特許第6040248号(P6040248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040248ピクセル検出器、コンプトン・カメラ、陽子線治療デバイス、中性子イメージングデバイス、X線偏光計及びγ線偏光計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040248
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ピクセル検出器、コンプトン・カメラ、陽子線治療デバイス、中性子イメージングデバイス、X線偏光計及びγ線偏光計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/24 20060101AFI20161128BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20161128BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   G01T1/24
   G01T1/167 D
   G01T1/161 E
【請求項の数】30
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-531107(P2014-531107)
(86)(22)【出願日】2011年9月21日
(65)【公表番号】特表2014-534414(P2014-534414A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】EP2011004733
(87)【国際公開番号】WO2013041114
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2014年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】501008912
【氏名又は名称】セルン − ヨーロピアン オーガナイゼーション フォー ニュークリア リサーチ
【氏名又は名称原語表記】CERN − European Organization for Nuclear Research
(73)【特許権者】
【識別番号】512326872
【氏名又は名称】フリードリッヒ−アレクサンダー−ユニバーシタッタ エルランゲン−ニュルンベルク
(73)【特許権者】
【識別番号】514071495
【氏名又は名称】チェコ、テクニカル、ユニバーシティー、イン、プラハ、インスティトゥート、オブ、エクスペリメンタル、アンド、アプライド、フィジックス
【氏名又は名称原語表記】CZECH TECHNICAL UNIVERSITY IN PRAGUE INSTITUTE OF EXPERIMENTAL AND APPLIED PHYSICS
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】マイケル、キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】ティロ、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ヤクベク
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/090530(WO,A1)
【文献】 特開平09−304539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 36/14
A61N 5/00− 5/067
A61N 5/08− 5/10
G01N 23/00−23/227
G01S 7/52
G01S 15/89
G01T 1/00− 7/12
H04N 5/30− 5/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体センサ層(12)であって、その内部において、検出されるべき粒子と相互作用すると電荷が遊離されえて、XY平面を画成しZ方向に延在する厚さ(d)を有する、半導体センサ層(12)と、
前記半導体センサ層(12)に電気的に接続され、前記半導体センサ層(12)の対応する容積において生成された電荷を示す信号を検出するための読み出し回路(20)のアレイを備える読み出し電子回路層と
を備えるピクセル検出器(10)であって、
隣接する読み出し回路(20)が、前記隣接する読み出し回路(20)において検出された信号間の時間差情報を決定するように構成された相対タイミング回路(36)によって接続され、
前記時間差情報が、前記XY平面に対して傾いた粒子軌道(38)によってもたらされる、前記対応する隣接するセンサ容積における電荷生成の各位置の各Z成分における差を示すことを特徴とするピクセル検出器(10)。
【請求項2】
前記各読み出し回路(20)は、前記半導体センサ層(12)の前記対応する容積のフットプリントに収容され、前記相対タイミング回路(36)は、前記読み出し電子回路層に集積化されている請求項1に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項3】
前記各読み出し回路(20)は、放射線場の検出器出力画像におけるピクセルを提供する請求項1に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項4】
前記厚さdの、前記読み出し回路のアレイにおける読み出し回路(20)のピッチaに対する比は、
【数1】
である請求項1ないし3のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項5】
前記厚さdの、前記読み出し回路のアレイにおける読み出し回路(20)のピッチaに対する比は、
【数2】
である請求項1ないし3のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項6】
前記半導体センサ層(12)の前記厚さdは、100μm〜500mmである請求項1ないし5のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項7】
前記半導体センサ層(12)の前記厚さdは、100μm〜10mmである請求項1ないし5のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項8】
