特許第6039715号(P6039715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039715
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】圧電セラミックス及び圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20161128BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H01L41/187
   H01L41/09
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-29292(P2015-29292)
(22)【出願日】2015年2月18日
(62)【分割の表示】特願2012-185100(P2012-185100)の分割
【原出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2015-144285(P2015-144285A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2015年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】波多野 桂一
(72)【発明者】
【氏名】岸本 純明
(72)【発明者】
【氏名】土信田 豊
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−244300(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0066180(US,A1)
【文献】 特開2006−028001(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/152851(WO,A1)
【文献】 特開2010−030809(JP,A)
【文献】 特開2009−242167(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050258(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/086449(WO,A1)
【文献】 特開2011−190147(JP,A)
【文献】 特開2011−006307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187,41/09
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とする多結晶体からなり、当該多結晶体の結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在し、
100モルの前記主相に対して、
マンガン元素の含有量が、0.1モル以上2.0モル以下であり、
ニッケル元素の含有量が、0.1モル以上2.0モル以下であり、
リチウム元素の含有量が、0.2モル以上3.0モル以下であり、
シリコン元素の含有量が、0.2モル以上3.0モル以下であり、
ストロンチウム元素の含有量が、2.0モル以下であり、
ジルコニウム元素の含有量が、2.0モル以下である
圧電セラミックス。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電セラミックスであって、
前記主相は、(LiNa1−x−y)a(Nb1−zTa)O(式中、0.04<x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0.98≦a≦1.01であり、かつ、x+y<1である。)の組成式で表される
圧電セラミックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電セラミックスであって、
前記多結晶体の結晶三重点にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在する
圧電セラミックス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電セラミックスであって、
前記結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素の少なくとも一方を含む結晶が存在する
圧電セラミックス。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電セラミックスであって、
前記ニッケル元素及びマンガン元素の少なくとも一方を含む結晶の平均粒子径が0.1μm以上5μm以下の範囲内である
圧電セラミックス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の圧電セラミックスであって、
前記主相の結晶の平均粒子径が0.8μm以上3.0μm以下の範囲内である
圧電セラミックス。
【請求項7】
第1の内部電極及び第2の内部電極と、
前記第1の内部電極と前記第2の内部電極との間に配置された、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とする多結晶体からなり、当該多結晶体の結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在する圧電セラミックス層と
を具備し、
前記圧電セラミックス層は、
100モルの前記主相に対して、
マンガン元素の含有量が、0.1モル以上2.0モル以下であり、
ニッケル元素の含有量が、0.1モル以上2.0モル以下であり、
リチウム元素の含有量が、0.2モル以上3.0モル以下であり、
シリコン元素の含有量が、0.2モル以上3.0モル以下であり、
ストロンチウム元素の含有量が、2.0モル以下であり、
ジルコニウム元素の含有量が、2.0モル以下である
圧電素子。
【請求項8】
請求項7に記載の圧電素子であって、
第1の外部電極と第2の外部電極とをさらに具備し、
前記第1の内部電極と前記第2の内部電極とが前記圧電セラミックス層を介して交互に配置され、前記第1の内部電極はそれぞれ前記第1の外部電極に接続され、前記第2の内部電極はそれぞれ前記第2の外部電極に接続されている
圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含有しないアルカリ含有ニオブ酸ペロブスカイト構造の圧電セラミックス及びこれを含む圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、圧電素子として用いられる。圧電素子は、機械エネルギを電気エネルギに変換可能な圧電効果を応用してセンサ素子や発電素子などとして用いられる。また、圧電素子は、電気エネルギを機械エネルギに変換可能な逆圧電効果を応用して振動子や発音体やアクチュエータや超音波モータなどとして用いられる。さらに、圧電素子は、圧電効果と逆圧電効果とを組み合わせ、回路素子や振動制御素子などとして用いられる。
【0003】
一般的に、圧電素子は、シート状の圧電セラミックスが積層されるとともに各層間に内部電極が配置された構造を有している。圧電素子は2つの端子を有し、内部電極は交互に異なる端子に接続されている。これにより、各端子間に電圧が印加されると、各圧電セラミックス層に電圧が加わる。
【0004】
高性能の圧電セラミックスとしては、Pb(Zr,Ti)O−PbTiOの組成式で表されるPZT材料や(Pb,La)(Zr,Ti)O−PbTiOの組成式で表されるPLZT材料が広く知られている。しかし、これらの圧電セラミックスは、高い圧電特性を有する一方で、いずれも環境負荷の高いPbを含む。
【0005】
Pbを含まない非鉛系圧電セラミックスの中で比較的良好な性能を有するものとして、アルカリ含有ニオブ酸系(特許文献1〜7及び非特許文献1,2参照)やチタン酸バリウム系(特許文献8参照)のペロブスカイト構造の圧電セラミックスが知られている。
【0006】
特に、特許文献7には、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造の主相にKNbSiの組成を有する副相を分散させ、均一な粒子径を持ち、尚且つ緻密な組織とすることにより、圧電特性の向上が図られた圧電セラミックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−068825号公報
