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特許6039556被験者の目の特性を測定するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039556
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】被験者の目の特性を測定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/06 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   A61B3/06 A
   A61B3/06ZDM
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-524479(P2013-524479)
(86)(22)【出願日】2011年8月17日
(65)【公表番号】特表2013-534165(P2013-534165A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】GB2011001226
(87)【国際公開番号】WO2012022938
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年8月12日
(31)【優先権主張番号】1013796.6
(32)【優先日】2010年8月18日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505395858
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MANCHESTER
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】マーレイ イアン
(72)【発明者】
【氏名】カーデン デイヴィット
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06315412(US,B1)
【文献】 特表2007−503935(JP,A)
【文献】 Artur V. Cideciyan et al,Rod plateaux during dark adaptation in Sorsby's fundus dystrophy and vitamin A deficiency,Investigative ophthalmology & visual science,Association For Research In Vision And Ophthalmology,1997年 8月,vol.38, no.9,pp.1786-1794
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリーチ光、桿体に対して見せ掛け上不可視の背景光、及び、桿体に対して見せ掛け上可視であり固視点相対的位置関係を有するところに標的光を提供するように配置された装置であって、前記背景光及び標的光は共同して桿体優勢の刺激に適しており、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射するところの装置を用いて、前記被験者の目の特性を測定するための方法であって、
a)前記ブリーチ光を用いて、低レベルのブリーチで前記被験者の網膜を刺激し;
b)前記ブリーチを開始した後、背景光を実質的に一定に維持しながら、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で標的光を調節し;
c)調節に係る前記標的光の輝度を増加し;
d)前記標的光の調節を前記被験者が認識するときに、桿体に関連した閾値を示す、前記被験者からの入力を受け;
e)前記入力後、調節に係る前記標的光の輝度を減少し;そして、
f)前記方法の工程c)からe)を繰り返して、所定時間に亘る桿体に関連した一連の閾値を決定する
ことを含む方法。
【請求項2】
桿体に関連した前記一連の閾値が所定の傾向を示すまで、工程c)からe)を繰り返し、前記所定の傾向は、
桿体の勾配を少なくとも示すこと;及び/又は、
対数尺度に対してプロットしたときに、実質的に線状であること
のうちの1つ又は双方である、
請求項1に記載した方法。
【請求項3】
工程f)を開始した後に、前記方法は、
桿体に対して見せ掛け上可視の背景光、及び、桿体に対して見せ掛け上不可視の標的光を提供するように配置された装置であって、前記背景光及び標的光は共同して錐体優勢の刺激に適しており、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射するところの装置を用いて、前記被験者の前記目の他の特性を測定することを更に含み、
前記方法は、
i)前記背景光を実質的に一定に維持しながら、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で前記標的光を調節し;
ii)調節に係る前記標的光の輝度を増加し;
iii)前記標的光の調節を前記被験者が認識するときに、錐体に関連した閾値を示す、前記被験者からの入力を受け;
iv)前記入力後、調節に係る前記標的光の輝度を減少し;そして、
v)前記方法の工程ii)からiv)を繰り返して、所定時間に亘る錐体に関連した一連の閾値を決定する
ことを更に含む、請求項1又は請求項2に記載した方法。
【請求項4】
錐体に関連した前記一連の閾値が所定の傾向を示すまで、工程ii)からiv)を繰り返し、前記所定の傾向は、
錐体プラトーを少なくとも示すこと;及び/又は、
錐体プラトーへのアプローチを少なくとも示すこと;及び/又は、
錐体回復率を少なくとも示すこと
のうちの1つ又は複数である、
請求項3に記載した方法。
【請求項5】
低レベルの前記ブリーチが、0.5%から30%の範囲内、又は、5%から20%の範囲内、又は、5%から15%の範囲内、又は、約10%である、請求項1から4の何れか1つに記載した方法。
【請求項6】
前記ブリーチ光を、前記方法の専用のブリーチング工程に設け、又は、前記被験者の前記目の更なる特性を決定するために用いられる光調節型試験を含む方法によって設ける、請求項1から5の何れか1つに記載した方法。