前記読み出し回路のアレイにおける読み出し回路(20)の前記ピッチaは、10μm〜1mmである請求項4または5に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項9】
前記読み出し回路のアレイにおける読み出し回路(20)の前記ピッチaは、30μm〜80μmである請求項4または5に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項10】
前記半導体センサ層(12)の材料は、Si、Ge、CdTe、CdZnTe、GaAsおよびダイヤモンドからなるグループのうちの1つである請求項1ないし9のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項11】
前記時間差情報は、前記2つの隣接する読み出し回路(20)のどちらが最初に前記信号を受信したかを示す2値情報を含む請求項1ないし10のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項12】
前記時間差情報は、前記隣接する読み出し回路(20)のそれぞれにおける受信信号間の時間間隔の長さに関する情報を含む請求項1ないし11のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項13】
前記相対タイミング回路(36)は、それぞれが前記隣接する読み出し回路(20)の1つに接続された2つの入力部を有する勝者独占回路を備え、前記勝者独占回路は前記2つの入力部のどちらが最初に信号を受信したか示す2値の出力を提供する請求項1ないし12のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項14】
前記相対タイミング回路はXORゲートを備え、前記XORゲートの入力部のそれぞれは前記隣接する読み出し回路(20)の1つに接続されている請求項1ないし13のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項15】
前記XORゲートの出力部は、前記XORゲートの出力が「真」である時間間隔を測定するためのデバイス、具体的には前記XORゲートの出力が「真」である間に充電されるキャパシタと接続されている請求項14に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項16】
前記XORゲートの入力は、前記XORゲートが前記それぞれの入力の立ち上がりエッジにのみ反応するようにラッチされる請求項14または請求項15に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項17】
前記各読み出し回路(20)は、入力信号を所定のしきい値と比較し、前記入力信号の電圧が前記所定のしきい値を超える場合にハイ信号を出力するように構成された弁別器論理回路(30)を備える請求項1ないし16のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項18】
前記読み出し回路(20)は、前記弁別器論理回路(30)の出力が所与のしきい値を超える時間を決定するように構成されたタイムオーバしきい値回路(34)を備える請求項17に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項19】
前記各読み出し回路(20)は、前置増幅器、具体的には前記対応するセンサ容積において生成された前記電荷を増幅するための電荷増幅器(22)を備え、前記電荷増幅器の出力部が前記弁別器論理回路(30)の入力部と接続されている請求項17または請求項18に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項20】
前記各読み出し回路(20)は定フラクション弁別器を備える請求項1ないし16のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項21】
2つの隣接する読み出し回路は弁別器を共有し、前記共有された弁別器は、2つの隣接する読み出し電極または読み出しダイオードから前置増幅された信号を受信し、どちらの信号が最初に受信されたかを判定する請求項1ないし16のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項22】
前記読み出し電子回路層に接続された評価ユニットをさらに備え、
前記評価ユニットは、複数の読み出し回路(20)からの時間差情報に基づいて粒子軌道(38)のZ座標情報を構築するのに適している請求項1ないし21のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項23】
前記評価ユニットは、前記時間差情報におけるタイムウォークを補正するように、前記各読み出し回路(20)に関連づけられたタイムオーバしきい値情報を明らかにするように構成された請求項22に記載のピクセル検出器(10)。
【請求項24】
γ線を放射する放射性同位元素の分布を再現するためのコンプトン・カメラであって、請求項1ないし23のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)を備えるコンプトン・カメラ。
【請求項25】
前記ピクセル検出器(10)は、γ放射線のコンプトン散乱が発生する可能性があり、コンプトン電子の軌道が検出される散乱検出器として機能し、前記検出された軌道が、衝突するγ放射線の方向を再現する際の情報として役立つ請求項24に記載のコンプトン・カメラ。
【請求項26】
前記コンプトン・カメラは、核医学診断デバイス、具体的にはSPECTデバイスまたは原子力発電所の廃炉をモニターするためのデバイスにおいて用いられる請求項24または請求項25に記載のコンプトン・カメラ。
【請求項27】
請求項1ないし23のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)を備えるハドロン治療デバイス、具体的には陽子線治療デバイス。
【請求項28】
請求項1ないし23のいずれか一項に記載のピクセル検出器(10)を備える中性子イメージングデバイス。
【請求項29】
請求項1ないし23のいずれか一項に記載のピクセル検出器を備えるX線偏光計。
【請求項30】
請求項1ないし23のいずれか一項に記載のピクセル検出器を備えるγ線偏光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子検出デバイスの分野にある。本明細書において、用語「粒子」は、光子を含む任意のタイプの放射線量子を指す。詳細には、本発明は、半導体センサ層およびこの半導体層に対する読み出し電子回路層を備えるピクセル検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