【特許文献2】特開2003−342069号公報
【特許文献3】特開2004−300012号公報
【特許文献4】特開2008−207999号公報
【特許文献5】国際公開2008/152851号パンフレット
【特許文献6】特開2010−180121号公報
【特許文献7】特開2010−052999号公報
【特許文献8】特開2002−208743号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature,432(4),2004,pp.84−87
【非特許文献2】Applied Physics Letters 85(18),2004,pp.4121−4123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
圧電セラミックスには高い絶縁性能が求められている。つまり、圧電素子における圧電セラミックス層には高い絶縁性能が求められる。引用文献7に開示された圧電セラミックスは、微細な組織を有するため、電圧を印加する方向に結晶粒界が多くなる。圧電セラミックスでは一般的に結晶粒界は結晶粒内よりも絶縁性が高いため、この圧電セラミックスは圧電素子の圧電セラミックス層として良好な絶縁性能が得られる。
【0010】
近年の圧電素子を用いた技術の向上により、圧電素子にはより一層の高電界での使用に耐え得ることが求められる。そのため、圧電素子に用いられる圧電セラミックスには、そのような高電界の印加によっても絶縁性能の低下が発生しないことが好ましい。
【0011】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高電界の印加による絶縁性能の低下が抑制される圧電セラミックス及びこれを含む圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る圧電セラミックスは、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とする多結晶体からなり、当該多結晶体の結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在する。
【0013】
本発明の一形態に係る圧電素子は、第1の内部電極及び第2の内部電極と、圧電セラミックス層とを具備する。
上記セラミックス層は、上記第1の内部電極と上記第2の内部電極との間に配置された、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とする多結晶体からなり、当該多結晶体の結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ペロブスカイト構造の単位格子の模式図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る圧電素子の斜視図である。
図2B図2Aに示した圧電素子のA−A'線に沿った断面図である。
図3図2Bに示した圧電素子の部分拡大図である。
図4図2Aに示した圧電素子の製造方法を示したフローチャートである。
図5図2Aに示した圧電素子の製造過程における模式図である。
図6A図2Aに示した圧電素子の断面のEPMAによるマンガン元素の分布の観察画像である。
図6B図2Aに示した圧電素子の断面のEPMAによるニッケル元素の分布の観察画像である。
図7】比較例に係る圧電素子の断面のEPMAによるマンガン元素の分布の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスは、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とする多結晶体からなり、当該多結晶体の結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在する。
上記多結晶体の結晶三重点にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在していてもよい。
この構成の圧電セラミックスでは高電界の印加による圧電特性の低下が抑制される。
【0016】
上記主相は、(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O(式中、0.04<x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0.98≦a≦1.01であり、かつ、x+y<1である。)の組成式で表されてもよい。
この構成の圧電セラミックスでは、高電界の印加後にも高い圧電特性を維持することができる。
【0017】
上記圧電セラミックスは、100モルの上記主相に対して、0.1モル以上2.0モル以下のマンガン元素及び0.1モル以上2.0モル以下のニッケル元素を含んでいてもよい。
この構成の圧電セラミックスでは高電界の印加による圧電特性の低下がさらに抑制される。
【0018】
前記結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素の少なくとも一方を含む結晶が存在していてもよい。
また、前記ニッケル元素及びマンガン元素の少なくとも一方を含む結晶の平均粒子径が0.1μm以上5μm以下の範囲内であってもよい。
この構成の圧電セラミックスでは、圧電効果を妨げることなく、高電界の印加による絶縁性能の低下が抑制される。
【0019】
上記主相の結晶の平均粒子径が0.8μm以上3.0μm以下の範囲内であってもよい。
この構成の圧電セラミックスは、圧電特性、絶縁性能及び機械的強度に優れる。
【0020】
上記圧電セラミックスは、100モルの上記主相に対して、3.0モル以下のシリコン元素を含んでいてもよい。
この構成の圧電セラミックスは、緻密かつ均一な組織を有するため、絶縁性能及び機械的強度に優れる。
【0021】
本発明の一形態に係る圧電素子は、第1の内部電極及び第2の内部電極と、圧電セラミックス層とを具備する。
上記セラミックス層は、上記第1の内部電極と上記第2の内部電極との間に配置された、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とする多結晶体からなり、当該多結晶体の結晶粒界にニッケル元素及びマンガン元素がともに存在する。
この構成の圧電素子では上記第1の内部電極と上記第2の内部電極との間に高電界を印加した場合における上記圧電セラミックス層の絶縁性能の低下が抑制される。
【0022】
上記圧電素子は第1の外部電極と第2の外部電極とをさらに具備してもよい。
上記第1の内部電極と上記第2の内部電極とが上記圧電セラミックス層を介して交互に配置され、上記第1の内部電極はそれぞれ上記第1の外部電極に接続され、上記第2の内部電極はそれぞれ上記第2の外部電極に接続されていてもよい。
この構成の圧電素子は、いわゆる積層構造を有するため、圧電特性に優れる。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。なお、図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、およびZ軸が示されている。X軸、Y軸、およびZ軸は全図において共通である。
【0024】
[圧電セラミックス11]
まず、本実施形態に係る圧電素子10に用いる圧電セラミックス11(図2A及び図2B参照)の組成の検討結果について説明する。
【0025】
(主相について)
本実施形態に係る圧電セラミックス11としては、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を主相とするものを用いた。具体的には、圧電セラミックス11は、以下の組成式(1)で表される多結晶体として構成される。
(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O …(1)
【0026】
図1はペロブスカイト構造の単位格子のモデルである。ペロブスカイト構造は、組成式ABOと表され、Aサイトに配座する原子、Bサイトに配座する原子、及び酸素(O)原子により構成される。図1に示すように、ペロブスカイト構造では、Bサイトの原子の周囲に6つの酸素原子が配位し、Aサイトの原子の周囲に12個の酸素原子が配位し、この構造が周期的に連続することで結晶を形成している。
