(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039907
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂板状成形品および導光板
(51)【国際特許分類】
C08F 212/06 20060101AFI20161128BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20161128BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20161128BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20161128BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
C08F212/06
F21S2/00 412
C08F220/18
C08J5/00
G02B6/00 331
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-33407(P2012-33407)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170186(P2013-170186A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年2月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
(72)【発明者】
【氏名】藤松 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【審査官】
大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−153959(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/070978(WO,A1)
【文献】
特開2009−126997(JP,A)
【文献】
特開2007−204536(JP,A)
【文献】
特開2007−204554(JP,A)
【文献】
特開2007−230147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 212/06
C08F 220/18
C08J 5/00
F21S 2/00
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンと(メタ)アクリル酸エステル系単量体とを共重合して得られる重量平均分子量が16万〜70万で、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が4〜15質量%であるスチレン系樹脂からなり、
光の通過する方向における成形品の長さが115mmである場合の波長380nm〜780nmの平均透過率が86%以上である、板状成形品からなる導光板。
【請求項2】
115×85×3mm厚みの成形品において、温度60℃、相対湿度90%の環境に150時間曝露し、温度23℃、相対湿度50%の環境に取出し、24時間経過した後に白化がない、スチレン系樹脂からなる請求項1に記載の導光板。
【請求項3】
前記板状成形品は、温度40℃、80%湿度における吸水量が2000ppm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色相と透明性に優れ、環境変化による白化現象が抑制され、導光板用途に適したスチレン系樹脂からなる板状成形品および導光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイのバックライトには光源を表示装置の正面に配置する直下型バックライトと側面に配置するエッジライト型バックライトがある。導光板はエッジライト型バックライトに組み込まれ、側面からの光を液晶パネルに導く役割を果たし、テレビ、デスクトップ型パーソナルコンピューターのモニター、ノート型パーソナルコンピューター、携帯電話機、カーナビゲーションなど幅広い用途で使用される。導光板にはPMMA(ポリメチルメタクリレート)に代表されるアクリル樹脂が使用されているが、吸水性が高いため、成形品に反りが発生する問題や寸法の変化が発生する場合がある。
そのため、これら特性を改善したスチレンと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体であるMS樹脂を用いることが提案されている。MS樹脂の、吸水性や成形時の変色低減等の改良技術としては特許文献1が提案されている。
しかしながら、特許文献1では、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)6〜17万、残存モノマー量3000ppm以下、更にオリゴマー量が2%以下の導光板が開示されているが、吸水性が高く寸法安定性がスチレン系単量体を原料とするスチレン系樹脂よりも悪い傾向にあった。
一方、スチレン系単量体を原料とするスチレン系樹脂は吸水性が低いものの、温度や湿度などの環境変化により成形品が白濁する問題(白化現象)があった。具体的には、高温高湿環境下から室温環境下への環境変化や室温環境下から低温環境下への環境変化に成形品が曝された場合、成形品中に均一に存在する水分が不安定となって相分離し、円盤状の欠陥が生成し、その結果、成形品の内部が白濁する。成形品が白濁すると、導光板のように光路長が長い場合、光散乱により透過率が大きく低下して、ディスプレイの輝度が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−075648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、環境変化による白化現象を防止し、特に導光板等の光学用途に適した、無色透明性に優れたスチレン系樹脂からなる板状成形品および導光板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体とを共重合して得られる重量平均分子量が16万〜70万で、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が4〜15質量%であるスチレン系樹脂からなる板状成形品。
(2)透明で白化現象の抑制された(1)に記載の板状成形品。
