【実施例】
【0070】
例:
眼窩神経と坐骨神経の結紮によるラットの異痛/痛覚過敏へのタペンタドールの効果
Bennett and Xie(Bennett G.J. and Xie Y.K.(1988),Pain 33,87−107)に記載されている坐骨神経結紮は、末梢−神経因性痛のモデルを提供する。一方、Vos et al.(Vos BP, Strassman AM, Maciewicz RJ (1994), J.Neurosci.14に記載されている眼窩神経結紮は、三叉神経因性痛の一面を代表する中枢(モノ−)神経因性痛のモデルを提供する。
【0071】
以下の実験においては、両方の疼痛モデルにおけるタペンタドールの鎮痛性能を分析し、レボキセチン(reboxetine)、モルヒネ、およびその二つの薬剤の組み合わせのそれと比較した。レボキセチンは、ノルエピネフリン(NA)の再取り込みを阻害することが知られており、ここでモルヒネは、有効なμ−オピオイド受容体アゴニストの例として取り上げた。
【0072】
I.動物
到着時体重150〜200gの雄のSprague−Dawleyラット (Breeding center: Charles River Laboratories, L’Arbresle, France)を使用した。あらゆる治療/中断の前に実験室に導入して少なくとも1週間は、動物は制御された条件(22±V C、60%相対湿度、12時間/12時間の明/暗サイクル、任意に食料および水)で管理し、そして最終的には安楽死させた。
【0073】
II.外科的手順(CCI−SNまたはCCI−IONの導入)
a)坐骨神経への慢性の圧迫損傷(CCI−SN)
ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg腹腔内投与(以下i.p.とも示す))によりラットを麻酔した。片側のCCI−IONは、Zeissの顕微鏡(10−25x)を使用して直接的な目視制御のもとで、Bennett and Xie (G.J. Bennett et al.,Pain,33(1988)87−107)に記載のように行った。
【0074】
b)眼窩神経への慢性の圧迫損傷(CCI−ION)
ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg腹腔内投与)によりラットを麻酔した。片側のCCI−IONは、Zeissの顕微鏡(10−25x)を使用して直接的な目視制御のもとで、Vos et al (Vos BP, Strassman AM, Maciewicz RJ (1994),J.Neurosci.14:2708−2723)に記載のように行った。簡潔言うと、頭をHorsley−Clarke定位フレームに固定し、頭皮中線切開を作成し、頭蓋骨および鼻骨を露出させた。上顎骨、前頭骨,涙骨、および頬骨により形成された眼窩の縁を切り取った。眼窩の内容物を穏やかに下を向かせ、まさに眼窩下の尾部である、眼窩腔中最も鼻に近い領域である切開していない眼窩神経にアクセスできるようにする。5mmのみ神経を自由にし(Vos et al.)、その周りに2つの第二クロムのガット(5−0)緩んだ結紮(約2mmの空間)に置換する空間を提供する。望ましい程度の狭窄を得るために、Bennett and Xie (Bennett GJ, Xie YK (1988), Pain 33: 87−107)により定型化された基準を使用した:すなわち、結紮によりちょうど目に見える量によって神経の直径を減少させ、神経上膜の循環を遅らせるが、妨げはしなかった。最終的に、頭皮切開を絹の縫合(4−0)で閉じた。偽性手術(ham−operated)ラットにおいては、IONをSaureの手順で露出したが、しかし結紮をしていない。
【0075】
III.薬物治療および行動テスト(一般的手順)
CCIラットの異痛/痛覚過敏検出が安定した場合、手術後14日で薬物治療を開始した(Latremoliere A, Mauborgne A, Masson J, Bourgoin S, Kayser V, Hamon M, Pohl M.(2008),J.Neurosci.28:8489−8501)。
【0076】
すべての行動学的アッセイは、静かな室内で9時から17時の間に行った。ラットは個々に小さい(35×20×15cm)プラスチックゲージに2時間の馴化期間(habituation period)でおいた。
【0077】
a)CCI−IONラットのRandall−Selittoテスト