【0027】
本実施形態に係る圧電セラミックス11では、図1におけるAサイトにはアルカリ金属元素であるLi,Na,Kが配座し、BサイトにはNb,Taが配座する。ペロブスカイト構造では、化学量論比であるA:B=1:1であるときに、理論的に全てのAサイト及びBサイトに各原子が配座する安定な構造となる。具体的には、組成式(1)におけるaが1に等しい場合である。
【0028】
しかし、実際には、Aサイトに配座する元素であるLi,Na,Kは、焼成時における揮発などに起因する欠損が生じやすく、具体的には化学量論組成から2%程度減少することがある。そのため、Li,Na,Kの欠損量を予測して、仕込み組成(秤量時の組成)において化学量論組成よりLi,Na,Kが多い組成とすることにより、化学量論組成に近い安定したペロブスカイト構造を得ることもできる。
【0029】
具体的には、組成式(1)におけるaの値の範囲は0.98≦a≦1.01であれば安定なペロブスカイト構造が得られることがわかっている。
【0030】
また、Aサイトに配座する元素の比率を決定する組成式(1)におけるx及びyの値の範囲が0.04<x≦0.1で、かつ、0≦y≦1であり、Bサイトに配座する元素の比率を決定するzの値の範囲が0≦z≦0.4である場合に良好な圧電特性が得られることがわかっている。なお、組成式(1)におけるx及びyの合計は、x+y<1を満たす必要があることは勿論である。
【0031】
(副相について)
本実施形態に係る圧電セラミックス11としては、上記の主相に対して副相が分散された構成を有していてもよい。副相としては、例えば、マンガン含有相や、シリコン含有相や、リチウム含有相や、アルカリ土類金属含有相などが挙げられる。
【0032】
(1)ニッケル(Ni)含有相
副相としてニッケル含有相を後述のマンガン含有相とともに分散させることにより、圧電セラミックス11の絶縁性能を向上させることができる。一方、主相に対して副相であるニッケル含有相が多すぎると、圧電セラミックス11の圧電特性が低下する。ニッケル含有相を含めた圧電セラミックス11におけるニッケル元素の量は、100モルの主相に対して0.1モル以上2.0モル以下であることが好適であることがわかっている。
【0033】
詳細は後述するが、本実施形態では、圧電セラミックス11内部においてニッケル含有相をマンガン含有相とともに主相の結晶粒界に意図的に偏在させることにより、圧電素子としての圧電特性を保ちつつ絶縁性能を向上することを実現している。ニッケル含有相は、主に、NiOや、NiOとMnOとが固溶した状態などとして存在する。しかし、ニッケル含有相は、ニッケル元素を含む他の酸化物として存在していてもよい。さらに、ニッケル含有相は、結晶質相をなしていなくてもよく、非晶質相として存在してもよい。
【0034】
(2)マンガン(Mn)含有相
副相としてマンガン含有相を前述のニッケル含有相とともに分散させることにより、圧電セラミックス11の絶縁性能を向上させることができる。一方、主相に対して副相であるマンガン含有相が多すぎると、圧電セラミックス11の圧電特性が低下する。マンガン含有相を含めた圧電セラミックス11におけるニッケル元素の量は、100モルの主相に対して0.1モル以上2.0モル以下であることが好適であることがわかっている。
【0035】
詳細は後述するが、本実施形態では、圧電セラミックス11内部においてマンガン含有相をニッケル含有相とともに主相の結晶粒界に意図的に偏在させることにより、圧電素子としての圧電特性を保ちつつ絶縁性能を向上することを実現している。マンガン含有相は、主に、MnOや、MnOとNiOとが固溶した状態などとして存在する。しかし、マンガン含有相は、マンガン元素を含む他の酸化物として存在していてもよい。さらに、マンガン含有相は、結晶質相をなしていなくてもよく、非晶質相として存在してもよい。
【0036】
(3)シリコン(Si)含有相
副相としてシリコン含有相を分散させることにより、圧電セラミックス11の焼結時における主相の結晶粒成長を抑制することができる。したがって、副相としてシリコン含有相を分散させることにより、微細結晶の均一な組織の主相を有する圧電セラミックス11が得られる。圧電セラミックス11の結晶が微細化するほど、圧電セラミックス11の単位体積あたりに占める粒界の量が多くなる。
【0037】
これにより、圧電セラミックス11の絶縁性能が向上するとともに、機械的強度が向上する。一方、シリコン含有相自体は主相と反応しないため、主相に対して副相であるシリコン含有相が多すぎると、圧電セラミックス11の圧電特性が低下する。シリコン含有相を含めた圧電セラミックス11におけるシリコン元素の量は、100モルの主相に対して0.2モル以上3.0モル以下であることが好適であることがわかっている。
【0038】
シリコン含有相としては、KNbSi、KNbSi、KLiSiOの状態で存在させることが好ましい。これらのシリコン含有相は、主相とは別に作製することが可能であるとともに、主相の焼結時に析出させることも可能である。例えば、副相としてKNbSiが存在する圧電セラミックス11を得るためには、主相の粉末とは別にKNbSiの粉末を用意して、当該粉末と主相の粉末との混合粉末を焼結させる手法を採ることが可能である。また、主相の粉末とSiOの粉末との混合粉末を焼結させる際にKNbSiを析出させる手法を採ることも可能である。
【0039】
(4)リチウム含有相
圧電セラミックス11の焼結時の焼結助剤としてLiOやLiCOを用いることにより、圧電セラミックス11の焼結性が向上することがわかっている。また、LiOやLiCOに含まれるLiが焼結時におけるAサイトの元素の欠損を補う作用もある。
【0040】
LiOやLiCOを焼結助剤として用いる場合、焼結後の圧電セラミックス11には、副相としてリチウム含有相が残存する場合がある。リチウム含有相は、例えば、LiNbOの状態で存在する。しかし、焼結助剤としてのLiOやLiCOは、100モルの主相に対して0.1モル以上1.5モル以下となる量であれば、圧電セラミックス11の焼結性が向上することがわかっている。
【0041】
また本実施形態に係る圧電セラミックス11には、必要に応じ、焼結温度の制御や結晶粒成長の抑制の目的で、例えば、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Zrのうちの少なくとも1つを含む組成物を添加することが可能である。
【0042】
さらに、本実施形態に係る圧電セラミックス11には、必要に応じ、焼結温度の制御や結晶粒成長の抑制や高電界における長寿命化の目的で、例えば、第二遷移元素であるY、Mo、Ru、Rh、Pdのうち少なくとも1つを含む組成物を添加することが可能である。
【0043】
加えて、本実施形態に係る圧電セラミックス11には、必要に応じ、焼結温度の制御や結晶粒成長の抑制や高電界における長寿命化の目的で、例えば、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt、Auのうち少なくとも1つを含む組成物を添加することが可能である。
【0044】
なお、本実施形態に係る圧電セラミックス11には、必要に応じ、上記の第一遷移元素、第二遷移元素及び第三遷移元素を選択的に複合組成物として添加することも可能である。
【0045】
[圧電素子]
(圧電素子10の構成)
図2A及び図2Bは本実施形態に係る圧電素子10を示し、図2Aは斜視図であり、図2B図2AのA−A'線に沿った断面図である。図2Aでは、説明の便宜上、圧電素子10の内部構造を透視して破線で示している。
【0046】
圧電素子10は、圧電セラミックス11と、圧電セラミックス11のY軸方向の両端に設けられた外部電極14,15と、を具備する。また、圧電素子10は、圧電セラミックス11の内部にXY平面に沿った方向に広がり、Z軸方向に対向するように交互に配置された2種類の内部電極12,13を具備する。
【0047】
