(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040211
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】計時器用の打撃機構用ディスク−振動板
(51)【国際特許分類】
G10F 1/06 20060101AFI20161128BHJP
G04B 21/08 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
G10F1/06 P
G04B21/08 B
G10F1/06 K
G10F1/06 R
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-235269(P2014-235269)
(22)【出願日】2014年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-114664(P2015-114664A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2014年11月20日
(31)【優先権主張番号】13196156.7
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ポリクロニス(ナキス)・カラパティス
(72)【発明者】
【氏名】ヨウネス・カドミリ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
【審査官】
大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭33−007578(JP,B1)
【文献】
特開2002−156968(JP,A)
【文献】
米国特許第02956466(US,A)
【文献】
特開2011−123083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10F 1/06
G04B 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音楽対応又は打撃機構付き計時器(1000)用のディスク−振動板のアセンブリ(1)であって、
軸(d)を中心に回転する少なくとも1つのディスク(2)を有し、前記ディスク(2)は、前記軸(d)と実質的に平行な突き出る複数のピン(3)を有し、かつ、当該アセンブリ(1)の少なくとも1つの振動板(5)に備えられる細長片(4)と連係するように構成し、
前記ピン(3)のそれぞれは、対応する細長片(4)の遠位端(41)にある相補的な受け表面(40)と連係するように構成する作用表面(30)を有し、前記遠位端(41)は、前記ピン(3)と同じ前記ディスク(2)の半径上に置かれ、
前記振動板(5)の前記細長片(4)の断面は、音程が最も高い最短の細長片(4C)から音程が最も低い最長の細長片(4L)になるにしたがって徐々に大きくなり、
前記相補的な受け表面(40)は、前記細長片(4)の作用段階の終わりにおいて、前記ピン(3)が備える相補的な端縁(32)と、前記軸(d)を中心とする同じ半径上に位置する端縁(42)を有し、
前記端縁(42)及び前記相補的な端縁(32)は、直線区画(49、49A)であり、そして、
複数の前記ピン(3)の前記作用表面(30)及び前記細長片(4)の前記相補的な受け表面40は、前記ディスク(2)の平面(P)に対して傾斜した平面であり、前記ディスク(2)の中心を始点として前記細長片(4)と前記ピン(3)の間の接点を通る局所的な半径方向DRと垂直な方向を向いている
ことを特徴とするディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項2】
前記細長片(4)のそれぞれが同じ高さを有し、幅、長さ及び持ち上げ量をそれぞれ有するような特性(幅b;長さL;持ち上げ量δ)有する場合に、
音程が最も低く最長の細長片(4L)(幅b
g;長さL
g;持ち上げ量δ
g)と、及び音程が最も高く最短の細長片(4C)(幅b
a;長さL
a;持ち上げ量δ
a)との関係が不等式
【数1】
を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項3】
前記直線区画(49、49A)は、前記軸(d)に垂直な前記平面(P)に対して傾いていることを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項4】
前記振動板(5)の細長片(4)の幅は、音程が最も高い最短の細長片(4C)から音程が最も低い最長の細長片(4L)になるにしたがって徐々に大きくなる
ことを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項5】
前記ピン(3)が備える前記相補的な端縁(32)の幅は、当該ピン(3)が連係する細長片(4)の断面と同じ割合で徐々に大きくなる
ことを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項6】
