(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
二次元状に配列されたN個(Nは自然数)の領域を含む変調面に入射した光像の位相を空間的に変調する空間光変調器と、前記N個の領域に各々対応するN個のレンズが二次元状に配列されたレンズアレイ、並びに該レンズアレイによって形成されたM個(Mは自然数であり、M≦N)の集光スポットを含む光強度分布を検出する光検出素子を有し、前記空間光変調器から変調後の前記光像を受ける波面センサとを備え、前記空間光変調器に表示される位相パターンを、前記光強度分布から得られる前記光像の波面形状に基づいて制御することにより波面歪みを補償する補償光学システムにおいて、前記波面歪みの補償を実行中に、前記空間光変調器の前記領域と、前記波面センサに形成される前記集光スポットとの対応関係を特定する方法であって、
前記空間光変調器の前記N個の領域のうちの特定対象領域に、波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で、前記光検出素子により前記光強度分布を検出する第1検出ステップと、
前記第1検出ステップの前又は後に、空間的に非線形な位相パターンを前記特定対象領域に表示させた状態で、前記光検出素子により前記光強度分布を検出する第2検出ステップと、
前記第1検出ステップと前記第2検出ステップとの間の前記光強度分布の変化に基づいて、前記M個の集光スポットのうち前記特定対象領域に対応する集光スポットを特定する第1特定ステップと
を備えることを特徴とする、補償光学システムの対応関係特定方法。
波面歪み補償用の位相パターンを前記特定対象領域に表示させ、空間的に非線形な位相パターンを前記特定対象領域とは別の特定対象領域に表示させた状態で、前記光検出素子により前記光強度分布を検出する第3検出ステップと、
前記第2検出ステップと前記第3検出ステップとの間の前記光強度分布の変化に基づいて、前記別の特定対象領域に対応する集光スポットを特定する第2特定ステップと
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の補償光学システムの対応関係特定方法。
前記第1検出ステップにおいて、前記N個の領域全てに波面歪み補償用の位相パターンを表示させることを特徴とする、請求項1または2に記載の補償光学システムの対応関係特定方法。
前記第2検出ステップにおいて検出された前記光強度分布から得られる前記波面形状に基づいて波面歪みを補償することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の補償光学システムの対応関係特定方法。
前記第2検出ステップにおいて前記特定対象領域に表示される空間的に非線形な位相パターンが、位相の大きさの分布が不規則であるランダム分布を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の補償光学システムの対応関係特定方法。
前記第2検出ステップにおいて前記特定対象領域に表示される空間的に非線形な位相パターンが、前記集光スポットを拡径するデフォーカス分布を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の補償光学システムの対応関係特定方法。
前記空間光変調器の前記N個の領域のうち互いに隣接しない複数の領域を前記特定対象領域に設定することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の補償光学システムの対応関係特定方法。
二次元状に配列されたN個(Nは自然数)の領域を含む変調面に入射した光像の位相を空間的に変調する空間光変調器と、前記N個の領域に各々対応するN個のレンズが二次元状に配列されたレンズアレイ、並びに該レンズアレイによって形成されたM個(Mは自然数であり、M≦N)の集光スポットを含む光強度分布を検出する光検出素子を有し、前記空間光変調器から変調後の前記光像を受ける波面センサと、前記空間光変調器に表示される位相パターンを、前記光強度分布から得られる前記光像の波面形状に基づいて制御することにより波面歪みを補償する制御部とを備える補償光学システムにおいて、前記波面歪みの補償を実行中に、前記空間光変調器の前記領域と、前記波面センサに形成される前記集光スポットとの対応関係を前記制御部に特定させるためのプログラムであって、
前記空間光変調器の前記N個の領域のうちの特定対象領域に、波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で、前記光検出素子により前記光強度分布を検出する第1検出ステップと、
前記第1検出ステップの前又は後に、空間的に非線形な位相パターンを前記特定対象領域に表示させた状態で、前記光検出素子により前記光強度分布を検出する第2検出ステップと、
前記第1検出ステップと前記第2検出ステップとの間の前記光強度分布の変化に基づいて、前記M個の集光スポットのうち前記特定対象領域に対応する集光スポットを特定する第1特定ステップと
を備えることを特徴とする、補償光学システム用プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補償光学技術は、波面センサを用いて光学的な収差(波面歪み)を計測し、その結果を基に波面変調素子(空間光変調器)を制御することで動的に収差を除去する技術である。この補償光学技術によって、結像特性や集光度、画像のSN比、計測精度を向上させることができる。従来、補償光学技術は、主として天体望遠鏡や大型レーザ装置に使われていた。近年になって、補償光学技術は、眼底カメラ、走査型レーザ検眼鏡、光干渉断層装置、レーザ顕微鏡などにも応用されつつある。このような補償光学技術を用いたイメージングは、従来にない高い分解能での観察を可能にする。例えば、眼の奥(眼底)を観察する眼底イメージング装置に補償光学技術を適用することによって、眼球による収差が除去され、例えば視細胞、神経繊維、毛細血管といった眼底の微細構造を鮮明に描出することができる。眼疾患だけでなく、循環器系疾病の早期診断にも応用することができる。
【0005】
上記のような補償光学技術を実現するための補償光学システムは、空間光変調器、波面センサ、及びこれらを制御する制御装置によって主に構成される。そして、波面センサとして、例えば二次元状に配列された複数のレンズを備え、各レンズによって形成される集光スポットの基準位置からの位置ずれに基づいて、波面を計測する方式のもの(いわゆるシャックハルトマン型波面センサ)が好適に用いられる。
【0006】
このような補償光学システムでは、波面センサの複数のレンズと、検出された複数の集光スポットとの対応関係を正確に知ることが重要である。
図22は、或る波面Wを有する光像が波面センサに入射したときの、複数のレンズ101と複数の集光スポットPとの対応関係について説明するための図である。
図22(a)に示されるように、波面Wの収差が小さい場合、各集光スポットPの位置ずれ量が小さいため、複数のレンズ101と対向する検出面103上の複数の領域104の内部に、対応するレンズ101により形成された集光スポットPが位置することとなる。この場合、波面Wの収差がゼロであるときに形成されるべき集光スポットの位置、すなわち基準位置と、該基準位置と同じ領域104内に形成された集光スポットPの位置との距離(位置ずれ量)に基づいて、当該領域における収差が算出される。
