク位置を制御では、切削工具として用いた際の工具性能が最適化されているとはいえなかった。具体的には、すくい面においてはクレータ摩耗が進行しやすく、耐摩耗性を高める必要があり、逃げ面においては境界損傷が発生しやすく、耐欠損性を高める必要があった。しかしながら、耐摩耗性と耐欠損性をともに高めることは困難であった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、切削工具として最適な耐摩耗性と耐欠損性とを兼ね備えたcBN焼結体からなる切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削工具は、すくい面と逃げ面との交差稜線部を切刃とし、該切刃を含む切刃部が、cBNを主体として、Ti(C
xN
1−x)(0≦x≦1)を含むcBN質焼結体から構成され、前記切刃部のすくい面および逃げ面にて測定したCu−Kα線のX線回折パターンにおいて、前記逃げ面におけるTi(C
xN
1−x)(0≦x≦1)の(200)面に帰属されるピークのcBN(111)面に帰属されるピークに対するピーク強度の比率(Ti(C
xN
1−x)(200)/cBN(111))をPf、前記すくい面における前記比率(Ti(C
xN
1−x)(200)/cBN(111))をPrとしたとき、PfがPrよりも大きいものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の切削工具によれば、切刃部のすくい面におけるクレータ摩耗が低減できるとともに、切刃部の逃げ面におけるチッピングが抑制できる。その結果、工具寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の切削工具の好適例である切削インサートの一例についての概略斜視図を
図1に示す。
図1の切削インサート(以下、単にインサートと略す。)1は、cBN焼結体6からなる切刃チップ5が、工具本体10の先端に、WCとCoとを含有する超硬合金からなる裏打層11を介してロウ付けされている。切刃チップ5は、すくい面2と逃げ面3と、その交差稜線である切刃4とを含む切刃部をなす。cBN焼結体6は、cBN(立方晶窒化硼素)を主体として、Ti(C
xN
1−x)(0≦x≦1)(以下、Ti(C
xN
1−x)と略す場合がある。)を含む。また、工具本体10は超硬合金または高速度鋼や合金鋼等の金属からなる。なお、
図1のインサート1は切刃チップ5のみがcBN焼結体6からなるが、本発明はこの実施態様に限定されるものではなく、切削インサート全体がcBN焼結体6からなるものであってもよい。この場合でも、当然ながら切刃部はcBN焼結体6からなるが、この場合には、切刃部は、切刃からインサートの厚みおよびすくい面の最長幅の1/4以下の長さの範囲と定義する。
【0010】
本実施態様によれば、切刃チップ5のすくい面2および逃げ面3にて測定したCu−Kα線のX線回折パターンにおいて、cBNのピークの中では(111)面に帰属されるピーク(以下、(111)面ピークと略す場合がある。)のピーク強度が最強であり、Ti(C
xN
1−x)面に帰属されるピークの中では(200)面に帰属されるピーク((200)面ピーク)のピーク強度が最強である。そして、逃げ面3におけるTi(C
xN
1−x)の(200)面ピークのcBNの(111)面ピークに対するピーク強度の比率(Ti(C
xN
1−x)(200)/cBN(111))をPf、すくい面2における前記比率(Ti(C
xN
1−x)(200)/cBN(111))をPrとしたとき、PfがPrよりも大きいものである。これによって、切削加工時の切刃チップ5において、すくい面2では、クレータ摩耗の進行を抑制して耐摩耗性が高く、逃げ面3では、境界損傷の発生を抑制して耐欠損性が高くなる。その結果、インサート1の工具寿命が長くなる。
【0011】
なお、Ti(C
xN
1−x)は、TiC(x=1)、TiN(x=0)、TiCN(0<x<1)およびこれら2種以上の混合物として存在する場合があるが、2種以上の混合物として存在して、(200)面ピークが2本以上観測される場合には、2本以上のすべてのピークのピーク強度を加算したピーク強度をTi(C
xN
1−x)のピーク強度として計算する。
【0012】
ここで、本実施態様では、前記比率Pfの前記比率Prに対する比率(Pf/Pr)が1.2〜2.0である。これによって、切刃チップ5の耐摩耗性および耐欠損性がより最適化される。
【0013】
