(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039612
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】乾燥食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/42 20060101AFI20161128BHJP
A23B 7/02 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
A23L3/42
A23B7/02
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-148441(P2014-148441)
(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公開番号】特開2016-21924(P2016-21924A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】514184865
【氏名又は名称】株式会社V・Aフロンティア
(73)【特許権者】
【識別番号】591087703
【氏名又は名称】株式会社アロンワールド
(73)【特許権者】
【識別番号】399073067
【氏名又は名称】株式会社ベジテック
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】長村 和典
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 省三
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕
(72)【発明者】
【氏名】工藤 登
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅枝
(72)【発明者】
【氏名】大久保 博之
(72)【発明者】
【氏名】西田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】猪野 琢也
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−054581(JP,A)
【文献】
特開2000−189068(JP,A)
【文献】
特開平03−172145(JP,A)
【文献】
特開2008−193926(JP,A)
【文献】
特開2002−058444(JP,A)
【文献】
特許第2949322(JP,B2)
【文献】
特開2006−191859(JP,A)
【文献】
特開平09−238653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−5/49
A23B 4/00−9/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料素材を、pH8以上の電解アルカリイオン水中に浸漬し、
次に、ゲル状カードランを水中に溶解させたカードラン水溶液中に原料素材を浸漬し、
最後に、熱風の温度を40〜60℃に設定して熱風乾燥処理を行うことを特徴とする乾燥食品の製造方法であって、
カードラン水溶液に使用するゲル状カードランとして、カードランをpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によって溶解させ、常温でゲル化させたものを使用し、
カードラン水溶液として、カードランの濃度が0.01〜0.60重量%のものを使用することを特徴とする乾燥食品の製造方法。
【請求項2】
原料素材を浸漬する電解アルカリイオン水として、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、各イオン水を所定の電極側に供給して電気分解処理することにより生成した電解アルカリイオン水の原液、又は、この原液を水で希釈したものを使用することを特徴とする、請求項1に記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項3】
原料素材を浸漬する電解アルカリイオン水として、80℃以上に加熱したものを使用することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項4】
原料素材を浸漬する電解アルカリイオン水として、99.4〜99.8重量%の電解アルカリイオン水中に、0.6〜0.2重量%の塩化ナトリウムを溶解させたものを使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項5】
カードラン水溶液として、粉末状カードラン2重量%をpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードラン0.5〜30重量%を、水99.5〜70重量%中に溶解させることによって、カードラン濃度を0.01〜0.60重量%に調製したものを使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項6】
原料素材の電解アルカリイオン水中への浸漬を、5〜40分間行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項7】
減圧装置を用いることにより、電解アルカリイオン水中への浸漬処理を、減圧下で行うことを特徴とする、請求項1、請求項2、請求項4〜6のいずれかに記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項8】
