(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の半導電性セラミックスの実施形態である半導電性セラミックス12を備えて構成された電極付きセラミック部材10(以降、単にセラミック部材10ともいう)について説明する図であり、
図1(a)はセラミック部材10の概略斜視図であり、
図1(b)はセラミック部材10の概略断面図である。
【0013】
本実施形態のセラミック部材10は、半導電性セラミックス12と、半導電性セラミックス12の表面に設けられたい金属からなる接合層18aおよび18bと、接合層18a
および18bを介してセラミックス体12と接合した電極14aおよび14bとを備えて構成されている。なお、セラミック部材10には、半導電性セラミックス12と電極14aおよび電極14bとを連通する貫通孔11が設けられている。
【0014】
半導電性セラミックス12は、主成分として窒化アルミニウム(AlN)を含有するとともに少なくとも炭素(C)を含有し、内部領域12AにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークをC
1SAとし、表面領域12BにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークをC
1SBとしたとき、C
1SBの半値幅(FWHM:full width at half maximum)がC
1SAの半値幅に比べて小さい。なお、半導電性セラミックス12の内部領域12Aとは、半導電性セラミックス12の表面から内部に向けて10μm以上離れている領域のことをいう。
【0015】
半導電性セラミックス12にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1Sスペクトルのピークは、X線光電子分光分析装置を用いて測定することができる。具体的には、例えばアルバック・ファイ社製Quantam2000において、X線源としてモノクロAlKαを用い、X線出力を4.5W・15kVとし、Pass energyを214
0.00eVとし、Step sizeを0.125eVとして測定することができる。
【0016】
表面領域12BにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークC
1SBの半値幅が、内部領域12AにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークC
1SAの半値幅に比べて小さいとは、ピークC
1SBの半値幅がピークC
1SAの半値幅に比べて小さいとは、C
1SBスペクトルの半値幅がC
1SAスペクトルの半値幅に比べて小さいことをいう。
【0017】
ピークC
1SBの半値幅がピークC
1SAの半値幅に比べて小さいとは、好ましくはピークC
1SBの半値幅がピークC
1SAの半値幅の90%未満であることをいい、より好ましくはピークC
1SBの半値幅がピークC
1SAの半値幅の80%未満であることをいう。
【0018】
半導電性セラミックス12についてより詳述しておく。半導電性セラミックス12のC
1Sスペクトルのピークは、主に主成分である窒化アルミニウムの結晶内に固溶した炭素の化学的結合状態に対応していると考えられる。窒化アルミニウムの結晶内の炭素の固溶は主に、炭素イオンが窒化アルミニウム結晶の窒素イオンサイトへ固溶することで生じていると考えられる。
【0019】
C
1Sスペクトルのピークの半値幅はC
1Sスペクトルのピークの急峻性に応じて変わり、C
1Sスペクトルのピークは、固溶している炭素の密度が高いほどより急峻になると考えられる。表面領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークC
1SBの半値幅が、内部領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークC
1SAの半値幅に比べて小さい半導電性セラミックス12では、半導電性セラミックス12の表面領域12Bの方が、半導電性セラミックス12の内部領域12Aに比べて、固溶した炭素イオンの単位体積当たりの数が多いと考えられる。このような半導電性セラミックス12は、表面抵抗率が1×10
6〜1×10
9(Ω/□)と、一般的な窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスの表面抵抗率である1×10
