(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記板状弾性体は、前記支柱の外周に沿って配置される円筒形状の軸部と、該軸部の外周に配置される縁部と、前記軸部と前記縁部とを連結する薄肉部と、を有し、前記摩擦発生部は、前記軸部又は前記縁部の表面によって構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドダンパ。
前記制振対象物は、前記支柱を挿通して固定するための挿通孔を有し、該挿通孔は、挿通される前記支柱よりも大きな径を有している、又は、前記支柱の先端側に向かって拡径している、ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドダンパ。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、前輪に操舵角を与えることで進行方向を操作するための操舵装置を有している。かかる操舵装置は、一般に、乗員が運転時に回転操作を行うためのステアリングホイールと、該ステアリングホイールの回転を舵角操作に変換するステアリングシャフトと、を有している。車両の走行中やアイドリング中に、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールに振動が伝達すると、快適な運転が妨げられる。そのため、従来から、ステアリングホイールには、振動を減衰させるためのダンパが配置されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたダンパは、振動部材に対してマス部材をバネ部材で弾性的に支持せしめて、該振動部材に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、円形断面形状で互いに平行に延びる複数本の支持ゴム弾性体によって、前記バネ部材を構成したものである。かかるダイナミックダンパは、ステアリングホイールの骨格を形成する芯金に取り付けられていることが多い。
【0004】
ところで、近年、ステアリングホイールには、車両衝突時等に乗員を保護するためのエアバッグ装置が搭載されるようになっている。かかるエアバッグ装置は、ステアリングホイールの内部空間の多くを占有することから、特許文献1に記載したようなダイナミックダンパを配置することが難しくなっている。そこで、インフレータを、ダンパゴムを介して支持することで、ダイナミックダンパのダンパマスとして機能させる制振構造が既に提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、エアバッグと、前記エアバッグにガスを供給するインフレータとを有するエアバッグ装置が設けられたステアリングホイールに適用され、前記インフレータを、同インフレータの車両前方側に配設された支持部材に対しダンパゴムを介して支持することで、ダイナミックダンパのダンパマスとして機能させるようにしたステアリングホイールの制振構造であって、前記ダンパゴムは、円筒状又は円錐筒状をなし、かつ自身の中心軸線が前後方向に延びるように前記インフレータ及び前記支持部材間に配置されたダンパ本体と、前記中心軸線に沿う方向の一方の端面を基端面として有し、前記基端面を前記インフレータ及び前記支持部材の一方に接触又は接近させた状態で、前記ダンパ本体の外周面の周方向についての一部から外方へ突出するリブとを備えたものが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1及び特許文献2に記載されたダンパは、通常、ゴム製の弾性体によって構成されており、ゴムの弾性力を利用して振動を減衰させている。かかるゴムの性質のみを利用した場合、所定の減衰性能を発揮させるために、ダンパのマス(質量体)が大きくなったり、特定の周波数(例えば、共振周波数)に合わせたチューニングが難しくなったりしてしまうという問題があった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、減衰性能を向上させることができるとともに、ダンパの小型化及びチューニングの容易化を図ることができるハイブリッドダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、制振対象物に対して相対移動可能に接続される支柱と、該支柱に挿通可能な挿通孔を有する
複数枚のゴム製の板状弾性体と、該板状弾性体の前記支柱の軸方向移動を規制するストッパと、を備え、前記板状弾性体は、前記支柱の相対移動時に摩擦力を発生させる摩擦発生部を
有するとともに、それぞれ前記挿通孔の径が異なる大きさとなるように形成されており、前記板状弾性体の弾性力及び前記摩擦発生部の摩擦力を利用することによって前記制振対象物の振動を減衰させる、ことを特徴とするハイブリッドダンパが提供される。
