(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法および表示パネルの概要>
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、第1電極、発光機能層および導電性酸化物からなる第2電極の順に積層されてなるパネル中間体を準備する工程と、第2電極に対して還元処理を行った状態で、反応性成膜法により、前記還元された前記第2電極上に第1化合物を主成分とするバッファ層を形成する工程と、バッファ層に対して還元処理を行った状態で、バッファ層上に第2化合物を主成分とする前記封止層を反応性成膜法により形成する工程と、を有し、第1化合物は、第2化合物の酸化物である。
【0010】
本構成によれば、上記第2工程を有することにより、第2電極とバッファ層との界面において第2電極を構成する酸化物と封止層を構成する第1化合物との化学結合が形成され、上記第3工程を有することにより、バッファ層と封止層との界面においてバッファ層に対して還元処理を行うことにより生成された第2化合物と封止層を構成する第2化合物との化学結合が形成される。これにより、第2電極とバッファ層、および、バッファ層と封止層それぞれの接合強度が増加するので、第2電極と封止層との密着性が向上し、封止層の第2電極からの剥離を抑制できる。
【0011】
また、本構成によれば、第1化合物が第2化合物の酸化物の酸化物であることにより、バッファ層に対して還元処理を行うことにより、バッファ層の一部と封止層とが第1化合物から構成されることになる。これにより、バッファ層の屈折率を封止層の屈折率に近づけることができるので、発光機能層から発せられた光が、陰極、バッファ層および封止層の順に透過する際の散乱損失を低減することができる。従って、発光機能層から表示パネルの外部への光取り出し効率向上を図ることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法では、上記バッファ層に対する還元処理において、上記バッファ層中の上記第1化合物の実質的に全部を前記第2化合物に還元するものであってもよい。
本構成によれば、還元処理により、上記バッファ層を構成する上記第1化合物の全部を上記第2化合物に還元することにより、バッファ層と封止層とが第1化合物から構成されることになる。これにより、バッファ層の屈折率が封止層の屈折率に等しくなるので、発光機能層から発せられた光が、陰極、バッファ層および封止層の順に透過する際の散乱損失をなくすことができる。従って、発光機能層から封止部を介した外部への光取り出し効率向上を図ることができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法では、上記バッファ層に対する還元処理において、バッファ層の厚み方向において上記封止層に近接した領域を還元し、上記第2電極に近接した領域を還元しないものであってもよい。
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、上記第3工程における還元処理で、NH
3プラズマを照射するものであってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、更に、反応性成膜法により、上記封止層上に第3化合物を主成分とする副バッファ層を形成する工程と、
副バッファ層に対して還元処理を行った状態で、副バッファ層上に第4化合物を主成分とする副封止層を反応性成膜法により形成する工程と、を有し、第3化合物は、上記第2化合物の酸化物であってもよい。
【0015】
本構成によれば、バッファ層および封止層に加えて更に副バッファ層および副封止層を形成する。これにより、発光機能層や陰極の封止性向上を図ることができる。また、第3化合物が第2化合物の酸化物であることから、第3化合物が第2化合物の酸化物以外の場合に比べて接合強度を大きくすることができる。そして、上記第5工程において還元処理を行うことにより、副バッファ層と副封止層との界面において副バッファ層を構成する化合物と副封止層を構成する化合物との化学結合が形成される。これにより、副バッファ層と副封止層の接合強度が増加するので、副バッファ層と副封止層との密着性が向上する。従って、副バッファ層および副封止層の封止層からの剥離を抑制できる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、上記第4化合物が、酸化物を主成分とするものであってもよい。
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、上記第2電極が、ITO膜からなり、上記第1化合物が、酸窒化シリコンであり、上記第2化合物が、窒化シリコンであってもよい。
【0017】
また、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、前記第5工程において採用する反応性成膜法は、ALD法であってもよい。
本構成によれば、ALD法により副封止層を形成する。これにより、発光機能層や第1、第2電極の封止性向上を図ることができる。
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、第1電極と、第1電極上に形成された発光機能層と、導電性酸化物からなり且つ発光機能層上に形成された第2電極と、第2電極上に形成されるとともに、第2電極の表面を覆うバッファ層と、バッファ層上に形成されるとともに、バッファ層の表面を覆う封止層とを備え、バッファ層の厚み方向において少なくとも封止層の近傍に位置する領域の主成分と封止層の主成分は同じ化合物であり、第2電極とバッファ層との界面およびバッファ層と封止層との界面に、化学結合が形成されている。
【0018】
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記バッファ層の実質的に全ての領域の主成分と、上記封止層の主成分は同じ化合物であるってもよい。
