【実施例1】
【0015】
超音波伝搬現象を解明するためのシミュレーション技術、超音波計測波形を用いた逆解析による検査画像再構成技術、超音波検査条件策定支援などで利用する、精確な解析モデルを提供するためには、モデル形状の作成と、作成したモデルへの特性付与が必須となる。モデル形状の作成と、作成したモデルへの特性付与を実施するフローを
図1に示す。S000〜S005は、モデル形状を作成するときに必須となるフローである。S006〜S013は、局所的なイメージデータを用いてモデル全体に特性を付与するためのフローである。S014は、本発明で作成したモデルを用いた超音波伝搬シミュレーション、検査画像再構成、超音波計測支援を想定したステップである。以下、詳細を記述する。
【0016】
S000で、モデル作成を開始する。S001で、オブジェクト(形状)作成領域の初期化を実施し、S002で、コマンド選択をする。コマンド選択では、形状DB31から既存の形状データとして例えばCADデータを読み込むファイル入力コマンド1、形状を生成するための基本オブジェクト生成する基本オブジェクト作成コマンド2、生成したオブジェクトの部分を変形又は移動操作する部分変形・移動操作コマンド3、生成したオブジェクトの全体を変形又は移動操作する全体変形・移動操作コマンド4、あるいは作成したオブジェクトをリセットするリセットコマンド5、保存又は終了を実施する保存・終了コマンド6があると良い。各コマンドの選択及び実施後には、S003で、表示を更新し、S004で更新されたオブジェクトが所望のものかを判断する。正しければ、S005で結果を出力及び保存をする。未完成の場合又は正しくない場合は、S002のコマンド選択に戻る。
【0017】
S006で作成したオブジェクトへの特性の付与を開始する。S007でオブジェクト領域の情報を初期化する。S008で、作成したオブジェクトの特性チェックとして、音響異方性を有する部材(結晶性材料の部材)や高減衰材料などが含まれるかなどをチェックする。S008はS009のコマンド選択において、コマンドのアクティブ化・非アクティブ化に利用すると良い。コマンドには、一般に特性を付与する場合に必要とされる、材料や性質の異なる境界を作成し、境界の特性(吸収境界・反射境界など)を指定する境界条件設定コマンド7、境界で囲まれた領域に基本材料データを指定及び入力する領域設定コマンド8、情報をリセットするリセットコマンド9、終了及び保存を実施する終了/保存コマンド10、S002へ戻りオブジェクトを編集できるオブジェクトの編集へ戻るコマンド11などがあると良い。
【0018】
境界で囲まれた領域への基本材料データの設定には、記憶領域から基本材料データを読み込む、あるいはキーボード等を用いて手入力可能にしておくと良い。基本材料データとしては、等方性材料の場合においては、例えば材料名・密度・縦波音速と横波音速、異方性を有する領域の場合においては、例えば材料名・密度・スティフネス定数があればよい。材料のスティフネス定数は、既知の材料の場合には既存のデータベースを参照すると良い。一方向凝固材のような多結晶体の場合は、既存のデータベースに無い材料である場合が多く、この時は、予め同一の材料の試験片を用いて電磁超音波共鳴法により共鳴スペクトルを求め、共鳴スペクトルを逆解析してスティフネス定数を求めておくと良い。あるいは、第一原理計算により理論的にスティフネス定数を求めておくと良い。加えて、領域のうち結晶性を有する場所に大域的な結晶成長方向を入力できる大域的結晶成長方向指定コマンド12がある。大域的な結晶成長方向を求めるには、予め試験片を準備して破壊的手段で求めるか、非破壊的手段で求めると良い。破壊的手段としては、構造物を切断して断面を観察する断面観察が主として実施される。断面を研磨及びエッチング後、光学的撮像手段で写真撮影することにより、粒径分布などが分かる。X線回折パターンからはマクロな結晶成長方向が分かる。非破壊的手段としては、Ogilvyの式に基づき結晶成長方向を理論的に求める手法(非特許文献1)や、集束超音波計測によるマクロな結晶成長方向を算出する手法(PCT/JP2013/076180)や、フェーズフィールド法によるシミュレーションで凝固現象を求める手法(非特許文献2)が知られておりこれらをイメージデータに用いてもよい。
【0019】
