特許第6040329号(P6040329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6040329
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/272 20130101AFI20161128BHJP
   H04B 10/077 20130101ALI20161128BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H04B9/00 272
   H04B9/00 177
   G01M11/00 R
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-65344(P2016-65344)
(22)【出願日】2016年3月29日
【審査請求日】2016年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】399041158
【氏名又は名称】西日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】河合 由佳里
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 優美
【審査官】 角田 慎治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−267798(JP,A)
【文献】 特開2010−212778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
G01M 11/00−11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上り光を出力し続けている加入者側光回線終端装置を特定する測定装置であって、
前記上り光に対してブリルアン周波数シフト分の周波数差を持つパルス光を前記上り光に対向して入射する発光手段と、
前記上り光を受信する受光手段と、
前記上り光と前記パルス光の相互作用によって生じた前記上り光の増幅を検知し、前記上り光が増幅された時間を計測する計測手段と、
を有することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
上り光を出力し続けている加入者側光回線終端装置を特定する測定方法であって、
前記上り光に対してブリルアン周波数シフト分の周波数差を持つパルス光を前記上り光に対向して入射するステップと、
前記上り光を受信するステップと、
前記上り光と前記パルス光の相互作用によって生じた前記上り光の増幅を検知し、前記上り光が増幅された時間を計測するステップと、
を有することを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PONネットワークにおいて異常なONUを特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在光アクセスシステムとして広く用いられているGE−PON(Gigabit Ethernet−Passive Optical Network)システムでは、局側光回線終端装置であるOLT(Optical Line Terminal)と加入者側光回線終端装置であるONU(Optical Network Unit)が、光スプリッタなどの受動(パッシブ)素子で構成されたP2MP(Point to Multipoint)形態で接続される。GE−PONの上り信号は光スプリッタで合波されるため、各ONUからの上り信号が合波後に衝突しないように、OLTが司令塔の役目を務め、各ONUに対して送信許可を通知し、上り信号を時間的に分離して衝突を回避している(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】落合康二、他6名、「Gigabit Ethernet−PON(GE−PON)システムの開発」、NTT技術ジャーナル、日本電信電話株式会社、2005年3月、第17巻、第3号、pp. 75-80
【非特許文献2】大石将之、他2名、「標準MPCPメッセージを用いた障害ONU特定法の提案」、信学技報、社団法人電子情報通信学会、2010年11月11日、第110巻、第291号、pp. 17-21
【非特許文献3】水野洋輔、中村健太郎、「光ファイバ中のブリルアン散乱とそのセンサ応用」、超音波TECHNO、日本工業出版株式会社、2014年、第26巻、第3号、pp. 84-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ONUが故障した際には、速やかに当該ONUを特定し、交換等の復旧を図ることが重要である。故障したONUが常時発光した場合には、GE−PONシステムの特徴上、各ONUと通信ができなくなる。この問題を解決するため、例えば非特許文献2では、ONUの正常動作を順次検査し、排他的に障害ONUを特定する手法が提案されている。しかしながら、非特許文献2の手法では、ONUを周期的に発光するように制御することが必要であり、既に広く導入されているOLT,ONUに対して手を加える必要が生じる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、既存のシステムへの変更を限りなく少なくし、常時発光するONUを速やかに特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明に係る測定装置は、上り光を出力し続けている加入者側光回線終端装置を特定する測定装置であって、前記上り光に対してブリルアン周波数シフト分の周波数差を持つパルス光を前記上り光に対向して入射する発光手段と、前記上り光を受信する受光手段と、前記上り光と前記パルス光の相互作用によって生じた前記上り光の増幅を検知し、前記上り光が増幅された時間を計測する計測手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