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記バッファ層において、上記封止層の近傍に位置する領域と封止層の間に、封止層の近傍領域に位置する領域の主成分の酸化物を主成分とする層が位置する。
【0019】
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記第2電極が、ITO膜からなり、上記第1化合物が、酸窒化シリコンであり、上記第2化合物が、窒化シリコンであってもよい。
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記封止層上に形成されるとともに、封止層の表面を覆う副バッファ層と、第4化合物からなり且つ副バッファ層上に形成されるとともに、副バッファ層の表面を覆う副封止層とを備え、副バッファ層の主成分と上記バッファ層の主成分は同じ化合物であり、封止層と副バッファ層との界面および前記副バッファ層と前記副封止層との界面に、化学結合が形成されている。
【0020】
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記第2電極が光透過性を有するものであってもよい。
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記副封止層が、酸化物を主成分とするものであってもよい。
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記バッファ層の厚み方向において、上記封止層に近づくほど、バッファ層の主成分である化合物の1つの構成元素の比率が大きくなっているものであってもよい。
【0021】
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記副バッファ層の厚み方向において、上記副封止層に近づくほど、上記副バッファ層の主成分である化合物の1つの構成元素の比率が大きくなっているものであってもよい。
<実施の形態1>
<1>構成
本実施の形態に係る表示装置の構成について説明する。
【0022】
1.表示装置
図1は、本実施の形態に係る表示装置1の全体構成を模式的に示すブロック図である。
表示装置1は、同図に示すように、平面視矩形状の表示パネル10と、これに接続された駆動制御部20とを有する。
表示パネル10は、例えば、有機材料の電界発光現象を利用した有機ELタイプであり且つトップエミッション型の表示パネルである。なお、表示パネル10は、有機ELタイプに限定されず、無機材料の電界発光現象を利用した無機ELタイプであってもよい。また、表示パネル10は、トップエミッション型に限定されず、ボトムエミッション型でもよい。
【0023】
駆動制御部20は、4つの駆動回路21,22,23,24と、駆動回路21,22,23,24を制御する制御回路25とから構成されている。各駆動回路21,22,23,24は、表示パネル10の各辺に沿って配置されている。なお、駆動制御部20内における駆動回路21,22,23,24および制御回路25の配置は、
図1に示す配置に限定されない。また、駆動回路の個数も4つに限定されるものではない。また、
図1に示す駆動制御部20では、駆動回路21,22,23,24と制御回路25とが別体となっているが、例えば、これらの制御回路と駆動回路とが、一つの回路から構成されたものであってもよい。
【0024】
表示パネル10の一部を拡大した図を
図2に示す。なお、
図2において、表示パネル10の表面に沿った一方向をX軸方向とし、表示パネル10の表面に沿い且つX軸方向とは直交する方向をY方向としている。
表示パネル10には、複数のピクセル(画素)が行列状に配置されている。そして、各ピクセルが、X軸方向に配列された複数個(
図2では3個)のサブピクセルから構成されている。この3個のサブピクセルの発光色は、赤(R)、緑(G)、青(B)である。この1つのサブピクセルが、1つの発光素子に相当する。
【0025】
2.表示パネル
次に、表示パネル10の構成について説明する。
表示パネル10を
図2のA−A線で破断して得られる部分断面図を
図3に示す。なお、
図3において、X軸方向は、
図2におけるX軸方向と同義であり、X軸およびY軸に直交する方向、即ち、表示パネル10の厚み方向をZ軸方向としている。
【0026】
基板101上には、サブピクセル単位で陽極(「第1電極」ともいう。)107が形成されている。以下、本明細書では、基板101を基準にして、基板101に各種の機能層が積層されていく方向を上方向とする。この上方向は、
図3におけるZ方向である。
基板101上における陽極107が形成されていない領域及び陽極107上には、正孔注入層109が形成されている。即ち、正孔注入層109は、陽極107が形成された基板101の表面の略全体を覆うように形成される。そして、正孔注入層109は、陽極107間に相当する領域が窪んだ状態となっている。
【0027】
正孔注入層109上における、陽極107の間に相当する領域には、バンク(隔壁)111が形成されている。
バンク111は、正孔注入層109における、陽極107間に相当する窪んだ領域を埋めるとともに、陽極107の周部上面に存する正孔注入層109から上方に突出している。このバンク111の断面形状は、上方ほど幅が狭くなる台形状である。また、バンク111は、平面視略矩形状の陽極107それぞれを囲繞するように形成されている。言い換えると、バンク111は、平面視において各陽極107を囲む井桁状に形成されている。
【0028】
正孔注入層109上のうち、バンク111で区分けされた各領域(
図3では、隣接するバンク111の間に相当する領域)には、所定の光色(上述の、赤、緑、青)用の発光層113が形成されている。
