(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明の一態様の概要>
本発明の一態様である有機ELパネルは、基板と、前記基板の上方において、互いに交差する第1方向及び第2方向に沿って配設された複数の第1電極と、前記各第1電極の上方において、有機発光材料を含んで形成された各有機発光層と、前記各有機発光層を個別または一群毎に区画するように設けられた隔壁と、各有機発光層の上方にわたって形成された第2電極とを有し、前記第1電極と前記有機発光層の間に複数の隔壁残渣が存在し、前記基板表面を平面視した場合における、前記各隔壁残渣のいずれかの方向の径が0.2μm以下の構成とする。
【0022】
ここで本発明の別の態様として、前記基板表面を平面視した場合における前記各隔壁残渣の面積を少なくとも0.4μm
2以下とすることもできる。
【0023】
この場合、本発明の別の態様として、さらに前記隔壁残渣の面積を0.04μm
2以下とすることもできる。
【0024】
また、本発明の別の態様として、前記第1電極と前記有機発光層の間にホール注入層を有し、前記隔壁残渣は前記ホール注入層の表面に存在している構成とすることもできる。
【0025】
また、本発明の別の態様として、前記隔壁残渣は前記第1電極の表面に存在している構成とすることもできる。
【0026】
また、本発明の別の態様として、前記第1電極と前記有機発光層の間にホール注入層を有し、前記隔壁残渣の上に前記ホール注入層が積層されている構成とすることもできる。
【0027】
また、本発明の別の態様として、前記第1電極と有機発光層の間にバッファ層を有し、前記隔壁残渣の上に前記バッファ層が積層されている構成とすることもできる。
【0028】
また、本発明の別の態様として、前記各第1電極の上方において、前記第2方向に隣接する状態で互いに発光色が異なる第1、第2、第3の前記有機発光層が繰り返し形成され、このうち電子移動度が最も高い前記有機発光層の下方に存在する前記隔壁残渣の前記径が最も小さい構成とすることもできる。
【0029】
また、本発明の別の態様として、前記電子移動度が最も高い前記有機発光層は青色である構成とすることもできる。
【0030】
また、本発明の一態様である有機ELパネルの製造方法は、基板を準備する工程と、前記基板の上方において、互いに交差する第1方向および第2方向に沿って複数の第1電極を形成する工程と、前記各第1電極の上方に、隔壁を形成する隔壁形成工程と、前記各第1電極の上方において、有機発光材料を含むように有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層の上方に、前記第1電極と極性が異なる第2電極を形成する工程とを有し、前記隔壁形成工程後、前記有機発光層形成工程前において、前記第1電極の上方に存在する隔壁残渣に対して紫外線照射することにより、前記各隔壁残渣のいずれかの方向の径を0.2μm以下に縮小する隔壁残渣処理工程を経るものとする。
【0031】
ここで本発明の別の態様として、前記隔壁残渣処理工程では、さらに前記基板表面を平面視した場合における前記隔壁残渣の面積を少なくとも0.4μm
2以下に縮小することもできる。
【0032】
また本発明の別の態様として、前記隔壁残渣処理工程では、前記基板表面を平面視した場合における前記隔壁残渣の面積を0.04μm
2以下に縮小することもできる。
【0033】
以下、本発明の各実施の形態の有機EL素子を説明し、本発明の各性能確認実験の結果と考察を述べる。
【0034】
なお、各図面における部材縮尺は、実際のものとは異なる。
<実施の形態1>
(有機EL素子の構成)
図1は、本実施の形態1の有機ELパネル1における、赤色発光色の有機EL素子100R周辺の構成を示す模式的な断面図である。
【0035】
有機EL素子100Rは、ホール注入層4Aと、所定の機能を有する有機材料を含んでなる各種機能層(ここではバッファ層6Aおよび有機発光層6B)が互いに積層された状態で、陽極2(第1電極)および陰極8(第2電極)の電極対間に介設された構成を有する。なお図示しないが、有機ELパネル1では有機EL素子100Rの他、緑色発光色の有機EL素子100G、青色発光色の有機EL素子100Bも同様の積層構成を有するように構成され、同順にバンク5を挟んでX方向に繰り返し配設されている。
【0036】
有機EL素子100R、100G、100Bは、いずれも
図1の100Rの構成に示すように、基板10の片側主面(ここでは上面)に対し、陽極2、透明電極膜3、ホール注入層4A、バッファ層6A、有機発光層6B、陰極8(バリウム層8Aおよびアルミニウム層8B)とを同順に積層する。陽極2および陰極8には不図示の電源DCが接続され、外部より有機EL素子100R、100G,100Bに給電されるようになっている。
