【文献】
Brandon J. Lujan, et al.,Revealing Henle's Fiber Layer using Spectral Domain Optical Coherence Tomography,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2011年 3月,52(3),1486-1492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光コヒーレンストモグラフィー(OCT)システムを使用して、患者の眼の3次元画像データを収集する方法であって、前記OCTシステムは、放射ビームを、瞳孔を通るように導くスキャナと、OCTデータを分析するプロセッサとを含み、前記方法は、
前記OCTシステムによって一連の測定結果を取得することであって、前記放射ビームは、異なる位置において瞳孔に進入するように導かれている、前記取得すること、
前記プロセッサにおいて、対象となる組織に対するOCTビームの入射角度に基づいて前記一連の測定結果の品質を比較して、最適な瞳孔進入位置を決定すること、
前記決定された最適な瞳孔進入位置に配置された前記放射ビームを用いて、眼内構造物の3次元画像データを取り込むこと、
前記3次元画像データを格納または表示すること
を備える、方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で述べる本発明は、眼の瞳孔上の測定位置と測定結果の品質とを互いに関連付けることによって眼の撮像を改善し、さらに、この測定結果の品質に基づいて後続の測定を制御することに関する。これには、白内障または他の媒体混濁を通した撮像、傾斜を最小にしたBスキャンの取得、選択した眼内構造物のデータの自動取得を含む眼の撮像分野においていくつかの重要な用途がある。本発明によれば、遥かに高品質のデータを取得でき、かつ、操作者による使用の容易さが向上する。それぞれの用途について以下に説明する。
【0017】
本明細書で述べる本発明は、眼内に測定信号を送り、結果を格納することを要するあらゆる眼科診断装置に適用できるが、本明細書で述べる好ましい実施形態では、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)の分野に焦点を絞る。OCTは、媒体内での光の後方散乱または反射性に基づいた、非侵襲性の生体内撮像技術である。OCTは、OCT装置で生成された光線が瞳孔を通って眼を走査し、画像形成工程によって、各位置における光の後方散乱プロファイルを格納する、眼科検査において特に有用である。後方散乱した光の強度は、組織および組織境界の散乱特性を示し、また、光線が視野(FOV)を横断する際にグレースケール断面画像が形成される。OCT撮像は眼科診断能力を飛躍的に進歩させ、さらに眼解剖学のさらなる理解をもたらした。OCT撮像は、平常的な眼科実践の確立された基礎である。
【0018】
図1は、本発明を要約したブロック図を示す。以下で、各構成要素について詳しく説明する。
撮像システム
本発明の好ましい実施形態では、撮像システム101は、眼103の前部の画像の取得を担当する。この画像では、角膜、瞳孔、虹彩といった眼の前部にある構造物を見ることができる。この画像の視野は用途に応じて変更できるが、最低でも、上述した構造物を撮像するのに十分な視野を確保する必要がある。
図2は、本発明に適用可能な眼の前部のサンプル画像を示す。この画像は、瞳孔201、虹彩202を示している。角膜は、これらの上を覆っている透明な構造である。簡略化の目的で、この説明の以降の部分では、眼の前部の撮像システムによって得られるこのタイプの画像を「虹彩画像」と呼ぶ。
【0019】
本発明の別の実施形態では、撮像システムに、画像中に見られる眼の前部からの反射を生み出すことができる可視光または赤外線照明器を設けることも可能である。反射の位置を区分化し、これを眼の凝視の判定に使用することができる。本発明の別の実施形態では、撮像システムは、眼の後部の画像を得るためにも使用できる。これらの画像は、例えば、網膜を追尾し、その動作を補正するために使用できる。
測定システム
測定システム102は、対象となる測定結果の取得を担当する。「測定結果」とは必ずしも量的な値である必要はなく、単に画像であってよい訳であるが、しかし、用語「測定結果」は、先述した撮像システムと区別するように用いられる。測定は、患者の眼の、前部分および後部分を含む様々な位置で実施することができる。本発明は、当業者によって、多様な測定システムに同等に適用することが可能である。測定システムは撮像システムと空間的に整列し、つまり、撮像システムおよび測定システムの画像座標間の関係は、較正手順によって上手く確立される。測定システムは撮像システムと時間的に同期させることもできる。本明細書で述べる好ましい実施形態について、測定システムはOCTシステムである。OCTシステムの基本配置を、