発光層113上には、電子輸送層115が形成されている。この電子輸送層115は、発光層113の上方のみならず、バンク111における発光層113よりも上方に突出した部位全体をも覆っている。そして、電子輸送層115上には、陰極(「第2電極」ともいう。)117が形成され、更に、陰極117上には、封止部119が形成されている。ここで、陰極117は、電子輸送層115全体を覆うように形成されており、封止部119は、陰極117全体を覆うように形成されている。
【0029】
なお、正孔注入層109、発光層113、電子輸送層115までの3層を「発光機能層」と称する。
3.各構成の詳細
以下、前述した表示パネル10の各構成について詳細に説明する。
(1)基板
基板101は、TFT基板103と、TFT基板103上に形成された絶縁膜105とからなる。
【0030】
TFT基板103は、基板本体と、基板本体上に形成されたTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)、配線部材および当該TFTを被覆するパッシベーション膜等から構成される。なお、
図3において、TFT,配線部材およびパッシベーション膜等の図示は省略する。基板本体は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料からなる。また、この基板本体は、例えば、有機樹脂フィルムからなるものであっても良い。
【0031】
絶縁膜105は、TFT基板103の表面段差を平坦化するためのいわゆる平坦化膜である。絶縁膜105は、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂等の絶縁材料から構成されている。この絶縁膜105は、TFT基板103と、陽極107および正孔注入層109との間に介在するものであり、層間絶縁膜ともいう。
(2)陽極
陽極107は、アルミニウム(Al)、あるいはアルミニウム合金で形成されている。なお、陽極107は、例えば、銀(Ag)、銀とパラジウム(Pd)と銅(Cu)との合金、銀とルビジウム(Rb)と金(Au)との合金、モリブデン(Mo)とクロム(Cr)の合金、ニッケル(Ni)とクロムの合金等で形成されていても良い。
【0032】
ここで、陽極107の厚みは、例えば、100[nm]〜200[nm]に設定される。
(3)正孔注入層
正孔注入層109は、発光層113への正孔の注入を促進する機能を有する。正孔注入層109は、例えば、酸化タングステン(WO
x)、酸化モリブデン(MoO
x)、酸化モリブデンタングステン(Mo
xW
yO
z)などの遷移金属の酸化物を含む金属酸化物から形成される。
【0033】
ここで、正孔注入層109の厚みは、例えば、1[nm]〜10[nm]に設定される。
(4)バンク
バンク111は、隣接するサブピクセルを区画する機能を有する。バンク111は、感光性、絶縁性を有するアクリル系樹脂からなるネガ型レジストを用いて形成される。なお、バンク111を形成する材料としては、アクリル系樹脂に限らず、ポリイミド系樹脂やノボラック型フェノール樹脂等でもよい。また、バンク111は、ネガ型レジストに限らず、ポジ型レジストを用いて形成されるものであってもよく、或いは、感光性を有しない樹脂材料であってもよい。
【0034】
また、バンク111は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。さらに、バンク111は、エッチング処理、加熱処理(ポストベーク処理や焼成処理)等が施されるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。
ここで、バンク111の正孔注入層109上面からの高さは、例えば、1[um]〜2[um]に設定される。
【0035】
(5)発光層
発光層113は、有機材料から形成されている。この有機材料としては、例えば、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリパラフェニレンエチレン、ポリ3−ヘキシルチオフェンやこれらの誘導体などの高分子材料や、特開平5−163488号公報に記載されている、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質が挙げられる。
【0036】
ここで、発光層113の厚みは、例えば10[nm]〜100[nm]に設定される。
(6)電子輸送層
電子輸送層115は、有機材料から形成されている。この有機材料としては、例えば、特開平5−163488号公報に記載されている、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体、ジフェキノン誘導体、ペリレンテトラカルボキシル誘導体、アントラキノジメタン誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリノン誘導体、キノリン錯体誘導体が挙げられる。そして、本実施の形態では、上記有機材料にバリウム(Ba)がドーピングされている。これにより、電子輸送層115は、発光層113への電子の注入を促進する機能を有している。なお、電子輸送層115に電子注入機能を与えるために上記有機材料にドーピングする材料は、バリウムに限定されるものではなく、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などの他のアルカリ金属またはアルカリ土類金属であってもよい。
【0037】
ここで、電子輸送層115の厚みは、例えば、0.5[nm]〜50[nm]に設定される。
(7)陰極
陰極117は、発光機能層に電子を注入するための電極である。本実施の形態に係る表示パネル10は、いわゆるトップエミッション型である。従って、陰極117は、発光層113から発せられた光に対して透明な材料を用いる必要がある。このような材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)等のいわゆる透明電極用に用いられる材料が挙げられる。
【0038】
ここで、陰極117の厚みは、例えば、10[nm]〜200[nm]に設定される。
(8)封止部