内部電極12,13の枚数は任意に決定可能である。各内部電極12には、Y軸方向の外部電極14側に突出し、圧電セラミックス11の側面に露出した突出部12aが形成されている。各突出部12aは、それぞれ外部電極14に接続されている。各内部電極13には、Y軸方向の外部電極15側に突出し、圧電セラミックス11の側面に露出した突出部13aが形成されている。各突出部13aは、それぞれ外部電極15に接続されている。内部電極12,13のZ軸方向の厚さは適宜決定可能である。内部電極12,13のZ軸方向の厚さは、例えば、0.5μm以上2μm以下とすることができる。
【0048】
図2A及び図2Bでは、説明の便宜上、内部電極12,13の合計が8枚の場合を示しているが、内部電極12,13の枚数は圧電素子10の用途等に応じて任意に決定可能である。つまり、圧電セラミックス11の層数は1以上であれば幾つであってもよい。
【0049】
また、圧電セラミックス11の各層のうち、内部電極12,13の間に配置されていない、Z軸方向の最上層と最下層は、圧電素子10の使用時に圧電効果を奏しない。したがって、圧電素子10のZ軸方向の最上層及び最下層は、圧電セラミックス11で構成されていなくてもよい。しかし、圧電素子10のZ軸方向の最上層及び最下層は、外部電極14,15の間の導通を防ぐため、絶縁体材料によって構成されていることが好ましい。
【0050】
圧電素子10の内部電極12,13はPtを主成分として含む導電層であるPt電極として構成されている。しかし、内部電極12,13は、Pt電極に限らず、例えば、Pd電極やAg−Pd電極であってもよい。また、圧電素子10の外部電極14,15は、Agを主成分とする導電体であるAg電極として構成されている。しかし、外部電極14,15は、Ag電極に限らず、例えば、無鉛はんだにより構成されていてもよい。
【0051】
なお、外部電極14,15はY軸方向の両面にZ軸方向に延びる帯状に設けられている。しかし、外部電極14,15は、内部電極12,13をそれぞれ導通させていればよく、例えば、圧電素子10のY軸方向の両面全体を被覆する構成であってもよい。
【0052】
圧電素子10の当該構成により、外部電極14と外部電極15との間に電圧を印加すると、互いに隣接する内部電極12と内部電極13との間に電圧が加わる。内部電極12,13間に加わる電圧に応じ、内部電極12と内部電極13との間にある圧電セラミックス11の各層が圧電効果を発現してZ軸方向に伸縮変形する。
【0053】
図3は、図2Bに示した圧電素子10の断面図の一部を拡大して示した模式図である。圧電セラミックス11はアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造の主相111の多結晶体として構成される。圧電セラミックス11には、主相111以外に、例えば、第1の副相112や第2の副相113や空孔115が含まれる。
【0054】
主相111は、結晶の平均粒子径が0.8μm以上3.0μm以下の範囲内であることが好ましい。これは、主相111の結晶の平均粒子径が0.8μmより小さい場合には圧電セラミックス11の圧電特性(圧電定数d33等)が著しく低下し、主相111の結晶の平均粒子径が3.0μmより大きい場合には絶縁性能が著しく低下するためである。主相111の結晶粒径の制御には、上記のシリコン含有相を析出させる手法や、焼成の温度を調整する手法を採ることが可能である。
【0055】
本実施形態では、結晶の粒子径を、いわゆる面積相当径として算出した。具体的には、結晶組織の断面をSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)によって観察した際の、結晶粒の面積から同等の面積となる円の直径に換算したものを結晶の粒子径とした。また、結晶の平均粒子径は、例えば、結晶組織における100μm×100μmの領域中にある結晶の粒子径の平均として求めることができる。結晶組織の観察範囲は適宜決定可能であることは勿論である。
【0056】
第1の副相112は、圧電セラミックス11の全体にわたって、主相111の結晶粒界(粒界三重点を含む)に分散している。副相112には、マンガン元素とニッケル元素がとの双方がともに含まれる。副相112は、圧電セラミックス11の絶縁性能の向上に寄与する。副相112は、圧電セラミックス11中において、凝集することなく微細な状態で、かつ、均一に分散していることが望ましい。圧電セラミックス11をそのような組織にするための手法の詳細については後述する。
【0057】
副相112としては、例えば、NiOとMnOとが全固溶した固溶体が挙げられる。副相112の粒子内におけるニッケル元素とマンガン元素との濃度は均一でなくてもよい。また、副相112は、マンガン元素とニッケル元素との双方を含んでいればよく、例えば、他の元素を含んだ酸化物で構成されていてもよい。
【0058】
マンガン元素とニッケル元素との双方を含む副相112の結晶の平均粒子径は0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。副相112の結晶の平均粒子径が5μmより大きい場合、副相112は圧電効果を発現しないため、主相111の電界応答を阻害し、圧電セラミックス11の圧電特性が著しく低下する。また、副相112の結晶の平均粒子径が0.1μmより小さい場合、圧電セラミックス11における副相112による絶縁性能の向上の効果が十分に得られない。
【0059】
第2の副相113は、上記の第1の副相112とは異なる相であり、例えば、SiO結晶やZrO結晶により構成される。副相113は、必要に応じて圧電セラミックス11中に含まれていればよく、圧電セラミックス11に含まれていなくてもよい。
【0060】
空孔115は、主相111等の粒界に存在する粒子等の存在しない部分である。空孔115は、圧電セラミックス11中に含まれていてもよいが、その量は少ない方が好ましい。これは、空孔115の量が多いと、圧電セラミックス11の圧電特性や機械的強度の低下を招来するためである。
【0061】
(圧電素子10の製造方法)
図4は本実施形態に係る圧電素子10の製造方法を示したフローチャートである。以下、各工程について説明する。
【0062】
(S1)原料粉末混合工程
まず、目的の組成となるように原料粉末の秤量を行なう。リチウム元素を含む原料粉末としては、例えば、炭酸リチウム(LiCO)を用いることができる。ナトリウム元素を含む原料粉末としては、例えば、炭酸ナトリウム(NaCO)や炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を用いることができる。カリウム元素を含む原料粉末としては、例えば、炭酸カリウム(KCO)や炭酸水素カリウム(KHCO)を用いることができる。ニオブ元素を含む原料粉末としては、例えば、五酸化ニオブ(Nb)を用いることができる。タンタル元素を含む原料粉末としては、例えば、五酸化タンタル(Ta)を用いることができる。
【0063】
次に、秤量した各原料粉末の混合を行なう。混合は、各原料粉末を、エタノール、及び部分安定化ジルコニア(PSZ:Partially Stabilized Zirconia)ボールとともに円筒状のポットに封入し、ボールミル法により行なう。10時間〜60時間のボールミル法による攪拌の後、エタノールを蒸発させて乾燥させることにより原料粉末が十分に混ざり合った混合粉末が得られる。なお、ボールミル法においては、エタノールを他の有機溶剤に代えてもよい。
【0064】
続いて、混合粉末の仮焼成を行なう。仮焼結は、混合粉末を坩堝中において700℃〜950℃で1時間〜10時間保持することにより行なう。そして、仮焼結体をボールミル法にて粉砕することにより仮焼成粉末が得られる。
【0065】
ここで、上記の副相となる元素の原料粉末を、仮焼成粉末に混合する。
【0066】
第1の副相112となる元素については、マンガン元素を含む原料粉末としてMnO粉末を用い、ニッケル元素を含む粉末としてNiO粉末を用いることが好ましい。なお、マンガン元素を含む原料粉末として、例えば、炭酸マンガン(MnCO)、二酸化マンガン(MnO)、四酸化三マンガン(Mn)、酢酸マンガン(Mn(OCOCH)を用いることも可能である。
【0067】
第2の副相113となる元素については、シリコン元素を含む原料粉末として、例えば、二酸化シリコン(SiO)を用いることができる。カルシウム、バリウム、ストロンチウムの各元素を含む原料粉末として、例えば、それぞれ炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)を用いることができる。ジルコニウム元素を含む原料粉末として、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)を用いることができる。