ラットの後肢にせん孔機(0.2mm先端径)により圧力(0−450g/mm
2)を高めることで疼痛を生じさせる。後肢引き込み反応または発声反応のいずれかが動物に生じた圧力を測定された測定値とした。
【0078】
b)CCI−IONラットのvon Freyフィラメントテスト
機械的感受性は、段階的に連続する11のvon Freyフィラメント((Bioseb,Bordeaux、フランス)により測定される。フィラメントは、各々0.07,0.16,0.40,0.60,1.00,2.00,4.00,6.00,8.00,10.00および12.00gの曲げ力を生み出す。刺激は、神経破壊側において、IONテリトリー(触毛パッド)内に3回与え、その後、ラットあたり各々のフィラメントに計6回反対側に与え、常にフィラメントが最も小さい力を生じるように開始する。最初の休息状態からラットが帰ってきた後、von Freyフィラメントを少なくとも3秒行う。各々のセッションにおいて、力を増大させつつvon Freyフィラメントの完全に連続してテストする。行動侵害反応は以下のいずれかから構成される、
(1)明確な引き込み反応:ラットが足早に後ろに引き返す;または
(2)回避/攻撃:ラットは、ケージの壁に対して屈む姿勢(時々、体の下に頭が埋もれるように)をとるために刺激対象からその体を離すことにより受動的に、あるいは、噛みつきおよび掴み取り行動を行い、刺激対象を攻撃することにより積極的に、フィラメントとさらに接触することを回避した;または
(3)非対称の顔のグルーミング:刺激された顔面エリアに向けられる連続する少なくとも3回の洗顔行動発作を示す。
【0079】
Vos et alに最初に記載されているようなランク付けされた反応スコアシステムにおいて後者の反応が最も高いスコアを示す。(各側3つのうち少なくとも2つに対する)これらの反応のうち少なくとも一つを生じさせる最少の力のフィラメントを、機械的反応の閾値の測定値とした。12.00gフィラメントは遮断閾値である(この押圧で組織破壊が生じない)。
【0080】
c)CCI−SNラットの von Frey フィラメントテスト
機械的感受性は、段階的な連続するvon Freyフィラメント(Bioseb,Bordeaux,フランス;曲げ力:0.07−60.0g)により測定する。刺激は、神経破壊側(同側、右)において、SNテリトリー(右後肢の中間足底表面)内に3回与え、その後、ラットあたり各々のフィラメントに計6回反対側に与え、常にフィラメントが最も小さい力を生じるように開始する。最初の休息状態からラットが帰ってきた後、von Freyフィラメントを少なくとも3秒行う。各々のセッションにおいて、力を増大させつつvon Freyフィラメントの完全に連続してテストする。後肢引き込み反応を生じさせる最少の力のフィラメントを、機械的反応の閾値の測定値とした。60gフィラメントは遮断閾値である
【0081】
V.統計的分析
データは平均±S.E.M.で示される。行動学的反応における薬剤効果の研究において時間効果とグループの差を比較するために、適切な場合、繰り返し測定の分散分析(ANOVA)もしくはワンウェイANOVAが使用される。グループ間でANOVAが有意差を示した場合、データをさらにFisherのPLSD法(post hoc Fisher’s protected least significant difference)試験によりさらに分析する。経時曲線下面積(AUC)を台形法則を使って計算した。二つのグループのAUC値間の差は、Studentのtテストを使用した計算した。有意レベルをP<0.05にセットした。
【0082】
例1
CCI−SNラットにおけるタペンタドールによる急性または亜慢性治療の効果
Randall−Selittoテスト
タペンタドール(10mg/kg腹腔内投与)またはその賦形剤(0.9%NaCI腹腔内投与)を外科手術後14日後にCCI−SNラットに急激に投与した。後肢引き込み(A)または発声(B)が生じる圧力閾値を、タペンタドールまたは生理食塩水の急性腹腔内投与(時間=0)の後、複数の時間において、Randall−Selittoテストを使用して、測定した。
【0083】
結果をまとめ、
図1に示す(AおよびB)。それぞれの点は3〜4回の独立した測定の平均±S.E.M.である。*P<0.05は外科手術の前(横座標におけるC)の同じラットにおける圧力閾値との比較;Dunnettのテスト。
【0084】
図1は、坐骨神経の片側の結紮後2週間において、CCI−SNと同側の後肢引き込み(
図1A)および発声(