図3を参照しながら以下に説明する。OCTシステムは、OCTビームが瞳孔に進入して、後極の画像を得る構成であってよい。OCTシステムは、OCTビームを瞳孔の位置に関連して配置することにより、前部分の画像を得る構成であってよい。この前部分構成は、外部レンズ、内部レンズを追加するか、または後部撮像構成からレンズを取り外すことで実施可能である。
【0020】
OCTのいくつかの実施形態が開発されており、これには時間ドメイン(TD−OCT)、および周波数ドメイン(スペクトルドメイン(SD−OCT)および波長走査(swept−source)(SS−OCT))が含まれる。
図3は、分光計ベースのSD−OCTシステムの基本的なブロック図を示す。光源300は、光ファイバカプラ302の入力ポートに接続した短い光ファイバ301に広帯域幅光を提供する。光ファイバカプラは、入射する光ビームを干渉計の2本のアーム内へ分光させる。2本のアームの各々は、分光された光ビームをファイバカプラ302から患者の眼305および基準反射器306の各々へ導くための光ファイバ部303、304を設けている。ビームを照準、集束、走査するために、各ファイバの終端部分におけるサンプルアームと基準アームの両方に、光学素子を内蔵したモジュールが設けられていてよい。サンプル305および基準反射器306から戻された光波は、サンプルおよび基準アームの同じ光路を通って導かれて戻り、ファイバカプラ302内で組み合わされる。組み合わされた光ビームの一部は、光ファイバ307の、ファイバカプラ302から分光計308までの区間を導かれる。分光計内部では、光ビームが格子309によって分散し、検出器アレイ310上に集束する。収集されたデータがプロセッサ311へ送られ、処理済みの結果データがディスプレイ312上に表示されるか、または、以後の参照および処理のためにメモリに格納される。
図3のシステムは反射性の基準アームを含むが、当業者は、透過性の基準アームを代わりに使用できることを理解するだろう。
【0021】
サンプルおよび基準アームから戻された光波間の干渉により、光の組み合わせの強度がスペクトルにかけて変化する。干渉スペクトルのフーリエ変換によって、異なる経路長における散乱強度とサンプル中の深度の関数としての散乱のプロファイルが明らかになる(例えば次を参照されたい。Leitgeb他著「超高分解能フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー(Ultrahigh resolution Fourier domain optical coherence tomography)」、「オプティクス・エクスプレス」誌(Optics Express)、12(10)巻:2156頁、2004年)。深度の関数としての散乱のプロファイルは、軸方向走査(AスキャンまたはAライン)と呼ばれる。サンプル中の隣接した位置にて測定した1組のAスキャンにより、サンプルの断面画像(断層画像またはBスキャン)が生成される。波長可変レーザベースの波長走査型OCTの動作原理は、分光計ベースのスペクトルドメインOCTシステムの動作原理と非常に類似しているため(例えば次を参照されたい。Choma他著「波長走査の感度優位とフーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー(Sensitivity advantage of swept-source and Fourier domain optical coherence tomography)」、「オプティクス・エクスプレス」誌、11(18)巻、2183〜2189頁、2003年)、3次元画像データセットを得るためのスペクトルドメインOCTシステムは、波長走査型OCTシステムまたは任意タイプのOCTシステムであってもよい。
瞳孔検出モジュール
