特許第6039687号(P6039687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6039687カーボンブラックおよび鉛蓄電池のための電極における使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039687
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】カーボンブラックおよび鉛蓄電池のための電極における使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20161128BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20161128BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20161128BHJP
   C09C 3/04 20060101ALI20161128BHJP
   C01B 31/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   H01M4/62 B
   H01M4/14
   C09C1/48
   C09C3/04
   !C01B31/00
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-548956(P2014-548956)
(86)(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公表番号】特表2015-509119(P2015-509119A)
(43)【公表日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】US2012071269
(87)【国際公開番号】WO2013096784
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年8月11日
(31)【優先権主張番号】61/578,994
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391010758
【氏名又は名称】キャボット コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CABOT CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】パオリーナ アタナッソバ
(72)【発明者】
【氏名】ベリスラブ ブリザナック
(72)【発明者】
【氏名】ケネス シー.コエラート
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ディー.モエザー
(72)【発明者】
【氏名】ミオドラッグ オルジャカ
(72)【発明者】
【氏名】イーペン サン
(72)【発明者】
【氏名】ダニー ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー スコット ソーリー
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−514304(JP,A)
【文献】 特開昭61−066759(JP,A)
【文献】 特開平05−335012(JP,A)
【文献】 特開2008−098009(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02255403(EP,A1)
【文献】 国際公開第2009/105076(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102007629(CN,A)
【文献】 韓国特許第10−2010−0122082(KR,B1)
【文献】 特開平01−223165(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/053668(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0211703(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0208780(US,A1)
【文献】 特開昭60−067564(JP,A)
【文献】 特開昭54−126691(JP,A)
【文献】 特開2000−273351(JP,A)
【文献】 特開昭63−286446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C09C 3/04
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の製造方法であって、以下の工程(a)〜(c):
(a)第1の電極を作製すること、前記第1の電極は、導電性基材と、前記導電性基材の表面によって支持された材料を含み、前記材料は、不活性雰囲気において1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱して熱処理カーボンブラックを形成させることによって調製された熱処理カーボンブラックを含み、前記熱処理カーボンブラックは、100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー表面積、10mJ/m以下の表面エネルギー、および22Å〜50Åの範囲のラマン微結晶平面寸法を有する、
(b)第2の電極を作製すること、ならびに、
(c)前記第1の電極および前記第2の電極とに接触する電解質を作製すること、
含んでなる、鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも100m/gの統計的厚さ表面積を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理カーボンブラックが、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第1の電極が、酸化鉛ならびに、前記酸化鉛に対して0.1質量%〜5質量%の前記熱処理カーボンブラックを含む、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電極および鉛蓄電池において使用可能である、熱処理カーボンブラック等のカーボンブラックが、本明細書に開示される。
【背景技術】
【0002】
マイクロハイブリッド車および再生可能エネルギー源のための貯蔵などの用途は、高率部分充電状態(HRPSoC)条件および高動的充電受容(DCA)における改善されたサイクル性に関して、鉛蓄電池に対して強い要求を課している。陰極板硫酸化の低減および密閉型鉛蓄電池(VRLA)のサイクル性および充電受容の改善における炭素添加物の利益は実証されてきた。好適な炭素添加物としてはカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは、高温および高処理量プロセスにおいて原料油から作られる、独特な階層構造を有するカーボン材料である。モルフォロジー、純度、および表面特性等のカーボンブラックの特性は、鉛蓄電池適用に関連して研究されてきた。
