特許第6039497号(P6039497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6039497半導電性セラミックスおよび半導電性セラミックスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039497
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】半導電性セラミックスおよび半導電性セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/581 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   C04B35/58 104H
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-94802(P2013-94802)
(22)【出願日】2013年4月27日
(65)【公開番号】特開2014-214069(P2014-214069A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川端 裕貴
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112705(JP,A)
【文献】 特開平08−109069(JP,A)
【文献】 特開2006−001834(JP,A)
【文献】 特表2004−521052(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/008683(WO,A1)
【文献】 特開2008−239386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581−35/582
C04B 35/64−35/65
C04B 41/80−41/91
C30B 29/38
H01J 37/147−37/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として窒化アルミニウムを含有するとともに少なくとも炭素を含有し、
内部領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SAとし、表面領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SBとしたとき、
前記C1SBの半値幅が前記C1SAの半値幅に比べて小さいことを特徴とする半導電性セラミックス。
【請求項2】
前記C1SBの半値幅が前記C1SAの半値幅の80%未満であることを特徴とする請求項1記載の半導電性セラミックス。
【請求項3】
表面抵抗率が1×10〜1×10であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導電性セラミックス。
【請求項4】
窒化アルミニウムを主成分とする半導電性セラミックスの製造方法であって、
窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスと、炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置した状態で、前記チャンバー内を真空にするとともに前記チャンバー内を600℃〜1000℃に昇温させて前記セラミックスを加熱することで、内部領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SAとし、表面領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SBとしたとき、前記C1SBの半値幅が前記C1SAの半値幅に比べて小さい、窒化アルミニウムを主結晶とする半導電性セラミックスを得ることを特徴とする半導電性セラミックスの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分として窒化アルミニウムを含有する半導電性セラミックス、および半導電性セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子顕微鏡装置などに用いられる電子加速管や静電偏向器、X線照射装置等に用いられるX線管用絶縁碍子等には、セラミックス体の表面に金属からなる複数の電極が設けられた、電極付きセラミック部材が用いられている。かかる電極付きセラミック部材には、複数の電極の間に比較的高い電圧が印加される。複数の電極の間に比較的高い電圧が印加された場合、電極と電極との間のセラミックスの表面に電荷の蓄積(チャージアップ)が生じる場合がある。このチャージアップした電荷の量が大きくなり過ぎると、蓄積した電荷が一気に流れ出す電子雪崩による大電流が発生し、偏向器の動作不良や損傷に繋がる虞があった。
【0003】
