(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブレーキローラは、自身の回転を規制する力を発生させる回転抵抗発生手段を有し、前記媒体が前記媒体搬送機構により搬送される際に、該回転抵抗発生手段が該回転を規制する力を発生させることによって、該媒体に戻り方向の張力を付与すること
を特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
前記引張ローラは、回転力制限手段を介してモータによって駆動され、該回転力制限手段が該モータから該引張ローラへの伝達トルクを常に一定に制限して伝達することによって、前記媒体に常に一定の送り方向の張力を付与すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載のインクジェット記録装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に例示される構成においては、高速印刷のために記録ヘッドを大型化すると、空中搬送距離が大きくなり、媒体が自重で撓んで記録ヘッドとのギャップが増すことによって画質が悪化してしまうという課題があった。
【0007】
その一方で、当該課題を解決するために媒体に付与する張力を増加させると、ピンチローラによる媒体搬送時において、下流のローラによる過大な張力が媒体に付与され、当該ピンチローラによる正確な搬送ができなくなってしまうという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、媒体の空中搬送距離が大きい場合でも、媒体に所望の張力を付与することができ、それによって記録ヘッドと媒体とのギャップを適正に保持することができ、高画質の記録が可能なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
開示のインクジェット記録装置は、媒体に液体を吐出する記録ヘッドと、前記媒体を挟持して所定の搬送方向に該媒体を搬送する媒体搬送機構と、前記搬送方向における前記媒体搬送機構の下流に設けられ、該媒体に一定の送り方向の張力を付与する引張ローラと、前記搬送方向における前記媒体搬送機構の上流に設けられ、該媒体に一定の戻り方向の張力を付与するブレーキローラと、
を備え、前記媒体搬送機構と前記引張ローラとの間で、前記媒体は空中を搬送されると共に、該媒体に対して前記記録ヘッドから液体が吐出されて記録が行われることを特徴とする。これによれば、空中搬送される媒体に付与する張力を増すことができるため、媒体における撓み、歪み、皺等の発生が抑制できる。また、記録ヘッドと媒体との間のギャップ(離間距離)が媒体の自重で大きくなってしまうことが抑制でき、適正なギャップに保持できるため、印刷の画質を向上させることが可能となる。さらに、媒体搬送機構の上流にブレーキローラを備え、媒体に対して一定の戻り方向の張力を付与する構成によって、送り搬送時に引張ローラのトルクが過大となることによって所定距離以上に媒体が搬送されてしまうことを防止できるため、より一層、印刷の画質を向上させることが可能となる。また、この構成によれば、上流に多くのローラを設けて媒体に張力を付与する必要がないため、装置をコンパクトにできる効果も得られる。
【0011】
また、本発明において、前記ブレーキローラは、自身の回転を規制する力を発生させる回転抵抗発生手段を有し、前記媒体が前記媒体搬送機構により搬送される際に、該回転抵抗発生手段が該回転を規制する力を発生させることによって、該媒体に戻り方向の張力を付与することが好ましい。特に、回転抵抗発生手段として、回転に際し一定の力が必要なトルクリミッタを設けることが好適である。これによれば、モータ等を用いて構成する場合と比べ、一定のトルクでスリップするスリップクラッチにより回転の規制力を発生させることができるため、稼働に電力や制御装置が不要となり、簡便で低コストの装置が実現できる。
【0012】
また、本発明において、前記引張ローラは、回転力制限手段を介してモータによって駆動され、該回転力制限手段が該モータから該引張ローラへの伝達トルクを常に一定に制限して伝達することによって、前記媒体に常に一定の送り方向の張力を付与することが好ましい。特に、回転力制限手段として、トルクリミッタを設けることが好適である。これによれば、トルクリミッタによって媒体に常に一定の張力を付与することができるため、モータ等を用いて構成する場合と比べ、制御装置等を設ける必要がなく、簡便で低コストの装置が実現できる。