(基板10)
基板10は有機ELパネル1及び有機EL素子100の基材となる部分であり、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコン系樹脂、またはアルミナ等の絶縁性材料のいずれかで形成することができる。
【0037】
図示していないが、基板10の上面には、有機EL素子100を駆動するためのTFT(薄膜トランジスタ)が形成されている。
(陽極2)
陽極2は発光層側に給電を行うとともに、発光層で発生した光を効率よく上方から取り出せるように、良好な可視光反射率を有する金属材料(アルミニウムまたはアルミニウム合金)を用いて反射金属膜として構成される。ここで言う「アルミ合金」とは、アルミニウムに対し、鉄、銅、マンガン、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、パラジウム、コバルト、ネオジムの少なくともいずれかを加えてなる合金を指す。
(透明電極膜3)
透明導電膜3は、ITO、IZO等の公知の透明導電材料で構成され、陽極2を被覆して大気中の酸素等から遮断し、不要な被膜形成により陽極2の反射率や導電性が低下するのを防止するために設けられる。
【0038】
なお有機EL素子100R、100G、100Bでは、陽極2を例えば銀薄膜で形成する場合、各層間の良好な接合性を得るために透明電極膜3を形成している。陽極2をアルミニウム材料で構成する場合、各層間の接合性は良好であるため、透明電極膜3を省略することもできる。
【0039】
(ホール注入層4A)
ホール注入層4Aは、有機発光層6B側にホールを効率よく注入する層であり、例えば酸化モリブデンやモリブデン−タングステン酸化物等の金属酸化物で形成されているが、これに限定されない。
(バンク5)
バンク(隔壁)5は、絶縁性の有機材料(例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等)からなり、少なくとも表面が撥水性を持つように形成されている。パネル100ではバンク5をラインバンク構造にするため、幅(X)方向に台形断面形状を有し、Y方向(紙面に垂直な方向)にライン状に延伸して構成する。パネル100において、バンク5は幅(X)方向に一定のピッチを置いて複数本にわたり並設されている。
【0040】
なお、製造時のバンク形成工程では、バンク5は所定の工程を経てパターニングされるが、このときの材料の一部がホール注入層4Aの表面に残留し、バンク残渣11Aとなっている。
図1では、説明のためバンク残渣11Aを実際よりも大きく図示している。
(バッファ層6A)
バッファ層6Aは、厚さ20nmのアミン系有機高分子であるTFB(poly(9、9-di-n-octylfluorene-alt-(1、4-phenylene-((4-sec-butylphenyl)imino)-1、4-phenylene))で構成される。なお本実施の形態1では、バッファ層をIL層の一例として例示する。
【0041】
なお、バッファ層6Aを省略し、ホール注入層4Aに対して直接、有機発光層6Bを積層することもできる。
【0042】
ここで、バッファ層は、電子のホール注入層側への侵入を防止する電子ブロック層を兼ねる場合もある。
(有機発光層6B)
有機発光層6Bは、赤(R)、緑(G)、青(B)のいずれかの発光色に対応するように有機発光材料を用い、厚さ約70nmで構成されている。前記材料としては、有機高分子であるF8BT(poly(9、9-di-n-octylfluorene-alt-benzothiadiazole))を用いて構成されるが、これに限定されない。たとえば特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質等を挙げることができる。
(電子輸送層7)
電子輸送層7は、陰極8から注入された電子を発光層5側へ効率よく輸送する機能を有する。電子輸送層7は例えば有機化合物層であって、2種類の互いに異なる有機物質(電子輸送材料(ホスト)としての第1の有機物質と、n型ドーパントとしての第2の有機物質)で構成されている。
(陰極8)
陰極8は、例えばITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等で構成される。パネル100ではトップエミッション型構造を採るため、陰極8の材料として光透過性材料を用いる必要がある。
【0043】
なお、有機発光層6Bと陰極8との間に、電子輸送層を配設してもよい。
