【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度経済産業省「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)成長結晶から、次の(2)式の関係が成り立つ第k種結晶を切り出し、前記第k成長面上に前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
請求項1又は2に記載のSiC単結晶の製造方法。
Lk≒Hk-1/cos(30°−|θk-1|−|θk|) ・・・(2)
但し、Hk-1は、第(k−1)a面成長工程における成長高さ、
Lkは、第k種結晶の第k成長面の{0001}面内方向長さ。
θk-1及びθkは、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにLkを大きくする方向。
前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、次の(4)式を満たすように第(k−1)成長結晶から第k種結晶を切り出し、第k成長面上に前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
請求項1から4までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
Lk≒Lk-1/sin(30°−|θk-1|−|θk|) ・・・(4)
但し、Lk-1は、第(k−1)種結晶の第(k−1)成長面の{0001}面内方向長さ。
Lkは、第k種結晶の第k成長面の{0001}面内方向長さ。
θk-1及びθkは、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにLkを大きくする方向。
前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)a面成長工程で得られた第(k−1)成長結晶を、前記第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して約60°又は約120°異なる方向に成長方向を有し、かつ前記{11−20}面からのオフセット角θkが−15°≦θk≦15°である前記第k成長面に沿って切断するとともに、前記第(k−1)成長結晶の大部分を残存させ、前記第k成長面を露出させた前記第(k−1)成長結晶を前記第k種結晶としてそのまま用いて、前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
請求項1から5までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、{1−100}面ファセットの最頂部が前記第k成長面のc軸方向中心に対してSi面寄り側に来るように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
請求項1から8までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、前記第k成長面のc軸方向中心に対してSi面寄り側の温度が前記c軸方向中心より低くなるように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
請求項9に記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、前記第k成長面のc軸方向中心に対してSi面寄り側のSiCガス濃度が前記c軸方向中心より高くなるように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
請求項9又は10に記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、少なくとも2個の種結晶素片のSi面が向かい合わせになるように前記種結晶素片を貼り合わせて前記第k種結晶とし、前記第k種結晶を用いて前記SiCを{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である請求項1から12までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、主種結晶にダミー種結晶を隣接させてこれを第k種結晶とし、前記第k種結晶を用いて前記SiCを{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
請求項1から14までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、{1−100}面ファセットの最頂部が前記第k成長面のc面内方向中心に対して端部側に来るように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長させる工程である
請求項16に記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、窒素ガス分圧が5%以下である雰囲気下において、前記SiCを{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
請求項1から17までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、{0001}面からのオフセット角が85°超95°未満の範囲にある前記第k成長面を持つ前記第k種結晶を用いて、前記第k成長面上にSiC単結晶をa面成長させる工程である
請求項1から18までのいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 用語の定義]
[1.1. a面成長]
「成長面」とは、SiCからなる新たな単結晶を成長させるための種結晶の面をいう。
「a面成長」とは、{11−20}面又は{1−100}面からのオフセット角が所定の範囲内にある面を成長面としてSiCからなる新たな単結晶を成長させることをいう。
「{11−20}面成長(又は、<11−20>成長)」とは、{11−20}面からのオフセット角が所定の範囲内にある面を成長面としてSiCからなる新たな単結晶を成長させることをいう。
「{1−100}面成長(又は、<1−100>成長)」とは、{1−100}面からのオフセット角が所定の範囲内にある面を成長面としてSiCからなる新たな単結晶を成長させることをいう。
「成長方向」とは、SiC単結晶のマクロな成長方向を表し、通常は、SiC種結晶の底面又はこれを固定する種結晶台座に対して垂直な方向をいう。
【0023】
[1.2. オフセット角]
「{0001}面からのオフセット角」とは、種結晶の成長面の法線ベクトルと、{0001}面の法線ベクトルとのなす角をいう。
「{11−20}面からのオフセット角」とは、種結晶の成長面の法線ベクトルを{0001}面上に投影したベクトルbと、{0001}面内にある<11−20>軸の内、ベクトルbとなす角が最も小さくなる<11−20>軸とのなす角をいう。この場合、「正のオフセット角」とは、その<11−20>軸を基準として、ベクトルbが時計周り方向にある場合をいう。
「{1−100}面からのオフセット角」とは、種結晶の成長面の法線ベクトルを{0001}面上に投影したベクトルb'と、{0001}面内にある<1−100>軸の内、ベクトルb'となす角が最も小さくなる<1−100>軸とのなす角をいう。この場合、「正のオフセット角」とは、その<1−100>軸を基準として、ベクトルb'が時計周り方向にある場合をいう。
【0024】
[1.3. ファセット領域]
図1に、SiCを{1−100}面成長させたときの成長結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(中下)、斜視図(右上)、及び、右側面図の部分拡大図(右下)を示す。
α型SiC単結晶には、{0001}面(c面)に代表される極性面と、{11−20}面や{1−100}面などの非極性面とが存在する。{0001}面は、(000−1)面で表される炭素原子を露出した面(C面)と、(0001)面で表されるシリコン原子を露出した面(Si面)に分けられる。{11−20}面や{1−100}面は、炭素原子とシリコン原子の両方を露出している。
【0025】
SiCをa面成長させると、表面エネルギーが最も小さい{1−100}面ファセットが成長結晶の表面に現れる。{1−100}面ファセットは、<1−100>軸に対してほぼ垂直となる表面に現れる。
例えば、SiCを{1−100}面成長させる場合、{1−100}面ファセットは、
図1に示すように、成長結晶の表面のほぼ中央に現れる。一方、SiCを{11−20}面成長させる場合、{1−100}面ファセットは、
図2に示すように、成長結晶の表面の両端(<11−20>軸に対して30°傾いた方向)に現れる。
【0026】
また、成長結晶の表面は、通常、曲面状となる。これは、成長結晶の表面が曲面状の等温面に沿おうとするためである。一方、{1−100}面ファセットは平面であるため、<1−100>軸に対してほぼ垂直な位置にある曲面状の表面のすべてを{1−100}面ファセットで覆うことができない。また、a面成長ではc面成長のようにファセット面内方向にステップが広がりながら成長が進行するスパイラル成長ではなく、ファセット内の各点においてファセットに垂直方向にステップが伸展する成長様式のため、{1−100}面ファセット内には、{0001}面ファセットと異なり段差が生じやすい。そのため、a面成長時の成長結晶の曲面状の表面には、<0001>方向の曲面に倣うように並んだ複数個の平坦な{1−100}面ファセットに加えて、{1−100}面ファセット間に、{0001}面に対して平行な極性面ステップを生じることが多い。