瞳孔検出システム104は、画像システムから収集した虹彩画像における瞳孔の位置を検出する。眼の画像から瞳孔を区分化する数多くの方法が提案されてきた(例えば次を参照されたい。Wen−Hung L.他著「凝視ベースのユーザインタフェイスのためのロバストな瞳孔検出(Robust Pupil Detection for Gaze- Based User Interface)」、インテリジェント・ヒューマン・マシン相互作用における視線検出に関する国際IUI2010年ワークショップ(International IUI 2010 Workshop on Eye Gaze in Intelligent Human Machine Interaction)、または、Zhu他著「曲率アルゴリズムを使用したロバストな瞳孔検出(Robust Pupil Detection using a Curvature Algorithm)」、Computer Methods and Programs in Biomedicine誌、59巻、145〜157頁、1999年、または、Li他著「スターバースト:フィーチャベースとモデルベースのアプローチとを組み合わせたビデオベース瞳追尾のためのハイブリッドアルゴリズム(Starburst: A hybrid algorithm for video-based eye tracking combining feature-based and model-based approaches)」、人間・コンピュータ相互作用の視力ワークショップ2005年(Vision for Human-Computer Interaction Workshop 2005)。本発明の一実施形態では、眼を可視光で照明することで、収集画像において、瞳孔がこれよりも明るい虹彩領域に対して暗く現れるようにしている。暗い瞳孔は、まず、クラスタリングおよび連結成分のような強度ベースの区分化を使用して、画像中の暗い小魂を見付けることで区分化される。このステップの後に、検出された小魂の縁のアルゴリズムを最適化し、最後に境界点にモデルを適合する。モデルは単純な円または楕円であってよい。
【0022】
境界点に選択されたモデルを適合して、区分化を非常に高精度にするロバスト法を採用することができる。本発明の目的は、新規の瞳孔区分化法を提案することではなく、むしろ新規の区分化情報の使用方法を提供することである。当業者は、文献において多く述べられている、瞳孔区分化を得るためのアルゴリズムのうちの任意のものの使用を想起することができる。区分化は、本質的に、瞳孔の中心の座標と、任意の所与の点における瞳孔の縁に関する情報とを我々に提供する。
図4は、元の虹彩画像402上に瞳孔401の区分化を重ねた、区分化の一例を示す。
瞳孔位置追尾モジュール
瞳孔位置追尾モジュール105は、瞳孔の位置を、側方(x、y)方向、軸(z)方向において理想的に追尾する。一実施形態では、これは、画像システムより収集した複数の虹彩画像における瞳孔の位置を比較することにより、移動する瞳孔のx、yにおける位置を追尾することで達成される。次に、位置の変化を補正するべく機器または患者を再度位置決めするために、この情報が測定システムへ送り戻される。別の実施形態は、瞳孔区分化と、可視光または赤外線照明器を患者の眼の上に適切に配置して生成された、1つ以上の角膜反射の区分化とを組み合わせた凝視追尾システムである。これらの照明器は、撮像システムの一部として設けることができ、また、画像取得と同期または非同期させることができる。本発明のさらなる実施形態は、瞳孔追尾モジュールと、非常に精密に固視を判定できる網膜追尾モジュールとを組み合わせたものである。これは、患者の凝視をより高精度に判定する。これらの追尾結果の組み合わせを測定モジュールへ送り、データ取得をさらに改善することができる。
測定位置決定の最適化
典型的に、OCT測定は、測定ビームを瞳孔の中心を通るように導くことで実施され、これは、本明細書で参照により援用している米国特許出願公開第2007/0291277号明細書に記載されている通りである。この事例では、虹彩ビューアが、手動によるOCT治療ビームの位置決めを補助するために使用されている。瞳孔の中心に白内障が位置している場合、その地点で行うOCT測定結果の品質を低下させてしまう。本明細書中で述べる本発明の重要な態様は、異なる瞳孔への進入位置により異なる測定信号が得られるので、したがって、異なる進入位置をサンプリングすることで、最適な瞳孔進入位置を見付けることができる、という事実を使用するものである。瞳孔の区分化が可能であることから、これは、最適化された測定位置決定モジュール106を介して自動的かつ効率的に行える。
【0023】
次に、
図5に示す進入位置のサンプリングパターンについて検討する。同図は、眼501の瞳孔にかけて側方(xおよびy)へ延びている瞳孔進入位置503の均一な格子を示す。これらの瞳孔進入位置の各々はPE
iとして示され、ここで、iは位置の指数と一致する。各々の瞳孔進入位置について、測定信号を格納することもできる。対応する測定信号はM
iと示される。
【0024】
測定信号に最適な条件を定義することで、最適な瞳孔進入位置を決定できる。