【請求項7】
前記標的光の調節が認識されない前記初期輝度は、実質的に零である、請求項1から6の何れか1つに記載した方法。
【請求項8】
前記背景光の輝度が、5.0cd/m以下であり、又は、1.0cd/m以下である、請求項1から7の何れか1つに記載した方法。
【請求項9】
前記標的光の輝度が、0cd/mから5cd/mの範囲内である、請求項1から8の何れか1つに記載した方法。
【請求項10】
調節に係る前記標的光の輝度の増加は、実質的に連続的であり、そして/又は、前記輝度を一定の比率で増加することを含む、請求項1から9の何れか1つに記載した方法。
【請求項11】
調節に係る前記標的光の輝度の増加を、1dB/sと10dB/sとの間の標的光の輝度の増加、又は、約2dB/sの標的光の輝度の増加があるように行う、請求項1から10の何れか1つに記載した方法。
【請求項12】
調節に係る前記標的光の輝度の減少を、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されないように行う、請求項1から11の何れか1つに記載した方法。
【請求項13】
前記標的光の輝度の減少を、1dBと20dBとの間、又は、5dBと15dBとの間の標的光の輝度の減少、又は、約10dBの標的光の輝度の減少があるように行う、請求項1から12の何れか1つに記載した方法。
【請求項14】
前記調節を、1Hzと15Hzとの間、又は、1Hzと5Hzとの間の周波数、又は、4Hzの周波数で開始する、請求項1から13の何れか1つに記載した方法。
【請求項15】
前記被験者が固視点を見るときに、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射するように、前記標的光を配置し、前記被験者は、その視野を、前記方法の少なくとも1つの工程中に、前記固視点に固定し、
前記固視点と標的との間、又は、その一部を前記被験者が認識する角度が、
2°と20°との間;又は、
4°と12°との間;又は、
5°と10°との間
になるように、前記標的を配置する、請求項1から14の何れか1つに記載した方法。
【請求項16】
前記標的光の調節を、前記ブリーチ後直ちに開始する、請求項1から15の何れか1つに記載した方法。
【請求項17】
被験者の目の特性を測定するための測定装置であって、前記装置は、
ブリーチ光、桿体に対して見せ掛け上不可視の背景光、及び、桿体に対して見せ掛け上可視であり固視点相対的位置関係を有するところに標的光を提供するように配置された1つ又は複数の光源を備え、前記背景光及び標的光は共同して桿体優勢の刺激に適しており、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は前記被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射し、
前記装置は、使用時に前記装置を制御して:
a)前記被験者の網膜を、前記ブリーチ光を用いた低レベルのブリーチに曝し;
b)前記ブリーチを開始した後、前記背景光を実質的に一定に維持しながら、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で前記標的光を調節し;
c)調節に係る前記標的光の輝度を増加し;
d)前記標的光の調節を前記被験者が認識するときに、桿体に関連した閾値を示す、前記被験者からの入力を、前記装置の一部を構成する指示手段を介して受け;
e)前記入力後、調節に係る前記標的光の輝度を減少し;そして、
f)工程c)からe)を繰り返して、所定時間に亘る桿体に関連した一連の閾値を決定する
ための制御手段を更に含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の目の特性、特に、被験者の上記目の網膜の特性を測定するための方法及び装置に関するものである。この特性は、主として、網膜の桿体に関するものであるが、付加的な実施形態においては、網膜の錐体に関する場合がある。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の網膜が明るい光に曝された後(多くの場合、ブリーチという)、この網膜には、カスケード生化学反応が生ずる。ブリーチに曝された後の網膜の感度の回復は遅いと考えられており、例えば、20から30分のオーダーである場合がある。網膜、又は、その少なくとも成分の回復は、3つの独特の成分を有すると言われている。これらの成分を説明し、区別するために、図1を用いる。図1は、ブリーチ後、所定の回復期間において、哺乳類の網膜が認識した、所定時間に亘って測定された閾値の測定値を示す片対数プロットである。データポイント2は、白四角形によって示されている。
【0003】
回復のこの3つの独特の成分が、傾向線4、6、8、10で示されている。上述した傾向線4、6、8、10の交点にほぼ対応する、1つの成分から他の成分への変化も、12、14として示されている。
【0004】
回復における第1の成分4は、錐体光受容体優勢であり、例えば、最後の約8分である場合がある。この第1の成分4を、片対数プロットにおいて指数関数として表わすことができ、この第1の成分は、第2の成分8及び第3の成分10に対して比較的短い時定数を有している。第2及び第3の成分8、10は、桿体光受容体優勢である。
【0005】
第1の成分は、指数関数的に低下した後、最終的に安定し、この技術において分かっているものを、錐体閾値又は錐体プラトー6として定義する。錐体優勢の第1の回復成分4と桿体優勢の第2の回復成分8との間の遷移は、桿体−錐体切断12として知られている。第2の桿体優勢成分8は、第3の桿体優勢成分10の(線状)勾配よりも急な勾配を有している。第2の成分8と第3の成分10との遷移点を14として示す。ここに明らかなように、この遷移付近では、データポイントが第2の成分8を示しているのか、第3の成分10を示しているのかを決定することが困難な場合がある。
【0006】
図1は、暗順応曲線又はプロット(又は、感度回復曲線又はプロット)といわれる場合が多い。何故ならば、この曲線は、網膜の異なる成分が、ブリーチされた後に、どのようにして通常の感度レベルに回復するのに様々な時間がかかるかを示しているからである。感度(又は感度の回復度)は、別の暗い背景に対して評価されるが、上述した回復度は、この別の暗い背景内又は背景上で、ユーザに提示された標的の知覚度の閾値レベルを測定することによって決定される。