【0068】
原料粉末は、第2の副相113となる1種類の元素を含むものに限らず、副相となる2種類以上の元素を含むものであってもよい。例えば、リチウム元素及びシリコン元素を含む原料粉末として、ケイ酸リチウム(LiSiO)やオルトケイ酸リチウム(LiSiO)を用いることができる。また、カルシウム元素及びシリコン元素を含む原料粉末として、メタケイ酸カルシウム(CaSiO)やオルトケイ酸カルシウム(CaSiO)を用いることができる。更に、カルシウム元素及びジルコニウム元素を含む原料粉末として、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)を用いることができる。そして、ストロンチウム元素及びジルコニウム元素を含む原料粉末として、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)を用いることができる。
【0069】
仮焼成粉末に、所定の種類及び量の副相102,103となる元素の原料粉末、有機バインダ、分散剤及び純水を加えて、ボールミル法によって湿式混合を行ない、セラミックススラリーを作製する。ボールミル法の条件は、仮焼成粉末と、副相となる元素の原料粉末とが十分均一に混ざり合うように適宜決定される。なお、ボールミル法による湿式混合には、純水に代えてエタノール等の有機溶剤を用いてもよい。
【0070】
(S2)セラミックスシート作製工程
セラミックススラリーは、ドクターブレード法によりシート状に成形してセラミックスシートとする。このセラミックスシートは、図2A及び図2Bに示す電極12,13との間の1層の圧電セラミックス11となる。セラミックスシートの厚さは、ドクターブレード装置の刃の高さにより制御することができ、圧電素子10の構成により適宜決定される。セラミックスシートの厚さは、例えば20μmとすることができる。
【0071】
(S3)内部電極膜塗布工程
内部電極塗布工程では、上記工程(S2)で得られたセラミックスシートに、図2Bで示す内部電極12,13を形成するための工程である。
【0072】
図5は圧電素子10の製造過程を示した模式図である。内部電極膜塗布工程(S3)では、図5に示すように、各セラミックスシート210に、所定のパターンで導電性ペースト(電極ペースト)を塗布し、内部電極膜212,213を形成する。内部電極膜212,213は、例えば、内部電極のパターンが形成されたスクリーンを用いたスクリーン印刷により形成する。
【0073】
図5を参照すると明らかなように、X軸方向及びY軸方向に大経を有する1枚のセラミックスシート210にX軸方向及びY軸方向に複数の内部電極膜212,213を形成する。内部電極膜212と内部電極膜213とは、X軸方向に幅狭になるように形成された幅狭部214において連続している。なお、パターンの都合上、セラミックスシート210のY軸方向端部ではX軸方向一列おきに内部電極膜212,213が幅狭部214で途切れている。
【0074】
本実施形態では、図2A及び図2Bに示す内部電極13,14がPt電極であるため、内部電極膜212,213としてPtを含む導電性ペーストを用いた。しかし、導電性ペーストは、内部電極13,14の材質によって適宜変更可能である。
【0075】
Pt電極以外の内部電極13,14としては、例えば、Pd電極、Ag−Pd電極が挙げられる。この場合、内部電極膜212の形成にはそれぞれPdを含む導電性ペースト、Ag及びPdを含む導電性ペーストを用いる。
【0076】
(S4)セラミックスシート積層工程
セラミックスシート積層工程(S4)では、図5に示すように、上記工程(S3)で得られた内部電極膜212,213が形成されたセラミックスシート210を、内部電極膜212,213のパターンがY軸方向に交互に反転するように所定の層数だけZ軸方向に積層する。
【0077】
そして、セラミックスシート210の積層体を、積層方向であるZ軸方向に加圧することにより、各層を圧着して一体化させる。セラミックスシート210の積層体をZ軸方向に加圧する圧力は適宜決定可能であり、例えば、50MPaとすることができる。このように、セラミックスシート210の積層体をZ軸方向に加圧することにより、セラミックスシート210の各層がやや変形し、隣接する複合セラミックスシート210がその外縁部で密着する。これにより、複合セラミックスシート210の積層体が一体となって直方体状となる。
【0078】
なお、Z軸方向の最上層のセラミックスシート210aには、内部電極膜212,213を形成していないものを用いる。これにより、積層体のZ軸方向上面が絶縁される。
【0079】
(S5)切断工程
切断工程(S5)では、上記工程(S4)で得られた積層体を圧電素子10(図2A及び図2B)ごとに切り分ける。まず、積層体を、図5における内部電極膜212,213のX軸方向に並ぶ各列の間の部分をY軸方向に沿ってそれぞれ切断する。そして、積層体を、図5における各幅狭部214の中間位置がY軸方向に等分されるようにX軸方向に沿ってそれぞれ切断する。勿論、X軸方向に沿った切断とY軸方向に沿った切断との順序は任意である。
【0080】
このように、切断工程(S5)によって、図2A及び図2Bに示す各圧電素子10ごとの未焼結体となる。この未焼結体では、Z軸方向に内部電極膜212と内部電極膜213とが交互に対向するとともに、内部電極膜212の幅狭部214と内部電極膜213の幅狭部214とがY軸方向において反対側に露出している。
【0081】
(S6)焼結工程
焼結工程(S6)では、上記工程(S5)で得られた各未焼結体を焼結させる。具体的には、未焼結体をアルミナ製のサヤに収容して、300℃〜500℃程度に加熱して脱バインダ処理を行なった後に、大気雰囲気中において900℃〜1050℃で焼成する。これにより、積層体の焼結体(セラミックス焼結体)が得られる。
【0082】
(S7)外部電極形成工程
外部電極形成工程(S7)では、上記工程(S6)で得られたセラミックス焼結体に図2A及び図2Bに示す外部電極14,15を形成する。図2A及び図2Bに示すように、外部電極14は、セラミックス焼結体の一面に設けられるとともに全ての内部電極12を接続し、外部電極15は、セラミックス焼結体の一面に設けられるとともに全ての内部電極13を接続する。
【0083】
具体的には、セラミックス焼結体のY軸方向の両面にAgなどを含む導電性ペーストを塗布し、750℃〜850℃程度で焼き付け処理を行なう。これにより、セラミックスのY軸方向の両面にAg電極として外部電極14,15が形成される。これにより圧電素子10が完成する。
【0084】
なお、セラミックス焼結体への外部電極14,15の形成方法は、焼き付け処理によらなくてもよい。外部電極14,15は、内部電極12,13をそれぞれ良好に接続可能であればよく、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などの薄膜形成方法によって形成しても構わない。
【0085】
(S8)分極処理工程
分極処理工程では、上記工程(S7)で完成した圧電素子10を圧電アクチュエータ等として使用可能とするために、圧電素子10中の圧電セラミックス11を分極させる。分極処理は、圧電素子10の外部電極14,15間に高電界を印加することにより行なう。具体的には、圧電素子10を100℃のシリコーンオイル中に入れ、外部電極14,15間に3.0kV/mmの電界を15分間印加する。
【0086】
(圧電素子10の評価)
(1)電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe MicroAnalyser)評価
【0087】
図6A及び図6Bは本実施形態に係る圧電素子10の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザ:Electron Probe MicroAnalyser)で分析した結果を示している。図6AはマンガンのKα線の分析結果であり、図6BはニッケルのKα線の分析結果である。図6Aではマンガン元素が存在している位置が高い明度で示され、図6Bではニッケル元素が存在している位置が高い明度で示されている。なお、図6A図6Bとでは、同じサンプルの同じ部位を観察している。