【発明の概要】
【0003】
第1の一般的態様において、カーボンブラックは100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および10mJ/m以下の表面エネルギー(SE)を有する。
【0004】
第2の一般的態様においては、熱処理カーボンブラックが、熱処理カーボンブラックを形成するための不活性雰囲気における1100℃〜1700℃の範囲の温度でのカーボンブラックの加熱を含む工程によって調製される。熱処理カーボンブラックは、100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および10mJ/m以下の表面エネルギー(SE)を有する。
【0005】
第3の一般的態様においては、熱処理カーボンブラックが、熱処理カーボンブラックを形成するための、不活性雰囲気における1100℃〜1700℃の範囲の温度でのカーボンブラックの加熱を含む工程によって調製される。前記熱処理カーボンブラックは、100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および、少なくとも22Å、少なくとも25Å、例えば、22Å〜50Åまたは25Å〜50Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する。
【0006】
第4の一般的態様においては、組成物は、酸化鉛ならびに、第1、第2、または第3の一般的態様および/またはその実施態様のいずれか1つのカーボンブラックもしくは熱処理カーボンブラック、を含む。この組成物は、酸化鉛に対して、0.1質量%〜5質量%のカーボンブラックまたは熱処理カーボンブラックを含む。いくつかの実施形態では、この組成物はペーストである。
【0007】
第5の一般的態様においては、電極は、導電性基材および導電性基材の表面により支持された材料を含む。この材料は、第1、第2、または第3の一般的態様および/またはその実施態様のいずれか1つのカーボンブラックもしくは熱処理カーボンブラック、あるいは、第4の一般的態様および/またはその実施態様の組成物を含む。
【0008】
第6の一般的態様においては、鉛蓄電池は、第1の電極、第2の電極、および第1の電極と第2の電極と接触する電解質を含む。第1の電極は、第5の一般的態様および/またはその実施態様の電極であり得る。
【0009】
第7の一般的態様は、熱処理カーボンブラックを形成するために、不活性雰囲気中で1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することを含む。熱処理カーボンブラックは、100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および表面エネルギー(SE)10mJ/m以下を有する。
【0010】
第8の一般的態様は、熱処理カーボンブラックを形成するために、不活性雰囲気中で1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することを含む。熱処理カーボンブラックは、100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および22Å〜50Åの範囲のラマン微結晶平面寸法(L)を有する。
【0011】
前述の一般的態様の実施態様は、以下の特徴の1つまたは2つ以上を含み得る。例えば、カーボンブラックまたは熱処理カーボンブラックは、少なくとも22Åまたは少なくとも25Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有し得る。いくつか場合には、カーボンブラックまたは熱処理カーボンブラックは、50Å以下のラマン微結晶平面寸法(L)を有する。特定の場合においては、カーボンブラックまたは熱処理カーボンは、10mJ/m以下、9mJ/m以下、6mJ/m以下、または3mJ/m以下の表面エネルギー(SE)を有する。いくつか例では、カーボンブラックまたは熱処理カーボンブラックは、少なくとも100m/gの、例えば100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する。
【0012】
前述のカーボンブラックまたは熱処理カーボンブラック、材料、ならびに一般的態様および/またはそれらの実施態様の組成物は、導電性を改善し、ガス放出を低減し、一方で高い充電受容性およびサイクル性を維持するために、鉛蓄電池において(例えば、鉛蓄電池の1つまたは2つ以上の電極において)使用されることが可能である。
【0013】
本発明の1つまたは2つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の記述において明らかにされる。他の特徴、目的、および発明の利点は、記述および図面から、また特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本明細書中の概念は、添付の図面と関連するさまざまな実施形態の以下の詳細な説明を考慮して、より完全に理解され得る。
【0015】
図1図1には、鉛蓄電池が描かれている。
図2図2は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対するブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積を示すプロットである。
図3図3は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対する統計的厚さ表面積(STSA)を示すプロットである。
図4図4は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対する細孔容積を示すプロットである。
図5図5は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対するラマン微結晶平面寸法(L)を示すプロットである。
図6図6は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対する表面エネルギー(SE)を示すプロットである。
図7図7は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対するBET表面積を示すプロットである。
図8図8は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対するSTSAを示すプロットである。
図9図9は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対するラマン微結晶平面寸法(L)を示すプロットである。
図10図10は、熱処理カーボンブラックに関する、温度に対するSEを示すプロットである。
図11図11は、N BET−SA(m/g)に対する−0.4Vおよび50℃における質量正規化水素放出電流(iHE/m、A/g)を示すプロットである。
