(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039645
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】2つの低放射率積層体を備えた断熱多重グレージング
(51)【国際特許分類】
C03C 27/06 20060101AFI20161128BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20161128BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20161128BHJP
E06B 3/66 20060101ALI20161128BHJP
C03C 17/34 20060101ALN20161128BHJP
C03C 17/36 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
C03C27/06 101H
B32B9/00 A
B32B17/06
E06B3/66 Z
!C03C17/34 Z
!C03C17/36
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-501687(P2014-501687)
(86)(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公表番号】特表2014-514997(P2014-514997A)
(43)【公表日】2014年6月26日
(86)【国際出願番号】FR2012050613
(87)【国際公開番号】WO2012131243
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年2月19日
(31)【優先権主張番号】1152516
(32)【優先日】2011年3月25日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】アディア ジェラルダン
(72)【発明者】
【氏名】バンサン レイモン
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0115655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
C03C 27/12
B32B 9/00
B32B 17/06
E06B 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス充填キャビティ(15)によって隔てられた複数のガラス基材(10、30)を結合させることによって得られる断熱特性を有する多重グレージングユニットであって、第1の基材(30)の前面(29)がグレージングユニットの外壁を画定し、最後の基材(10)の背面(11)がグレージングユニットの内壁を画定し、多重グレージングユニットが、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含む第1の低E膜多層(12)、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含む第2の低E膜多層(13)
を含み、第2の多層(13)が、最後の基材(10)の背面(11)に堆積されてグレージングユニットの内壁を形成し、
第1の多層が、最後の基材の他方の面(9)又は該他方の面(9)に対面する基材の面(31)上に堆積され、
40〜90nmの物理的な厚さ有する酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、最後のガラス基材(10)の表面に対し、第2の低E膜多層(13)において透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される、多重グレージングユニット。
【請求項2】
ガス充填キャビティによって隔てられた2つのガラス基材を結合させることによって得られる二重グレージングユニットである請求項1に記載の多重グレージングユニットであって、第1の基材がグレージングユニットの面1及び2を画定し、第2の基材がグレージングユニットの面3及び4を画定し、二重グレージングユニットが、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含み、二重グレージングユニットの面2又は3に堆積される第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含み、二重グレージングユニットの第2の基材の面4に堆積される第2の低E膜多層
を含み、酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、面4上で、第2のガラス基材の表面に対し、第2の低E膜多層において透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される、請求項1に記載の多重グレージングユニット。
【請求項3】
ガス充填キャビティによって隔てられた3つのガラス基材を結合させることによって得られる三重グレージングユニットである請求項1に記載の多重グレージングユニットであって、第1の基材がグレージングユニットの面1及び2を画定し、第2の基材がグレージングユニットの面3及び4を画定し、第3の基材がグレージングユニットの面5及び6を画定し、三重グレージングユニットが、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含み、三重グレージングユニットの面4又は5に堆積される第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含み、三重グレージングユニットの第3の基材の面6に堆積される第2の低E膜多層