【0088】
図6A図6Bとから本実施形態に係る圧電素子10では、圧電セラミックス11においてマンガン元素及びニッケル元素が均一に分散していることがわかる。また、図6A図6Bとを照らし合わせると、マンガン元素とニッケル元素とがおよそ同じ位置にあることがわかった。これは、マンガン元素とニッケル元素とが、焼結工程(S6)において、相互に影響を及ぼし合った結果として、一体の粒子となるか、互いに近接した状態となっているものと考えられる。
【0089】
さらに、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)を用いたEDS(エネルギ分散X線分光法:Energy Dispersive X−ray Spectrometry)の評価などによる詳細な分析により、マンガン元素及びニッケル元素は、マンガン酸化物とニッケル酸化物との固溶体であるMn−Ni−Oを母相とする結晶として、主相の粒界(粒界三重点を含む)に析出している傾向が確認された。つまり、マンガン元素及びニッケル元素は主相を構成する結晶の粒内にほとんど存在しないことが確認された。
【0090】
つまり、本実施形態に係る圧電素子10では、MnO粉末とNi粉末とを同時に添加することにより、マンガン元素及びニッケル元素が、圧電セラミックス11の全体にわたって、主相を構成する結晶の粒界に満遍なく均一に分散していることがわかった。
【0091】
本実施形態では、上記工程(S1)において、主相となる原料粉末の混合粉末を仮焼成した後に、MnO粉末及びNiO粉末を混合する。したがって、本工程(S6)より前においては、主相の仮焼成粉末と、MnO粉末及びNiO粉末とが独立の粒子として存在している。本実施形態では、この状態で焼成することにより、主相が焼結する際に、マンガン元素が凝集することが防止でき、その結果、主相に緻密なマンガン元素が均一に分散した組織を有する圧電セラミックス11を得ることができる。
【0092】
比較例として、本実施形態に係る主相の仮焼成粉末とMnO粉末を混合した例について説明する。本比較例では、仮焼結粉末にMnO粉末のみを混合し、NiO粉末を混合しない点において本実施形態と異なり、それ以外において本実施形態と同様の条件で圧電素子を作製した。
【0093】
図7は上記比較例に係る圧電素子の断面の、EPMAにおけるマンガンのKα線の分析結果を示している。マンガン元素が比較的大きい粒子を構成しており、マンガン元素が凝集していることがわかる。これは、焼結工程(S6)において主相が焼結する際に、マンガン元素を含む粒子同士が一体となるように相互作用しているものと考えられる。このメカニズムとしては、焼結工程(S6)において、マンガン元素を含む相が液相化していることや、マンガン元素を含む相が主相から吐き出されることにより主相の結晶粒界のうちの一部に滞留ことが考えられる。
【0094】
本実施形態に係る圧電素子10と比較例に係る圧電素子とを比較することにより、MnOとNiOとを同時に添加したことにより、ニッケル元素の作用によりマンガン元素の凝集を抑制できたことが明らかとなった。
【0095】
(信頼性評価)
(1)比抵抗ρ測定
本実施形態に係る圧電素子10の外部電極14,15間に150℃にて2kV/mmの直流高電界を印加して、高電界印加時における比抵抗を評価した。具体的には、圧電素子10の外部電極14,15間に電界を印加した状態で5分間保持した後の外部電極14,15間の電流値を測定し、当該電流値、単位電界値(2kV/mm)、及び内部電極12,13の交差面積を用いて比抵抗ρ(Ω・cm)を算出した。そして、その指標としては常用対数(log(ρ))で評価した。その結果、本実施形態に係るいずれの条件においても、log(ρ)の値は10.0以上であり、十分な絶縁性能を示した。
【0096】
(2)圧電定数d33測定
圧電素子10の圧電定数d33を、室温(25℃)にてレーザードップラー変位計を用いて測定した。変位を測定する際に印加する電界強度は8kV/mmとした。その結果、本実施形態に係るいずれの条件においても、150(pm/V)以上の高い圧電定数d33が得られている。
【0097】
(3)耐久性試験
圧電素子10の耐久性試験として、高電界負荷印加前後における圧電定数d33を測定し、高電界負荷印加前後における圧電定数d33の減少率を評価した。具体的には、圧電素子10に100℃にて8kV/mmの高電界を印加した状態で10時間保持する負荷を加える前後における圧電定数d33の減少率を評価した。すなわち、ここにおいて用いられる減少率とは以下のとおりの数式(a)にて示される。
【0098】
(減少率)=100×[(負荷を加える前の圧電定数d33)−(負荷を加えた後の圧電定数d33)]/(負荷を加える前の圧電定数d33) (%) …(a)
【0099】
その結果、本実施形態に係るいずれの条件においても、圧電定数d33の減少率が概ね20%以内に収まっていることが確認された。
【実施例】
【0100】
(1)MnO及びNiOの添加について
本実施形態の実施例1として、圧電セラミックスが以下の組成式(2)になるような圧電素子のサンプル1〜6を作製した。ここで、p及びqはそれぞれモル数を示している。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+p(MnO)+q(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO)+0.5(SrO)+0.5(ZrO) …(2)
サンプル1:p=0.5、q=0.1
サンプル2:p=0.5、q=0.5
サンプル3:p=0.5、q=1.0
サンプル4:p=0.5、q=2.0
サンプル5:p=0.1、q=0.5
サンプル6:p=2.0、q=0.5
【0101】
サンプル1〜6において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル1:log(ρ)=10.4,d33=240(pm/V)
サンプル2:log(ρ)=11.1,d33=190(pm/V)
サンプル3:log(ρ)=10.8,d33=170(pm/V)
サンプル4:log(ρ)=10.3,d33=155(pm/V)
サンプル5:log(ρ)=10.5,d33=225(pm/V)
サンプル6:log(ρ)=11.0,d33=165(pm/V)
【0102】
以上の結果より、全サンプルにおいて、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0103】
サンプル1〜6において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル1:32個/50個
サンプル2:50個/50個
サンプル3:50個/50個
サンプル4:44個/50個
サンプル5:36個/50個
サンプル6:45個/50個
【0104】
以上の結果より、全サンプルにおいて、圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であり、高電界印加時における良好な耐久性が得られることがわかった。
【0105】
次に、本実施形態の比較例1に係る圧電素子を作製した。本比較例に係る圧電セラミックスにおける組成式(2)のp及びqが以下になるような圧電素子のサンプル7〜10を作製した。
サンプル7:p=0.5、q=0
サンプル8:p=0.5、q=4.0
サンプル9:p=0、q=0.5
サンプル10:p=4.0、q=0.5
【0106】
サンプル7〜10において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル7:log(ρ)=10.2,d33=250(pm/V)
サンプル8:log(ρ)=9.6,d33=120(pm/V)
サンプル9:log(ρ)=10.1,d33=230(pm/V)
サンプル10:log(ρ)=9.8,d33=130(pm/V)
【0107】
以上の結果より、全てのサンプルにおいて比抵抗log(ρ)の値は10程度を維持できているものの、pの値が4.0であるサンプル8及びqの値が4.0であるサンプル10では、圧電定数d33が150未満となり、低い値を示した。これにより、MnOの量又はNiOの量が多すぎると、圧電定数d33が低下してしまうことがわかった。
【0108】
