特許第6040481号(P6040481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040481
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】プラスチックレンズの離型方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/58 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   B29C33/58
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-213800(P2012-213800)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-65270(P2014-65270A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 訓良
(72)【発明者】
【氏名】藤居 孝行
(72)【発明者】
【氏名】細江 哲史
(72)【発明者】
【氏名】獅野 裕一
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−265070(JP,A)
【文献】 特開平09−136327(JP,A)
【文献】 特開2005−53198(JP,A)
【文献】 特開2001−353734(JP,A)
【文献】 特開2004−3225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの凹面側を形成するための第1のレンズ成形面を備えた凸型モールドと、レンズの凸面側を形成するための第2のレンズ成形面を備えた凹型モールドとを前記両レンズ成形面が対面するように所定間隔離間させて配置し、前記両モールドの外周縁に沿って前記両モールドの間隔を保持させながら透湿性保持部材を配設することで前記両モールド及び前記透湿性保持部材に包囲されたキャビティを形成したレンズ成形ユニットを用意し、前記キャビティ内に液状の熱硬化型プラスチック材料を充填し、所定の硬化工程において前記プラスチック材料を硬化させて前記キャビティ内にプラスチックレンズを成形させた後、前記レンズ成形ユニットを加湿雰囲気中に所定時間配置することで前記透湿性保持部材から加湿雰囲気中の水分をキャビティ内に導入し、前記プラスチックレンズの前記両モールドからの離型を促進するために加湿処理を行うようにしたプラスチックレンズの離型方法であって、
所定の透湿性能の前記透湿性保持部材(以下、第1の透湿性保持部材とする)に対して透湿性能の劣る前記透湿性保持部材(以下、第2の透湿性保持部材とする)を使用して前記レンズ成形ユニットを構成し前記加湿処理を行う際には前記第1の透湿性保持部材を使用して前記レンズ成形ユニットを構成し前記加湿処理を行う場合よりも加湿雰囲気を高湿度に設定することを特徴とするプラスチックレンズの離型方法。
【請求項2】
前記第2の透湿性保持部材を使用して前記レンズ成形ユニットを構成して前記加湿処理を行う際には、温度条件を前記第1の透湿性保持部材を使用した場合よりもより高温に設定することを特徴とする請求項1に記載のプラスチックレンズの離型方法。
【請求項3】
前記透湿性保持部材は粘着テープであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチックレンズの離型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液状の硬化型プラスチック材料をレンズ成形ユニットのキャビティ内に充填し、硬化させてプラスチックレンズを成形した後にそれを取り出すためのプラスチックレンズの離型方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からプラスチックレンズを製造する手段の1つとして、レンズ成形ユニットを用意しそのキャビティ(空間)内に主として熱硬化型のプラスチック材料を充填し、所定の加熱履歴で加熱処理を施して硬化させ、その後成形されたプラスチックレンズを取り出すようにする製造方法がある。