封止部119は、発光機能層や陰極117等が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有する。
封止部119は、バッファ層121と、バッファ層121上に形成された封止層123とからなる。
【0039】
図3における丸で囲んだ部分A1の拡大図に示すように、バッファ層121は、2つの層状の領域121a,121bから構成される。ここで、領域121aを形成する材料としては、例えば、酸窒化シリコン(SiON)、炭素含有酸化シリコン(SiOC)、酸窒素アルミニウム(Al
XO
YN
Z)等の化合物が挙げられる。また、封止層123や領域121bを形成する材料としては、例えば、窒化シリコン(SiN)、炭化ケイ素(SiC),窒化アルミニウム(AlN)、等の化合物が挙げられる。
【0040】
ここで、バッファ層121の厚みは、例えば、1[nm]〜5[nm]に設定される。また、封止層123の膜厚は、例えば100[nm]〜1000[nm]に設定される。
バッファ層121の領域121aを構成する化合物(第1化合物)は、領域121bを構成する化合物(第2化合物)の酸化物であるほうが好ましい。例えば、領域121bを形成する材料がSiNである場合、領域121aを形成する材料はSiONであるのが好ましい。この場合、SiONからなる膜に対して還元処理を行うことにより、SiONからなる領域121aとSiNからなる領域121bとからなるバッファ層121が形成される。これにより、バッファ層121全体の実効的な屈折率を封止層123の屈折率に近づけることができるので、発光機能層から発せられた光が、陰極117、バッファ層121および封止層123の順に透過する際の散乱損失を低減することができる。従って、発光機能層から表示パネル10外部への光取り出し効率向上を図ることができる。
【0041】
<2>製造方法
次に、本実施の形態に係る表示パネル10の製造工程について説明する。
図4乃至
図6は、表示パネル10の製造工程を示す図である。なお、
図4乃至
図6では、表示パネル10の一部を抜き出して模式的に示している。
表示パネル10の製造工程は、(1)陽極を形成する工程(陽極形成工程)、(2)正孔注入層を形成する工程(正孔注入層形成工程)、(3)バンクを形成する工程(バンク形成工程)、(4)発光層を形成する工程(発光層形成工程)、(5)電子輸送層を形成する工程(電子輸送層形成工程)、(6)陰極を形成する工程(陰極形成工程)、(7)還元性プラズマ処理工程(8)バッファ層を形成する工程(バッファ層形成工程)、(9)還元性プラズマ処理工程、(10)封止層を形成する工程(封止層形成工程)とから構成されている。
【0042】
なお、上記の(1)陽極形成工程の前に、基板101を準備する工程(基板準備工程)がある。具体的には、TFT基板103上に絶縁膜105を形成する工程(絶縁膜形成工程)と、絶縁膜105にTFT基板103上に形成された配線部材と陽極とを電気的に接続するためのコンタクトホールを形成する工程(コンタクトホール形成工程)である。絶縁膜形成工程では、アクリル樹脂等をスピンコートにより塗布した後、加熱処理(ベーク処理)を行う。コンタクトホール形成工程では、周知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してコンタクトホールを形成する。
【0043】
また、発光機能層を形成する工程、即ち、(2)正孔注入層形成工程から(5)電子輸送層形成工程までの工程をまとめて「発光機能層形成工程」と称する。
以下、基板準備工程後に行われる各工程について詳細に説明する。
(1)陽極形成工程
基板準備工程を経て準備された基板101上に、陽極107の基となる金属膜(ここでは、アルミニウム(Al)膜)を成膜する。アルミニウム膜の成膜には、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。金属膜を成膜した後、周知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して金属膜をパターニングする。これにより、複数の陽極107が形成される(
図4(a)参照)。
【0044】
(2)正孔注入層形成工程
陽極形成工程の後、基板101上面側に、正孔注入層109を形成する(
図4(b)参照)。正孔注入層109は、金属酸化物膜(ここでは、酸化タングステン(WOx)膜)からなる。酸化タングステン膜の成膜には、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。この真空製膜法を用いた酸化タングステン膜の成膜には、例えば、酸化タングステン(WOx)を含む組成物やタングステンが用いられる。
【0045】
(3)バンク形成工程
正孔注入層形成工程の後、正孔注入層109上に、バンク111の基となるバンク材料層(図示せず)を形成する。バンク材料層は、ネガ型レジストで構成される。このバンク材料層は、例えば、スピンコートにより塗布した後、加熱処理(プレベーク処理)を行うことにより形成される。
【0046】
バンク材料層を形成した後、バンク材料層上にフォトマスクを重ね合わせた状態で、フォトマスクの上方から紫外線を照射する。このフォトマスクには、バンク材料層に重ね合わされた状態で、バンク111の形成予定領域以外の領域を遮光するようなパターンが形成されている。従って、バンク材料層におけるバンク111の形成予定領域のみを感光させることができる。そして、バンク材料層の一部を感光させた後、現像液(例えば、TMAH水溶液)に浸漬することにより、感光していない余分なバンク材料層を除去する。次に、水洗により基板101から現像液を除去し、続いて、基板101に対して加熱処理(ポストベーク処理および焼成処理)を行うことにより、バンク111が形成される(
図4(c)参照)。その後、基板101を酸素プラズマ処理やCF
4を用いたエッチング処理を施すことにより、バンク111に対して撥水処理を行う。
【0047】
(4)発光層形成工程