【0013】
また、本発明において、前記搬送方向における前記ブレーキローラの上流と下流とに形成される前記媒体の搬送経路のなす角は90度以下であることが好ましい。これによれば、ローラ円周の四分の一以上が媒体と接触することとなり、ブレーキローラと接触する媒体の接触面積を十分に確保することができるため、媒体のスリップが発生することなく、ブレーキローラによって媒体に戻り方向の張力を安定して付与することが可能となる。
【0014】
また、本発明において、前記搬送方向における前記ブレーキローラの上流および前記引張ローラの下流のそれぞれに自重によって前記媒体に張力を付与する張力付与手段が設けられていることが好ましい。これによれば、引張ローラおよびブレーキローラのみでは媒体に付与する張力が不足する場合等において、媒体に付与する張力を増加させることが可能となる。したがって、媒体における撓み、歪み、皺等の発生を抑制する効果を高めることができるため、より一層、高画質の印刷が可能となる。
【0015】
また、本発明において、前記引張ローラおよび前記ブレーキローラは、表面に樹脂起毛シートが巻設されていることが好ましい。これによれば、引張ローラおよびブレーキローラと媒体との接触における接触抵抗を増加させることができるため、媒体のスリップ発生を抑制して、引張ローラおよびブレーキローラによって安定して張力を付与することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
開示のインクジェット記録装置によれば、媒体の空中搬送距離が大きい場合でも、媒体に所望の張力を付与することができ、それによって記録ヘッドと媒体とのギャップを適正に保持することができるため、高画質の記録を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の概略斜視図(正面方向)を示す。また、
図2に、当該インクジェット記録装置1の概略斜視図(背面方向)を示す。また、
図3に、当該インクジェット記録装置1の概略正面図(部分拡大図)を示す。また、
図4に、当該インクジェット記録装置1の概略側面図(断面図)を示す。説明の便宜上、各図において矢印方向でインクジェット記録装置1の前後、左右、および上下方向を示す。
なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0019】
インクジェット記録装置1は、布や樹脂シート(例えば、塩化ビニル、ポリエステル等からなる)等のシート状の媒体Mの記録面(印刷面)に対して液体(ここでは、インク)を吐出することにより文字や図形等の印刷加工を行う装置である。概略構成として、横長矩形箱状の本体部2と、この本体部2を作業容易な高さ位置に支持する支持部3とからなり、支持部3を構成する左右の脚部3aの前後には、ロール状に巻かれた未加工状態(印刷加工前)の媒体Mを本体部2に繰り出す媒体繰出し機構4、および印刷が終了した媒体Mを巻き取る媒体巻取り機構5が設けられている。
【0020】
本体部2は、各機構の取り付けベースとなるボディ10と、所定位置において媒体Mを支持する媒体支持部20と、媒体支持部20に支持された媒体Mを前後に移動させる媒体搬送機構30と、媒体支持部20の上方に位置して左右に移動自在に支持されたキャリッジ40と、空中搬送された媒体Mに対してキャリッジ40を左右に相対移動させるキャリッジ移動機構50と、媒体Mと所定ギャップでキャリッジ40に保持された複数の記録ヘッド60と、媒体搬送機構30による媒体Mの前後移動、キャリッジ移動機構50によるキャリッジ40の左右移動、および記録ヘッド60の各ノズル(不図示)からのインク噴射など、インクジェット記録装置1の各部の作動を制御するコントロールユニット70とから構成される。
【0021】
ここで、ボディ10は、媒体支持部20や媒体搬送機構30の送りローラ等が設けられる下部フレーム11bと、媒体搬送機構30のローラアッセンブリやキャリッジ40の支持構造が設けられる上部フレーム11aとからなる本体フレーム11を備え、上部フレーム11aと下部フレーム11bとの間に媒体Mが前後に挿通可能な横長窓状の媒体挿通部15が形成される。ボディ10は、本体フレーム11の中央部を覆うフロントカバー13aおよび左右を覆うサイドカバー13bに囲まれて全体として横長矩形の箱状に構成される。