例えば下記特許文献1には、静電偏向器に適した電極付きセラミック部材として、電極間で起こる電荷の蓄積(チャージアップ)を低減することができる半導電性セラミックスを用いた電極付きセラミック部材が提案されている。特許文献1では、静電偏向器に適した電極付きセラミック部材に用いるセラミックスとして、主成分であるアルミナ(Al)にチタン(Ti)が含有された、表面抵抗率が1×1010(Ω/□)程度の半導電性セラミックスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−190853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子顕微鏡装置やX線放射装置等の小型化が進んでおり、それら装置に用いられる電極付きセラミック部材も小型化が進んでいる。これら装置の小型化にともない、電極付きセラミック部材と装置内の熱源との距離が近づき、電極付きセラミック部材に流入する熱エネルギーは大きくなっている。例えばアルミナは熱伝導率が28〜38(W/m・K)と比較的低く、かつ比熱が0.75〜0.8(W/m・K)と比較的大きいので、特許文献1に記載のアルミナを主成分とする半導電性セラミックスでは、流入した熱エネルギーが半導電性セラミックス内部に比較的多く蓄えられ易い。すなわち、特許文献1に記載のアルミナを主成分とする半導電性セラミックスを用いた電極付きセラミック部材では、装置の小型化にともなって電極付きセラミック部材の温度が過度に上昇し易くなっていた。
【0006】
電極付きセラミックス部材の温度が過度に上昇し易い状態で装置を継続して使用した場合、半導電性セラミックス自体の熱膨張および熱収縮によって、半導電性セラミックスに割れや欠けが発生したり、金属とセラミックスとの熱膨張の大きさの差に起因して半導電性セラミックスから電極が剥がれ易いといった課題があった。本発明は、かかる課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主成分として窒化アルミニウムを含有するとともに少なくとも炭素を含有し、内部領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SAとし、表面領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SBとしたとき、前記C1SBの半値幅が前記C1SAの半値幅に比べて小さいことを特徴とする半導電性セラミックスを提供する。
【0008】
また、窒化アルミニウムを主成分とする半導電性セラミックスの製造方法であって、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスと、炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置した状態で、前記チャンバー内を真空にするとともに前記チャンバー内を600℃〜1000℃に昇温させて前記セラミックスを加熱することで、内部領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SAとし、表面領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SBとしたとき、前記C1SBの半値幅が前記C1SAの半値幅に比べて小さい、窒化アルミニウムを主結晶とする半導電性セラミックスを得ることを特徴とする半導電性セラミックスの作製方法を併せて提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の半導電性セラミックスは、比較的大きな電荷が表面に蓄積し難く、かつ熱伝導率が比較的高く温度が上昇し難い。本発明の半導電性セラミックスの製造方法によれば、表面に大きな電荷が蓄積し難く、かつ熱伝導率が比較的高く温度が上昇し難い半導電性セラミックスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の半導電性セラミックスの一実施形態を備えて構成された電極付きセラミック部材について説明する図であり、図1(a)は概略斜視図であり、図1(b)は概略断面図である。
図2図1に示す半導電性セラミックスにX線を照射した際の、X線光電子分光分析によるC1Sスペクトルの例を示している。
図3図1に示す電極付きセラミック部材を備えて構成された電子線照射装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の半導電性セラミックスの実施形態である半導電性セラミックス12を備えて構成された電極付きセラミック部材10(以降、単にセラミック部材10ともいう)について説明する図であり、図1(a)はセラミック部材10の概略斜視図であり、図1(b)はセラミック部材10の概略断面図である。
【0013】
本実施形態のセラミック部材10は、半導電性セラミックス12と、半導電性セラミックス12の表面に設けられたい金属からなる接合層18aおよび18bと、接合層18a
および18bを介してセラミックス体12と接合した電極14aおよび14bとを備えて構成されている。なお、セラミック部材10には、半導電性セラミックス12と電極14aおよび電極14bとを連通する貫通孔11が設けられている。
【0014】
半導電性セラミックス12は、主成分として窒化アルミニウム(AlN)を含有するとともに少なくとも炭素(C)を含有し、内部領域12AにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SAとし、表面領域12BにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークをC1SBとしたとき、C1SBの半値幅(FWHM:full width at half maximum)がC1SAの半値幅に比べて小さい。なお、半導電性セラミックス12の内部領域12Aとは、半導電性セラミックス12の表面から内部に向けて10μm以上離れている領域のことをいう。
【0015】
半導電性セラミックス12にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1Sスペクトルのピークは、X線光電子分光分析装置を用いて測定することができる。具体的には、例えばアルバック・ファイ社製Quantam2000において、X線源としてモノクロAlKαを用い、X線出力を4.5W・15kVとし、Pass energyを214