【0025】
【数1】
ここで、Q(.)は、任意のタイプの測定信号に定義できる品質関数である。言葉で表現すれば、最良の瞳孔進入位置では最良の測定信号が得られる。
図5に示す例では、最良の位置を矢印502で示している。「最良」の定義は、品質関数Q(.)の選択によって定義される。フレームワークは汎用のものであるため、任意タイプの測定信号に使用できる。例えば、測定システムがFD−OCTシステムである場合、各測定信号はAラインとなる。
【0026】
Aラインの測定信号を伴ったOCTシステムでは、品質関数は信号対雑音比(SNR)として定義されてよい。
【0027】
【数2】
SNRは、Aラインからの信号の、雑音成分への非常に大まかな区分化に基づいて計算できる。SNRは次式で定義できる。
【0028】
【数3】
ここで、Mean()関数は平均関数、M
isignalは測定信号中の有用なデータ、M
inoiseは測定信号の雑音部分、σ(M
inoise)は雑音の標準偏差である。
【0029】
これは、本発明の単なる1つの実施形態でしかなく、当業者は、検討中の用途および測定信号タイプに適した品質関数を定義することができる。
さらに、必ずしもサンプリングパターンに均一格子を使用しなくてもよい。
図6に別の実施可能性を示し、ここでは、一連の測定が同心円状の走査パターン601に沿って実施される。
図5および
図6は、単に代表的な走査パターンであり、本発明は任意のサンプリングパターンに適用できる点に留意すべきである。
【0030】
最適な瞳孔進入位置が決定したら、測定システムは所望の瞳孔進入位置を用いてデータを取得できる。すると、瞳孔位置追尾システム104が瞳孔位置の追尾に従事できるようになり、これにより、最適な瞳孔進入位置が維持される。この位置は、1つの測定セッション、または1回の診察中ずっと維持することができ、あるいは、正確な測定ビームの位置を繰り返し、もしくは以降の再診察時にも読み出すこともできる。
【0031】
図7は、瞳孔上の測定ビーム進入点を経時的に維持する様子を示す。左の画像は、眼の初期位置、および決定された「最良の」瞳孔進入位置(矢印701)を示す。右の画像は、患者の凝視が逸れ、時間と共に瞳孔が移動した様子を示す(瞳孔は眼の中心に対して右へ移動している)。しかし、瞳孔位置追尾は最適な瞳孔進入位置702に確実にロックされるため、データを取得できる。
【0032】
この項目で述べられた方法は、測定データの品質に基づいて、特定の測定ビーム位置を選択することに焦点を絞っているが、基本的な概念は、あらゆる測定ビーム位置を、経時的に、または複数の診察にわたり維持することであると総括できる。これは、瞳孔の中心、あるいは使用者によって選択された瞳孔上の位置であってよい。さらに、本システムは、ビーム幅の一部または全体的が虹彩によって阻害された場合に起こる口径食を低減するために、使用者によって選択された位置が瞳孔の境界内に確実に納まるようにする。
【0033】
瞳孔の同一位置を撮像し続けようとする際に起こり得る1つの問題は、虹彩が、異なる明り条件および外部条件に順応しようとして調節を行うことで、瞳孔の大きさが固有に変化する点である。このような事例では、追尾した位置を調整して、測定の続行を可能にする必要があるかもしれない。例えば、
図8に示す事例を検討すると、ここでは、2つの時間、t
1(左)とt
2(右)の間で瞳孔が収縮している。この事例では、元の瞳孔位置801が維持されていても、位置802は収縮した瞳孔803の境界の外に在るため、測定信号は格納されない。このような場合、3つのオプションがある。1つ目は、同一の進入位置を得るべく、瞳孔が拡大するまで待つ。
【0034】
2つ目のオプションは、瞳孔収縮に対処することであり、
図9に示すように、最適な瞳孔進入位置を瞳孔中心に関連してスケーリングすることができる。時間t
1(左画像)における最適な瞳孔進入位置901は、瞳孔の中心から距離d
1で離間し、水平に対して角度θにあると仮定する。この特定の角度にある瞳孔の半径をR
1とする。ここで、瞳孔が時間t
2(右画像)にて収縮し、同じ角度に沿った新たな半径がR
2になったと考えてみる。瞳孔がその中心の周囲で均一に収縮していると仮定すると、新たな最適位置902は次式の通りとなる。
【0035】
【数4】
ここで、角度θは、新たな最適な進入位置についても不変のままであると仮定される。
【0036】
この問題を扱う第3のオプションは、時間t
1における初期の瞳孔進入位置1001を図示した
図10に示される。時間t
2において、水平から、角度θにより定義された線に沿って検索し、先行の位置に最も近く、新たな瞳孔境界内に位置する点1002を見付けることが可能である。