図12図12は、STSA表面積(m/g)に対する−0.4Vおよび50℃における質量正規水素放出電流を示すプロット。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、鉛蓄電池100は、第1の電極102、第2の電極104、および電解質106を含む電気化学貯蔵バッテリである。電解質106は通常は、水性硫酸を含む。電極102および104は、典型的に平行に配向に保持されたプレートであり、多孔性セパレータにより電気的に隔離され、イオンの移動を可能にする。図1に示されるように、第1の電極102は正のバッテリプレートであって、表面上に、正の導電性二酸化鉛(PbO)の層で被覆された電流コレクタ(例えば、金属プレートまたはグリッド)を含み、第2の電極104は負のバッテリプレートであって、金属鉛(Pb)等の負の活性材料で被覆された電流コレクタを含む。鉛蓄電池は、通常は多数の負および正のプレートを含む。
【0017】
鉛蓄電池の負のプレートは、典型的には酸化鉛粉末および硫酸を含むペーストを、グリッドとして知られる導電性の鉛合金構造に適用することによって生産される。これらのプレートが硬化され、乾燥された後、これらのプレートはバッテリ内に組み立てられ、そして充電されて酸化鉛をPbに変換する。いくつかの場合には、増量剤混合物が酸化鉛/硫酸ペーストに加えられ、負のプレートの性能を改善する。増量剤混合物は、例えば、プレートが放電される時に生成される硫酸鉛のための核形成剤としての硫酸バリウム、放電状態における活性材料の導電性を増加させるためのカーボン、および活性材料の表面積を増加させ、活性材料の物理的構造が安定化されるのを支援するためのリグノスルホン酸または他の有機材料を含み得る。
【0018】
放電サイクル中、負のプレートによって供給されるPbは、電離硫酸電極と反応して、負のプレートの表面上に硫酸鉛(PbSO)を形成し、一方で、正のプレート上のPbSOは反応して、正のプレート上または近くでPbSOを形成する。充電サイクル中、負のプレートの表面上のPbSOは反応してPbを形成し、そして正のプレートの表面上のPbSOは反応してPbOを形成する。このように、充電サイクルはPbSOを、PbおよびPbOへ変換し、そして放電サイクルは、PbOおよびPbをPbSOに変換することによって、貯蔵された電位を解放する。
【0019】
鉛蓄電池は、浸水セルおよび密閉型構成で生産される。浸水セルバッテリにおいては、電極/プレートは電解質に浸水され、充電中に生成されたガスは大気中に排出される。密閉型鉛蓄電池(VRLA)は、一方向バルブを含み、これは外部ガスがバッテリ内に入るのを禁止し、そして充電中に生成される酸素等の内部ガスが、もしも内部圧が選択されたしきい値を超す場合には逃げるのを許可する。VRLA蓄電池において、電解質は、典型的には、電解質のガラスマットセパレータへの吸収によって、あるいはシリカ粒子による硫酸のゲル化によって、不動化される。
【0020】
添加物としてのカーボン(例えば、カーボンブラックの形で)は浸水型およびVRLA両方の鉛蓄電池の高い動的充電受容性および改善されたサイクル寿命(サイクル性)を可能とする。負のプレート内の高表面積カーボンは放電済み負のプレートの硫酸鉛マトリックス内で導電性のネットワークを形成することが概して信じられている。この導電性マトリックスは、硫酸鉛を鉛へ戻す電気化学的変換のための導電性経路を提供することによって高い再充電率を容易にすると考えられ、従って、大型硫酸鉛晶子の形成を阻止し、プレート表面上でのその成長を最小化する。この効果はより多くの量のカーボンを追加すると大きくなり、またカーボンの表面積が増加するにつれても増加する。
【0021】
鉛蓄電池における高表面積カーボンの使用は、しかしながら、水素放出に関連すると考えられる高ガス発生率につながる可能性があり、カーボンの高い充填量は、サイクル性を低下させる可能性がある。水の分解が、鉛蓄電池内の水分解電圧より上で発生し、分解率およびその結果もたらされる酸素および水素の容積は、過電位と共に増加する。さらに、カーボン表面上での水素放出の潜在性は、鉛上でのそれより低く、従って、カーボンの存在は水素放出率の増加、従って、より高い水の損失につながる可能性がある。
【0022】
水素ガス放出の潜在的衝撃は重大である可能性がある。4%濃度に近づくレベルにおいては、蓄積される水素ガスは、安全上の危険性を生じさせる可能性がある。浸水型鉛蓄電池の寿命にわたり、ガス放出率は潅水維持に影響し、ガス放出が大きくなるにつれ、適切な電解質レベルが蓄電池内で維持されることを確保する必要性が大きくなる。保守不用の浸水型鉛蓄電池の場合、高い水損失は電解質濃度を増加させ、サイクル寿命を低下させる。水の損失による乾燥も、VLRA蓄電池における可能性のある故障モードである。
【0023】
プラチナおよび他の電極における水素放出反応と同様に、カーボン表面における反応メカニズムは、以下のように理解されるが、ここで、Sはカーボン表面を示し、S−Hadsはカーボン表面に吸着された水素を表す。
【0024】
【化1】
【化2】
【化3】
【0025】
前述のメカニズムに基づき、カーボン表面における水素放出の率は、吸着サイトの数、表面吸着水素の再結合のチャンス、およびプロトンの表面吸着水素への拡散を含む他の要因によって影響される。
【0026】
本明細書中で使用される場合、カーボンブラックの熱処理は概して、カーボンブラックを形成するために使用されるもの以外の、加熱工程を表す。すなわち、カーボンブラックの熱処理は、通常は、ファーネスブラックプロセス等の、当分野において一般的に知られる方法によって予め形成された、カーボンブラックの後処理を表す。後処理は不活性条件の下で(すなわち、実質的に酸素のない雰囲気において)起こり、典型的にはカーボンブラックが形成されたものとは異なる容器内で起こる。不活性条件としては、これらに限定されないが、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気が挙げられる。本明細書で記述される、不活性条件の下におけるカーボンブラックの熱処理は、欠陥の数、転位、および/またはカーボンブラックの晶子における不連続性を低減し、カーボンブラック上の表面基の数を低減し、それによって反応(1)に関する吸着サイトの数を低減し、水素吸着に対するカーボン表面の活性を低下させ、延いては、ガス発生および水素放出を低減すると考えられている。鉛蓄電池における使用のためのカーボンブラックの熱処理の他の利点としては、カーボンブラックの導電性および疎水性を増加させることが挙げられる。増加された導電性は、例えば、ラマン分光法によって測定される微結晶平面寸法(L)(すなわち、微結晶カーボンブラックの秩序化ドメインのサイズ)の増加によって証明される結晶化度の増加として観察され得る。増加された疎水性は、例えば、より低い表面エネルギー(SE)として観察される。過度の熱処理は、しかしながら、合計表面積(例えば、ブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積)または外部表面積(例えば、統計的厚さ表面積(STSA))の過度の損失をもたらす可能性があり、従って、熱処理カーボンブラックは、充電受容およびサイクル性における好適な増加をもはや提供しない。従って、本明細書に記述されるように、熱処理パラメータは、増加した充電受容性およびサイクル性を提供するための好適な表面積を維持する一方、高い結晶化度および高い疎水性を達成するために有利に選択され得る。