請求項1のプリアンブルによるピクセル検出器は、従来技術から知られている。請求項1のプリアンブルのピクセル検出器は、検出されるべき粒子と相互作用すると電荷が遊離されうる半導体センサ層を備える。電離放射線は、半導体材料内に自由電子および正孔を生成する。生成される電子正孔対の数は、粒子によって半導体材料に伝達されるエネルギーに比例する。検出器は、半導体層に電気的に接続された読み出し電子回路層をさらに含む。例えば、読み出し電子回路層は、ボンディングによって半導体に電気的に接続されてもよい。その場合、対応する検出器デバイスは、「ハイブリッド検出器」と呼ばれることがある。しかし、この電子回路層および半導体も、いわゆる「モノリシックの能動ピクセル検出器」と同様に、モノリシックに形成されてもよく、これもまた請求項1のプリアンブルによるピクセル検出器の用語に該当する。
【0003】
ピクセル検出器において、読み出し電子回路層は、それぞれが半導体センサ層の対応する容積において生成される電荷を示す信号を検出するための読み出し回路のアレイを備える。したがって、個々の読み出し回路それぞれが放射線場(radiation field)の検出器出力画像におけるピクセルを提供する。この理由で、前記アレイの個々の読み出し回路が当技術分野において「ピクセル」と呼ばれる場合があるが、厳密に言えば、この読み出し回路は、単に検出器画像のピクセルに寄与するためのデバイスにすぎない。
【0004】
従来技術のハイブリッド・ピクセル検出器の一例は、いわゆる「Timepix」読み出しチップに基づいており、このチップが適切な半導体層にボンディングされうる読み出し電子回路層を構成する。Timepix読み出しチップにおいて、個々の読み出し回路は、隣接する半導体センサ材料容積において生成される電荷を検出することによってこの半導体センサ材料容積内に堆積されるエネルギーを決定するようにアレイに配列されている。Timepix技術の概要は、Michael Campbellによるレビュー記事「Ten years of the Medipix2 collaboration」、Nuclear instruments and methods in physics research A, 633 (2011年)、およびこの記事に掲載されているさらなる参考文献において与えられる。
【0005】
簡単に言うと、ハイブリッド・ピクセル検出器は、もっぱら可視光というわけではなく、代わりに異なるタイプの高エネルギー放射線を検出するという点を除いて、ディジタル・カメラであると考えられてもよい。ハイブリッド・ピクセル検出器の出力は、従来、泡箱において視覚化されたものに類似した放射線場の「スナップ写真」である。
【0006】
そうしたピクセル検出器は、堅牢性、感度、および融通性に関して著しい利点を呈するが、構造によって、このピクセル検出器は、放射線場の2次元情報だけしか提供できない。粒子軌道または事象に関する3次元情報が望まれる場合は、複数のピクセル検出器が、例えば、上下に積み重ねられて使用されなければならない。
US2006/0054828は医療診断装置のための検出器の配置を開示しており、当該医療診断装置において、検出器にぶつかるX線またはガンマ放射線が検出され、空間分解能で評価される。X線またはガンマ量子が検出器にぶつかると、読み出しサイクル内に影響されるセンサ素子の空間分布が得られる。よって、入射角は、影響されたピクセルの領域のサイズと統計的に関連付けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底にある課題は、効率的なやり方で3次元の放射線情報を得ることが可能なピクセル検出器技術に基づく検出器を提供することである。この課題は、請求項1に記載のピクセル検出器によって解決される。好ましい実施形態は、従属クレームにおいて規定される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、ピクセル検出器において、隣接する読み出し回路が、前記隣接する読み出し回路において検出された信号間の時間差情報を決定するように構成された相対タイミング回路によって接続されている。時間差情報は、XY平面に対して傾いた粒子軌道によってもたらされる、対応する隣接するセンサ容積における電荷生成の位置のZ成分における差を示す。本明細書において、半導体層は、Z方向に延在する厚さを有するXY平面を画成する。
【0009】
本発明によると、半導体材料内で軌道に沿って移動する粒子の相互作用を検出するとき、Z成分、すなわち半導体センサの厚さ方向における位置が考慮される。従来技術のピクセル検出器の半導体センサ層は、ある一定の厚さを有していたが、読み出し電子回路層の構造によって、X方向およびY方向の次元での電荷生成の位置しか測定されなかったので、厚さ方向の電荷生成の位置は決して考慮されなかった。言いかえれば、粒子軌道が単一の半導体センサ層に対して傾いていた場合であっても、一般に、軌道のXY平面上への投影のみしか検出されなかった。
【0010】
しかし、発明者らは、電荷が生成された位置から読み出し回路に接続された対応する電極への電荷のドリフト時間を明らかにすることによって、電荷生成の位置のZ成分に関する情報が抽出されうることを見出した。ドリフト時間が長くなるほど、電荷生成の読み出し回路の電極からの位置がより遠くなる。用語「電荷生成」とは、電子正孔対の形成において電荷が遊離され、次いでこの電子正孔対が半導体層両端間の電界によって分離されることを言う簡潔な方法であることに留意されたい。1つの極性の電荷だけが読み出し電子回路の方へドリフトするので、検出器の観点から、対応する電荷が「生成され」、電荷が文字通りに「生成される」わけではなく電子正孔対に遊離されるということを念頭に置きつつ、この言葉遣いが簡単にするために本明細書の全体にわたって使用される。
【0011】
ガス検知器においては、従来既に、ドリフト時間は、到着時間の測定値に基づく事象位置の構造において考慮されてきたことに留意されたい。これらのデバイスは、「時間投影チェンバ(time projection chamber)」と呼ばれてきた。ガス検知器おいては、単一電子の電荷が検出に先立って増幅される。典型的な増幅において、高エネルギー粒子は、それがガス容積を横切るときにガス原子から単一電子を遊離する。電子は、ガス容積内の電界中でドリフトし、読み出し電子回路上方の高電界強度領域において増幅され、例えば検出されうる電子電荷のなだれを生じる。しかし、ガス検知器においては、ドリフト時間は、3次元の再現をより直截的に行う単一の半導体層の場合よりもはるかに長い。