【0010】
前記板状弾性体は、前記支柱の外周に沿って配置される円筒形状の軸部と、該軸部の外周に配置される縁部と、前記軸部と前記縁部とを連結する薄肉部と、を有し、前記摩擦発生部は、前記軸部又は前記縁部の表面によって構成されていてもよい。
【0012】
前記制振対象物は、前記支柱を挿通して固定するための挿通孔を有し、該挿通孔は、挿通される前記支柱よりも大きな径を有していてもよいし、前記支柱の先端側に向かって拡径していてもよい。また、前記制振対象物は、例えば、ステアリングホイールである。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明に係るハイブリッドダンパによれば、制振対象物に対して支柱を相対移動可能に接続するとともに、該支柱に弾性力を有する板状弾性体を配置して挟持することによって、制振対象物の振動時に前記支柱を相対移動させることができ、それに伴って板状弾性体を制振対象物に対して相対的に摺動させることができ、摩擦力を発生させることができ、制振対象物の振動を減衰させることができる。
【0014】
また、板状弾性体はゴム製であることから、ゴムの弾性力によっても制振対象物の振動を減衰させることができる。したがって、従来の弾性力のみのダンパと比較して、弾性力に加えて摩擦力も利用するようにしたことにより、減衰性能を向上させることができる。その結果、ダンパの小型化を図ることができ、調整要素(弾性力及び摩擦力)の増加によりチューニングの容易化を図ることもできる。
【0015】
また、板状弾性体を軸部、縁部及び薄肉部によって構成することにより、軸部と縁部との間でゴムの弾性力を利用したバネ部を形成することができ、減衰機能を向上させることができる。
【0016】
また、板状弾性体を支柱に複数枚挿通して積層することにより、摩擦発生部を複数形成することができ、振動の減衰に寄与する摩擦力を効果的に発生させることができる。
【0017】
また、複数枚の板状弾性体を積層した場合に、挿通孔の径を異なる大きさに形成することにより、支柱が振動した際に、各板状弾性体を挿通孔の径の大きさに合わせて個別に移動させることができ、各板状弾性体を相対移動させることができ、摩擦力を発生させ易くすることができる。
【0018】
また、制振対象物に形成された支柱の挿通孔を支柱よりも大きく形成することにより、制振対象物に対して支柱を相対移動(振動)させることができ、制振対象物に形成された支柱の挿通孔を拡径させることによって、制振対象物に対して支柱を相対移動(揺動)させることができる。
【0019】
また、制振対象物をステアリングホイールとすることにより、ステアリングホイールの振動を効果的に減衰させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について
図1〜
図6を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の第一実施形態に係るハイブリッドダンパを有するステアリングホイールを示す部品展開図である。
図2は、
図1に示したハイブリッドダンパの詳細説明図であり、(A)は拡大部分断面図、(B)は右方向移動時、(C)は左方向移動時、を示している。
【0022】
本発明の第一実施形態に係るハイブリッドダンパ1は、
図1及び
図2に示したように、制振対象物Sに対して相対移動可能に接続される支柱2と、支柱2に挿通可能な挿通孔31a,32a,33aを有するゴム製の板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)と、板状弾性体3の支柱2の軸方向移動を規制するストッパ4と、を備え、板状弾性体3は、支柱2の相対移動時に摩擦力を発生させる摩擦発生部Fを有し、板状弾性体3の弾性力及び摩擦発生部Fの摩擦力を利用することによって制振対象物Sの振動を減衰させるように構成されている。
【0023】
制振対象物Sは、例えば、ステアリングホイールである。図示したステアリングホイールは、エアバッグモジュールを搭載したものである。エアバッグモジュールは、例えば、通常時は折り畳まれており緊急時にガスが供給されて膨張展開するエアバッグ91と、エアバッグ91にガスを供給するインフレータ92と、エアバッグ91及びインフレータ92を収容するリテーナ93と、エアバッグ91及びインフレータ92をリテーナ93に接続するバッグリング94と、折り畳まれたエアバッグ91を覆い隠すモジュールカバー95と、により構成されている。なお、説明の便宜上、
図1ではエアバッグ91の固定部分のみを図示し、エアバッグ91の他の部分を省略している。
【0024】