図1B)を引き起こす圧力閾値が有意に減少したことの、証拠となる。この時において、生理食塩水の急性腹腔内投与によっては、両方の圧力閾値(
図1A、B)において、CCI−SNが引き起こす減少に有意に影響を与えなかった。それとは反対に、10mg/kg腹腔内投与の用量において、タペンタドールによりこれらの値が急激に増加しており、これは薬剤投与後少なくとも60分間は継続する。実際、タペンタドール治療1時間の間に、後肢引き込みを引き起こす圧力閾値が、神経結紮(
図1A)のための外科手術の前の無傷の健康なラットで測定した値と有意に異なるわけではない。発声に関しては、この反応を引き起こす圧力閾値は、CCI−SNラットにおけるタペンタドール投与後45分間において未治療の健康なラットよりもごくわずかに高く(+20%)(
図1B)、CCI−SNが引き起こす痛覚過敏の拮抗に加えて鎮静効果が生ずることを示唆される。
【0085】
von Freyフィラメントテスト
CCI−SNラットにおけるタペンタドールによる急性治療の効果を調べるために、タペンタドール(1.3および10mg/kg腹腔内投与)またはその賦形剤(0.9%NaCI腹腔内投与)を外科手術後14日後にCCI−SNラットに急激に投与した。偽性手術ラットも並行して治療した。同側の後肢の足底表面上へのvon Freyフィラメントの適用への疼痛反応を引き起こす圧力閾値を、タペンタドールまたは生理食塩水の急性注射の後、複数の時間において測定した。遮断は60g圧力に固定した。
【0086】
CCI−SNラットにおけるタペンタドールによる亜慢性治療効果を調べるために、外科手術後16日後(時間=D)に開始し、タペンタドール(10mg/kg、毎日2回、午前10:00および午後6:00)または生理食塩水(薬剤と1日に同じ時間に)の腹腔内への注射を、ラットに4日間受けさせた。その後(外科手術後20日後)、タペンタドールおよび生理食塩水で前治療したCCI−SNラットに、タペンタドール(10mg/kg;時間=0)を腹腔内への注射を行い、その後、その後の複数の時間いおいて圧力閾値を決定するために同側の後肢にvon Freyフィラメントテストを行った。
【0087】
結果をまとめ、
図2A(急性治療)および
図2B(亜慢性治療)に示す。(丸括弧中に示されるように)それぞれの点は5〜10回の独立した測定の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、タペンタドールまたは生理食塩水の注射前(矢印、横座標における0)の同じラットにおける圧力閾値との比較;Dunnettのテスト。
【0088】
図2Aは、結紮された側におけるvon Freyフィラメントの足底への適用に対する後肢引き込みを引き起こす圧力閾値が、無傷の健康なラットと比較して(
図2A中の横座標のCに対する0に対応する圧力値を比較)90%減少したことの、証拠となる。1mg/kgの用量のタペンタドール腹腔内投与においては、不連続な効果しかなく、注射後最初の15〜30分間において圧力閾値の増加は約40%(有意でない)であった(
図2A)。それに対して、薬剤投与の後15〜30分間のCCI−SNラットにおいて、健康な対象の値(横座標におけるC)とはもはや異ならない圧力閾値を有しているので(
図2A)、タペンタドール10mg/kg腹腔内への投与後は大きな効果があることが示されている。その後、タペンタドールの効果は段階的に消失し、そして薬剤注射後90分において、機械的異痛は、生理食塩水で治療されたCCI−SNラットのそれと有意に異なることはなかった。3mg/kg腹腔内投与の用量においては、タペンタドールは、また圧力閾値を増大させたが、しかし、10mg/kg腹腔内投与に比べて狭い範囲であり、CCI−SNラットにおける1〜10mg/kg腹腔内投与の用量範囲においては、明らかな用量依存の薬剤の抗異痛効果が示された(
図2A)。
【0089】
図2Bのデータは、タペンタドールの最後の投与により、生理食塩水−前治療およびタペンタドール−前治療において同じ抗異痛効果生み出すことが示されている。事前の実験シリーズにおける急性時治療の後(
図2A)、タペンタドールは亜慢性の治療条件下での最後の注射の後、最初の45分において著しく圧力閾値を増加させ、そして、この効果はCCI−SNラットが薬剤により前処理されているかどうかに関わらず、この効果は同様の経時変化で段階的に消失する。
【0090】
例2
CCI−IONラットにおけるタペンタドールによる急性または亜慢性治療の効果