0.00eVとし、Step sizeを0.125eVとして測定することができる。
【0016】
表面領域12BにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークC1SBの半値幅が、内部領域12AにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークC1SAの半値幅に比べて小さいとは、ピークC1SBの半値幅がピークC1SAの半値幅に比べて小さいとは、C1SBスペクトルの半値幅がC1SAスペクトルの半値幅に比べて小さいことをいう。
【0017】
ピークC1SBの半値幅がピークC1SAの半値幅に比べて小さいとは、好ましくはピークC1SBの半値幅がピークC1SAの半値幅の90%未満であることをいい、より好ましくはピークC1SBの半値幅がピークC1SAの半値幅の80%未満であることをいう。
【0018】
半導電性セラミックス12についてより詳述しておく。半導電性セラミックス12のC1Sスペクトルのピークは、主に主成分である窒化アルミニウムの結晶内に固溶した炭素の化学的結合状態に対応していると考えられる。窒化アルミニウムの結晶内の炭素の固溶は主に、炭素イオンが窒化アルミニウム結晶の窒素イオンサイトへ固溶することで生じていると考えられる。
【0019】
1Sスペクトルのピークの半値幅はC1Sスペクトルのピークの急峻性に応じて変わり、C1Sスペクトルのピークは、固溶している炭素の密度が高いほどより急峻になると考えられる。表面領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークC1SBの半値幅が、内部領域にX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークC1SAの半値幅に比べて小さい半導電性セラミックス12では、半導電性セラミックス12の表面領域12Bの方が、半導電性セラミックス12の内部領域12Aに比べて、固溶した炭素イオンの単位体積当たりの数が多いと考えられる。このような半導電性セラミックス12は、表面抵抗率が1×10〜1×10(Ω/□)と、一般的な窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスの表面抵抗率である1×1011(Ω/□)よりも低い。このため、半導電性セラミックス12は、表面に電荷が比較的蓄積し難い。また、窒化アルミニウムは熱伝導率が150〜170(W/m・K)と比較的高く、かつ比熱が0.71〜0.74(W/m・K)と比較的小さい。このため半導電性セラミックス12は、熱源に近づけた場合も温度が上昇し難い。なお、表面抵抗率は、いわゆる二重リング電極法とよばれる例えばJIS K6271に準拠する方法で測定することができる。
【0020】
窒化アルミニウムの結晶に炭素イオンが固溶した場合の窒化アルミニウムの正確な結晶状態については定かではないが、炭素イオンの固溶にともなって正孔または自由電子が新たに発生していると想定することができる。炭素イオンの単位体積当たりの数が比較的多い表面領域12Bを有する半導電性セラミックス12は、表面領域12Bの正孔または自由電子が比較的多いので表面抵抗率が比較的低く、比較的大きな電荷が表面に蓄積し難くなっている。
【0021】
図2は、半導電性セラミックス12にX線を照射した際の、X線光電子分光分析によるスペクトルの例を示しており、表面領域12BにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークC1SBと、内部領域12AにX線を照射した際のX線光電子分光分析によるC1SスペクトルのピークC1SAとをそれぞれ同一の高さに規格化して重ねて示している。窒化アルミニウムのC1Sスペクトルのピークは、Binding En
ergyが約284.5eVの位置に現れることが知られている。図2に示す例では、B
inding Energyが約284.8eVの位置に現れている急峻なピークが、窒
化アルミニウムのC1Sスペクトルのピークである。
【0022】
図2に示す例では、ピークC1SBの半値幅の大きさがピークC1SAの半値幅の大きさの約75%となっている。図2に示す例の半導電性セラミックス12では、表面抵抗率は1×10〜1×10(Ω/□)と、一般的な窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスの表面抵抗率である1×1011(Ω/□)よりも低かった。一方、図2に示す例の半導電性セラミックス12の表面を、例えばサンドブラスト装置を用いて10μmほど除去した後、除去後の表面の表面抵抗率を計測すると、表面抵抗率は1×1011(Ω/□)と一般的な窒化アルミニウムの表面抵抗率と同等の大きさであった。このように半導電性セラミックス12は、固溶している炭素が比較的少なく表面抵抗率が比較的高い内部領域12Aを有しているので、全体的な電気抵抗値である体積固有抵抗は1×1014(Ωcm)程度と比較的高く充分な絶縁性を有しつつ、固溶している炭素が比較的多い表面領域12Bを有しているので、表面電荷の過度な蓄積(チャージアップ)を抑制し、電子雪崩にともなう大電流の発生を抑制することができる。
【0023】