また、cBNのピークにおいて、(111)面ピークのピーク強度は、すくい面および逃げ面のどちらでもそれ以外の結晶面のピークのピーク強度に比べて10倍以上のピーク強度を有している。すなわち、cBN粒子はすくい面および逃げ面に対して同じ配向性を持っている。一方、Ti(C
xN
1−x)面ピークにおいて、(200)面ピークのピーク強度と(111)面ピークのピーク強度とのピーク強度の比率(Ti(C
xN
1−x)(200)/Ti(C
xN
1−x)(111))は、すくい面2における比率が逃げ面3における比率よりも小さくなっている。すなわち、Ti(C
xN
1−x)はすくい面と逃げ面で異なる向きに配向している。これによって、すくい面では(111)面に配向しており、cBN焼結体6の結合相の硬度が高くなるので、切刃チップ5の耐摩耗性が向上する。一方、逃げ面では(200)面に配向しており、cBN焼結体6の結合相の靭性が高くなるので、切刃チップ5の耐チッピング性が向上する。
【0014】
また、本実施態様においては、切刃チップ5は工具本体10の先端に裏打層11を介してロウ付けされている。そして、
図1に示す逃げ面3にて超硬合金からなる裏打層11の切刃チップ5との界面から100μm離れた位置Pにおいて、裏打層11中のWCのすく
い面2に対して垂直方向の残留応力σ
11と、すくい面2に対して水平方向の残留応力σ
22とを2D法で測定した際に、σ
11およびσ
22のどちらも圧縮応力であり、かつ1.0<σ
11/σ
22<1.2である。これによって、cBN焼結体6と裏打層11との密着性が高くなるので、切削中に切刃チップ5が脱落することを抑制できる。
【0015】
なお、上記実施態様における残留応力の測定法は2D法(多軸応力測定法/フルデバイリングフィッティング法)を用いて測定する。また、裏打層11を構成する超硬合金中のWCの残留応力の測定に用いるX線回折ピークは、2θの値が147°の間に現れる(301)面ピークを用いる。なお、残留応力の算出に際しては、cBNのポアソン比=0.19、ヤング率=700,000MPaを用いて計算する。また、X線回折測定の条件としては、鏡面加工した裏打層11の逃げ面側に、X線の線源としてCuKα線を用い、出力=45kV、110mAの条件で照射して残留応力の測定を行う。
【0016】
なお、本実施態様によれば、cBN焼結体6に含有される結合材は、Ti(C
xN
1−x)の他に、TiB
2や、AlN等のAl化合物、Co、NiおよびMoの少なくとも1種が含有されている。結合材は総量で10〜70体積%、特に10〜30体積%の割合で構成されている。また、本実施態様では、cBN焼結体6がcBN粒子を50体積%以上、特に70体積%以上含んでいる。このようにcBN粒子の含有量が高くても結合材の結合力が高くcBN粒子の脱落を抑制できるものであることから、インサート1の耐摩耗性が高いものである。
【0017】
また、本実施態様において、cBN粒子の粒径は、耐摩耗性、強度の点から0.2〜10μm、特に望ましくは3〜7μmの範囲にある。なお、cBNの粒径の測定は、CIS−019D−2005に規定された超硬合金の平均粒径の測定方法に準じて測定する。
【0018】
次に、上述した切削工具の製造方法について説明する。
【0019】
例えば、原料粉末として平均粒径が0.2〜10μmのcBN原料粉末、平均粒径が0.2〜3μmの周期表第4、5および6族金属から選ばれる1種または2種以上の元素の金属粉末、炭化物粉末、窒化物粉末、平均粒径が0.5〜5μmのAlの原料粉末、および所望により鉄族金属粉末を特定の組成に秤量し、16〜72時間ボールミルにて粉砕混合する。その後、必要に応じて所定形状に成形する。成形には、プレス成形、射出成形、鋳込み成形、押し出し成形等の周知の成形手段を用いることができる。
【0020】
ついで、これを別途用意した超硬合金製の裏打支持体と共に超高圧焼結装置に装入し、1300〜1600℃の範囲内の所定の温度に4〜6GPaの圧力下で10〜60分保持する。このとき、超高圧焼結装置にかける上下面方向と側面方向の圧力について、焼成温度での加圧保持時間のうちの初めから80%の時間については、上下面方向と側面方向の圧力を同じ圧力で加圧する。その後、保持時間の後の20%の時間については、上下面方向の圧力が側面方向の圧力よりも高くなるように調整して加圧する。これによって、cBN質焼結体中に存在するTi(C
xN
1−x)の上下面方向と側面方向との配向性が異なった状態となり、すくい面と逃げ面でのcBN(111)面ピークとTi(C
xN
1−x)(200)面ピークとのピーク強度比率が変化する。
【0021】