を含み、酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、面6上で、第3のガラス基材の表面に対し、第2の低E膜多層において透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される、請求項1に記載の多重グレージングユニット。
【請求項4】
酸化ケイ素から本質的に作成される膜がTCO膜と接触している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項5】
酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、第2の低E膜多層の最も外側の膜である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項6】
酸化ケイ素から本質的に作成される膜の物理的な厚さが40〜80nmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項7】
金属膜が、銀膜又は銀に基づく合金膜である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項8】
透明な導電性酸化物膜が、混合インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素を添加した酸化スズ(SnO2:F)又はアンチモン(Sb)を添加した酸化スズ、アルミニウム添加ZnO(AZO)、ガリウム添加ZnO(GZO)、ガリウム及びアルミニウム同時添加ZnO(AGZO)、及びニオブ添加チタン酸化物(TiO2:Nb)から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項9】
金属膜の物理的な厚さが6〜16nmであり、透明な導電性酸化物膜の厚さが50〜400nmである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項10】
金属膜の物理的な厚さが6〜10nmであり、透明な導電性酸化物膜の厚さが80〜300nmである、請求項9に記載の多重グレージングユニット。
【請求項11】
金属膜の物理的な厚さが10〜12nmであり、透明な導電性酸化物膜の厚さが50〜200nmである、請求項9に記載の多重グレージングユニット。
【請求項12】
金属膜の物理的な厚さが12〜16nmであり、透明な導電性酸化物の厚さが100〜400nmである、請求項9に記載の多重グレージングユニット。
【請求項13】
第2の低E膜多層が、透明な導電性酸化物から作成される機能膜の下に、少なくとも1つの窒化物に基づく誘電体膜を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項14】
第2の低E膜多層が、基材の表面から連続して以下の膜、すなわちガラス/窒化ケイ素/酸化ケイ素/ITO/任意選択で窒化ケイ素/酸化ケイ素を備え、場合により追加の中間膜がこれらのさまざまな膜の間に挿入される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項15】
第2の低E膜多層が、基材の表面から連続して以下の膜、すなわちガラス/酸化ケイ素又は酸炭化ケイ素/SnO2:F/酸化ケイ素を備え、場合により追加の中間膜がこれらのさまざまな膜の間に挿入される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の多重グレージングユニット。
【請求項16】
・少なくとも1つの機能性金属膜を含み、基材の第1の面に堆積される第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含み、基材の第2の面に堆積される第2の低E膜多層
を含み、酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、ガラス基材の表面に対し、透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の多重グレージングユニットの内壁を形成するのに使用できる基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重グレージングユニット、特には建築分野のための二重又は三重グレージングユニットであって、太陽放射及び/又は長波長の赤外放射に対して作用することができる機能性金属膜を備えた多重グレージングユニットに関する。
【0002】
本発明は、より詳しくは高い断熱性を提供しかつ高いソーラーファクターを有し、それゆえ主として寒冷気候を対象としたグレージングユニットに関する。
【背景技術】
【0003】
グレージングユニットは、より詳しくは冬場の暖房に必要なエネルギーを削減すること(低Eグレージングユニットと呼ばれるもの)や、無料の太陽熱暖房を最大限に利用することを特に視野に入れた建築物を意図している。
【0004】