11(Ω/□)よりも低い。このため、半導電性セラミックス12は、表面に電荷が比較的蓄積し難い。また、窒化アルミニウムは熱伝導率が150〜170(W/m・K)と比較的高く、かつ比熱が0.71〜0.74(W/m・K)と比較的小さい。このため半導電性セラミックス12は、熱源に近づけた場合も温度が上昇し難い。なお、表面抵抗率は、いわゆる二重リング電極法とよばれる例えばJIS K6271に準拠する方法で測定することができる。
【0020】
窒化アルミニウムの結晶に炭素イオンが固溶した場合の窒化アルミニウムの正確な結晶状態については定かではないが、炭素イオンの固溶にともなって正孔または自由電子が新たに発生していると想定することができる。炭素イオンの単位体積当たりの数が比較的多い表面領域12Bを有する半導電性セラミックス12は、表面領域12Bの正孔または自由電子が比較的多いので表面抵抗率が比較的低く、比較的大きな電荷が表面に蓄積し難くなっている。
【0021】
図2は、半導電性セラミックス12にX線を照射した際の、X線光電子分光分析によるスペクトルの例を示しており、表面領域12BにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークC
1SBと、内部領域12AにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC
1SスペクトルのピークC
1SAとをそれぞれ同一の高さに規格化して重ねて示している。窒化アルミニウムのC
1Sスペクトルのピークは、Binding En
ergyが約284.5eVの位置に現れることが知られている。
図2に示す例では、B
inding Energyが約284.8eVの位置に現れている急峻なピークが、窒
化アルミニウムのC
1Sスペクトルのピークである。
【0022】
図2に示す例では、ピークC
1SBの半値幅の大きさがピークC
1SAの半値幅の大きさの約75%となっている。
図2に示す例の半導電性セラミックス12では、表面抵抗率は1×10
6〜1×10
9(Ω/□)と、一般的な窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスの表面抵抗率である1×10
11(Ω/□)よりも低かった。一方、
図2に示す例の半導電性セラミックス12の表面を、例えばサンドブラスト装置を用いて10μmほど除去した後、除去後の表面の表面抵抗率を計測すると、表面抵抗率は1×10
11(Ω/□)と一般的な窒化アルミニウムの表面抵抗率と同等の大きさであった。このように半導電性セラミックス12は、固溶している炭素が比較的少なく表面抵抗率が比較的高い内部領域12Aを有しているので、全体的な電気抵抗値である体積固有抵抗は1×10
14(Ωcm)程度と比較的高く充分な絶縁性を有しつつ、固溶している炭素が比較的多い表面領域12Bを有しているので、表面電荷の過度な蓄積(チャージアップ)を抑制し、電子雪崩にともなう大電流の発生を抑制することができる。
【0023】
接合層18aおよび18bは、例えばAg−Cu―Tiロウ材層とNiメッキ層とが積層した金属層からなる。電極14aおよび14bは金や銅やコバール等からなり、電極14aは接合層18aを介して半導電性セラミックス12と接合し、電極14bは接合層18bを介して半導電性セラミックス12と接合している。接合層18aおよび18bや電極14aおよび14bの構成や材質については特に限定されない。
【0024】
図3は、
図1に示すセラミック部材10を備えて構成された電子線照射装置100(以降、単に装置100ともいう)の概略構成図である。
図3に示すように、装置100は電子Eを放出するための電子線源101と、電子線源101から放出された電子Eを加速するためのセラミック部材10と、いわゆる真空チャンバである金属製の容器103と、電子線源101と接続した電子線源用電源105と、セラミック部材10と接続した加速用電源106とを備えている。電子線源101およびセラミック部材10の少なくとも一部は、容器103の内部に配置されている。容器103の内部の電子Eが到達する位置には、ステージS上に載置された対象物Pが配置されている。セラミック部材10の一方の電極14aは、容器103と電気的および熱的に接続している。
【0025】
電子線源101は、陰極107と、陰極107を加熱するための加熱フィラメント109とを備えている。加熱フィラメント109は導電線を介して電子線源用電極105と接続しており、陰極107は加熱フィラメント109に支持されている。加熱フィラメント109は銅やタングステンを主成分とする熱フィラメントであり、電子線源用電極105によって電圧が印加されて電流が流れることで昇温する。陰極107は、タングステンや六ホウ化ランタン、カーボンナノチューブ等からなる先端(