【0012】
さらに、ガス検知器に基づく時間投影チェンバにおいては、電荷信号の絶対的な到着時間が記録された。同じ概念が単一の半導体センサ層に引き継がれるとすれば、はるかに短いドリフト時間のために、nsどころかサブns領域の非常に高い時間分解能が必要となるであろう。したがって、非常に高速のグローバルクロックが必要とされ、これは非常に高い電力消費をもたらすと思われる。しかし、適度な電力消費は、実際には妥協はしたくない半導体ピクセル検出器技術の重要な長所の1つである。
【0013】
本発明によると、nsどころかサブnsスケールの時間差情報が対応する高速クロックを用いることなく得られる。代わりに、本発明によると、隣接する読み出し回路が、前記隣接する読出し回路で検出された信号間の時間差情報を決定するように構成された相対タイミング回路によって接続されている。以下に示されるように、これらの「ピクセル間」の相対タイミング回路によって、高精度で、高い電力を消費する高速クロックを用いなくても相対的なタイミングを測定することができる。さらにまた以下に示されるように、この時間差情報から、関連する3次元の情報が再現されうる。
【0014】
各読み出し回路は、半導体センサ層の対応する容積のフットプリント(footprint)に収容され、相対タイミング回路が同じ読み出し電子回路の層に集積化されるのが好ましい。隣接する読み出し回路間に配置された個々の読み出し回路および相対タイミング回路は両方とも、半導体センサ層にボンディングされた同一の読み出しチップ上に集積化されるのが好ましい。このようにして、通常の2次元のピクセル検出器の場合と同じ小型化が達成されえて、同時に3次元の情報を提供することができる。半導体層は、もちろん常に2次元のXY平面を画成しZ方向に沿って延在する厚さを有する3次元の物体であるが、読み出し回路のアレイは、2次元である必要はなく、一部の実施形態においては、1次元のアレイであってもよく、それによって2次元のマトリックスではなく1列のピクセルを画成する。
【0015】
好ましい実施形態において、厚さdの、読み出し回路のアレイにおける読み出し回路のピッチaに対する比は、
【数1】
であり、好ましくは、
【数2】
である。このタイプのアスペクト比は、単一の半導体センサ層から3次元の情報を抽出するのに特に適している。
【0016】
半導体センサ層の厚さは、100μm〜500mm、より好ましくは100μm〜10mmであるのが好ましい。さらに、前記読み出し回路のアレイにおける読み出し回路のピッチaは、好ましくは10μm〜1mm、より好ましくは30μm〜80μmである。
【0017】
さらに、センサ層の半導体材料は、好ましくはSi、Ge、CdTe、CdZnTe、GaAsおよびダイヤモンドからなるグループのうちの1つである。
【0018】
単純な実施形態において、時間差情報は、2つの隣接する読み出し回路のどちらが最初に信号を受信したかを示す2値情報のみを含む。一部の実施形態において、この2値情報が基本的にZ方向の軌道の傾斜の符号をコード化しているので、この2値情報は、既に十分な情報であってもよい。
【0019】
しかし、時間差情報は、隣接する読み出し回路のそれぞれにおける受信信号間の時間間隔(time span)の長さに関する情報を含むのが好ましい。あるドリフト速度を考慮すると、この時間間隔は、直接、Z方向における2つの隣接ピクセルの事象の空間的差異、言いかえればZ成分に関する軌道の傾斜ということになる。傾斜について積分することによって、軌道のZ成分が再現されうることに留意されたい。
【0020】
好ましい実施形態において、相対タイミング回路は、それぞれが隣接する読み出し回路の1つに接続された2つの入力部を有する勝者独占回路(winner-take-all circuit)を備え、前記勝者独占回路が2つの入力部のどちらが最初に信号を受信したか示す2値の出力を提供する。そうした勝者独占回路に対する設計は、それ自体当技術分野において知られている。しかし、この点に関して、このようにして、nsどころかサブnsの時間スケールでの定性的なタイミング情報が、対応する高速クロックを用いなくても、自動的に記録されることに留意されたい。代わりに、この情報は、読み出し回路のアレイと同一チップ上に収容されうるかなり簡単な回路から得られる。
【0021】
好ましい実施形態において、相対タイミング回路は、XORゲートを備え、XORゲートの入力部のそれぞれが、隣接する読み出し回路の1つに接続される。したがって、XORゲートの出力は、入力の一方がハイで他方がローである場合、言いかえれば、信号が1つの読み出し回路では検出されているが隣接する回路ではまだ検出されていないときにのみ、「ハイ」または「真」である。
【0022】
前記XORゲートの出力は、好ましくはXORゲートの出力が「真」である時間間隔を測定するためのデバイスに接続され、この時間間隔が隣接する読み出し回路に到着する信号間の時間遅延に相当する。これらの時間間隔は非常に短いが、この時間間隔を測定するために、やはり高速のクロックは必要ではない。代わりに、XORゲートの出力は、例えば、XORゲートの出力が「真」の間に充電されるキャパシタに接続されてもよい。キャパシタに蓄積された電荷は、時間間隔に関する指標であり、したがって定量的なタイミング情報を提供する。
【0023】
隣接する画素間の到着時間差を測定するための代替の手段は、局部発振器が、ある画素がヒットされたときに開始し、隣接する画素がヒットされたときに停止する設計に基づいてもよい。発振器の出力は、高速カウンタに接続され、カウンタの内容が遅延の指標である。本実施形態は、キャパシタを充電するよりも多くの電力を消費することは明白である。それでも、グローバルな高速クロックを設けることとは異なり、本実施形態は、粒子が実際に検出されているときに電力を消費するだけである。したがって、本実施形態は、完全には高速クロックまたはカウンタなしには済まされない場合でも、隣接の画素間の相対時間測定に対する制約によって電力を節減できる方法を示す。
【0024】
好ましい実施形態において、XORゲートの入力は、XORゲートがそれぞれの入力の立ち上がりエッジにのみ反応するようにラッチされる。
【0025】