(封止層9)
封止層9は、例えばSiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料で形成され、発光層6が水分や空気等に触れて劣化するのを抑制するために用いられる。当該封止層9も、有機EL素子をトップエミッション型にする場合は、光透過性材料で構成することが好適である。
【0044】
以上の構成を持つ有機EL素子100R、100G、100Bは、有機ELパネル1では
図2の部分的な正面図に示すように、Y方向を長手とするラインバンク構造のバンク5に区画されて、X方向に繰り返し形成される。有機ELパネル1では各有機EL素子100R、100G、100Bがサブピクセルとして機能し、隣接するRGBの各色に対応する一連の3つの有機EL素子100R、100G、100Bを1組として1画素(ピクセル)が構成される。これにより、フルカラー表示が実現される。
(有機ELパネル1の作用および効果)
図3(a)は、ホール注入層4Aの表面を平面視した様子を示す模式図である。一般に有機ELパネルでは、バンク5をパターニングした際に生じる1個以上のバンク残渣が、露出している有機EL素子の構成層の表面に残留する。当図の例では、ホール注入層4Aの表面にバンク残渣11Aが網目状に残留しているが、その他に
図3(b)のように島状に1個以上のバンク残渣11Aが点在する場合もある。
【0045】
ここで
図4に示したように、透明導電膜3とホール注入層4Aの界面に存在するバンク残渣11Aは、パネル駆動時において、いわゆる寄生容量膜(キャパシタ)として作用する。すなわち有機EL素子100R,100G、100Bの内部では、バンク残渣11Aの存在により、ホール注入層4Aの真上に設けられたIL(ここではバッファ層6A)側の電界が上がり、有機発光層6B中の電子がバッファ層6Aまで引っ張られる。駆動時のバッファ層6Aでは正孔が不足しているため、結果として電子がバッファ層6Aの内部に蓄積される。
【0046】
これによりバッファ層6Aでは電子電流密度が異常に上昇し、各有機EL素子100R、100G、100Bの発光効率を低下させ、寿命劣化を引き起こす。
【0047】
これに対して有機ELパネル1では、基板10を見下ろした(平面視した)場合のバンク残渣11Aのサイズを所定以下となるように制御しており、これによって当該バンク残渣11Aに起因する不具合の解消を図る。
【0048】
具体的に本願発明者らが鋭意検討した結果、バンク残渣11Aは以下の特徴を持つように制御している。
【0049】
(i)基板10を見下ろした(平面視した)際の各バンク残渣11Aにおいて、そのいずれかの方向の径(図中3(b)ではD
1、D
2、D
3など)を0.2μm以下とする。なお、
図3(a)のように、バンク残渣11Aが比較的連続して存在する場合は、バンク残渣11A上の全ての位置から当該バンク残渣周縁への最短距離(
図3(a)では一例として幅W
1、W
2、W
3、W
4の各両端位置)を0.2μm以下に設定する。
(ii)(i)に加え、さらに基板10を見下ろした(平面視した)際の各バンク残渣11Aの面積を少なくとも0.4μm
2以下とする。より好ましくは前記面積を0.04μm
2以下とする。
【0050】
これにより、パネル駆動時にバンク残渣11Aが寄生容量膜として作用しても、その悪影響を最小限に抑制し、バンク残渣が無い場合と遜色ない程度の発光効率で有機ELパネル1を駆動することができる。
【0051】
また、バンク残渣11Aを被覆するバッファ層6A中の電子電流密度の上昇を抑制できるため、過剰な電子によってバッファ層6Aが劣化するのを防止し、有機EL素子100R、100G、100Bの長寿命化を図ることができる。
【0052】
その結果、有機ELパネル1全体においても、優れた発光特性と長寿命化を良好に図ることができる。
【0053】
このように本実施の形態1の有機ELパネル1は、従来のようにバンク残渣を完全に除去しようとしなくても、そのバンク残渣の面積を適切に制御することで比較的低コストで実現できるので、実現性に優れている。
【0054】
また、バンク残渣11Aのサイズを制御するためにUV照射を行うが、バンク残渣を完全に除去するために強力なエネルギー線を長時間にわたり照射する必要もない。このため、バンク5の表面に設けたはっ水性が失われることもない。
【0055】
なお、有機ELパネルの製造工程では、バンク形成工程を実施するタイミングにばらつきがあり、当該工程直前の基板最上面に陽極、透明導電膜、ホール注入層、バッファ層等のいずれかが存在する。バンク形成工程を実施すると、バンク残渣は前記いずれかの層の表面に残留する。本実施の形態1の効果は、少なくともバンク残渣に積層される層が有機発光層よりも高い正孔(ホール)移動度を持っていれば、同様の効果を期待できることが分かっている。