極性面ステップの法線ベクトルは、<0001>軸に対して完全に平行とは限らず、<1−100>軸方向に傾いている場合が多いと考えられる。{1−100}面ファセット間に形成される極性面ステップは、成長結晶の表面の頂点にある{1−100}面ファセットからC面側方向とSi面側方向とで、ステップの向きが反対になっている。
【0027】
「C面側極性面ステップ」とは、{1−100}面ファセット間に形成された極性面ステップの内、C面側に傾いた面(すなわち、法線ベクトルが[000−1]方向成分を有する面)を持つステップをいう。
「Si面側極性面ステップ」とは、{1−100}面ファセット間に形成された極性面ステップの内、Si面側に傾いた面(すなわち、法線ベクトルが[0001]方向成分を有する面)を持つステップをいう。
「ファセット領域」とは、{1−100}面ファセットと、C面側極性面ステップと、Si面側極性面ステップとを含む領域をいう。
「Si面側ファセット領域」とは、ファセット領域の内、Si面側極性面ステップと、Si面側極性面ステップで挟まれた{1−100}面ファセットとを含む領域をいう。
【0028】
[2. SiC単結晶の製造方法(1)]
本発明の第1の実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法は、以下の構成を備えている。
(a)前記SiC単結晶の製造方法は、n回(n≧2)のa面成長工程を備えている。
(b)第1a面成長工程は、{0001}面からのオフセット角が80°以上100°以下の範囲にある第1成長面を持つ第1種結晶を用いて、前記第1成長面上にSiC単結晶をa面成長させる工程である。
(c)第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)a面成長工程で得られた第(k−1)成長結晶から、前記第(k−1)a面成長工程の成長方向と45°以上135°以下異なる方向に成長方向を有し、{0001}面からのオフセット角が80°以上〜100°以下の範囲にある第k成長面を持つ第k種結晶を切り出し、前記第k成長面上に前記SiC単結晶をa面成長させる工程である。
(d)前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、それぞれ、(A)式で表されるSi面側ファセット領域の面積率S
facetが20%以下に維持されるように、前記第k成長面上に前記SiC単結晶をa面成長させる工程である。
S
facet(%)=S
1×100/S
2 ・・・(A)
但し、
S
1は、Si面側極性面ステップを第k成長面上に投影した面積の総面積と、前記Si面側極性面ステップで挟まれた{1−100}面ファセットを第k成長面上に投影した面積の総面積の和、
S
2は、第k成長面の総面積。
【0029】
[2.1. a面成長工程]
本実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法は、n回(n≧2)のa面成長工程を備えている。2回目以降のa面成長工程においては、直前のa面成長工程で得られた成長結晶から切り出された種結晶が用いられる。
第ka面成長工程(1≦k≦n)で用いられる第k種結晶は、それぞれ、{0001}面からのオフセット角が80°以上100°以下の範囲にある第k成長面を持つ。第k成長面の{0001}面からのオフセット角が80°未満である場合、及び、100°を超える場合のいずれも、最終的に{0001}面基板を切り出す際の歩留まりが低下する。第k成長面の{0001}面からのオフセット角は、さらに好ましくは、85°超〜95°未満である。
【0030】
第ka面成長工程(2≦k≦n)の成長方向は、後述するSi面側ファセット領域の面積率S
facetが所定の範囲内に維持される限りにおいて、第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して45°以上135°以下の範囲にあれば良い。
異方位結晶や異種多形結晶が少なく、かつ大口径の{0001}面基板を切り出すことが可能なSiC単結晶を得るためには、第ka面成長工程(2≦k≦n)の成長方向は、
(1){11−20}面成長を行った第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して約60°又は約120°異なる方向({11−20}面選択成長法)、又は、
(2){11−20}面成長又は{1−100}面成長を行った第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して約90°異なる方向({11−20}面及び{1−100}面交互成長法。以下、単に「交互成長法」ともいう。)
が好ましい。
【0031】
[2.2. Si面側ファセット領域の面積率S
facet]
SiC単結晶をa面成長させると、成長結晶中に異方位結晶や異種多形結晶が形成されることがしばしばあった。本発明者らが数多くの成長実験を重ね、発生箇所の統計をとった結果、異方位結晶や異種多形結晶が発生する箇所は、殆どの場合、
図1に示すようにファセット領域内であることがわかった。また、ファセット領域内の中でも、特にSi面側ファセット領域に多いことも明らかにした。
図1のような{1−100}面成長では、通常、成長面の形状が制御されていないため、Si面側ファセット領域は、30〜40%の広い面積率を占める。その場合、異方位結晶や異種多形結晶の発生確率は、大幅に高くなり、
図18に示すように、成長面内に占める面積率も大きく上昇する。異方位結晶や異種多形結晶が一度発生すると、これらは成長の進行とともに、通常、最大でSi面側ファセット領域の大きさまで拡大することがあるので、特に大口径のa面成長基板を作製する際に、大きな問題となっていた。
【0032】
異方位結晶や異種多形結晶がファセット領域内に発生する詳細な原因は明らかではないが、以下のことが挙げられる。
すなわち、
図1に示すように、SiCをa面成長させると、成長結晶の表面には極性面ステップを含むファセット領域が形成される。このように極性面ステップが生じると、結晶の主な成長面が<11−20>方向又は<1−100>方向であっても、極性面ステップにおいては、<0001>方向の成長成分が生じると考えられる。成長途中の結晶表面が{0001}面に垂直である場合、結晶多形の層を結晶表面に露出しながら成長するため、異種多形は発生しにくい。
しかし、a面成長においては、成長途中の結晶表面に<0001>方向の成長成分が生じても、結晶表面には、<0001>方向に結晶の多形を伝達するステップ供給源である<0001>方向螺旋転位が存在しない。そのため、極性面ステップ上に異種多形が生じ、異方位結晶として粗大化すると考えられる。
さらに、SiC単結晶の成長において、Si面を露出した種結晶上には、4H多形のSiCが成長しにくいと言われている。Si面側ファセット領域に異方位結晶や異種多形結晶の発生が多いのは、このことと関連していると考えられる。
【0033】
本発明において、第ka面成長工程(1≦k≦n)においては、それぞれ、上述した(A)式で表されるSi面側ファセット領域の面積率S
facetが20%以下に維持されるように、第k成長面上にSiC単結晶をa面成長させる。そのため、異方位結晶や異種多形結晶の発生頻度や、
図18に示すように、その大きさを著しく低減することができる。また、歩留まりが向上するため、得られた成長結晶から大口径の{0001}面基板を切り出すことができる。
異方位結晶や異種多形結晶の発生頻度や拡大の程度は、S
facetが大きい程、大きくなるので、発生頻度を低減し、拡大を防ぐためには、Si面側ファセット領域の面積率S
facetは、小さいほど良い。S
facetは、さらに好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0034】
異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を歩留まりを下げずに作製するには、a面から<0001>軸方向に大きなオフ角を付けずに、異方位結晶や異種多形結晶の発生領域となるSi面側ファセット領域の面積率S
facetを小さく維持しながら、少なくとも異なる2方向で成長させ、2次元的な拡大を行わなければならない。
このような低いS
facet値を達成する方法としては、
(1)ファセット領域自体の形成面積を縮小することで、Si面側ファセット領域の面積を小さくする方法、
(2)ファセット領域に占めるSi面側ファセット領域の割合を小さくする方法、
などがある。具体的手段としては、以下のような方法が有効である。
【0035】
[3. a面成長法の具体例(1):{11−20}面選択成長法]
[3.1. 概要]
異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を作製するための第1の具体例は、{11−20}面選択成長法である。
{11−20}面選択成長法とは、{11−20}面を基準として、約60°又は約120°異なる方向にa面成長を繰り返す方法をいう。
すなわち、{11−20}面選択成長法とは、
前記第1a面成長工程は、{11−20}面からのオフセット角θ
1が−15°≦θ
1≦15°である前記第1成長面を持つ前記第1種結晶を用いて、前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程であり、
前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)a面成長工程で得られた第(k−1)成長結晶から、前記第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して約60°又は約120°異なる方向に成長方向を有し、かつ前記{11−20}面からのオフセット角θ
