特許第6040455号(P6040455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040455フルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤ならびに磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040455
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】フルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤ならびに磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/23 20060101AFI20161128BHJP
   C10M 105/54 20060101ALI20161128BHJP
   C10M 105/60 20060101ALI20161128BHJP
   C10M 105/68 20060101ALI20161128BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20161128BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20161128BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20161128BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   C07C43/23 ECSP
   C10M105/54
   C10M105/60
   C10M105/68
   G11B5/725
   G11B5/82
   C10N30:08
   C10N40:18
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-512406(P2015-512406)
(86)(22)【出願日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】JP2014077624
(87)【国際公開番号】WO2015087615
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-254202(P2013-254202)
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100081536
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 巌
(72)【発明者】
【氏名】相方 良介
【審査官】 伊藤 佑一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−143855(JP,A)
【文献】 特開2013−163667(JP,A)
【文献】 特開2013−018961(JP,A)
【文献】 特開2009−266360(JP,A)
【文献】 特開2001−218659(JP,A)
【文献】 KASAI, P. H. and WAKABAYASHI, A.,TRIBOLOGY LETTERS,2010年,38(3),p.241-251
【文献】 KASAI, P. H. and SHIMIZU, T.,TRIBOLOGY LETTERS,2012年,46(1),p.43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−CHCH(OH)CH−OC−R(1)
式中Rは、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)nCFCFCF−、である。zは1〜10の実数である。nは〜4の実数である。
【請求項2】
が、−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−、zは1〜10の実数である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、−CFCFCFO(CFCFCFCFO)nCFCFCF−、nは〜4の実数である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式(1)の化合物を含有する潤滑剤
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−CHCH(OH)CH−OC−R(1)
式中Rは、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)nCFCFCF−、である。zは1〜10の実数である。nは〜4の実数である。
【請求項5】
支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面に潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が下記式(1)で表される化合物を含有する磁気ディスク
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−CHCH(OH)CH−OC−R(1)
式中Rは、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)nCFCFCF−、である。zは1〜10の実数である。nは〜4の実数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族基を有するフルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤、ならびにこれを用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの記録密度の増大に伴い、記録媒体である磁気ディスクと情報の記録・再生を行う磁気ヘッドとの距離は殆ど接触するまで狭くなっている。磁気ディスク表面には磁気ヘッドとの接触・摺動の際の摩耗抑制や、ディスク表面の汚染防止等の目的で、炭素保護膜や潤滑剤被膜が設けられている。
炭素保護膜は、一般にスパッタ法やCVD法で製膜される。ディスクの表面保護は、炭素保護膜と、この上層に位置する潤滑剤被膜の両者で担うことになる。