【0022】
また、本実施形態に係る媒体支持部20は、媒体Mの搬送経路におけるブレーキローラ8(後述)と媒体搬送機構30との間の位置に設けられており、当該位置において媒体Mを支持すると共に、媒体搬送機構30に向けて媒体Mを水平に送り出す作用をなすものである。なお、媒体支持部20の上面である媒体支持面は、前端側から後端側にかけて滑らかな曲線状に形成されており、必要に応じて、媒体Mを吸着保持する機構を設けてもよい。
【0023】
媒体搬送機構30は、左右に延びる回動軸廻りに回動可能に設けられた円筒状の送りローラ31と、当該送りローラ31に弾性的に係合させた複数のピンチローラ36とを備えて構成され、媒体Mを上下のローラ36、31間に挟み込んだ状態で、送りローラ31を回動させることにより媒体Mが送りローラ31の回転角度に応じた送り量、すなわちコントロールユニット70から出力される駆動制御値に応じた送り量で所定方向に搬送される。
ここで、駆動のための機構としては、送りローラ31を回転駆動するサーボモータ33と、送りローラ31の軸端に結合された従動プーリとサーボモータ33の軸端に結合された駆動プーリとの間に掛け渡されたタイミングベルト32等を備えて構成される。
【0024】
本実施形態においては、
図4に示すように、媒体Mは媒体搬送機構30と引張ローラ7との間で空中を搬送されると共に、当該媒体Mに対して記録ヘッド60からインクが吐出されて印刷が行われる。このとき、引張ローラ7およびブレーキローラ8によって、媒体には常に一定の張力が付与される(詳細は後述する)。なお、媒体Mの搬送方向を矢印Aにより示す。
【0025】
一方、上部フレーム11aには、送りローラ31と平行に左右に延びてガイドレール45が取り付けられ、このガイドレール45に記録ヘッド60を保持するキャリッジ40が左右に移動自在に支持されている。ガイドレール45は直動軸受の支持レールであり、このガイドレール45に嵌合されたスライドブロックにキャリッジ40が固定されて左右にスライド移動自在に支持され、キャリッジ移動機構50により左右に移動される。
【0026】
キャリッジ移動機構50は、ガイドレール45の左右の側端近傍に設けられた駆動プーリ51および従動プーリ52と、駆動プーリ51を回転駆動するサーボモータ53と、駆動プーリ51と従動プーリ52とに掛け渡された無端ベルト状のタイミングベルト55とからなり、キャリッジ40がタイミングベルト55に連結固定されて構成される。サーボモータ53の回転はコントロールユニット70により制御され、コントロールユニット70からサーボモータ53に出力される駆動制御値に応じた送り量でキャリッジ40が左右に移動される。
【0027】
記録ヘッド60は、キャリッジ40の下面に媒体Mと所定ギャップを隔てて設けられる。記録ヘッド60の配置構成には種々の構成形態があり適宜な構成を用いることができるが、本実施形態では、各々微細なインク粒を噴射する多数のノズルが前後方向に直線状に整列したノズル列が平行に並んで形成された記録ヘッド60を、前後方向および左右方向のそれぞれに四つずつ並べて合計八個が配設されたヘッド構成を例示する。
【0028】
なお、
図4中の符号25は、インク受け部であり、例えば、媒体Mとして布を用いた場合において、記録ヘッド60から吐出されて当該媒体Mを通過したインクを貯留して、排出させる機能を有する。
【0029】
コントロールユニット70は、媒体搬送機構30による媒体Mの前後移動、キャリッジ移動機構50によるキャリッジ40の左右移動、記録ヘッド60の各ノズルからのインク噴射、後述する媒体繰出し機構4による未加工状態の媒体Mの繰出し作動や媒体巻取り機構5による印刷が終了した媒体Mの巻取り作動など、インクジェット記録装置1の各部の作動を制御する制御装置である。コントロールユニット70は、媒体搬送機構30による媒体Mの前後移動と、キャリッジ移動機構50によるキャリッジ40の左右移動とを組み合わせて媒体Mと記録ヘッド60とを相対移動させ、記録ヘッド60の各ノズルから媒体Mにインクを吐出させて、加工プログラムに応じた文字や図形等の印刷加工を行う。