kが−15°≦θ
k≦15°である前記第k成長面を持つ前記第k種結晶を切り出し、切り出された前記第k種結晶を用いて前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
このような成長を繰り返すことで、{0001}面内方向の長さがより大きな第k種結晶を順次作製していき、大口径化を行う。
【0036】
図2に、SiCを{11−20}面成長させたときの成長結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(中下)、斜視図(右上)、及び、{11−20}面選択成長法の概念図(右下)を示す。
SiC単結晶を{11−20}面成長させると、
図2左下図に示すように、ファセット領域は、成長結晶の表面の両端(すなわち、<11−20>軸に対して30°傾いた方向)に現れる。しかも、ファセット領域自体の形成面積は、{1−100}面成長の場合に比べて大幅に縮小する。その結果、Si面側ファセット領域の面積もこれに応じて縮小し、S
facetを20%以下に維持して成長できる。しかも、Si面側ファセット領域は、成長結晶の端部に形成されるので、成長結晶の中央部に異方位結晶や異種多形結晶が生成する確率は極めて低い。さらに、通常、種結晶に比べて成長結晶は、拡大して成長することが多いが、{11−20}面成長では成長結晶の拡大部分にファセット領域が形成される場合が多い。その場合、種結晶直上の成長結晶中での異方位結晶や異種多形結晶をほぼ完全に抑制できる。
そのため、
図2の右下図に示すように、{11−20}面成長を選択的に繰り返すと、異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を確実に作製することができる。
【0037】
[3.2. オフセット角θ
k]
第ka面成長工程(1≦k≦n)において、第k成長面の{11−20}面からのオフセット角θ
kは、それぞれ、−15°≦θ
k≦15°であれば良い。θ
kの絶対値が15°を超えると、成長方向が<1−100>方向に近づくために、ファセット領域の形成面積が拡大する。また、これによって成長結晶の中心部に異方位結晶や異種多形結晶が発生する確率が高くなる。
【0038】
オフセット角θ
kは、ゼロでも良い。しかしながら、{11−20}面選択成長法は、交互成長法に比べて、所定の{0001}面口径を有するa面成長基板を製造するために要する繰り返し回数が多くなる。従って、各オフセット角θ
kは、より少ない繰り返し回数で、より{0001}面口径の大きいa面成長基板が得られるように、最適な角度を選択するのが好ましい。そのためには、第k成長面のオフセット角θ
k及び第(k+1)成長面のオフセット角θ
k+1(1≦k≦n−1)は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともに第(k+1)種結晶の第(k+1)成長面の{0001}面内方向長さL
k+1を大きくする方向とするのが好ましい。θ
kとθ
k+1を僅かに大きくするだけでも、繰り返し回数を大幅に低減できる。
θ
kの絶対値は、必ずしもθ
k-1の絶対値と同一である必要はない。しかしながら、|θ
k-1|=|θ
k|(2≦k≦n)とすると、一方のオフセット角が極端に大きくならないため、{1−100}面ファセットが拡大しにくく、異方位結晶や異種多形結晶をより抑制できるという利点がある。
【0039】
{0001}面口径の大きいa面成長基板を効率よく製造するためには、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n−1)は、次の(1)式の関係が成り立つように、前記第k成長面上に前記SiCを{11−20}面成長させる工程である
のが好ましい。
H
k>L
ksin(60°+|θ
k|+|θ
k+1|) ・・・(1)
但し、H
kは、第ka面成長工程における成長高さ、
L
kは、第k種結晶の第k成長面の{0001}面内方向長さ。
θ
k及びθ
k+1は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともに第(k+1)種結晶の第(k+1)成長面の{0001}面内方向長さL
k+1を大きくする方向。
【0040】
また、前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)成長結晶から、次の(2)式の関係が成り立つ第k種結晶を切り出し、前記第k成長面上に前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
ものが好ましい。
L
k≒H
k-1/cos(30°−|θ
k-1|−|θ
k|) ・・・(2)
但し、H
k-1は、第(k−1)a面成長工程における成長高さ、
L
kは、第k種結晶の第k成長面の{0001}面内方向長さ。
θ
k-1及びθ
kは、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにL
kを大きくする方向。
【0041】
ここで、(1)式は、少なくともL
kを超える{0001}面内方向長さL
k+1を有する第(k+1)種結晶を得るのに必要な高さH
kまで成長させることを表す。
また、(2)式は、得られた第(k−1)種結晶から、(2)式の右辺にほぼ等しいL
kを有する第k種結晶を切り出すことを表す。なお、(2)式において「≒」は、必ずしもL
kが(2)式の右辺に完全に一致している必要はなく、第k種結晶を切り出す際に種々の原因により生じる誤差(例えば、第k種結晶の外周部の面取り、種結晶を切り出す際の角度誤差など)があっても良いことを意味する。
なお、第(k−1)成長結晶から、L
kがL
k-1より長く、かつ、(2)式の右辺より短い第k種結晶を切り出しても良い。
(1)式及び(2)式は、必ずしも同時に満たす必要はない。しかしながら、(1)式及び(2)式が同時に満たされるように、種結晶の切り出し及び結晶の成長を行うと、少ない繰り返し回数で、相対的に{0001}面口径の大きなa面成長基板を製造することができるという利点がある。
【0042】
{0001}面口径の大きいa面成長基板をさらに効率よく製造するためには、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n−1)は、次の(3)式を満たすように前記第k成長面上に前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
ものが好ましい。
H
k≧L
ktan(60°+|θ
k|+|θ
k+1|) ・・・(3)
但し、H
kは、第ka面成長工程における成長高さ、
L
kは、第k種結晶の第k成長面の{0001}面内方向長さ。
θ
k及びθ
k+1は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともに第(k+1)種結晶の第(k+1)成長面の{0001}面内方向長さL
k+1を大きくする方向。
【0043】
また、前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、次の(4)式を満たすように第(k−1)成長結晶から第k種結晶を切り出し、第k成長面上に前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
ものが好ましい。
L
k≒L
k-1/sin(30°−|θ
k-1|−|θ
k|) ・・・(4)
但し、L
k-1は、第(k−1)種結晶の第(k−1)成長面の{0001}面内方向長さ。
L
kは、第k種結晶の第k成長面の{0001}面内方向長さ。
θ
k-1及びθ
kは、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにL
kを大きくする方向。
【0044】
ここで、(3)式は、少なくとも第k成長結晶から最大のL
k+1を有する第(k+1)種結晶を切り出すのに必要な成長高さH
kまで成長させることを表す。
また、(4)式は、得られた第(k−1)種結晶から、最大のL
kを有する第k種結晶を切り出すことを表す。なお、(4)式において「≒」は、必ずしもL
kが理論上の最大値に完全に一致している必要はなく、第k種結晶を切り出す際に種々の原因により生じる誤差(例えば、第k種結晶の外周部の面取り、種結晶を切り出す際の角度誤差など)があっても良いことを意味する。
なお、第(k−1)成長結晶から、L
kがL
k-1より長く、かつ、(4)式の右辺より短い第k種結晶を切り出しても良い。
(3)式及び(4)式は、必ずしも同時に満たす必要はない。しかしながら、(3)式及び(4)式が同時に満たされるように、種結晶の切り出し及び結晶の成長を行うと、少ない繰り返し回数で、相対的に{0001}面口径の大きなa面成長基板を製造することができるという利点がある。また、(3)式及び(4)式を用いたa面成長法は、(1)式及び(2)式を用いたa面成長法に比べて、より少ない繰り返し回数で、より{0001}面口径の大きなa面成長基板を製造することができるという利点がある。
【0045】
[3.3. {0001}面の口径拡大の具体例]
以下に、{11−20}面選択成長法を用いた{0001}面の口径拡大の具体的方法について、詳細に説明する。
【0046】
[3.3.1. <11−20>オン成長のみによる{0001}面の口径拡大(1)]
第1の具体例は、<11−20>オン成長のみにより{0001}面の口径を拡大する方法であって、理論的に取り出し可能な最大の種結晶より小さい種結晶を切り出して、{11−20}面成長を繰り返す方法である。「<11−20>オン成長」とは、θ