(3)温度40℃、80%湿度における吸水量が2000ppm未満であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の板状成形品。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の板状成形品からなる導光板。
【発明の効果】
【0006】
本発明のスチレン系樹脂からなる板状成形品は、PMMAやMS樹脂からなる板状成形品と比較して、吸水性が低く安価であり、PS樹脂の欠点である環境変化による白化現象が発生せず、無色透明性に優れることから、導光板等の光学用途に好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のスチレン系樹脂は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを重合して得ることができる。スチレン系単量体とは、芳香族ビニル系モノマーである、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の単独または2種以上の混合物であり、好ましくはスチレンである。(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステルが挙げられるが、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルは少量で白化抑制効果があることから好ましく使用できる。また、(メタ)アクリル酸エステルは2種類以上併用することもできる。
【0008】
スチレン系樹脂の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知のスチレン重合方法が挙げられる。品質面や生産性の面では、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、連続重合であることが好ましい。溶媒として例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。
【0009】
スチレン系樹脂の重合時に、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤を使用することができる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知慣用の例えば、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ジ(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類、N,N'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、N,N'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、N,N'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、N,N'−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤としては、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマー及びテルピノーレン等が挙げられる。
【0010】
連続重合の場合、まず重合工程にて公知の完全混合槽型攪拌槽や塔型反応器等を用い、目標の分子量、分子量分布、反応転化率となるよう、重合温度調整等により重合反応が制御される。重合工程を出た重合体を含む重合溶液は、脱揮工程に移送され、未反応の単量体及び重合溶媒が除去される。脱揮工程は加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機などで構成される。脱揮工程を出た溶融状態の重合体は造粒工程へ移送される。造粒工程では、多孔ダイよりストランド状に溶融樹脂を押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工される。
【0011】
本発明のスチレン系樹脂の重量平均分子量は16万〜70万であり、16万〜40万であることが好ましい。16万未満では成形品の強度が不十分となり、70万を超えると成形性が著しく低下する。スチレン系樹脂の重量平均分子量は、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量等によって制御することができる。
重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件で測定したものである。
GPC機種:昭和電工株式会社製Shodex GPC−101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED−B
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
本発明の分子量は単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
【0012】
本発明のスチレン系樹脂は、スチレン系樹脂100質量%中に(メタ)アクリル酸エステル単位を含有し、その含有量が4〜15質量%であり、6〜12質量%であることが好ましく、7〜9質量%であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が4質量%未満では、白化抑制効果が不十分となる。また、15質量%を超えると、吸水性が悪化する。また、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が増えると、流動性が低下する傾向となり、射出成形のような高流動性が要求される用途では成形性が低下する。
【0013】
本発明のスチレン系樹脂は、温度40℃、80%湿度における吸水量が2000ppm未満であることが好ましく、1600ppm未満であることがより好ましい。
【0014】
本発明のスチレン系樹脂組成物には、本発明の無色透明性を損なわない範囲でミネラルオイルを含有しても良い。また、ステアリン酸、エチレンビスステアリン酸アミド等の内部潤滑剤やリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていても良い。また、外部潤滑剤としては、エチレンビスステアリン酸アミドが好適であり、含有量としては樹脂組成物中に30〜200ppmであることが好ましい。