【0007】
しかしながら、
図22(b)に示されるように、波面Wの収差が大きい場合、次の問題が生じる。すなわち、このような場合には集光スポットPの位置ずれ量が大きくなるので、該集光スポットPを形成しているレンズ101に対向する領域104の外に、該集光スポットPが位置する場合がある。したがって、或る領域104には集光スポットPが存在せず、また別の領域104には複数の集光スポットPが存在するといった状況が生じてしまう。また、
図22(c)に示されるように、波面Wが大きく傾斜している場合には、各レンズ101により形成される集光スポットPが、各レンズ101に対向する領域104に隣接する領域104内に位置する場合がある。
【0008】
図22(b)や
図22(c)に例示されたような状況下では、集光スポットPとレンズ101との対応関係が不明確となるので、その集光スポットPの位置に基づいて制御されるべき空間光変調器の変調面上の領域を特定することが困難となる。したがって、波面歪み補償の精度が低下するか、或いは、補償可能な波面歪みの大きさが制限されてしまう。例えば眼底イメージング装置に補償光学システムを適用する場合には、眼球による収差が測定対象者毎に大きく異なる場合があり、また、眼球の位置や、近視若しくは遠視を補正するための光学系の位置によっては、収差が大きくなる場合がある。それらの場合には、上記の問題が顕在化することとなる。
【0009】
なお、特許文献1に記載された方式では、次の問題がある。特許文献1には、波面センサの複数のレンズを通る光のそれぞれに特徴を付加する方式として、各レンズに対応する領域毎に厚さが異なる光学板をレンズの前方に配置する方式、各レンズに対応する領域毎に透過率が異なる光学板をレンズの前方に配置する方式、及び液晶シャッタをレンズの前方に配置する方式が示されている。しかし、これらの方式では、被計測光の光路上に光学板等を新たに配置することとなり、部品点数が増加してしまう。また、光学板等を通過する際に被計測光に損失が生じるため、波面検出精度が低下するおそれがある。また、仮に、光学板等を必要に応じて挿抜し得る機構を設けたとしても、レンズとの相対位置を調整することは難しく、装置も大型化してしまう。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、被計測光の損失の増加を抑制しつつ、簡易な構成でもって、波面センサの集光スポットと、その位置に基づいて制御されるべき空間光変調器の変調面上の領域との対応関係を正確に特定して、より大きな波面歪みを精度良く補償することが可能な補償光学システムの対応関係特定方法、補償光学システム、および補償光学システム用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明による補償光学システムの対応関係特定方法は、二次元状に配列されたN個(Nは自然数)の領域を含む変調面に入射した光像の位相を空間的に変調する空間光変調器と、N個の領域に各々対応するN個のレンズが二次元状に配列されたレンズアレイ、並びに該レンズアレイによって形成されたM個(Mは自然数であり、M≦N)の集光スポットを含む光強度分布を検出する光検出素子を有し、空間光変調器から変調後の光像を受けて、光強度分布に基づいて該光像の波面形状を計測する波面センサとを備え、空間光変調器に表示される位相パターンを波面形状に基づいて制御することにより波面歪みを補償する補償光学システムにおいて、波面歪みの補償を実行中に、空間光変調器の領域と、波面センサに形成される集光スポットとの対応関係を特定する方法であって、空間光変調器のN個の領域のうちの特定対象領域に、波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で、光検出素子により光強度分布を検出する第1検出ステップと、第1検出ステップの前又は後に、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に表示させた状態で、光検出素子により光強度分布を検出する第2検出ステップと、第1検出ステップと第2検出ステップとの間の光強度分布の変化に基づいて、M個の集光スポットのうち特定対象領域に対応する集光スポットを特定する第1特定ステップとを備える。
【0012】
上記の方法では、空間光変調器及び波面センサを備える補償光学システムにおいて、第1検出ステップとして、空間光変調器の特定対象領域に波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で、波面センサの光検出素子において光強度分布を検出する。この第1検出ステップでは、特定対象領域に対応する集光スポットが、光検出素子上の何処かの位置に形成される。また、その前又は後に、第2検出ステップとして、上記特定対象領域に空間的に非線形な位相パターンを表示させた状態で、波面センサの光検出素子において光強度分布を検出する。この第2検出ステップでは、特定対象領域に表示された非線形の位相パターンによって光が拡散し、特定対象領域に対応する集光スポットが形成されないか、或いはその光強度が微弱となる。
【0013】
その後、第1特定ステップにおいて、第1検出ステップ及び第2検出ステップのそれぞれにおいて得られた光強度分布を相互に比較すると、第1検出ステップで得られた光強度分布には特定対象領域に対応する集光スポットが明瞭に存在するが、第2検出ステップで得られた光強度分布には特定対象領域に対応する集光スポットが存在しないか、集光スポットの明瞭さが第1検出ステップと比較して各段に劣ることとなる。したがって、第1検出ステップと第2検出ステップとの間の光強度分布の変化に基づいて、特定対象領域に対応する集光スポットを正確に特定することができる。
【0014】
このように、上記の対応関係特定方法によれば、波面センサの集光スポットと、該集光スポットの位置から算出される収差に基づいて制御されるべき空間光変調器の変調面上の領域との対応関係を正確に特定することができる。したがって、より大きな波面歪みを精度良く補償することが可能となる。また、上記の対応関係特定方法によれば、特許文献1に記載された構成のように光学板等の新たな部品を追加する必要がないので、部品点数の増加を抑制できるとともに、被計測光の損失の増加を抑制して波面検出精度を維持することができる。
【0015】
また、補償光学システムの対応関係特定方法は、波面歪み補償用の位相パターンを特定対象領域に表示させ、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域とは別の特定対象領域に表示させた状態で、光検出素子により光強度分布を検出する第3検出ステップと、第2検出ステップと第3検出ステップとの間の光強度分布の変化に基づいて、別の特定対象領域に対応する集光スポットを特定する第2特定ステップとを更に備えるとよい。このような方法によれば、空間的に非線形な位相パターンを空間光変調器の複数の領域に順次表示させながら、各領域と集光スポットとの対応関係を効率良く特定することができる。