電解アルカリイオン水中への浸漬処理と、カードラン水溶液中への浸漬処理との間に、原料素材をクエン酸水溶液中へ浸漬する処理を行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項9】
原料素材を、pH8以上の電解アルカリイオン水を用いて湯通しを行い、
次に、ゲル状カードランを水中に溶解させたカードラン水溶液中に原料素材を浸漬し、
最後に、熱風の温度を40〜60℃に設定して熱風乾燥処理を行うことを特徴とする乾燥食品の製造方法であって、
カードラン水溶液に使用するゲル状カードランとして、カードランをpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によって溶解させ、常温でゲル化させたものを使用し、
カードラン水溶液として、カードランの濃度が0.01〜0.60重量%のものを使用することを特徴とする乾燥食品の製造方法。
【請求項10】
完熟した果物又は野菜の果肉を対象とする乾燥食品の製造方法であって、
pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によってカードランを溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードランをアルカリイオン水溶液中に溶解させたカードラン−アルカリイオン水溶液を、原料素材中に加えてよく混ぜ合わせ、その混合物に対して熱風乾燥処理を行い、
カードラン−アルカリイオン水溶液として、カードランの濃度が0.01〜0.60重量%のものを使用することを特徴とする乾燥食品の製造方法。
【請求項11】
カードラン−アルカリイオン水溶液として、pH12以上の電解アルカリイオン水の原液を水で10〜200倍に希釈したアルカリイオン水溶液中にゲル状カードランを溶解させたものを使用することを特徴とする、請求項10に記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項12】
カードラン−アルカリイオン水溶液として、粉末状カードラン2重量%をpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードラン0.5〜30重量%を、アルカリイオン水溶液99.5〜70重量%中に溶解させることによって、カードラン濃度を0.01〜0.60重量%に調製したものを使用することを特徴とする、請求項10又は請求項11に記載の乾燥食品の製造方法。
【請求項13】
原料素材に加えるカードラン−アルカリイオン水溶液を、原料素材の3〜30重量%とすることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の乾燥食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は湯にさらすことによって、元の状態に復元することができる乾燥食品の製造方法に関し、特に、原料素材をカードラン水溶液中に浸漬した後に乾燥させることにより、復元性の高い乾燥食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥食品は、組成の変成や腐敗を抑制し、長期保存が可能となるため、従来より様々な食品を対象として、また、様々な方法を適用することによって乾燥食品が製造されている。代表的な乾燥方法としては、天日干し、熱風乾燥、フリーズ・ドライ、スプレー・ドライといった方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−24865号公報
【特許文献2】特開2006−191859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の乾燥食品の製造方法のうち、天日干しは、天候や季節の変化に左右されてしまうため、安定した品質の乾燥食品を大量に製造することが難しいという問題があり、熱風乾燥は、原料素材に対して高温の熱風をあてる際に、原料素材において退色、褐変が生じたり、風味(香り)等が減少してしまうという問題がある。また、フリーズ・ドライは、原料素材を凍結させた際に、原料素材の細胞中の水分が氷結して膨張することによって、細胞壁が破れてしまうという問題があり、完成品(乾燥食品)に加水して戻した場合において、原料素材本来の食感や香り等を忠実に復元することが難しく、また、大掛かりな装置が必要になるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術における課題を解決しようとするものであって、大掛かりな装置を必要とせず、比較的簡単に、復元性の高い乾燥食品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乾燥食品の製造方法は、原料素材を、pH8以上の電解アルカリイオン水(電解アルカリイオン水の原液、或いは、原液を水で希釈したもの)中に浸漬し、又は、pH8以上の電解アルカリイオン水を用いて湯通しを行い、次に、ゲル状カードランを水中に溶解させたカードラン水溶液中に原料素材を浸漬し、最後に、熱風の温度を40〜60℃に設定して熱風乾燥処理を行うことを特徴とし、更に、カードラン水溶液に使用するゲル状カードランとして、カードランをpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によって溶解させ、常温でゲル化させたものを使用することを特徴としている。
【0007】
尚、電解アルカリイオン水としては、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、所定の電極側に供給して電気分解処理することにより生成した電解アルカリイオン水の原液、又は、この原液を水で希釈したものを使用することが好ましい。