【0007】
暗順応曲線のダイナミクスは、例えば、上述したブリーチの総合エネルギー(例えば、ブリーチの強度及び/又は継続時間のうちの1つ又は複数)に依存する。用語「ブリーチ」を多く用いるが、それは、網膜(ロドプシン)に含まれた光色素の無色のタイプへの変化を誘発するからである。
【0008】
ブリーチの強度と、このブリーチのための関連する暗順応曲線との間の関係を図2に示す。図2は、図1を参照して実質的に示し、記載した複数の異なる暗順応曲線を示している。しかしながら、図2には、多くの異なる暗順応曲線が示されており、その各々の曲線は、異なる初期ブリーチと関連を有している。
【0009】
図2に示されたプロットの底部左側から始めて、各々の順応曲線のブリーチは、次のように次第に増加している:0.5%ブリーチの黒丸;2%ブリーチの上向き白三角;4%ブリーチの上向き黒三角;8%ブリーチの白菱形;22%ブリーチの黒菱形;39%ブリーチの下向き白三角;63%ブリーチの下向き黒三角;86%ブリーチの白丸;及び、98%ブリーチの黒丸。図2における大きな白い矢印は、異なる複数の暗順応曲線のブリーチの増加を概略的に示している。
【0010】
ブリーチングの複数の異なるレベルの複数の異なる暗順応曲線を示していることに加えて、図2は、第2の桿体優勢の成分20に関する複数の傾向線(複数の実線の単線)、第3の桿体優勢の成分22に関する複数の傾向線(複数の二重線)、及び、異なる複数の暗順応曲線のうちの少なくとも幾つかに関する複数の桿体−錐体切断点をも示している。
【0011】
図2に示されたデータから幾つかの結論を導き出すことができる。第1の結論は、錐体優勢と桿体優勢との間の遷移点の検出(桿体−錐体切断点24)は、ブリーチの強度が増加するに従って、時間的に遅れることである。第2の桿体優勢成分に関する複数の傾向線20の各々の勾配は、ブリーチ強度とは比較的無関係であり、この図から理解することは容易ではないが、ブリーチ強度が5%又はそれより大きい場合には、ブリーチ強度とは無関係であると認められることも理解される。第3の結論は、第3の桿体優勢成分に関する複数の傾向線22は、第2の桿体優勢成分に関する複数の傾向線20の傾向20よりも浅い勾配を有しているのみならず、第3の成分に関する複数の傾向線22の勾配は、初期ブリーチの強度によって著しく変化するということである。特定のレベルのブリーチを用いて、暗順応曲線において特定の特性を実現することが好ましい場合がある。
【0012】
暗順応は、目の病気、又は、目に影響を与える病気、特に、網膜、具体的には、網膜の外層に作用する病気に応じて、又は、これらの病気に関連して低下する。これらの病気の例として、糖尿病及び黄斑変性等がある。実際問題として、網膜(例えば、網膜の色素上皮)におけるビタミンAの有効性の局所的減少に至る何らかの条件が、遅い暗順応(即ち、感度の遅い回復)を生ずる可能性がある。これらの理由により、暗順応(感度の回復)の測定は、網膜、特に、光受容体の健康に関する研究に対する根拠の確かなアプローチとして考えられている。即ち、このような測定は、このような上述した病気によって影響を受ける場合が多い、網膜の桿体の健康又は完全性の目安になる場合がある。従って、少なくともある環境において、感度の回復に関する第3の桿体優勢成分よりも、桿体の健康に関する更なる指標となる、感度の回復に関する第2の桿体優勢成分を簡単に究明することが重要である。桿体−錐体切断又は遷移点を測定することにより、錐体閾値、換言すれば、錐体プラトーの測定等の有用な情報を提供することも可能である。
【0013】
暗順応に関する測定を行うための方法及び装置は既に存在する。しかしながら、これらの方法は、それらに関連する欠点を有している。例えば、これらの方法の大半は比較的時間がかかり、このことは、学術研究においては、あまり又は全く重要ではないかもしれないが、装置及び/又は方法が商業的に適用された場合には、非常に重要である。更に、幾つかの先行技術による方法又は装置において、又は、少なくとも特別な動作条件において、第2と第3の(桿体優勢双方)回復成分間の相違を容易に決定することは困難な場合がある。評価の目的等のために第2の成分を用いることが望ましい場合には、このような不明確さが問題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、網膜、又は、網膜の成分の暗順応(即ち、感度の回復)の測定に対するより全体論的なアプローチを提供することである。また、本発明の目的は、このような全体論的なアプローチを利用して、ここ又は他の場所で言及されている先行技術の問題の少なくとも1つを除去し、若しくは、軽減し、又は、先行技術の装置又は方法の代替手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の特徴によれば、ブリーチ光、桿体に対して見せ掛け上不可視の背景光(例えば、実質的に赤で、そして/又は、580nmを超える波長を有し、又は、波長であるもの)、及び、桿体に対して見せ掛け上可視の標的光(例えば、実質的に緑で、そして/又は、580nm未満で400nmを超える、例えば、約514nm+/−50nmの波長を有し、又は、波長であるもの)を提供するように配置された装置であって、前記背景光及び/又は標的光は(共同して)桿体優勢の刺激に適しており、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射するところの装置を用いて、前記被験者の目の特性を測定するための方法であって、a)前記ブリーチ光を用いて、低レベルのブリーチで前記被験者の網膜を刺激し;b)前記ブリーチを開始した後、背景光を実質的に一定に維持しながら、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で標的光を調節し;c)調節に係る前記標的光の輝度を増加し;d)前記標的光の調節を前記被験者が認識するときに、桿体に関連した閾値を示す、前記被験者からの入力を受け;e)前記入力後、調節に係る前記標的光の輝度を減少し;そして、f)前記方法の工程c)からe)を繰り返して、所定時間に亘る桿体に関連した一連の閾値を決定することを含む方法が提供される。