前記振動板(5)は、3分の1を超える長さが前記ディスク(2)の外部に配置されているような、当該振動板(5)の中で最長のいくつかの細長片(4)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項7】
前記ディスク(2)の前記ピン(3)は、前記ディスク(2)の前記平面(P)に対して高くなっており、
この高さは、最短の細長片(4C)から最長の細長片(4L)まで、当該ピン(3)が連係する細長片(4)の断面が大きくなるのに従って徐々に大きくなる
ことを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項8】
前記軸(D)を中心とする、最短の細長片(4C)に対応する第1の半径方向の線(DRC)、及び振動板(5)の最長の細長片(4L)に対応する第2の半径方向の線(DRL)は、互いどうしに非ゼロの角度を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)。
【請求項9】
請求項1に記載のディスク−振動板のアセンブリ(1)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする音響対応又は打撃機構(100)。
【請求項10】
請求項9に記載の音機構(100)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(200)。
【請求項11】
請求項10に記載のムーブメント(200)を少なくとも1つ及び/又は請求項9に記載の機構(100)を少なくとも1つ有し、腕時計である
ことを特徴とする計時器(1000)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音楽対応又は打撃機構付き計時器用のディスク−振動板のアセンブリであって、軸を中心に回転する少なくとも1つのディスクを有し、前記ディスクは、前記軸と実質的に平行な突き出るピンを有し、かつ、当該アセンブリの少なくとも1つの振動板に備えられる細長片と連係するように構成し、前記ピンのそれぞれは、対応する細長片の遠位端にある相補的な受け表面と連係するように構成する作用表面を有し、前記遠位端は、前記ピンと同じ前記ディスクの半径上に置かれ、前記振動板の前記細長片の断面は、音程が最も高い最短の細長片から音程が最も低い最長の細長片になるにしたがって徐々に大きくなるものに関する。
【0002】
本発明は、さらに、このようなディスク−振動板のアセンブリを少なくとも1つ有する音響対応又は打撃機構に関する。
【0003】
本発明は、さらに、このような音響機構を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0004】
本発明は、さらに、このようなムーブメントを少なくとも1つ及び/又はこのような機構を少なくとも1つ有する計時器、特に腕時計、に関する。
【0005】
本発明は、音楽対応の計時器及びオルゴールの分野に関し、より詳細には、音楽対応の腕時計、打撃機構付き腕時計及びミニッツリピーター(音で時刻を知らせるもの)腕時計、及びアラームに関する。
【背景技術】
【0006】
音楽対応の腕時計の打撃機構は、一般に、振動板と、振動板の細長片を作用させるシステムとによって形成されている。このような作用システムは、ほとんどのオルゴールにおけるように回転する円筒であったり、回転するディスクである。
【0007】
前記後者の回転ディスクの場合は、腕時計の平面に回転ディスクが配置され、全高が小さいので特に有利である。しかし、最も低い音程を発する細長片の作用エネルギーを大きく制限してしまいメロディーがあまり聞こえなくなる。
【0008】
貫通ピンが打撃用ディスク上に配置されており、振動板の各細長片を素早く持ち上げて放す。一般に、ディスク−振動板のシステムの大きさ決めは、以下の2つの基準に従う。
−細長片はすべて、それらの長さにかかわらず、同じ持ち上げ距離を有する。
−細長片は、曲がりの過剰減衰及びノイズの発生を回避するために、急に放される。
【0009】
音楽対応の計時器が古くからあるにもかかわらず、以下についてのガイダンスが現状の最先端技術には存在しない。
−打撃用ディスクに対する振動板の細長片の位置の適合性
−細長片及び作用ピンの幅
−振動板の細長片の高さ
−作用ピンの高さ
−ピンに接触した細長片を持ち上げるための斜面の形やピンの形と、ピンの移動方向(ピンは回転ディスクにおいて円形の軌道を描く)との間の何らかの適合性
【0010】
打撃機構のトルクの消費、したがって、力学的エネルギーは、一般に、最適化されない。
−高い音を作用させるのと低い音を作用させるのとでは、トルクの消費は非常に異なり、最も高い音程の音に対応する最短の振動板の細長片の作用においては過度であることがある。
−振動板の細長片が不適切に変形することによって、相当なエネルギー量が消費されることがある。これは、具体的には、腕時計の平面におけるねじれ又は曲がりをもたらすような変形である。これらの変形が過剰減衰され、不適切な周波数の寄与(不協和)をもたらすので、音響的な性能が実際に失われる。