【0015】
紫外線吸収剤は、紫外線による劣化や着色を抑制する機能を有するものであって、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸アニリド系、マロン酸エステル系、ホルムアミジン系などの紫外線吸収剤が挙げられる。これらは、単独又は2種以上組み合わせて用いることができ、ヒンダートアミン等の光安定剤を併用してもよい。
【0016】
本発明のスチレン系樹脂からなる板状成形品は、射出成形、押出成形、圧縮成形等、目的に応じた成形方法で成形される。また、板状成形品の背面(光を出射する面の反対側)にドットパターンなどの反射パターンを設けて、導光板として用いることができる。樹脂板から導光板に加工する際、光の入射面あるいは樹脂板の端面全面を研磨処理して、鏡面とすることが好ましい。また、出射光の均一性を高めるために、板状成形品の表面(光が出射される面)にプリズムパターンを設けることができる。板状成形品の表面あるいは背面のパターンは、板状成形品の成形時に形成させることができ、例えば射出成形では金型形状、押出成形ではロール転写などによって、パターン形成させることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
(スチレン系樹脂PS−1〜7の製造例)
完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器及び静的混合器付プラグフロー型反応器である第3反応器を直列に接続して重合工程を構成し、表1に示す条件によりスチレン系樹脂の製造を実施した。各反応器の容量は、第1反応器を39リットル、第2反応器を39リットル、第3反応器を16リットルとした。表1に記載の原料組成にて、原料溶液を作成し、第1反応器に原料溶液を表1に記載の流量にて連続的に供給した。重合開始剤は、第1反応器の入口で表1に記載の添加濃度(原料スチレン及びメタクリル酸メチルの合計量に対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加し、均一混合した。表1に記載の重合開始剤は次の通り
重合開始剤−1 :1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油株式会社製パーヘキサCを使用した。)
なお、第3反応器では、流れの方向に沿って温度勾配をつけ、中間部分、出口部分で表1の温度となるよう調整した。
続いて、第3反応器より連続的に取り出した重合体を含む溶液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、表1に記載の樹脂温度となるよう予熱器の温度を調整し、表1に記載の圧力に調整することで、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、多孔ダイよりストランド状に押し出しして、コールドカット方式にて、ストランドを冷却および切断しペレット化した。
【0019】
スチレン系樹脂中のメタクリル酸メチル単位の含有量(PMMA量)は熱分解ガスクロマトグラフィーで以下の条件にて測定した。
熱分解炉:PYR−2A(株式会社島津製作所製)
熱分解炉温度設定:525℃
ガスクロマトグラフ:GC−14A(株式会社島津製作所製)
カラム:ガラス製3mm径×3m
充填剤:FFAP Chromsorb WAW 10%
インジェクション、ディテクター温度:250℃
カラム温度:120℃
キャリアーガス:窒素
【0020】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
得られたPS−1〜7ペレットおよびMS樹脂(電気化学工業株式会社製 デンカTXポリマー TX800LF)を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度50℃にて射出成形を行い、127×127×3mm厚みの板状成形品を成形した。得られた板状成形品から115×85×3mm厚みの試験片を切り出し、端面をバフ研磨によって研磨し、端面に鏡面を有する板状成形品を得た。得られた板状成形品について、日本分光株式会社製の紫外線可視分光光度計V−670を用いて、大きさ20×1.6mm、広がり角度0°の入射光において、
光の通過する方向における成形品(媒質)の長さを115mm
とした場合の波長350nm〜800nmの分光透過率を測定し、C光源における、視野2°でのYI値をJIS K7105に倣い算出した。表1に示す透過率とは、波長380nm〜780nmの平均透過率を表す。
さらに、環境変化による白化現象を確認するため、端面に鏡面を有する板状成形品を温度60℃、90%相対湿度の環境に150時間暴露し、温度23℃、50%相対湿度の環境に試験片を取出し、成形品内部に発生する白化現象を観察し、白化抑制効果として下記の通り判定を行った。
◎:全く白化が発生しない
○:取出し1時間後にやや白化するが、24時間後には消失する
△:取出し1時間後に白化するが、24時間後にはほとんど消失する
×:取出し1時間後に著しく白化し、24時間経っても消失しない
メルトマスフローレート(MFR)は、JIS K−7210に準拠し、温度200℃、49N荷重の条件で、ビカット軟化温度は、JIS K 7206に準拠し、昇温速度50℃/hr、試験荷重50Nで測定した。
吸水量は上記の板状成形品を用い、温度80℃で24時間乾燥後の質量W1を測定した後、温度40℃で80%相対湿度の環境下に板状成形品を保管し、一定時間毎に取り出し直後の重量を測定し、重量変化がなくなったところ(飽和状態)の質量W2より、吸水量=(W2−W1)/W2×1000000(ppm)として求めた。
表2に各樹脂組成物の特性を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例の板状成形品は、白化抑制効果に優れ、透明性および色相などの光学特性に優れ、吸水性も低く抑えられている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のスチレン系樹脂からなる板状成形品は、環境変化による白化現象が防止され、透明性と色相に優れ、吸水性も低く抑えられていることから、テレビ、デスクトップ型パーソナルコンピューター、ノート型パーソナルコンピューター、携帯電話機、カーナビゲーションなどの導光板用途で好適に用いることができる。