【0008】
また、電解アルカリイオン水としては、80℃以上に加熱したものを使用することもでき、或いは、99.4〜99.8重量%の電解アルカリイオン水中に、0.6〜0.2重量%の塩化ナトリウムを溶解させたものを使用することもできる。
【0009】
また、カードラン水溶液としては、カードランの濃度が0.01〜0.60重量%のものを使用することが好ましく、粉末状カードラン2重量%をpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードラン0.5〜30重量%を、水99.5〜70重量%中に溶解させることによって、カードラン濃度を0.01〜0.60重量%に調製したものを使用することが更に好ましい。
【0010】
尚、原料素材の電解アルカリイオン水中への浸漬は、5〜40分間行うことが好ましい。また、原料素材の電解アルカリイオン水中への浸漬処理の前に、原料素材に対し湯通しを行うようにしてもよい。また、減圧装置を用いることにより、電解アルカリイオン水中への浸漬処理を、減圧下で行うようにしてもよい。
【0011】
また、電解アルカリイオン水中への浸漬処理と、カードラン水溶液中への浸漬処理との間に、原料素材をクエン酸水溶液中へ浸漬する処理を行うようにしてもよい。
【0012】
また、完熟した果物又は野菜の果肉を対象とする場合には、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によってカードランを溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードランをアルカリイオン水溶液中に溶解させたカードラン−アルカリイオン水溶液を、原料素材中に加えてよく混ぜ合わせ、その混合物に対して熱風乾燥処理を行うことが好ましく、この場合、カードラン−アルカリイオン水溶液として、pH12以上の電解アルカリイオン水の原液を水で10〜200倍に希釈したアルカリイオン水溶液(pH11〜8.5)中にゲル状カードランを溶解させたものを使用することが好ましい。
【0013】
更に、カードラン−アルカリイオン水溶液として、カードランの濃度が0.01〜0.60重量%のものを使用することが好ましく、また、粉末状カードラン2重量%をpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードラン0.5〜30重量%を、アルカリイオン水溶液99.5〜70重量%中に溶解させることによって、カードラン濃度を0.01〜0.60重量%に調製したものを使用することが好ましい。また、原料素材に加えるカードラン−アルカリイオン水溶液は、原料素材の3〜30重量%とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る乾燥食品の製造方法は、原料素材に対してカードランを含浸させた状態で乾燥工程を実行することにより、また、原料素材に含浸させるカードランとして、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水で溶解させることによって低分子化し、浸透性を向上させたカードランを使用することにより、更に、カードランを含浸させる前に、電解アルカリイオン水中に浸漬して、原料素材中の結合水を電解アルカリイオン水と置換することにより、原料素材の細胞壁を破断させることなく乾燥加工を実行することができ、また、酸化による原料素材の褐変を抑制することができ、加水により原料素材本来の特性、性状を忠実に復元できる乾燥食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明「乾燥食品の製造方法」を実施するための形態について説明する。まず、原料素材に対して、必要な下処理を行う。例えば、キャベツなどの葉物野菜や、玉ねぎや人参などの根菜類に対しては、千切り、みじん切りなどを行い、苺やリンゴなどについては、適当な厚さにスライスする。尚、このような下処理が必要でない原料素材(例えば、もやし、舞茸等)については、省略することができる。
【0016】
次に、原料素材を、電解アルカリイオン水(原液、或いは、原液を水で希釈したもの)中に浸漬する。ここで使用する電解アルカリイオン水の原液としては、特許第2949322号公報(特開平8−24865号公報)に記載されているアルカリイオン水(即ち、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、所定の電極側に供給して電気分解処理することにより生成されており、長期にわたって安定したpH値(pH12以上)を有していることを特徴とするイオン水)を使用することが好ましい。
【0017】
尚、本発明に係る方法において用いる電解アルカリイオン水は、特許第2949322号公報(特開平8−24865号公報)に記載されているものには限定されず、他の電解アルカリイオン水を用いることもできる。但し、pH8以上のもの(原液がpH8以上のもの、及び、希釈後においてpH8以上のもの)を用いることが必要である。pH8未満のものを用いた場合、完成品において、電解アルカリイオン水への浸漬による効果が十分に期待できないからである。具体的には、電解アルカリイオン水としてpH8未満のものを用いた場合、完成品(乾燥食品)に加水して(水又は湯にさらして)戻した場合に、食感についての復元性が十分でなく、原料素材本来の食感が得られないこと、一方、pH8以上のものを用いた場合には、原料素材本来の食感を復元できることが、実験により確認されている。
【0018】