このようなグレージングユニット、例えば、二重グレージングユニットでは、2つのガラス基材が、例えば、空気、アルゴン又はクリプトンなどの断熱性ガスを充填されたキャビティの輪郭を示すように、スペーサーによって特定の距離に隔てられている。そのため、二重グレージングユニットは、ガス充填キャビティによって隔てられた2つのガラスシート(基材)からなる。したがって、数列4/12/4は、4mm厚の2枚のガラスシートと12mm厚のガス充填キャビティからなる二重グレージングユニットを意味する。
【0005】
通常、二重グレージングユニットの面は、建物の外側から始まる番号付けがされる。したがって、二重グレージングユニットは4つの面を含んでおり、面1は建築物の外側に存在し(それゆえグレージングユニットの外壁を形成する)、面4は建築物の内側に存在し(それゆえグレージングユニットの内壁を形成する)、そして面2及び3は二重グレージングユニットの内部に存在する。
【0006】
同様に、三重グレージングユニットは6つの面を含んでおり、面1は建築物の外側に存在し(グレージングユニットの外壁)、面6は建築物の内側に存在し(グレージングユニットの内壁)、そして面2〜5は三重グレージングユニットの内部に存在する。
【0007】
公知の方法では、高い断熱性を提供する二重グレージングユニットすなわち断熱グレージングユニット(二重グレージングユニットをDGUと呼ぶことも多い)は、低E(低放射)特性を有するとされる膜多層を含み、低E膜多層は、赤外線及び/又は太陽放射を反射できる少なくとも1つの機能性金属膜、特には銀又は金属銀含有合金に基づく少なくとも1つの機能性金属膜を含む。この多層は、通常、二重グレージングユニットの面2又は3に堆積される。
【0008】
このタイプの多層において、機能膜は、それぞれ窒化物(特に窒化ケイ素若しくは窒化アルミニウム)又は酸化物などの誘電体材料から作成される複数の膜を一般にそれぞれ含む2つの反射防止被膜の間に位置していることがほとんどである。
【0009】
このような膜を備えた二重グレージングユニットの例は、例えば、国際公開第2007/101964号、欧州特許出願公開第877005号、同第718250号、仏国特許出願公開第2856627号、欧州特許出願公開第847965号、同第183052号、及び同第226993号に記載されている。
【0010】
現在、このような膜多層は、膜を堆積するための所与の反応器において、二重グレージングユニットのガラス基材の1つに、堆積されるべき材料又は反応性雰囲気中でスパッタされる金属から作成されるターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって堆積されている。このようなプロセスは、堆積分野においてマグネトロンプロセスと呼ばれている。
【0011】
これらのグレージングユニットの断熱性能は、通常、グレージングユニットの2つの面の間で、単位面積及び単位温度差あたりグレージングユニットを通過する熱量を意味する熱伝達係数Uによって与えられる。それゆえ、断熱性二重グレージングユニットでは、外側から内側への熱伝達を最小にすること、すなわちU係数を最小にすることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、係数Uは、国際規格ISO10292に記載される条件のもとで測定される。
【0013】
二重グレージングユニットの特性が定量化されるのを可能にする別のパラメーターは、ソーラーファクターSFである。それは入射太陽熱に対するグレージングユニットを介して部屋に入ったエネルギーの比と規定される。それはグレージングユニットを通過して直接伝達されたエネルギー束と、グレージングユニットによって吸収され、その後、内側に向かって再放射されるエネルギー束をまとめることによって計算することができる。
【0014】
本発明によれば、係数SFは、国際規格ISO9050に記載される条件のもとで測定される。
【0015】
公知の方法では、現在の断熱二重グレージングユニットは、ほとんどの場合、放射熱伝達を制限するために、DGUの面2上又はほとんどの場合DGUの面3上の少なくとも一方に銀膜を含むことが多い低E膜多層を含む。この低E膜の存在はまた、特にそれが二重グレージングユニットの面2に配置された場合に、ソーラーファクターを低減する効果を有する。
【0016】
例として、現在、使用されている機能性銀膜を組み込んでいる市販の多層の特性、並びに面2又は3上にこの多層を含む4/16(90%Ar)/4二重グレージングユニットに関して得られるエネルギー及び光学性能基準を下表1に与える。
【0017】
【表1】
【0018】
低E多層が赤外線及び/又は太陽放射を反射する機能膜を含むDGUもまた先行技術から知られているが、その膜は金属膜ではなく、透明な導電性酸化物(TCO)、特にはITO(混合インジウムスズ酸化物)又はSnO
2:F(フッ素添加酸化スズ)から作成される膜である。1%フッ素を添加した320nm厚SnO
2:F(酸化スズ)機能膜を組み込んだ多層を含むか又は含まない従来のDGUに関して得られるエネルギー及び光学性能を以下表2に与える。
【0019】
【表2】
【0020】
機能膜がTCOから作成される場合、エネルギー伝達係数Uは、機能性金属膜が使用されている場合と比べて高いことがわかるが、それは、機能膜がより高い放射率を有するからである。膜が面3上に堆積される場合、ソーラーファクターがこうしたTCO機能膜の存在によって大きな影響を受けないこともまたわかった。
【0021】
グレージングユニットの異なった面上に2つの多層を含む二重グレージングユニットもまた、特に欧州特許出願公開第637572号において提供されている。この文献によれば、(その多層の作用が面4に配置された異なった性質の別の低E膜によって補足される)銀膜を含む第1の低E多層を二重グレージングユニットの面3に配置することによってエネルギー伝達係数をさらに低減し、そしてU=1.1のDGUを得ることが可能である。