【0027】
高表面積熱処理カーボンブラックを調製するための最適パラメータは、改善された充電受容性およびサイクル性を維持しながら、高導電性、高疎水性、および低減されたガス放出を達成するために、カーボンブラックが、例えば、鉛蓄電池において使用するために好適であるように、実験的に定めることができる。例えば、10mJ/m以下(例えば、9mJ/m以下、6mJ/m以下、または3mJ/m以下)の表面エネルギー(SE)、少なくとも22Åおよび50Å以下(例えば、22Å〜50Åの範囲、少なくとも25Å、または25Å〜50Åの範囲等)のラマン微結晶平面寸法(L)、またはそれらの組み合わせ等の1つもしくは2つ以上の他の選択された性質と組み合わされた、100m/g〜1100m/gの範囲のBET表面積を有する熱処理カーボンブラックを生じるように、1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することによって調製されたカーボンブラックは、鉛蓄電池に使用するために好適なカーボンブラックを提供することが見出された。
【0028】
いくつかの例では、カーボンブラックまたは熱処理カーボンブラックは、少なくとも100mおよび/または600m/g未満の統計的厚さ表面積(STSA)、例えば、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する。
【0029】
1つの実施形態においては、加熱前のカーボンブラック(未処理カーボンブラック)は、10mJ/mより大きい表面エネルギー、および少なくとも200m/gのBET表面積、例えば、少なくとも300m/g、少なくとも500m/g、少なくとも1000m/g、1200m/g、少なくとも1300m/g、少なくとも1400m/g、または少なくとも1500m/gのBET表面積、を有する。別の実施形態では、熱処理前のカーボンブラックは、10mJ/mより大きい表面エネルギー、および200m/g〜2100m/gの範囲のBET表面積、例えば、300m/g〜2100m/g、500m/g〜2100m/g、1000m/g〜2100m/g、1200m/g〜2100m/g、1300m/g〜2100m/g、1400m/g〜2100m/g、または1500m/g〜2100m/gの範囲のBET表面積を有する。
【0030】
1つの実施形態では、熱処理は、非処理カーボンブラックのBET表面積に対して、少なくとも10%だけBET表面積を減少させる。1つの実施形態では、BET表面積は、表面エネルギーの減少と併せて、BET表面積が減少される。別の実施形態では、熱処理は、非処理カーボンブラックのBET表面積に対して、少なくとも25%だけ、例えば、非処理カーボンブラックのBET表面積に対して、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも65%だけ、BET表面積を減少させる。さらに別の実施形態では、熱処理は、BET表面積を、非処理カーボンブラックのBET表面積に対して、少なくとも10%〜70%、少なくとも25%〜70%、少なくとも30%〜70%、少なくとも40%〜70%、または少なくとも50%〜70%だけ、減少させる。
【0031】
別の実施形態では、熱処理は、ラマン微結晶平面寸法(L)を増加させ、そして表面エネルギーを減少させ、その間、BET表面積を、非処理カーボンブラックのBET表面積に対して、25%未満、例えば10%未満減少させ、あるいは1%〜25%、5%〜25%、10%〜25%、1%〜10%、または5%〜10%だけ減少させる。
【0032】
特定のカーボンブラック、例えば、選択された性質(例えば、高表面積、高導電性、および高疎水性)の組み合わせを有する熱処理カーボンブラックは、鉛蓄電池において、他のカーボンブラック、(例えば非熱処理)と比較して、改善された充電受容性およびサイクル性ならびに減少された水素放出を提供するように使用されることが可能である。
【0033】
いくつかの場合には、熱処理カーボンブラックは、鉛蓄電池のための電極の形成に使用されることが可能である。この電極は、例えば、導電性基材および導電性基材の表面によって支持される材料を含み得、この材料は、本明細書中に記述されるように、酸化鉛および熱処理カーボンブラックを含む組成物である。この組成物は、ペーストの形式であり得る。いくつかの場合では、この組成物は、酸化鉛に対して、0.1質量%〜5質量%の熱処理カーボンブラックを含む。
【0034】
望ましい充電受容は、負の電極のためのペーストが、酸化鉛に対して約1質量%熱処理カーボンブラックの充填量で、酸化鉛および熱処理カーボンブラックを含むときに、達成され得る。より低い表面積を有するカーボンブラックに関しては、より高い充填量(例えば、約3質量%)が必要とされることも見出された。しかしながら、より低い表面積カーボンブラックのより高い充填量を有する電極は、より高い表面積のカーボンブラックのより低い充填量を有する電極よりも、より低いサイクル性を示す。このように、より良い充電受容およびより良いサイクル性の組み合わせは、より高い表面積の熱処理カーボンブラックのより低い充填量について達成されることが信じられる。
【0035】
例えば、約1500m/gの初期BET表面積を有するカーボンブラックは、さまざまな条件の下で熱処理されて、さまざまな熱処理カーボンブラックを産出し得る。1つの場合では、1300℃での熱処理は、1.5質量%の充填量の熱処理カーボンブラックで、最適の性能を示す、1000m/gのBET表面積を有するカーボンブラックを産出し得る。別の例では、1400℃での熱処理は、2質量%の充填量の熱処理カーボンブラックで、最適な性能を示す、750m/gのBET表面積を有するカーボンブラックを産出し得る。さらに別の例では、熱処理は、3質量%充填量のカーボンブラックで最適性能を示す、500m/gのBET表面積を有するカーボンブラックを産出し得る。しかしながら、3質量%の充填量で、サイクル性は最適ではない可能性がある。このように、表面積の下限(および熱処理温度tに対する上限)は、充電受容およびサイクル性について最適な結果を産出するように選択され得る。同様に、例えば、約250m/gのより低い初期BET表面積を有するカーボンブラックは、さまざまな条件の下で熱処理されて、さまざまな熱処理カーボンブラックを産出し得、そして、熱処理カーボンブラックのBET表面積の下限は、より低い表面積において必要とされる増加された充填量が、サイクル性に対して有意な悪影響を有しないように選択され得ると考えられる。
【0036】
別の実施形態では、本明細書中に開示された熱処理カーボンブラックを含む材料をその上に堆積された電極は、より低い水素放出電流を示す。例えば、熱処理カーボンブラック試料により被覆された電極は、比較し得るBET表面積またはSTSA値を有する非処理カーボンブラック試料に対して、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、または少なくとも50%低い水素放出電流を有する。比較し得る表面積値は、非処理カーボンブラック試料に対して、表面積の5%以内または10%以内のものを含む。