k=0の種結晶を用いて{11−20}面成長させることをいう。
図3に、<11−20>オン成長のみによる{0001}面の口径拡大法(L
k<理論上の最大値)の模式図を示す。
【0047】
まず、
図3(a)に示すように、第1成長面が(11−20)面であり、かつ、第1成長面の{0001}面内方向の長さがL
1である第1種結晶10aを用意する。第1種結晶10aを切り出すSiC単結晶の履歴は、特に限定されるものではなく、種々の履歴を有するSiC単結晶を用いることができる。
次いで、この第1種結晶10aを用いて、第1成長面上にSiC単結晶を成長させる。このとき、H
1>L
1sin60°となるまでSiC単結晶を成長させる。SiC単結晶の成長方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、昇華析出法)を用いることができる。得られた第1成長結晶12aから、第2成長面が(2−1−10)面であり、かつ、第2成長面の{0001}面内方向の長さがL
2(≒H
1/cos30°)である第2種結晶10bを切り出す。
【0048】
次に、
図3(b)に示すように、第2種結晶10bを用いて、H
2>L
2sin60°となるまで第2成長面上にSiC単結晶を成長させる。得られた第2成長結晶12bから、第3成長面が(1−210)面であり、かつ、第3成長面の{0001}面内方向の長さがL
3(≒H
2/cos30°)である第3種結晶10cを切り出す。
次に、
図3(c)に示すように、第3種結晶10cを用いて、H
3>L
3sin60°となるまで第3成長面上にSiC単結晶を成長させる。得られた第3成長結晶12cから、第4成長面が(−1−120)面であり、かつ、第4成長面の{0001}面内方向の長さがL
4(≒H
3/cos30°)である第4種結晶10dを切り出す。
最後に、
図3(d)に示すように、第4種結晶10dを用いて、H
4=L
4となるまで第4成長面上にSiC単結晶を成長させる。これにより、{0001}面の口径が約L
4であるa面成長基板が得られる。
【0049】
以上のように、<11−20>オン成長を繰り返すと、繰り返し毎に{0001}面の口径が拡大する。しかも、Si面側ファセット領域は、常に成長結晶の端部に形成される。そのため、異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を作製することができる。
なお、
図3に示す例においては、合計4回の{11−20}面成長を行っているが、{11−20}面成長の繰り返し回数は4回に限定されるものではなく、要求される{0001}面の口径に応じて最適な回数を選択することができる。
【0050】
[3.3.2. <11−20>オン成長のみによる{0001}面の口径拡大(2)]
第2の具体例は、<11−20>オン成長のみにより{0001}面の口径を拡大する方法であって、理論的に取り出し可能な最大の種結晶を切り出して、{11−20}面成長を繰り返す方法である。
図4に、<11−20>オン成長のみによる{0001}面の口径拡大法(L
k≒理論上の最大値)の模式図を示す。
【0051】
まず、
図4(a)に示すように、第1成長面が(11−20)面であり、かつ、第1成長面の{0001}面内方向の長さがL
1である第1種結晶10aを用意する。第1種結晶10aを切り出すSiC単結晶の履歴は、特に限定されるものではなく、種々の履歴を有するSiC単結晶を用いることができる。
次いで、この第1種結晶10aを用いて、第1成長面上にSiC単結晶を成長させる。このとき、H
1≧L
1tan60°となるまでSiC単結晶を成長させる。SiC単結晶の成長方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、昇華析出法)を用いることができる。得られた第1成長結晶12aから、第2成長面が(2−1−10)面であり、かつ、第2成長面の{0001}面内方向の長さがL
2(≒L
1/sin30°)である第2種結晶10bを切り出す。
【0052】
次に、
図4(b)に示すように、第2種結晶10bを用いて、H
2≧L
2tan60°となるまで第2成長面上にSiC単結晶を成長させる。得られた第2成長結晶12bから、第3成長面が(1−210)面であり、かつ、第3成長面の{0001}面内方向の長さがL
3(≒L
2/sin30°)である第3種結晶10cを切り出す。
次に、
図4(c)に示すように、第3種結晶10cを用いて、H
3≧L
3tan60°となるまで第3成長面上にSiC単結晶を成長させる。得られた第3成長結晶12cから、第4成長面が(−1−120)面であり、かつ、第4成長面の{0001}面内方向の長さがL
4(≒L
3/sin30°)である第4種結晶10dを切り出す。
最後に、
図4(d)に示すように、第4種結晶10dを用いて、H
4=L
4となるまで第4成長面上にSiC単結晶を成長させる。これにより、{0001}面の口径が約L
4であるa面成長基板が得られる。
【0053】
以上のように、<11−20>オン成長を繰り返すと、繰り返し毎に{0001}面の口径が拡大する。しかも、Si面側ファセット領域は、常に成長結晶の端部に形成される。そのため、異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を作製することができる。また、L
kが理論上の最大値となるまで、SiC単結晶を成長させると、より少ない繰り返し回数で、より{0001}面の口径が大きいa面成長基板を作製することができる。
なお、
図4に示す例においては、合計4回の{11−20}面成長を行っているが、{11−20}面成長の繰り返し回数は4回に限定されるものではなく、要求される{0001}面の口径に応じて最適な回数を選択することができる。
【0054】
[3.3.3. <11−20>オフ成長による{0001}面の口径拡大(3)]
第3の具体例は、<11−20>オフ成長により{0001}面の口径を拡大する方法であって、理論的に取り出し可能な最大の種結晶より小さな種結晶を切り出して、{11−20}面成長を繰り返す方法である。「<11−20>オフ成長」とは、θ
k≠0の種結晶を用いて{11−20}面成長させることをいう。
図5に、<11−20>オフ成長による{0001}面の口径拡大法(L
k<理論上の最大値)の模式図を示す。
【0055】
まず、
図5(a)に示すように、成長方向が[11−20]方向であり、第1成長面のオフセット角がθ
1であり、かつ、第1成長面の{0001}面内方向の長さがL
1である第1種結晶10aを用意する。第1種結晶10aを切り出すSiC単結晶の履歴は、特に限定されるものではなく、種々の履歴を有するSiC単結晶を用いることができる。
次いで、この第1種結晶10aを用いて、第1成長面上にSiC単結晶を成長させる。このとき、H
1>L
1sin(60°+|θ
1|+|θ
2|)となるまでSiC単結晶を成長させる。SiC単結晶の成長方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、昇華析出法)を用いることができる。得られた第1成長結晶12aから、成長方向が[2−1−10]であり、第2成長面のオフセット角がθ
2であり、かつ、第2成長面の{0001}面内方向の長さがL
2(≒H
1/cos(30°−|θ
1|−|θ
2|)である第2種結晶10bを切り出す。この場合、θ
1及びθ
2は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにL
2を大きくする方向となるように選択する。
【0056】
次に、
図5(b)に示すように、第2種結晶10bを用いて、H
2>L
2sin(60°+|θ
2|+|θ
3|)となるまで第2成長面上にSiC単結晶を成長させる。得られた第2成長結晶12bから、成長方向が[11−20]方向であり、第3成長面のオフセット角がθ
3であり、かつ、第3成長面の{0001}面内方向の長さがL
3(≒H
2/cos(30°−|θ
2|−|θ
3|))である第3種結晶10cを切り出す。この場合、θ
2及びθ
3は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにL
3を大きくする方向となるように選択する。
最後に、
図5(c)に示すように、第3種結晶10cを用いて、H
3=L
3となるまで第3成長面上にSiC単結晶を成長させる。これにより、{0001}面の口径が約L
3であるa面成長基板が得られる。
【0057】
以上のように、<11−20>オフ成長を繰り返すと、繰り返し毎に{0001}面の口径が拡大する。しかも、Si面側ファセット領域は、常に成長結晶の端部に形成される。そのため、異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を作製することができる。また、オフ成長を繰り返すと、オン成長を繰り返す場合に比べて、より少ない繰り返し回数で、より{0001}面の口径が大きいa面成長基板を作製することができる。
なお、
図5に示す例においては、合計3回の{11−20}面成長を行っているが、{11−20}面成長の繰り返し回数は3回に限定されるものではなく、要求される{0001}面の口径に応じて最適な回数を選択することができる。
【0058】
[3.3.4. <11−20>オフ成長による{0001}面の口径拡大(4)]
第4の具体例は、<11−20>オフ成長により{0001}面の口径を拡大する方法であって、理論的に取り出し可能な最大の種結晶を切り出して、{11−20}面成長を繰り返す方法である。