CCI−IONラットにおけるタペンタドールによる急性治療効果を調べるために、タペンタドール(1または10mg/kg腹腔内投与)またはその賦形剤(0.9%NaCI腹腔内投与)を外科手術後14日後にCCI−SNラットに急激に投与した。偽性手術ラットも並行して治療した。同側の後肢の足底表面上へのvon Freyフィラメントの適用への疼痛反応を引き起こす圧力閾値を、タペンタドールまたは生理食塩水の急性注射の後、複数の時間において測定した。遮断は12g圧力に固定した。
【0091】
CCI−IONラットにおけるタペンタドールによる亜慢性治療効果を調べるために、外科手術後16日後(時間=D)に開始し、タペンタドール(10mg/kg、毎日2回、午前10:00および午後6:00)または生理食塩水(薬剤と1日に同じ時間に)の腹腔内への注射を、ラットに4日間受けさせた。その後(外科手術後20日後)、タペンタドールおよび生理食塩水で前治療したCCI−SNラットに、タペンタドール(10mg/kg;時間=0)を腹腔内への注射を行い、その後、その後の複数の時間いおいて圧力閾値を決定するために同側の後肢にvon Frey フィラメントテストを行った。
【0092】
結果をまとめ、
図3A(急性治療)および
図3B(亜慢性治療)に示す。それぞれの点は丸括弧中に示される回数の独立した測定の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、タペンタドールまたは生理食塩水の注射前(矢印、横座標における0)の同じラットにおける圧力閾値との比較;Dunnettのテスト。
【0093】
図3Aに示されるように、外科手術後2週間において、CCI−IONラットにおける触毛パッド上のvon Freyフィラメントの適用に対する疼痛反応を引き起こす圧力閾値は、無傷の健康なラットで測定されたそれの5%にも満たない(横座標における0とCの比較)。この時において、生理食塩水の急性時の腹腔内投与は有効でないが、しかしタペンタドールの1mg/kg腹腔内投与によって、生理食塩水で治療したCCI−IONラットと比較して、圧力閾値を6倍まで増加させた。この増加は、段階的にタペンタドール注射の最初の45分間は大きくなり、そしてその後45分内に圧力閾値がもとに戻り、生理食塩水で治療したCCI−IONラットに見られるそれと同じ底辺レベルにまで下がる(
図3A)。10mg/kg腹腔内投与の用量において、薬剤注射後30〜60分後において、圧力閾値が注射前のそれと比較して15〜20倍高いので、タペンタドールの抗異痛効果は、その振幅と継続時間の両方で非常に大きかった。さらに、この用量において、圧力閾値の薬剤の誘導による増加を通じて評価したタペンタドールの抗異痛効果は、薬剤注射後2時間よりも長く統計的に優位に持続された(
図3A)。
【0094】
図3は、タペンタドールの抗異痛効果(10mg/kg腹腔内投与)は、CCI−IONラットが先だつ4日間において生理食塩水(1日2回、10:00及び18:00)もしくはタペンタドール(10:00及び18:00の10mg/kg腹腔内投与)の繰り返し注射のいずれであっても、同じ特性(振幅、継続時間)を有している。
【0095】
したがって、CCI−SNラットでもCCI−IONラットでも、亜慢性の治療条件下におけるタペンタドールへの感作または脱感作は見られなかった(例えば、
図2Bおよび3B)。
【0096】
例3
各偽性手術ラットに対するCCI−SNラットにおける神経節および中枢組織におけるATF3、IL−6、iNOSおよびBDNFをコードするmRNAレベルにおけるタペンタドールの亜慢性治療の効果
CCI−SN又は偽性手術の後20日に、リアルタイムqRT−PCR測定を行った。生理食塩水またはタペンタドールを例2による治療条件(亜慢性治療条件)下で16〜20日間投与した。20日目の最終注射の後ラットを頭部除去し、直ぐに組織を冷却中(0℃)で解剖し、Latremoliere et al.(J.Neurosci.2008,28,8489−8501)に記載のように、mRNA抽出および定量化を進めた。
【0097】
結果を
図4にまとめた。
【0098】
mRNAレベルは、レセプター遺伝子GaPDH(グリセルアルデヒド3−フォスフェイトデヒドロゲナーゼ)をコードする転写物に対応して表現される。各棒は4〜6回の独立した測定の平均値±S.E.M.である。
*P<0.05各々偽性手術における値と比較した;Fisherの最少有意差法post hocテスト(Fisher’s protected least significant difference post hoc test)。.