【0016】
桿体に関連した前記一連の閾値が所定の傾向を示すまで、工程c)からe)を繰り返してもよく、前記所定の傾向は、桿体の勾配を少なくとも示すこと;及び/又は、対数尺度に対してプロットしたときに、実質的に線状であることのうちの1つ又は双方である。
【0017】
工程f)を開始した後に、前記方法は、桿体に対して見せ掛け上可視の背景光(例えば、実質的に緑で、そして/又は、580nm未満で400nmを超える、例えば、約514nm+/−50nmの波長を有し、又は、波長であるもの)、及び、桿体に対して見せ掛け上不可視の標的光(例えば、実質的に赤で、そして/又は、580nmを超える波長を有し、又は、波長であるもの)を提供するように配置された装置であって、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射するところの装置を用いて、前記被験者の前記目の他の特性を測定することを更に含んでいてもよく、前記方法は、i)前記背景光を実質的に一定に維持しながら、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で前記標的光を調節し;ii)調節に係る前記標的光の輝度を増加し;iii)前記標的光の調節を前記被験者が認識するときに、錐体に関連した閾値を示す、前記被験者からの入力を受け;iv)前記入力後、調節に係る前記標的光の輝度を減少し;そして、v)前記方法の工程ii)からiv)を繰り返して、所定時間に亘る錐体に関連した一連の閾値を決定することを更に含む。
【0018】
錐体に関連した前記一連の閾値が所定の傾向を示すまで、工程ii)からiv)を繰り返してもよく、前記所定の傾向は、錐体プラトーを少なくとも示すこと;及び/又は、錐体プラトーへのアプローチを少なくとも示すこと;及び/又は、錐体回復率を少なくとも示すことのうちの1つ又は複数である。
【0019】
低レベルの前記ブリーチが、0.5%から30%の範囲内、又は、5%から20%の範囲内、又は、5%から15%の範囲内、又は、約10%であってもよい。
【0020】
前記ブリーチ光を、前記方法の専用のブリーチング工程に設け、又は、前記被験者の前記目の更なる特性を決定するために用いられる光調節型試験を含む方法によって設けてもよい。
【0021】
前記標的光の調節が認識されない前記初期輝度は、実質的に零である。この場合において、ここに記載された他の光と区別するために、「調節に係る」という接頭語が光という言葉に付されている。輝度が零であるときには、この調節に係る標的光をむしろ、(調節に係る)標的光が出現する、領域、地域、区域、場所等ということができる。
【0022】
前記背景光の輝度は、5.0cd/m以下であり、好ましくは、1.0cd/m以下であってもよい。
【0023】
前記標的光の輝度は、0cd/mから5cd/mの範囲内であってもよい。
【0024】
調節に係る前記標的光の輝度の増加は、実質的に連続的であり、そして/又は、前記輝度を一定の比率で増加することを含む。これにより、輝度を段階的に増加する先行技術に係る方法に比して、方法の速度及びその精度を改善することができる。連続的な、例えば、一定の比率での増加によって、輝度の円滑な遷移が結果的にもたらされ、より繊細な閾値レベルを、よりタイムリーに検出することが可能になる。
【0025】
調節に係る前記標的光の輝度の増加を、1dB/sと10dB/sとの間の標的光の輝度の増加、例えば、約2dB/sの標的光の輝度の増加があるように行ってもよい。
【0026】
調節に係る前記標的光の輝度の減少を、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されないように行うことが好ましい。これにより、閾値を後でより正確に、そして/又は、迅速に決定することができる。
【0027】
前記標的光の輝度の減少を、1dBと20dBとの間、又は、5dBと15dBとの間の標的光の輝度の減少、例えば、約10dBの標的光の輝度の減少があるように行ってもよい。
【0028】
前記調節を、1Hzと15Hzとの間、又は、1Hzと5Hzとの間の周波数、例えば、4Hzの周波数で開始してもよい。この調節に関する認識を、「フリッカー」という場合が多い。この調節値は、零の値から零ではない値に変化してもよい。
【0029】
前記被験者が固視点を見るときに、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射するように、前記標的光を、固視点に対して位置し、前記被験者は、その視野を、前記方法の少なくとも1つの工程(好ましくは、この方法のすべての工程)中に、前記固視点に固定することが好ましい。例えば、前記固視点と標的との間、又は、その一部を前記被験者が認識する角度が、2°と20°との間;又は、4°と12°との間;又は、5°と10°との間になるように、前記標的を配置してもよい。
【0030】
前記標的光の調節を、前記ブリーチ後直ちに開始することが好ましい。
【0031】
本発明の第2の特徴によれば、被験者の目の特性を測定するための測定装置であって、前記装置は、ブリーチ光、桿体に対して見せ掛け上不可視の背景光(例えば、実質的に赤で、そして/又は、580nmを超える波長を有し、又は、波長であるもの)、及び、桿体に対して見せ掛け上可視の標的光(例えば、実質的に緑で、そして/又は、580nm未満で400nmを超える、例えば、約514nm+/−50nmの波長を有し、又は、波長であるもの)を提供するように(本発明の方法の実施中にある点に)(単独、組合せ等で)配置された1つ又は複数の光源を備え、前記背景光及び標的光は共同して桿体優勢の刺激に適しており、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は前記被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射し、前記装置は、使用時に前記装置を制御して:a)前記被験者の網膜を、前記ブリーチ光を用いた低レベルのブリーチに曝し;b)前記ブリーチを開始した後、前記背景光を実質的に一定に維持しながら、前記標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で前記標的光を調節し;c)調節に係る前記標的光の輝度を増加し;d)前記標的光の調節を前記被験者が認識するときに、桿体に関連した閾値を示す、前記被験者からの入力を、前記装置の一部を構成する指示手段を介して受け;e)前記入力後、調節に係る前記標的光の輝度を減少し;そして、f)工程c)からe)を繰り返して、所定時間に亘る桿体に関連した一連の閾値を決定するための制御手段を更に含んでいる。