【0022】
グレージングユニットの2つの異なった面上に2つの低E膜を配置することは、エネルギー透過係数Uが有利に低減されることを事実上可能にするが、出願人によって行われた作業では、計測されたソーラーファクターの有意な減少が同時に起こることも示された。
【発明の概要】
【0023】
本発明の目的は、高い断熱性、特には1.1未満、さらには1.0未満のU値を有し、一方で高いソーラーファクターを維持する断熱性グレージングユニットを提供することによって上記の問題を解決することである。
【0024】
より詳しくは、本発明は、ガス充填キャビティによって隔てられた複数のガラス基材を結合させることによって得られる断熱特性を有する多重グレージングユニットであって、第1の基材の前面がグレージングユニットの外壁を画定し、最後の基材の背面がグレージングユニットの内壁を画定し、多重グレージングユニットが、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含む第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含む第2の低E膜多層
を含む。
【0025】
本発明によれば、第2の多層は、最後の基材の背面に堆積されてグレージングユニットの内壁を形成し、第1の多層は、最後の基材の他方の面又は該他方の面に対面する基材の面上に堆積される。
【0026】
さらに、酸化ケイ素から本質的に作成される膜は、最後のガラス基材の表面に対し、第2の低E膜多層において透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される。
【0027】
本発明によれば、第2の多層は機能性金属膜を含まない。
【0028】
第1の可能性のある実施態様によれば、本発明は、ガス充填キャビティによって隔てられた2つのガラス基材を結合させることによって得られる断熱特性を有する二重グレージングユニットであって、第1の基材がグレージングユニットの面1及び2を画定し、第2の基材がグレージングユニットの面3及び4を画定し、二重グレージングユニットが、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含み、二重グレージングユニットの面2又は3に堆積される第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含み、二重グレージングユニットの第2の基材の面4に堆積される第2の低E膜多層
を含み、酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、面4上で、第2のガラス基材の表面に対し、第2の低E膜多層において透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される二重グレージングユニットに関する。
【0029】
それゆえ、この実施態様によれば、第2の基材の面4はグレージングユニットの内壁を形成し、そこに第2の多層が堆積される。
【0030】
別の実施態様によれば、本発明は、ガス充填キャビティによって隔てられた3つのガラス基材を結合させることによって得られる断熱特性を有する三重グレージングユニットであって、第1の基材がグレージングユニットの面1及び2を画定し、第2の基材がグレージングユニットの面3及び4を画定し、第3の基材がグレージングユニットの面5及び6を画定し、三重グレージングユニットが、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含み、三重グレージングユニットの面4又は5に堆積される第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含み、三重グレージングユニットの第3の基材の面6に堆積される第2の低E膜多層
を含み、酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、面6上で、第3のガラス基材の表面に対し、第2の低E膜多層において透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される三重グレージングユニットに関する。
【0031】
それゆえ、この実施態様によれば、第3の基材の面6はグレージングユニットの内壁を形成し、そこに第2の多層が堆積される。
【0032】
本明細書において「酸化ケイ素から本質的に作成される膜」という表現は、酸素とケイ素を含み、かつ単純酸化物組成SiO
2及び任意選択で少なくとも1つの他の元素、好ましくはAl、C、N、B、Sn、Znからなる群より選択され、非常に好ましくはAl、B又はCである少なくとも1つの他の元素に基づく酸化ケイ素を80wt%以上含む膜を意味すると理解される。
【0033】
好ましくは、酸化ケイ素から本質的に作成される膜は、上記の規定に従って、同様に単純酸化物組成SiO
2に基づく90wt%以上の酸化ケイ素を含む。簡潔にするため、このような膜は、本明細書において酸化ケイ素膜又は酸化ケイ素の膜とも呼ばれる。
【0034】
本発明において「ガラス基材」という表現は、単一のガラスシート又はガラスシートの組立体、特には当分野で周知の技術を用いてポリマー中間層、特にはPVB(ポリビニルブチラール)中間層によって積層構造体と呼ばれるものを形成するように互いに結合された2枚のガラスシートの組立体を意味すると解される。
【0035】