レンズ成形ユニットは一般的に凸型モールド及び凹型モールドをリング状のガスケットあるいは粘着テープ等を用いて内部にキャビティが形成されるように所定間隔離間させて配置させている(この状態をモールドセットと呼称することもある)。そして、ガスケットを使用している場合にはその注入口から、粘着テープを使用している場合には一部に充填用のチューブを突き刺して調整したプラスチック材料(一般にモノマーと呼称する)を充填するようにしている。プラスチック材料が充填されたレンズ成形ユニットは加熱炉のような加熱雰囲気中に数時間〜数十時間静置されてプラスチック材料の硬化処理が行われプラスチックレンズが成形される。このような従来の製造方法の一例として特許文献1を示す。
【0003】
このようなレンズ成形ユニットを使用して得られるプラスチックレンズはレンズ成形ユニットを構成する凸型モールド及び凹型モールドとしっかりと密着している。そのためモールドからプラスチックレンズを引き離す(離型させる)ためにレンズ成形ユニットをプレス装置にセットし、プレスしてプラスチックレンズを撓ませるようにしている。離型の手順は次のように行われている。
A.ガスケット式レンズ成形ユニット
イ)ガスケットを取り外す
ロ)プレス装置の押圧面間にユニットを配置する
ハ)レンズ部分を押圧して撓ませてモールドと離型させる
ニ)モールドを取り外す
B.粘着テープ式レンズ成形ユニット
イ)粘着テープを取り外す
ロ)プレス装置の押圧面間にユニットを配置する
ハ)レンズ部分を押圧して撓ませてモールドと離型させる
ニ)モールドを取り外す
尚、モールドとプラスチック成形品は膨張率が異なるためこのように強制的に離型させなくとも加熱硬化後に自然に温度が下がっていく過程で離型することもある(もっとも、必ずしもきれいに離型するわけではない)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−244048号公報
【特許文献2】特開平9−136327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記離型作業においては従来から成形されたプラスチックレンズのひび割れ(貫:カン)が問題となっていた。基本的に成形されたプラスチックレンズは離型時に縁の周囲に若干のカンが発生するものとして数mmの余剰部分を予定しており、離型した後のモールドからの取り出し後にカンが発生した部分を含む周縁を研削してワンサイズ小さくしたものを製品として扱う。しかし、単なるカンではなくしばしばひび割れがレンズの比較的内部方向にまで侵入する場合があった。このようなひび割れは深く侵入している場合にはレンズ周縁を研削しても残ってしまうためそのようなレンズの商品価値はなくなってしまう。また、カンの発生した部分が欠けてモールド側にくっついてしまうこともあって、モールドを再度使用する際にこの欠けた部分が残らないように洗浄しなければならなかった。
このようなことから、欠けやひび割れを少なくするために例えば、特許文献2のようにモールドセット内に樹脂を充填し、硬化させた後で粘着テープを剥がし、蒸気処理をしてモールドとプラスチック成形品(プラスチックレンズ)との間に水分を浸透させ離型を促進させる手段が提案されている。
しかし、このような手法では水分の浸透に伴ってモールドとプラスチック成形品が自然に離型してしまい、ずれ落ちたモールドがプラスチック成形品を傷つけてしまう可能性があった。そのため、モールドがずれないように各モールドセットごとに間仕切りをしたりすることは、モールドセットを接近させて配置する場合に比べて同じ容積の炉内におけるモールドセットの収容数が少なくなってしまう。また、粘着テープを剥がすことは上記のように膨張率の違いで自然に(必ずしもきれいではなく)離型してしまうこともあり、できる限りひび割れが生じにくい離型しやすい状態で初めて粘着テープを剥がしたいという要請もあった。尚、水中にモールドセットを浸漬させて水分の浸透を図るような場合には純水のような高純度の水でなければ取り出したプラスチック成形品にその水が乾いた際にいわゆる水焼け(水滴の蒸発後に水分中の微量成分が白化して表面にこびりつく現象)が生じてしまうためかえって好ましくない。
以上のような種々の問題から、特許文献2のように離型の際に粘着テープを剥がすことなく離型を促進させる手段が求められていた。そのため、出願人は例えば粘着テープのような保持部材に透湿性を与えるようにした発明を提案した(特願2012−193702)。本発明はその改良発明である。