図3中の下側の先端)の曲率半径が小さい部材であり、昇温した加熱フィラメント109の熱エネルギーを受け取って昇温し、曲率半径が小さい先端部分から電子Eを放出する。加熱フィラメント109の
図3中の下側の一部や陰極107は、セラミック部材10の貫通孔11内に配置されている。
【0026】
セラミック部材10の電極14aと14bとの間には、加速用電源106によって1〜100(kV)程度の比較的高い電圧が印加されている。陰極107から放出された電子Eは、この電極14aと14bとの間の電圧によって、
図3中の下側に向けて加速されて対象物Pに照射される。
【0027】
半導電性セラミックス12は、表面抵抗率が1×10
6〜1×10
9(Ω/□)と比較的低い。このため、電極14aと電極14bとの間に比較的高い電圧が印加された場合も
、半導電性セラミックス12の表面に過度に大量な電荷が蓄積される前に、蓄積した電荷が半導電性セラミックス12の表面を流れて電極14aまたは電極14bに到達する。到達した電荷は電極14aまたは電極14bを介して容器103や導電線等を通じてセラミック部材10から逃げていく。このように半導電性セラミックス12を備えるセラミック部材10を電子の加速管として用いた場合、半導電性セラミックス12の表面のチャージアップを抑制することができ、ひいてはチャージアップにともなって発生する過大電流を抑制することができる。
【0028】
また、電子線照射装置100では、加熱フィラメント109の一部がセラミック部材10の貫通孔11内に配置されており、半導電性セラミックス12には、熱源である加熱フィラメント109から輻射される熱エネルギーの多くが到達する。窒化アルミニウムを主成分とする半導電性セラミックス12は、比熱が0.71〜0.74(W/m・K)と比較的小さいので、熱エネルギーが到達しても温度が上昇し難く、また熱伝導率が150〜170(W/m・K)と比較的高いので、到達した熱エネルギーは、容器103と熱的に接続している電極14aを通じて容器103に流れ易い。このように窒化アルミニウムを主成分とする半導電性セラミックス12は比較的温度が上昇し難い。このため、装置100のように、熱源である加熱フィラメント109に半導電性セラミックス12を近づけて配置した場合でも、熱膨張および熱収縮による半導電性セラミックス12の割れや欠けは発生し難く、電極14aや電極14bと半導電性セラミックス12との熱膨張の程度の差に起因した、金属体14aや14bの半導電性セラミックス12からの剥がれも抑制されている。このようにセラミック部材10を備える装置100は、セラミック部材10と加熱フィラメント109を十分に近づけても高い動作信頼性を確保している。言い換えると、セラミック部材10を用いた場合、セラミック部材10と加熱フィラメント109を十分に近づけることができるので、装置100を充分に小型化することができる。
【0029】
このような装置100は、例えば電子顕微鏡装置における電子銃や、電子ビーム露光装置における電子銃などとして用いることができる。また、本発明の半導線性セラミックスは、表面のチャージアップを抑制してチャージアップにともなう大電流が発生し難いので、X線管用の絶縁碍子、TEM加速管用SEMレンズユニット、および真空スイッチ用途など、比較的高電圧が印加される用途に好適に用いることができる。本発明の半導電性セラミックスの形状や用途は特に限定されない。
【0030】
本発明の半導電性セラミックスは、例えば、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスと、炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置した状態で、このチャンバー内を真空にするとともにチャンバー内を600℃〜1000℃に昇温させて、この窒化アルミニウムセラミックスを加熱する工程を経て製造することができる。以下、本発明の半導電性セラミックスの製造方法の一実施形態について説明しておく。
【0031】
まずは窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス(窒化アルミニウムセラミックス)を製造する。例えば、粒径1〜2μmの窒化アルミニウム粉末94質量%と、例えばエルビウム(Er)等の希土類元素の酸化物からなる粉末6質量%からなる混合粉末を出発原料として、この混合粉末に有機バインダーおよびエタノールを添加混合してスラリーを作製し、得られたスラリーを噴霧乾燥してこの顆粒をCIP成形(冷間等方加圧成形)し、得られた成形体を切削加工して円筒状の成形体を作製する。
【0032】