【0030】
コントロールユニット70は、ボディ10の右側上部に設けられており、ボディ前方から操作可能に配設された操作パネル75に、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ、設定する機能を選択するファンクションキー、実行内容を選択するジョグキー、選択内容を入力するエンターキーや設定を消去するクリアキーなどの各種操作ボタンを備えている。このため、オペレータが液晶ディスプレイの表示内容を確認しながらプリント条件を設定し、印刷加工を実行させることができるようになっている。
【0031】
コントロールユニット70の下方に位置して電源スイッチ6が設けられている。電源スイッチ6は、外部から供給される電力をコントロールユニット70に供給してインクジェット記録装置1を印刷可能な起動状態にするオン位置と、コントロールユニット70への電力供給を遮断してインクジェット記録装置1を停止状態にするオフ位置とに選択的に切り換えるスイッチであり、例えば、ワンプッシュごとにオン位置とオフ位置とに切り替わるオルタネートタイプのスイッチが用いられる。
【0032】
ここで、本実施形態に特徴的な引張ローラ7およびブレーキローラ8について説明する(
図1、2、4参照)。
【0033】
引張ローラ7は、媒体Mの搬送方向における媒体搬送機構30の下流、より詳しくは、媒体搬送機構30と、印刷加工が終了した媒体Mを巻き取る媒体巻取り機構5(詳細は後述)との間に設けられ、媒体Mに一定の送り方向の張力を付与するローラである。
【0034】
本実施形態に係る引張ローラ7は、回転力制限手段37を介してモータ39によって駆動される構成を備えている。
ここで、本実施形態に係る回転力制限手段37として、トルクリミッタを用いることができる。当該トルクリミッタ37は、一例として
図5に示すように、入力軸37aにモータ39が連結されると共に、出力軸37bに引張ローラ7の端部に設けられたギア7aが連結される構成を備えている。その作用として、モータ39による一定の回動力が入力軸37aに入力された際に、当該入力軸37aに対して出力軸37bが常にスリップを生じながら、出力軸37bすなわちギア7bに常に一定の回動力を付与することが可能となる。したがって、引張ローラ7によって媒体Mに対して一定の送り方向の張力を付与することが可能となる。また、その際に、当該トルクリミッタ37はモータ39から引張ローラ7への伝達トルクを可変とすることができる構成であり、媒体Mの材質等に応じて適切に調整することが可能である。
【0035】
このように、トルクリミッタを採用することによって、モータ等を用いて構成する場合と比べ、稼働に制御装置が不要となり、簡便で低コストの装置が実現できる。ただし、回転力制限手段は、上記の構成に限定されるものではなく、他の構成としてもよい。
【0036】
一方、ブレーキローラ8は、媒体Mの搬送方向における媒体搬送機構30の上流、より詳しくは、媒体搬送機構30と、未加工状態の媒体Mを繰り出して本体部2に導入する媒体繰出し機構4(詳細は後述)との間に設けられ、媒体Mに一定の戻り方向の張力を付与するローラである。
【0037】
本実施形態に係るブレーキローラ8は、自身の回転を規制する力を発生させる回転抵抗発生手段38を有している。これによれば、媒体Mが媒体搬送機構30により搬送される際に、回転抵抗発生手段38が回転を規制する力を発生させることによって、媒体Mに戻り方向の張力を付与することができる。
ここで、本実施形態に係る回転抵抗発生手段38として、トルクリミッタを用いることができる。当該トルクリミッタ38には、上記の引張ローラ8に設けられたものと同様の構成を採用することができる。一例として
図6に示すように、出力軸38bが本体部2に連結固定されると共に、入力軸38aがブレーキローラ8に連結される構成を備えている。その作用として、ブレーキローラ8の回転時において、固定された出力軸38bに対して入力軸38aが常にスリップを生じながら、入力軸38aすなわちブレーキローラ8の回転を規制する一定の力を発生させることが可能となる。したがって、ブレーキローラ8によって媒体Mに対して一定の戻り方向の張力を付与することが可能となる。また、その際に、当該トルクリミッタ38はブレーキローラ8の回転を規制する力を可変とすることができる構成であり、媒体Mの材質等に応じて適切に調整することが可能である。