傾斜減少の測定
瞳孔の進入点は、網膜上へのOCTビームの入射角に関連しているため、進入点は取得した画像中の網膜の見掛けの傾斜に関連する。多くの被験者について、最も平坦な取得画像は、瞳孔の中心から進入することで得られたが、いくつかの眼の解剖構造では、瞳孔の中心において平坦なOCT Bスキャンが得られず、中心から逸れたどこかの位置にて得られる可能性がある。OCT Bスキャンを可能な限り平坦(最も傾斜が小さく)で得るために、品質基準を確立できる。OCT信号感度はz内の組織の位置に基づいて異なるため、撮像されている全ての組織を同一深度に、または可能な限り平坦に設けることが非常に重要である。以下で詳細に述べるように、OCTの別の特性は、撮像される異なる構造物の指向性反射率によって起こる信号の変化である。平面走査によって、OCTビームの入射方向が走査工程にわたってほぼ均一になり、これにより、異なる構造物からの反射率間のより優れた比較が得られる。
【0037】
Bスキャンの傾斜は、瞳孔進入位置を変えることで変更できることがわかっている(例えば次を参照されたい。Lujan他著「スペクトルドメイン光コヒーレンストモグラフィーを使用するヘンレ線維層の公開(Revealing Henle's Fiber Layer using Spectral Domain Optical Coherence Tomography)」、Investigative Ophthalmology & Visual Science誌、52(3)巻、2011年3月、1486〜1492頁)。
図11は、網膜の同一の場所の、異なる瞳孔進入位置における複数のBスキャンを示し、これらは傾斜効果を例証している。
図11(a)は、
図5(b)のOCT画像を得た瞳孔上の位置を示す。取得したOCT Bスキャンは、この眼の解剖構造によるものである。低いz位置にあるために低い信号を有するBスキャンの左側と比べてより高いz位置にあるBスキャンの右側へ向かうより明るい信号があるのが見える。これは、ほとんどのOCTシステムに見られる現象であることに留意されたい。信号強度は、ゼロ遅延から離れるに従って減少する。示された例において、ゼロ遅延はBスキャンの頂部にあるため、頂部(より高いz位置)においてより優れた信号が得られ、底部(より低いz位置)に向かってその質が低下してゆくと予測される。この現象は、Aスキャンの信号特徴が均一になるように、可能な限り傾斜を小さくしてスキャンを行うことが望ましいことの別の理由である。
図11(c)、
図11(d)に示すように、瞳孔進入位置1102を調整することで、同じ領域にかけて、傾斜を減少させたBスキャンを得ることが可能である。
図11(d)に示す取得したBスキャンの強度は、
図11(b)の傾斜したBスキャンよりも遥かに均一である。
【0038】
この事例では、最良の瞳孔進入位置を見付けるために、測定信号が、同じ瞳孔進入位置から取得した単一の(または複数の)Bスキャンとして定義される。すると、Bスキャンを迅速に区分化して、Bスキャン中の傾斜を判定できるようになる。傾斜は品質基準として使用でき、傾斜を最小化する位置を、撮像に最良の場所として選択することができる。
【0039】
傾斜を決定する1つの実施形態は、通常、Bスキャンにおいて最も明るい層である網膜色素上皮層(RPE)の大まかな区分化を用いたものである。これを判定する1つの方法は、雑音低減のためのスムージング後に、各々のAスキャンに沿って最も明るい信号を見付けるというものである。次に、Bスキャンにおける異なる区分化された点を線と一致させて、Bスキャンの全体傾斜を判定する。
【0040】
別の実施形態では、対象となる構造の区分化は、走査方向(y勾配)に沿った強度の変化を計算し、これらを閾値化して、バイナリ画像を作成することに基づいて行われる。次に、組織に線を一致させる、例えば組織の下方または上方境界のいずれかに、あるいは、組織の中心のように2つの位置の組み合わせに線を一致させることによって、バイナリ画像を処理して傾斜角を得ることができる。
図12は、
図11(b)、
図11(d)に示したBスキャンを区分化して得たバイナリ・マスクを示す。
【0041】
Bスキャンの傾斜が判定したら、Bスキャンの所望の傾斜を提供する最適な瞳孔進入位置を、使用する瞳孔進入位置として選択することができる。凝視追尾システムの網膜追尾部分は、瞳孔進入位置とは関係なく、網膜の同一の領域にかけてBスキャンを取得する上で役立つことに留意されたい。そのため、本発明にて述べている方法を、2012年3月28に提出され、共同所有され係属中である米国出願第13/433,127号に述べられているタイプの網膜追尾システムと組み合わせることで、使用者は、関心のある用途についての最適な瞳孔進入位置を利用しながら、特定のスポットにて網膜からのデータを取得できるようになる。