バンク111により区切られた各領域内に、例えば、インクジェット法により、発光材料を含む組成物からなるインクを滴下する。その後、当該インクを乾燥させることにより、発光層113が形成される(
図5(a)参照)。
(5)電子輸送層形成工程
発光層形成工程の後、発光層113上に、電子輸送層115を形成する(
図5(b)参照)。電子輸送層115は、例えば、ニトロ置換フルオレノン誘導体からなる。電子輸送層115の形成には、真空蒸着法やスピンコート法を用いることができる。電子輸送層115を形成した後、電子輸送層115の、電子注入性を向上させるために、電子輸送層115にバリウム(Ba)を2〜30wt%程度ドープする。
【0048】
(6)陰極形成工程
電子輸送層形成工程の後、電子輸送層115上に、陰極117を形成する(
図5(c)参照)。陰極117は、透明な金属酸化物膜(ここでは、ITO膜)からなる。ITO膜は、化学気相成長(Chemical Vapor Diposition:CVD)法により成膜される。なお、CVD法としては、熱CVD法やプラズマCVD法のいずれを用いてもよい。また、ITO膜は、スパッタリング法や真空蒸着法等の真空成膜法を用いてもよい。
【0049】
(7)還元性プラズマ処理工程
陰極形成工程の後、陰極117が形成された基板101を還元性プラズマ雰囲気下に暴露する。ここで、還元性プラズマとして、NH
3プラズマを用いることができる。また、還元性プラズマ雰囲気に暴露する時間は、数秒から数十秒である。なお、還元性プラズマ雰囲気とは、還元作用、すなわち、酸素を引き抜く作用を有するラジカル、イオン、原子、分子等、例えば、水素ラジカルや一酸化炭素(CO
2)等の反応種が支配的に存在する雰囲気を意味する。また、ラジカル、イオンには、原子あるいは分子状のラジカルあるいはイオンが含まれる。また、還元性プラズマ雰囲気内には単一の反応種のみならず、複数種の反応種が含まれていても良い。例えば、水素ラジカルとNH
2ラジカルとが混在する雰囲気でもよい。また、NH
3プラズマと称しても、完全なNH
3プラズマを意味するものではなく、NH
3プラズマ内に不純物ガス(窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気等)が含有していてもよく、或いは、NH
3プラズマ内に他の希釈ガスや添加ガスが含有されていても良い。
【0050】
図6中の丸で囲んだ部分A1における、(7)還元性プラズマ処理工程、乃至、(10)封止層形成工程までの各工程後の断面図を
図7および
図8に示す。
図7(a)に示すように、還元性プラズマ処理工程を経ると、陰極117の上面近傍の領域117bにおいて、ITO膜からなる陰極117からの酸素原子の脱離に伴い未結合手(不対電子)を有するIn原子及びSn原子が多く発生する。この陰極117の上面近傍の領域117bの深さは、陰極117がNH
3プラズマに暴露された時間に依存する。そして、陰極117内部では、上面近傍の酸素原子が欠損した領域117bと、酸素原子が欠損していない領域117aとが生じている。
【0051】
(8)バッファ層形成工程
還元性プラズマ処理工程の後、バッファ層121を形成する(
図7(b)参照)。バッファ層121は、酸化膜(ここでは、酸窒化シリコン(SiON)膜)からなる。SiON膜は、反応性成膜法の一種であるCVD法により成膜される。ここで、「反応性成膜法」とは、成膜対象の表面で化学反応が生じさせるような成膜方法を意味する。なお、CVD法としては、熱CVD法やプラズマCVD法のいずれを用いてもよい。或いは、反応性スパッタリング法を用いてもよい。
【0052】
ところで、陰極117の上面近傍の領域117bでは、不対電子を有するIn原子及びSn原子が多く存在しており、これらのIn原子及びSn原子は、SiON膜からなるバッファ層121中の酸素原子との間で化学結合の一種である共有結合を形成しやすい。
一方、陰極形成工程の後、還元性プラズマ処理工程を経ずにバッファ層121を形成した場合、陰極117の上面近傍の領域117bには、不対電子を有するIn原子やSn原子がほとんど存在しない。
【0053】
つまり、本実施の形態に係る製造方法では、還元性プラズマ処理工程を経ることにより、陰極117の上面近傍の領域117bにバッファ層121中の酸素原子との間で共有結合を形成しやすいIn原子やSn原子を多く発生させることができる。従って、還元性プラズマ処理工程を経ずにバッファ層121を形成した場合と比較して、陰極117中のIn原子及びSn原子とバッファ層121中の酸素原子との共有結合が多く生じ、その分、陰極117とバッファ層121との密着性が向上する。
【0054】
(9)還元性プラズマ処理工程
バッファ層形成工程の後、バッファ層121が形成された基板101を還元性プラズマ雰囲気下に暴露する。ここで、還元性プラズマとして、NH
3プラズマを用いることができる。また、還元性プラズマ雰囲気に暴露する時間は、数秒から数十秒である。なお、還元プラズマ雰囲気およびNH
3プラズマの意味は、前述(7)で説明した内容と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0055】
図7(c)に示すように、還元性プラズマ処理工程を経るとSiON膜からなるバッファ層121からの酸素原子の脱離に伴い未結合手(不対電子)を有するSi原子およびN原子が多数発生する。このバッファ層121において未結合手が発生する領域の深さは、バッファ層121がNH
3プラズマに暴露された時間に依存する。そして、バッファ層121内部では、バッファ層121のほぼ全域121b、即ち、陰極117との界面において酸素を含む共有結合を形成した領域121a以外の全域121bにおいて酸素原子が脱離することにより、領域121bに不対電子を有するSi原子およびN原子から構成される窒化シリコン(SiN、以下、還元SiNと称する)が存在することとなる。
【0056】
(10)封止層形成工程
還元性プラズマ処理工程後、封止層123を形成する(