そして、本発明では新たに記憶領域のイメージDB38からEBSPデータ(Electron Backscatter Diffraction Pattern)やエッチングデータ(写真)などの画像データを利用する領域を指定するイメージデータ利用領域設定コマンド13、イメージDB38に保存されている各種イメージから、領域に適したイメージを選択するイメージ選択コマンド14、選択したイメージを大域的な結晶成長方向のデータに基づき操作することを可能とするイメージ操作コマンド15などがある。各コマンドの選択及び実施後には、S010で、イメージデータを利用した視覚情報や各領域の特性情報を更新し、S011で更新されたオブジェクトおよびその特性が所望のものかを判断する。正しければ、S012で結果を出力及び保存し、S013で、数値解析に必要な格子の生成を実施する。格子生成には、計算領域を設定し、メッシュを生成し、格子点や面を定義し特性を付与すると良い。
【0020】
スティフネス定数を付与する際に利用するイメージデータとしては、EBSD測定により生成されたイメージデータを用いるのが好適である。EBSD測定結果で示されるイメージデータのカラーは結晶面指数と関係づけられているので、各メッシュにおけるスティフネス定数は、該当するイメージデータのカラーが示す結晶面指数に基づいてオイラー角を求め、求めたオイラー角に相当する回転行列を先述の基本材料データのスティフネス定数にかけることにより算出すると良い。なお、一方向凝固材の場合、結晶粒分布を示す写真画像の濃淡に適当に結晶面情報を付与させることにより、EBSD測定結果を擬似的に作成することが可能である。S011で更新されたオブジェクトおよびその特性が未完成の場合又は正しくない場合、S009のコマンド選択に戻る。当然、S008で音響異方性を有する部材が無い場合は、S013の格子生成、S014の解析条件の設定へと進むと良い。
【0021】
具体的には、試験片10×10×10mmを採取し、超音波を伝搬させる面について超音波の波長と結晶粒の大きさよりも十分小さなピッチ(例えば0.01mm)でEBSD測定を実施する。イメージデータを
図9のように並べて検査領域に相当するイメージデータを作成する。そして、前述のピッチを1画素あるいは1メッシュ(0.01×0.01mm)としてイメージの処理を実施して画素のカラー情報を読み取り、この画素のカラーや濃淡から結晶面指数とオイラー角を求めて、このオイラー角をスティフネス定数に反映させる。なお、イメージデータ上のカラー情報は結晶面指数と対応しているため、カラー情報を基に対応するオイラー角が分かるという仕組みである。当然、イメージデータの生成と画素の処理の順番を逆にして画素のカラー情報を読み取り、各画素に相当するスティフネス定数も算出した上で、
図9におけるモデルを作成しても良い。作成したモデル上でFEMやレイトレース等を実行するということになる。例えば、超音波を利用した検査装置(PCT/JP2013/076180)におけるモデル作成部分において、本発明のモデル作成方法を適用することにより、超音波の検査画像再構成が精度良く実施できる。
【0022】
図1の全体モデル化フローのうち結晶性の付与部分S006〜S014で、特にイメージデータを利用するフローについて、
図2を用いて説明する。S100で、イメージデータの利用を開始する。S101で、分割されたある領域を選択し、S102で、選択した領域にイメージデータを用いるかを判断する。イメージデータを用いる場合は、S103で、
図1の記憶領域にある領域とよく一致するイメージデータを選択する。最適なイメージとしては、EBSD測定結果により結晶粒径および各結晶粒の結晶面指数が判明しているイメージである。S104で、選択した領域の大域的な(平均的な)結晶成長方向を設定し、S105で、選択したイメージに対し、イメージを拡大・縮小、並進、回転、変形、コピー、敷き詰めなどの操作を実施し、選択した領域のイメージデータを生成する。これら操作は、拡大・縮小コマンド21、並進コマンド22、回転コマンド23、変形コマンド24、コピーコマンド25、敷き詰めコマンド26を用いて行なう。S106で、イメージデータを利用する領域全てで完了したかどうかを判断し、S107で、完了した場合は、イメージデータ利用を終了する。S102で、イメージデータを利用しない場合も、S107でイメージデータ利用を終了する。
【0023】
上述のモデル生成方法が実施可能なモデル作成装置を備えた検査装置について、