好ましい実施形態において、各読み出し回路は、入力信号電圧を所定のしきい値と比較し、前記入力信号電圧が所定のしきい値を超える場合にハイ(high)信号を出力するように構成された弁別器ロジックを備える。そうした弁別器ロジックを使用して、確実に所定の強さの信号のみが記録され、それによって効果的に雑音を抑制することができる。また、弁別器のしきい値を変えることによって、ある一定のエネルギー範囲が選択されうることに留意されたい。
【0026】
さらに、読み出し回路は、好ましくは、弁別器の出力が所与のしきい値を超える時間を決定するように構成されたタイムオーバしきい値(ToT)回路を備える。本明細書において、タイムオーバしきい値は、対応するセンサ容積において生成される電荷、言いかえればセンサ容積内に堆積されるエネルギーの指標である。
【0027】
さらに、各読み出し回路は、好ましくは、対応するセンサ容積において生成された電荷を増幅するための電荷増幅器(CSA:Charge Sensitive Amplifier)を備え、この電荷増幅器の出力部が前述の弁別器ロジックの入力部に接続されている。
【0028】
好ましい実施形態において、画素検出器は、前記読み出し電子回路層に接続された評価ユニットをさらに備え、この評価ユニットが隣接する読み出し回路からの時間差情報に基づいて粒子軌道のZ座標情報を構築するのに適している。前述したように、時間差情報が2つの隣接する読み出し回路のどちらが最初に信号を受信したか示す2値情報に限定される場合、少なくとも軌道の傾斜の符号が決定されうる。一部の用途においては、この情報は、既に価値があり十分であってもよい。しかし、好ましい実施形態のように、前記隣接する読み出し回路のそれぞれの回路における受信信号間の時間間隔の長さも決定される場合は、この時間間隔は、半導体センサ材料における電荷ドリフト速度を掛けることによってZ成分の差に変換されうる。さらに、軌道に沿った隣接画素のすべての対間の、Z成分における複数の差から、隣接画素間で測定されたZ座標における差を合計することによって、軌道の全Z成分が未知のオフセットに至るまで再現されうる。
【0029】
好ましい実施形態において、評価ユニットは、時間差情報におけるタイムウォーク(time walk)を補正するように各読み出し回路に関連づけられたタイムオーバしきい値情報を明らかにするように構成される。当技術分野において、「タイムウォーク」とは、単純なしきい値トリガが所望の時間分解能よりも相当に長い立ち上がり時間を有する信号に適用される場合であって、異なる振幅の信号が考慮される場合に発生する影響を指す。例えば、2つの信号の最大値が同時であったとしても、比較的大きな振幅を有する入力信号は、より小さな振幅ではあるが同一の立ち上がり時間を有する入力信号よりも早くしきい値に達することになる。本質的に信号の振幅が異なることによるこのタイミングの差が「タイムウォーク」と呼ばれる。しかし、タイムウォークは、信号の振幅がわかっている場合は、補正されえて、それがタイムオーバしきい値情報と識別されうる。代替えとして、定フラクション弁別器(constant fraction discriminator)を使用することも可能である。この場合は、信号のタイミングがパルス波高に依存しないので、タイムウォークは、発生しないことになる。
【0030】
上記の議論から明らかなように、新しいピクセル検出器によって、単一の半導体センサ層のみを用いて3次元情報を得ることが可能となり、グローバルな高速クロックまたは実際にいかなる高速クロックをも全く必要とすることなく可能となる。本明細書において、「高速クロック」とは、XY平面に対して傾いている粒子軌道に起因する関連するドリフト時間の差を解消することが可能なクロックである。そうした「高速クロック」を省くことによって、ピクセル検出器の電力消費を、極めてほどよい状態にしておくことができる。
【0031】
これらの利点により、新しいピクセル検出器は、多くの重要な用途を見出すはずである。例えば、ピクセル検出器は、コンプトン・カメラでの使用に理想的に適している。コンプトン・カメラによって、コンプトン散乱により生成された電子に基づいてγ線を放射する放射性同位元素の分布を再現することができる。このためには、明らかにγ粒子および/またはコンプトン電子の軌道に関する3次元情報が必要である。本発明のピクセル検出器を用いて、このことは、堅牢で、簡単で、手頃な手段によって得られる可能性がある。このピクセル検出器は、核医学診断デバイス、特にSPECTデバイスにおいて用いられるコンプトン・カメラでの使用に対して特に魅力的であると考えられる。しかし、本発明のピクセル検出器を用いるコンプトン・カメラは、原子力発電所の廃炉をモニターするためのデバイスにおいて非常に有利に用いられてもよい。
【0032】
本発明のピクセル検出器は、ハドロン治療デバイス、特に放射線場を検査するための陽子線治療デバイスにおいて特に有用であるとさらに考えられる。
【0033】
最後に、ピクセル検出器は、国土安全保障用途などのための中性子イメージングデバイス、またはX線偏光測定用途において使用するのに特に有利であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態によるピクセル検出器の断面図である。
図2】相対タイミング回路によって接続されている隣接する読み出し回路の概略図である。
図3】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
図4】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
図5】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
図6】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
図7】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
図8】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
図9】本発明の検出器を用いて認識されうる例示的な粒子軌道を示す図1に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の原理についての理解を促すために、ここで図面に示される好ましい実施形態が参照され、この好ましい実施形態について説明するために特定の文言が使用される。それにもかかわらず、本発明が関連する当業者が現在または将来普通に思いつくような、本明細書において企図され、本明細書において図示されるような、例示されたデバイスおよび方法における変更形態ならびにさらなる修正形態、ならびに本発明の原理のさらなる応用によって、本発明の範囲を限定することが意図されていないことが理解されるであろう。