【0032】
前記1つ又は複数の光源を(本発明の方法の実施中にある点に)(単独、組合せ等で)配置して、背景光及び標的光を提供してもよく、前記背景光及び標的光は共同して桿体優勢の刺激に適しており、前記背景光及び標的光は相互に重ね合わせ可能であり、そして、前記標的光は前記被験者に当てられて、前記標的光が前記被験者の網膜の中心窩領域に入射する。
【0033】
本発明を、添付図面を参照して、単なる一例により説明する。図において
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】上述した暗順応曲線を示すグラフである。
図2】上述した異なる複数の初期ブリーチレベルに対応する複数の暗順応曲線を示すグラフである。
図3】本発明の実施形態に従って、被験者の目の特性を測定するための測定装置を概略的に示す。
図4】本発明の他の実施形態に従って、被験者の目の特性を測定するための測定装置を概略的に示す。
図5】本発明の実施形態に従った、図3又は4の装置を用いた場合に、被験者が見ることができる標的及び背景を概略的に示す。
図6】本発明の1又は複数の実施形態に関連する測定原理を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
この明細書に添付された図面において、形態又はその形状は、必ずしも、何らかの特定の尺度に向けられたものではなく、実際には概略的なものであることに留意すべきである。異なる図面に現れている同様の形状を有するものには、一貫性を保ち、明確にするために、同一の参照符号が付されている。
上述したように、目の特性を測定するための、特に、網膜、又は、桿体及び/又は錐体等のその成分の暗順応(感度の回復と同義)を測定するための様々な方法及び装置が存在する。既存の方法の大半は、測定プロセス、又は、そこから得られる結果の1又は複数の特徴に集中されており、その結果、その方法及び/又は装置は、不十分であり、扱い難く、そして、ある意味において、効果がない(例えば、商業的環境において効果がない)。例えば、図1に示された暗順応曲線、又は、図2に示された暗順応曲線のうちの1つ又は複数を得るために、被験者の何らかの前準備、又は、回復の事後測定、質問、又は、他の手続を度外視して、測定そのものを開始するのに35分以上の時間を必要とする。更に付加的に、又は選択的に、既存の方法及び/又は装置は、感度の閾値について得られた測定値が、第2の桿体優勢回復成分に関するものであるのか、第3の桿体優勢回復成分に関するものであるのかについて曖昧であるため、紛らわしい結果を提供する場合がある。
【0036】
本発明の実施形態によれば、単一の相乗的な方法におけるこれらの問題の解決に対して、より全体論的で且つより十分に検討された総合的なアプローチを行うことによって、これらの問題を確認し、克服するものである。
【0037】
本発明の実施形態によれば、被験者の目の特性を測定する方法が提供される。この特性のことを、被験者の目の網膜に関する暗順応曲線、換言すれば、被験者のこの目の網膜に関する感度回復測定値という場合がある。この方法は、ブリーチ光、桿体に対して見せ掛け上不可視の背景光(例えば、実質的に赤で、そして/又は、580nmを超える波長を有し、又は、波長であるもの)、及び、桿体に対して見せ掛け上可視の標的光(例えば、実質的に緑で、そして/又は、580nm未満で400nmを超える、例えば、約514nm+/−50nmの波長を有し、又は、波長であるもの)を提供するように配置された装置を用いて行われる。背景光及び標的光は共同して、桿体優勢の刺激に適している。背景光及び標的光は、(適切な方法で)相互に重ね合わせ可能であり、そして、標的光は被験者に当てられて、標的光が被験者の網膜の、桿体が優勢に位置する中心窩領域に入射する。この方法は、a)ブリーチ光を用いて、低レベルのブリーチで被験者の網膜を刺激し;b)ブリーチを開始した後、背景光を実質的に一定に維持しながら、標的光の調節が前記被験者によって認識されない初期輝度で標的光を調節し;c)調節に係る標的光の輝度を増加し;d)標的光の調節を被験者が認識するときに、桿体に関連した閾値を示す、被験者からの入力を受け;e)上記入力後、調節に係る標的光の輝度を減少し;そして、f)この方法の工程c)からe)を繰り返して、所定時間に亘る桿体に関連した一連の閾値を決定することを含んでいる。
【0038】
本発明によれば、本発明の様々な工程が相乗的に組み合わされて、迅速で、正確な測定、且つ、従来技術の方法よりも曖昧な点が少ない方法を提供するという総合的なアプローチを行うものである。
【0039】
例えば、低レベル(この技術においては、30%以下のレベル、できれば、20%以下のレベルであると判断される)でのブリーチングとは、第1の錐体優勢回復成分に関する測定値を得る時間と労力を費やす必要性を完全に除去しながら、第2の桿体優勢回復成分内で、直ちに測定を開始することを意味する。これにより、測定速度を直ちに増加させる。第2に、既に知られているように、桿体の勾配(換言すれば、第2の桿体優勢回復成分におけるデータポイントに合った傾向線の勾配)は、片対数プロットにおいて線状であり、特に、ブリーチングレベルが0.5%に等しく、又は、それを超える場合には、この勾配は、ブリーチングレベルとは実質的に無関係である。従って、第2の桿体優勢回復成分に関して、少数のデータポイントしか得られない場合には、更なる(例えば、数多くの)測定を行う必要なく、即ち、桿体の勾配の全体に亘って測定する必要なく、傾向線、延いては、その勾配を直ちに確証することができる。上記勾配と、この勾配から得られる何らかの関連する更なる情報又は結論とを容易に評価し、そして/又は、決定し、また、網膜の桿体の健康に関する指標を比較的迅速に提供することができる。
【0040】