【0056】
特に、バンク残渣にホール輸送層が積層される場合、ホール輸送層の電子電流密度が上昇すると劣化し易い性質がある。そこで本発明に基づいてバンク残渣のサイズを制御することで、ホール輸送層中の電子電流密度の上昇を抑え、有機ELパネルの長寿命化と発光効率の向上を期待することができる。
【0057】
なお、さらに本願発明者らの検討によれば、バンク残渣に積層される層の電子電流密度(電子蓄積容量)は、有機発光層の電子移動度に比例して増大する。青色発光色の有機発光層は他の発光色の有機発光層に比べて電子移動度が高いため、青色有機EL素子においてバンク残渣にホール注入層が積層される場合、当該ホール注入層中の電子蓄積量が特に高くなることが分かっている。
【0058】
そこで本実施の形態1を適用すれば、このような青色発光色の有機EL素子でもバンク残渣による不具合を効果的に低減できる。各バンク残渣11Aのいずれかの方向の径を0.2μm以下とすると、当該バンク残渣11Aに積層されるホール注入層の電子電流密度を、バンク残渣11Aが全くない場合とほぼ同等にすることができ、ホール注入層の劣化を良好に防止できる。
【0059】
また、青色発光色の有機EL素子で良好な効果を得るためには、さらにバンク残渣の径の制御に加え、バンク残渣の面積をできるだけ小さく、0.04μm
2以下まで細かくするのが望ましい。
【0060】
<実施の形態2>
図10は、本実施の形態2の有機ELパネル2における、赤色発光色の有機EL素子101R周辺の構成を示す模式的な断面図である。
【0061】
当図に示す構成は、全体的には有機ELパネル1と同様であるが、ホール注入層4Bを透明導電膜3上に限定して配設している。この構成では、陽極2及び透明導電膜3を形成した直後にバンク5を形成しているため、バンク残渣11Bは透明導電膜3の表面に残留し、ホール注入層4Bに覆われている。ホール注入層4Bは、前記バンク5によって区画された発光領域に対し、材料インクを滴下・乾燥させるウェットプロセスにより形成されたものである。
【0062】
この構成を持つ有機ELパネル1Aにおいても、製造時にバンク残渣に対して所定条件のUV照射を行うことで、バンク残渣11Aと同様の小さな面積お及び径を有するように調整されている。これにより、バンク残渣11Bによる寄生容量膜としての悪影響を低減し、優れた発光効率の獲得と消費電力の低減効果を実現している。
<性能確認試験と考察>
以下、本発明の性能確認のために行った試験の手法と結果、考察について順次述べる。
【0063】
(ILの電子電流密度について)
ここではバンク残渣を被覆するILの電子電流密度の分布を検討した。
【0064】
図12、13、14は、それぞれ同順に赤色、緑色、青色有機EL素子として用意した各サンプル素子における、IL層表面の残渣領域と残渣が無い領域の電子電流密度を示す、一次元展開グラフである。サンプル素子はバイポーラデバイス(BPD)構造とした。
【0065】
各図中、サンプル素子a1〜e1、a2〜i2、a3〜i3の各曲線はそれぞれ以下の表1〜3の条件に基づきバンク残渣幅及び開口幅(残渣なし領域の幅)を設定した場合において、10Vで素子を駆動させたときの電子電流密度の変化を示す。
【0066】
以下、バンクの「残渣幅」とは「残渣領域の最大径」を指す。
【0070】
図12〜14に示すいずれのグラフからも、バンク残渣幅が広いほど、当該残渣領域上の電子電流密度が高いことを確認できる。しかしながら、残渣幅が0.2μm程度以下の範囲では、残渣なし領域の電子電流密度とほとんど差がない。
【0071】
一方、開口幅を変化させた場合、残渣幅を変化させる場合に比べて電子電流密度に与える影響はそれほど大きくなかった。
【0072】
そこで次に、
図12〜14のデータに基づき、電子電流密度と残渣幅の関係を示すグラフを作製し、
図15に示した。縦軸を電子電流密度、横軸を残渣幅とした。
【0073】
図15に示す結果から、青色と赤色の素子については残渣幅が0.1μm程度以上になると電子電流密度が急激に上昇する。緑色の素子は残渣幅が0.3μm程度以上で上昇する。
【0074】
したがって、RGB全色の素子における残渣幅を一律に調整する場合、少なくとも0.2μm以下の幅、好ましくは0.1μm以下の幅に設定すれば、有機ELパネル全体でバンク残渣によるILの電子電流密度の上昇を抑制できることが分かる。
【0075】
(残渣幅の変化が電子電流密度に与える影響について)