【0036】
図1は、本発明の実施形態によるピクセル検出器10の断面図である。ピクセル検出器10は、半導体センサ層12を備え、この半導体センサ層12が本例においてはシリコンからなる。ピクセル検出器10は、ピクセル読み出しチップ14によって形成される読み出し電子回路層をさらに含む。ピクセル読み出しチップ14は、バンプ接合16により半導体センサ層12の収集ダイオード18にボンディングされている。
【0037】
ピクセル読み出しチップ14上に、読み出し回路20の2次元アレイが設けられ、このうちの9つが図1に示されている。本実施形態における読み出し回路20のピッチaは、約50μmである。個々の読み出し回路20のそれぞれは、電荷前置増幅器22および信号処理電子回路24を備える。
【0038】
図示される実施形態において、半導体センサ層は、1mmの厚さdを有しているが、これは単に例示にすぎない。半導体センサ層12の上部に、正バイアスを有する電極26が設けられ、この電極26によって半導体センサ層12の厚さ両端間に電界が生じるようにする。簡単にするため、図1における座標系28によって示されるように、半導体センサ層12の厚さ方向は、Z方向と呼ばれ、ピクセル読み出しチップ14およびセンサ層がX方向およびY方向に延在する。
【0039】
図2において、読み出し回路20の構造がより詳細に示されている。図2は、ピクセル1、2および3に対する3つの隣接する読み出し回路20を示し、それぞれが電荷増幅器(CSA)22および対応する信号処理電子回路24から構成されている。図2において見られるように、各信号処理電子回路24は、CSA22の出力部に接続された第1の入力部、および線32に接続された第2の入力部を有する弁別器論理回路30を備える。弁別器論理回路30は、第1の入力部におけるCSA出力電圧を第2の入力部におけるしきい値線32上のしきい電圧と比較する。CSA出力の絶対値がしきい値を超える場合、およびその限りにおいて、弁別器論理回路30は、パルス信号を出力する。電圧に基づいて信号を処理する代わりに、信号処理は、別法として電流に基づいてもよい。この点に関して、この特定の実施形態は、単に例示であって、決して限定していない。したがって、明示的に述べることなく信号が言及される場合は常に、信号は、電流信号または電圧信号のいずれであってもよい。
【0040】
弁別器論理回路30の出力パルス信号は、タイムオーバしきい値(ToT)回路34に供給され、この回路が弁別器論理回路30から出力されたパルス信号の時間長を測定する。このToT長の測定のためにクロックが必要とされることに留意されたい。しかし、ToT長は、本発明において考慮されることになる隣接する読み出し回路20における信号の到着時間差と比較するとまだ長い。したがって、読み出し回路20での信号の絶対的な到着時間が測定される場合に必要とされるクロックと比較すると、ToT回路34に必要とされるクロックは、まだ遅い。
【0041】
図2からさらに見られるように、2つの隣接する読み出し回路20それぞれの間に、相対タイミング回路36が設けられている。相対タイミング回路36は、2つの隣接する読み出し回路20の弁別器論理回路30の出力部に接続された2つの入力部を有する。相対タイミング回路36は、簡単にするために図1には示されないことに留意されたい。
【0042】
図2において詳細には示されていないが、相対タイミング回路36は、2つの主要構成要素を備える。その第1は、相対タイミング回路36への2つの入力を受信し、2つの入力部のどちらが最初に信号を受信したか示す2値の出力を提供する勝者独占回路である。相対タイミング回路36の第2の主要構成要素は、XORゲートであり、このXORゲートの各入力部が相対タイミング回路36の2つの入力部に同様に接続されている。XOR回路の出力は、相対タイミング回路36から同様に出力される。
【0043】
次に、ピクセル検出器10の動作が図1、2および3を参照して説明される。
【0044】
図3は、図1と同じ断面図であるが、加えて半導体センサ層12を左上から右下の方向に通り抜ける高エネルギー粒子の軌道38を示す。本開示において、粒子は、必ずしも静止質量を有する必要がなく、その結果、光子も、特にX線量子またはγ量子と同様に「粒子」と見なされることに留意されたい。粒子38がシリコン・センサ層12中を横切るにつれ、粒子38は、自由電子および正孔を生成し、電子正孔対の数が放射線38によって半導体センサ12に伝達されたエネルギーに比例する。半導体センサ層12両端間の電界の影響を受けて、正孔は、対応する読み出し回路20の収集ダイオード18に向かってドリフトする。より正確には、図3を参照して、正孔は、全体的に垂直下方にドリフトし、その結果ある収集ダイオード18の垂直上方の半導体容積において生成された正孔すべてが、収集ダイオード18に接続された読み出し回路20によって検出される。これは、所与の収集ダイオード18において収集された電荷の量のみが測定される場合、この量は、それぞれの収集ダイオード18の垂直上方の容積内に堆積された全エネルギーの指標にすぎないことを意味する。しかし、電荷だけからは、半導体センサ12のZ方向(すなわち厚さ方向)の電荷の生成の位置は、識別されえない。使用される半導体材料によっては、ダイオード18のようなダイオードを使用することは必要でなく、代わりに単純な収集電極が使用されてもよいことに留意されたい。
【0045】
さらに図3を参照して、所与の収集ダイオード18へ向かってドリフトする電荷(すなわち正孔)が、バンプ接合16を介して対応するCSA22に供給され、そこで信号が増幅される。CSA22から、電荷は、定電流で放電される。CSA22の出力は、弁別器論理回路30の第1の入力部に供給される。図2を参照されたい。前に述べたように、第1の入力部における電圧がしきい値線32上の電圧を超える場合、弁別器論理回路30は、パルス信号を出力する。したがって、弁別器論理回路30は、弱すぎる、すなわち、少なすぎる電荷、言いかえれば、対応するピクセル容積内に堆積される小さすぎるエネルギーに対応する信号を阻止する。このようにして、ノイズが効果的に抑制されうる。また、しきい値線32上の電圧を変更することによって、記録される事象についてのより低いエネルギー境界が設定されてもよい。さらに図2を参照して、弁別器論理回路30の出力は、弁別器論理回路30の出力の実効長を測定するToT回路34に供給され、この実効長が収集ダイオード18で収集された全電荷、したがって対応する容積内に堆積されたエネルギーの指標である。