【実施例】
【0037】
固体材料のBET表面積および多孔性(合計細孔容積)が、物理的吸着および毛管凝縮原理に基づいて取得された。−273℃において、カーボンブラックが、圧力の増分が0.01〜0.3P/Pの範囲で増加する、一連の精密に制御された圧力において窒素を導入される。大気圧より少し下の圧力において、合計窒素侵入細孔容積またはBET表面積が、当技術分野において知られた方法により計算された。カーボンブラックのメソ細孔およびマクロ細孔に関連する外部表面積(統計的厚さ表面積あるいはSTSA)は、当技術分野において通常知られた統計的厚さ方法に基づいて計算され、その場合、tプロットが使用されて、等温線上の任意のポイントにおける平均厚さを測定するが、それはそのポイントにおける単一層容量の分数V/Vに、窒素分子について3.54Åとして定義される窒素単一層の厚さをかけることによって行われる。本明細書中で報告される、表面積および合計細孔容積は、ASTM D6556−10に従って計算され、これを参照することによって本明細書の内容とする。
【0038】
ラマン測定L(微結晶平面寸法)は、Gruberら、”Raman studies of heat−treated carbon blacks”、Carbon、第32巻第7号、p.1377−1382,1994に基づいており、これを参照することによって本明細書の内容とする。カーボンのラマンスペクトルは、約1340cm−1および1580cm−1における2つの主要「共鳴」帯を含み、これらは「D」および「G」帯としてそれぞれ表記される。D帯は不規則spカーボンに帰属され、そしてG帯は黒鉛または「規則的」spカーボンに帰属されると通常は考えられている。経験的手法を用いると、X線回折(XRD)により測定されるLとG/D帯の比率は高く相関し、そして回帰分析は経験的な関係を与える。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、Lはオングストロームで計算される。このように、より高いLは、より規則的な結晶性構造に対応する。
【0041】
カーボンブラック試料の表面エネルギー(SE)は、質量測定計測器を使って水蒸気吸着量を測定することにより測定された。カーボンブラック試料は、湿度室内の微量天秤上に載せられ、相対湿度の一連の段階的変化において平衡化された。質量の変化が記録された。相対湿度の関数としての平衡質量の増加は、蒸気等温収着曲線を生成するために使用された。試料の拡張厚(mJ/m)が、π/BETとして計算された。
【0042】
【数2】
【0043】
式中、Rは理想気体定数、Tは温度、Γは吸着された水のモル数、pは蒸気圧、そしてpは各増分ステップにおける蒸気の分圧である。拡張圧は、固体の表面エネルギーと関連しており、そして固体の疎水性/親水性の指標であり、より低い表面エネルギー(SE)は、より高い疎水性に対応する。
【0044】
実施例1
ファーネスカーボンブラックを、不活性雰囲気(N)の下で、選択された温度で1または2時間の滞留時間の間、1000℃〜1600℃の高温で処理した。処理条件は表1に列挙されている。BET表面積、外部表面積(STSA)、合計細孔容積SE、および結晶化度(Lラマン)の値は、非熱処理カーボンブラックおよび試料1A〜1Gについて示され、1000℃(1時間)、1150℃(1時間および2時間)、1300℃(1時間)、1400℃(1時間)、1500℃(1時間)、および1600℃(1時間)においてそれぞれ加熱された試料に対応している。概して、処理温度が増加するにつれ、BET表面積(図2)、外部表面積STSA(図3)、SE(図4)、および合計細孔容積(図5)は減少し、一方結晶化度(Lラマン、図6)は増加する。
【0045】
【表1】
【0046】
試料1A、1B、1D、1E、1F、および1G、ならびに非熱処理カーボンブラックに関する値を含むプロットが、図2〜6に示される。図2に示されるように、BET表面積は、1000℃における1504m/g(試料1A)から1600℃における534m/g(試料1G)まで減少し、比較的に急激な減少が、1150℃(試料1B)と1300℃(試料1D)の間で現れている。図3に見られるように、STSA(外部表面積)は、熱処理温度が増加するにつれて概して減少し、1000℃においては値は563m/g(試料1A)であり、そして1600℃においては値は481m/g(試料1G)であり、また、比較的に急激な減少が、1300℃(試料1D)と1400℃(試料1E)の間に現れている。図4は、1000℃における1.60ml/g(試料1A)から1600℃における1.03ml/gへの細孔容積の減少を示す。図5は、1150℃における11.7mJ/m(試料1B)から1600℃における7.0mJ/m(試料1G)へのSEの減少を示す。このように、1150℃の処理温度、およびそれより低い可能性のある処理温度から、1600℃の処理温度へと、熱処理カーボンブラックの疎水性は、温度の増加と共に増加する。図6に見られるように、1000℃(21.1Å)において熱処理されたカーボンブラックの結晶化度は、非熱処理カーボンブラック(20.8Å)のそれと同様である。L値は、1000℃における21.1Å(試料1A)から1600℃における33.3Å(試料1G)へ増加する。このようなわけで、熱処理カーボンブラックの導電性もまた、処理温度が増加するにつれて増加すると期待される。
【0047】
表1から、試料1D〜1Gは、100m/g〜1100m/gの範囲のBET表面積、10mJ/m以下のSE、および22Å(または25Å)〜50Åの範囲のラマン微結晶平面寸法(L)を含む、性質の組み合わせを有することがわかる。非熱処理試料および試料1A〜1Cは、1100m/gを超えるBET表面積、10mJ/mを超えるSE、および試料1D〜1Gより低いラマン微結晶平面寸法(L)を有することがわかる。
【0048】
実施例2
市販のカーボンブラックVXC72(Cabot Corporationから入手可能)が、2時間の滞留時間で1200℃に加熱され、その後、3時間の滞留時間の間、最終温度で加熱されたが、すべては不活性雰囲気(N)の下で行われた。処理条件は表2に列挙されている。試料2A〜2Cは、1200℃、1400℃、および1600℃での最終温度でそれぞれ加熱されたVXC72試料に対応する。概して、最終温度が増加するにつれ、BET表面積(図7)、STSA(図8)、および合計細孔容積は減少し、そして結晶化度(Lラマン、図9)およびSE(図10)は増加する。
【0049】
【表2】
【0050】
試料2A、2B、および2Cならびに非熱処理VXC72の値を含むプロットが、図7〜9に示されている。図7に見られるように、BET表面積は、207m/g(試料2A)から138m/g(試料2C)へと、ほとんど直線的に減少する。図8に見られるように、STSA(外部表面積)は、熱処理温度が増加するにつれて概して減少し、144m/gの値(試料2A)および135m/gの値(試料2C)を伴う。図9に見られるように、L値は、24.0Å(試料2A)から34.6Å(試料2C)へ増加する。そのようなわけで、熱処理カーボンブラックの導電性も、最終処理温度が増加するにつれて増加すると期待される。図10に見られるように、SEは、約9mJ/m(試料2A)から約5mJ/m(試料2C)へと減少する。