【0016】
また、補償光学システムの対応関係特定方法は、第1検出ステップにおいて、N個の領域全てに波面歪み補償用の位相パターンを表示させてもよい。このような方法であっても、空間光変調器の特定対象領域と集光スポットとの対応関係を好適に特定することができる。
【0017】
また、補償光学システムの対応関係特定方法は、第2検出ステップにおいて検出された光強度分布から得られる波面形状に基づいて波面歪みを補償してもよい。すなわち、この方法では、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に表示させた状態で計測された波面形状に基づいて、波面歪みを補償する。この場合、特定対象領域には波面歪み補償用の位相パターンは表示されないが、特定対象領域を空間光変調器のN個の領域のうち僅かな部分に限定することにより、特定対象領域による影響を抑えて波面歪みを十分に補償することができる。また、この場合、空間光変調器に表示させる位相パターンを算出する際に、計測された波面形状のうち特定対象領域に対応する部分を除いたものを用いるとよい。
【0018】
また、補償光学システムの対応関係特定方法は、第2検出ステップにおいて特定対象領域に表示される空間的に非線形な位相パターン(すなわち、空間的に非線形な位相プロファイルを有する位相パターン)が、位相の大きさの分布が不規則であるランダム分布を含んでもよい。或いは、補償光学システムの対応関係特定方法は、第2検出ステップにおいて特定対象領域に表示される空間的に非線形な位相パターンが、集光スポットを拡径するデフォーカス分布を含んでもよい。これらのうち何れかの分布を位相パターンが含むことにより、空間的に非線形な位相パターンを好適に実現することができる。
【0019】
また、補償光学システムの対応関係特定方法は、空間光変調器のN個の領域のうち互いに隣接しない複数の領域を特定対象領域に設定してもよい。これにより、空間光変調器の複数の特定対象領域と複数の集光スポットとの対応関係を一度に特定できるので、対応関係の特定に要する時間を短縮することができる。
【0020】
また、本発明による補償光学システムは、二次元状に配列されたN個(Nは自然数)の領域を含む変調面に入射した光像の位相を空間的に変調する空間光変調器と、N個の領域に各々対応するN個のレンズが二次元状に配列されたレンズアレイ、並びに該レンズアレイによって形成されたM個(Mは自然数であり、M≦N)の集光スポットを含む光強度分布を検出する光検出素子を有し、空間光変調器から変調後の光像を受けて、光強度分布に基づいて該光像の波面形状を計測する波面センサと、空間光変調器に表示される位相パターンを波面形状に基づいて制御することにより波面歪みを補償する制御部とを備え、制御部が、波面歪みの補償を実行中に、空間光変調器のN個の領域のうちの特定対象領域に波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で光検出素子より第1の光強度分布を取得し、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に表示させた状態で光検出素子より第2の光強度分布を取得し、第1の光強度分布と第2の光強度分布との間の変化に基づいて、M個の集光スポットのうち特定対象領域に対応する集光スポットを特定することを特徴とする。
【0021】
この補償光学システムによれば、制御部が、空間光変調器の特定対象領域に波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態、および特定対象領域に空間的に非線形な位相パターンを表示させた状態のそれぞれにおいて、光強度分布を取得する。したがって、前述した対応関係特定方法と同様に、これらの光強度分布の間の変化に基づいて、特定対象領域に対応する集光スポットを正確に特定することができ、波面歪み補償の精度を向上させることが可能となる。また、光学板等の新たな部品を追加する必要がないので、部品点数の増加を抑制でき、また被計測光の損失の増加を抑制して波面検出精度を維持することができる。
【0022】
また、本発明による補償光学システム用プログラムは、二次元状に配列されたN個(Nは自然数)の領域を含む変調面に入射した光像の位相を空間的に変調する空間光変調器と、N個の領域に各々対応するN個のレンズが二次元状に配列されたレンズアレイ、並びに該レンズアレイによって形成されたM個(Mは自然数であり、M≦N)の集光スポットを含む光強度分布を検出する光検出素子を有し、空間光変調器から変調後の光像を受けて、光強度分布に基づいて該光像の波面形状を計測する波面センサと、空間光変調器に表示される位相パターンを波面形状に基づいて制御することにより波面歪みを補償する制御部とを備える補償光学システムにおいて、波面歪みの補償を実行中に、空間光変調器の領域と、波面センサに形成される集光スポットとの対応関係を制御部に特定させるためのプログラムであって、空間光変調器のN個の領域のうちの特定対象領域に、波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で、光検出素子により光強度分布を検出する第1検出ステップと、第1検出ステップの前又は後に、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に表示させた状態で、光検出素子により光強度分布を検出する第2検出ステップと、第1検出ステップと第2検出ステップとの間の光強度分布の変化に基づいて、M個の集光スポットのうち特定対象領域に対応する集光スポットを特定する第1特定ステップとを備えることを特徴とする。
【0023】
この補償光学システム用プログラムは、前述した対応関係特定方法と同様の第1検出ステップないし第1特定ステップを備えている。したがって、特定対象領域に対応する集光スポットを正確に特定することができ、波面歪み補償の精度を向上させることが可能となる。また、光学板等の新たな部品を追加する必要がないので、部品点数の増加を抑制でき、また被計測光の損失の増加を抑制して波面検出精度を維持することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明による補償光学システムの対応関係特定方法、補償光学システム、および補償光学システム用プログラムによれば、部品点数の増加および被計測光の損失の増加を抑制しつつ、波面センサの集光スポットと、その位置に基づいて制御されるべき空間光変調器の変調面上の領域との対応関係を正確に特定して、より大きな波面歪みを精度良く補償することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明による対応関係特定方法、補償光学システム、および補償光学システム用プログラムの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明において、「位相分布」とは、二次元に分布する位相値を指し、「位相パターン」とは、位相分布(二次元の位相値)を、ある基準を基にコード化したものを指し、「位相プロファイル」とは、位相分布における或る方向(線)に沿った位相値の分布を指すものとする。
【0027】