【0099】
偽性手術ラットに比較してATF3のmRNA(約7倍)およびIL−6のmRNA(約15倍)の著しい過剰発現が、CCI−SNラットの(結紮された坐骨神経と)同側のL4−L6後根神経節(DRG)において、見いだされた。それに加えて、BDNFのmRNAレベルおよびiNOSのmRNAレベルもまた偽性手術ラットに比較して高かったが、しかし、それらの過剰発現は前2つのマーカーのそれよりも小さいものであった(
図4A)。
【0100】
L4−L6における脊髄の腰膨大の同側の背中四分円(dorsal quadrant)において、偽性手術ラットに比較してCCI−SNラットにおいてはATF3−およびBDNF−mRNAレベルの明確な増大が見いだされた(
図4B)。それとは対照的に、IL−6およびiNOSをコードするmRNAレベルについては、CCI−SNによって有意に影響を受けていなかった。
【0101】
図4Aおよび4Bに示されるように、同側のDRGおよび脊髄の腰膨大の同側の背中四分円におけるATF3、IL−6、iNOSおよびBDNFをコードするmRNAレベルは、タペンタドール治療ラット対生理食塩水治療ラットにおいて、有意な差がなかった、これらのデータは、亜慢性治療に使用される条件下において、タペンタドールはCCI−SNによって引き起こされる神経炎症因子および栄養因子の過剰発現を阻害しなかった、ということを示唆している。
【0102】
例4
各偽性手術ラットに対するCCI−IONラットにおける神経節および中枢組織におけるATF3、IL−6、iNOSおよびBDNFをコードするmRNAレベルにおけるタペンタドールの亜慢性治療の効果
CCI−SN又は偽性手術の後20日に、リアルタイムqRT−PCR測定を行った。生理食塩水またはタペンタドールを例2による治療条件(亜慢性治療条件)下で16〜20日間投与した。20日目の最終注射の後ラットを頭部除去し、直ぐに組織を冷却中(0℃)で解剖し、Latremoliere et al.(2010,Neuropharmacology,58,474−487)に記載のように、mRNA抽出および定量化を進めた。
【0103】
結果を
図5にまとめた。
【0104】
mRNAレベルは、レセプター遺伝子GaPDH(グリセルアルデヒド3−フォスフェイトデヒドロゲナーゼ)をコードする転写物に対応して表現される。各棒は4〜6回の独立した測定の平均値±S.E.M.である。
*P<0.05各々偽性手術における値と比較した;Fisherの最少有意差法post hocテスト(Fisher’s protected least significant difference post hoc test)。.
【0105】
偽性手術ラットに比較してATF3のmRNA(約15倍)およびIL−6のmRNA(約20倍より大きい)の著しい過剰発現が、CCI−IONラットの障害のある側における三叉神経節において、観察された(
図5A)。偽性手術ラットに対してION結紮されたラットにおける同側の三叉神経節において、iNOS遺伝子転写物にはなくBDNF遺伝子転写物の明らかな上方調節もまた観察された。
【0106】
三叉神経の同側の脊髄核の尾側部分(Sp5c)において、対となる偽性動物に対してCCI−ION動物において、ATF3、IL−6、BDNFをコードするmRNAのレベルのわずかな、有意でない変化が見られた(
図5B)。特に、ATF3のmRNAレベルの増加傾向およびIL−6のmRNAの減少傾向が見られたが、偽性ラットと比較してCCI−IONラットにおいて、BDNFのmRNAレベルは明確に変化しなかった
。
【0107】
興味深いことに、タペンタドールの亜慢性治療は、CCI−IONラットにおける神経結紮と同側の三叉神経節および三叉神経脊髄核の両方におけるATF3、IL−6、BDNFおよびiNOSのmRNAレベルにおいて有意な効果がなかった(
図5Aおよび5B)。
【0108】
例3および4に従うリアルタイムqRT−PCR測定により、CCI−SNおよびCCI−IONラットの両方の同側の末梢神経節においてBDNFのmRNAレベルの有意な増加が見られたが、しかし、CCI−SNラットの中枢組織(同側の脊髄の腰膨大の背中四分円)においては偽性動物に比べてわずかであった。実際、BDNFのmRNAレベルは、同側のCCI−ION−ラットのSp5cおいては、対となる偽性ラットに対して、有意な変化がなかった(
図5B)。
【0109】
しかしながら、特異的mRNAレベルのこれらのリアルタイムqRT−PCR測定は20日おいてのみ行われ(すなわち、外科手術後2週間の回復期間と、それに続く5日間の生理食塩水またはタペンタドールによる治療)、したがって、CCI−ION−ラットの外科手術後早期における、さらなるSp5cにおけるBDNF発現の誘導の可能性に関する情報は与えられない。したがって、次の研究においては、外科手術後24時間(1日)においてリアルタイムqRT−PCRのmRNA測定を行った:
【0110】