図6に、<11−20>オフ成長による{0001}面の口径拡大法(L
k≒理論上の最大値)の模式図を示す。
【0059】
まず、
図6(a)に示すように、成長方向が[11−20]方向であり、第1成長面のオフセット角がθ
1であり、かつ、第1成長面の{0001}面内方向の長さがL
1である第1種結晶10aを用意する。第1種結晶10aを切り出すSiC単結晶の履歴は、特に限定されるものではなく、種々の履歴を有するSiC単結晶を用いることができる。
次いで、この第1種結晶10aを用いて、第1成長面上にSiC単結晶を成長させる。このとき、H
1≧L
1tan(60°+|θ
1|+|θ
2|)となるまでSiC単結晶を成長させる。SiC単結晶の成長方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、昇華析出法)を用いることができる。得られた第1成長結晶12aから、成長方向が[2−1−10]であり、第2成長面のオフセット角がθ
2であり、かつ、第2成長面の{0001}面内方向の長さがL
2(≒L
1/sin(30°−|θ
1|−|θ
2|)である第2種結晶10bを切り出す。この場合、θ
1及びθ
2は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにL
2を大きくする方向となるように選択する。
【0060】
次に、
図6(b)に示すように、第2種結晶10bを用いて、H
2≧L
2tan(60°+|θ
2|+|θ
3|)となるまで第2成長面上にSiC単結晶を成長させる。得られた第2成長結晶12bから、成長方向が[11−20]方向であり、第3成長面のオフセット角がθ
3であり、かつ、第3成長面の{0001}面内方向の長さがL
3(≒L
2/sin(30°−|θ
2|−|θ
3|))である第3種結晶10cを切り出す。この場合、θ
2及びθ
3は、符号が互いに反対であり、かつ、回転方向がともにL
3を大きくする方向となるように選択する。
最後に、
図6(c)に示すように、第3種結晶10cを用いて、H
3=L
3となるまで第3成長面上にSiC単結晶を成長させる。これにより、{0001}面の口径が約L
3であるa面成長基板が得られる。
【0061】
以上のように、<11−20>オフ成長を繰り返すと、繰り返し毎に{0001}面の口径が拡大する。しかも、Si面側ファセット領域は、常に成長結晶の端部に形成される。そのため、異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制しながら、{0001}面の口径が大きなa面成長基板を作製することができる。また、L
kが理論上の最大値となるまで、SiC単結晶をオフ成長させると、より少ない繰り返し回数で、より{0001}面の口径が大きいa面成長基板を作製することができる。
なお、
図6に示す例においては、合計3回の{11−20}面成長を行っているが、{11−20}面成長の繰り返し回数は3回に限定されるものではなく、要求される{0001}面の口径に応じて最適な回数を選択することができる。
【0062】
[3.3.5.<11−20>オン成長又は<11−20>オフ成長による{0001}面の口径拡大(5): 成長結晶残存法]
第5の具体例は、<11−20>オン成長又は<11−20>オフ成長による{0001}面の口径を拡大する方法であって、成長結晶の大半をそのまま種結晶に用いる方法(成長結晶残存法)である。
成長結晶残存法とは、具体的には、
前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)a面成長工程で得られた第(k−1)成長結晶を、前記第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して約60°又は約120°異なる方向に成長方向を有し、かつ前記{11−20}面からのオフセット角θ
kが−15°≦θ
k≦15°である前記第k成長面に沿って切断するとともに、前記第(k−1)成長結晶の大部分を残存させ、前記第k成長面を露出させた前記第(k−1)成長結晶を前記第k種結晶としてそのまま用いて、前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
【0063】
図7に、{11−20}面選択成長法の一種である成長結晶残存法の工程図を示す。
まず、
図7(a)に示すように、第1種結晶10aを用意する。第1種結晶10aは、{11−20}面からのオフセット角θ
1が−15°≦θ
1≦15°である第1成長面を持つものであれば良い。
図7(a)に示す例において、第1種結晶10aは、θ
1=0であるオンセット基板である。また、第1種結晶10aは、第1成長面が露出するようにインゴットから薄くスライスした基板であっても良く、あるいは、第1成長面が露出するように表面を加工したインゴットをそのまま用いても良い。
このような第1種結晶10aを用いて、[11−20]方向にSiC単結晶を{11−20}面成長させる(第1a面成長工程)。これにより、
図7(b)に示すように、第1成長結晶12aが得られる。この場合、第1成長結晶12aの両端に、異方位結晶又は異種多形結晶14a、16aが成長する場合がある。
【0064】
次に、
図7(b)に示すように、第1種結晶10aを含む第1成長結晶12aを、第1a面成長工程の成長方向に対して約60°又は約120°異なる方向に成長方向を有し、かつ、{11−20}面からのオフセット角θ
2が−15°≦θ
2≦15°である第2成長面(M
2線)に沿って切断する。M
2線の位置は、第2成長面上に異方位結晶又は異種多形14a、16aが露出せず、かつ、第1成長結晶12a(+第1種結晶10a)の大部分が残存するように選択するのが好ましい。
また、第1成長結晶12a(+第1種結晶10a)は、
(1)口径拡大後の形状を、目的とする最終形状(
図7に示す例においては、円形)に近づけるための輪郭線(N
2線)、及び/又は、
(2)第3成長面となる線(M
3線)、
に沿ってさらに切断しても良い。
【0065】
次に、M
2線、並びに、必要に応じてN
2線及びM
3線に沿って第1成長結晶12a(+第1種結晶10a)を切断した後、
図7(d)に示すように、これを第2種結晶10bとしてそのまま用いて、[2−1−10]方向にSiC単結晶を{11−20}面成長させる(第2a面成長工程)。これにより、
図7(d)に示すように、第2成長結晶12bが得られる。この場合も、第2成長結晶12bの両端に、異方位結晶又は異種多形結晶14b、16bが成長する場合がある。
【0066】
以下、同様にして、
(1)第2成長結晶12b(+第2種結晶10b)の大部分が残存するように、第3成長面(M
3線)、並びに、必要に応じて輪郭線(N
3線、N'
3線)に沿って第2成長結晶12b(+第2種結晶10b)を切断する工程(
図7(e))、
(2)第2成長結晶12b(+第2種結晶10b)を第3種結晶10cとしてそのまま用いて、[1−210]方向にSiCを{11−20}面成長させる工程(
図7(f))、
(3)第3成長結晶12c(+第3種結晶10c)の大部分が残存するように、第4成長面(M
4線)、並びに、必要に応じて輪郭線(N
4線)に沿って第3成長結晶12c(+第3種結晶10c)を切断する工程(
図7(g))、
(4)第3成長結晶12c(+第3種結晶10c)を第4種結晶10dとしてそのまま用いて、[−1−120]方向にSiCを{11−20}面成長させる工程(
図7(h))、
(5)第4成長結晶12d(+第4種結晶10d)の大部分が残存するように、第5成長面(M
5線)、並びに、必要に応じて輪郭線(N
5線)に沿って第4成長結晶12d(+第4種結晶10d)を切断する工程(
図7(i))、及び、
(6)第4成長結晶12d(+第4種結晶10d)を第5種結晶10eとしてそのまま用いて、[−2110]方向にSiCを{11−20}面成長させる工程(
図7(j))、
を繰り返す。
【0067】
さらに、
(7)第5成長結晶12e(+第4種結晶10e)の大部分が残存するように、第6成長面(M
6線)、並びに、必要に応じて輪郭線(N
6線)に沿って第5成長結晶12e(+第5種結晶10e)を切断する工程(
図7(k))、及び、
(6)第5成長結晶12e(+第5種結晶10e)を第6種結晶10fとしてそのまま用いて、[−12−10]方向にSiCを{11−20}面成長させる工程(
図7(l))、
を行う。
最後に、第6成長結晶12fの外形を整えると、
図7(m)に示すように、円形のSiC単結晶12gが得られる。
【0068】
成長結晶残存法は、大口径の{0001}面を作製するまでの成長回数を低減することができる。
また、一般に、成長面内における{0001}面内方向の長さLが大きい種結晶を用いて結晶を成長させると、応力が高くなり、成長結晶が割れやすくなる。これに対し、成長結晶残存法では、Lが相対的に大きい種結晶を用いた成長回数が少なくなるので、クラックの発生確率を低減できる。
【0069】
[3.4. その他の異種多形結晶・異方位結晶の低減方法]
{11−20}面選択成長法は、成長結晶の端部にSi面側ファセット領域が形成されるため、それのみによっても良質の単結晶が得られる。また、{11−20}面選択成長法に加えて、後述する方法の内、{11−20}面成長にも適用可能な1種又は2種以上の方法を組み合わせると、異種多形結晶や異方位結晶の生成確率をさらに低減することができる。
【0070】
[4. a面成長法の具体例(2):交互成長法]
[4.1. 概要]
交互成長法とは、成長方向が約90°異なる{11−20}面成長と{1−100}面成長とを交互に繰り返す方法をいう。
すなわち、交互成長法とは、
前記第1a面成長工程は、{1−100}面又は{11−20}面からのオフセット角θ