図3に示す。基本の装置構成要素は、結晶状態のイメージデータを取り込むイメージデータ取り込み装置32、各種解析に用いる詳細なモデルを作成する処理装置33、作成したモデルを利用する各種解析装置34、各種情報を記憶する記憶装置35、作成したデータを表示する表示器36(ディスプレイ)、各種情報を入力する入力装置37の6つの装置で構成されている。イメージデータ取り込み装置32では、例えば金属表面をEBSD測定して取得した画像ファイルを読み込み、記憶装置のイメージDB38に保存する機能を有する。処理装置33では数値解析する際に必要な解析領域を定義する機能を有する。すなわち、解析領域を定義するため、センサ構造、ウェッジなどの接触媒体、被検体などの形状及び性状を入力情報として境界条件を作成し、解析領域をメッシュに分割するような機能を有し、上述したステップを実施できるように、主に、形状編集機能39、領域への材料定数付与機能40、イメージデータ編集機能41、イメージデータの解析・処理機能42、メッシュ生成機能43を有する。
【0024】
形状編集機能39は本実施例でのS000〜S005の処理を行う処理部である。イメージデータ編集機能41は本実施例でのS006〜S014の処理を行う処理部である。メッシュ生成機能43は、上記で作成したイメージデータで敷き詰められた画像データに対して、複数の小片であるメッシュへと分割して、各小片単位で画像データが扱えるようにメッシュを生成する処理部である。イメージデータの解析・処理機能42では、各メッシュの該当する画素のカラー情報を読み取り、この画素のカラーや濃淡から結晶面指数とオイラー角を求める処理部である。領域への材料定数付与機能40は、求めたオイラー角に相当する回転行列を基本材料データのスティフネス定数にかけて材料定数を算出して、イメージデータ利用領域に相当する各メッシュに対して、材料特性を付与し、各種解析に用いられる被検体モデルを作成する処理部である。なお、イメージデータの解析・処理機能42で画素のカラー情報を読み取る際に、生成するメッシュの大きさによっては複数のカラー情報が含まれる可能性がある。この場合は、メッシュに含まれるカラー情報の中で、最も占める率の高いカラー情報を採用する、又は、該メッシュの周囲にあるメッシュのカラー情報で置き換えるようにする等の処理方法が考えられる。
【0025】
各種解析装置34では、イメージデータを活用して生成したモデルを用いて、例えば、有限要素法やレイトレース解析法を用いて超音波の伝搬シミュレーションを実施する機能を有する。各種解析装置34は有限要素法処理機能44、レイトレース解析機能45を有する。記憶装置35は、解析領域を作成するため、被検体の基本形状を記憶した形状DB31や、被検体を構成する材料データ(密度、スティフネス係数、粒径分布、金属結晶種)を記憶した材料DB46、EBSD測定や光学撮影などのイメージデータを記憶するイメージDB38を保有する。また、作成したデータを保存する作成データ保存DB47も有する。表示器36は、編集及び作成したモデルを可視化するため、作成したモデルを使用し、有限要素法やレイトレース法などで解析を実施した結果を表示するために用いる。
【0026】
上述のモデル生成方法および装置を利用するに好適な、超音波検査体系を
図4に示す。ここでは、アレイセンサ50を用いてニッケル基合金の一方向凝固材51を検査することを想定した。点線で囲まれた面が超音波の伝搬面である。ニッケル基合金の一方向凝固材51の従来のモデル化手法は
図5に示すように、立方晶に属する各柱状晶の結晶軸がZ軸方向以外ではランダムに分布しており、大域的にみてX―Y平面における結晶性は無視することができるため、XY平面内は超音波の音速が伝搬方向に依存しないとする横等方性近似、あるいは結晶として最も回転対称性の高い六方晶近似して扱うことが多い。このような近似では、各柱状晶の結晶軸を反映したモデルが作成できない。そこで本実施例のように、イメージデータを用いてモデルを作成する。
【0027】
今、
図4における被検体の大域的な結晶成長方向をZ軸方向と仮定し、Y−Z平面においてアレイセンサ50を用いて超音波検査することを想定すれば、
図6に示すように、超音波を走査するY−Z平面では柱状晶の長手方向が概ねZ軸方向に揃って配列している。EBSD測定によるイメージデータを利用したモデル化を実施するには、Y−Z平面と平行な断面全域をEBSD測定するのではなく、例えば結晶粒や結晶面方位分布のある程度含まれる範囲相当のニッケル基合金の一方向凝固材サンプルを予め準備しておき、伝搬面に相当する領域についてEBSD測定する。EBSD測定した結果の模式図を