【0011】
エネルギー損が、これらの不適切な変形の自由度に応じてかかる力及びトルクに比例し、そして、これは材料に発生する三次元的な変形及び材料が受ける機械的応力に依存するので、細長片が剛性を有するように作られていて不適切な三次元的な変形が非常に小さくなるようになっていても、このエネルギー損は非常に大きいことがある。なぜなら、その際の機械的応力が増加するからである。
【0012】
DUNCAN名義の米国特許出願US 2876670Aは、一定の厚み及び等しくない長さ及び幅を有する細長片を備えたオルゴール用ディスク−振動板のアセンブリであって、これらの細長片はすべて、振動板の正中面上へのディスクの射影内にあり、細長片が取り付けられている側の固体の部分において、共振空胴を形成する溝を有するものを開示している。
【0013】
BREGUET名義のスイス特許出願CH 704670Aは、細長片を備えたオルゴール用ディスク−振動板のアセンブリであって、これら細長片のすべてが振動板の正中面上へのディスクの射影内にあり、ディスクの規制ピンの高さが、伝達されるトルクに従って適合するようなものを開示している。
【0014】
FERNAND名義のスイス特許出願CH 405896Aは、様々な細長片の自由長を決定するような被覆に部分的に包囲されたオルゴール用振動板を開示している。
【0015】
SEGAN LTD名義の国際特許出願WO 2004/090863 A2は、メモリー、磁気的音発生装置及び振動板を備えた電子音楽発生装置を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記のような現状の先端技術の課題を克服するような打撃機構付きの振動板−ディスクのシステムを最適化することを提案するものである。
【0017】
従来技術において絶えず発生するエネルギー損失を減らすために、本発明は、計時器又はオルゴールの平面におけるねじれ及び曲がりの望まない自由度が発生するほどに細長片の剛性を増加させずに、細長片が作用される際に作られる力の方向及び種類を最適化しつつ、振動板の各細長片の1次曲げモードにおけるエネルギーを最大化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記を達成するために、本発明は、音楽対応又は打撃機構付き計時器用のディスク−振動板のアセンブリであって、軸を中心に回転する少なくとも1つのディスクを有し、前記ディスクは、前記軸と実質的に平行な突き出るピンを有し、かつ、当該アセンブリの少なくとも1つの振動板に備えられる細長片と連係するように構成し、前記ピンのそれぞれは、対応する細長片の遠位端にある相補的な受け表面と連係するように構成する作用表面を有し、前記遠位端は、前記ピンと同じ前記ディスクの半径上に置かれ、前記振動板の前記細長片の断面は、音程が最も高い最短の細長片から音程が最も低い最長の細長片になるにしたがって徐々に大きくなり、前記相補的な受け表面は、前記細長片の作用段階の終わりにおいて、前記ピンが備える相補的な端縁と、前記軸を中心とする同じ半径上に位置する端縁を有し、前記端縁及び前記相補的な端縁は、直線区画であるものに関する。
【0019】
本発明の特徴の一つによって、前記直線区画が軸に垂直な平面に対して傾けられる。
【0020】
本発明は、さらに、このようなディスク−振動板のアセンブリを少なくとも1つ有する音響対応又は打撃機構に関する。
【0021】
本発明は、さらに、このような音響機構を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0022】
本発明は、さらに、このようなムーブメントを少なくとも1つ及び/又はこのような機構を少なくとも1つ有し、具体的には腕時計である計時器に関する。
【0023】
添付図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明に係る音楽対応の腕時計用の振動板の概略的平面図を示しており、同図において、細長片の幅が最短の細長片から最長のものへと大きくなっている。
【
図2】
図2は、
図1と同様な形態で
図1の振動板を示しており、この振動板は、連係する打撃ないしメロディー用ディスクに重なっており、振動板の最長の細長片の一部が、打撃用ディスクの外部上に配置されている。
【
図3】
図3は、ディスクの回転軸と平行であってディスクの中心を始点とする半径方向の線に垂直な平面に沿った概略断面図を示しており、同図において、この平面は、方向Tを通り抜けて所与のピンと細長片の対を通っており、従来のディスク−振動板のアセンブリのピンの斜面と振動する細長片の斜面の連係の詳細を示している。
【
図4】
図4は、
図3と同様な形態で本発明に係るディスク−振動板のアセンブリを示しており、同図において、細長片の斜面及びピンの斜面が、細長片−ピンの接点を通るようなディスクの半径方向を向いている。
【
図5】