1が−15°≦θ
1≦15°である第1成長面を持つ第1種結晶を用いて、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程であり、
前記第ka面成長工程(2≦k≦n)は、前記第(k−1)a面成長工程で得られた第(k−1)成長結晶から、前記第(k−1)a面成長工程の成長方向に対して約90°異なる方向に成長方向を有し、かつ前記{11−20}面又は{1−100}面からのオフセット角θ
kが−15°≦θ
k≦15°である前記第k成長面を持つ前記第k種結晶を切り出し、切り出された前記第k種結晶を用いて前記SiC単結晶を{11−20}面成長又は{1−100}面成長させる工程である
方法をいう。
このような成長を繰り返すことで、{0001}面内方向の長さがより大きな第k種結晶を順次作製していき、大口径化を行う。
【0071】
オフセット角θ
kの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
{1−100}面成長を行う場合、ファセット領域は、成長結晶の表面のほぼ中央部に発生する。そのため、良質の結晶を得るためには、{1−100}面成長時に、Si面側ファセット面積率S
facetを所定の範囲内に維持するための追加の手段を講じる必要がある。
一方、{11−20}面成長を行う場合、ファセット領域は、成長結晶の表面の端部に発生し、S
facetは、自然と小さくなり、所定の範囲内に維持できる。そのため、良質の結晶を得るためには、必ずしもSi面側ファセット面積率S
facetを所定の範囲内に維持するための追加の手段を講じる必要はない。しかしながら、このような手段をさらに講じると、異方位結晶や異種多形結晶の発生頻度をさらに低減することができる。
このような手段としては、具体的には、以下のようなものがある。なお、以下に説明する各種の手段は、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、物理的に可能な限りにおいて、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0072】
[4.2. Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段]
[4.2.1. c軸方向の非対称成長法]
Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段の第1の具体例は、c軸方向の非対称成長法である。
c軸方向の非対称成長法とは、すなわち、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、{1−100}面ファセットの最頂部が前記第k成長面のc軸方向中心に対してSi面寄り側に来るように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
ここで、「c軸方向中心」とは、{0001}面に対して垂直な線と成長結晶との交点の中心をいう。
【0073】
図8に、c軸方向に非対称成長するように{1−100}面成長させたSiC単結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(右下)、及び斜視図(右上)を示す。
図8に示すように、{1−100}面成長時において、{0001}面ファセットの最頂部をc軸方向中心に対してSi面寄り側にすることで、Si面側ファセット領域の面積を縮小することができる。その結果、異方位結晶や異種多形結晶の発生による品質低下を抑制することができる。
なお、図示はしないが、{11−20}面成長時においても、{0001}面ファセットの最頂部をSi面寄り側にすることで、Si面側ファセット領域の面積をさらに縮小することができる。また、c軸方向の非対称成長は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長のいずれか一方に適用しても良く、あるいは、双方に適用しても良い。
【0074】
c軸方向に非対称成長させる方法には、種々の方法がある。第1の方法は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長時に、c軸方向中心よりもSi面側の温度を低くする方法である。
Si面側の温度を低くする方法とは、すなわち、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、前記第k成長面のc軸方向中心に対してSi面寄り側の温度が前記c軸方向中心より低くなるように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
【0075】
Si面寄り側の温度を低くする方法としては、例えば、
図9(a)に示す方法がある。すなわち、坩堝22内に原料24を充填し、坩堝22上部には、種結晶26を固定する。SiC単結晶を成長させる際には、成長面をある程度凸形状に維持しなければならないことが知られている。そのために、坩堝構造に工夫が施されたり、炉体内における坩堝の位置などが調整され、一般的には、坩堝内の単結晶付近においては、坩堝の中心付近の温度が最も低くなっている。図中に詳細な坩堝構造は示さないが、同様に坩堝中心付近の温度が最も低くなるような構造となっていることを前提とする。そのため、種結晶26の中心を坩堝22中心から偏倚させ、Si面側を坩堝22中心に近づけると、Si面寄り側の温度が低くなる。その結果、成長結晶30の{1−100}面ファセットの最頂部がSi面寄り側に偏倚する。また、これによってSi面側ファセット領域の面積が縮小する。
【0076】
c軸方向に非対称成長させるための第2の方法は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長時に、c軸方向中心よりもSi面側のSiCガス濃度を高くする方法である。
Si面側のSiCガス濃度を高くする方法とは、すなわち、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、前記第k成長面のc軸方向中心に対してSi面寄り側のSiCガス濃度が前記c軸方向中心より高くなるように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
【0077】
Si面側のSiCガス濃度を高くする方法としては、例えば、
図9(b)に示す方法がある。すなわち、坩堝22内に原料24を充填し、坩堝22上部には、種結晶26を固定する。さらに、原料24の上部には、SiCガスを成長結晶表面の特定部位に優先的に供給するための昇華ガスガイド28を設ける。この時、SiCガスがSi面寄り側に優先的に供給されるように昇華ガスガイド28の先端を配置すると、昇華ガスガイド28の先端付近のSiCガス濃度が最も高くなる。その結果、成長結晶30の{1−100}面ファセットの最頂部がSi面寄り側に偏倚する。また、これによって、Si面側ファセット領域の面積が縮小する。
【0078】
c軸方向に非対称成長させるための第3の方法は、{11−20}面成長時の種結晶として、Si面側の長さが長い非対称種結晶を用いる方法である。
非対称種結晶を用いる方法とは、すなわち、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)が、前記SiC単結晶を{11−20}面成長させる工程である場合において、
前記第ka面成長工程は、c軸方向中心に対してSi面寄り側の長さがC面寄り側の長さより長い前記第k種結晶を用いて前記SiCを{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
【0079】
図10に、非対称種結晶を用いて{11−20}面成長させたSiC単結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(右下)、及び斜視図(右上)を示す。
上述したように、{11−20}面成長時には、ファセット領域は、成長結晶の両端に形成される。この時、
図10に示すように、種結晶のSi面寄り側の長さを長くすると、ファセット領域がSi面寄り側に偏って形成され、これと同時に、{1−100}面ファセットの最頂部がSi面寄り側に偏倚する。そのため、対称な種結晶を用いた場合に比べて、Si面側ファセット領域の面積が縮小する。
【0080】
[4.2.2. Si面側極性面ステップ消滅法(貼り合わせ種結晶)]
Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段の第2の具体例は、Si面側極性面ステップそのものを消滅させる方法である。
Si面側極性面ステップ消滅法とは、すなわち、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、少なくとも2個の種結晶素片のSi面が向かい合わせになるように前記種結晶素片を貼り合わせて前記第k種結晶とし、前記第k種結晶を用いて前記SiCを{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である方法をいう。
Si面を介して向かい合う各種結晶素片は、それぞれ、一体の種結晶素片であっても良く、あるいは、Si面が同一方向を向くように貼り合わされた複数個の種結晶素片の集合体であっても良い。
【0081】
図11に、種結晶素片のSi面側を貼り合わせた種結晶を用いて{1−100}面成長させたSiC単結晶の平面図(左中)、正面図(左上)、右側面図(中中)、斜視図(右上)、及び右側面図の部分拡大図(右中)、並びに、種結晶素片のSi面側を貼り合わせた種結晶の平面図(左下)を示す。