更に、現在のところでは正しく理解されていないが、(例えば)赤の背景(更に一般的に言えば、桿体に対して見せ掛け上不可視の背景)が存在すると、第3の桿体優勢の回復成分が除去されるようである。この文脈において、除去とは、感度に関する測定値が、所定時間に亘って同一であり、即ち、勾配が零であることを意味する。これは、一見すると、本発明の不利な点であるように思われるが、実際問題として、これは有利な点である。第3の桿体優勢の成分が効果的に除去されるという事実は、異なる(僅かでも異なる)勾配を有する第2の回復成分と第3の回復成分との間で、この除去がない場合に生ずる可能性がある測定における曖昧さを排除することである。例えば、本発明によれば、何らかの勾配が確証されれば、これは、第2の回復成分に関するものである筈であり、このことは、更なる測定を行う必要はないことを意味する。いかなる理由であれ、勾配が確証されない場合(換言すれば、勾配が零である場合)には、この測定値は、いかなる理由であれ、第3の回復成分の領域内にあると迅速に理解される。これにより、この方法、又は、この方法を実施するために使用される装置等をリセットし、又は、この方法を実施するために使用される基準を再考しなければならない場合がある。それにも拘わらず、ここにおいて理解されるように、曖昧さの除去又は減少は有利である。
【0041】
本発明の実施形態を、単なる一例として、図3−6を参照しながら以下に説明する。
【0042】
図3は、被験者の目の特性、例えば、暗順応曲線又は感度回復を測定するための測定装置を概略的に示している。この装置は、スタンド32上に搭載されたチャンバー30を備えている。このチャンバー30は、例えば、積分球等であってもよい。被験者が内部を覗き、このチャンバー30の内側の少なくとも一部を見ることを可能にする観察ポート34が設けられている。この装置は、この実施形態においては、チャンバー30内に配置された1又は複数の光源36を更に備えている。他の実施形態においては、複数の光源をチャンバーの外に設けて、これらの光源からの光がチャンバー内に入るようにしてもよい。同図に戻って参照すれば、(理解されるように、特別な順序ではないが、適切な時期に)ブリーチ光、実質的に赤の背景光、及び、実質的に緑の標的光を提供するように、複数の光源36が配置されている。他の実施形態においては、複数の光源が、実質的に緑の背景光及び実質的に赤の標的光を(例えば、付加的に)提供するものでもよい。チャンバー30内に設けられた目標又はマークであってもよい固視点38がチャンバー30内に配置されている。上述において概略的に述べた上記標的光は、以下に詳述するように、固視点38に対して特別な角度関係をもって、ユーザに当てられる。
【0043】
この装置を制御するための制御手段40がスタンド内に位置している。この制御手段40は、コンピュータ又は他の形態のプロセッサ等であってもよく、又は、これを備えていてもよい。他の実施形態(図示せず)においては、制御手段を、スタンドの外に、又は、スタンドから離れて配置したり、また、光等により、有線又は無線接続してもよい。図に戻って参照すれば、この制御手段40は、上述し、そして、以下に更に詳しく説明する本発明の実施形態に係る方法を実施するための装置を制御するように構成されている。
【0044】
例えば、ボタン等の形の指示手段42も設けられており、例えば、標的光、又は、その調節に関する認識(即ち、フリッカー)が可視であることを示している旨を被験者が装置に入力することができる。
【0045】
図3に示された実施形態において、複数の光源36を用いて、固視点38に対する、適切な標的、及び、この標的の適切な背景を提供することができる。例えば、複数の光源36は、固視点38に対するチャンバー30の内表面上に標的を投影することができる。図4に示された他の実施形態においては、チャンバー30は、標的及び/又は背景光を投影することができるところのスクリーン50を更に備えていてもよい。上述した複数の光源によって、又は、スクリーン50の後方に位置する複数の光源52によって選択的に若しくは付加的に、機械の前方から光を投影してもよい。図示しない更に他の実施形態においては、背景光又は標的光を投影する必要性又は要求はなくてもよい。その代わりに、光源から放射される光に対して向かうようにこの光源そのものを見る被験者が1つ又は両方の光源を提供してもよい。例えば、これを介して標的が提供されるところの有機発光ダイオードスクリーン、又は、液晶表示スクリーン等のスクリーンを設けてもよい。
【0046】
ある実施形態においては、標的光が背景光上に当てられ、標的光と背景光との間のコントラスト又は相対輝度が、背景光の(例えば)輝度を変更することによって可変であるように、背景光及び標的光は重ね合わせ可能である。
【0047】
本発明の実施形態による方法を実施するために、図3及び4を参照して示し、説明した装置が使用される。図5を用いて、この方法の実施について説明する。
【0048】
図5は、図3及び4に関して説明したチャンバーの視点を通して見た場合の、被験者が見ることができる光景を示す。図5に戻って参照すれば、ここには固視点38が示されている。この固視点38の周りに広がっているのは、標的光60である。この図が、ある点において、ユーザが標的光を見ようとすれば見ることができ、又は、見ることができたであろうことを示している場合には、この標的光は必ずしも可視ではない。上述したように、標的光60は、固視点38に対して配置されている。その関係は、被験者がこの固視点38を見たときに、多くの場合に目の病気になり易い桿体の多くが位置している、被験者の網膜の中心窩領域に標的光60が入射するということである。この標的光60は、固視点38の周りの環帯に広がって、窩を取り巻く領域を刺激することが好ましく、これは、他の実施形態においては、1又は複数の明確な点、線、弧等であってもよい。
【0049】
固視点38と標的光60、又は、その一部との間の角度が、桿体又はその体部分が位置している場合には、2°から20°の角度の間であり、桿体が損傷している可能性が高いと思われる場合には、4°から12°の間であり、また、桿体の損傷が最も集中していると思われる場合には、5°から10°の間であることが好ましいように、標的光60が配置されている。従って、この標的は、固視点38から半径方向に8度以下の広がりを有していてもよい。この標的光は、一般的には、被験者が見た場合に、少なくとも(4°)の領域を有していてもよい。この領域は、標的60の調節をより認識し易くして、測定をより効果的に(例えば、より正確に、又は、迅速に)することができる。