続いて、この円筒状の成形体を、窒素ガス中で700℃で約3時間熱処理して脱脂した後、窒素ガス中で1750℃で5時間焼成することにより、円筒状の窒化アルミニウムセラミックスを得る。得られた窒化アルミニウムセラミックスは、例えば表面抵抗率が1×10
11(Ω/□)程度である。また、得られた窒化アルミニウムセラミックスは、窒化アルミニウムを主成分とする粒子の粒界に、希土類元素(例えばエルビウム)とアルミニ
ウムとを含む複合酸化物が存在している。
【0033】
続いて、このようにして得られた窒化アルミニウムセラミックスと、炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置した状態で、このチャンバー内を真空にするとともに窒化アルミニウムセラミックスを600℃〜1000℃に昇温させる。本実施形態では、抵抗加熱式の赤外線ヒータを有する真空加熱炉を加熱装置として用い、例えば90質量%以上の炭素を含有するステージ部材の上に、この窒化アルミニウムセラミックスを載置し、このステージ部材とともに窒化アルミニウムセラミックスを加熱する。具体的には、例えば真空式加熱炉のチャンバー内を1.0×10
−5Pa以下に真空引きした状態で、チャンバー内に配置された抵抗加熱式ヒータに電流を印加して、チャンバー内の窒化アルミニウムセラミックスを、ステージ部材とともに600℃〜1000℃まで昇温させ、600℃〜1000℃の状態で約15分間維持する。なお、炭素を主成分とする炭素含有部材は、例えば加熱装置内のヒータ部分を保護するための保護部材などであってもよく、特に限定されない。
【0034】
この600℃〜1000℃での熱処理の最中、チャンバー内は真空引きされており、炭素を主成分とする炭素含有部材からアウトガスとして炭素が放出される。すなわちこの600℃〜1000℃での熱処理の最中、窒化アルミニウムセラミックスの表面近傍には炭素原子が多く浮遊しており、この炭素原子が窒化アルミニウムセラミックスに衝突している。窒化アルミニウムセラミックスに衝突した炭素原子は、上述のように主成分である窒化アルミニウムの結晶に固溶していく。すなわち、窒化アルミニウムセラミックスの特に表面領域に多くの炭素原子が固溶していく。これにより、表面領域の方が内部領域に比べて固溶した炭素イオンの単位体積当たりの数が多い半導電性セラミックス、すなわち、ピークC
1SBの半値幅がピークC
1SAの半値幅に比べて小さい半導電性セラミックスを得ることができる。このようにして得られた半導電性セラミックス12の表面抵抗率は、約1×10
6〜1×10
9(Ω/□)である。このような熱処理によって、窒化アルミニウムセラミックスの表面に炭素を固溶させて、窒化アルミニウムセラミックスの表面抵抗率を低減させることができることは、本願発明者の試行錯誤の実験の結果、初めて見出されたものである。
【0035】
上記実施形態では、得られた半導電性セラミックス12の表面抵抗率は約1×10
6〜1×10
9(Ω/□)であったが、熱処理の温度や時間や熱処理の回数等を調整することで、1×10
6(Ω/□)未満の表面抵抗率の半導電性セラミックスや、1×10
9(Ω/□)より大きい表面抵抗率の半導電性セラミックス等を得ることもできる。
【0036】
例えば、接合層18aおよび18bや電極14aおよび14bを半導電性セラミックス12の表面に形成する際の、メタライジング工程やメッキ処理工程における雰囲気や温度範囲を調整することで、半導電性セラミックス12の表面抵抗率をさらに低減させることができる。具体的には、メタライジング工程やメッキ処理工程において、半導電性セラミックス12と炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置し、このチャンバー内を真空にするとともに600℃〜1000℃に昇温させてメタライジング工程やメッキ処理工程を行うことで、半導電性セラミックス12の表面領域にさらに炭素を固溶させて、半導電性セラミック12の表面抵抗率をさらに低減させることも可能である。
【0037】
また逆に、例えばブラスト処理等によって、半導電性セラミックス12の表面領域12Bを表面側から一部除去することで、表面領域12Bにおける固溶した炭素の量を低減させ、半導電性セラミック12の表面抵抗率を比較的高めに調整することもできる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の半導電性セラミックスおよび半
導電性セラミックスの製造方法は、上記の各実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行なってもよいのはもちろんである。