特許第6040552号(P6040552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040552バキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040552
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】バキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/10 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   E02D3/10 101
   E02D3/10 102
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-78416(P2012-78416)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204413(P2013-204413A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】森尾 義彦
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−303095(JP,A)
【文献】 特開2007−100401(JP,A)
【文献】 特開平10−168985(JP,A)
【文献】 特開2004−124692(JP,A)
【文献】 特開2007−303270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端が被圧帯水層に位置するように地盤内に配置された井戸管の内部空間を真空ポンプで減圧しつつ、該井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を前記井戸管の底部近傍に設置された水中ポンプで揚水することで、掘削空間への地下水湧出又は該掘削空間の底面における盤膨れを防止可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法において、
一端が大気に他端が前記被圧帯水層にそれぞれ連通するようにかつ前記被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように前記地盤であって前記掘削空間の外側空気導入管を配置するとともに、前記真空ポンプの作動によって前記被圧帯水層に形成された負圧領域に前記空気導入管を介して空気を自然流入させることにより、前記被圧帯水層のうち、前記井戸管から見て前記空気導入管よりも以遠の領域における負圧を減少させることを特徴とするバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法。
【請求項2】
前記空気導入管から水平方向に離間した位置であって前記井戸管と反対の側となるように前記地盤に配置された注水管を介して前記被圧帯水層への注水を行う請求項1記載のバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法。
【請求項3】
地盤内の被圧帯水層に下端が位置するように該地盤に配置された井戸管と、該井戸管の内部空間を減圧する真空ポンプと、前記井戸管の底部近傍に設置された水中ポンプと、該水中ポンプに接続され前記井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を揚水する揚水管とを備えてなり、前記井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を揚水することで、掘削空間への地下水湧出又は該掘削空間の底面における盤膨れを防止可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムにおいて、
一端が大気に他端が前記被圧帯水層にそれぞれ連通するようにかつ前記被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように前記地盤であって前記掘削空間の外側に配置された空気導入管を備えるとともに、前記真空ポンプの作動によって前記被圧帯水層に形成された負圧領域に前記空気導入管を介して空気を自然流入させることにより、前記被圧帯水層のうち、前記井戸管から見て前記空気導入管よりも以遠の領域における負圧を減少させるように構成したことを特徴とするバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システム。
【請求項4】
前記空気導入管から水平方向に離間した位置であって前記井戸管と反対の側において下端が被圧帯水層に位置するように前記地盤に配置された注水管を備えた請求項3記載のバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として掘削工事の際に地下水位を低下させることを目的として適用されるバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築構造物の基礎や地下鉄等の地下構造物を構築するにあたっては、掘削底面や側面から地下水が湧出しないよう、あるいは掘削底面で盤膨れが生じないように事前の対策を講ずることが不可欠であり、その対策として、掘削底面あるいはその近傍から地下水を排水することで地下水位を下げる、いわゆる地下水位低下工法が従来から広く採用されている。
【0003】
地下水位低下工法は重力排水工法と強制排水工法に概ね大別され、前者の工法としてはディープウェル工法(深井戸工法)が、後者の工法としてはウェルポイント工法がそれらの典型的な工法として挙げられる。
【0004】