【0050】
背景光62に標的光60を重ね合わせ、又は、重ね合わせ可能なように、この背景光を設けてもよい。適切な背景として作用するために、例えば、固視点38と、背景62の最も外側の先端との間の角度が、少なくとも15°(即ち、背景が全体として30°の角度内にあるように)であるように、背景光62が広がっていてもよい。
【0051】
図5に関して上述した原理と併せて、図3及び/又は図4に関して上述した装置を用いれば、本発明の実施形態に従った、被験者の目の特性(例えば、暗順応曲線、又は感度の回復度に関する測定値)を測定するための方法を実施することができる。図6は、時間の関数として得られた調節(輝度又はコントラスト)の測定に係る閾値の対数尺度プロットであり、これを、この方法をどのように実施するかを説明し、そして、そこから得られる結果を説明するために用いるものとする。
【0052】
この方法の第1の工程においては、この装置の1つ又は複数の光源によって提供されたブリーチング光を用いて、低レベルのブリーチで被験者の網膜を刺激する。ブリーチング光は、特定の光であってもよいが、例えば、白色光等であってもよい。低レベルのブリーチは、測定される桿体の勾配がブリーチと無関係(であり、従って、0.5%よりも大きくなる)ことを確保するのには十分であるが、桿体−錐体切断の開始を遅らせて、桿体の勾配の測定を遅延させるほど高くはない。従って、ここにおいて用いられている「低レベルのブリーチ」とは、0.5%−30%、5−20%、好ましくは、5−15%の範囲内にあり、例えば、10%の範囲内であると解釈すべきである。
【0053】
1つの例では、ブリーチング光を、この方法の専用のブリーチング工程において提供してもよい。他の例では、例えば、被験者の目の更なる特性(例えば、調節(例えば、フリッカー)の他の認識に関する閾値の測定値)を決定するために使用される光調節型試験を含む、上述したように実施された方法によって、このブリーチング光を提供してもよい。上述したように実施された方法を用いて、ブリーチング光を提供することが好ましい。その1つの理由は、ブリーチングが既に行われ、又は、ブリーチングが現在開始されていることを被験者に悟られず、安心感を改善し、認識に係る試験時間を減少させるからである。他の理由は、付加的な方法をとにかく実施しなければならない場合に、組合せに係る2つの方法により、何らかの相乗効果がもたらされ、本発明の方法の専用のブリーチング工程を提供する必要がないため、これらの2つの方法を組み合わせて迅速に実施することができるからである。
【0054】
低レベルのブリーチが開始されると、既に理解されるように、又は、既に推測されるように、更なる測定によって、桿体の回復の感度に関する結果が提供され、従って、上述した桿体の勾配の傾度が明らかにされる。第1の錐体優位回復成分は完全にバイパスされ、桿体の勾配に至り、これを測定するための所要時間が減少される。たとえ、(何らかの理由で)第1の錐体優位回復成分が完全にバイパスされないとしても、低レベルのブリーチを提供することは、桿体−錐体切断が(時間の問題で)切迫していることを意味しており、桿体の勾配に至り、これを測定するための所要時間が減少される。
【0055】
低レベルのブリーチが開始された後、緑の標的光の調節が被験者によって認識されない初期輝度で、この緑の標的光を調節する。これと同時に、赤の背景光は実質的に一定のまま維持される。
【0056】
標的光の調節が被験者によって認識されない初期輝度は、実質的に零であってもよく、これにより、少なくとも第1の測定に関して、輝度が最初のレベルにおいて高すぎて設定される可能性はないことが確保される。この輝度が零であれば、この場合には、光には依然として「調節に係る」という接頭語が付与されて、この明細書において記載された他の光と区別される。輝度が零である場合には、その代わりに、調節に係る標的光を、この(調節に係る)標的光が出現し、被験者に当てられるところの、領域、地域、区域、場所等に向けてもよい。
【0057】
この標的光の調節は、1Hzと15Hzとの間、又は、1Hzと5Hzとの間の周波数、例えば、4Hzの周波数で開始される。これらの周波数は、被験者による(適切な輝度又はコントラストでの)フリッカーの容易な察知を容易にするように十分に低いものの、測定全体を不必要に長引かせないように十分に高いものとする。
【0058】
ブリーチを完了した直後に、緑の標的光の調節を開始することが好ましい。これにより、試験全体ができる限り短くなり、(ブリーチングの合計レベルに比して)最大のブリーチング効果という利点が得られ、この効果は、網膜の回復と共に次第に減少する。
【0059】
その理由は未だ不明であるが、赤の背景光を用いて、第3の桿体優位回復成分を減少することが知見された。これは、得られた結果は、所望の及び/又は必要な桿体の勾配の決定に関連があり、又は、その大半が関連を有していることを意味する。背景光の輝度は、5.0cd/m以下であり、好ましくは、1.0cd/m以下であってもよい。
【0060】
調節に係る緑の標的光の輝度を(例えば、零)から増加させる。この調節に係る緑の標的光の輝度の増加を(その調節そのものを考慮しながら)実質的に連続的に行うが、この輝度を一定の比率で増加させてもよい。調節に係る標的光の輝度が1dB/sと10dB/sとの間、例えば、約2dB/sの輝度で増加するように、輝度の増加を行ってもよい。被験者が緑の標的光の調節を認識できることを被験者が示すまで、緑の標的光の輝度の増加を連続して行う。ユーザは、この装置の指示手段(例えば、ボタン)を介してこの装置に入力することによって、上述した指示を提供する。この入力は、桿体に関する閾値(例えば、コントラスト又は輝度の閾値等)を示すものである。この桿体に関する閾値は記録され、これを、図6のプロットにデータポイント70として示す。
【0061】