本発明の目的とするところは、粘着テープのような保持手段を取り外さなくとも成形されたプラスチックレンズとモールドとの界面に水分を浸透させることができ、プラスチックレンズとモールドとの離型を促進させることができるプラスチックレンズの離型方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1の発明では、レンズの凹面側を形成するための第1のレンズ成形面を備えた凸型モールドと、レンズの凸面側を形成するための第2のレンズ成形面を備えた凹型モールドとを前記両レンズ成形面が対面するように所定間隔離間させて配置し、前記両モールドの外周縁に沿って前記両モールドの間隔を保持させながら透湿性保持部材を配設することで前記両モールド及び前記透湿性保持部材に包囲されたキャビティを形成したレンズ成形ユニットを用意し、前記キャビティ内に液状の熱硬化型プラスチック材料を充填し、所定の硬化工程において前記プラスチック材料を硬化させて前記キャビティ内にプラスチックレンズを成形させた後、前記レンズ成形ユニットを加湿雰囲気中に所定時間配置することで前記透湿性保持部材から加湿雰囲気中の水分をキャビティ内に導入し、前記プラスチックレンズの前記両モールドからの離型を促進するために加湿処理を行うようにしたプラスチックレンズの離型方法であって、所定の透湿性能の前記透湿性保持部材(以下、第1の透湿性保持部材とする)に対して透湿性能の劣る前記透湿性保持部材(以下、第2の透湿性保持部材とする)を使用して前記レンズ成形ユニットを構成し前記加湿処理を行う際には前記第1の透湿性保持部材を使用して前記レンズ成形ユニットを構成し前記加湿処理を行う場合よりも加湿雰囲気を高湿度に設定するようにしたことをその要旨とする。
また請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加え、前記第2の透湿性保持部材を使用して前記レンズ成形ユニットを構成して前記加湿処理を行う際には、温度条件を前記第1の透湿性保持部材を使用した場合よりもより高温に設定することをその要旨とする。
また請求項3の発明では請求項1又は2の発明の構成に加え、前記透湿性保持部材は粘着テープであることをその要旨とする。
【0007】
このような構成においては、まず用意されたレンズ成形ユニットの両モールド及び透湿性保持部材に包囲されたキャビティ内に液状の熱硬化型プラスチック材料を充填する。充填したプラスチック材料を所定の硬化工程で硬化させてプラスチックレンズを成形させる。熱硬化型プラスチック材料であるため、外部から熱を加えたりマイクロ波や紫外線を照射して所定の加熱履歴で時間をかけて硬化させる。
プラスチックレンズが成形されると、透湿性保持部材を取り外すことなくレンズ成形ユニットを加湿雰囲気中に配置する。これによって透湿性保持部材から水分がキャビティ内に浸入し、モールドとプラスチックレンズの界面に浸透していくこととなる。これによって成形されたプラスチックレンズのモールドからの離型が促進させることとなる。加湿雰囲気中に所定時間配置した後に透湿性保持部材を取り外して離型作業を行うこととなるが、その際に離型用のプレス装置を使わなくとも、あるいは使ったとしても大きな力でプレスしなくともきれいに離型させることが可能となる。
ここで、第1の透湿性保持部材と第2の透湿性保持部材を比較した場合に第2の透湿性保持部材が第1の透湿性保持部材よりも透湿性能が劣る場合に第2の透湿性保持部材を使用してレンズ成形ユニットを構成し加湿処理を行う際には、第1の透湿性保持部材を使用してレンズ成形ユニットを構成し加湿処理を行う場合よりも加湿雰囲気を高湿度に設定するようにする。
これは離型性の良し悪しが透湿性保持部材の透湿性の良し悪しと相関関係にあると考えられるため、透湿性の異なる透湿性保持部材を使用してレンズ成形ユニットを構成する際には、透湿性保持部材の透湿性を考慮して加湿雰囲気中の湿度を調整して正品率を向上させようとする発想である。
また、第2の透湿性保持部材を使用してレンズ成形ユニットを構成して加湿処理を行う際には、温度条件を第1の透湿性保持部材を使用した場合よりもより高温に設定することがよい。
高温となるほど空気中に含ませることができる水分が多くなり、さらにモールドとプラスチックレンズの界面に浸透していく水分が多くなって離型性が向上するからである。
【0008】
ここで「レンズ成形ユニット」とは硬化型プラスチック材料が充填されている、いないに関わらず両モールド及び透湿性保持部材に包囲されてキャビティが形成されている組み合わせ状態をいう。