潤滑剤としては一般に官能基を有するフルオロポリエーテルが用いられている。官能基としては、水酸基、シクロホスファゼン基やアミノ基などがある(特許文献1、2)。
現在開発が進められている熱アシストハードディスクドライブでは、レーザーにより局所加熱が行われる技術が用いられている。このような状況で潤滑剤が使用されると、水酸基、シクロホスファゼン基やアミノ基などの官能基部分はレーザーの熱により容易に分解を起こす。また、フルオロポリエーテルも熱がかかることにより分解を起こす。これらの分解によって、ディスク上の潤滑剤が磁気ヘッドへの移着(ピックアップ)を起こし、動作不良を引き起こすことが問題となっている。
一方、磁気ディスクの耐久性、特にLUL耐久性及びアルミナ耐性に優れた潤滑剤として、パーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ分子の末端に芳香族基を有する化合物を含有する化合物が知られている(特許文献3)。しかし、特許文献3の潤滑剤化合物として具体的に開示された化合物は−(CFO)(CFCFO)−骨格(フォンブリン骨格)を主鎖として有するフルオロポリエーテルのみであり、このような化合物は後にも述べるように、なお一層の耐熱性が求められている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許 第4137447号
【特許文献2】特許 第4570622号
【特許文献3】特開2009−266360
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高熱下においても潤滑剤が熱分解を起こさず、磁気ヘッドへ移着することのない、耐熱性の高い潤滑剤ならびに磁気ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の発明に係る。
1.式(1)で表される化合物
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−CHCH(OH)CH−OC−R(1)
式中Rは、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−、である。zは1〜15の実数である。nは0〜4の実数である。
2.式(1)の化合物を含有する潤滑剤。
3.支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面に潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が式(1)で表される化合物を含有する磁気ディスク。
【発明の効果】
【0006】
本発明の芳香族基を有するフルオロポリエーテル化合物は、従来一般的に用いられてきた−(CFO)(CFCFO)−骨格(フォンブリン骨格)を有する化合物よりも、熱に対し非常に安定であるので、高熱環境下での長期間の使用によっても変性しにくい潤滑膜の提供が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
潤滑剤の合成方法
式(1)で表される本発明の潤滑剤は、例えば両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)とエポキシ基を有するフェノキシ化合物を反応させることにより得られる。具体的には以下の方法により合成される。
両末端に水酸基を有するフルオロポリエーテル(a)としては、例えば、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHで示される化合物、またはHOCHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCHOHで示される化合物を例示できる。このフルオロポリエーテルの数平均分子量は500〜2000、好ましくは800〜1500である。ここで数平均分子量は日本電子製JNM−ECX400による19F−NMRによって測定された値である。NMRの測定において、試料を溶媒へは希釈せず、試料そのものを測定に使用した。ケミカルシフトの基準は、フルオロポリエーテルの骨格構造の一部である既知のピークをもって代用した。zは、1〜15の実数であり、好ましくは1〜10の実数である。zが1〜10の実数の場合、分子鎖がより平坦でありであり好ましい。nは0〜4、好ましくは1〜4、更に、好ましくは2〜4の実数である。
上記フルオロポリエーテル(a)は、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)として、1.0〜1.5であり、好ましくは1.0〜1.3であり、より好ましくは1.0〜1.1である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC−8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液はHCFC系代替フロン、基準物質としては、無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
(2)本発明の潤滑剤の合成
両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、エポキシ基を有するフェノキシ化合物(A)を触媒の存在下、反応させる。反応温度は20〜90℃、好ましくは60〜80℃である。反応時間は、5〜20時間、好ましくは10〜15時間である。上記化合物(a)に対して、化合物(A)を1.0〜2.0当量、触媒を0.05〜0.1当量使用するのが好ましい。触媒としてt−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウムなどのアルカリ化合物を用いることができる。反応は溶剤中で行ってもよい。溶剤としてt−ブタノール、トルエン、キシレンなどを用いることができる。その後、例えば水洗、脱水する。これにより本発明の化合物(1)が得られる。
エポキシ基を有するフェノキシ化合物(A)は下記の式で例示される。Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基が挙げられる。
炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシを挙げることができる。アミノ基としては、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノを挙げることができる。アミド基としては、例えばアセトアミド、プロピオンアミドを挙げることができる。