【0051】
表2から、それぞれが1200℃〜1600℃の範囲の温度で加熱される試料2A〜2Cは、100m/g〜1100m/gの範囲のBET表面積、および22Å〜50Åの範囲のラマン微結晶平面寸法(L)、ならびに9mJ/m以下のSEを含む性質の組み合わせを有することがわかる。
【0052】
比較例
6つの市販の非熱処理カーボンブラックのBET表面積、STSA、および細孔容積、および結晶化度が測定された。その結果は表3に列挙されている。表3に示されるどのカーボンブラックも、100m/g〜1100m/gの範囲のBET表面積および10mJ/m以下のSEを含む性質の組み合わせを有しない。
【表3】
【0053】
実施例3
この実施例は、回転円盤電極(RDE)測定により分析される、本明細書中に開示された熱処理カーボンブラックに関する水素放出からもたらされる低減されたガス発生率を説明する。RDE方法は、さまざまな電位および温度における、カーボン表面上の水素放出の分析のために使用されることが可能である。例えば、固定電圧における水素放出電流は、水素放出の尺度として使用されることが可能であり、熱処理条件に対するカーボンの表面積の関数として、さまざまな種類のカーボンについて比較される。
【0054】
回転円盤電極測定は、EC−Lab v10.21ソフトウェアを使用してPCを介して接続されるPine Speed制御およびPine Analytical回転子を制御するPrinceton Applied ReserachのBiStat定電位装置(potentiostat)により実施された。3つの電極ガラスセル(Pine Analytical)が、プラチナワイヤ対向電極、カロメル参照電極、および試験されている100マイクログラムのカーボンブラック試料で被覆されたガラスカーボン作用電極と共に使用された。
【0055】
電極は、研磨されたガラス質カーボン電極を、H0:IPA−HPLC等級(4mL:1mL)溶液に20mgカーボンを加え、そして1分間超音波処理することに調製された、25マイクロリットルの4mg/mLカーボンインクで被覆することにより準備された。乾燥後(25℃で、約1分間)、12マイクロリットルの0.05質量%ナフィオン溶液が、結合剤として電極の上に加えられ、そしてその電極は窒素の下で25℃において1時間乾燥された。
【0056】
使用された電解質は、0.5MのHSOであり、実験を開始する前に、アルゴンで20分間パージされた。本明細書中に報告される水素低減電流は、20mV/sで周期的ボルタンメトリ(CV)走査中に50℃において測定され、3,000rpmの円盤回転速度で、SCEに対して−0.3〜−1Vであった。報告された電流は、SCEに対して−0.65V(SHEに対して−0.4V)と読み取られ、これはカーボンブラックの質量によって正規化され、そして安定状態が達成された後に測定された。CV電流の安定状態を達成するために、100mV/sでの予備形成サイクル(通常10回未満)が実施された。
【0057】
分析されたカーボンブラック試料の性質が、以下の表4に概説されている。試料の比較例A、比較例B、および比較例Cは、熱処理が行われていないファーネスカーボンブラックの比較試料である。試料AおよびBは、試料比較例Aおよび比較例Bを、1300℃で2時間それぞれ熱処理することによって形成される。
【0058】
【表4】
【0059】
図11は、NBET−SA(m/g)に対する、−0.4Vおよび50℃における質量正規化水素放出電流(iHE/m、A/g)を示すプロットである。比較のNBET表面積のカーボンブラックの分析において、熱処理カーボンブラックは、有意により低い水素放出電流を示すことがわかる。例えば、試料Aおよび比較例Aのカーボンブラックが比較された場合に、水素放出電流の50%を超える低減が存在する。同様に、熱処理試料Bに関する水素放出電流は、試料の比較例Bさらには比較例Cに関する水素放出電流よりも50%近く低く、後者は試料Bと同様の表面積を有するが、熱処理はされていないものである。
【0060】
図12は、試料A、B、比較例A、および比較例Bに関する、STSA表面積(m/g)に対する、−0.4Vおよび50℃における質量正規化水素放出電流を示すプロットである。図2から、比較するSTSA表面積において、熱処理カーボンブラックは有意により低い水素放出電流を示すことを理解することができる。例えば、試料Aおよび比較例Aが比較された場合に、水素放出電流の50%を超える低減が存在する。同様に、熱処理試料Bに関する水素放出電流は、試料の比較例B(これは同様のSTSA値を有する)に関する水素放出電流よりも30%近く低い。
【0061】
用語「a」、「an」および「the」の使用は、本明細書中において特に断りのない限り、あるいは文脈から明確に否定されていない限り、単数と複数の両方を包含するものと解釈されなければならない。用語「comprising」、「having」、「including」、および「containing」は、特に断りのない限り、制限のない用語(すなわち、「含むが、それには限定されない」を意味する)として解釈されなければならない。本明細書中の値の範囲の明示は、単に本明細書中で特に断りのない限り、その範囲内に入るそれぞれの値を、個々に参照する省略表現方法として機能するように意図されており、そしてそれぞれの各個々の値は、あたかもそれぞれが本明細書中に明示されているかのように本明細書中に組み込まれる。本明細書中に記述されるすべての方法は、本明細書中に特に断りのない限り、あるいは文脈から明確に否定されない限り、任意の好適な順序で実施されることが可能である。いずれかの、およびすべての例、または本明細書中に提供される例示的言葉(例えば、「など」)の使用は、本発明を単により明快にすることが意図されており、そうではないものとして請求されていない限り、本発明の範囲に対して限定を与えるものではない。明細書中のどの言葉も、特許請求されていないいずれかの要素を、本発明の実施にとって不可欠であると表示しているとして解釈されるべきではない。
本発明は、以下の態様を含んでいる。
(1)100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および10mJ/m以下の表面エネルギー(SE)を有するカーボンブラック。
(2)前記カーボンブラックが、少なくとも22Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(1に記載のカーボンブラック。
(3)前記カーボンブラックが、少なくとも25Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(1)に記載のカーボンブラック。