加湿雰囲気は水を加熱して蒸気を密閉空間内に放出することで実現してもよく、超音波発生装置の超音波振動によって水分子を密閉空間内に霧状に放出させるようにして実現してもよい。また、このように強制的な飽和水蒸気状態としなくとも外気温が高い場合に密閉空間内で自然な水分の蒸発によって高湿度状態を作り出すようにしてもよい。
湿度や温度は高いほど好ましい。同じ湿度では温度が高いほど空気中に含まれる水蒸気量は多くなり、また水の表面張力が下がりモールドとプラスチックレンズの界面に浸透しやすくなるからである。しかし、温度についてはあまり高すぎると成形されたプラスチックレンズの樹脂の劣化による変色(黄変)の原因となるため、加湿雰囲気中の温度は20〜60℃程度が好ましい。
レンズ成形ユニットを構成する透湿性保持部材としては一般に粘着テープ又はガスケットが使用される。但し十分な透湿性を有する素材として本発明では粘着テープが最も好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記各請求項の発明では、粘着テープのような保持手段を取り外さなくとも成形されたプラスチックレンズとモールドとの界面に水分を浸透させ離型を促進させることができ、離型用のプレス装置を使わなくとも、あるいは使ったとしても大きな力でプレスしなくともきれいに離型させることが可能となる。更に、透湿性保持部材の透湿性に応じて加湿雰囲気中の湿度を調整することができるため正品率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)及び(b)は本発明の実施例に使用するレンズ成形ユニットの構築過程を説明する斜視図。
図2】同じレンズ成形ユニットの(a)はモノマー注入状態を説明する正面図縦断面図、(b)はプラスチックレンズが成形された状態を説明する縦断面図。
図3】同じレンズ成形ユニットを温度差のある水溶液に順に浸漬させる工程を説明する説明図。
図4】バイスによって同じレンズ成形ユニットからプラスチックレンズを離型させている状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的なプラスチックレンズの具体的な離型方法について図面に基づいて説明する。
まず、プラスチックレンズの製造に使用されるレンズ成形ユニット1について説明する。図1及び図2に示すように、レンズ成形ユニット1は凸型モールド2、凹型モールド3及び透湿性のある粘着テープ4から構成されている。両モールド2,3は耐熱ガラス製とされている。凸型モールド2の表面は成形されるプラスチックレンズの裏面(眼球側)を成形するための所定の曲面で構成された第1のレンズ成形面5とされており、凹型モールド3の裏面は成形されるプラスチックレンズの前面(物体側)を成形するための所定の曲面で構成された第2のレンズ成形面6とされている。
粘着テープ4は片面全面にシリコーン性粘着剤からなる粘着層4aが形成された二軸延伸させたポリエチレンテレフタレート(PET)製の幅広の可撓性のあるフィルムとされている。
凸型モールド2と凹型モールド3は第1のレンズ成形面5と第2のレンズ成形面6を正対させた状態で若干離間して配置され、両モールド2,3の外周端面7に跨がるように粘着テープ4が巻回されている。粘着テープ4が巻回された状態でレンズ成形ユニット1内部にはキャビティ8が形成される。
【0012】
このように構成されたレンズ成形ユニット1のキャビティ8内に図2(a)に示すように注入ノズル11を粘着テープ4の側面に突き立てて内部に調整した硬化型プラスチック材料としてのモノマーを充填し、加熱炉のような加熱雰囲気中で定法に従った加熱履歴でモノマーの加熱硬化処理を行う。図2(b)に示すようにモノマーが硬化することによってレンズ成形ユニット1の内部にはプラスチックレンズ10が成形されることとなる。図2(b)に示すように、成形完了段階でプラスチックレンズ10のレンズの表裏面はそれぞれ両モールド2,3の第1及び第2のレンズ成形面5,6と密着し、外周端面12で粘着テープ4に密着する。
【0013】
次に、図3のブロック図に基づいて上記のようにプラスチックレンズ10が成形された状態のレンズ成形ユニット1から製品としてのレンズができるまでを説明する。
まず、レンズ成形ユニット1内のプラスチックレンズ10の離型を促進するための加湿処理工程の一例について説明する。本実施の形態ではレンズ成形ユニット1から粘着テープ4を剥がさずにそのまま高湿度条件の炉中に6時間静置する。炉中の湿度、温度及び時間の各条件は適宜変更可能である。