この入力を受けた後、調節に係る緑の標的光の輝度を減少させるように、この装置を制御して、その後の所定時間において、新たな閾値の測定を開始し、もって、網膜の回復及びその桿体の回復を測定する。例えば、被験者が標的光の調節を認識しないような大きさで、調節に係る標的光の輝度を減少させることが好ましく、これによって、新たな後の閾値を決定又は測定(し、又は、更に正確又は迅速に決定又は測定)することができる。標的光の輝度が1dBと20dBとの間、又は、5dBと15dBとの間、例えば、10dBの範囲内の輝度で減少するように、輝度の減少を行ってもよい。
【0062】
調節が認識されないように、調節に係る緑の標的光の輝度を減少させると直ちに、被験者がいつ緑の標的光の調節を認識したかを指摘するまで、調節に係る緑の標的光の輝度を上述したように再び増加させる。その結果、図6に示されたプロットに更なるデータポイントを追加しながら、他の閾値測定が開始される。
【0063】
閾値の測定値を得るというこのプロセスを繰り返して、所定時間に亘る一連の桿体に関する閾値を決定する。勿論、装置が許容し、又は、被験者が厭わない限り、この測定を高い頻度で行う。しかしながら、これは、非効率性、例えば、試験時間の増加に至る可能性がある。従って、一連の桿体に関する閾値が一定の傾向72を示すまで、桿体に関する閾値の測定を実施する。この傾向72は、桿体の勾配、例えば、片対数プロットにおいて線状の勾配を少なくとも示していることが好ましい。勾配を得るために、2回の測定のみを行えばよいが、勾配を決定して、より正確な傾向を得るためには、それ以上の数回の測定が必要な場合がある。例えば、10回未満、又は、5回未満の測定が必要な場合がある。
【0064】
この方法を実施し、所定の傾向72が確認された後、この方法(又は、これまでに上述した方法の工程)を終え、試験を終える。この傾向を特定する桿体の勾配72そのものは、この装置及び方法を操作する人又は法人等の要求を十分に満たすことができ、例えば、これを用いて、被験者の網膜の健康状態を評価することができる。選択的に又は付加的に、更なる情報、例えば、網膜の錐体に関する情報、例えば、上述した、錐体の回復率、又は、錐体に関する閾値、又は、錐体プラトー、又は、桿体−錐体切断に関する情報が必要である場合があり、また、有用である場合がある。ある実施例においては、桿体−錐体切断、又は、錐体に関する閾値、又は、プラトーが背景又は参考として作用する場合があり、これに対して、又は、これに関して、桿体に関連する測定値(例えば、桿体の勾配)を評価することができる。この付加的な情報は、以下に記載する方法の更なる工程を実施することによって得られる。
【0065】
網膜の錐体、及び/又は、桿体−錐体切断に関する情報を得るために実施される方法の更なる工程は、調節に係る緑の標的光、及び、一定の赤の背景に関して上述した方法と同一である。しかしながら、上述した方法とは異なり、この方法の付加的な新規な工程は、錐体優位刺激に適した、一定の緑の背景上で赤の標的光を調節することを含んでいる。ブリーチは、上述したように、この方法の前半の工程において提供されているために、事前ブリーチは必要ではない。
【0066】
要約すれば、この方法の付加的な工程は、緑の背景光が実質的に一定である間に、赤の標的光の調節が被験者によって認識されない初期輝度で、赤の標的光を調節することを含んでいる。次いで、調節が被験者によって認識されるまで、調節に係る赤の標的光の輝度を増加させるが、この認識された時点で、被験者は、錐体に関する(検出)閾値を示す入力をこの装置に与える。この入力後に、調節に係る赤の標的光の輝度を減少させ、例えば、調節に係る標的が被験者に認識されないようにする。次いで、この方法のこれらの工程を実質的に繰り返して、一連の錐体に関する複数の閾値、特に、ある傾向を得、この傾向は、錐体プラトー(又は閾値)を少なくとも示すこと、又は、錐体プラトーへのアプローチを少なくとも示すこと、又は、錐体回復率を少なくとも示すことのうちの1つ又は複数である。
【0067】
図6は、赤の背景での緑の背景光と、緑の背景での赤の標的光との間の切換り74、即ち、桿体に対して見せ掛け上可視の標的光から、桿体に対して見せ掛け上不可視の標的光への切換りが生じている点を示している。プロットには、錐体の回復傾向76が示されており、そこから明らかなように、これは、以前に実施されたこの方法の工程において、例えば、赤の背景が現れていることに起因して、比較的早い。錐体の閾値、又は、プラトー78も示されており、錐体の感度の回復を示している。桿体の勾配72及び錐体に関する閾値78を外挿することによって、近似位置、又は、桿体−錐体切断80をも得ることができる。この切換り74は、閾値の飛躍的な増加をもたらしており、先行技術に係るアプローチよりもより正確な(例えば、回復率76、又は、錐体プラトー78による)錐体の感度の評価を提供するものである。
【0068】
上述から明らかなように、本発明の実施形態によれば、桿体の勾配72を、先行技術に係る方法よりもより迅速に得ることができるが、桿体優勢の刺激に関する、この発明の方法の工程を実施した後で、この桿体に関する情報をも迅速に得ることができる。
【0069】
ここに提供された開示全体から明らかなように、緑又は赤の光以外の光を用いることも可能である。例えば、「赤」という用語を用いた如何なるところであっても、桿体に対して見せ掛け上不可視の如何なる光(例えば、実質的に赤の光、及び/又は、580nmを越える波長を有し、又は、波長である光)をその代わりに用いてもよい。「緑」という用語を用いた如何なるところであっても、桿体に対して見せ掛け上可視の如何なる光(例えば、実質的に緑の光、及び/又は、580nm未満で400nmを超える、例えば、約514nm+/−50nmの波長を有し、又は、波長である光)をその代わりに用いてもよい。
【0070】
標的光の輝度を増減することを上述したが、この増減は、例えば、上述したレベル及び範囲に従って、適宜行えばよい。このような増減を行う際、輝度を、0cd/mから5cd/mの範囲内で増減してもよい。
【0071】
上述から明らかなように、本発明は、上述した実施形態及びその変形例に従った単なる例として記載したに過ぎない。更なる変更を施すことは当業者にとって明らかであり、本発明は、これらの変更を含むことを意図している。本発明は、上述した実施形態及びその変形例に厳密に限定されるものではなく、以下の請求項によって特定又は限定されるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6