【0038】
前記引張ローラ7の場合と同様に、ブレーキローラ8にトルクリミッタを採用することによって、モータ等を用いて構成する場合と比べ、稼働に電力や制御装置が不要となり、簡便で低コストの装置が実現できる。ただし、回転抵抗発生手段38は、上記の構成に限定されるものではなく、他の構成としてもよい。
【0039】
上記構成によれば、前述の通り、媒体搬送機構30と引張ローラ7との間で空中を搬送される媒体Mに対して記録ヘッド60からインクが吐出されて印刷が行われる際に、引張ローラ7およびブレーキローラ8によって、媒体Mに常に一定の張力を付与することが可能となる。
したがって、媒体Mの空中搬送距離が大きい場合であっても、空中搬送中の媒体Mにおいて撓み、歪み、皺等が発生することを抑制できる。また、記録ヘッド60と媒体Mとの間のギャップ(離間距離)が媒体Mの自重で大きくなってしまうことが抑制でき、適正なギャップに保持できるため、印刷の画質を向上させることが可能となる。
また、媒体Mの空中搬送距離を大きく設定することができることによって、記録ヘッド60を大型化することが可能となり、印刷速度を大幅に向上させることが可能となる。
【0040】
さらに、上記構成によれば、単に媒体搬送機構30の下流に引張ローラ7のみを備えて媒体Mに張力を印加する構成とした場合に生じ得る課題、すなわち、送り搬送時に引張ローラ7のトルクが過大となることによって、媒体搬送機構30による所定の搬送量がコントロールできずに所定距離以上に媒体Mが搬送されてしまうという課題を解決することができる。これは、媒体搬送機構30の上流にブレーキローラ8を備え、媒体Mに対して一定の戻り方向の張力を付与することが可能となるからである。その結果、より一層、印刷の画質を向上させることが可能となる。
また、上流に多くのローラを設けて媒体に張力を付与する必要がないため、装置をコンパクトにできるという効果も得られる。
【0041】
なお、搬送方向におけるブレーキローラ8の上流と下流とに形成される媒体Mの搬送経路のなす角θは、θ≦90[°]であることが好ましい。そのために、ブレーキローラ8の位置、媒体支持部20の位置・高さ、および第3のガイドローラ103(後述)の位置が最適となるように配設されている。これによれば、ブレーキローラ8のローラ円周の四分の一以上が媒体Mと接触することとなり、当該ブレーキローラと接触する媒体Mの接触面積を十分に確保することができるため、媒体Mのスリップが発生することなく、ブレーキローラ8によって媒体Mに戻り方向の張力を安定して付与することが可能となる。
【0042】
また、引張ローラ7およびブレーキローラ8は、表面に樹脂起毛シートが巻設された構成とすることが好ましい。これによれば、引張ローラ7およびブレーキローラ8と媒体Mとの接触における接触抵抗を増加させることができるため、媒体Mのスリップ発生を抑制して、引張ローラ7およびブレーキローラ8によって安定して張力を付与することが可能となる。
なお、引張ローラ7およびブレーキローラ8における表面構成の変形例として、当該表面を微細な凹凸を多数持つ梨地状に形成する構成としてもよい(不図示)。
【0043】
次に、未加工状態の媒体Mを繰り出してブレーキローラ8に向けて導入する媒体繰出し機構4、および印刷加工が終了した媒体Mを巻き取る媒体巻取り機構5について説明する。
【0044】
図2、4に示すように、媒体繰出し機構4は、未加工状態の媒体Mが周囲にロール状に巻かれた筒状の巻管81を回転自在かつ着脱可能に支持する支持手段80と、巻管81とブレーキローラ8との間の媒体Mに搬送方向と反対の方向のテンション(張力)を付与する第1の張力付与手段90と、巻管81から供給される媒体Mをブレーキローラ8にスムーズに導く複数のガイドローラ(本実施形態においては第1のガイドローラ101、第2のガイドローラ102、第3のガイドローラ103)とから構成される。
これによれば、ブレーキローラ8のみでは媒体Mに付与する張力が不足する場合等において、媒体Mに付与する張力を増加させることができ、媒体Mにおける撓み、歪み、皺等の発生を抑制する効果を高めることができる。ただし、変形例として、第1の張力付与手段90を設けない構成としてもよい(不図示)。