ここで、ディープウェル工法は、井戸内に流入した地下水を該井戸の底部近傍に設置された水中ポンプで揚水するものであるため、透水性の高い地盤であれば、数十mの水位低下が可能である。
【0005】
それに対し、ウェルポイント工法は、真空ポンプで減圧をかけることにより生じた大気圧との圧力差で地下水を吸引するものであるため、原理的には約10m、実際には減圧の程度に限度があるため、その半分程度となるが、大気圧との圧力差で強制的に排水を行うものであることから、透水性が低い地盤にも適用することが可能である。
【0006】
一方、上述した2つの工法を併用したバキュームディープウェルと呼ばれる工法があり、ディープウェル工法に真空ポンプによる減圧を併用することで、両者の長所を生かしつつ、さらなる水位低下が可能になる。
【0007】
また、かかるバキュームディープウェル工法では、地下水の水位低下が進行し過ぎると、井戸の内部空間が地盤内の土粒子間空隙と連通して井戸内に空気が入り込む状態となり、減圧作用が低下してしまう懸念があるが、水位が低下しても井戸内の減圧状態が維持できるように構成された改良型のバキュームディープウェル工法も開発されており、例えば地下水流入部を二重管としたスーパーウェルポイント工法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−27170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、バキュームディープウェル工法、特に改良型のバキュームディープウェル工法によれば、さまざまな地盤に対して十分な水位低下を実現できるものの、被圧帯水層に適用した場合には、広い範囲にわたって地盤沈下を招くことが実際の現場で確認されている。
【0010】
そして、かかる事態は、周辺環境に不測の被害を発生させるとともに、それを回避しようとすると、工事領域において地下水位を十分に低下させることができず、結果として地下水の湧出や盤膨れが生じるという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、掘削領域においては十分な地下水位の低下を実現しながら、掘削領域から離隔した周辺領域においては地盤沈下を抑制することが可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステムを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法は請求項1に記載したように、下端が被圧帯水層に位置するように地盤内に配置された井戸管の内部空間を真空ポンプで減圧しつつ、該井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を前記井戸管の底部近傍に設置された水中ポンプで揚水することで、掘削空間への地下水湧出又は該掘削空間の底面における盤膨れを防止可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法において、
一端が大気に他端が前記被圧帯水層にそれぞれ連通するようにかつ前記被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように前記地盤であって前記掘削空間の外側空気導入管を配置するとともに、前記真空ポンプの作動によって前記被圧帯水層に形成された負圧領域に前記空気導入管を介して空気を自然流入させることにより、前記被圧帯水層のうち、前記井戸管から見て前記空気導入管よりも以遠の領域における負圧を減少させるものである。
【0013】
また、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法は、前記空気導入管から水平方向に離間した位置であって前記井戸管と反対の側となるように前記地盤に配置された注水管を介して前記被圧帯水層への注水を行うものである。
【0014】
また、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムは請求項3に記載したように、地盤内の被圧帯水層に下端が位置するように該地盤に配置された井戸管と、該井戸管の内部空間を減圧する真空ポンプと、前記井戸管の底部近傍に設置された水中ポンプと、該水中ポンプに接続され前記井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を揚水する揚水管とを備えてなり、前記井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を揚水することで、掘削空間への地下水湧出又は該掘削空間の底面における盤膨れを防止可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムにおいて、
一端が大気に他端が前記被圧帯水層にそれぞれ連通するようにかつ前記被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように前記地盤であって前記掘削空間の外側に配置された空気導入管を備えるとともに、前記真空ポンプの作動によって前記被圧帯水層に形成された負圧領域に前記空気導入管を介して空気を自然流入させることにより、前記被圧帯水層のうち、前記井戸管から見て前記空気導入管よりも以遠の領域における負圧を減少させるように構成したものである。
【0015】
また、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムは、前記空気導入管から水平方向に離間した位置であって前記井戸管と反対の側において下端が被圧帯水層に位置するように前記地盤に配置された注水管を備えたものである。
【0016】