図8参照)。封止層123は、半導体化合物膜(ここでは、SiN膜)からなる。SiN膜は、反応性成膜法の一種であるCVD法により成膜される。なお、CVD法としては、熱CVD法やプラズマCVD法のいずれを用いてもよい。或いは、反応性スパッタリング法を用いてもよい。
【0057】
ところで、バッファ層121の上面近傍の領域121bには、還元SiNが多く存在しており、これらの還元SiNを構成するSi原子及びN原子は、SiN膜からなる封止層123中のSi原子およびN原子との間で化学結合の一種である共有結合を形成しやすい。
一方、バッファ層形成工程の後、還元性プラズマ処理工程を経ずに封止層123を形成した場合、バッファ層121の上面近傍の領域121bには、還元SiNがほとんど存在しない。
【0058】
つまり、本実施の形態に係る製造方法では、還元性プラズマ処理工程を経ることにより、バッファ層121の上面近傍の領域121bに還元SiNを多く発生させることができる。従って、還元性プラズマ処理工程を経ずに封止層123を形成した場合と比較して、バッファ層121中の還元SiNを構成するSi原子及びN原子と、封止層123を構成するSi原子及びN原子との化学結合の一種である共有結合が多く生じ、その分、バッファ層121と封止層123との密着性が向上する。
【0059】
<3>まとめ
以上のように、本実施の形態に係る表示パネル10の製造方法は、陽極(第1電極)107、発光機能層およびITOからなる陰極(第2電極)117の順に積層されてなるパネル中間体に、陰極117の上方を覆うことにより陰極117を封止する封止層123をCVD法により形成することにより表示パネル10を製造する表示パネルの製造方法である。そして、還元性プラズマ処理工程において、陰極117に対して還元処理を行った後に、バッファ層形成工程において、SiON(第1化合物)からなるバッファ層121をCVD法により形成する、このとき、ITOとSiONとが共有結合する。次に、還元性プラズマ処理工程において、バッファ層121に対して還元処理を行った後に、封止層形成工程において、SiN(第2化合物)からなる封止層123を形成する。このとき、還元SiNとSiNとが共有結合する。これにより、陰極117とバッファ層121、および、バッファ層121と封止層123それぞれの接合強度が増加するので、陰極117と封止層123との密着性が向上し、封止層123の陰極117からの剥離を抑制できる。この結果、表示パネル10の一部にダークスポットが発生するのを抑制でき、表示パネル10の表示品質向上を図ることができる。また、ITO膜からなる陰極上に直接SiN膜からなる封止層を成膜する従来の構成と比べて、陰極と封止層との間の密着性が向上する。
【0060】
封止層と陰極の界面における密着性が向上することで、封止層が陰極から剥離しにくくすることができる。特に、陰極としてITO膜等の導電性酸化物膜を採用した場合、陰極上に直接SiNからなる封止層を形成した構成では、封止層の厚みがある程度厚くなると封止層の陰極からの剥離が発生し易くなる傾向がある。陰極は、表示パネルの外部に配置された駆動回路に電気的に接続するために、表示パネルの周縁部にまで延伸している。そのため、封止層と陰極の密着性を向上させることで、封止層の一部が陰極から剥離し、表示パネルの周縁部から水蒸気等のガスが当該剥離部分を通じて陰極表面に至り陰極表面に吸着したり、或いは、発光機能層にまで侵入するのを抑制できる。その結果、陰極や発光機能層が劣化し、表示パネルの表示品質の低下を抑制することができる。
【0061】
さらに、バッファ層121を構成するSiONは、封止層123を構成するSiNの酸化物である。
そして、封止層形成工程前に、還元プラズマ処理工程を行うことにより、バッファ層121の封止層123側のほぼ全域がSiNから構成されることになる。
これにより、バッファ層121全体の実効的な屈折率を封止層123の屈折率に近づけることができるので、発光機能層から発せられた光が、陰極117、バッファ層121および封止層123の順に透過する際の散乱損失を低減することができる。
【0062】
また、バッファ層121を構成するSiONよりも、封止層を構成するSiNのほうガスバリア性が高い。そのため、陰極117上のバッファ層121を還元し、さらに封止層121をSiNにより形成した封止部は、全てをSiONにより形成した封止部よりも、ガスバリア性を向上させることができる。
従って、ガスバリア性を高くすると共に、発光機能層から発せられた光の表示パネル10外部への光取り出し効率の向上を図ることができる。
【0063】
ここで、陰極117と封止層123の間のバッファ層121は、封止層123に近い上層部のみが還元され、SiNとなっていてもよい。
SiNからなる封止層123は、熱膨張係数が低く伸縮性が小さい。従って、従来のように、ITO膜からなる陰極上に直接SiN膜からなる封止層を成膜した構成の場合、ITO膜とSiN膜の熱膨張係数の相違に起因して、封止層123が陰極117から剥がれたり、封止層123に亀裂が生じたりし易い。
【0064】
陰極117と封止層123の間のバッファ層121が、SiONからなる領域を含むことで、バッファ層121の領域121aにおいて、ITO膜とSiN膜の熱膨張係数の相違に起因して生じる応力が緩和される。従って、前述の従来の構成に比べて、封止層123の陰極117からの剥離や封止層123の亀裂の発生を抑制することができるという利点がある。
【0065】
また、バッファ層121の中に形成されたSiONからなる応力緩和領域は、バッファ層121の一部のみを還元することで形成されたものであるため、SiONからなる応力緩和領域とバッファ層121中のSiNからなる領域の接合力は強固である。
そのため、応力緩和領域は、陰極117、陰極117上にSiONからなる層、さらにその上にSiNからなる層を順次形成した封止部と比較して、SiONからなる層とSiNからなる層(応力緩和層)の接合力を高くすることができる。
【0066】