また、原料素材を予め電解アルカリイオン水中に浸漬する工程を実施することにより、原料素材中に存在している結合水(水分)を、電解アルカリイオン水と置換することができ、その結果、酸化による原料素材の褐変を抑制することができる。
【0019】
尚、電解アルカリイオン水中への原料素材の最適な浸漬時間は、原料素材によって異なるが、5〜40分間が好適である。5分未満であると、完成品における食感の復元性、及び、褐変抑制効果を十分に期待できないからである。また、40分を越えると、原料素材に「反り」が生じたり、原料素材中の色素が滲んで、完成品における色合いが悪化してしまう(例えば、苺の中心部付近の果肉は、本来は白色を呈しているが、表層の赤い色素が滲んで、中心部付近が赤黒く変色してしまう)という問題があることが確認されている。
【0020】
また、浸漬処理の際、電解アルカリイオン水としては、通常は常温のものが用いられるが、80℃以上(例えば85〜87℃)に加熱した電解アルカリイオン水中に原料素材を浸漬する(ボイルする)ようにしてもよい。この場合、例えば人参(短冊切り)を対象として本発明に係る方法を実施した場合に、乾燥の所要時間を短縮できるという効果を期待できる。
【0021】
また、電解アルカリイオン水中への浸漬処理の代わりに、90℃に加熱した電解アルカリイオン水(湯)を用いて、原料素材を湯通し(約2秒間)する処理を行ってもよい。例えばキャベツ(ざく切り)を対象として本発明に係る方法を実施する場合、浸漬処理の代わりに、電解アルカリイオン水による湯通しを行うと、鮮やかな緑色を呈する乾燥キャベツを製造することができ、乾燥途中での退色を防止できるという効果を期待できる。
【0022】
また、電解アルカリイオン水中への浸漬処理は、通常は常圧下で行われるが、減圧装置を用いることにより、減圧下で行うようにしてもよい。この場合、例えば大根(千切り)、エリンギ(短冊切り)、キャベツ(千切り)等を対象として本発明に係る方法を実施した場合に、原料素材の中心部まで電解アルカリイオン水を速やかに浸透させることができ、原料素材中に存在している結合水との置換がスムーズに行われるという効果を期待できる。
【0023】
また、電解アルカリイオン水として、0.4重量%程度(0.2〜0.6重量%)の塩化ナトリウムを溶解させたものを使用してもよい。この場合、例えば人参(短冊切り)等を対象として本発明に係る方法を実施した場合に、加水して戻す際に、退色を抑制する効果を期待できる。
【0024】
次に、電解アルカリイオン水中への浸漬を行った原料素材を、カードラン水溶液中に浸漬する。本発明においては、カードラン水溶液として、粉末状のカードランをpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によって溶解させ、常温でゲル化させたゲル状カードラン(特許第4872041号(特開2006−191859号)参照)を、水中に溶解させたものを使用する。
【0025】
水溶液中のカードランの濃度は、0.01〜0.60重量%が好適である。0.01重量%未満のものを用いた場合、完成品(乾燥食品)において、カードラン水溶液への浸漬による効果が十分に期待できないからである。具体的には、カードラン水溶液として、カードラン濃度が0.01重量%未満のものを用いた場合、完成品に加水して(水又は湯にさらして)戻した場合に、食感や香りについての復元性が十分ではないことが実験により確認されている。一方、0.01〜0.60重量%のものを用いた場合には、原料素材本来の食感や香りを好適に復元できることが実験により確認されている。また、カードラン濃度が0.60重量%を越えるカードラン水溶液を用いた場合、原料素材同士が密着してしまい、解す或いは剥がすといった作業が必要になってしまうという問題が生じることが確認されているほか、完成品において、食感に違和感が生じてしまうという問題や、発色が不自然となってしまうという問題が確認されている。
【0026】
尚、ゲル状カードランとして、粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させたものを使用するときは、このゲル状カードラン0.5〜30重量%を、水99.5〜70重量%中に溶解させることによって、カードラン濃度が0.01〜0.60重量%のカードラン水溶液を調製することができる。
【0027】
カードラン水溶液中への原料素材の最適な浸漬時間は、5秒程度である。原料素材の表面にコーティングさせることができれば十分であり、組織内へ深く浸透させる必要はないため、5秒程度が最適であると考えられる。
【0028】
尚、電解アルカリイオン水中への浸漬処理と、カードラン水溶液中への浸漬処理との間に、クエン酸水溶液(濃度0.5重量%程度、pH3程度、10秒程度)中への浸漬処理を行ってもよい。例えばリンゴ(スライス)等について乾燥工程等を実施すると、変色が生じて、製品価値が低下してしまうことがあるが、カードラン水溶液中への浸漬処理の前にクエン酸水溶液中への浸漬処理を行うと、変色の度合いを軽減することができる。
【0029】
そして、最後に熱風乾燥処理を行う。熱風の温度は、40〜60℃程度に設定し、8〜48時間程度行う。
【0030】
加工対象となる原料素材が、完熟した果物又は野菜の果肉(柿、メロン、マンゴー、トマト等)である場合には、上述したような電解アルカリイオン水中への浸漬処理、及び、カードラン水溶液中への浸漬処理を行う代わりに、カードラン−アルカリイオン水溶液を、原料素材中に加えてよく混ぜ合わせ、その混合物に対して熱風乾燥処理(熱風の温度:40〜60℃、処理時間:8〜48時間)を行うようにしてもよい。
【0031】