化合物(A)として具体的には例えば、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル、グリシジル4−エトキシフェニルエーテル、グリシジル4−プロポキシフェニルエーテル、グリシジル4−ブトキシフェニルエーテル、グリシジル4−アミノフェニルエーテル、グリシジル4−メチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−ジメチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−エチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−ジエチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−アセトアミドフェニルエーテル、グリシジル4−プロピオンアミドフェニルエーテルなどを例示できる。
本発明の化合物を磁気ディスク表面に塗布するには、化合物を溶剤に希釈して塗布する方法が好ましい。溶剤としては、例えば3M製PF−5060、PF−5080、HFE−7100,HFE−7200、DuPont製Vertrel−XF等が挙げられる。希釈後の化合物の濃度は1wt%以下、好ましくは0.001〜0.1wt%である。
本発明の化合物を単独使用する以外にも、例えば、Solvay Solexis製のFomblin ZdolやZtetraol、Zdol TX、AM、ダイキン工業製のDemnum、Dupont製のKrytoxなどと任意の比率で混合して使用することもできる。
本発明の化合物は、磁気ディスク装置内の磁気ディスクとヘッドの低スペーシング化を実現し、さらに摺動耐久性を向上させるための潤滑剤としての用途が挙げられる。また、本発明の化合物は、水酸基による炭素保護膜に存在する極性部位との相互作用、芳香族基による炭素保護膜に存在する炭素の不飽和結合との相互作用を形成することを特徴とする。従って、磁気ディスク以外にも炭素保護膜を有する磁気ヘッドや、光磁気記録装置、磁気テープ等や、プラスチックなどの有機材料の表面保護膜、さらにはガラス、金属などの無機材料の表面保護膜としても応用できる。
図1に本発明の磁気ディスク断面の模式図を示す。本発明の磁気ディスクは、まず支持体1上に少なくとも1層以上の記録層2、その上に保護層3、更にその上に本発明の化合物を含有する潤滑層4を最外層として有する構成である。支持体としてはアルミニウム合金、ガラス等のセラミックス、ポリカーボネート等が挙げられる。
磁気ディスクの記録層である磁性層の構成材料としては鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素を中心として、これにクロム、白金、タンタル等を加えた合金、又はそれらの酸化物が挙げられる。これらはメッキ法、或いはスパッタ法等で形成される。保護層の材料はカーボン、SiC、SiO等が挙げられる。これらはスパッタ法、或いはCVD法で形成される。
現在、流通している潤滑層の厚さは20Å以下であるため、粘性が20℃で100mPa・s程度以上の潤滑剤をそのまま塗布したのでは膜厚が大きくなりすぎる恐れがある。そこで塗布の際は溶剤に溶解したものを用いる。本発明の化合物を潤滑剤として単独で使用する場合も、他の潤滑剤と混合して使用する場合も、溶剤に溶解した方が必要な膜厚に制御しやすい。但し、濃度は塗布方法・条件、混合割合等により異なる。本発明の潤滑剤の膜厚は、5〜15Åが好ましい。
下地層に対する潤滑剤の吸着を促進させるために、熱処理や紫外線処理を行うことができる。熱処理温度は、60〜160℃、好ましくは80〜160℃である。紫外線処理では、185nmと254nmの波長を主波長とする紫外線を用いるのが好ましい。
本発明の磁気ディスクは、ディスクを格納し、情報の記録・再生・消去を行うためのヘッドやディスクを回転するためのモーター等が装備されている磁気ディスクドライブとそのドライブを制御するための制御系からなる磁気ディスク装置に応用できる。
本発明の磁気ディスク、およびそれを応用した磁気ディスク装置の用途としては電子計算機、ワードプロセッサー等の外部メモリーが挙げられる。またナビゲーションシステム、ゲーム、携帯電話、PHS等の各種機器、及びビルの防犯、発電所等の管理・制御システムの内部・外部記録装置等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1は本発明の磁気ディスクの構成を示す断面模式図である。
【実施例】
【0009】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
実施例1
CHO−CO−CHCH(OH)CHOCH−CFCFO(CFCFCFO)CFCFCH−O−CHCH(OH)CH−OC−O−CH (化合物1)の合成
アルゴン雰囲気下、t−ブチルアルコール(45g)、HO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテル(数平均分子量1805、分子量分布1.27)96g、カリウムt−ブトキシド(0.5g)、4−メトキシグリシジルフェニルエーテル(15g)を70℃で14時間撹拌した。その後、水洗、脱水した後、蒸留により精製し、化合物1を90g得た。
化合物1は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.75g/cmであった。NMRを用いて行った化合物1の同定結果を示す。
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−129.7ppmとする。)
δ=−129.7ppm
〔20F、−OCFCFO−〕、
δ=−83.7
〔40F、−OCCFO−〕、
δ=−124.2ppm
〔4F、−OCCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH〕、
δ=−86.5ppm
〔4F、−OCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH
z=6.3
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔22H,CO−CO−C(O)CO−CCFCFO(CFCFCFO)CFCF−OC(O)C−OC−OC