第2の本発明に係る測定方法は、上り光を出力し続けている加入者側光回線終端装置を特定する測定方法であって、前記上り光に対してブリルアン周波数シフト分の周波数差を持つパルス光を前記上り光に対向して入射するステップと、前記上り光を受信するステップと、前記上り光と前記パルス光の相互作用によって生じた前記上り光の増幅を検知し、前記上り光が増幅された時間を計測するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、既存のシステムへの変更を限りなく少なくし、常時発光するONUを速やかに特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態における測定装置を含む全体構成図である。
図2】上り光の増幅が観測される時間を示す図である。
図3】測定装置から接続点までの距離、OLTから接続点までの距離、接続点からONUまでの距離を示す図である。
図4】上り光が識別光によって増幅される様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0011】
対向する2つの光が光ファイバ中を伝搬する際に、双方の周波数差がブリルアン周波数差(10GHz程度)と等しいとき、相互作用により利得を生じることが知られている(非特許文献3参照)。そこで、この物理現象を利用し、本実施の形態における測定装置は、異常ONUが出力する上り光(連続光)に対向して識別光(パルス光)を光ファイバに入射し、上り光と識別光の間で相互作用を生じて上り光が増幅された時間を計測することで異常ONUを特定する。
【0012】
図1は、本実施の形態における測定装置を含む全体構成図である。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態における測定装置1は、TDM(Time Division Multiplexing)−PON構成のアクセスネットワークにおいて利用される。OLT2は、局側に設置される光回線終端装置である。ONU3A,3B,3Cは、加入者側に設置される光回線終端装置である。OLT2に接続された光ファイバはスプリッタ4によって分岐されて各ユーザ宅のONU3A,3B,3Cのそれぞれに接続される。OLT2は、各ONU3A,3B,3Cからの上り信号が衝突しないように各ONU3A,3B,3Cに対して送信許可を通知する。ONU3A,3B,3Cは、OLT2からの送信許可に応じて上り信号を送信する。図1では、ONU3Aが故障し、上り光を出力し続けている。そのため、他のONU3B,3Cは通信できず、ONU3Aの常時発光が解消されるまでは発光しない状態となる。
【0014】
測定装置1は、光ファイバ及びカプラ(図示せず)を介して、OLT2側の光ファイバに接続される。測定装置1は、上り光に対向して識別光を光ファイバに入射する識別光発光部11と、上り光を受光して上り光が増幅された時間を計測する上り光受光部12を備える。上り光の周波数をf1、光ファイバ中におけるブリルアン後方散乱による周波数シフトをfbとしたときに、識別光の周波数をf1−fbとする。
【0015】
測定装置1から光ファイバに入射された識別光は、スプリッタ4により複数の光ファイバへ分岐され、各ONU3A,3B,3Cまで到達する。このとき、識別光は、対向する上り光とすれ違いながら光ファイバ中を進行する。識別光と上り光の周波数差がブリルアン周波数シフトfbである場合、識別光と上り光の間で相互作用を生じ、上り光が増幅される。この上り光の増幅は、識別光が出力されてから常時発光しているONU3Aに到達するまでの間に発生する。したがって、上り光受光部12において観測される上り光の増幅は、図2に示すように、識別光が異常ONU3Aに到達するまでの時間T1の2倍で観測される。
【0016】
TDM−PONでは、各ONU3A,3B,3Cからの上り信号の送信時刻を制御するために、各ONU3A,3B,3CのRTT(Round Trip Time)値をOLT2が保持している。RTT値は、OLT−ONU間距離(伝搬時間)に相当するため、RTT値と上り光の増幅が観測された時間とを比較することで、常時発光している異常ONU3Aを特定できる。
【0017】
本実施の形態では、OLT2から各ONU3A,3B,3Cまでの距離は互いに異なっていることを前提とする。また、識別光の発光時間は、同一PON配下におけるONU3A,3B,3Cの距離差に相当する伝搬時間よりも短くする。さらに、上り光の強度を計測する時間分解能は、同一PON配下におけるONU3A,3B,3Cの距離差に相当する光の伝搬時間よりも短くする。これらの条件を満たさない場合であっても、常時発光しているONUの候補を絞ることが可能である。