図7に示す。EBSD測定結果のイメージカラーは、結晶面指数に対応している。このEBSD測定領域52中、一方向凝固材の特性を良く表した領域をサンプル空間A53としている。入力装置37を用いてサンプル空間を指定して、指定された
図8のようなイメージデータをイメージDB38に保存すると良い。本ケースのように一方向凝固材の結晶成長方向がZ軸方向であると分かっていれば、
図9のように大域的な結晶成長方向に合わせてサンプル空間A53を並行移動およびコピーを繰り返すことによってサンプル空間A53で敷き詰め、一方向凝固材の断面モデルを作成することができる。
【0028】
図4における一方向凝固材の結晶成長方向が、未知の場合におけるモデル作成方法について
図10を用いて説明する。先述したとおり、大域的な結晶成長方向を求めた後に、EBSD測定結果のイメージデータを大域的な結晶成長方向に合わせて回転させて敷き詰めることでモデルを作成すれば良い。この時、例えば(PCT/JP2013/076180)に記載の超音波計測により一方向凝固材のマクロな結晶成長方向を非破壊で求め、本発明のモデル作成方法を適用することにより、一方向凝固材のモデル化を精度良く実施できる。
【0029】
このように作成したモデルに対して、計算領域を設定し、メッシュを生成し、格子点や面を定義し特性を付与する。具体的には、
図9に示すEBSD測定結果であるイメージデータを敷き詰めた画像に対して、計算領域を設定して、メッシュを生成する。各メッシュにおいて、イメージデータよりカラー情報を読み取り、該当するイメージデータのカラーが示す結晶面指数に基づいてオイラー角を求め、求めたオイラー角に相当する回転行列を先述の基本材料データのスティフネス定数にかけることにより算出する。これにより各種解析に用いられる溶接部の材料特性を付与した被検体モデルが作成できる。
【0030】
本実施例によれば、一般的な各柱状晶を平均的な結晶方位を用いて表したモデルと比較して、精度が高く、簡便かつ迅速に各柱状晶の一つ一つの結晶方位をそれぞれ反映したモデルが作成できる。
【実施例2】
【0031】
溶接部のモデル化を例に
図11〜
図14を用いて説明する。溶接部は
図11のように、領域A、B、Cで構成されることを想定した。ここで、領域Aは先述のニッケル基合金の溶接部、領域Bは大きな結晶性の不純物を含んだSUS、領域Cは材料定数が既知のSUS(等方性材料)であるとする。領域Bのサンプル空間Bは、
図12に示すようなものであるとし、サンプル空間中の密度・スティフネス定数は算出可能であるとする。溶接部における大域的な結晶成長方向の変化については、非特許文献1に記載されている方法を用いて求めることが出来る。Aの領域における結晶成長方向の変化は、タンジェントの関数を用いた曲線で近似されるが、多数の領域に分割することにより、各領域における大域的な結晶成長方向は線形近似できる。
【0032】
従来は、
図11に示すように領域A1,A2,A3に分割し、各領域の結晶成長方向101のみ考慮していたモデルが用いられてきた。本発明では、
図1、
図2に示したフローを用いることにより、
図13に示すモデルを作成することができる。領域A1-A3ではそれぞれの結晶成長方向に合わせてサンプル空間Aが回転後、敷き詰められている。領域Bにおいては、大きな結晶性の不純物を含む材質を反映したサンプル空間Bが敷き詰められている。領域Cにおいては、等方性材であるため、同一の材料定数が付与されている。また、近年の画像処理技術によれば、パターン認識さえしておけば、
図14に示すように一般座標変換等によって歪んだ空間へ任意に画像を変換して敷き詰めることができるので、イメージベースだけでモデルを構築してしまってから、メッシュを作成する方法も考えられる。
【0033】
このように作成したモデルに対して、計算領域を設定し、メッシュを生成し、格子点や面を定義し特性を付与する。具体的には、
図13に示すEBSD測定結果であるイメージデータを敷き詰めた画像に対して、計算領域を設定して、メッシュを生成する。各メッシュにおいて、イメージデータよりカラー情報を読み取り、該当するイメージデータのカラーが示す結晶面指数に基づいてオイラー角を求め、求めたオイラー角に相当する回転行列を先述の基本材料データのスティフネス定数にかけることにより算出する。これにより各種解析に用いられる溶接部の材料特性を付与した被検体モデルが作成できる。
【0034】
本実施例によれば、複数の部材で構成される構造物に対してより簡便な方法でモデルが作成可能となる。