(4)前記カーボンブラックが、50Å以下のラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(1〜3)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(5)前記表面エネルギー(SE)が、9mJ/m以下である、(1〜4)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(6)前記表面エネルギー(SE)が6mJ/m以下である、(1〜5)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(7)前記表面エネルギー(SE)が、3mJ/m以下である、(1〜6)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(8)前記表面エネルギー(SE)が、1mJ/m〜10mJ/mの範囲である、(1〜6)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(9)前記カーボンブラックが、少なくとも100m/gの統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(1〜8)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(10)前記カーボンブラックが、600m/gの統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(1〜9)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(11)前記カーボンブラックが、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(1〜10)のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
(12)熱処理カーボンブラックであって、前記熱処理カーボンブラックを形成するために、不活性雰囲気において1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することを含むプロセスによって調製され、前記熱処理カーボンブラックは100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および10mJ/m以下の表面エネルギー(SE)を有する、熱処理カーボンブラック。
(13)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも22Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(12)に記載の熱処理カーボンブラック。
(14)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも25Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(12)に記載の熱処理カーボンブラック。
(15)前記熱処理カーボンブラックが、50Å以下のラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(12〜14)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(16)前記表面エネルギー(SE)が、9mJ/m以下である、(12〜15)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(17)前記表面エネルギー(SE)が、6mJ/m以下である、(12〜16)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(18)前記表面エネルギー(SE)が、3mJ/m以下である、(12〜17)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(19)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも100m/gの統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(12〜18)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(20)前記熱処理カーボンブラックが、600m/g以下の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(12〜19)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(21)前記熱処理カーボンブラックが、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(12〜20)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(22)熱処理カーボンブラックであって、前記熱処理カーボンブラックを形成するために、不活性雰囲気において1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することを含むプロセスによって調製され、前記熱処理カーボンブラックは100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および22Å〜50Åの範囲のラマン微結晶平面寸法(L)を有する、熱処理カーボンブラック。
(23)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも25Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(22)に記載の熱処理カーボンブラック。
(24)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、10mJ/m以下である、(22または23)に記載の熱処理カーボンブラック。
(25)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、9mJ/m以下である、(22〜24)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(26)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、6mJ/m以下である、(22〜25)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(27)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、3mJ/m以下である、(22〜26)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(28)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも100m/gの統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(22〜27)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(29)前記熱処理カーボンブラックが、600m/g以下の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(22〜28)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(30)前記熱処理カーボンブラックが、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(22〜29)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック。