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔8H、−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH
実施例2
CHO−CO−CHCH(OH)CHOCH−CFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−CHO−CHCH(OH)CH−OC−O−CH (化合物2)の合成
実施例1において用いたHO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルを用い以外は実施例1と同様にして、化合物2を61g得た。
化合物2は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.70g/cmであった。NMRを用いて行った化合物2の同定結果を示す。
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−83.7ppm
〔16F,−OCCFCFO−、−OCCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH〕,
δ=−123.3ppm
〔4F,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH〕,
δ=−125.8ppm
〔12F,−OCFCFO−〕,
δ=−127.6ppm
〔4F,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH
n=3.0
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔22H,CO−CO−C(O)CO−CCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−O−OC(O)C−OC−OC
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔8H,−OCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH
実施例3
耐熱性の評価
熱分析装置(TG/TDA)を用いて、窒素雰囲気下で2℃/分で加熱し、潤滑剤が10%減少した温度で評価した。
実施例4
ボンド率の測定
実施例1で合成した潤滑剤1を、それぞれDuPont製Vertrel−XFに溶解する。直径2.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後潤滑剤を塗布したディスクを、波長185nmと254nmの紫外光を発光する低圧水銀ランプを取り付けた紫外線照射装置の内部に10−20秒間挿入した。この際、オゾンの形成を防ぐため、紫外線照射装置の内部は予め窒素で置換した。この後、Fourier Transform Infrared Spectorometer(FT−IR)でディスク上の化合物の平均膜厚を測定する。この膜厚をfÅとする。次に、このディスクをVertrel−XF中に10分間浸漬し、速度10mm/sで引き上げた後、室温下で静置して溶媒を揮発させる。この後、ディスク上に残った化合物の平均膜厚をFT−IRで測定する。この膜厚をbÅとする。ディスクとの吸着性の強弱を示す指標として、一般に用いられているボンド率を採用した。ボンド率は、下記式で表される。
ボンド率(%)=100×b/f
実施例5
酸化アルミニウムに対する耐分解性の評価
化合物1および2に、それぞれ20重量%のAlを入れ、強く振とうしたのち超音波でさらに良く混合することにより、耐分解性評価用の試料を調製する。熱分析装置(TG/TDA)を用いて、250℃で100分間加熱した後の潤滑剤の重量減少率(B)を算出し、さらにAlを添加せず、潤滑剤そのものを20mg使用して同様の熱分析を行うことにより得られる潤滑剤の重量減少率(C)を算出する。耐分解性の評価は、BとCの差(B−C)で評価した。
比較のために、両末端に水酸基を有する潤滑剤3及びパーフルオロポリエーテルの両末端に芳香族基を有し、かつフォンブリン骨格を有する潤滑剤4を使用した。
(潤滑剤3)
HO−CHCH(OH)CHOCH−CFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−O−CHCH(OH)CHOH
ここでxは9.8、yは9.7である。分子量分布は1.20である。
(潤滑剤4)
CHO−CO−CHCH(OH)CHOCH−CFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−O−CHCH(OH)CH―OCO−CH
ここでvは10.1、wは10.9である。分子量分布は1.18である。
ボンド率、耐熱性及びアルミナに対する耐分解性の測定結果を表1に記す。これらの結果から、本発明の両末端に芳香族基を有するパーフルオロポリエーテル化合物は、従来の末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物やパーフルオロポリエーテルの両末端に芳香族基を有し、かつフォンブリン骨格を有する化合物よりも、高いボンド率、耐熱性及び耐分解性を示すことが確認された。
【表1】
実施例6
磁気ディスクの作製
実施例で得られた化合物1および2をDuPont製Vertrel−XFに溶解する。この溶液の化合物1〜2の濃度は0.05重量%である。直径2.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後150℃で10分間乾燥し、塗布された化合物の膜厚をFT−IRで測定した。
結果を表2に示す。これらの結果から、耐分解性を有し、かつ一分子あたりの膜厚を低減できる本発明の化合物を有する磁気ディスクを作製できることが確認された。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の芳香族基を有するフルオロポリエーテル化合物は、従来一般的に用いられてきた−(CFO)(CFCFO)−骨格(フォンブリン骨格)を有する化合物よりも、熱に対し非常に安定であるので、高熱環境下での長期間の使用によっても変性しにくい潤滑膜の提供が可能である。
【符号の説明】
【0011】
1 支持体
2 記録層
3 保護層
4 潤滑層
図1