したがって、封止部の強度を高く保ちながら、陰極117と封止層123との間に生じる応力を緩和することができる。
なお、実施の形態1では、バッファ層がSiON(第1化合物)からなり、封止層がSiN(第2化合物)からなるとして説明を行った。しかし、バッファ層や封止層には水素等の不純物が含まれていてもよく、バッファ層の主成分が第1化合物であり、封止層の主成分が第2化合物であればよい。
【0067】
<実施の形態2>
本実施の形態に係る表示パネル210の部分断面図を
図9に示す。
表示パネル210は、封止部219の構造が実施の形態1に係る表示パネル10と相違する。なお、実施の形態1に係る表示パネル10と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0068】
封止部219は、バッファ層121と、バッファ層121上に形成された封止層123と、封止層123上に形成された副バッファ層211と、副バッファ層211上に形成された副封止層213とからなる。
ここで、副バッファ層211を形成する材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、炭化ケイ素(SiC),炭素含有酸化シリコン(SiOC),窒化アルミニウム(AlN),酸化アルミニウム(Al
2O
3)等の半導体化合物や金属化合物が挙げられる。また、副封止層213を形成する材料としては、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化シリコン(SiO
2)、窒化アルミニウム(AlN)、酸窒素アルミニウム(Al
XO
YN
Z)等の半導体化合物や金属化合物が挙げられる。
【0069】
ここで、副バッファ層211は、封止層123を構成する化合物の酸化物であるほうが好ましい。例えば、封止層123を形成する材料がSiNである場合、副バッファ層211を形成する材料はSiONであるのが好ましい。これは、副バッファ層123に対して還元処理を行うことにより、副バッファ層211と封止層123とがSiNから構成されることになる。すると、副バッファ層211全体の実効的な屈折率を封止層123の屈折率に近づけることができるので、発光機能層から発せられた光が、陰極117、バッファ層121および封止層123の順に透過する際の散乱損失を低減することができる。
【0070】
なお、副バッファ層211は、実施の形態1のバッファ層と同様に、上方部のみが還元されてSiNとなり、下方部にSiONがのこっていてもよい。
副封止層213と封止層123の間の副バッファ層211が、SiONからなる領域を含むことで、副バッファ層211において、副封止層213と封止層123の熱膨張係数の相違に起因して生じる応力を緩和することができる。
【0071】
次に、本実施の形態に係る表示パネル210の製造工程について説明する。
表示パネル210の製造工程は、(1)陽極を形成する工程(陽極形成工程)、(2)正孔注入層を形成する工程(正孔注入層形成工程)、(3)バンクを形成する工程(バンク形成工程)、(4)発光層を形成する工程(発光層形成工程)、(5)電子輸送層を形成する工程(電子輸送層形成工程)、(6)陰極を形成する工程(陰極形成工程)、(7)還元性プラズマ処理工程(8)バッファ層を形成する工程(バッファ層形成工程)、(9)還元性プラズマ処理工程、(10)封止層を形成する工程(封止層形成工程)、(11)副バッファ層を形成する工程(副バッファ層形成工程)、(12)還元性プラズマ処理工程、(13)副封止層を形成する工程(副封止層形成工程)とから構成されている。なお、表示パネル210の製造工程のうち、(1)陽極形成工程、乃至(10)封止層形成工程は、実施の形態1と同様なのでここでは説明を省略する。
【0072】
(11)副バッファ層形成工程
図9中の丸で囲んだ部分A2における、(7)還元性プラズマ処理工程、乃至、(10)封止層形成工程までの各工程後の断面図を
図10に示す。
封止層形成工程の後、副バッファ層211を形成する。副バッファ層211は、半導体酸化膜(ここでは、酸窒化シリコン(SiON)膜)からなる。SiON膜は、反応性成膜法の一種であるCVD法により成膜される(
図10(a)参照)。なお、CVD法としては、熱CVD法やプラズマCVD法のいずれを用いてもよい。或いは、反応性スパッタリング法を用いてもよい。ここで、バッファ層121の厚みは、例えば、1[nm]〜5[nm]に設定される。
【0073】
(12)還元性プラズマ処理工程
副バッファ層形成工程の後、副バッファ層211が形成された基板101を還元性プラズマ雰囲気に暴露する(
図10(b)参照)。ここで、還元性プラズマとして、NH
3プラズマを用いることができる。また、還元性プラズマ雰囲気に暴露する時間は、数秒から数十秒である。なお、還元プラズマ雰囲気およびNH
3プラズマの意味は、実施の形態1で説明した内容と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0074】
還元性プラズマ処理工程を経ると、副バッファ層211の少なくとも上面近傍を含む領域211bにおいて、SiON膜からなる副バッファ層211からの酸素原子の脱離に伴い未結合手(不対電子)を有するSi原子およびN原子が多数発生する。一方、副バッファ層211における封止層123側では、酸素原子が欠損していない領域121aが存在する。結局、還元性プラズマ処理工程を経ると、封止層123との界面近傍を含む領域211a以外の領域211bの酸素原子が脱離し、領域211bに不対電子を有するSi原子およびN原子から構成される窒化シリコン(SiN、以下、還元SiNと称する)が存在することとなる。
【0075】
(13)副封止層形成工程
還元性プラズマ処理工程後、副封止層213を形成する。副封止層213は、金属化合物膜(ここでは、Al
2O
3膜)からなる。Al
2O
3膜は、ALD(Atomic Layer Deposition)法により成膜される。ALD法は、Al
2O