図1は、本実施形態に係る補償光学システム10の構成を概略的に示す図である。補償光学システム10は、例えば眼科検査装置、レーザ加工装置、顕微鏡装置、または補償光学装置などに組み込まれる。この補償光学システム10は、空間光変調器(Spatial Light Modulator;SLM)11、波面センサ12、制御部13、ビームスプリッタ14、リレーレンズ15及び16、並びに制御回路部17を備えている。
【0028】
空間光変調器11は、位相パターンを表示する変調面11aに光像L1を受け、光像L1の波面形状を変調して出力する。空間光変調器11に入射する光像L1は、例えばレーザ光源やスーパールミネッセントダイオード(SLD)から発する光、或いは、光が照射された観察物から発生した反射光、散乱光、蛍光等である。波面センサ12は、空間光変調器11から到達した光像L1の波面形状(典型的には光学系の収差によって現れ、波面の歪み、すなわち基準波面からの波面のずれを表す)に関する情報を含むデータS1を制御部13に提供する。制御部13は、波面センサ12から得られたデータS1に基づいて、空間光変調器11に適切な位相パターンを表示させるための制御信号S2を生成する。一例では、制御部13は、波面センサ12からデータS1を入力する入力部、データS1から収差を算出する収差算出部、空間光変調器11に表示させる位相パターンを算出する位相パターン算出部、及び算出した位相パターンに応じて制御信号S2を生成する信号生成部を含む。制御回路部17は、制御部13から制御信号S2を受けて、この制御信号S2に基づく電圧V1を空間光変調器11の複数の電極に与える。
【0029】
ビームスプリッタ14は、波面センサ12と空間光変調器11との間に配置され、光像L1を分岐する。ビームスプリッタ14は偏光方向非依存型、偏光方向依存型、或いは、波長依存型(ダイクロイックミラー)のビームスプリッタのいずれでもよい。ビームスプリッタ14によって分岐された一方の光像L1は、例えばCCDや光電子増倍管、アバランシェ・フォトダイオードといった光検出素子18に送られる。光検出素子18は、例えば走査型レーザ検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope;SLO)、光断層撮影装置(Optical Coherence Tomography;OCT)、眼底カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に組み込まれたものである。また、ビームスプリッタ14によって分岐された他方の光像L1は、波面センサ12に入射する。
【0030】
リレーレンズ15及び16は、波面センサ12と空間光変調器11との間において光軸方向に並んで配置される。これらのリレーレンズ15,16によって、波面センサ12と空間光変調器11とが、互いに光学的な共役関係に保たれる。なお、波面センサ12と空間光変調器11との間には、光学結像レンズ及び/又は偏向ミラーなどが更に配置されてもよい。
【0031】
図2は、本実施形態の波面センサ12の構成を概略的に示す断面図であって、光像L1の光軸に沿った断面を示している。また、
図3は、波面センサ12が備えるレンズアレイ120を光像L1の光軸方向から見た図である。
【0032】
波面センサ12には干渉型と非干渉型とがあるが、本実施形態では、波面センサ12として、レンズアレイ120及びイメージセンサ(光検出素子)122を有する非干渉型のシャックハルトマン型波面センサを用いる。このような非干渉型の波面センサ12を用いると、干渉型の波面センサ12を用いる場合と比較して、耐震性が優れており、また、波面センサの構成及び計測データの演算処理を簡易にできる利点がある。
【0033】
図3に示されるように、レンズアレイ120は、N個(Nは自然数)のレンズ124を有する。N個のレンズ124は、例えばNa行Nb列(Na,Nbは2以上の整数)の二次元格子状に配置されている。
【0034】
また、
図2に示されるイメージセンサ122は、レンズアレイ120を構成するN個のレンズ124の後焦点面と重なる位置に受光面122aを有しており、N個のレンズ124によって形成されるM個(Mは自然数であり、M≦N)の集光スポットPを含む光強度分布を検出する。一般的には、レンズアレイ120に照射される光は、レンズアレイ120の一部のレンズ124に入力されるため、集光スポットPは入力光が照射されたレンズ124によって形成される。従って、レンズアレイ120を構成するN個のレンズ124のうち、入力光の照射範囲内に存在するレンズ124の個数N’は、集光スポットPの個数Mと等しい。もちろん、レンズアレイ120全体に入力光が照射される場合には、個数Nと個数N’とが等しくなり、N=Mとなる。後述する制御部13では、この光強度分布に基づいて、光像L1の波面形状(位相勾配の分布)が計測される。すなわち、レンズ124による集光スポットPの位置と基準位置とのずれの大きさは、レンズ124に入射する光像L1の局所的な波面の傾きに比例する。したがって、基準位置からの集光スポットPの位置ずれの大きさをレンズ124毎に算出し、この集光スポットPの位置ずれに基づいて、光像L1の波面形状を計測することができる。
【0035】
なお、イメージセンサ122の受光面122aを構成する各画素も二次元格子状に配置されており、その水平方向および垂直方向はレンズアレイ120の水平方向および垂直方向とそれぞれ一致する。但し、イメージセンサ122の画素ピッチは、基準位置からの集光像位置のずれの大きさを高い精度で検出できるように、レンズアレイ120のピッチよりも十分に小さくなっている。
【0036】
また、集光像位置のずれの大きさを計算する為に用いられる基準位置としては、複数のレンズ124それぞれの光軸と、イメージセンサ122の受光面122aとが交わる位置が好適である。この位置は、平行平面波を各レンズ124に垂直入射させて得られる集光像を用いて、重心計算により容易に求められる。
【0037】
空間光変調器11は、光源若しくは観察対象物からの光像L1を受け、その光像L1の波面を変調して出力する素子である。具体的には、空間光変調器11は、二次元格子状に配列された複数の画素(制御点)を有しており、制御部13から提供される制御信号S2に応じて各画素の変調量(例えば位相変調量)を変化させる。空間光変調器11には、例えば、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)型空間光変調器、液晶表示素子と光アドレス式液晶空間光変調器とが結合されて成る電気アドレス式の空間光変調器、微小電気機械素子(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)、といったものがある。なお、
図1には反射型の空間光変調器11が示されているが、空間光変調器11は透過型であってもよい。
【0038】
図4は、本実施形態の空間光変調器11の一例として、LCOS型の空間光変調器を概略的に示す断面図であって、光像L1の光軸に沿った断面を示している。この空間光変調器11は、透明基板111、シリコン基板112、複数の画素電極113、液晶部(変調部)114、透明電極115、配向膜116a及び116b、誘電体ミラー117、並びにスペーサ118を備えている。