本発明において「多層」という用語は、ガラス基材の表面上に重ねられた少なくとも2つの膜の組立体を意味すると解されるべきである。
【0036】
本発明において「低E多層」という表現は、Techniques de l’ingenieur,「Vitrage a isolation thermique renforcee」(「Glazing unit with enhanced thermal isolation」),C3635に記載される意味において上記の多層を備えたガラス壁からの垂直放射率ε
nを低減することが当分野で知られている任意の多層を意味すると解される。
【0037】
とりわけ、少なくとも1つの機能性金属膜を含む第1の低E多層は、有利には0.1以下、好ましくは0.08以下、非常に有利には0.05以下の垂直放射率ε
nを結果として生じる多層から選択される。
【0038】
透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含む第2の低E多層は、有利には0.7以下、好ましくは0.5以下、非常に有利には0.4以下の垂直放射率ε
nを結果として生じる多層から選択される。
【0039】
本発明において「と接触している」などの表現は、言及された2つの膜の間に中間膜がないことを意味すると解される。
【0040】
このような多重グレージングユニットの好ましい実施態様によれば、必要に応じて、以下の特徴を組み合わせることができることは言うまでもない。
・酸化ケイ素を本質的に含む膜はTCO膜と接触している。しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、第2の多層においてTCO膜と酸化ケイ素を本質的に含む膜の間に中間膜を配置することもでき、この膜は、例えば、窒化ケイ素、窒化アルミニウム又はこれら2つの材料の合金から作成される。
・酸化ケイ素から本質的に作成される膜は、第2の低E膜多層の最も外側の膜である。
・酸化ケイ素から本質的に作成される膜の物理的な厚さは40〜90nm、好ましくは40〜80nmである。
・金属膜は、銀膜又は銀に基づく合金膜である。
・透明な導電性酸化物膜は、混合インジウムスズ酸化物(ITO)、特にはIn
2O
3/SnO
2質量比が90/10以上のITO、フッ素を添加した酸化スズ(SnO
2:F)又はアンチモン(Sb)を添加した酸化スズ、アルミニウム添加ZnO(AZO)、ガリウム添加ZnO(GZO)、ガリウム及びアルミニウム同時添加ZnO(AGZO)、及びニオブ添加チタン酸化物(TiO
2:Nb)から選択される。
・金属膜の物理的な厚さは6〜16nmであり、透明な導電性酸化物膜の厚さは50〜400nmである。
・金属膜の物理的な厚さは6〜10nmであり、透明な導電性酸化物膜の厚さは80〜300nmである。
・金属膜の物理的な厚さは10〜12nmであり、透明な導電性酸化物膜の厚さは50〜200nmである。
・金属膜の物理的な厚さは12〜16nmであり、透明な導電性酸化物の厚さは100〜400nmである。
・第2の低E膜多層は、透明な導電性酸化物から作成される機能膜の下に、少なくとも1つの窒化物に基づく誘電体膜、特には窒化ケイ素及び/又は窒化アルミニウムから作成される少なくとも1つの窒化物に基づく誘電体膜を含む。
・第2の低E膜多層は、基材の表面から連続して以下の膜、すなわちガラス/窒化ケイ素/酸化ケイ素/ITO/任意選択で窒化ケイ素/酸化ケイ素を備え、場合により追加の中間膜がこれらのさまざまな膜の間に挿入される。
・第2の低E膜多層は、基材の表面から連続して以下の膜、すなわちガラス/酸化ケイ素又は酸炭化ケイ素/SnO
2:F/酸化ケイ素を備え、場合により追加の中間膜がこれらのさまざまな膜の間に挿入される。
【0041】
本発明はまた、
・少なくとも1つの機能性金属膜を含み、基材の第1の面に堆積される第1の低E膜多層、及び
・透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含み、基材の第2の面に堆積される第2の低E膜多層
を含み、酸化ケイ素から本質的に作成される膜が、第2の低E膜多層において、第2のガラス基材の表面に対し、透明な導電性酸化物から作成される機能膜上に配置される、上記の多重グレージングユニットの内壁を形成するのに使用できる基材に関する。
【0042】
本発明の別の主題はまた、断熱多重グレージングユニットの製造において、当該グレージングユニットの内壁を形成する先に記載したような基材の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の詳細及び有利な特徴は、基材10、30をそれぞれ形成する、2枚のガラスシートを含む二重グレージングユニット(DGU)1の一実施態様の図解を示す
図1を使用して例示する、以下の限定的でない例により明確になる。2つの基材は、スペーサー及びフレーム20、21によって分離され、適所にしっかり保持され、かつ、互いに向かい合っており、そしてその組立体では、中間にあるガス充填キャビティ15を形成する閉鎖空間の範囲を定めている。本発明によれば、ガスは、空気であっても、アルゴンであっても、クリプトンであってもよい(又はこれらのガスの混合物であてもよい)。
【0045】
図中では左から右に向いている二重矢印によって示された、建築物内に入ってくる太陽光線の入射方向が考慮されるとき、第1のガラスシート(基材30)は外側に向いている。