3の原料となる反応物を、成膜装置の反応炉内に交互に導入することにより、1原子層毎に成膜する方法である。なお、ALD法としては、熱ALD法やプラズマALD法のいずれを用いてもよい。ここで、封止層123の膜厚は、例えば10[nm]〜20[nm]に設定される。
【0076】
ここで、ALD法による副封止層213の成膜方法について詳細に説明する。ここでは、反応物として、トリメチルアルミニウム(TMA)と水蒸気(H
2O)とを用いる場合について説明する。
ALD法による副封止層213の成膜方法を説明するための模式図を
図11および
図12に示す。
【0077】
(13−1)まず、成膜装置の反応炉内にH
2Oを導入する。すると、副封止層213の上面近傍の還元SiNがH
2O分子により酸化され副封止層213表面にOH基が多数生成される(
図11(a)参照)。
(13−2)次に、反応炉内にTMA分子を供給する。すると、副バッファ層211の表面に供給されたTMA分子が、副バッファ層211の表面のOH基と反応することにより、副バッファ層211の表面に化学吸着する(
図11(b)参照)。このとき、反応炉内には、副バッファ層211の表面に化学吸着されずに残ったTMA分子や、TMA分子の酸化に伴い生成されたメタン(CH
4)が浮遊している。
【0078】
(13−3)続いて、反応炉内を不活性ガス(例えば、Ar等)を用いてパージを行い、反応炉内を浮遊しているTMA分子やCH
4分子を除去する。ここで、「パージ」とは、反応炉内への不活性ガスの導入および反応炉内の真空引きを繰り返すことにより、反応炉内に浮遊するTMA分子やCH
4分子を反応炉内から除去することをいう。
(13−4)その後、反応炉内にH
2Oを導入する(
図11(c)参照)。すると、副バッファ層211の表面に化学吸着したTMA分子とH
2O分子とが反応し、1原子層分のAl
2O
3膜が成長する(
図12(a)参照)。このとき、反応炉内には、TMA分子と反応せずに残ったH
2O分子や、TMA分子とH
2O分子との反応に伴い生成されたCH4分子が浮遊している。
【0079】
(13−5)次に、反応炉内を不活性ガス(例えば、Ar等)を用いてパージを行い、反応炉内を浮遊しているH2O分子やCH4分子を除去する。
(13−6)続いて、反応炉内にTMA分子を導入する。すると、TMA分子がAl
2O
3膜表面のO原子と反応し、TMA分子がAl
2O
3のO原子と化学結合する(
図12(b)参照)。このとき、反応炉内には、Al
2O
3膜表面のO原子と反応せずに残ったTMA分子や、O原子とTMA分子との反応に伴い生成されたCH
4分子が浮遊している。
【0080】
(13−7)その後、反応炉内を不活性ガス(例えば、Ar等)を用いてパージを行い、反応炉内を浮遊しているTMA分子やCH
4分子を除去する。
(13−8)次に、反応炉内にH
2Oを導入する。すると、Al
2O
3膜の表面に化学吸着したTMA分子とH
2O分子とが反応し、1原子層分のAl
2O
3膜が成長する(
図12(c)参照)。
【0081】
以後、(13−6)乃至(13−8)のステップを繰り返すことにより、Al
2O
3膜を1原子層ずつ成長させていく。
なお、本実施の形態では、反応物として、TMA分子とH
2O分子とを用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、H
2O分子の代わりに酸素分子(O
2)やオゾン(O
3)を用いてもよい。
【0082】
ところで、副バッファ層211の上面近傍の領域211bには、還元SiNが多く存在しており、これらの還元SiNを構成するSi原子及びN原子は、未結合手を有し、Al
2O
3膜の構成元素であるAl原子を含有する反応物(ここでは、トリメチルアルミニウム:TMA)が化学吸着しやすい。これにより、副バッファ層211の表面へのTMAの化学吸着が促進される。
【0083】
なお、実施の形態2では、副バッファ層が第3化合物からなり、副封止層が第4化合物からなるとして説明を行った。しかし、副バッファ層や副封止層には水素、SiONHC等の副物質が含まれていてもよく、副バッファ層の主成分が第3化合物であり、封止層の主成分が第4化合物であればよい。
<変形例>
(1)実施の形態1では、バッファ層321を構成するSiNは、バッファ層321の厚み方向において封止層123に近づくほどSiNの構成元素であるSiの比率が大きくなっているものであってもよい。即ち、バッファ層321を構成する化合物をSi
xN
yとした場合、yの値がバッファ層321の厚み方向において封止層123に近づくほど小さくなっているものであってもよい。
【0084】
(2)実施の形態2では、第3封止層形成工程においてSiON膜を成膜し、第4封止層形成工程においてAl
2O
3膜を形成する表示パネル210の製造方法を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、第4封止層形成工程においてSiO膜を成膜するようにしても良い。
(3)実施の形態2では、副封止層213をALD法により成膜する例について説明したが、副封止層213の成膜方法はこれに限定されるものではない。例えば、CVD法を採用しても良い。
【0085】
(4)実施の形態1および2では、表示パネル10,210の一部を構成する封止部119,219の製造方法について説明したが、封止部119,219が表示パネル10,210の一部を構成するものに限定されるものではない。例えば、ITO膜等の酸化物からなる電極を有する半導体装置のパッシベーション膜を構成する表示パネルの製造方法であってもよい。
【0086】
(5)実施の形態1および2では、発光機能層が、金属酸化物からなる正孔注入層109と、有機材料からなる発光層113と、有機材料からなる電子輸送層115の3層構造からなる例について説明したが、この構造に限定されるものではなく、例えば、発光機能層が、化合物半導体等の無機材料からなるものであってもよい。また、発光機能層は、発光層113以外に電子輸送層115等のどのような機能層を含むかは任意である。