【0039】
透明基板111は、光像L1を透過する材料からなり、シリコン基板112の主面に沿って配置される。複数の画素電極113は、シリコン基板112の主面上において二次元格子状に配列され、空間光変調器11の各画素を構成する。透明電極115は、複数の画素電極113と対向する透明基板111の面上に配置される。液晶部114は、複数の画素電極113と透明電極115との間に配置される。配向膜116aは液晶部114と透明電極115との間に配置され、配向膜116bは液晶部114と複数の画素電極113との間に配置される。誘電体ミラー117は配向膜116bと複数の画素電極113との間に配置される。誘電体ミラー117は、透明基板111から入射して液晶部114を透過した光像L1を反射して、再び透明基板111から出射させる。
【0040】
また、空間光変調器11は、複数の画素電極113と透明電極115との間に印加される電圧を制御する画素電極回路(アクティブマトリクス駆動回路)119を更に備えている。画素電極回路119から何れかの画素電極113に電圧が印加されると、該画素電極113と透明電極115との間に生じた電界の大きさに応じて、該画素電極113上の液晶部114の屈折率が変化する。したがって、液晶部114の当該部分を透過する光像L1の光路長が変化し、ひいては、光像L1の位相が変化する。そして、複数の画素電極113に様々な大きさの電圧を印加することによって、位相変調量の空間的の分布を電気的に書き込むことができ、必要に応じて様々な波面形状を実現することができる。
【0041】
再び
図1を参照する。この補償光学システム10では、まず、図示しない光源若しくは観察対象物からの光像L1が、ほぼ平行な光として空間光変調器11に入射する。そして、空間光変調器11によって変調された光像L1は、リレーレンズ15及び16を経てビームスプリッタ14に入射し、2つの光像に分岐される。分岐後の一方の光像L1は、波面センサ12に入射する。そして、波面センサ12において光像L1の波面形状(例えば位相分布)を含むデータS1が生成され、データS1は制御部13に提供される。制御部13は、波面センサ12からのデータS1に基づいて、必要に応じて光像L1の波面形状(位相分布)を算出し、光像L1の波面歪みを適切に補償するための位相パターンを含む制御信号S2を空間光変調器11へ出力する。その後、空間光変調器11によって補償された歪みのない光像L1は、ビームスプリッタ14により分岐され、図示しない光学系を経て光検出素子18に入射し、撮像される。
【0042】
ここで、
図5は、空間光変調器11と波面センサ12との関係を簡略化して示す図である。上記の構成を備える補償光学システム10において、波面センサ12において光像L1の波面形状を正確に検出するためには、N個のレンズ124のそれぞれによって形成されるM個の集光スポットPと、M個の集光スポットPの位置ずれ情報に基づいてそれぞれ制御されるべき空間光変調器11の変調面11a上のN個の領域11bとの対応関係を正確に特定する必要がある。
【0043】
なお、
図6は、空間光変調器11の変調面11aの正面図である。
図6に示されるように、変調面11a上に想定されるN個の領域11bは、N個のレンズ124と同様に二次元状(例えばNa行Nb列)に配列され、それぞれN個のレンズ124と一対一で対応している。また、各領域11bには、複数の画素が含まれている。
【0044】
以下、M個の集光スポットPと、変調面11a上のN個の領域11bとの対応関係を特定する方法について詳細に説明する。なお、この特定方法は、例えば制御部13において、波面歪み補償動作の実行中に併せて実行される。具体的には、
図1に示された制御部13の記憶領域13aの内部にこの特定方法がプログラムとして記憶され、制御部13がこのプログラムを読み出して実行する。
【0045】
図7は、本実施形態における特定方法の原理を説明するための概念図である。
図7には、空間光変調器11の変調面11a及び波面センサ12(レンズアレイ120及びイメージセンサ122)に加えて、リレーレンズ15及び16、変調面11aへ入射される光像の波面W1、変調面11aから出射される光像の波面W2、波面センサ12に入射される光像の波面W3が示されている。また、
図7には、変調面11a上の或る領域11bから出射して、当該領域11bに対応する波面センサ12のレンズ124に達する光像L1が示されている。
【0046】
いま、波面歪み補償動作の実行中であり、変調面11a上の全ての領域11bにおいて、波面歪み補償用の位相パターンが表示されているとする。このとき、入射波面W1に、その位相パターンに応じた波面が加えられた波面W2が空間光変調器11から出射され、波面センサ12には、リレーレンズ15及び16を含む共役光学系を経た波面W3が入射される。
【0047】
ここで、変調面11a上の或る領域11b(以下、特定対象領域と称する)において、波面歪み補償用の位相パターンに代えて、空間的に非線形な位相パターン(例えば、位相の大きさの分布が不規則であるランダム分布や、集光スポットを拡径するデフォーカス分布など)を表示させる。すると、出射波面W2のうち特定対象領域に相当する部分の波面が乱れる(
図7の部分A1)。そして、この波面の乱れは、波面センサ12への入射波面W3のうち、特定対象領域と一対一で対応するレンズ124に入射する部分にも生じることとなる(
図7の部分A2)。これにより、当該レンズ124によって形成されていた集光スポットPが拡散し、集光スポットPが形成されないか、或いはその光強度が微弱となる。
【0048】
図8は、変調面11aに表示される位相パターンを概念的に示す図である。
図8において、領域B1は波面歪み補償用の位相パターンが表示される領域であり、領域B2は空間的に非線形な位相パターンが表示される領域(すなわち特定対象領域)である。このように、本実施形態では、N個の領域11bのうち或る一つの特定対象領域B2において、空間的に非線形な位相パターンが表示される。
【0049】
図9は、波面センサ12のイメージセンサ122によって検出される光強度分布データ(シャックハルトマングラム)を概念的に示す図である。
図9(a)は、変調面11aのN個の領域11bにおいて波面歪み補償用の位相パターンが表示されている場合の光強度分布データD1を示しており、
図9(b)は、N個の領域11bのうち一つの特定対象領域において空間的に非線形な位相パターンが表示され、他の領域において波面歪み補償用の位相パターンが表示されている場合の光強度分布データD2を示している。
【0050】
図9(a)に示されるように、N個の領域11bに波面歪み補償用の位相パターンが表示されている場合には、各領域11bに対応するM個の集光スポットPが光強度分布データに含まれる。一方、
図9(b)に示されるように、一つの特定対象領域において空間的に非線形な位相パターンが表示されている場合には、他の(N−1)個の領域に対応する集光スポットPが形成されるが、特定対象領域に対応する集光スポットは、形成されないか、或いは形成されてもその最大強度が減少したものとなる(図中のC部分)。従って、
図9(a)に示された光強度分布データD1から、