加湿処理工程が終了した後、離型工程に移行する。この段階で粘着テープ4を剥がす。そして、図4に示すようなプレス装置としてのバイス21にセットする。バイス21は固定壁部22と可動壁部23を備えており、軸受け24に支持されたネジ棒24を回動させることでネジ棒24の先端に連結された可動壁部23が進退するような構成とされている。
このようなバイス21によれば、レンズ成形ユニット1を固定壁部22と可動壁部23の間に配置し、ネジ棒24をハンドル25で回動させることで可動壁部23を固定壁部22方向に移動させ、もってプラスチックレンズ10を直径方向に押圧することで、プラスチックレンズ10を凹部方向に撓ませて両モールド2,3との界面をずらして離型させることができる。尚、バイス21にセットする前に粘着テープ4を剥がした段階で自然に離型してしまうこともあるため、そのようなレンズ成形ユニット1については離型工程が不要となる。
【0014】
離型工程後の後処理工程では離型後のプラスチックレンズ10のコバをカットして製品としてのいわゆる丸レンズを作製する。そして適切な洗浄剤および純水で洗浄し、乾燥させて検査を行う。レンズは丸レンズそのままであってもよいが、片面または両面に各種コーティング層を設け、ユーザー(眼鏡店)に納入する。前記コーティング層としては、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、防曇コート層、防汚コート層などが挙げられる。このようなコーティング層は1層だけ形成してもよいが、2種以上の層を積層して多層のコーティング層を形成してもよい。
一方、離型後のモールド2,3は洗浄して再度レンズ成形ユニット1用に使用する。
このように構成することで本実施の形態では次のような効果が相される。
(1)離型しやすいため、生産性が良いだけでなく、従来に比べて割れやかけといった不具合が生じにくい。
(2)従来では離型した際にモールド2,3内部にプラスチックレンズ10のコバ側が一部欠けて残る可能性が高いためモールド2,3自体も内部にバリ取りのための高圧力での水洗浄をしなければならなかったが、本発明ではきれいに離型させることができるためその必要がなくなる。
(3)粘着テープ4の透湿性に応じて加湿処理工程における湿度と温度を変更することで、例えば相対的に透湿性の低い粘着テープ4を使用する場合において湿度や温度を高くすることで透湿性の高い粘着テープ4を使用した場合と同じ離型性能を維持させることができる。
尚、本発明は本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【0015】
次に、上記の工程に従って実施した実施例について説明する。
まず、以下の実施例に使用する粘着テープの透湿性について検討した。本実施例においては透湿性の異なる2種類の粘着テープを使用した。透湿性の良い粘着テープとして0.04mm厚のPETフィルムに防湿コーティング処理を施していないものを使用した(以下、テープAとする)。一方、透湿性の劣る粘着テープとして同じく0.04mm厚のPETフィルムに防湿コーティングが施された粘着テープを使用した(以下、テープB)。ここでは粘着テープの透湿性を測定するためにレンズ成形ユニット内にモノマーを充填せず、代わりにシリカゲルを封入してその重量の増加から透湿性を判定した。レンズ成形ユニットとして80mmの径の平板モールドを10mm間隔で対向配置してテープA及びBを巻回してそれぞれ内部のキャビティ内に3.5gのシリカゲルを封入した(和光純薬工業株式会社 シリカゲル、中粒状(青色)を使用)。これを60℃、湿度99%の加湿及び加温条件の雰囲気中で24時間静置した。テープの種類ごとにそれぞれ5つのレンズ成形ユニットを作成して実施し、シリカゲルの重量増加率の平均値を求めた。重量増加率はシリカゲルがどの程度水分を吸収したかということとなり、数値が大きいほどテープが多くの水分を透過していることとなる。その結果を表1に示す。
表1に示すように本実施例においてテープAを使用したレンズ成形ユニットにおいてはシリカゲルの重量増加率が防湿コーティングを施したテープBを使用したレンズ成形ユニットに対して大きい。つまり、テープAの方がテープBよりも透湿性が高い。
【0016】
【表1】
【0017】
次に、離型性能についてテープA及びテープBをについて検討した。