尚、ここで使用するカードラン−アルカリイオン水溶液としては、pH12以上の電解アルカリイオン水の原液(例えば、特許第2949322号公報に記載されているアルカリイオン水)を、水で10〜200倍に希釈したアルカリイオン水溶液中に、ゲル状カードラン(粉末状のカードランをpH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水によって溶解させ、常温でゲル化させたもの)を溶解させたものを使用する。
【0032】
カードラン−アルカリイオン水溶液中のカードランの濃度は、0.01〜0.60重量%が好適である。0.01重量%未満のものを用いた場合、完成品(乾燥食品)において、効果が十分に期待できないからである。具体的には、カードラン−アルカリイオン水溶液として、カードラン濃度が0.01重量%未満のものを用いた場合、完成品に加水して(水又は湯にさらして)戻した場合に、食感や香りについての復元性が十分ではないことが実験により確認されている。一方、0.01〜0.60重量%のものを用いた場合には、原料素材本来の食感や香りを好適に復元できることが実験により確認されている。また、カードラン濃度が0.60重量%を越えるカードラン水溶液を用いた場合、粘性が強く、対象物に対して分散性(均一化)が悪いという問題が生じることが確認されている。
【0033】
尚、ゲル状カードランとして、粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させたものを使用するときは、このゲル状カードラン0.5〜30重量%を、アルカリイオン水溶液99.5〜70重量%中に溶解させることによって、カードラン濃度が0.01〜0.60重量%のカードラン水溶液を調製することができる。
【0034】
原料素材に加えるカードラン−アルカリイオン水溶液の量は、原料素材の3〜30重量%が好適である。3重量%以下であると、比較的水分の多い対象物の時、固形物への付着率が低下するため、乾燥ムラが生じ、色相での差はあまり感じないが、香りが若干劣るという問題があり、30重量%以上であると、粘性が強くなり、対象物によっては分散性(均一化)が悪くなったり、塊になったりして作業性が悪いという問題が生じている。また、乾燥品の湯戻し時において香り等の差はあまり感じられないが、コストが増加してしまうという問題があることが実験により確認されている。
【0035】
このように、加工対象となる原料素材が、完熟した果物又は野菜の果肉である場合において、カードラン−アルカリイオン水溶液を、原料素材中に加えてよく混ぜ合わせ、その混合物に対して熱風乾燥処理を行うようにすると、原料素材中に存在している結合水(水分)を、電解アルカリイオン水と置換することができ、その結果、酸化による原料素材の褐変を抑制することができる。
【0036】
以下、本発明「乾燥食品の製造方法」に関し、本発明の発明者らが行った実験の結果を実施例として説明する。
【実施例】
【0037】
キャベツを対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥キャベツ(1cm幅ざく切り)を製造した。具体的には、生鮮キャベツを1cm幅でざく切りし、pH8の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)を90℃に加熱した湯を用いて湯通し(2秒間)し、次いでカードラン水溶液中への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(42℃で5時間、その後45℃で5時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)5重量%を、水95重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.1重量%)を使用した。
【0038】
人参を対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥人参(短冊切り)を製造した。具体的には、生鮮人参を6mm幅で短冊切りにし、85〜87℃に加熱したpH9.6の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したものであって、0.4重量%の塩化ナトリウムを溶解させたもの)中への浸漬処理(5分間ボイル)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(54℃で8時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)5重量%を、水95重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.1重量%)を使用した。
【0039】
浸漬する電解アルカリイオン水として、加熱したものを使用し、浸漬工程においてボイルすることにより、乾燥時間を短縮することができ(常温の電解アルカリイオン水に浸漬して製造した場合と比べて2時間程度短縮)、また、完成品に加水して戻した場合における食感、味、及び、香りを改善することができた(常温の電解アルカリイオン水に浸漬して製造した場合と比べて、シャキッとした食感となり、甘みが増し、臭いが低減した)。また、フリーズ・ドライによって製造された乾燥人参(市販品)(比較例)は、加水して戻した際に、味が薄く、日向臭が感じられた。
【0040】