【0046】
さらに、相対タイミング回路36の勝者独占回路(図示せず)を使用して、2つの入力信号のどちらが最初に到着するかが判定されうる。信号の到着時間は、対応する収集ダイオード18からの電荷分離の位置のZ方向の距離に依存する。この位置が収集ダイオード18から遠くに離れるほど、信号は、より遅延する。したがって、図3を参照して、ドリフト距離、したがってドリフト時間がより短いため、粒子軌道38によって生成された電荷は、ピクセル5の収集ダイオード18(または収集電極)にピクセル4の収集ダイオード18(または収集電極)よりも早く到着すると見なされてもよい。この点に関し、粒子は、光速で移動し、その結果、実際上は、電荷が軌道38に沿って同時に生成されると見なされてもよいことに留意されたい。しかし、前に述べたように、異なる到着時間は、カバーされる異なるドリフト距離から生じる。したがって、ピクセル4と5との間に接続されている相対タイミング回路36の勝者独占回路(図示せず)は、ピクセル5がより早く信号を受信したことを示す2値の信号を出力する。この情報から、軌道38の傾斜の符号が識別されえて、すなわち、この軌道38が左上から右下に向かっており、図4に示されるようにその逆ではないことが識別されうる。代わりに、図4に示される軌道に対しては、相対タイミング回路36は、ピクセル4がピクセル5よりも早く信号を受信したと判定する。
【0047】
傾斜の符号だけでなく、傾斜そのものを推定するために、図示される実施形態によって、隣接ピクセル間の到着時間差を求めることができる。到着時間差は、あるピクセルは、信号を受信しているが、隣接するピクセルは、信号をまだ受信していない状態の時間長である。まさにこの状態が、相対タイミング回路36に含まれるXOR論理回路(図示せず)によって検出されるのは明らかである。したがって、XORゲートの出力が「ハイ」または「真」の期間を測定して、隣接するピクセルにおける信号の到着時間差を求めることができる。重要なことには、この到着時間差は、例えば、nsまたはサブnsスケールの非常に短い期間であるが、いかなる高速クロックもこの期間を測定するために必要とされない。代わりに、キャパシタに蓄積された電荷が到着時間差を示すように、例えば、XORゲートの出力パルスがキャパシタ(図示せず)を充電するために使用されうる。このようにして、グローバルな高速クロック、または高速クロックさえも全く設ける必要はなく、非常に短い到着時間差が精密に測定されうる。代わりに、関連する相対時間情報は、通常の読み出し回路20と同じピクセル読み出しチップ14に集積化されうる比較的単純な相対タイミング回路36を用いて得られうる。
【0048】
実際的な例において、弁別器論理回路30のみからの信号の立ち上がりエッジに敏感なラッチ付きXORゲートを使用することが有利な場合がある。また、明細書の導入部において説明されたように、入力信号が異なる振幅を有する場合、到着時間のトリガとして弁別器出力を使用することによってタイムウォークがもたらされる。しかし、このタイムウォークは、ToT回路34によって提供される信号のエネルギー情報に基づいて、補正されうる。
【0049】
図には示されていないが、好ましい実施形態において、複数の読み出し回路20からの時間差情報に基づいて粒子軌道のZ座標情報を構築するのに適用された評価ユニットが設けられている。また、この評価ユニットは、ToT回路34から、時間差情報におけるタイムウォークを補正するためなどのToT情報を受け取る。
【0050】
したがって、要約すると、隣接する信号処理回路20間に接続された様々な相対タイミング回路36によって提供される時間差情報に基づいて、図3および4に示される軌道が識別されうるが、従来技術のピクセル検出器が唯一検出するものである、XY平面上への軌道の投影は、実際上同一である。
【0051】
3D軌道情報を用いて、より複雑な事象、図5および6に示される事象などが再現されうる。XおよびY平面での2次元情報のみでは、これらの事象は、ほとんど理解されえないのは明らかである。
【0052】
さらに、3D検知能力を使用して、図7に示されるような電子などのより低いエネルギー粒子の軌道が再現されうる。図7は、ピクセル検出器における典型的な電子の「みみず状の」(「worm−like」)パターンを示す。高エネルギー光子の散乱によって生成されたコンプトン電子の方向を検出する場合に、これは、特定に重要である。例えば、本発明の検出器は、γ線放射ラジオアイソトープの分布を再現するために使用されるいわゆるコンプトン・カメラにおいて使用されてもよい。これは、SPECT用途において特に有用である。
【0053】
さらに、3D情報に基づいて、この検出器によって、図7の軌跡と図8の軌跡とを識別することができ、これらの軌跡は、通常の2D検出器ではほとんど識別不可能である。実際、この検出器によって、図8および9の軌道を識別することさえ可能である。
【0054】
図2に示されるような読み出し電子回路の実施形態は、単に例示であって、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに様々な修正および変更が行われてもよいことに留意されたい。
【0055】
例えば、所定のしきい値を用いて、それによってどちらの信号が最初に到着したかを判定するのではなく、互いに隣接するピクセルのCSAの2つのアナログ出力を比較する電子回路を実装することが可能である。さらに、2つの隣接ピクセルの読み出し電極または読み出しダイオードからの各信号をマージし、このマージされた信号を単一の共通の弁別器を用いて比較することが可能である。例えば、信号は、逆極性で重畳されてもよく、マージされた信号の絶対値が弁別器のしきい値と比較され、マージされた信号の符号が、どちらのパルスが最初に到着したかを示す。加えて、前に示されたように、通常の弁別器論理回路30の代わりに、どちらの信号が最初に到着したかに関する判定を行う前に両方の隣接するピクセルに対して定フラクション弁別器が使用されてもよい。このように、普通ならば補正される必要があるタイムウォークが完全に回避されうる。
【0056】
新しい単層3D追跡半導体検出器は、多くの非常に有望な用途を有する。例えば、ピクセル検出器は、理想的にコンプトン・カメラでの使用に適する。コンプトン・カメラによって、コンプトン散乱によって生成された電子に基づき光線を放射する放射性同位元素の分布を再現することが可能である。
【0057】