図5は、本発明に係るディスク−振動板のアセンブリを有する音楽対応又は打撃機構付き腕時計のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
振動板の細長片及び打撃用ディスクのピンの構成、機械的及び幾何学的な特性は、振動板の各細長片の作用を最適化するように互いに適合しており、これによって、力学的エネルギーの最適な活用を確実に行うことができ、音を発生するために必要なトルクの消費を最小限に抑えることができる。
【0026】
本発明は、音楽対応又は打撃機構付き計時器1000用のディスク−振動板のアセンブリ1に関し、軸dと実質的に平行に突出する複数のピン3が設けられ、少なくとも1つの振動板5の細長片4と連係するように構成し、軸dを中心に回転する少なくとも1つのディスク2を有する。
【0027】
ピン3はそれぞれ、作用表面30を有する。この作用表面30は、好ましくは、斜面又はこれと同等なものによって形成される。この斜面は、対応する細長片4の遠位端41にある相補的な受け表面40と連係するように構成し、この遠位端41は、ピン3と同じディスク2の半径上に配置される。好ましくは、相補的な受け表面40も、斜面又はこれと同等なものとなっている。
【0028】
作用とは、作用表面30が相補的な受け表面40を押して、細長片をその静止位置から離れさせて位置エネルギーを与えることによって細長片を緊張させる段階である。作用は、対応するピン3による細長片4の完全な緊張化の後に、ピン3と細長片4が離れて細長片4が共振する直前に終了し、細長片4は、位置エネルギーを音エネルギーの形に変える。この位置エネルギーは、ディスク2の回転運動時にピン3によって与えられるものである。
【0029】
好ましいことに、振動板5の細長片4の断面は、音程が最も高い最短の細長片4Cから音程が最も低い最長の細長片4Lになるにしたがって徐々に大きくなる。ここで「徐々に大きくなる」というのは、異なる長さを有する隣接する細長片の間で、大きくなるということ、又は同じ断面で段階的に大きくなるということを意味する。本発明の特定の一変形例において、このように大きくなることは、1つ1つの細長片ごとに厳密に大きくなる。好ましいことに、相補的な受け表面40は、ピン3に備えられた相補的な端縁32として、細長片4の作用段階の終わりにおいて回転軸dを中心とする同じ半径上に位置する端縁42を有する。
【0030】
より詳細には、
図1に示すように、振動板5の細長片4の幅は、最短の細長片4C(音程が最も高い)から最長の細長片4(音程が最も低い)になるにしたがって徐々に大きくなる。ここで「徐々に大きくなる」というのは、異なる長さを有する隣接する細長片の間で、大きくなるということ、又は同じ断面で段階的に大きくなるということを意味する。本発明の特定の一変形例において、このように大きくなることは、1つ1つの細長片ごとに厳密に大きくなる。
【0031】
好ましいことに、作用ピン3の幅も、当該ピン3が連係する細長片4の幅と列をなすように、徐々に大きくなる。ピン3の幅は、ディスク2の軸dを中心とする半径方向を向いた有用寸法である。すなわち、対応する細長片4と連係するように意図されたピンの部分の寸法である。
図4に示す特定の一実施形態では、ピン3は台形類である。
【0032】
振動板全体の細長片の高さが同じであることによって、振動板が一体形成される場合に、経済的な製造が可能になる。
【0033】
可能性のある1つの変形例は、細長片4の高さを変えるものであって、細長片4の幅を増加させる代わりに、細長片の高さを大きくすることを伴う。あるいは、単に、音程が最も高いものから音程が最も低いものになるにしたがって細長片の断面を大きくすることを伴う。特定の一実施形態において、細長片4の高さは、音程が最も高い最短の細長片4Cから音程が最も低い最長の細長片4Lになるにしたがって徐々に大きくなる。しかし、細長片が一定の断面を有する場合に、作用エネルギーは大きくなる。これによって、細長片が一定の高さ及び変化する幅を有するような、図に示した実施形態を使用することが好ましくなる。
【0034】
本発明に係る特定の一実施形態において、端縁42及び相補的な端縁32は、直線区画49、49Aである。
【0035】
より詳細には、これらの直線区画49及び49Aは、ディスクの回転軸dに垂直な平面Pに対して、傾斜している。すなわち、傾いている。
【0036】
特定の一実施形態において、作用ピン3が有する相補的な端縁32の幅も、複数のピン3が連係する細長片4の断面と同じ割合で徐々に大きくなる。
【0037】
好ましいことに、
図2に示すように、振動板5の最長の細長片4のいくつかは、少なくとも一部が打撃用ディスク2の外に配置されており、好ましくは、これらの細長片4の長さの3分の1を超える部分が打撃用ディスク2の外に配置されている。この特性によって、トルクの消費を最小限にすることができ、したがって、打撃機構又は音楽の機構の貯蔵パワーの寿命を延ばすことができ、チャイム時ないしメロディー演奏時にトルクの消費を均一化することができる。
【0038】