サンプル7〜10において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル7:28個/50個
サンプル8:0個/50個
サンプル9:24個/50個
サンプル10:0個/50個
【0109】
以上の結果より、全サンプルにおいて、圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割未満であった。特に、pの値が4.0であるサンプル8及びqの値が4.0であるサンプル10では、圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものがゼロであった。これにより、MnOとNiOとの一方が含まれない組成の場合や、MnOの量又はNiOの量が多すぎる組成の場合に、本実施形態に係る圧電素子と比較して高電界印加時の耐久性に劣ることがわかった。
【0110】
なお、上記では、組成式(2)におけるMnOの量及びNiOの量を検討しているため、上記組成式(2)とは異なる組成では、適切なMnOの量及びNiOの量が異なる。ただし、上記組成式(2)と類似の組成においては適切なMnOの量及びNiOの量も近似することがわかっている。しかしながら、MnOとNiOとの一方が含まれない組成の場合には、本実施形態の上記効果は得られない。
【0111】
次に、本実施形態の実施例2として、圧電セラミックスが以下の組成式(3)になるような圧電素子のサンプル11を作製した。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+0.5(MnO)+0.5(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO) …(3)
【0112】
一方、本実施形態の比較例2として、圧電セラミックスが以下の組成式(4)になるような圧電素子のサンプル12を作製した。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+0.5(MnO)+0(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO) …(4)
【0113】
つまり、実施例2に係るサンプル11と比較例2に係るサンプル12とでは、圧電セラミックスにNiOが含まれているか否かのみが異なり、他の構成は同様である。
【0114】
サンプル11,12において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル11:log(ρ)=10.8,d33=170(pm/V)
サンプル12:log(ρ)=10.5,d33=150(pm/V)
【0115】
以上の結果より、実施例2に係るサンプル11及び比較例2に係るサンプル12では、いずれも、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0116】
サンプル11,12において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル11:48/50個
サンプル12:0個/50個
【0117】
以上の結果より、実施例2に係るサンプル11では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であったのに対し、比較例2に係るサンプル12では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものがゼロであった。これにより、NiOが含まれない組成の場合に、実施例2に係る圧電素子と比較して高電界印加時の耐久性に劣ることがわかった。
【0118】
(2)LiO及びSiOの添加について
本実施形態の実施例3として、圧電セラミックスが以下の組成式(5)になるような圧電素子のサンプル13〜15を作製した。ここで、p及びqはそれぞれモル数を示している。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+0.5(MnO)+0.5(NiO)+α(LiO)+β(SiO)+1.0(SrO)+1.0(ZrO) …(5)
サンプル13:α=0.1、β=0.2
サンプル14:α=1.5、β=3.0
サンプル15:α=2.0、β=4.0
【0119】
次に、本実施形態の比較例3に係る圧電素子を作製した。本比較例に係る圧電セラミックスにおける組成式(5)のα及びβが以下になるような圧電素子のサンプル16を作製した。
サンプル16:α=0、β=0
【0120】
サンプル13〜16において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル13:log(ρ)=10.3,d33=180(pm/V)
サンプル14:log(ρ)=10.8,d33=170(pm/V)
サンプル15:log(ρ)=10.2,d33=150(pm/V)
サンプル16:log(ρ)=9.0,d33=125(pm/V)
【0121】
以上の結果より、実施例3に係るサンプル13,14,15では、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。一方、比較例に係るサンプル16では、比抵抗log(ρ)の値が本実施例に係るサンプル13〜15に比べて一桁以上低く、圧電定数d33の値も低かった。このように、比較例に係るサンプル16では良好な絶縁性能及び圧電特性が得られなかった。
【0122】
サンプル13〜16において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル13:31個/50個
サンプル14:50個/50個
サンプル15:45個/50個
サンプル16:12個/50個
【0123】
以上の結果より、実施例3に係るサンプル13〜15では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であるのに対し、比較例3に係るサンプル16では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが12個であった。これにより、LiO及びSiOが含まれない組成の場合に、実施例3に係る圧電素子と比較して高電界印加時の耐久性に劣ることがわかった。
【0124】
(3)SrO及びZrOの添加について
本実施形態の実施例4として、圧電セラミックスが以下の組成式(6)になるような圧電素子のサンプル17,18を作製した。ここで、m及びnはそれぞれモル数を示している。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+0.5(MnO)+0.5(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO)+m(SrO)+n(ZrO) …(6)
サンプル17:m=1.0、n=1.0
サンプル18:m=2.0、n=2.0
【0125】
次に、本実施形態の比較例4に係る圧電素子を作製した。本比較例に係る圧電セラミックスにおける組成式(6)のm及びnが以下になるような圧電素子のサンプル19を作製した。
サンプル19:m=4.0、n=4.0
【0126】
サンプル17〜19において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル17:log(ρ)=10.9,d33=185(pm/V)
サンプル18:log(ρ)=10.2,d33=170(pm/V)
サンプル19:log(ρ)=10.0,d33=165(pm/V)
【0127】
以上の結果より、全てのサンプルにおいて、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0128】
サンプル17〜19において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル17:50個/50個
サンプル18:46個/50個
サンプル19:24個/50個
【0129】
以上の結果より、実施例4に係るサンプル17,18では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であったのに対し、比較例4に係るサンプル19では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割未満であった。これにより、SrO及びZrOの量が多すぎる組成の場合に、実施例4に係る圧電素子と比較して高電界印加時の耐久性に劣ることがわかった。