次に、IL中の電子移動度の変化に対する電子電流密度変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図16に示す。サンプル素子として、通常素子(std)、通常素子の1/10の電子移動度の素子(emob0.1)、通常素子の10倍の電子移動度の素子(emob10)の各素子を解析に供した。
【0076】
図16を見ると、いずれの素子も残渣幅の増加に伴って電子移動度が上昇するが、残渣幅が0.2μm以下であれば、ほとんど電子移動度に変化がないことが分かる。
【0077】
次に
図16と同様の要領で、EML中の電子移動度の変化に対する電子電流密度変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図17に示す。
【0078】
いずれの素子も残渣幅の増加に伴って電子移動度が上昇するが、残渣幅が0.2μm以下であれば電子移動度の変化は小さく、0.1μm以下であれば特に変化が小さいことを確認できる。
【0079】
次に
図16と同様の要領で、IL中の正孔移動度の変化に対する電子電流密度変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図18に示す。サンプル素子として、通常素子(std)、通常素子の1/10の正孔移動度の素子(hmob0.1)、通常素子の10倍の正孔移動度の素子(hmob10)の各素子を用意した。
【0080】
いずれの素子も残渣幅の増加に伴い、正孔移動度が上昇するが、通常素子の10倍の正孔移動度の素子(hmob10)の正孔移動度の上昇は小さい。いずれの素子も残渣幅が0.2μm以下であれば、正孔移動度の変化は小さく、0.05μm以下であれば特に変化が小さいことを確認できる。
次に
図18と同様の要領で、EML中の正孔移動度の変化に対する電子電流密度変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図19に示す。
【0081】
いずれの素子も残渣幅の増加に伴い、正孔移動度が上昇するが、先程の
図18の結果と同様に、通常素子の10倍の正孔移動度の素子(hmob10)の正孔移動度の上昇は小さい。残渣幅が0.2μm以下であれば、電子移動度の変化は小さく、0.05μm以下であれば特に変化が小さいことを確認できる。
【0082】
次に、ILとEMLの最低空軌道(LUMO)のエネルギー差を変化させた場合における、IL中の電子電流密度の変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図20に示す。
【0083】
当図に示す結果から、LUMOのエネルギー差が小さいほど、残渣幅に対する電子電流密度の変化が小さいことが分かった。当図に示すサンプルに基づくと、残渣幅を0.05μm以下に抑えると、電子電流密度を最も抑制することができると考えられる。
【0084】
次に、ILとEMLの最高被占軌道(HOMO)のエネルギー差を変化させた場合における、IL中の電子電流密度の変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図21に示す。
【0085】
当図の結果では、残渣幅が0.1μm以下であると電子電流密度の変化を最も効率的に抑制することが出来ている。HOMOのエネルギー差が大きいほど、残渣幅の増加に伴う電子電流密度の上昇が小さいと言うことが言える。
【0086】
次に、バンク残渣の厚みを変化させた場合における、IL中の電子電流密度の変化についてシミュレーションを行った。その結果を
図22に示す。
【0087】
当図の結果に基づくと、残渣の厚みは残渣の幅に比べ、ILの電子電流密度に対してそれほどの影響を与えないと言うことができる。当該解析結果の範囲では、いずれのサンプルも残渣幅が0.2μm程度以下において、電子電流密度の変化を抑制できることが分かった。
(有機EL素子中の電子密度分布について)
図23に、陽極と陰極の間にIL層、有機発光層、電子輸送層を順次積層してなる赤色有機EL素子の電子電流密度分布を示す。当図では都合上、電子輸送層(ETL)、有機発光層(EML)、バッファ層(IL層)を順次積層して示す。バンク残渣は厚み1nmであり、横軸方向に向かってIL層中に存在している。図中の中央付近に残渣領域と残渣無し領域の境界が存在する。
【0088】
図24、25はそれぞれ同順に、
図23と同様の要領で示した、緑色有機EL素子、青色有機EL素子の電子電流密度である。
【0089】