【0045】
支持手段80は、左右の脚部3aの後側下方に配設される左右一対の箱状の本体部材82と、左右の本体部材82に架設され巻管81に抜き差し自在に挿通して巻管81と一体に回転される棒状の供給軸83と、左右の本体部材82内に配設され供給軸83の両端を回転自在かつ着脱自在に支持する左右一対の軸受け部84と、供給軸83を回転駆動するステッピングモータ85と、供給軸83の軸端に結合された従動プーリとステッピングモータ85の軸端に結合された駆動プーリとの間に掛け渡されたタイミングベルト86とから構成される(
図7参照)。
【0046】
ステッピングモータ85は、その回転がコントロールユニット70により制御され、コントロールユニット70からステッピングモータ85に出力される駆動制御値に応じてタイミングベルト86を介して供給軸83を回動させる。供給軸83を巻管81内に挿通して左右の本体部材82(軸受け部84)間を略水平に左右に延びて支持された未加工状態の媒体Mは、供給軸83の回転角度に応じた繰出し量、すなわちコントロールユニット70からステッピングモータ85に出力される駆動制御値に応じた繰出し量(繰出し速度)で繰り出される。
【0047】
第1の張力付与手段90は、巻管81からブレーキローラ8に向けて繰り出される媒体Mの中途部内側に左右に横断して抱持される円柱状のテンションバー91と、左右の本体部材82の外側面から左右に延びる揺動軸に基端部が支持され上下に揺動自在な左右一対の支持アーム92とからなり、左右の支持アーム92の先端部にテンションバー91の両端が回転自在に支持されて構成される。テンションバー91および左右の支持アーム92は、媒体Mの巻管81からの繰出し量および媒体支持部20への導入量に応じて自重により下方に揺動し、テンションバー91を媒体Mの内側に抱持させて媒体Mを屈曲させ、テンションバー91とブレーキローラ8との間の媒体Mに対して搬送方向と反対の方向にテンションバー91の高さ位置、すなわち支持アーム92の揺動位置に応じた張力を付与するようになっている。
【0048】
支持アーム92の基端部(揺動軸)には、ロータリエンコーダ93が設けられており、このロータリエンコーダ93により支持アーム92の揺動角度(揺動軸の回転角度)に応じたパルス信号がコントロールユニット70に出力される。また、支持アーム92には、支持アーム92の所定の揺動位置を検出するための位置センサ94が設けられており、この位置センサ94により支持アーム92が所定の揺動位置にあるか否かを示す信号がコントロールユニット70に出力される。
【0049】
位置センサ94は、本体部材82の外側面に支持アーム92と対向して設けられる透過型のフォトセンサ95、および支持アーム92の内側面(本体部材82と対向する面)から本体部材82に向って延びるプレート状の遮蔽板96から構成され、フォトセンサ95が遮蔽板96の有無を検出することで支持アーム92が所定の揺動位置にあるか否かを検出する。なお、本実施形態における位置センサ94では、支持アーム92が上揺動位置に位置した状態を検出する上フォトセンサ95a、および下揺動位置に位置した状態を検出する下フォトセンサ95bが本体部材82の外側面に配設されている。さらに、支持アーム92が上限揺動位置に位置した状態を検出する上限フォトセンサ95c、および下限揺動位置に位置した状態を検出する下限フォトセンサ95dの計4つのフォトセンサ95a〜95dが本体部材82の外側面に配設されている。
【0050】
ここで、上限揺動位置および下限揺動位置とは、支持アーム92(テンションバー91)が揺動によってインクジェット記録装置1の一部等と接触する直前の位置、すなわち接触によるテンションバー91の破損等の防止を考慮した揺動限界位置を意味しており、支持アーム92の揺動は上限揺動位置と下限揺動位置との間の範囲内に規制される。上揺動位置および下揺動位置は、この上限揺動位置と下限揺動位置との間の範囲内に任意に設定することが可能であり、本実施形態では、支持アーム92は上揺動位置と下揺動位置との中間揺動位置である所定位置に保持される。なお、当該所定位置は、上下フォトセンサ95a、95bの配設位置を変更させることにより任意に設定可能である。
【0051】
一方、