図9(b)に示された光強度分布データD2への変化(または、逆の変化)に基づいて、特定対象領域に対応する集光スポットPを特定することができる。
【0051】
以上に説明した、変調面11aの各領域11bと集光スポットPとの対応関係を特定する方法を含む、補償光学システム10の動作および波面補償方法について
図10を参照しつつ説明する。
図10は、本実施形態の補償光学システム10の動作および波面補償方法を示すフローチャートである。なお、制御部13の記憶領域13aの内部に記憶されたプログラムは、以下の方法を制御部13に実行させる補償光学システム用プログラムである。
【0052】
補償光学システム10では、まず、制御部13の初期処理が行われる(ステップS11)。この初期処理ステップS11では、例えば計算処理に必要なメモリ領域の確保や、パラメータの初期設定などが行われる。
【0053】
次に、波面計測(収差計測)を行う(ステップS12)。この波面計測ステップS12では、波面センサ12によって取得された光強度分布データに基づいて、制御部13が波面形状を求める。ここで、
図11は、制御部13において実行される波面計測処理の一例を示すフローチャートである。
図11に示されるように、制御部13は、先ず、波面センサ12のイメージセンサ122によって作成される光強度分布データを取得する(ステップS21、本実施形態における第1検出ステップ)。
図9(a)に示されたように、この光強度分布データには、N個のレンズ124によって形成されたM個の集光スポットPが含まれている。次に、制御部13は、光強度分布データに含まれるM個の集光スポットPそれぞれの重心(光強度の1次モーメント)を計算することによって、M個の集光スポットPそれぞれの位置座標を特定する(ステップS22)。この重心計算の際、所定の閾値よりも小さいデータ値の排除や、ノイズ低減処理等を併せて行うとよい。続いて、M個の集光スポットPの評価値を算出する(ステップS23)。評価値とは、例えば各集光スポットPの最大光強度やスポット径(拡がり具合)、光強度の高次モーメント、スポット径内の最小の光強度、スポット径内の光強度の総和などといった、各集光スポットPの信頼性を表す数値である。以降のステップでは、この評価値が所定の条件を満たす集光スポットPに関する情報のみが計算に使用される。続いて、各集光スポットPの位置座標と基準位置との距離(位置ずれ量)を集光スポットP毎に算出する(ステップS24)。その後、ステップS24において算出された各集光スポットPの位置ずれ量を波面方程式に適用することにより、波面歪み(収差)を算出する(ステップS25)。
【0054】
再び
図10を参照する。続いて、制御部13は、空間光変調器11の変調面11aに表示させるべき波面歪み補償用の位相パターン(制御パターン)の計算を行う(ステップS13)。このステップS13では、例えば、先の波面計測ステップS12において算出された波面歪み(収差)をゼロに近づける位相パターンが、負帰還制御のアルゴリズムを基にして算出される。そして、算出された位相パターンに応じた制御信号S2が制御部13から制御回路部17へ出力される。制御回路部17は、この制御信号S2に応じた制御電圧V1を空間光変調器11に供給する。
【0055】
続いて、制御部13は、変調面11aの各領域11bと集光スポットPとの対応関係の特定を行うか否かの判断を行う(ステップS14)。この対応関係の特定を行う場合(ステップS14;Yes)、制御部13は、
図12に示される処理を行う(ステップS15、対応関係特定ステップ)。
図12は、対応関係特定ステップS15において、集光スポットPと、変調面11a上の領域11bとの対応関係を特定する方法の一例を示すフローチャートである。
【0056】
図12に示されるように、先ず、制御部13は、
図8に示されたように、変調面11a上の或る特定対象領域において、波面歪み補償用の位相パターンに代えて、空間的に非線形な位相パターンを表示させる(ステップS31)。次に、制御部13は、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に表示させた状態で、波面センサ12のイメージセンサ122によって作成される光強度分布データを取得する(ステップS32、本実施形態における第2検出ステップ)。
図9(b)に示されたように、特定対象領域に対応する集光スポットが形成されない場合は、この光強度分布データには、(N−1)個のレンズ124によって形成された(M−1)個の集光スポットPが含まれる。なお、特定対象領域に対応する集光スポットが弱い強度で形成された場合であっても、ステップS23で計算される評価値が十分に大きい場合には、この光強度分布データに含まれる集光スポットPの数は、M個となる。続いて、制御部13は、第1検出ステップS21において取得された光強度分布データ(例えば
図9(a))と、第2検出ステップS32において取得された光強度分布データ(例えば
図9(b))とを比較する(ステップS33)。この比較は、例えば、第1検出ステップS21において取得された光強度分布データ(例えば
図9(a))と、第2検出ステップS32において取得された光強度分布データ(例えば
図9(b))との差分あるいは比を計算すれば良い。または、それぞれの光強度分布データにステップS23のような重心演算を施し、これによって算出される集光スポットの重心やスポット径、スポット径内の光強度の総和などの特徴量を用いてもよい。なお、第1検出ステップS21では、特定対象領域を含むN個の領域11bの全てに波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で光強度分布データを取得するので、その光強度分布データには、特定対象領域に対応する集光スポットPが含まれている。そして、この比較において光強度分布データの光強度や特徴量が顕著に変化した集光スポットPを特定し、その集光スポットPを、特定対象領域に対応する集光スポットであると判定する(ステップS34、本実施形態における第1特定ステップ)。その後、制御部13は、変調面11a上の更に別の領域について集光スポットとの対応関係を特定する必要があるか否かを判断する(ステップS35)。特定する必要がある場合(ステップS35;Yes)、制御部13は、上述したステップS31〜S34を別の領域について繰り返す。また、特定する必要がない場合(ステップS35;No)、制御部13は処理を終了する。
【0057】
再び
図10を参照する。制御部13は、対応関係特定ステップS15において集光スポットPと領域11bとの対応関係を特定したのち、若しくはステップS14において集光スポットPと領域11bとの対応関係の特定が不要であると判断した場合に、波面補償動作を終了するか否かの指令信号を外部から受け付ける(ステップS16)。この指令信号は、例えば補償光学システム10を含む装置を操作する者から入力される。そして、終了指令があった場合には(ステップS16;Yes)、終了処理ステップS17を経て終了する。また、終了指令がない場合には(ステップS16;No)、前述したステップS12〜S16を繰り返し実行する。なお、終了処理ステップS17では、例えば制御部13のメモリ領域の開放などが行われる。
【0058】