かかるエアバッグモジュールを備えたステアリングホイールでは、インフレータ92を、本実施形態に係るハイブリッドダンパ1を介して支持することで、ダイナミックダンパのダンパマスとして機能させる制振構造を有していてもよい。
【0025】
支柱2は、ネジ溝を有する胴部21と、胴部21の端部に配置され拡径した頭部22と、を有するボルトにより構成され、インフレータ92をリテーナ93に接続する部品を兼用している。例えば、インフレータ92の四隅には、支柱2の頭部21を挿通するための挿通孔92aが形成されており、エアバッグ91、リテーナ93及びバッグリング94の対応する位置には、それぞれ挿通孔91a,93a,94aが形成されている。そして、リテーナ93、板状弾性体3、インフレータ92、エアバッグ91、バッグリング94の順に配置して、バッグリング94側から各挿通孔94a,91a,92aに支柱2の胴部21を挿通し、リテーナ93側からナット23を胴部21に螺合させることによって、インフレータ92、エアバッグ91、バッグリング94及び板状弾性体3をリテーナ93に接続することができる。なお、板状弾性体3の構造については後述する。
【0026】
ここで、頭部22を有する胴部21にナット23を螺合させることにより、板状弾性体3、インフレータ92、エアバッグ91及びバッグリング94の軸方向移動を規制することができる。すなわち、支柱2の頭部22及びナット23が、上述したストッパ4を構成している。
【0027】
板状弾性体3は、例えば、
図1に示したように、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33の三枚のゴムダンパにより構成される。これらの板状弾性体3を構成するゴムは、例えば、シリコンゴム、エチレン・プロピレンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム等の耐熱性、耐寒性、耐候性等に優れたものが使用される。
【0028】
板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)は、リテーナ93の凹部93bに収容可能な形状を有し、例えば、凹部93bの外形に沿った矩形形状に形成される。また、板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)の四隅には、インフレータ92の挿通孔92aと対応する位置に挿通孔31a,32a,33aがそれぞれ形成されている。さらに、板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)の中央部には、インフレータ92を挿通する開口部31i,32i,33iがそれぞれ形成されている。
【0029】
また、リテーナ93の凹部93bの内側面の一部には、突起93cが形成されており、リテーナ93と接する第三板状弾性体33の外周部には、突起93cと係合可能な切欠部33kが形成されている。ハイブリッドダンパ1の取り付け時に切欠部33kと突起93cとを係合させることにより、インフレータ92の回り止めを構成することができる。なお、インフレータ92の回り止めが不要な場合は、第三板状弾性体33を省略するようにしてもよい。
【0030】
このように、リテーナ93の凹部93bに、複数枚の板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)を積層してインフレータ92を支持するようにしたことにより、支柱2に沿って円筒形状の弾性体を配置した従来技術で生じていたインフレータ92とリテーナ93との隙間を、板状弾性体3のフレームで埋めることができ、ガスの漏れを抑制することができる。
【0031】
次に、支柱2周りの板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)の構成について、
図2(A)〜(C)を参照しつつ説明する。
図2(A)は、支柱2周りの部分のみを示す断面図である。
図2(A)に示したように、支柱2には、図の上側から順に、バッグリング94、エアバッグ91、インフレータ92、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33、リテーナ93が挿通されており、支柱2の先端にはナット23が螺合されている。このナット23の締め付け具合によって、板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)にかかる負荷を調整することができ、きつく締めれば摩擦力を高くすることができ、ゆるく締めれば摩擦力を低くすることができる。
【0032】