例5
外科手術後24時間におけるCCI−ION−ラットと比較したCCI−SN−ラットの中枢組織におけるBDNFのmRNAの発現
例3および4にしたがい、外科手術後24時間においてリアルタイムqRT−PCR測定を行った。
【0111】
この研究の結果を
図6に要約し、そして例3および4の結果と比較した。
【0112】
図6は、CCI−SN後1日ですでに同側のL4−L6のDRGおよび脊髄の腰膨大の背中四分円の両方においてBDNFのmRNAレベルが上方調節されていたことの証拠となる。この効果は見出されている外科手術20日後の効果と同等のものである。同様に、CCI−SN後わずか1日において、BDNFのmRNAレベルの上方調節が同側の三叉神経節において観察された(
図6B)。しかしながら、すでに示した20日後−CCIのそれと同様に、外科手術後1日の偽性ラットと比較してCCI−ION−ラットにおける同側のSp5CにおいてBDNFのmRNAレベルの有意な変化は見られなかった(
図6B)。
【0113】
これらのデータは、BDNF発現は、末梢神経結紮後の頭部外に対して、頭部の中枢神経においては異なって誘導されることを、示唆する。したがって、BDNFの過剰発現は、Sp5cにおいてではなく、(Merighi et al., 2008;Wang et al., 2009と一致するように)脊髄レベルで痛みシグナル感作に寄与すると仮定できた。
【0114】
例6
健康なラットにおけるBDNFの鞘内投与による誘導される機械的異痛におけるタペンタドールによる急性治療の効果
この研究の第一の部分においては、BDNF(ラットあたり25μlの生理食塩水中0.3ng)または生理食塩水(25μl)を、イソフルレン(Mestre et al. (1994), J. Pharmacol. Toxicol. Meth.,32,197−200に従う)によりわずかに麻酔した大人の雄のラットに、鞘内に注射し、そして、その後、複数回にわたって動物の後肢にvon Freyフィラメントテストを行った。
【0115】
結果をまとめ、
図7Aに示した。圧力閾値は丸括弧中に示される独立した測定回数の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、鞘内注射のための麻酔の前の同じラット(横座標における0)における圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0116】
図7Aは、BDNFの固有の鞘内注射が、von Freyフィラメントテストにおける後肢引き込みを引き起こす圧力閾値の段階的および長期にわたる減少を引き起こすことの証拠となる。その後、この治療後4日〜8日において、圧力閾値は、CCI−SNラットにおいて外科手術2週間に測定した以前の値と同様の低さとなった(
図2参照)。その後、圧力閾値は段階的に増加したが、しかし、それらはBDNFの急性鞘内注射後11日における未治療の健康なラットの値の未だ半分にすぎなかった(
図7A)。それとは反対に、触毛パッド内に適用されたvon Freyフィラメントに対する痛み反応を引き起こす圧力閾値は、BDNFの鞘内投与後11日までいずれの期間も有意に変化しなかった(閾値は12g近くで安定し、無傷の健康なラットで見られたのと同様であった;データは示していない)。したがって、注射されたBDNFは脊柱上の部位において拡散していないか、または、この神経栄養因子は頭部レベルにおいて異痛を引き起こさないと仮定できる。
【0117】
この研究の第二の部分においては、上記のようにBDNF(時間=C)の鞘内注射後7日目(横座標において時間=0)にタペンタドール(3又は10mg/kg腹腔内投与)または生理食塩水を投与した。後肢に適用したvon Freyフィラメントテストを使用して、圧力閾値を測定した。
【0118】
結果をまとめ、
図7Bに示した。圧力閾値は丸括弧中に示される独立した測定回数の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、タペンタドールまたは生理食塩水注射前(横座標における0)における圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0119】
図7Bに示されるように、注射後15〜30分において10mg/kg腹腔内投与用量により圧力閾値を未治療の健康なラット(横軸におけるC)と同じレベルまで戻し、タペンタドールは用量依存的にBDNFにより誘導される異痛を無効にした。その後、タペンタドールの抗異痛作用は、以前に観察したCCI−SNラット(
図2参照)と同じく時間経過と共に、段階的に消失した。
【0120】
例7
BDNFの鞘内投与により誘導される異痛(A)または坐骨神経への慢性の圧迫損傷(B)におけるタペンタドールと比較したレボキセチンの効果