Si面が向かい合うように2つの種結晶素片を貼り合わせて種結晶とすると、種結晶のc軸方向の端面は、ともにC面となる。このような種結晶を用いて{1−100}面成長させると、{1−100}面ファセット間に形成されるステップは、いずれもC面側極性面ステップとなる。すなわち、この方法によれば、実質的にSi面側ファセット領域が消滅する。その結果、異方位結晶や異種多形結晶の発生確率が著しく低下する。
【0082】
図19に、種結晶素片のSi面側を貼り合わせた種結晶を用いて{11−20}面成長させたSiC単結晶の平面図(左中)、正面図(左上)、右側面図(中中)、斜視図(右上)、及び右側面図の部分拡大図(右中)、並びに、種結晶素片のSi面側を貼り合わせた種結晶の平面図(左下)を示す。
通常、{11−20}面成長では、
図2に示したように、ファセットは成長結晶の表面の両端に現れ、Si面側にはSi面側ファセット領域が形成される。そこで、種結晶上のファセットが形成される種結晶の両端部分に、Si面側を向かい合わせるようにして種結晶素片を配置する。
ここで、種結晶の中央部分は、
(a)成長結晶は一体的である方が低品質な接合界面を含まないため、成長結晶から取り出す{0001}面ウェハの歩留まりが高くなるという点、また、
(b)中央部分はファセットが形成されないという理由から、
Si面側の貼り合わせは行わない一体的な種結晶とする。
【0083】
このように配置した種結晶では、種結晶の両端部分のc軸方向の端面は、ともにC面となる。この種結晶を用いて{11−20}面成長させると、成長結晶の両端の{1−100}面ファセット間に形成されるステップは、いずれもC面側極性面ステップとなる。すなわち、この方法によれば、{11−20}面成長においても、Si面側ファセット領域を実質的に消滅させることができる。その結果、異方位結晶や異種多形の発生確率が著しく低下する。また、{1−100}面成長でのSi面側の貼り合わせにおいて生じる成長結晶中の接合界面が、成長結晶の中央部にないため、取り出される{0001}面ウェハの歩留まりも高くなる。
上記Si面側極性面ステップ消滅法は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長のいずれか一方に適用しても良く、あるいは、双方に適用しても良い。
【0084】
[4.2.3. {1−100}面平坦成長法]
Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段の第3の具体例は、{1−100}面成長時に最頂部近傍の{1−100}面を平坦に成長させる方法である。
{1−100}面平坦成長法とは、具体的には、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)が、前記SiC単結晶を{1−100}面成長させる工程である場合において、
前記第ka面成長工程は、ファセット領域内の高低差が1mm以下である領域の面積がファセット領域の総面積の90%以上となるように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長させる工程である
方法をいう。
「高低差が1mm以下である領域」とは、{1−100}面ファセットの最頂部及びこれに隣接する{1−100}面ファセットを含む領域であって、{1−100}面ファセット最頂部から1mm以内にある領域(すなわち、極性面ステップが相対的に少ない領域)をいう。
【0085】
図12に、{1−100}面平坦成長させたSiC単結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(右下)、及び斜視図(右上)を示す。
図12に示すように、{1−100}面成長させる場合において、成長開始から成長終了まで成長面を平坦に維持すると、{1−100}面ファセット最頂部が広くなり、「高低差が1mm以下である領域」が拡大する。その結果、Si面側ファセット領域の面積が縮小する。また、これによって異方位結晶や異種多形結晶の発生確率が著しく低下する。
【0086】
{1−100}面を平坦に成長させる方法としては、例えば、
図9(c)に示す方法がある。すなわち、坩堝22内に原料24を充填し、坩堝22上部には、種結晶26を固定する。さらに、成長結晶30の表面に対向する位置に均熱板32を配置する。均熱板32を配置すると、成長結晶30の表面近傍において、水平面内の温度差が小さくなる。その結果、成長結晶30の表面が平坦化する。また、これによってSi面側ファセット領域の面積が縮小する。
【0087】
[4.2.4. {0001}面内方向の凸化成長法]
Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段の第4の具体例は、{1−100}面成長時に{1−100}面を{0001}面内方向に凸化成長させる方法である。
凸化成長法とは、具体的には、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)が、前記SiC単結晶を{1−100}面成長させる工程である場合において、
前記第ka面成長工程は、前記第k成長結晶の表面が{0001}面内方向に凸型となるように、すなわち、前記第k成長結晶の{0001}面内方向長さをL、前記第k成長結晶の表面の{0001}面内方向の曲率をrとするときにr<Lを満たすように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長させる工程である
方法をいう。
【0088】
また、凸化成長させる場合、成長結晶の表面は、c面内方向中心に対して、対称となるように成長させても良く、あるいは、非対称となるように成長させても良い。
すなわち、凸化成長させる場合において、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、{1−100}面ファセットの最頂部が前記第k成長面のc面内方向中心に対して端部側に来るように、前記SiC単結晶を{1−100}面成長させる工程であっても良い。
「c面内方向中心」とは、{0001}面に対して平行な線と成長結晶との交点の中心をいう。
「凸化」とは、成長結晶の{0001}面内方向の長さをL、成長結晶の表面の{0001}面内方向の曲率r(成長面の中心を通る、成長面に垂直な平面が、成長結晶の表面と交わる線分の曲率)とする時、r<Lを満たす場合とする。
【0089】
図13に、{0001}面内方向に凸化するように、かつ、c面内方向中心に対して対称となるように{1−100}面成長させたSiC単結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(中下)、及び斜視図(右上)、並びに、rとLの関係を表す模式図(右下)を示す。
図13に示すように、{1−100}成長させる場合において、{0001}面内方向に凸化するように結晶を成長させると、ファセット領域の{0001}面内方向の幅が狭くなる。その結果、ファセット領域の面積自体が縮小する。また、これによってSi面側ファセット領域の面積も縮小する。
【0090】
図14に、{0001}面内方向に凸化するように、かつ、c面内方向中心に対して非対称となるように{1−100}面成長させたSiC単結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(右下)、及び斜視図(右上)を示す。
図14に示すように、{0001}面内方向に凸化するように、かつ、c面内方向中心に対して非対称となるように{1−100}面成長させると、縮小されたSi面側ファセット領域が成長結晶の端部側に移動する。そのため、成長結晶の中央付近での異方位結晶や異種多形結晶の発生を抑制することができる。
【0091】
結晶を凸化成長させる方法としては、具体的には、
図9(b)に示すように、昇華ガスガイド28を用いて、成長結晶30の表面の特定部位のSiCガス濃度を高くする方法などがある。
【0092】
[4.2.5. 窒素ドープ量低減成長法]
Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段の第5の具体例は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長時に窒素ドープ量を低減する方法である。
窒素ドープ量低減成長法とは、具体的には、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、窒素ガス分圧が5%以下である雰囲気下において、前記SiCを{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
【0093】
一般的に、SiC単結晶の成長では、基板上に作製するデバイスの抵抗を低減するために成長雰囲気に窒素を導入しながら成長することが多い。窒素ドープは、ウェハを切り出すc面成長時には必須となるが、高品質化工程であるa面成長時には必須ではない。
逆に、窒素ドープをしながらa面成長させる場合において、窒素ドープ量が多いと、異方位結晶や異種多形の発生頻度が高くなる。従って、窒素ガス分圧は、5%以下が好ましい。窒素ガス分圧は、さらに好ましくは、1%以下である。
【0094】
図15に、窒素ドープ量低減成長法を用いて{1−100}面成長させたSiC単結晶の平面図(左下)、正面図(左上)、右側面図(右下)、及び斜視図(右上)を示す。
窒素をドープしながらa面成長させる場合において、窒素ドープ量を低減すると、Si面側ファセット領域における異方位結晶や異種多形結晶の発生頻度が低下する。
これは、
(1)窒素ドープ量を低減すると、
図15に示すように、ファセット領域の{0001}面内方向の幅が若干狭くなり、これに応じてSi面側ファセット領域の面積も縮小するため、及び、