板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32)は、支柱2の外周に沿って配置される円筒形状の軸部31b,32bと、軸部31b,32bの外周に配置される縁部31c,32cと、軸部31b,32bと縁部31c,32cとを連結する薄肉部31d,32dと、を有し、摩擦発生部Fは、軸部31b,32b又は縁部31c,32cの表面によって構成されている。薄肉部31d,32dは、軸部31b,32bの一面側と縁部31c,32cの他面側とを接続するように環状に形成されており、板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32)の部分断面形状はN字形状又は逆N字形状に形成されている。
【0033】
なお、薄肉部31d,32dは、軸部31b,32bと縁部31c,32cとを略平行に連結する一つ又は複数の環状部材に構成されていてもよく、この場合の板状弾性体3の部分断面形状はH字形状、口字形状、日形状等を有することとなる。
【0034】
このように、板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32)の軸部31b,32bと縁部31c,32cとを薄肉部31d,32dで連結することにより、軸部31b,32bと縁部31c,32cとの間でバネ機構を形成することができる。したがって、本実施形態における板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32)では、素材そのものの弾性力に加えてバネ機構による弾性力も振動の減衰に作用させることができる。このバネ機構は、薄肉部31d,32dの材質、厚さ、長さ等によって任意にバネ定数を調整することができる。
【0035】
摩擦発生部Fは、
図2(A)において破線で囲んだように、例えば、第一板状弾性体31の軸部31bと第二板状弾性体32の軸部32bとの接触面、第二板状弾性体32の軸部32bと第三板状弾性体33との接触面、第三板状弾性体33とリテーナ93との接触面により構成される。
【0036】
ここで、第二板状弾性体32の縁部32cの上下面については、隣接する第一板状弾性体31及び第三板状弾性体33と接触させないようにすることが好ましい。第二板状弾性体32の縁部32cの全面を第一板状弾性体31及び第三板状弾性体33と接触させた場合には、摩擦力が大きくなり過ぎてしまうためである。ただし、必要な摩擦力の大きさに応じて、第二板状弾性体32の縁部32cの一部又は全面を第一板状弾性体31及び第三板状弾性体33と接触させるようにしてもよい。なお、同様の理由により、第一板状弾性体31の縁部31cについても、インフレータ92のフランジ部と接触させないようにしてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、インフレータ92をダンパマスとして使用していることから、インフレータ92の振動(図の左右方向への移動)に合わせて支柱2を移動させる必要がある。具体的には、リテーナ93の挿通孔93aは、支柱2の径よりも大きく形成されている。すなわち、制振対象物S(ステアリングホイールに固定されるリテーナ93を含む)は、支柱2を挿通して固定するための挿通孔93aを有し、挿通孔93aは、挿通される支柱2よりも大きな径を有していることとなる。
【0038】
また、
図2(A)に示したように、リテーナ93の挿通孔93a、第三板状弾性体33の挿通孔33a、第二板状弾性体32の挿通孔32a、第一板状弾性体31の挿通孔31aの径の大きさは、徐々に小さくなるように形成されており、第一板状弾性体31の挿通孔31aは支柱2と隙間なく挿通されるように形成されている。したがって、複数枚挿通された板状弾性体3(第一板状弾性体31、第二板状弾性体32、第三板状弾性体33)は、それぞれ挿通孔31a,32a,33aの径が異なる大きさとなるように形成されている。かかる構成により、支柱2が左右方向に移動する際に、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33を左右方向に相対移動させることができ、摩擦発生部Fにおいて摩擦力を発生させることができる。
【0039】
なお、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33を同一の素材により構成した場合、圧力や熱の影響によって貼り付いてしまい、固着してしまって相対移動できなくなってしまう可能性がある。そこで、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33は、隣接する板状弾性体3と異なる素材によって構成されていることが好ましい。
【0040】
ここで、上述したハイブリッドダンパ1の作用について、
図2(B)及び(C)を参照しつつ説明する。
図2(B)はインフレータが図の右方向に移動した場合を示しており、