【0018】
次に、上り光の増幅が観測された時間から常時発光しているONUを特定する方法について説明する。
【0019】
図3のように、測定装置1から光ファイバへの接続点までの光ファイバの距離をLr、OLT2から測定装置1の接続点までの光ファイバの距離をLs、測定装置1の接続点からj番目のONU3までの距離をLjとする。OLT2からj番目のONU3までの距離はLj+Lsと表すことができる。j番目のONUのRTT値は次式(1)で表すことができる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、αは、OLT内部でのRTT値測定処理時間とONU内部でのRTT値測定処理時間を加えた内部処理時間であり、cは、光ファイバ中を伝搬する光の速度である。例えば、Lj+Lsが約40kmの場合、OLT−ONU間の光ファイバを光が往復する時間は約0.4000msecとなる。RTT値が約0.4164msecであった場合、内部処理時間αは約0.0164msecとなる。
【0022】
j番目のONUが常時発光しており、上り光の増幅が観測された時間をTmとする。上り光の増幅が観測された時間Tmと各距離Lr,Ls,Ljとの関係は次式(2)で表すことができる。
【0023】
【数2】
【0024】
上記の式(1)及び式(2)から常時発光しているONUのRTT値は次式(3)で求めることができる。
【0025】
【数3】
【0026】
式(3)に、上り光の増幅が観測された時間Tm、測定装置1から接続点までの距離Lr、OLT2から接続点までの距離Ls、及びOLTとONUの内部処理時間αを代入すると、常時発光しているONUのRTT値を求めることができる。求めたRTT値をOLT2が保持する各ONUのRTT1〜RTT32と照らし合わせて一致したものを特定する。RTT値が一致したRTT1〜RTT32に対応するONUが異常ONUであると特定できる。
【0027】
測定装置1に、測定装置1から接続点までの距離Lr、OLT2から接続点までの距離Ls、OLTとONUの内部処理時間α、及び各ONUのRTT値を入力しておき、測定装置1が、上り光の増幅が観測された時間Tmを得て、式(3)を用いてRTTを算出して各ONUのRTT値と比較し、異常ONUを特定してもよい。
【0028】
次に、上り光の増幅について説明する。
【0029】
図4は、上り光が識別光によって増幅される様子を説明する図である。
【0030】
異常なONUは、強度が一定の上り光を出力し続けている(図4(a))。
【0031】
時刻t=0において、測定装置1が識別光を出力すると、上り光と識別光の間で相互作用を生じて上り光が増幅される(図4(b))。このときから、測定装置1では上り光の増幅が観測される。
【0032】
識別光はONU側へ進んでいくが、増幅された上り光は増幅されたままOLT側へ伝わる(図4(c))。
【0033】
時刻t=T1において、識別光はONUに到達して消滅する(図4(d))。
【0034】
識別光が消滅した後も、増幅された分の上り光はOLT側へ伝わる(図4(e))。
【0035】
時刻t=2T1において、時刻t=T1の瞬間にONUの直前で増幅された上り光が測定装置1に到達する(図4(f))。
【0036】
その後、識別光を出力する前の状態に戻る(図4(g))。
【0037】
なお、識別光はスプリッタ4によって分岐されて正常なONUへも向かうが、正常なONUは発光しないので、測定装置1では、異常なONUが出力した上り光のみが観測される。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態によれば、測定装置1が上り光の周波数とブリルアン周波数シフト分の周波数差をもつ識別光をONU3A,3B,3Cへ向けて入射し、測定装置1が上り光と識別光の相互作用によって生じた上り光の増幅が観測された時間を計測することにより、上り光の増幅が観測された時間と各ONU3A,3B,3CのRTT値とを比較することで、常時発光するONU3Aを特定することが可能となる。
【0039】
なお、本実施の形態では、OLT2とは別に測定装置1を設置したが、OLT2が測定装置1の機能を備えてもよい。また、測定装置1が具備する、識別光発光部11と上り光受光部12を一体の装置として記載したが、別々の装置とするなど、各機能部は、一体であることは必須ではない。
【符号の説明】
【0040】
1…測定装置
11…識別光発光部
12…上り光受光部
2…OLT
3,3A,3B,3C…ONU
4…スプリッタ
【要約】
【課題】既存のシステムへの変更を限りなく少なくし、常時発光するONUを速やかに特定する。
【解決手段】測定装置1が上り光の周波数とブリルアン周波数シフト分の周波数差をもつ識別光をONU3A,3B,3Cへ向けて入射し、測定装置1が上り光と識別光の相互作用によって生じた上り光の増幅が観測された時間を計測する。これにより、上り光の増幅が観測された時間と各ONU3A,3B,3CのRTT値とを比較することで、常時発光するONU3Aを特定することが可能となる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4