図1では、このシートは、中間にあるガス充填キャビティに向いているその背面31がコーティングでコートされていない。グレージングユニット1の外壁も形成する前側29(「面1」と呼ばれる)は、むき出しであっても、あるいは、例えば欧州特許出願公開第850204号に記載の自浄コーティングなど、又は例えば国際公開第2007/115796号若しくは国際公開第2009/106864号に記載の「抗凝結」コーティングなどの別のコーティングでコートされていてもよい。
【0046】
建築物に入ってくる太陽光線の入射方向が考慮されるとき、建築物の内側の最も近くに配置された他のガラスシートが第2の基材10を形成する。この基材10は、中間にあるガス充填キャビティに向いているその前側9が少なくとも1つの公知の銀に基づく(低E)機能膜を含む膜多層12からなる断熱性低Eコーティングによってコートされている(したがって、銀含有低E多層は二重グレージングユニットの内面「面3」上に配置される)。
【0047】
グレージングユニット1の内壁も形成する基材10の背面11は、透明な導電性酸化物から作成される少なくとも1つの機能膜を含む、先に記載したタイプのものとは別の低E膜多層13でコートされている。
【0048】
図面では、さまざまな膜の厚さは、明瞭性を考えて原寸に比例して示されていない。
【0049】
本発明の範囲から逸脱することなく、多層12はまた、二重グレージングユニット1の面2に配置することもできる。
【0050】
本発明とその利点は、以下の限定的でない例を読むことにより、もっとよく理解される。
【0051】
以下のすべての例において、低E膜多層を、Planilux(登録商標)という商品名で出願企業によって販売されている透明なソーダ石灰ガラス上に堆積される。
【0052】
以下のすべての例において、製造した二重グレージングユニットでは、膜多層を、それぞれ面3及び面4上、すなわち、建築物に入ってくる太陽光線の入射方向を考慮したときに建築物の内側の最も近くに位置するガラス基材上に配置した。
【0053】
例に従って製造したすべての二重グレージングユニット(DGU)は、4/16(90% Ar)/4の立体配置を有していた、すなわち、それらは90%のアルゴンと10%の空気で満たされた16mm厚の中間キャビティによって隔てられた2枚の4mm厚のPlanilux(登録商標)透明ガラスシートから成り、そして組立体はフレーム20とスペーサー21によって適所にしっかり保持された。
【0054】
すべての例において、DGUの面3に配置された低E多層は、現在市販されている多層を代表するものとして先に記載されたものだった(表1)。
【0055】
本発明によれば、DGUの面4に配置された低E多層は、その機能膜が透明な導電性酸化物TCOから作成される低E多層であった。例において、本発明を実施する利点を実証するために、多層内に存在するさまざまな膜の性質を変化させた。
【0056】
機能膜としてフッ素添加SnO
2を含む多層を除き、2つの多層のすべての膜は、真空中でターゲットをマグネトロンスパッタリングすることにより従来公知の方法において堆積することができる。
【0057】
以下の表3では、例1〜3のさまざまな膜を堆積させるのに使用されるマグネトロンスパッタリングプロセスの一般条件を順に並べる。
【0059】
混合酸化インジウムスズ(ITO)は、90/10に実質的に等しいIn
2O
3/SnO
2質量比を有する。
【0060】
例4〜9のSnO
2:Fの膜及びSiOCとSiO
2の膜を、従来のCVD技術によって得た。フッ素添加含有量は約1%であった。
【0061】
例1〜3は、二重グレージングユニットの面4上の多層のTCOがインジウムスズ酸化物ITOであった、本発明による比較多層に関する例である。
【0062】
例4〜9は、二重グレージングの面4上の多層のTCOがSnO
2:Fから作成される、本発明による比較多層に関する例である。
【0063】
例10は、最終的な酸化ケイ素膜が厚さが12ナノメートル厚しかなかったので、その結果、本発明の範囲外であった比較多層に関する例である。
【0064】
[例1(比較例)]
この例では、DGUの面4上の多層は以下のとおりであった。
【0066】
[例2(本発明)]
この例では、DGUの面4上の多層は以下のとおりであった。
【0068】
[例3(本発明)]
この例では、DGUの面4上の多層は以下のとおりであった。
【0070】
以下の表4には、例1〜3のグレージングユニットに関して得られた結果を示す。
【0072】
[例4〜6(比較例)]
これらの例では、DGUの面4上の多層は以下のとおりであった。
【0074】
[例7〜9(本発明)]
これらの例では、DGUの面4上の多層は以下のとおりであった。
【0076】
以下の表5には、例4〜9の二重グレージングユニットに関して得られた結果を示す。
【0078】
表4及び5に示された結果は、本発明による2つの低E多層を備えた二重グレージングユニットが、熱伝達率U及びソーラーファクターに関してより良好な総合性能を有することを示している。
【0079】
[例10(比較例)]
この例では、DGUの面4上の多層は以下のとおりであった。
【0081】
この比較例に関して、59.6%のソーラーファクターと1.0W・m
-2・K
-1のU係数が計測された。
【0082】
例1〜10を比較することによって、本発明によるグレージングユニットが所定の熱伝達率に対してより高いソーラーファクターを有することがわかった。
【0083】
本発明は、一例として先に記載されている。当業者は、しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明のさまざまなバリアントを生み出すことができることは理解されるべきである。特に、本発明は、三重グレージングユニットに適用できる。