図23、25を見ると、いずれも残渣領域ではIL層中の電子電流密度が他の領域に比べて高密度になっており、残渣による寄生容量膜としての影響が出ていることを示している。一方、残渣なし領域では、IL層の電子電流密度が低い。これは、EMLにおいてキャリア再結合が適切に行われ、ILに侵入する電子数が少ないことを示している。なお、
図24の緑色有機EL素子では、その性質上、IL層の電子電流密度は残渣の有無に関わらず、比較的変化しにくいことが分かった。
【0090】
このように、本発明においてバンク残渣の面積及び径を適切に制御したことによる効果については、有機EL素子中の各構成層の電子電流密度分布を測定することによって、実際に測定が可能である。
【0091】
(バンク残渣の面積制御方法と確認方法について)
バンク残渣のサイズ・面積は、これに照射するUVの各照射条件(照射時間、照射強度、照射範囲等の各パラメータ)を調節することで制御できる。照射強度と照射範囲については、UV照射装置側の強度を調節するほか、所定の開口部を設けたパターンマスクを介して基板側にUV照射する方法がある。パターンマスクはドット状等の開口部を有するマスクの他、ハーフトーンマスクを用いてもよい。
【0092】
なお、パターンマスクを用いる場合、RGB各発光色の発光領域で互いに照射条件を異ならせるようにすれば、例えば発光色毎のバンク残渣のサイズ・面積を異ならせることも可能である。例えば電子移動度の最も高い青色発光色の発光領域でバンク残渣のサイズ・面積を最も小さく設定し、その他の発光色の発光領域でバンク残渣のサイズ・面積を比較的大きくすれば、バンク残渣処理に係る時間を短縮しつつ、バンク残渣による不具合を積極的に抑制することも可能である。
【0093】
次に、残留しているバンク残渣の形態やサイズ・面積を調べる方法としては、例えばSIMSやTEM等の手法を使って調べることができると考えられる。特にSIMSの場合は、バンク残渣の周縁位置を複数測定して把握することで、バンク残渣全体のサイズ・面積を算出できる。
【0094】
また、別の方法として、例えば上記した
図15〜22のシミュレーション結果データを先に得ておき、実際に製造した有機ELパネルについての実測データを得る。そして、これらのデータを比較し、一致するか否かを検討することによって、狙い通りのバンク残渣処理を行うためのUV照射の条件出しをしたり、UV照射結果を間接的に確認することができる。
<有機ELパネル1の製造方法>
次に、
図5〜9を用いて、有機ELパネル1の全体的な製造方法を例示する。
【0095】
まず、基板10上にスパッタ法に基づき、銀からなる薄膜を成膜する。当該薄膜を例えばフォトリソグラフィでパターニングし、基板10の表面上にマトリックス状に複数の陽極2を形成する(
図5(a))。なお、スパッタ法に限定されず、これ以外の真空プロセス、例えば真空蒸着法等を用いても良い。
【0096】
次に、前記陽極2を含む基板10の表面に、例えばスパッタ法に基づいてITO薄膜を形成する。当該ITO薄膜を例えばフォトリソグラフィによりパターニングする。これにより透明電極膜3を形成する。
【0097】
続いて、前記透明電極膜3を形成した基板10の表面全体にわたり、スパッタ法等に基づき、金属酸化物膜4Xを成膜する(
図5(b))。
【0098】
次に、前記形成した金属酸化物膜4X上に、有機材料からなるバンク材料を用いてバンク材料層5Xを形成する(
図5(c))。その後、バンク材料層5Xの一部を除去して薄膜4Xの一部を露出させる。
【0099】
なおバンク材料層5Xの形成は、例えば塗布等により行うことができる。バンク材料層5Xの除去は、所定の現像液(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)溶液等)を用いてパターニング・洗浄することにより行える。
【0100】
このとき、金属酸化物膜4Xを構成する金属酸化物は、化学耐性は良好ではあるものの、TMAH溶液には少し溶ける。よって、表面が若干浸食され、ホール注入層4が形成される(
図6(a))。これによりホール注入層4Aが形成される。
【0101】
次に、バンク材料層5Xの表面に例えばフッ素プラズマ等による撥液処理を施して、バンク5を形成する。
【0102】
なお、前記現像液による現像・洗浄過程を経ても、実際にはホール注入層4Aの表面にバンク残渣11Aが存在している(
図3(a)、(b)、
図6(a)参照)。現時点ではバンク残渣11Aは広範囲にわたって存在していると考えられる。
【0103】
そこで本実施の形態1では
図6(a)のように、バンク5に区画されているホール注入層4Aの表面に対して所定の開口部を有するパターンマスクPMを介し、UV照射を行う。UVの照射強度、照射時間、パターンマスクPMの開口部サイズ等を制御することで、バンク残渣11Aを除去・縮小できる。これにより、基板10を平面視した際の各バンク残渣11Aのいずれかの方向の径を0.2μm以下とする。さらに基板10を平面視した際の各バンク残渣11Aの面積を少なくとも0.4μm