(2)詳細な理由は不明であるが、窒素ドープ量が少ない条件下で{1−100}面成長させると、異方位結晶や異種多形結晶の発生頻度そのものが低下するため、
と考えられる。
【0095】
[4.2.6. ダミー種結晶配置法]
Si面側ファセット面積率S
facetの低減手段の第6の具体例は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長時にダミー種結晶を配置する方法である。
ダミー種結晶配置法とは、具体的には、
前記第ka面成長工程(1≦k≦n)は、主種結晶にダミー種結晶を隣接させてこれを前記第k種結晶とし、前記第k種結晶を用いて前記SiCを{1−100}面成長又は{11−20}面成長させる工程である
方法をいう。
【0096】
主種結晶は、成長の繰り返しとともに厚みが大きいブロック体になる。
一方、ダミー種結晶は、薄い通常の種結晶であっても良い点、最終的に成長結晶から切除するため表面を研磨する必要もない点、及び、結晶方位が限定されない点で、前述のSi面側極性面ステップ消滅法と異なる。また、ダミー種結晶は、一体の種結晶素片であっても良く、あるいは、貼り合わされた複数個の種結晶素片の集合体であっても良い。
【0097】
図20に、ダミー種結晶を配置した種結晶を用いて{1−100}面成長させたSiC単結晶の平面図(左中)、正面図(左上)、右側面図(右中)、斜視図(右上)、及びダミー種結晶を貼り合わせた種結晶の平面図(左下)を示す。
主種結晶のSi面側に、ダミー種結晶を配置して成長させると、主種結晶上に成長する結晶上においては、表面の<0001>方向の曲率が小さくなり、ダミー種結晶上に選択的にSi面側極性面ステップが形成される。すなわち、この方法によれば、Si面側ファセット領域に、異方位結晶や異種多形結晶が発生したとしても、主種結晶上の成長結晶はその影響を受けにくくなる。
【0098】
図21に、ダミー種結晶を配置した種結晶を用いて{11−20}面成長させたSiC単結晶の平面図(左中)、正面図(左上)、右側面図(右中)、斜視図(右上)、及び、ダミー種結晶を貼り合わせた種結晶の平面図(左下)を示す。
主種結晶の{0001}面内方向の両端部に、ダミー種結晶を配置して成長させると、主種結晶上に成長する結晶上においては、表面の{0001}面内方向の曲率が小さくなり、ダミー種結晶上に選択的にファセットが形成されやすくなる。すなわち、この方法によれば、Si面側ファセット領域に、異方位結晶や異種多形結晶が発生したとしても、主種結晶上の成長結晶は、その影響を受けにくくなる。
上記ダミー種結晶配置法は、{1−100}面成長又は{11−20}面成長のいずれか一方に適用しても良く、あるいは、双方に適用しても良い。
【0099】
[5. SiC単結晶の製造方法(2)]
本発明の第2の実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法は、a面成長工程と、c面成長工程とを備えている。
[5.1. a面成長工程]
a面成長工程は、Si面側ファセット領域の面積率S
facetが所定の値以下に維持されるように、a面成長を2回以上繰り返す工程である。
a面成長工程の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
【0100】
[5.2. c面成長工程]
c面成長工程は、第na面成長工程で得られた前記第n成長結晶から、{0001}面からのオフセット角の絶対値が30°以内である第(n+1)成長面を持つ第(n+1)種結晶を切り出し、前記第(n+1)成長面上に前記SiC単結晶をc面成長させる工程である。
c面成長時のオフセット角の絶対値が大きすぎると、第n種結晶から成長結晶に引き継がれた積層欠陥を成長結晶外に排出するために、より高い成長高さが必要となる。また、オフセット角の絶対値が大きくなりすぎると、成長結晶中に新たな積層欠陥が発生する場合がある。従って、{0001}面からのオフセット角の絶対値は、30°以内が好ましい。
【0101】
第1の実施の形態に係る方法を用いて得られたa面成長結晶は、{0001}面口径が大きく、かつ、異方位結晶や異種多形結晶が少ない。そのため、このようなa面成長結晶からc面成長用の種結晶を切り出してc面成長させると、{0001}面口径が大きく、かつ、欠陥の少ないc面成長結晶を製造することができる。
【0102】
[6. SiC単結晶: a面成長結晶]
第1の実施の形態に係る方法を用いると、欠陥の少ないa面成長結晶が得られる。具体的には、外周から20%の領域を除く領域内に異方位結晶塊又は異種多形結晶塊を含まないSiC単結晶が得られる。
【0103】
[6.1. 異方位結晶塊及び異種多形結晶塊]
図16に、本発明に係るa面成長法を用いて製造されたSiC単結晶の平面図(
図16(a))、正面図(
図16(b))、及び斜視図(
図16(c))を示す。
本発明に係るa面成長法を用いて{0001}面口径の大きいa面成長結晶を製造する場合において、製造条件を最適化したときには、Si面側ファセット領域は、専ら成長結晶の外周部に形成される。そのため、Si面側ファセット領域内に異方位結晶や異種多形結晶の核が生成し、SiCの成長に伴ってこれらが塊状に成長したとしても、これらは専ら成長結晶の外周部に存在する。
ここで、「外周から20%の領域」とは、
図16に示すように、成長結晶の表面から0.2xに相当する距離までの領域をいう。「x」とは、成長結晶の中心から表面までの距離をいう。
「異方位結晶塊又は異種多形結晶塊を含まない」とは、体積が1mm
3を超える塊状の異方位結晶や異種多形結晶を含まないことをいう。
製造条件をさらに最適化すると、外周部から10%の領域を除く領域内に異方位結晶塊又は異種多形結晶塊を含まないSiC結晶、あるいは、実質的に異方位結晶塊又は異種多形結晶塊を含まないSiC単結晶が得られる。
【0104】
[6.2. 口径]
本発明に係るa面成長法は、{0001}面口径の大きいa面成長結晶を効率よく製造することができる。具体的には、製造条件を最適化すると、{0001}面の口径が100mm以上、あるいは、150mm以上であるSiC単結晶が得られる。
【0105】
[6.3. ファセット痕]
図17に、a面成長させたSiC単結晶中に生成した{1−100}面ファセット痕(
図17(a)、(b))、及びSi面側極性面ステップを含む{1−100}面ファセット痕(
図17(c)、(d))の模式図を示す。
{11−20}面成長させる場合、ファセット領域は、成長結晶の端部に形成される。そのため、
図17(a)に示すように、{1−100}面ファセット痕(ハッチングを施した領域)は、成長結晶の端部に現れる。
一方、{1−100}面成長させる場合、
図17(b)に示すように、{1−100}面ファセット痕は、成長結晶の中央部に現れる。{1−100}面ファセット痕は、Si面側極性ステップを含み、異方位結晶や異種多形結晶が発生しやすい領域であるので、その体積率は、低いほど良い。
【0106】
上述したa面成長法において、ファセット領域の面積そのものを縮小させる手段を講じると、{1−100}面ファセット痕の体積率(=成長結晶の体積に占める{1−100}面ファセット痕の体積の割合)を小さくすることができる。具体的には、製造条件を最適化することによって、{1−100}面ファセット痕の体積率が40%以下、あるいは、20%以下であるSiC単結晶が得られる。
【0107】
また、a面成長させる場合、通常、ファセット領域内にSi面側極性面ステップが形成される。ファセット領域内にSi面側極性面ステップが形成されると、縞状のファセット痕となる。
{11−20}面成長させる場合、
図17(c)に示すように、Si面側極性面ステップを含む{1−100}面ファセット痕(以下、これを「縞状ファセット痕」ともいう。)は、両端に形成されたファセット痕の内、Si面寄り側(太い破線で囲った領域)を占める。
同様に、{1−100}面成長させる場合、縞状ファセット痕は、中央に形成されたファセット痕の内、Si面寄り側を占める。縞状ファセット痕は、異方位結晶や異種多形結晶が発生しやすい領域であるので、その体積率は、低いほどよい。
【0108】
上述したa面成長法において、ファセット領域の面積そのものを縮小させる手段、あるいは、Si面側ファセット領域を縮小させる手段を講じると、縞状ファセット痕の体積率(=成長結晶の体積に占める縞状ファセット痕の体積の割合)を小さくすることができる。具体的には、製造条件を最適化することによって、縞状ファセット痕の体積率が20%以下、あるいは、10%以下であるSiC単結晶が得られる。
【0109】
[7. SiCウェハ、SiC単結晶(c面成長結晶)]
本発明の第1の実施の形態に係るSiCウェハは、a面成長法を用いて得られたSiC単結晶(a面成長結晶)から切り出され、最も広い面が略{0001}面(すなわち、{0001}面からのオフセット角の絶対値が30°以内である面)からなる。
得られたSiCウェハは、そのまま各種の用途に用いることができる。あるいは、得られたSiCウェハを種結晶に用いて、SiC単結晶(c面成長結晶)を製造することができる。
さらに、本発明の第2の実施の形態に係るSiCウェハは、このようにして得られたSiC単結晶(c面成長結晶)から切り出されたものからなる。得られたSiCウェハは、各種の用途に用いることができる。
【0110】
[8. 半導体デバイス]
本発明に係る半導体デバイスは、本発明に係るSiC単結晶又はSiCウェハを用いて製造されたものからなる。半導体デバイスとしては、具体的には、
(a)LED、
(b)パワーデバイス用のダイオードやトランジスタ、
などがある。
【0111】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。