異なる構造物を撮像するための最適な瞳孔進入位置の発見
本発明で説明している方法は、ヘンレ線維層、網膜神経線維層、各種膜、ガラス質構造物、角膜、副RPE構造物、脈絡膜などの層を非限定的に含む網膜内の異なる構造物を、OCTシステムを使用して潜在的により視覚化することへ拡張することもできる。これは、異なる構造物が、対象となる構造物に対する測定ビームの方位に基づいて、OCT内で異なって視覚化されるためである。
【0042】
例えば、ヘンレ線維層は、OCTビームが同層中の線維に対して垂直であるときに最も良く視覚化される(例えば次を参照されたい。Lujan他著「スペクトルドメイン光コヒーレンストモグラフィーを使用するヘンレ線維層の公開(Revealing Henle's Fiber Layer using Spectral Domain Optical Coherence Tomography)」、Investigative Ophthalmology & Visual Science誌、52(3)巻、2011年3月、1486〜1492頁)。これは、これら線維が光線に対して垂直であるときに、その指向性が最大の散乱を生じさせるためである。この種の作用は、網膜の他の層、例えば網膜神経線維層にも当てはまる。
【0043】
先述した方法を用いて特定の対象となる領域を視覚化しようとしている時に、その層からの最大信号を最適化することができる(AスキャンまたはBスキャンにおける対象となる信号のおおよその場所がわかっている場合に限る)。また、対象となる組織に最良の信号をもたらす幾何学的配勾に基づいて、瞳孔位置を選択することも可能である。さらに、診察毎に毎回、瞳孔の同じ場所を撮像することにより、撮像された任意の指向性反射層の強度における変動を少なくすることにつながる。RNFLのような層の定量的区分化は、指向性反射率によって影響を受けることがあるため、瞳孔進入点が診察毎に変動すると、定量測定の変動も増してしまう。毎回の診察で共通の瞳孔進入点を使用すれば、こうした測定の再現性が増加するはずである。複数の品質測定の関数である品質基準を使用したり(例えば、Q=信号対雑音比×均一性の尺度、またはSNR
*(1−傾斜))、あるいは、最適化する品質基準を選択するための1組の規則を実施したりする(例えば、平面画像を得るために、最大で3dBまでの信号損失を許容するが、これ以上は許容しない)ことも可能である。
【0044】
したがって、本発明において述べられた方法を使用することで、特定の対象となる構造を撮像するための最良の瞳孔進入位置を選択できるようになる。次に、本発明のこの態様の詳細な説明を述べる。
角度依存的な層コントラスト
上述した瞳孔追尾システムの態様の多くを使用する一実施形態では、網膜OCT画像は瞳孔の複数の点を介して取得される。患者の瞳孔に関連したOCTビームの動作を自動化することで、測定可能で、好ましくは事前に決定された、患者の瞳孔における各位置の取得が可能になる。動作は様々な手段によって達成でき、これには例えば、機器を患者の眼に関連して移動させること、光学サブシステムのような機器の一部を平行移動させること、傾斜させたガラス塊を経路内外に動かして得たビームを移動させることで、患者の眼を機器に関連して移動させることにより達成できる。手動による調整は、例えば動作範囲が事前設定された回転止め位置または手操作式レバーのような、典型的な物理的制約によって規制または誘導することができる。相対入射角を、瞳孔内での移動距離を典型的な眼の焦点距離で割った比率から、あるいは、眼軸長測定や、眼の長さに対する屈折異常の相関性からの推測などの手頃な方法によって得た、個々の眼の長さを説明することで決定できる。患者の瞳孔に関連した実動作は、患者の頭部または機器の動作を測定することで概算できる。典型的な眼科OCTシステムでは、例えば共通の線維を使用して、この線維の照明と収集が共同整列する。この事例では、入射角と収集が共に変化する。照明と収集が共同整列しないシステムでは、当業者に明白である方法を用いて、角度を、相互に無関係に変化させることができる。さらに、同時測定に複数の照明経路または収集経路を実施することができる。本明細書では、説明の明瞭化する目的で、また、これが最も一般的な形態であることから、照明と収集の共同整列を仮定して実施形態を説明しているが、しかし、必ずしも共同整列が必要なわけではない。
【0045】