(31)電極であって、
導電性基材と、
前記導電性基材の表面によって支持された材料であって、(1〜10)のいずれか1項に記載のカーボンブラックまたは(12〜29)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラックを含む材料、
とを備える、電極。
(32)鉛蓄電池であって、
第1の電極であって、(31)に記載の電極を備える、第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極および前記第2の電極とに接触する電解質、
とを備える、鉛蓄電池。
(33)
組成物であって、
酸化鉛と、
(1〜10)のいずれか1項に記載の前記カーボンブラックまたは(12〜29)のいずれか1項に記載の熱処理カーボンブラック、
とを含み、
前記組成物は、前記酸化鉛に対して、0.1質量%〜5質量%の前記カーボンブラックまたは熱処理カーボンブラックを含む、組成物。
(34)前記組成物が、ペーストである、(33)に記載の組成物。
(35)電極であって、
導電性基材と、
前記導電性基材の表面によって支持された材料であって、(33または34)に記載の組成物を含む、材料、
とを備える、電極。
(36)鉛蓄電池であって、
第1の電極であって、(35)に記載の電極を含む、第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極および前記第2の電極とに接触する電解質、
とを備える、鉛蓄電池。
(37)熱処理カーボンブラックを形成するために、不活性雰囲気において1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することを含む方法であって、
前記熱処理カーボンブラックは100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および10mJ/m以下の表面エネルギー(SE)を有する、方法。
(38)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも22Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(37)に記載の方法。
(39)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも25Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(37)に記載の方法。
(40)前記熱処理カーボンブラックが、50Å以下のラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(37〜39)のいずれか1項に記載の方法。
(41)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、10mJ/m以下である、(37〜40)のいずれか1項に記載の方法。
(42)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、9mJ/m以下である、(37〜41)のいずれか1項に記載の方法。
(43)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、6mJ/m以下である、(37〜42)のいずれか1項に記載の方法。
(44)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、3mJ/m以下である、(37〜43)のいずれか1項に記載の方法。
(45)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも100m/gの統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(37〜44)のいずれか1項に記載の方法。
(46)前記熱処理カーボンブラックが、600m/g以下の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(33〜45)のいずれか1項に記載の方法。
(47)前記熱処理カーボンブラックが、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(33〜46)のいずれか1項に記載の方法。
(48)熱処理カーボンブラックを形成するために、不活性雰囲気において1100℃〜1700℃の範囲の温度でカーボンブラックを加熱することを含む方法であって、
前記熱処理カーボンブラックは、100m/g〜1100m/gの範囲のブルナウア・エメット・テラー(BET)表面積および22Å〜50Åの範囲のラマン微結晶平面寸法(L)を有する、方法。
(49)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも25Åのラマン微結晶平面寸法(L)を有する、(48)に記載の方法。
(50)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、10mJ/m以下である、(48または49)に記載の方法。
(51)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、9mJ/m以下である、(48〜50)のいずれか1項に記載の方法。
(52)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、6mJ/m以下である、(48〜51)のいずれか1項に記載の方法。
(53)前記熱処理カーボンブラックの前記表面エネルギー(SE)が、3mJ/m以下である、(48〜52)のいずれか1項に記載の方法。
(54)前記熱処理カーボンブラックが、少なくとも100m/gの統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(48〜53)のいずれか1項に記載の方法。
(55)前記熱処理カーボンブラックが、600m/g以下の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(48〜54)のいずれか1項に記載の方法。
(56)前記熱処理カーボンブラックが、100m/g〜600m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有する、(48〜55)のいずれか1項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12