2以下とし、好ましくは0.04μm
2以下とすることができる。
【0104】
続いて、前記バンク5で区画された領域内に対し、例えばインクジェット法等のウェットプロセスに基づき、有機材料を含む組成物インクを滴下する。インクを乾燥させることにより、バッファ層6Aを形成する。このときバンク残渣11Aはバッファ層6Aに被覆される(
図1参照)。
【0105】
その後、上記と同様のウェットプロセスに基づき、有機発光層6Bを形成する(
図6(b))。ウェットプロセスはその他、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等を採用してもよい。
【0106】
次に、前記有機発光層6Bを含む基板表面の全体にわたり、例えば真空蒸着法に基づき、バリウム薄膜を形成する。これを電子注入層7とする(
図7(a))。
【0107】
次に、前記電子注入層7の表面に対し、例えばスパッタ法に基づき、ITO膜を成膜する。これを陰極8とする(
図7(b))。
【0108】
次に、陰極8の表面に対して、薄膜プロセスに基づき、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料を用いて一様に封止層9を形成する(
図7(c))。
【0109】
以上で有機ELパネル1が完成する。
<陽極形成工程からバンク形成工程までの別工程例>
次に
図8、9を用いて、陽極形成工程からバンク形成工程までのプロセスの別例を説明する。
【0110】
なお、当該プロセスでは別構成例として基板10の表面に平坦化膜17を形成するが、この工程は省略してもよい。透明導電膜としてはIZO層3Aを採用する。
【0111】
まず
図8(a)に示すように、基板10上にポリイミドやアクリル等の絶縁性樹脂材料を用いて平坦化膜17を形成する。当該平坦化膜17の上に、蒸着法に基づき、アルミ合金薄膜2X、IZO薄膜3X、薄膜(酸化タングステン膜)4Xの3層を順次形成する。アルミ合金材料としては、例えばACL(アルミコバルトランタン合金)材料を利用できる。
【0112】
次に、陽極2、IZO層3A、ホール注入層4Bを形成させたい領域に、フォトリソグラフィー法によりレジストパターンRを形成する(
図8(b))。
【0113】
続いて、レジストパターンRに覆われていない薄膜4Xの領域をドライエッチング(D/E)処理し、パターニングする(
図8(c))。このドライエッチング処理では、薄膜4Xのみを選択的にエッチングするため、F系ガスとN
2ガスの混合ガス、もしくはF系ガスとO
2ガスの混合ガスのいずれかを用いる。具体的なドライエッチング処理の設定条件は一例として以下の通りに定めることができる。
[ドライエッチング条件]
処理対象;酸化タングステン膜
エッチングガス;フッ素系ガス(SF
6、CF
4CHF
3)
混合ガス;O
2、N
2
混合ガス比;CF
4:O
2=160:40
供給パワー;Source 500W、Bias 400W
圧力;10〜50mTorr
エッチング温度;室温
上記ドライエッチング処理を実施後、ホール注入層4Bが形成される。その後はO
2ガスでアッシング処理を行うことで、次のウェットエッチング(W/E)処理におけるレジストパターンRの剥離を容易にしておく。
【0114】
次に、ウェットエッチング処理により、レジストパターンRに覆われていないIZO薄膜3X、AI合金薄膜2Xの領域をパターニングする(
図8(d))。エッチャントとして、硝酸、リン酸、酢酸、水の混合液を用い、IZO薄膜3X、Al合金薄膜2Xの2層を一括してウェットエッチングする。
【0115】
具体的なウェットエッチング処理の設定条件は一例として以下の通りに定めることができる。
[ウェットエッチング条件]
処理対象;IZO薄膜及びAl合金薄膜
エッチャント;リン酸、硝酸、酢酸の混合水溶液
溶剤の混合比率;任意(一般的な条件で混合可能)
エッチング温度;室温よりも低くする。
【0116】
なお、当該ウェットエッチング処理を良好に行うため、上層のIZO薄膜の膜厚としては20nm以下が好ましい。膜厚が20nmを超えると、サイドエッチング量が多くなるからである。
【0117】
以上のプロセスを経ると、陽極2及びIZO層3Aが形成される。その後、レジスト剥離工程を実施してレジストパターンRを除去することで、パターニングされた陽極2、IZO層3A、ホール注入層4Bの3層構造を得ることができる(