複数の入射角を含んだ複数の画像を得たら、いくつかの方法によってこれらの画像を相互に比較することができ、例えば、画像に画像ベースレジストレーションを施した後に、差分画像または比率画像を作成できる。あるいは、画像上のマッチングポイントにおいて、深度の関数としての散乱プロファイルを抽出し、これらを比較することができる。いずれの場合にも、比較には、バックグラウンド除去、ゲイン調整(例えば、走査間での総合的な明るさにおける変動の補正)、フィルタリング、アベレージングといった、雑音を少なくし、総括的なパラメータを作成するデータの事前処理を含んでいてよい。
【0046】
散乱信号は入射角によって異なるので、層を区分化するアルゴリズムは、層境界を正確に識別するために、1つ以上の層のローカルな入射角に関する情報を使用することができる。これは、例えば、概して網膜色素上皮層と外網状層(RPEとOPL)の間として説明される領域において示されている。この領域内では、明るい層と暗い層の間の境界は入射角によって異なる。上述したように、入射角が変化すると、Bスキャンにおける網膜の見掛けの傾斜が変化する。
【0047】
図13(a)、
図13(b)は、2つのOCT画像を示す。これらの画像は両方とも同じ位置で、しかし網膜への入射角を変えて得たものである。
図13(a)は、直角の片側から約5〜10度の走査ビームによって取り込まれ、
図13(b)は、直角の反対側から、
図13(a)と類似した角度の走査ビームによって取り込まれている。2つの画像は、測定によって相互に記録された後、Bスキャンにおいて、傾斜の差と、組織の相対位置の差とを補正される。「RPE」と「OPL」の間の散乱は、網膜の、入射光から網膜中心窩よりも遠く見える側において増加する(つまり、矢印1301で示す
図13(a)左側と、矢印1302で示す
図13(b)の右側)。網膜中心窩の反対側では、散乱は減少し、より薄い膜から発生しているように見える(矢印1301、1304)。したがって、効果を生じさせるのは組織の非対称性ではなく、入射角である。Lujan他が説明しているように、この散乱が増加した層はヘンレ線維層(HFL)の属性である。この領域では、アルゴリズムは、入射角が領域を厚く見せる場合には、明るい帯と暗い帯との間の境界を、1対の層間の遷移によるものとし、入射角が領域を薄く見せる場合には、これを別の対の層間の遷移によるものとする。アルゴリズムは、この相対入射角に関する情報を、瞳孔内のOCT走査ビームの位置に関する情報、または、Bスキャンにおける、全体的または局所的に測定された網膜の傾斜を含む様々な手段から取得することができる。或る局所組織層が歪み、その方位が網膜の大部分のものと実質的に異なっている網膜疾患の事例では、傾斜の局所測定の方がより適切であることがある。
【0048】
いくつかの事例では、強度の勾配が角度に応じて異なっている場合であっても、関心のある層を全ての角度から観察することができる。他の事例では、所与の入射角で撮像されると、関心のある層が分化されないことがある。
図13ではRPEの上に層があり、これは
図13(a)では明瞭に見ることができるが、
図13(b)では、矢印1305で示すようには見えない。この層は、RPEと光レセプタの内部区間との相互嵌合を表す。この層が関心のある層である場合には、これを撮像できる角度を探す必要がある。あるいは、HFLの境界が
図13(a)と
図13(b)の両方に見ることができるが、その強度特徴は非常に異なる。この層を区分化する場合は、線維に対するローカルな入射角がわかれば十分である。最後に、入射角とその組織反射性への影響とがわかると、反射性が、測定対象である解剖構造または病状の有用な態様となる。つまり、反射性が変化し易く、未知の入射角に依存する場合には、或る組織が、画質が悪くて見えないのか、または欠損しているのかの判断が難しい。画像設定に依存する因子が制御されていれば、反射性が、所与の組織が健康か病気に侵されているかを判断する有用な指標となる。この例には緑内障損傷の検出が含まれるが、この検出は、剥離の性質または原因を判断するために、色素上皮剥離の内容の反射性を用いて、網膜神経線維層の反射性の低下を評価することと、網膜破壊を評価するために外顆粒層で観察された反射性を使用することとによって行う。
【0049】
OCT画像は様々な光学構成部によって取得できるが、この光学構成部にはとりわけ、専用OCTスキャナ、SLO装置、外科用顕微鏡経由、細隙灯搭載OCTが含まれる。上述した文章は、入射角を変更するには、ビームを瞳孔に関連して移動させなければならないと明確に記述している。