以上に説明した本実施形態の補償光学システム10、その対応関係特定方法、および補償光学システム用プログラムによって得られる効果について説明する。
【0059】
本実施形態では、第1検出ステップS21において、空間光変調器11の特定対象領域に波面歪み補償用の位相パターンを表示させた状態で、波面センサ12のイメージセンサ122において光強度分布を検出する。この第1検出ステップS21では、特定対象領域に対応する集光スポットPが、イメージセンサ122上の何処かの位置に形成される。また、第2検出ステップS32として、上記特定対象領域に空間的に非線形な位相パターンを表示させた状態で、波面センサ12のイメージセンサ122において光強度分布を検出する。この第2検出ステップS32では、特定対象領域に表示された非線形の位相パターンによって光が拡散し、特定対象領域に対応する集光スポットPが形成されないか、或いはその光強度が微弱となる。
【0060】
その後、第1特定ステップS34において、第1検出ステップS21及び第2検出ステップS32のそれぞれにおいて得られた光強度分布を相互に比較すると、第1検出ステップS21で得られた光強度分布には特定対象領域に対応する集光スポットPが明瞭に存在するが、第2検出ステップS32で得られた光強度分布には特定対象領域に対応する集光スポットPが存在しないか、集光スポットPの明瞭さが第1検出ステップS21と比較して各段に劣ることとなる。したがって、第1検出ステップS21と第2検出ステップS32との間の光強度分布の変化に基づいて、特定対象領域に対応する集光スポットPを正確に特定することができる。
【0061】
このように、本実施形態の補償光学システム10、その対応関係特定方法、および補償光学システム用プログラムによれば、波面センサ12の集光スポットPと、該集光スポットPの位置から算出される収差に基づいて制御されるべき空間光変調器11の変調面11a上の領域11bとの対応関係を、波面補償動作を実行中に正確に特定することができる。したがって、補償光学システム10が組み込まれる装置の動作を継続しながら、より大きな波面歪みを精度良く補償することが可能となる。また、特許文献1に記載された構成のように光学板等の新たな部品を追加する必要がないので、部品点数の増加を抑制できるとともに、光像L1の損失の増加を抑制して波面検出精度を維持することができる。
【0062】
ここで、ステップS31において変調面11aに表示される「空間的に非線形な位相パターン」の好適な例を示す。
図13〜
図16は、このような位相パターンの例を示す図であって、位相の大きさが明暗によって示されており、最も暗い部分の位相は0(rad)であり、最も明るい部分の位相は2π(rad)である。
【0063】
図13は、位相の大きさの分布が不規則であるランダム分布を示している。このような位相パターンが特定対象領域に表示されると、当該部分の光像L1が拡散し、明瞭な集光スポットPが形成されなくなるか、最大の光強度が減少する。また、
図14は、集光スポットPを拡径するデフォーカス分布を示している。このような位相パターンが特定対象領域に表示されると、当該部分の光像L1が集光されず逆に拡大されるので、明瞭な集光スポットPが形成されなくなるか、最大の光強度が減少する。また、
図15は、光像L1に大きな球面収差を生じさせる分布を示している。球面収差を生じる位相パターンの代わりに、大きな非点収差やコマ収差を生じる位相パターンを用いてもよい。
図16は、光像L1に球面収差・非点収差・コマ収差より大きな次数の高次収差を含む収差を生じさせる分布を示している。
図15や
図16に示された位相パターンが特定対象領域に表示された場合にも、明瞭な集光スポットPが形成されなくなる。空間的に非線形な位相パターンは、これらの分布のうち少なくとも一つを含むことが好ましく、或いは、これらの分布のうち少なくとも一つと、線形な位相パターンとを重ね合わせた合成パターンを含んでもよいし、或いは、これらの分布のうち少なくとも一つと、波面計測された波面歪みを補償するための位相パターンとを重ね合わせた合成パターンを含んでも良い。
【0064】
また、空間光変調器としては、正六角形の複数の画素が隙間無く並んでいるようなものを用いても良い。また、上述した実施形態は、液晶を用いた空間光変調器を例に説明したが、液晶以外の電気光効果を有する材料を用いた空間光変調器や、画素が微小ミラーで形成されている空間光変調器、あるいは膜ミラーをアクチュエーターで変形させる可変鏡などを用いても良い。
【0065】
本実施形態では第1検出ステップS21の後に第2検出ステップS32を行っているが、この順序は逆であってもよい。すなわち、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に先ず表示させ、その状態でイメージセンサ122により光強度分布を検出したのち、波面歪み補償用の位相パターンを特定対象領域に表示させ、その状態でイメージセンサ122により光強度分布を検出してもよい。このような形態であっても、上述した効果を同様に得ることができる。
【0066】
(第1の変形例)
上記の実施形態では、対応関係特定ステップS15内のステップS33において、M個の集光スポットPが全て含まれる光強度分布(
図9(a))と、特定対象領域に対応する集光スポットPが形成されない光強度分布(
図9(b))とを比較している。しかしながら、ステップS33では、特定対象領域に対応する集光スポットPが形成されている光強度分布と、形成されていない光強度分布とを比較すれば足りる。したがって、例えば複数の特定対象領域のためにステップS31〜S34が繰り返し実行される場合には、前回以前のステップS32において取得された光強度分布を比較対象に用いてもよい。
【0067】
図17は、本変形例に係る補償光学システム10の制御部13の動作および対応関係特定方法を示すフローチャートである。
図17に示されたフローチャートにおいて
図12と異なる点は、ステップS35の分岐後にステップS36〜S40を備える点である。すなわち、本変形例では、先ずステップS31〜S34を実行したのち、別の領域について対応関係を特定する場合には(ステップS35;Yes)、ステップS36〜S40を実行する。
【0068】
ステップS36では、ステップS31において選択された特定対象領域とは別の特定対象領域において、制御部13が、波面歪み補償用の位相パターンに代えて、空間的に非線形な位相パターンを表示させる。同時に、ステップS31において選択された特定対象領域を含む他の領域11bにおいて、制御部13が、空間的に非線形な位相パターンに代えて、波面歪み補償用の位相パターンを表示させる。
【0069】