図9(a))。このプロセスでは、ホール注入層4Bは陽極2、IZO層3Aに対応する位置に合わせて形成される。
【0118】
次に、露出している平坦化膜17の表面にバンク材料層5X(不図示)を形成し、これをパターニングする。この時、バンク材はアクリル、ポリイミドなどからなる感光性樹脂材料でネガでもポジでもかまわない。感光性樹脂材料のネガ、ポジに応じたパターンのマスクを用いて露光し、現像することで、不要部分にある感光性樹脂膜を除去する。
【0119】
次に、感光性樹脂膜をUV照射する。感光性樹脂膜は、UV照射により、溶融し、硬化して、バンク5が形成される。(
図9(b))。
【0120】
このとき当図に示すように、ホール注入層4Bの表面上にバンク残渣11Aが残留する。従って、上記と同様にパターンマスクPMを用い、適宜制御したUV照射を行い、バンク残渣11Aのサイズ・面積を縮小するように制御する。
【0121】
次に、上記と同様の方法で所定のインクを調整し、これをバンク5に規定された領域に順次滴下・乾燥する。これにより、バッファ層6A、有機発光層6Bをそれぞれ形成できる(
図9(c))。
<有機ELパネル1Aの製造方法>
パネル1Aでは上記と同様に、スパッタ法に基づき、基板10の表面に陽極2と透明導電膜3を順次形成する。その後、バンク材料層を基板10の上に一様に塗布し、パターニングしてバンク5を形成する。
【0122】
この時点で、透明導電膜3上にバンク残渣11Bが残留する。このため、UV照射を行い、バンク残渣11Bのサイズ・面積を上記と同様に縮小するように制御する(
図10参照)。
【0123】
次に、隣接するバンク5の間における透明導電膜3の表面に、金属酸化物材料を含むインクを塗布し、これを乾燥させてホール注入層4Bを形成する。
【0124】
その後はパネル1と同様の手順でバッファ層6A、有機発光層6B、電子注入層7、陰極8、封止層9を形成する。
【0125】
以上で有機ELパネル1Aが完成する。
<実施の形態3>
図11に本発明の実施の形態3に係る有機ELパネル1Bの正面図を示す。
【0126】
本発明の有機ELパネルを製造する場合、バンク形状はいわゆるラインバンク構造に限定されず、ピクセルバンク構造も採用できる。
図11に、井桁状のピクセルバンク5Aを配置し、XY方向に発光層102R、102G、102Bを区画してなる有機ELパネル1Bの構成を示す。
【0127】
このような構成を持つ有機ELパネル1Bにおいても、有機ELパネル1、1Aとほぼ同様の効果を期待できる。
<その他の事項>
ホール注入層を薄膜プロセスで成膜する方法は、反応性スパッタ法に限定されず、例えば蒸着法、CVD法等を用いることもできる。
【0128】
本発明の有機ELパネルは、各々の素子を単一色の発光色とすることで、例えば照明装置等としても利用できる。
【0129】
本発明の有機EL素子では、ホール注入層と発光層の間に、IL層としてホール輸送層を形成してもよい。ホール輸送層は、ホール注入層から注入されたホールを発光層へ輸送する機能を有する。ホール輸送層としては、ホール輸送性の有機材料を用いる。ホール輸送性の有機材料とは、生じたホールを分子間の電荷移動反応により伝達する性質を有する有機物質である。これは、p型の有機半導体と呼ばれることもある。
【0130】
ホール輸送層の材料は、高分子材料または低分子材料のいずれを用いてもよく、例えば湿式印刷法で成膜できる。上層である発光層を形成する際に、発光層の材料と混ざらないよう、ホール輸送層の材料に架橋剤を含ませることが好ましい。ホール輸送層の材料としては、フルオレン部位とトリアリールアミン部位を含む共重合体や、低分子量のトリアリールアミン誘導体を例示できる。架橋剤の例としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを用いることができる。この場合、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)や、その誘導体(共重合体など)で形成されていることが好適である。
【0131】
ホール輸送層を形成した後、バンク形成工程を実施する場合には、ホール輸送層の表面にバンク残渣が残留する。従って、この場合も上記と同様にUV照射を行い、バンク残渣のサイズ・面積を適切に制御する。
また上記各実施の形態では、バンク材料として有機材料を用いたが、無機材料も利用可能である。この場合バンク材料層は、有機材料を用いる場合と同様に例えば塗布等で配設する。バンク材料層のパターニングは、バンク材料層上にレジストパターンを形成し、その後、所定のエッチング液(テトラメチルアンモニウムハイドロキシオキサイド(TMAH)溶液等)を用いてエッチングすることで実施できる。