また、作製したcBN焼結体からワイヤ放電加工によって所定寸法の切刃部を切り出す。このとき、焼成時に上下面方向から加圧された面がすくい面となるように切刃部を切り出す。そして、この切り出した切刃部を超硬合金製の工具本体の先端角部に形成した切り込み段部にロウ付けする。その後、ロウ付けしたインサートの上面を研削加工し、続いて切刃部の側面をcBN焼結体のはみ出した部分を含めて研削加工する。さらに切刃先端部にホーニング加工を施すことによって、本発明の切削工具を作製することができる。
【実施例】
【0022】
平均粒径5μmのcBN粉末、平均粒径3μmのTi化合物(TiN
0.6、TiC
0.6、)粉末、平均粒径1.5μmのAl粉末、平均粒径2μmのNi粉末、平均粒径2μmのMo粉末を用いて表1の組成に調合し、この粉体を、アルミナ製ボールを用いたボールミルで15時間混合した。次に混合した粉体を圧力98MPaで加圧成形した。この成形体と裏打支持体とを重ねて、超高圧装置内にセットし、50℃/分で昇温し、表1の焼成温度、保持時間により焼成した。このとき、保持時間の始めから80%の時間は、上下面方向と側面方向とに5.5GPaの圧力をかけて焼成し、その後の保持時間の20%の時間は、表1の最終加圧の圧力をかけて焼成した。そして、焼成後、圧力を開放して50℃/分で降温してcBN質焼結体を得た。
【0023】
次に、作製したcBN焼結体および裏打層との一体物からワイヤ放電加工によって所定の形状に切り出した。そして、超硬合金製の工具本体の切刃先端部に形成した切り込み段部に、裏打層の下面を工具本体の切り込み段部の表面にロウ付けして、切り出したcBN焼結体を切刃部とした。そして、このcBN焼結体の切刃部に対してダイヤモンドホイールを用いて刃先処理(チャンファホーニングおよびRホーニング)を施し、JIS・CNGA120408形状の切削インサートを作製した。
【0024】
得られたインサートについて、切刃部のcBN焼結体に対し、cBN焼結体の任意断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察によりcBN焼結体中のcBN粒子の含有比率を算出した。また、CIS−019D−2005に規定された超硬合金の平均粒径の測定方法に準じて測定したところ、cBN粒子の平均粒径はいずれも4〜7μmであった。さらに、すくい面および逃げ面から、BrukerAXS社製 D8 DISCOVER with GADDS Super Speed、線源:CuK
α、コリメータ径:0.8mmφを用いて、X線回折測定を行い、cBN焼結体中の結合材を特定した。結果は表1に示した。
【0025】
また、X線回折チャートから、Ti(C
xN
1−x)(0≦x≦1)(200)面ピークおよび(111)面ピークのピーク強度、cBN(111)面ピークのピーク強度を求めた。そして、逃げ面におけるTi(C
xN
1−x)(200)/cBN(111)の比率Pf、すくい面におけるその比率Pr、Pf/Prを算出した。結果は表2に示した。
【0026】
さらに、同じX線回折装置にて、2D法を用いて、逃げ面の裏打層において、切刃チップと裏打層との界面から100μmの下側の位置Pで裏打層を構成する超硬合金中のWCの残留応力(すくい面に対して垂直方向の残留応力成分σ
11、すくい面に対して水平方向の残留応力成分σ
22)を測定し、その比を算出した。結果は表3に示した。なお、数値がマイナス表示のときは圧縮応力であることを示している。
【0027】
次に、得られた切削インサートを用いて以下の切削条件にて切削試験を行った。結果は表3に合わせて示した。
切削方法:軽断続端面加工
被削材 :SCM435(浸炭焼入鋼:cスケールのロックウェル硬度(HRC)58〜62)、3個穴付き
切削速度:150m/min
送り :0.10mm/rev
切り込み:肩切り込み0.1mm、深さ切り込み0.2mm
切削状態:乾式
評価方法:摩耗または欠損に至るまでの加工数を評価した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
表1〜3に示した結果によれば、最終加圧において上下面の加圧圧力が側面の加圧圧力と同じ試料No.4では、PfとPrとが同じとなり、すくい面におけるクレータ摩耗の
進行が早くかつ逃げ面におけるチッピングが発生しやすくなって切削加工数が少なくなった。また、最終加圧において上下面の加圧圧力が側面の加圧圧力よりも小さい試料No.5では、PfがPrよりも小さくなり、さらに切削加工数が少なかった。
【0032】
これに対して、PfがPrよりも大きい試料No.1〜3は、いずれもすくい面におけるクレータ摩耗の進行が遅くかつ逃げ面におけるチッピングが発生しにくくなって加工数が多いものであった。