接合層18aおよび18bは、例えばAg−Cu―Tiロウ材層とNiメッキ層とが積層した金属層からなる。電極14aおよび14bは金や銅やコバール等からなり、電極14aは接合層18aを介して半導電性セラミックス12と接合し、電極14bは接合層18bを介して半導電性セラミックス12と接合している。接合層18aおよび18bや電極14aおよび14bの構成や材質については特に限定されない。
【0024】
図3は、図1に示すセラミック部材10を備えて構成された電子線照射装置100(以降、単に装置100ともいう)の概略構成図である。図3に示すように、装置100は電子Eを放出するための電子線源101と、電子線源101から放出された電子Eを加速するためのセラミック部材10と、いわゆる真空チャンバである金属製の容器103と、電子線源101と接続した電子線源用電源105と、セラミック部材10と接続した加速用電源106とを備えている。電子線源101およびセラミック部材10の少なくとも一部は、容器103の内部に配置されている。容器103の内部の電子Eが到達する位置には、ステージS上に載置された対象物Pが配置されている。セラミック部材10の一方の電極14aは、容器103と電気的および熱的に接続している。
【0025】
電子線源101は、陰極107と、陰極107を加熱するための加熱フィラメント109とを備えている。加熱フィラメント109は導電線を介して電子線源用電極105と接続しており、陰極107は加熱フィラメント109に支持されている。加熱フィラメント109は銅やタングステンを主成分とする熱フィラメントであり、電子線源用電極105によって電圧が印加されて電流が流れることで昇温する。陰極107は、タングステンや六ホウ化ランタン、カーボンナノチューブ等からなる先端(図3中の下側の先端)の曲率半径が小さい部材であり、昇温した加熱フィラメント109の熱エネルギーを受け取って昇温し、曲率半径が小さい先端部分から電子Eを放出する。加熱フィラメント109の図3中の下側の一部や陰極107は、セラミック部材10の貫通孔11内に配置されている。
【0026】
セラミック部材10の電極14aと14bとの間には、加速用電源106によって1〜100(kV)程度の比較的高い電圧が印加されている。陰極107から放出された電子Eは、この電極14aと14bとの間の電圧によって、図3中の下側に向けて加速されて対象物Pに照射される。
【0027】
半導電性セラミックス12は、表面抵抗率が1×10〜1×10(Ω/□)と比較的低い。このため、電極14aと電極14bとの間に比較的高い電圧が印加された場合も
、半導電性セラミックス12の表面に過度に大量な電荷が蓄積される前に、蓄積した電荷が半導電性セラミックス12の表面を流れて電極14aまたは電極14bに到達する。到達した電荷は電極14aまたは電極14bを介して容器103や導電線等を通じてセラミック部材10から逃げていく。このように半導電性セラミックス12を備えるセラミック部材10を電子の加速管として用いた場合、半導電性セラミックス12の表面のチャージアップを抑制することができ、ひいてはチャージアップにともなって発生する過大電流を抑制することができる。
【0028】
また、電子線照射装置100では、加熱フィラメント109の一部がセラミック部材10の貫通孔11内に配置されており、半導電性セラミックス12には、熱源である加熱フィラメント109から輻射される熱エネルギーの多くが到達する。窒化アルミニウムを主成分とする半導電性セラミックス12は、比熱が0.71〜0.74(W/m・K)と比較的小さいので、熱エネルギーが到達しても温度が上昇し難く、また熱伝導率が150〜170(W/m・K)と比較的高いので、到達した熱エネルギーは、容器103と熱的に接続している電極14aを通じて容器103に流れ易い。このように窒化アルミニウムを主成分とする半導電性セラミックス12は比較的温度が上昇し難い。このため、装置100のように、熱源である加熱フィラメント109に半導電性セラミックス12を近づけて配置した場合でも、熱膨張および熱収縮による半導電性セラミックス12の割れや欠けは発生し難く、電極14aや電極14bと半導電性セラミックス12との熱膨張の程度の差に起因した、金属体14aや14bの半導電性セラミックス12からの剥がれも抑制されている。このようにセラミック部材10を備える装置100は、セラミック部材10と加熱フィラメント109を十分に近づけても高い動作信頼性を確保している。言い換えると、セラミック部材10を用いた場合、セラミック部材10と加熱フィラメント109を十分に近づけることができるので、装置100を充分に小型化することができる。
【0029】
このような装置100は、例えば電子顕微鏡装置における電子銃や、電子ビーム露光装置における電子銃などとして用いることができる。また、本発明の半導線性セラミックスは、表面のチャージアップを抑制してチャージアップにともなう大電流が発生し難いので、X線管用の絶縁碍子、TEM加速管用SEMレンズユニット、および真空スイッチ用途など、比較的高電圧が印加される用途に好適に用いることができる。本発明の半導電性セラミックスの形状や用途は特に限定されない。
【0030】
本発明の半導電性セラミックスは、例えば、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスと、炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置した状態で、このチャンバー内を真空にするとともにチャンバー内を600℃〜1000℃に昇温させて、この窒化アルミニウムセラミックスを加熱する工程を経て製造することができる。以下、本発明の半導電性セラミックスの製造方法の一実施形態について説明しておく。
【0031】