この研究(A)の第一の部分においては、BDNF(ラットあたり25μlの生理食塩水中0.3ng)の鞘内投与後7日目に、レボキセチン(10mg/kg腹腔内投与;メシラート,Ascent Scientific,Bristol,UK)、タペンタドール(10mg/kg腹腔内投与)または生理食塩水(ラットあたり0.5ml腹腔内投与)を注射した。その後、複数の時間において後肢に適用したvon Freyフィラメントテストを使用して圧力閾値を測定した。
【0121】
結果をまとめ、
図8Aに示した。各点は丸括弧中に示される独立した測定回数の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、レボキセチン、タペンタドールまたは生理食塩水注射前(横座標における0)における圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0122】
図8Aに示されるように、レボキセチンの急性投与は、7日前のBDNF(25μlの生理食塩水中0.3ng)の固有の固有の鞘内注射による引き起こされる機械的異痛の、有意にしかし部分的な解消を生み出した。von Freyフィラメントテストにおけるレボキセチンに誘導された圧力閾値の増加は、その最大値において、タペンタドールの10mg/kg腹腔内投与により引き起こされるそれのわずか3分の1であった(
図8A)。レボキセチンおよびタペンタドールにより引き起こされる最大値に各々45分および15分で到達しており、したがって、レボキセチンの効果はタペンタドールのそれと比較して比較的遅く進む(
図8A)。
【0123】
この研究(B)の第二の部分においては、レボキセチン(10mg/kg腹腔内投与)、タペンタドール(10mg/kg腹腔内投与)または生理食塩水(ラットあたり0.5ml腹腔内投与)の前2週間に、坐骨神経に片側の慢性の圧迫損傷を与えた。その後、複数の時間において後肢に適用したvon Freyフィラメントテストを使用して圧力閾値を測定した。
【0124】
結果をまとめ、
図8Aに示した。各点は丸括弧中に示される独立した測定回数の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、レボキセチン、タペンタドールまたは生理食塩水注射前(横座標における0)における圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0125】
図8Bに示されるように、外科手術後2週間におけるレボキセチン(10mg/kg腹腔内投与)の急性体系的投与の後、圧力閾値におけるCCI−SNに引き起こされる減少からの有意ではあるが部分的でしかない回復が示された。興味深いことに、BDNFの鞘内注射を受けた手術していないラットにおいても見られるように(
図8A)、レボキセチンの抗異痛作用はよりゆっくり進み、そしてCCI−SNラットにおけるタペンタドール(10mg/kg腹腔内投与)により引き起こされるそれよりも非常に小さい(
図8B)。
【0126】
例8
CCI−SNラットにおける機械的異痛に対するレボキセチンおよびモルヒネによる組合せの急性治療の効果
CCI−SNラットにおける機械的異痛に対するレボキセチンおよびモルヒネによる組合せの急性治療の効果を研究する前に、最初に、CCI−SNラットにおける機械的異痛に対するモルヒネによる急性治療の用量依存性効果を測定した。
【0127】
モルヒネによる治療
CCI−SN外科手術後14日目に、モルヒネ(1、3および10mg/kg皮下注射(以下s.c.とも示す))またはその賦形剤(0.9%NaCI)を急速に注射した。偽性手術ラットも並行して治療した。モルヒネまたは生理食塩水の急性の注射の後、複数の時間において、同側の後肢の足底表面上に適用されるvon Freyフィラメントに対する痛み反応を引き起こす圧力閾値を測定した。
【0128】
結果をまとめ、
図9に示した。各点は(丸括弧中に示される)独立した5〜7回の測定の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、モルヒネまたは生理食塩水注射前(矢印、横座標における0)におけるCCI−SNラットにおいて測定された圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0129】
図9に示すように、モルヒネは、10mg/kg皮下注射の用量において、薬剤注射の後30分においてすぐにCCI−SNにより引き起こされる機械的異痛を完全に無効にさせ、そしてこの効果は少なくとも1時間持続した。1および3mg/kg皮下注射の他の二つのテスト用量においては、モルヒネにより異痛は完全に無効にはならず、薬剤効果は短いものであった。したがって、レボキセチンがモルヒネンの効果を促進するかしないかを調べるために、これらの後者二つの用量を選択した。
【0130】
低用量のレボキセチンおよびモルヒネによる治療