図2(C)はインフレータが図の左方向に移動した場合を示している。この右方向及び左方向の移動を繰り返すことによってインフレータ92が振動し、制振対象物S(ステアリングホイールに固定されるリテーナ93を含む)に対して相対移動する。
【0041】
図2(A)に示した状態からインフレータ92が図の右方向に移動を開始すると、インフレータ92のフランジ部に挿通された支柱2は、その先端部がリテーナ93に遊嵌状に挿通されナット23によってリテーナ93に接続されていることから、インフレータ92の移動とともに右方向に移動することとなる。そして、第一板状弾性体31の挿通孔31aは支柱2と隙間なく挿通されていることから、第一板状弾性体31も支柱2とともに右方向に移動することとなる。
【0042】
このとき、支柱2は、第二板状弾性体32の挿通孔32aに遊嵌状に挿通されていることから、第二板状弾性体32は支柱2により直接的に押圧されない状態になっている。したがって、第一板状弾性体31は、第二板状弾性体32に対して相対的に右方向に移動することとなり、第一板状弾性体31の軸部31bの下面と第二板状弾性体32の軸部32bの上面とが摺動することとなり、左方向に摩擦力が発生する。
【0043】
そして、支柱2が一定距離だけ右方向に移動すると、支柱2は第二板状弾性体32に接触し右方向に押圧し、第二板状弾性体32を右方向に移動させる。このとき、支柱2は、第三板状弾性体33の挿通孔33aに遊嵌状に挿通されていることから、第三板状弾性体33は支柱2により直接的に押圧されない状態になっている。したがって、第二板状弾性体32は、第三板状弾性体33に対して相対的に右方向に移動することとなり、第二板状弾性体32の軸部32bの下面と第三板状弾性体33の上面とが摺動することとなり、左方向に摩擦力が発生する。
【0044】
さらに、支柱2が一定距離だけ右方向に移動すると、支柱2は第三板状弾性体33と接触し、第三板状弾性体33はリテーナ93に対して相対的に右方向に移動することとなる。したがって、第三板状弾性体33の下面とリテーナ93の上面とが摺動することとなり、左方向に摩擦力が発生する。最終的に、支柱2がリテーナ93の挿通孔93aに到達すると右方向への移動が停止し、
図2(B)に示した状態となる。
【0045】
次に、
図2(B)に示した状態からインフレータ92が図の左方向に移動を開始すると、インフレータ92のフランジ部に挿通された支柱2は、インフレータ92の移動とともに左方向に移動することとなる。そして、第一板状弾性体31の挿通孔31aは支柱2と隙間なく挿通されていることから、第一板状弾性体31も支柱2とともに左方向に移動することとなる。
【0046】
そして、支柱2が一定距離だけ左方向に移動すると、支柱2は第二板状弾性体32に接触し、第二板状弾性体32を左方向に移動させることになる。さらに、支柱2が一定距離だけ左方向に移動すると、支柱2は第三板状弾性体33に接触し、第三板状弾性体33を左方向に移動させることになる。また、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33は、リテーナ93の凹部93bの側壁によって左方向の移動が規制されていることから、支柱2が左方向に移動して、
図2(C)の状態になった場合には、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33は、支柱2とリテーナ93の凹部93bの側壁によって圧縮されることになる。
【0047】
第一板状弾性体31及び第二板状弾性体32は、薄肉部31d,32dによってバネ機構が形成されていることから、素材そのものの弾性力に加えてバネ機構による弾性力も作用して振動を減衰させる。さらに、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33は、右方向への移動の場合と同様に相対的に移動することから、第一板状弾性体31の軸部31bの下面と第二板状弾性体32の軸部32bの上面との間、第二板状弾性体32の軸部32bの下面と第三板状弾性体33の上面との間、第三板状弾性体33の下面とリテーナ93の上面との間でそれぞれ右方向への摩擦力を発生し、振動を減衰させる。
【0048】
なお、リテーナ93の外周部は、支柱2が左方向に移動した場合に、リテーナ93の凹部93bの側壁に衝突しないように、
図2(A)に示したように、一定の隙間を設けておくことが好ましい。
【0049】
上述した本実施形態に係る弾性力と摩擦力を併用したハイブリッドダンパ1によれば、制振対象物Sに対して支柱2を相対移動可能に接続するとともに、支柱2に弾性力を有する板状弾性体3を配置して挟持することによって、制振対象物Sの振動時に支柱2を相対移動させることができ、それに伴って板状弾性体3を制振対象物Sに対して相対的に摺動させることができ、摩擦力を発生させることができ、制振対象物Sの振動を減衰させることができる。