まずは窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス(窒化アルミニウムセラミックス)を製造する。例えば、粒径1〜2μmの窒化アルミニウム粉末94質量%と、例えばエルビウム(Er)等の希土類元素の酸化物からなる粉末6質量%からなる混合粉末を出発原料として、この混合粉末に有機バインダーおよびエタノールを添加混合してスラリーを作製し、得られたスラリーを噴霧乾燥してこの顆粒をCIP成形(冷間等方加圧成形)し、得られた成形体を切削加工して円筒状の成形体を作製する。
【0032】
続いて、この円筒状の成形体を、窒素ガス中で700℃で約3時間熱処理して脱脂した後、窒素ガス中で1750℃で5時間焼成することにより、円筒状の窒化アルミニウムセラミックスを得る。得られた窒化アルミニウムセラミックスは、例えば表面抵抗率が1×1011(Ω/□)程度である。また、得られた窒化アルミニウムセラミックスは、窒化アルミニウムを主成分とする粒子の粒界に、希土類元素(例えばエルビウム)とアルミニ
ウムとを含む複合酸化物が存在している。
【0033】
続いて、このようにして得られた窒化アルミニウムセラミックスと、炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置した状態で、このチャンバー内を真空にするとともに窒化アルミニウムセラミックスを600℃〜1000℃に昇温させる。本実施形態では、抵抗加熱式の赤外線ヒータを有する真空加熱炉を加熱装置として用い、例えば90質量%以上の炭素を含有するステージ部材の上に、この窒化アルミニウムセラミックスを載置し、このステージ部材とともに窒化アルミニウムセラミックスを加熱する。具体的には、例えば真空式加熱炉のチャンバー内を1.0×10−5Pa以下に真空引きした状態で、チャンバー内に配置された抵抗加熱式ヒータに電流を印加して、チャンバー内の窒化アルミニウムセラミックスを、ステージ部材とともに600℃〜1000℃まで昇温させ、600℃〜1000℃の状態で約15分間維持する。なお、炭素を主成分とする炭素含有部材は、例えば加熱装置内のヒータ部分を保護するための保護部材などであってもよく、特に限定されない。
【0034】
この600℃〜1000℃での熱処理の最中、チャンバー内は真空引きされており、炭素を主成分とする炭素含有部材からアウトガスとして炭素が放出される。すなわちこの600℃〜1000℃での熱処理の最中、窒化アルミニウムセラミックスの表面近傍には炭素原子が多く浮遊しており、この炭素原子が窒化アルミニウムセラミックスに衝突している。窒化アルミニウムセラミックスに衝突した炭素原子は、上述のように主成分である窒化アルミニウムの結晶に固溶していく。すなわち、窒化アルミニウムセラミックスの特に表面領域に多くの炭素原子が固溶していく。これにより、表面領域の方が内部領域に比べて固溶した炭素イオンの単位体積当たりの数が多い半導電性セラミックス、すなわち、ピークC1SBの半値幅がピークC1SAの半値幅に比べて小さい半導電性セラミックスを得ることができる。このようにして得られた半導電性セラミックス12の表面抵抗率は、約1×10〜1×10(Ω/□)である。このような熱処理によって、窒化アルミニウムセラミックスの表面に炭素を固溶させて、窒化アルミニウムセラミックスの表面抵抗率を低減させることができることは、本願発明者の試行錯誤の実験の結果、初めて見出されたものである。
【0035】
上記実施形態では、得られた半導電性セラミックス12の表面抵抗率は約1×10〜1×10(Ω/□)であったが、熱処理の温度や時間や熱処理の回数等を調整することで、1×10(Ω/□)未満の表面抵抗率の半導電性セラミックスや、1×10(Ω/□)より大きい表面抵抗率の半導電性セラミックス等を得ることもできる。
【0036】
例えば、接合層18aおよび18bや電極14aおよび14bを半導電性セラミックス12の表面に形成する際の、メタライジング工程やメッキ処理工程における雰囲気や温度範囲を調整することで、半導電性セラミックス12の表面抵抗率をさらに低減させることができる。具体的には、メタライジング工程やメッキ処理工程において、半導電性セラミックス12と炭素を主成分とする炭素含有部材とを加熱装置のチャンバー内に配置し、このチャンバー内を真空にするとともに600℃〜1000℃に昇温させてメタライジング工程やメッキ処理工程を行うことで、半導電性セラミックス12の表面領域にさらに炭素を固溶させて、半導電性セラミック12の表面抵抗率をさらに低減させることも可能である。
【0037】
また逆に、例えばブラスト処理等によって、半導電性セラミックス12の表面領域12Bを表面側から一部除去することで、表面領域12Bにおける固溶した炭素の量を低減させ、半導電性セラミック12の表面抵抗率を比較的高めに調整することもできる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の半導電性セラミックスおよび半
導電性セラミックスの製造方法は、上記の各実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行なってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0039】
10 電極付きセラミック部材
11 貫通孔
12 半導電性セラミックス
12A 内部領域
12B 表面領域
14aおよび14b 電極
18aおよび18b 接合層
100 電子線照射装置
101 電子線源
103 容器
105 電子線源用電源
106 加速用電源
107 陰極
109 加熱フィラメント
図1
図2
図3