図1、4に示すように、媒体巻取り機構5は、基本的に媒体繰出し機構4と同様に構成され、印刷加工が終了した媒体Mを周囲にロール状に巻かれる筒状の巻管111を回転自在かつ着脱可能に支持する支持手段110と、引張ローラ7と巻管111との間で媒体Mに搬送方向のテンション(張力)を付与する第2の張力付与手段120と、引張ローラ7から送出される媒体Mを巻管111に導く複数のガイドローラ(本実施形態においては第4のガイドローラ104、第5のガイドローラ105)とから構成される。
これによれば、引張ローラ7のみでは媒体Mに付与する張力が不足する場合等において、媒体Mに付与する張力を増加させることができ、媒体Mにおける撓み、歪み、皺等の発生を抑制する効果を高めることができる。ただし、変形例として、第2の張力付与手段120を設けない構成としてもよい(不図示)。
【0052】
支持手段110は、左右の脚部3aの前側下方に配設される左右一対の箱状の本体部材112と、左右の本体部材112に架設され巻管111に抜き差し自在に挿通して巻管111と一体に回転される棒状の巻取り軸113と、左右の本体部材112内に配設されて巻取り軸113の両端を回転自在かつ着脱自在に支持する左右一対の軸受け部114と、巻取り軸113を回転駆動するステッピングモータ115と、巻取り軸113の軸端に結合された従動プーリとステッピングモータ115の軸端に結合された駆動プーリとの間に掛け渡されたタイミングベルト116とから構成される(
図7参照)。
【0053】
ステッピングモータ115は、その回転がコントロールユニット70により制御され、コントロールユニット70からステッピングモータ115に出力される駆動制御値に応じてタイミングベルト116を介して巻取り軸113を回動させる。印刷加工が終了して引張ローラ7から送出される媒体Mは、左右の本体部材112(軸受け部114)間を略水平に左右に延びて支持された巻管111の周囲に巻取り軸113の回転角度に応じた巻取り量、すなわちコントロールユニット70からステッピングモータ115に出力される駆動制御値に応じた巻取り量(巻取り速度)で巻き取られる。
【0054】
第2の張力付与手段120は、引張ローラ7から送出されて巻管111に巻き取られる媒体Mの中途部内側に左右に横断して抱持される円柱状のテンションバー121と、左右の本体部材112の外側面から左右に延びる揺動軸に基端部が支持され上下に揺動自在な左右一対の支持アーム122とからなり、左右の支持アーム122の先端部にテンションバー121の両端が回転自在に支持されて構成される。テンションバー121および左右の支持アーム122は、媒体Mの引張ローラ7からの送出量および巻管111への巻取り量に応じて自重により下方に揺動し、テンションバー121を媒体Mの内側に抱持させて媒体Mを屈曲させ、引張ローラ7とテンションバー121との間の媒体Mに対して搬送方向にテンションバー121の高さ位置、すなわち支持アーム122の揺動位置に応じた張力を付与するようになっている。
【0055】
支持アーム122の基端部(揺動軸)には、ロータリエンコーダ123が設けられており、このロータリエンコーダ123により支持アーム122の揺動角度(揺動軸の回転角度)に応じたパルス信号がコントロールユニット70に出力される。また、支持アーム122には、支持アーム122の所定の揺動位置を検出するための位置センサ124が設けられており、この位置センサ124により支持アーム122が所定の揺動位置にあるか否かを示す信号がコントロールユニット70に出力される。なお、位置センサ124は、上記位置センサ94と同様に、本体部材112の外側面に支持アーム122と対向して設けられる4つのフォトセンサ125(上フォトセンサ125a、下フォトセンサ125b、上限フォトセンサ125cおよび下限フォトセンサ125d)、および支持アーム122の内側面(本体部材112と対向する面)から本体部材112に向って延びるプレート状の遮蔽板126から構成され、支持アーム122は上揺動位置と下揺動位置との中間揺動位置である所定位置に保持される。
【0056】
以上説明した通り、開示のインクジェット記録装置1によれば、媒体Mの空中搬送距離が大きい場合でも、媒体Mに所望の張力を付与することができ、それによって記録ヘッド60と媒体Mとのギャップを適正に保持することができるため、高画質の記録を行うことが可能となる。
【0057】