【0130】
なお、上記では、組成式(6)におけるSrOの量及びZrOの量を検討しているため、上記組成式(6)とは異なる組成では、適切なSrOの量及びZrO量が異なる。ただし、上記組成式(6)と類似の組成においては適切なSrOの量及びZrOの量も近似することがわかっている。
【0131】
次に、本実施形態の実施例5に係る圧電素子を作製した。本実施例に係る圧電セラミックスにおける組成式(6)のm及びnが以下になるような圧電素子のサンプル20,21を作製した。
サンプル20:m=0.5、n=0
サンプル21:m=0、n=0.5
【0132】
つまり、サンプル20では圧電セラミックスにSrOが含まれているもののZrOが含まれておらず、サンプル21では圧電セラミックスにZrOが含まれているもののSrOが含まれていない。
【0133】
サンプル20,21において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル20:log(ρ)=11.4,d33=190(pm/V)
サンプル21:log(ρ)=10.5,d33=185(pm/V)
【0134】
以上の結果より、実施例5に係るサンプル20,21では、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0135】
サンプル20,21において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル20:50個/50個
サンプル21:50個/50個
【0136】
以上の結果より、実施例5に係るサンプル20,21ではいずれにおいても圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であった。これにより、SrOとZrOとのいずれか一方が含まれない組成の場合にも、高電界印加時における良好な耐久性が得られることがわかった。
【0137】
(4)CaO及びZrOの添加について
本実施形態の実施例6として、圧電セラミックスが以下の組成式(7)になるような圧電素子のサンプル22,23を作製した。ここで、m及びnはそれぞれモル数を示している。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+0.5(MnO)+0.5(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO)+m(CaO)+n(ZrO) …(7)
サンプル22:m=0.5、n=0.5
サンプル23:m=2.0、n=2.0
【0138】
サンプル22,23において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル22:log(ρ)=11.3,d33=165(pm/V)
サンプル23:log(ρ)=10.3,d33=160(pm/V)
【0139】
以上の結果より、サンプル22,23において、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0140】
サンプル22,23において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル22:50個/50個
サンプル23:48個/50個
【0141】
以上の結果より、実施例4に係るサンプル22,23では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であった。これにより、SrOをCaOに変更して添加した場合にも、高電界印加時における良好な耐久性が得られることがわかった。
【0142】
(5)BaO及びZrOの添加について
本実施形態の実施例6として、圧電セラミックスが以下の組成式(8)になるような圧電素子のサンプル24,25を作製した。ここで、m及びnはそれぞれモル数を示している。
100(Li0.06Na0.520.42)NbO+0.5(MnO)+0.5(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO)+m(BaO)+n(ZrO) …(8)
サンプル24:m=0.5、n=0.5
サンプル25:m=2.0、n=2.0
【0143】
サンプル24,25において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル24:log(ρ)=10.8,d33=190(pm/V)
サンプル25:log(ρ)=10.1,d33=165(pm/V)
【0144】
以上の結果より、サンプル24,25において、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0145】
サンプル24,25において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル24:50個/50個
サンプル25:38個/50個
【0146】
以上の結果より、実施例4に係るサンプル24,25では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であった。これにより、SrOをBaOに変更して添加した場合にも、高電界印加時における良好な耐久性が得られることがわかった。
【0147】
(6)その他
本実施形態の実施例7として、圧電セラミックスが以下の組成式(9)になるような圧電素子のサンプル26〜31を作製した。ここで、(M)はSr,Ca,Baの少なくとも1つを示している。
100(Li0.04Na0.500.46)(Nb0.8Ta0.2)O+0.5(MnO)+0.5(NiO)+1.0(LiO)+1.4(SiO)+0.5((M)O)+0.5(ZrO) …(9)
サンプル26:(M)=Sr
サンプル27:(M)=Ca
サンプル28:(M)=Ba
サンプル29:(M)=Ca0.5Sr0.5
サンプル30:(M)=Sr0.5Ba0.5
サンプル31:(M)=Ca0.5Ba0.5
【0148】
サンプル26〜31において、上記の要領で比抵抗log(ρ)及び圧電定数d33の測定を行なった。その測定結果は以下のとおりである。
サンプル26:log(ρ)=11.5,d33=205(pm/V)
サンプル27:log(ρ)=10.0,d33=190(pm/V)
サンプル28:log(ρ)=10.7,d33=210(pm/V)
サンプル29:log(ρ)=11.0,d33=200(pm/V)
サンプル30:log(ρ)=10.8,d33=205(pm/V)
サンプル31:log(ρ)=10.6,d33=210(pm/V)
【0149】
以上の結果より、サンプル26〜31において、比抵抗log(ρ)の値が10.0以上で、かつ、圧電定数d33の値が150(pm/V)以上であり、良好な絶縁性能及び圧電特性を示すことがわかった。
【0150】
サンプル26〜28において、上記の要領で耐久性試験を行なった。各サンプルを50個ずつ作製し、耐久性試験にて圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたサンプル数を評価した。その評価結果は以下のとおりである。
サンプル26:50個/50個
サンプル27:50個/50個
サンプル28:50個/50個
サンプル29:50個/50個
サンプル30:50個/50個
サンプル31:50個/50個
【0151】
以上の結果より、実施例4に係るサンプル26〜31では圧電定数d33の減少率が20%以内に収まっていたものが6割以上であった。これにより、実施例7に係る組成の圧電セラミックスを有する圧電素子においても、高電界印加時における良好な耐久性が得られることがわかった。
【0152】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0153】
10…圧電素子
11…圧電セラミックス
12,13…内部電極
14,15…外部電極
111…主相
112…第1の副相
113…第2の副相
115…空孔
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7