【0050】
また、板状弾性体3はゴム製であることから、ゴムの弾性力によっても制振対象物Sの振動を減衰させることができる。したがって、従来の弾性力のみのダンパと比較して、弾性力に加えて摩擦力も利用するようにしたことにより、減衰性能を向上させることができる。その結果、ダンパの小型化を図ることができ、調整要素(弾性力及び摩擦力)の増加によりチューニングの容易化を図ることもできる。
【0051】
次に、上述した第一実施形態に係るハイブリッドダンパ1の変形例について、
図3を参照しつつ説明する。ここで、
図3は、第一実施形態に係るハイブリッドダンパの変形例を示す図であり、(A)は拡大部分断面図、(B)は右方向移動時、(C)は左方向移動時、を示している。なお、上述した第一実施形態と同じ構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0052】
図3(A)〜(C)に示した第一実施形態の変形例は、第一実施形態における第一板状弾性体31及び第二板状弾性体32の薄肉部31d,32dを省略したものである。すなわち、かかる変形例において、第一板状弾性体31及び第二板状弾性体32は、第一実施形態の第三板状弾性体33と同様に平板状に形成されている。また、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33の挿通孔31a,32a,33aは、リテーナ93側からインフレータ92のフランジ部側に向かって径が大きくなるように形成されている。
【0053】
かかる構成によっても、
図3(B)及び(C)に示したように、上述した第一実施形態に係るハイブリッドダンパ1と同様の原理によって、第一板状弾性体31、第二板状弾性体32及び第三板状弾性体33は、リテーナ93に対して互いに相対移動し、各板状弾性体3の接触面において摩擦力を発生させることができるとともに、リテーナ93の凹部93bの側壁によって弾性力を生じ、振動を減衰させることができる。
【0054】
次に、本発明の第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1について、
図4及び
図5を参照しつつ説明する。ここで、
図4は、本発明の第二実施形態に係るハイブリッドダンパを有するステアリングホイールを示す図であり、(A)は平面図、(B)は部品展開断面図、である。
図5は、
図4に示したハイブリッドダンパの詳細説明図であり、(A)は拡大部分断面図、(B)は右方向移動時、(C)は左方向移動時、を示している。
【0055】
制振対象物Sは、上述した第一実施形態と同様に、ステアリングホイールである。第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1は、ステアリングホイールの芯金96に取り付けられる。より具体的には、芯金96は、ステアリングシャフトに接続されるステアリングホイールの中央部に平板部を有し、第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1は、この芯金96の平板部上に取り付けられる。なお、ここでは、芯金96の平板部の上面側にハイブリッドダンパ1を取り付けているが、下面側に取り付けるようにしてもよい。
【0056】
図4(A)及び(B)に示したように、芯金96の挿通孔96aに挿通される支柱2と、支柱2の胴部21に挿通される挿通孔3aを有する矩形形状の板状弾性体3と、板状弾性体3の軸方向移動を規制するストッパ4と、により構成されている。支柱2は、芯金96の下面側から挿通孔96aに挿通され、頭部22を芯金96の下面に接触させることによって位置決めされる。板状弾性体3は、挿通孔3aに挿通された支柱2の胴部21にナット23を螺合させることによって、芯金96の上面に接続される。したがって、板状弾性体3は、支柱2の頭部22及びナット23によって軸方向移動が規制され、これらがストッパ4を構成することとなる。
【0057】
図5(A)に示したように、制振対象物Sであるステアリングホイール(骨格を形成する芯金96を含む)は、支柱2を挿通して固定するための挿通孔96aを有し、挿通孔96aは、支柱2の先端側(支柱2の頭部22の反対側)に向かって拡径している。すなわち、挿通孔96aは略円錐面を有している。かかる挿通孔96aに支柱2を挿通した場合、挿通孔96aの傾斜面に沿って支柱2を傾斜させることができ、制振対象物Sに対して相対移動させることができる。
【0058】