ピン2の作用表面30及び細長片4の相補的な受け表面40の従来の構成では、両方とも細長片の主方向に垂直な方向を向いている。このような従来の構成と比較して、本発明は、より少ないトルクを消費することを可能にする構成を提案するものである。ピン3の作用表面30及び細長片4の相補的な受け表面40は、
図2及び4に示すように、ディスク2の中心を始点として当該細長片と当該ピンとの接点を通る半径方向DRに垂直な方向に、適切な手法で向きを定められる。これによって、当該細長片4が局所的な半径方向DRとなす角度が変更され、細長片4がピン3によって持ち上げられた場合にいかなるエネルギーの浪費をも防ぎ、細長片4の1次曲げモードで蓄えられたエネルギーを最大化することができる。
【0039】
したがって、ピン3と細長片4の間の接触線は、細長片が放される瞬間、したがって、作用の終わり時、においてディスクの半径方向を向いていることが好ましい。
【0040】
図4は、連係する表面の2つの端部分、すなわち、ピン3上の線32及び細長片4上の線42を示している。もちろん、半径方向に厳密的に整列していることは最適な条件であるが、これは、音楽対応又は打撃機構付き計時器1000には他の部品もあるために、必ずしも満たされるとは限らない。これは、特に、打撃機構が大きな空間を占めるような複雑な機構に接続されるような腕時計の場合にいえる。この半径方向の線に対して、好ましくは5°までの最大の角度の偏差を許容することができる。
【0041】
図2は、振動板5の最短の細長片4C及び最長の細長片4Lにそれぞれ対応する2つの半径方向の線DRC及びDRLを示す。前記傾斜(図示した好ましい実施形態において、表面30及び40は斜面である)がディスク2に固定された複数のピン3の軌道の接線Tの方向を向いているので、各細長片4は、振動板2の平面Pに対して垂直に持ち上げられ、これによって、腕時計の平面におけるねじれや曲がりを防ぐことができる。
【0042】
打撃用ディスク2のピン3は、好ましくは、最短の細長片から最長の細長片になるにしたがって徐々に大きくなるような、ディスク2の平面Pに対する高さを有する。これによって、持ち上げ量が徐々に大きくなる。
【0043】
各細長片の作用エネルギーは、以下のように与えられる。
【数1】
ここで、Eはヤング率、bは幅、hは高さ、Lは細長片の長さ、δは細長片の持ち上げ量である。
【0044】
本発明によると、音程が最も高い細長片の作用エネルギーに対する音程が最も低い細長片の作用エネルギーの比は、1:3(これは、5dB未満の音響レベルの差に相当する)よりも大きくなければならない。
【0045】
好ましいことにすべての細長片に対して細長片の高さが同一であるような特定の一実施形態においては、この基準は、細長片の幅、それらの持ち上げ量、及びそれらの長さの間の厳密な関係が要求される。音程が最も低い細長片4L(最長)(幅b
g;長さL
g;持ち上げ量δ
g)と、音程が最も高い細長片4C(最短)(幅b
a;長さL
a;持ち上げ量δ
a)とを考えた場合、関係は以下の通りである。
【数2】
【0046】
具体的には、同じ高さ及び同じ幅の細長片4、そして所与の周波数及び持ち上げ量の特性(周波数f;持ち上げ量δ)のそれぞれに対して、音程が最も低い細長片4L(周波数f
g;持ち上げ量δ
g)と音程が最も高い細長片4C(周波数f
a;持ち上げ量δ
a)との間の関係は、以下の不等式を満たす。
【数3】
【0047】
特定の一実施形態において、複数のピン3の作用表面30及び細長片4の相補的な受け表面40は、ディスク2の平面Pに対して傾斜した平面であり、ディスク2の中心を始点として関心事の細長片4とピン3の間の接点を通る局所的な半径方向DRと垂直な方向を向いている。
【0048】
より詳細には、軸dを中心とする、振動板5の最短の細長片4Cに対応する第1の半径方向の線DRC、及び最長の細長片4Lに対応する第2の半径方向の線DRLは、お互いどうし非ゼロの角度を形成する。
【0049】
本発明は、さらに、ディスク−振動板のアセンブリ1を少なくとも1つ有する音響対応又は打撃機構100に関する。
【0050】
本発明は、さらに、このような音響機構100を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメント200に関する。
【0051】
本発明は、さらに、このようなムーブメント200を少なくとも1つ及び/又はこのような機構を少なくとも1つ有するような、具体的には腕時計100である、計時器1000に関する。
【0052】
本発明は、以下のような多くの長所を有する。
−腕時計が発する音の音響レベルを1kHz〜4kHzの周波数帯に改善する。
−メロディー時に知覚される音響レベルの均一性を増加させる。
−メロディーの同調及び純粋性を改善する。
−打撃機構の貯蔵パワーを増加させる。
【符号の説明】
【0053】
1 ディスク−振動板のアセンブリ
2 ディスク
3 ピン
4 細長片
4C 最短の細長片
4L 最長の細長片
5 振動板
30 作用表面
32 相補的な端縁
40 相補的な受け表面
41 遠位端
42 端縁
49、49A 直線区画
100 音響対応又は打撃機構
1000 計時器
d 軸
P 平面
DR 局所的な半径方向