レンズ成形ユニット1内にモノマーを充填して常法に従って硬化させたものを加湿及び温度条件として35℃、湿度80%の雰囲気中で6時間静置した。その結果、テープAは離型時に力がいらず、かつカンが発生しにくいが、テープBは離型時に力が必要で、かつ気を付けていてもカンが発生しやすい傾向となった。つまり、テープの透湿性と離型性に正の相関性があり、透湿性の高いテープAの方がテープBよりも離型性がよいことがわかる。
【0018】
次にこれらテープA及びテープBを使用したレンズ成形ユニットの加湿雰囲気中の湿度と離型しやすさとの関係について検討する。温度と湿度を変更して実施した実施例及び比較例の平均カン発生率を表2に示す。各実施例とも以下a〜cの共通した条件でプラスチックレンズを成形させ、湿度及び温度条件のみを変えて実施例とした。各比較例は以下のc)条件について自然冷却させた後に所定の加湿及び温度条件を与えるための炉に移さずにそのまま加熱炉内に静置したものである。実施例及び比較例のカン発生率はそれぞれの条件で最低100以上のプラスチックレンズを実際に成形した際の値である。
a)レンズ成形ユニット条件
上記レンズ成形ユニット1を使用し、粘着テープ4として実施例1〜4は上記のテープBを、実施例5は上記のテープAを使用した。
b)調整したモノマーについて
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド93重量部に、硫黄粉末7重量部を添加して50℃で撹拌し硫黄粉末が完全に溶解した後、室温まで冷却し硬化触媒テトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミド0.4重量部を添加し、十分に撹拌して溶解させモノマー成分を調整したものを使用した。
このモノマーを10hPaで30分間脱泡した後、上記のように注入ノズルを粘着テープ側面に突き立ててレンズ成形ユニットの内部に充填した。
c)加熱温度履歴
A)のモノマーを充填したレンズ成形ユニット加熱炉内に配置して、30℃で10時間保持した後、連続して30℃から100℃まで10時間かけて昇温させ、続いて100℃で1時間保持させた後、加熱を終了し常温まで自然冷却させた。その後、所定の加湿及び加温条件を与えるための炉に移して6時間静置した。
【0019】
1)実施例1
加湿及び加温条件として 60℃、湿度50%とした。
2)実施例2
加湿及び加温条件として 60℃、湿度95%とした。
3)実施例3
加湿及び加温条件として 50℃、湿度95%とした。
4)実施例4
加湿及び加温条件として 40℃、湿度95%とした。
5)実施例5
加湿及び加温条件として 35℃、湿度65%とした。
6)実施例6
加湿及び加温条件として 60℃、湿度50%とした。
7)比較例1
加湿及び加温条件として 25℃、湿度20%とした。
8)比較例2
加湿及び加温条件として 60℃、湿度 4%とした。
9)比較例3
加湿及び加温条件として 60℃、湿度 4%とした。
【0020】
【表2】
【0021】
(結果)
表2において加湿雰囲気中においた各実施例は加湿雰囲気中に置かなかった比較例に比べていずれもカン発生率は低かった。これは湿度が高いほどモールドとプラスチックレンズの界面に多くの水分が浸透するためである。
実施例1と実施例6を比べると同じ加湿及び加温条件であっても透湿性の高いテープAを使用した実施例6がカン発生率は低くなることがわかる。そのため、テープAに比べて透湿性の低いテープBを使用する場合においてカン発生率を低くするためには相対的にテープAを使用した場合よりも加湿雰囲気を高湿度に設定する必要がある。また、実施例2〜4の結果に示すように同じ加湿条件であっても温度が高いほうがカン発生率は低くなる。これは温度が高いほど空気に含まれる水分が多くなるためである。そのため、レンズに影響のない範囲でなるべく温度を高くすることが離型には望ましいことがわかる。
テープBを使用した実施例3ではテープAを使用した実施例5よりもカン発生率が高いが、温度を高くした実施例2では実施例5よりもカン発生率が低い。これらの結果からテープBを使用した場合にテープAを使用した場合と同等にあるいはよりカン発生率を抑制するためにはテープAを使用した場合よりも高加湿に設定し、併せてテープAを使用した場合よりも高温に設定することがより望ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0022】
1…レンズ成形ユニット、2…凸型モールド、3…凹型モールド、4…透湿性保持部材としての粘着テープ、5…第1のレンズ成形面、6…第2のレンズ成形面、8…キャビティ、10…プラスチックレンズ。
図1
図2
図3
図4