図14は、1つの例示的なアプローチを示すことで、これをさらに明らかにしている。走査ビーム33は眼に関連して移動される。この実施形態では、例えば単に走査ヘッドの一部、機器全体、または、走査ビームの位置を制御する機器の何らかのサブセットであってよい測定モジュール30が、方向31に沿って平行移動することで、ビームが眼に関連して移動できる。ここでは、これを、後極34を走査するための眼の近似軸37として示している。進入点は瞳孔境界35によって制限される。これは、図面の平面に対して垂直な平面32においても行うことができる。ビーム位置から相対入射角を決定する一例は、CCDカメラのような手段によって、瞳孔35に関連したビーム33の位置を検出するものである。動作は、瞳孔境界35に関連したビーム33の位置が変化する限り、必ずしも測定モジュール30の純粋な平行移動である必要はない。測定モジュール30から瞳孔境界35までの距離が十分に長い場合には、瞳孔平面のビームの位置を移動させるべく、測定モジュール30を回転させて網膜における入射角を僅かに変化させるだけで、瞳孔境界35におけるビーム位置を変化させることができる。
【0050】
この方法は、Cirrus OCT(カールツァイスメディテック株式会社(Carl Zeiss Meditec, Inc.)、カリフォルニア州ダブリン)を使用して、こうした測定を行うために用いられてきた。画像は、画像レジストレーションと強度プロファイルの比較との両方によって、いくつかの方法で分析されてきた。
図15は、網膜の同じ領域から、しかし、上述した瞳孔のビーム位置の計算に基づいて約15度異なった入射角で撮影された、2つの別個のBスキャンからの強度プロファイルのプロットを示す。プロット中に、一般に内境界膜(ILM)1、網膜色素上皮(RPE)層2と呼ばれる特徴が示されている。組織上への走査ビームの入射角が異なるため、2つの走査間で散乱強度が異なっている。例えば、点3では散乱強度の方が高い。
【0051】
上述したように、画像間の強度も比較でき、これは例えば、
図16に示すように相互から2つのプロファイルを差し引くことで行える。位置21、22、23はそれぞれ、
図15中の位置1、2、3に対応する。2つのプロファイル間の差は、入射角が異なるために、測定雑音、レジストレーションエラー、繰り返し可能な差分によって引き起こされる。例えば、領域23は、入射角の差により存在する。この差分を対比機構として用いることで、対比が変化する組織の厚さ24の測定が可能である。
【0052】
これと類似する分析を、OCT Bスキャン全体上で実施できる。
図17は、
図13(a)、
図13(b)に示した2つの走査を互いから差し引いて生じた結果の差画像を示す。この差画像は、矢印1701で示すように、OCTスキャンの入射角による散乱の差を強調する。
【0053】
差画像は、色のように多様性を持つもので表すことができる。モノクロの図では、画像を逆順序で差し引いて形成されたネガ画像も有用である。
図18は、
図17では見難い領域を明瞭に視覚化する様子を示しており、その一例を矢印1702で指し示している。
【0054】
好ましい実施形態は、複数の入射角にてOCT画像を収集し、画像を相互に対して記録し、Bスキャンの差し引きまたは強度分布のいずれかによって処理して、角度依存強度を持った特定層の厚さを識別および決定するという工程の自動化を包括するものである。
オパシティマッピング
本発明のさらなる態様は、患者の瞳孔のオパシティマップを臨床医に提供する機能である。オパシティマップは、白内障のような混濁領域を強調し、さらに混濁の「濃さ」について洞察する。
【0055】
本発明の主要成分は、眼の画像を取得する撮像手段、瞳孔の境界を区分化する処理ユニット、眼の凝視を追尾するユニット、瞳孔を通って光学ビームを送ることで、眼の何らかの特性を測定する測定ユニットである。本発明は一般的なものであるため、あらゆるタイプの瞳孔区分化および凝視追尾と協働することができる。
【0056】
第1ステップでは、瞳孔の境界を区分化する。この瞳孔の区分化を用いて、瞳孔上の異なる点を通るビームの測定を自動的に実施することができる。その結果得られた信号を分析して、測定信号の品質を見付けることができる。例えば、OCTシステムでは、この品質は、取得したOCT AスキャンまたはBスキャンの信号強度であってよい。通常、測定信号の品質は混濁と逆比例する。ビーム進入位置は格子上で変化でき、また、対応するビーム進入位置において測定信号の品質は混濁と対応するので、混濁のマッピングが得られる。
図19に、このようなマッピングの一例を示す。画像の上部右に見える右暗い陰影1901は、混濁度が高いことを意味する。
【0057】
本明細書では、本発明の技術を採用した様々な実施形態を示し、詳細に説明してきたが、当業者は、やはりこれらの技術を採用したこれ以外の多くの変形実施形態を容易に考案することができる。