大根を対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥大根(粉末)を製造した。具体的には、生鮮大根を千切りにし、減圧下(0.065MPa)でpH8.5の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)中への浸漬処理(20分間)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(55℃で8時間)を行い、得られた乾燥大根(千切り)を粉砕して粉末状にした。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)3重量%を、水97重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.06重量%)を使用した。得られた粉末状の乾燥大根に加水して戻したところ、生鮮大根を使用した大根おろしのように、香りや味等を忠実に復元することができた。
【0041】
エリンギを対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥エリンギ(短冊)を製造した。具体的には、エリンギを裂いて短冊状にし、減圧下(0.065MPa)でpH8.5の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)中への浸漬処理(30分間)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(40℃で2時間、その後43℃で10時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)5重量%を、水95重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.1重量%)を使用した。得られた乾燥エリンギに加水して戻したところ、色合いや食感も良好となった。
【0042】
キャベツを対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥キャベツ(千切り)を製造した。具体的には、生鮮キャベツを千切りにし、減圧下(0.065MPa)でpH8.5の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)中への浸漬処理(20分間)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(55℃で8時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)5重量%を、水95重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.1重量%)を使用した。得られた乾燥キャベツに加水して戻したところ、色合いや食感も良好となった。
【0043】
白ネギを対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥白髪ネギを製造した。具体的には、白ネギを千切りにして、pH8.5の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)中への浸漬処理(25分間)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(45℃で4時間、その後48℃で3時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)3重量%を、水97重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.06重量%)を使用した。得られた乾燥白髪ネギに加水して戻したところ、食感、香りは良好であった。
【0044】
苺を対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥苺(スライス)を製造した。具体的には、生鮮苺を6mm幅でスライスし、pH8.6の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)中への浸漬処理(25分間)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(54〜55℃で10時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)5重量%を、水95重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.1重量%)を使用した。得られた乾燥苺に加水して戻したところ、香り、酸味をしっかり復元することができた。また、外側の赤と、中心部の白が、調和のとれた仕上がりとなった。
【0045】
リンゴを対象として本発明に係る方法を適用することにより、乾燥リンゴ(スライス)を製造した。具体的には、生鮮リンゴを5mm幅にスライスし、pH8.5の電解アルカリイオン水(pH12程度の電解アルカリイオン水を水で希釈したもの)中への浸漬処理(25分間)を行い、次いで濃度が0.5重量%のクエン酸水溶液(pH3)中への浸漬処理(10秒)を行い、次いでカードラン水溶液への浸漬処理(5秒間)を行い、最後に熱風乾燥処理(50℃で2時間、その後53℃で1時間、その後55℃で45時間)を行った。尚、カードラン水溶液としては、ゲル状カードラン(粉末状カードラン2重量%を、pH12以上の強アルカリ性の電解アルカリイオン水98重量%中に溶解させて、常温でゲル化させたもの)5重量%を、水95重量%中に溶解させたもの(カードラン濃度:0.1重量%)を使用した。
【0046】
尚、ここでは、葉物野菜、根菜類、キノコ類、果物を対象として行った実験の結果を実施例として説明したが、本発明に係る乾燥食品の製造方法の適用対象は、これらの食品には限定されず、畜肉、魚介類等に対しても好適に適用することができる。