また、板状弾性体3は、支柱2の外周に沿って配置される円筒形状の軸部3bと、軸部3bの外周に配置される縁部3cと、軸部3bと縁部3cとを連結する薄肉部3dと、を有し、摩擦発生部Fは、軸部3b及び縁部3cの下面によって構成されている。また、第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1は、板状弾性体3をダンパマスとして制振対象物Sの振動を減衰させるものである。そのため、板状弾性体3の縁部3cの内部には、鉄や鉛によって構成される質量体3eが配置されている。かかる板状弾性体3は、芯金96の挿通孔96aに挿通された支柱2の胴部21に挿通孔3aが挿通され、ナット23を締め付けることによって、軸部3bを芯金96の表面に押し付けられている。
【0059】
図5(B)に示したように、支柱2が図の右方向に揺動した場合、支柱2は板状弾性体3を押圧し右方向に移動させる。このとき、板状弾性体3の縁部3cには質量体3eが配置されていることから、素材(ゴム)の弾性力だけでなく、薄肉部3dにおけるバネ機構により弾性力が付与され、板状弾性体3は制振対象物Sの振動を減衰させる。また、軸部3bはナット23により芯金96の表面に押し付けられていることから、板状弾性体3が右方向に移動する際に変形しながら右方向に摺動し、板状弾性体3の軸部3b及び縁部3cは芯金96との接触面において左方向に摩擦力を生じる。したがって、第二実施形態に係る板状弾性体3は、弾性力と摩擦力の両方によって制振対象物Sの振動を減衰させることができる。
【0060】
また、
図5(C)に示したように、支柱2が図の左方向に揺動した場合にも、上述した右方向への揺動の場合と同様の作用により、弾性力と摩擦力の両方によって制振対象物Sの振動を減衰させることができる。
【0061】
次に、上述した第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1の変形例について、
図6を参照しつつ説明する。ここで、
図6は、第二実施形態に係るハイブリッドダンパの変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、を示している。なお、上述した第二実施形態と同じ構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0062】
図6(A)に示した第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1の第一変形例は、芯金96の挿通孔96aを円筒面により形成したものである。かかる第一変形例における挿通孔96aは、支柱2の胴部21の径よりも大きく形成されており、支柱2が左右に振動できるように構成されている。かかる構成によっても、上述した第一実施形態と同様に、弾性力と摩擦力の両方によって制振対象物Sの振動を減衰させることができる。
【0063】
図6(B)に示した第二実施形態に係るハイブリッドダンパ1の第二変形例は、板状弾性体3を複数の板状体によって構成したものである。図示した板状弾性体3は、芯金96の上面側に配置された下部板状弾性体34と、ナット23側に配置された上部板状弾性体35と、を有し、下部板状弾性体34と上部板状弾性体35との間には、ダンパマスを構成する板状質量体36が配置されている。
【0064】
板状質量体36の挿通孔36aは支柱2の胴部21の径と略同じ大きさに形成されており、支柱2の揺動に伴って移動できるように構成されている。また、下部板状弾性体34及び上部板状弾性体35の挿通孔34a,35aは支柱2の胴部21の径よりも大きく形成されており、板状質量体36に対して相対移動できるように構成されている。かかる構成によれば、下部板状弾性体34と板状質量体36との間、上部板状弾性体35と板状質量体36との間、下部板状弾性体34と芯金96との間の接触面において摩擦力を発生させることができる。
【0065】
上述した第一実施形態、第二実施形態及びこれらの変形例に係るハイブリッドダンパ1において、摩擦力は、接触面積の大きさ、接触面の表面粗さ、材質の種類、ナット23の締付力等によって任意に調整することができる。また、上述した第一実施形態に係るハイブリッドダンパ1において、第一板状弾性体31の薄肉部31dにより構成されるバネ機構の弾性力は、インフレータ92の質量から計算又は実験により設定することが好ましい。さらに、第二板状弾性体32の薄肉部32dにより構成されるバネ機構の弾性力は、第一板状弾性体31の薄肉部31dにより構成されるバネ機構の弾性力に第一板状弾性体31と第二板状弾性体32との接触面で生じる摩擦力を加えた数値よりも大きく設定することが好ましい。
【0066】
本発明は上述した実施形態に限定されず、制振対象物Sはステアリングホイール以外の物品であってもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。