CCI−SN外科手術の後14日目に、レボキセチン(10mg/kg腹腔内投与)またはその賦形剤(0.9%NaCI)を注射し、その15分後に、モルヒネ(1mg/kg皮下注射)またはその賦形剤(0.9%NaCI)を注射し、その4時間後にvon Freyフィラメントテストを行った。偽性手術ラットも並行して治療した。
【0131】
得られた閾値の経時変化曲線を
図10A中に示す。各点は(丸括弧中に示される)独立した5〜6回の測定の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、第二の注射前(矢印、横座標における0)におけるCCI−SNラットにおいて測定された圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0132】
図10Aに示すように、どちらか一方の薬剤単独の投与の後において、圧力閾値の不連続な増加しか見られない。それとは対照的に、組合せ治療の後、CCI−SNラットにおいてレボキセチン+モルヒネの明確な抗異痛効果を示した。
【0133】
経時曲線下における各面積(AUC値)の(台形法則による)計算により、レボキセチンまたはモルヒネの単独投与の各々の値の合計[R+M]よりも、レボキセチン+モルヒネの組合せ[RM]が80%高い値を示し、これは、薬剤組合せの得られた抗異痛効果が、別々に考えられる各薬剤の効果の単純な足し算から予測される効果を超えるものである(
図10B参照)。
【0134】
中用量のレボキセチンおよびモルヒネによる治療
レボキセチンおよびモルヒネにおけるこのような明白な相乗効果がモルヒネ、3.0mg/kg皮下注射の中用量でもまた生じるか否かを、上記と同じ条件でしかし他のCCI−SNラットを使用して、テストした。その結果を
図11に示した。
【0135】
図11Aは、レボキセチン+モルヒネの組合せ治療が、どちらか一つの薬剤の単独投与よりもより効果的にvon Freyフィラメントテストにおける後肢引き込みを生じさせる圧力閾値を増加させることの証拠となる。しかしながら、AUC値に対応する計算では、レボキセチン+モルヒネの組合せ[RM]の全体の抗異痛効果は、別々に各々の薬剤の投与により生じる効果の合計[R+M]よりもわずか25%(P>0.05)高いにすぎない(
図11B参照)。したがって、モルヒネの3.0mg/kg皮下注射によっては、この鎮静アゴニストおよびレボキセチン(10mg/kg腹腔内投与)におけるそれとの間に確かな相乗効果ないことが示された。
【0136】
例9
CCI−IONラットにおける機械的異痛に対するレボキセチンおよびモルヒネによる組合せの急性治療の効果
CCI−IONラットの頭部レベルにおいてレボキセチンおよびモルヒネの抗異痛効果における相乗効果がまた生じるか否かを調べることを目的とした一連の最後の実験のために、モルヒネを3.0mg/kg皮下注射の用量で使用した。
【0137】
CCI−ION外科手術後14日目に、レボキセチン(10mg/kg腹腔内投与)またはその賦形剤(0.9%NaCI)を注射し、その15分後に、モルヒネ(3mg/kg皮下注射)またはその賦形剤(0.9%NaCI)を注射し、その4時間後にvon Freyフィラメントテストを行った。偽性手術ラットも並行して治療した。
【0138】
得られた閾値の経時変化曲線を
図12A中に示す。各点は(丸括弧中に示される)独立した3〜6回の測定の平均±S.E.M.である。*P<0.05は、第二の注射前(矢印、横座標における0)におけるCCI−IONラットにおいて測定された圧力閾値と比較;Dunnettのテスト.
【0139】
図11および12を比較すると、この用量においてCCI−SNラットにおいて強い抗異痛効果を示すにも関わらず、CCI−IONラットにおいて、モルヒネは不連続の効果しか生じなかった。その最大値において、得られた圧力閾値の増加は、健康な無傷のラットにおいて測定された圧力閾値の20%に達したに過ぎない(
図12A)。他方、レボキセチン(10mg/kg腹腔内投与)は完全に不活性であった(
図12A)。
【0140】
これとは逆に、レボキセチンおよびモルヒネの組合せは、いずれか一つの薬剤単独により引き起こされる効果よりも非常に高い明確な抗異痛効果を示した。実際個々の経時変化曲線に対応するAUC値においては、レボキセチン+モルヒネの組合せ[RM]の全体の効果は、別々に各々の薬剤の投与により生じる効果の合計[R+M]よりも295%高いことが示された(
図12B)。
【0141】
後者のデータは、μ−オピオイド受容体アゴニスト、モルヒネおよNA再取り込阻害剤、レボキセチンとの間の相乗効果が存在するだけでなく、CCI−SNラットと比較してCCI−IONラットにおいてより強いことが、強く示唆された。
【0142】
レボキセチンおよびモルヒネの間に観察された相乗効果は、ノルアドレナリン再取り込の阻害およびタペンタドールの単分子によりなされるμ−オピオイド受容体の組合せが、特に中枢神経因性痛の治療に関する著しいこの薬剤の抗神経因性痛効果に寄与していることを示唆している。