また、特に、本実施形態によって以下の特徴的な作用効果が奏される。
【0058】
開示のインクジェット記録装置1は、媒体Mにインクを吐出する記録ヘッド60と、媒体Mを挟持して所定の搬送方向に当該媒体Mを搬送する媒体搬送機構30と、搬送方向Aにおける媒体搬送機構30の下流に設けられ、媒体Mに一定の送り方向の張力を付与する引張ローラ7と、搬送方向Aにおける媒体搬送機構30の上流に設けられ、媒体Mに一定の戻り方向の張力を付与するブレーキローラ8と、
を備え、媒体搬送機構30と引張ローラ7との間で、媒体Mは空中を搬送されると共に、当該媒体Mに対して記録ヘッド60からインクが吐出されて記録が行われることを特徴とする。これによれば、空中搬送される媒体Mに付与する張力を増すことができるため、媒体Mにおける撓み、歪み、皺等の発生が抑制できる。また、記録ヘッド60と媒体Mとの間のギャップ(離間距離)が媒体Mの自重で大きくなってしまうことが抑制でき、適正なギャップに保持できるため、印刷の画質を向上させることが可能となる。さらに、媒体搬送機構30の上流にブレーキローラ8を備え、媒体Mに対して一定の戻り方向(矢印Aと反対の方向)の張力を付与する構成によって、送り搬送時に引張ローラ7のトルクが過大となることによって所定距離以上に媒体Mが搬送されてしまうことを防止できるため、より一層、印刷の画質を向上させることが可能となる。また、この構成によれば、上流に多くのローラを設けて媒体に張力を付与する必要がないため、装置をコンパクトにできる効果も得られる。
【0059】
また、ブレーキローラ8は、自身の回転を規制する力を発生させる回転抵抗発生手段38を有し、媒体Mが媒体搬送機構30により搬送される際に、当該回転抵抗発生手段38が当該回転を規制する力を発生させることによって、媒体Mに戻り方向の張力を付与することが好ましい。特に、回転抵抗発生手段38として、回転に際し一定の力が必要なトルクリミッタを設けることが好適である。これによれば、モータ等を用いて構成する場合と比べ、一定のトルクでスリップするスリップクラッチにより回転の規制力を発生させることができるため、稼働に電力や制御装置が不要となり、簡便で低コストの装置が実現できる。
【0060】
また、引張ローラ7は、回転力制限手段37を介してモータ39によって駆動され、当該回転力制限手段37がモータ39から引張ローラ7への伝達トルクを常に一定に制限して伝達することによって、媒体Mに常に一定の送り方向の張力を付与することが好ましい。特に、回転力制限手段37として、トルクリミッタを設けることが好適である。これによれば、トルクリミッタによって媒体Mに常に一定の張力を付与することができるため、モータ等を用いて構成する場合と比べ、制御装置等を設ける必要がなく、簡便で低コストの装置が実現できる。
【0061】
また、搬送方向Aにおけるブレーキローラ8の上流と下流とに形成される媒体Mの搬送経路のなす角θは、θ≦90[°]であることが好ましい。これによれば、ローラ円周の四分の一以上が媒体Mと接触することとなり、ブレーキローラ8と接触する媒体Mの接触面積を十分に確保することができるため、媒体Mのスリップが発生することなく、ブレーキローラ8によって媒体Mに戻り方向の張力を安定して付与することが可能となる。
【0062】
また、搬送方向Aにおけるブレーキローラ8の上流および引張ローラ7の下流のそれぞれに自重によって媒体Mに張力を付与する張力付与手段90、120が設けられていることが好ましい。これによれば、引張ローラ7およびブレーキローラ8のみでは媒体Mに付与する張力が不足する場合等において、媒体Mに付与する張力を増加させることが可能となる。したがって、媒体Mにおける撓み、歪み、皺等の発生を抑制する効果を高めることができるため、より一層、高画質の印刷が可能となる。
【0063】
また、引張ローラ7およびブレーキローラ8は、表面に樹脂起毛シートが巻設されていることが好ましい。これによれば、引張ローラ7およびブレーキローラ8と媒体Mとの接触における接触抵抗を増加させることができるため、媒体Mのスリップ発生を抑制して、引張ローラ7およびブレーキローラ8によって安定して張力を付与することが可能となる。
【0064】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。