次に、ステップS37では、制御部13が、上記の位相パターンを表示させた状態で、波面センサ12のイメージセンサ122によって作成される光強度分布データを取得する(本変形例における第3検出ステップ)。そして、制御部13は、第3検出ステップS37において取得された光強度分布データと、第2検出ステップS32において取得された光強度分布データとを比較する(ステップS38)。制御部13は、この比較において光強度やスポット径が顕著に変化した集光スポットPを特定し、その集光スポットPを、上記別の特定対象領域に対応する集光スポットであると判定する(ステップS39、本実施形態における第2特定ステップ)。その後、制御部13は、変調面11a上の更に別の特定対象領域について集光スポットとの対応関係を特定する必要があるか否かを判断する(ステップS40)。特定する必要がある場合(ステップS40;Yes)、制御部13は、上述したステップS36〜S39を更に別の特定対象領域について繰り返す。なお、ステップS36〜S39を繰り返す際には、ステップS38において、特定済みの特定対象領域に関してステップS37において得られた光強度分布データと、特定しようとする特定対象領域に関してステップS37において得られた光強度分布データとを比較するとよい。なお、特定する必要がない場合(ステップS40;No)、制御部13は処理を終了する。
【0070】
本変形例では、上記実施形態の対応関係特定方法に加えて、更に第3検出ステップS37および第2特定ステップS38を備えている。これにより、空間的に非線形な位相パターンを空間光変調器11の複数の領域11bに順次表示させながら、各領域11bと集光スポットPとの対応関係を効率良く特定することができる。
【0071】
(第2の変形例)
上記実施形態の波面計測ステップS12では、ステップS21においてM個の集光スポットPが全て含まれる光強度分布データ(
図9(a))を取得し、この光強度分布データを使用して波面形状を計測している(ステップS22〜S25)。しかしながら、対応関係特定ステップS15が既に一回以上行われている場合には、波面計測ステップS12において、対応関係特定ステップS15の第2検出ステップS32において取得された光強度分布データを使用し、波面形状を計測してもよい。この方法によれば、波面計測ステップS12のステップS21を省略することができる。
【0072】
図18は、本変形例に係る波面計測ステップを示すフローチャートである。
図18に示されるように、制御部13は、先ず、既に実行された対応関係特定ステップS15の第2検出ステップS32において取得された光強度分布データ(例えば
図9(b)を参照)に含まれる(M−1)個の集光スポットPそれぞれの重心を計算することによって、N個以下の集光スポットPそれぞれの位置座標を特定する(ステップS51)。続いて、N個以下の集光スポットPの評価値を算出し(ステップS52)、各集光スポットPの位置座標と基準位置との距離(位置ずれ量)を集光スポットP毎に算出する(ステップS53)。なお、ステップS52及びS53の詳細は、上記実施形態と同様である。その後、ステップS53において算出された各集光スポットPの位置ずれ量を波面方程式に適用することにより、波面歪み(収差)を算出する(ステップS54)。
【0073】
本変形例では、第2検出ステップS32において検出された光強度分布データから得られる波面形状に基づいて、波面歪みを補償する。すなわち、本変形例の方法では、空間的に非線形な位相パターンを特定対象領域に表示させた状態で計測された波面形状に基づいて、波面歪みを補償する。この場合、特定対象領域には波面歪み補償用の位相パターンは表示されないが、特定対象領域を空間光変調器11のN個の領域11bのうち僅かな部分に限定することにより、特定対象領域による影響を抑えて波面歪みを十分に補償することができる。また、本変形例では、空間光変調器11に表示させる位相パターンを算出する際に、計測された波面形状のうち特定対象領域に対応する部分を除いたものを用いるとよい。或いは、計算された波面形状の全部を用い、空間光変調器11の特定対象領域においては、計測された波面形状に空間的非線形な位相パターンを合成して全体の位相パターンを構成しても良い。
【0074】
また、上記実施形態において、波面計測ステップS12とは別に、対応関係の特定(ステップS15)の後、改めて
図18に示された波面計測ステップを行ってもよい。
図19は、そのような場合の補償光学システム10の動作および波面補償方法を示すフローチャートである。
【0075】
図19に示される方法では、まず、上記実施形態と同様に、初期処理(ステップS11)、波面計測(ステップS12)、及び波面歪み補償用の位相パターンの計算(ステップS13)が行われる。続いて、制御部13が、変調面11aの各領域11bと集光スポットPとの対応関係の特定を行うか否かの判断を行う(ステップS14)。この対応関係の特定を行う場合(ステップS14;Yes)、制御部13は、対応関係特定ステップS15(
図12を参照)を行ったのち、
図18に示されたステップS51〜S54を含む第2の波面計測ステップS61を行う。そして、この第2の波面計測ステップS61において計測された波面歪みに基づいて、波面歪み補償用の位相パターンの計算を再び行う(ステップS62)。
【0076】
制御部13は、ステップS62において波面歪み補償用の位相パターンの計算を行ったのち、若しくはステップS14において集光スポットPと領域11bとの対応関係の特定が不要であると判断した場合に、波面補償動作を終了するか否かの指令信号を外部から受け付ける(ステップS16)。この指令信号は、例えば補償光学システム10を含む装置を操作する者から入力される。そして、終了指令があった場合には(ステップS16;Yes)、終了処理ステップS17を経て終了する。また、終了指令がない場合には(ステップS16;No)、対応関係特定付きの波面歪み補償を実行するか否かを選択し(ステップS63)、実行しない場合には(ステップS63;No)前述したステップS12に移行し、実行する場合には(ステップS63;Yes)前述したステップS15に移行する。
【0077】
(第3の変形例)
上記実施形態では、
図8に示されたように、変調面11aにおいて特定対象領域B2を一つだけ設定しているが、特定対象領域B2は、一度に複数個設定されてもよい。
図20は、特定対象領域B2が一度に複数個設定された例を示す図である。なお、
図20において、領域B1は波面歪み補償用の位相パターンが表示される領域である。
図20に示されるように、本変形例では、互いに隣接しない複数の領域11bが特定対象領域B2に設定され、空間的に非線形な位相パターンが表示される。
【0078】
本変形例によれば、空間光変調器11の複数の特定対象領域B2と複数の集光スポットPとの対応関係を一度に特定できるので、対応関係の特定に要する時間を短縮することができる。なお、複数の特定対象領域B2間の間隔は、光像L1の収差が大きいほど長く設定されるとよい。また、第2変形例のように対応関係特定ステップS15において取得された光強度分布データを使用して波面形状を計測する場合には、特定対象領域B2の数が少ないほど、波面形状の計測精度が向上する。
【0079】
本発明による対応関係特定方法、補償光学システム、および補償光学システム用プログラムは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、前述した実施形態および各変形例では、波面センサ12のレンズアレイ120として、
図3に示されたように、複数のレンズ124が二次元格子状に配列された形態を例示したが、波面センサ12のレンズアレイはこのような形態に限られない。例えば、
図21に示されるように、レンズアレイ120は、正六角形の複数のレンズ128が隙間無く並んだハニカム構造を有していてもよい。