コンプトン・カメラのための有用な用途は、SPECTデバイスにある。通常の(すなわちコンプトン・カメラのない)SPECTデバイスは、コリメータおよび位置検知可能なシンチレータ・ブロックを活用する。コリメータは、数多くの孔を備え、これらの孔と平行に進む光子のみを通す。この通常の設計は、2つの欠点を有する。第1に、位置分解能が、シンチレータ検出器の比較的貧弱な分解能のためにあまりよくない。第2の欠点は、検出器に向かって放射された大多数の光子は、コリメータで吸収されるため、それらが検出器に到達さえしないということである。したがって、妥当な時間で十分な信号を得るためには、実際上患者に投与される放射性核種の線量をあまり低くすることができず、それによって、患者に対して著しい線量被爆をもたらす。
【0058】
コンプトン・カメラを使用して、コリメータなしで済ますことができる。代わりに、コンプトン・カメラは、2つの検出器の層を使用する。第1の層は、位置およびエネルギー分解能を有する吸収の少ない層である。この層は、散乱検出器とも呼ばれ、この散乱検出器において、光子は好ましくは吸収されず、コンプトン散乱が生じる。第2の検出器の層は、散乱検出器の背後に配置され、エネルギーおよび位置分解能も有する。散乱検出器において散乱された光子が、エネルギーおよび位置に関して検出され、完全に吸収され、このことが第2の層が「吸収検出器」とも呼ばれる理由である。コンプトン・カメラの設計において極めて重要な課題は、コンプトン電子のエネルギーがコンプトン散乱角を再現するために必要とされるため、散乱検出器の良好なエネルギー分解能を提供することである。これは、コリメータが用いられていないため、コンプトン・カメラにおいては、衝突する光子の方向がもはやわからないからである。
【0059】
本発明のピクセル検出器は、コンプトン・カメラにおける散乱検出器として理想的に使用されうる。電子軌跡を3D検出するために、たとえこのピクセル検出器がコンプトン・エネルギー測定のためのエネルギー分解能を改善しないとしても、センサにおいてコンプトン散乱した後に遊離されたコンプトン電子の角度に関する重要な情報を与える。コンプトン電子のエネルギー測定と組み合わせられてもよいコンプトン電子に関するこの追加の情報のおかげで、散乱検出器のエネルギー分解能に対する要件は、実際には緩和されえて、それでもなお画質を改善することができる。
【0060】
実際、第2の吸収検出器を全くなしで済ますことができることが考えられさえする。すなわち、本発明の検出器におけるエネルギー分解能が十分な場合、コンプトン電子の角度の測定値は、散乱検出器のみからのデータとともに衝突する光子の可能性のある方向を再現するために使用されてもよい。
【0061】
コンプトン・カメラのさらに重要な用途は、核廃棄物、汚染部品、放射能汚染、汚い爆弾の汚染などを検出することである。したがって、コンプトン・カメラは、国土安全保障用途で、または原子力発電所の廃炉において使用されてもよい。
【0062】
新しい検出器のさらに有利な用途は、ハドロン治療、特に、陽子線治療においてである。ハドロン治療デバイスにおいて、本発明の検出器は、患者へ照射される治療ビームをモニターするために使用されてもよい。加えて、本発明の検出器は、治療モニタリング中に粒子追跡デバイスとして使用されてもよい。
【0063】
本発明の検出器のさらに重要な用途は、中性子イメージングにおいてである。中性子を検出するために、コンバータ材料、例えば、プラスチック材料が半導体センサの前に配置される。中性子がコンバータ材料と相互作用することによって、陽子が遊離されえて、次いで、この陽子が、陽子軌道に関する3次元の情報を含めて、本発明のピクセル検出器を用いて検出される。この情報は、コンバータ材料に衝突する中性子の軌道に関する情報を得るために、陽子に対する中性子のエネルギー依存の散乱過程についての知見と一緒に使用されてもよい。このように、中性子場の位置分解された角度分布が得られる。
【0064】
その上、中性子透過イメージング中の場合である、すべての中性子がコンバータ材料に垂直に衝突する場合、ピクセル検出器は、半導体マトリックス上の陽子の衝突点に関する精密な情報を与える。半導体マトリックスにおいて、衝突点は、Z座標に関して、半導体検出器材料の読み出し回路側から最も遠く離れているピクセルに相当する。少なくとも高エネルギーに対する陽子は、ピクセル検出器内で比較的長い軌跡を有するので、衝突点の決定が特に重要である。本発明の検出器によって提供される3次元の情報を使用して、衝突点が改善された精度で決定されえて、それによって、全体として位置分解能を改善する。
【0065】
最後に、本発明の検出器は、X線またはγ線の偏光測定用に、例えば、X線またはγ線の直線偏光の面を求めるための手段として用いられてもよい。すなわち、本発明の検出器の3次元イメージングを用いて、上で示されたように、コンプトン電子、光電子または対生成後の電子/陽電子対の軌跡が検出されうる。これは、構造によって本発明の検出器が非常に小さなピクセルピッチにもかかわらず相対的なタイミング情報を得ることを可能とし、その結果、電子/陽電子対さえが十分なピクセル数にわたって広がることが見込まれ、それにより3次元の軌道が検出されうるため、特に当てはまる。この軌道から、コンプトン電子または光電子または電子/陽電子対の放射の角度が求められうる。放射の角度は、もとの光子の方向、変換過程、および光子の電界ベクトルの方向と関係がある。衝突する光子場における光子の電界ベクトルの分布は、直線偏光の面の角度および配向と関係がある。したがって、光子の散乱過程で生まれた粒子の軌道の3次元測定値は、直線偏光の面の角度および配向に関する情報を補充する。γ線またはX線イメージング偏光計は、例えば、天空の光子源を調査するためのX線またはγ線衛星における計器として必要とされる。
【0066】
上記の実施形態および添付の図は、単に本発明による検出器を例示する働きをし、本発明に関するなんらかの限定を示すと解されるべきではない。本特許の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定される。
【符号の説明】
【0067】
10 ピクセル検出器
12 半導体センサ層
14 ピクセル読み出しチップ
16 バンプ接合
18 収集ダイオード
20 読み出し回路
22 電荷前置増幅器
24 信号処理電子回路
26 電極
28 座標系
30 弁別器論理回路
32 しきい値線
34 タイムオーバしきい値回路
36 相対タイミング回路
38 粒子軌道
a ピッチ
d 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9