バキュームディープウェル工法は、井戸管内の空気圧を真空ポンプで減圧することで該井戸管内を大気圧よりも低い圧力(負圧)に維持しながら、井戸管の底部近傍に設置した水中ポンプで地下水を揚水するものであって、吸引による強制排水作用とディープウェルによる重力排水作用とが相乗することにより、掘削工事に必要な地下水位の低下を様々な地盤に対して十分に実現させることが可能であるが、被圧帯水層の場合には、井戸周辺の広い範囲にわたって地盤沈下が生じることは上述の通りである。
【0017】
本出願人は、バキュームディープウェル工法を被圧帯水層に適用した場合、井戸管内の減圧操作が広い範囲にわたって不透水層の圧密を引き起こして地盤沈下を招く可能性が高いことを見出すとともに、不透水層での圧密を抑制するにはどうすればよいか、又はいったん発生した圧密を停止するにはどうすればよいかに着眼して研究開発を行った結果、上述した発明をなすに至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステムにおいては、被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように地盤に配置された空気導入管を介して、真空ポンプの作動によって被圧帯水層に形成された負圧領域に空気を自然流入させる。
【0019】
ここで、井戸管の底部と被圧帯水層との間では地下水が連続的に満たされているため、空気導入管がない場合、すなわち従来技術においては、井戸管内を減圧すると、その減圧状態が地下水を介して被圧帯水層に伝達するとともに、該被圧帯水層の直上に位置する不透水層(粘土層)が難透気層でもあることから、被圧帯水層では、空気の流入がほとんど起こらずに広い範囲にわたって減圧状態となる。
【0020】
そのため、不透水層内の間隙水が被圧帯水層に移動して間隙水圧が減少し、それが原因で地上では地盤沈下が引き起こされる。
【0021】
一方、本発明のように空気導入管を介して被圧帯水層に空気を自然流入させる場合においては、空気導入管の外側(井戸管の反対側)の負圧が昇圧されることで小さくなり、圧密が発生する範囲を大いに狭めることで広い範囲にわたる地盤沈下が抑制される。
【0022】
加えて、減圧による圧密が生じている場合であっても、土粒子構造の塑性変形に至っておらず、可逆的な状態にとどまっている場合には、減圧状態の解消によって間隙水圧が上昇し、地盤面での沈下が縮小することも期待できる。
【0023】
本発明の前提となるバキュームディープウェル工法は、井戸管への空気流入を阻止可能な構造、例えば地下水流入部を二重管とした構造を用いることが想定されるが、これに限らず、減圧による強制排水と重力排水とを併用した工法であれば、どのようなものでも採用可能である。
【0024】
空気導入管は、被圧帯水層に空気を自然流入させることができる限り、その構成は任意であって、必ずしも鉛直に立設される必要はない。また、確実な空気導入を実現するために適当な間隔で複数設けるようにしてもかまわない。
【0025】
また、空気導入管をどこに設けるかも任意であって、例えば井戸管近傍に設けてもよいし、井戸管から離隔させてもよいが、空気導入管を介して被圧帯水層に形成された負圧領域に空気を導入するためには、地下水位が不透水層の下面(被圧帯水層の上面)を下回る必要がある。そのため、確実な空気導入のためには、揚水時に地下水位が低くなる井戸管近傍位置に空気導入管を設けるのが望ましい。
【0026】
ここで、空気導入管から水平方向に離間した位置であって井戸管と反対の側となるように地盤に配置された注水管を介して被圧帯水層への注水を行うようにすれば、井戸管から見て注水管以遠の領域においては、被圧帯水層の全水頭を概ね元の高さに戻すことができるため、例えば用地境界の外側における地盤沈下をさらに確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係る地下水位低下システム1の概略図であり、(a)は鉛直断面図(対称ゆえ左半分は省略)、(b)は平面図(同左)。
図2】空気導入管12を設けない場合において揚水時に被圧帯水層3が減圧状態となることを示した図であり、(a)は被圧帯水層3における全水頭を示した鉛直断面図、(b)は被圧帯水層3内に負圧領域13が形成される様子を示した圧力モデル図、(c)は不透水層4内の間隙水が被圧帯水層3に移動する様子を示した模式図。
図3】空気導入管12を設けた場合において被圧帯水層3の減圧状態が解消されることを示した図であり、被圧帯水層3における全水頭を示した鉛直断面図。
図4】地下水位低下システム1の作用を示した鉛直断面図。
図5】変形例に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムを示した概略図であり、(a)は鉛直断面図(対称ゆえ左半分は省略)、(b)は平面図(同左)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本実施形態に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムを示した図である。同図に示したように、本実施形態に係る地下水位低下システム1は、地盤2の表面から掘削を行って掘削空間11を形成する際、該掘削空間への地下水湧出や盤膨れを防止するための地下水位低下工法に適用されるものであって、地盤2内に拡がる被圧帯水層3に下端が位置するように地盤2に配置された井戸管5と、該井戸管の内部空間6を減圧する真空ポンプ7と、井戸管5の底部近傍に設置された水中ポンプ8と、該水中ポンプに接続された揚水管9とを備え、井戸管5の内部空間6を真空ポンプ7で減圧しつつ該内部空間に流入した被圧帯水層3の地下水を水中ポンプ8及び揚水管9で揚水できるようになっている。
【0030】
本実施形態に係る地下水位低下システム1はさらに、上端が大気に下端が被圧帯水層3にそれぞれ連通するように、かつ被圧帯水層3の直上に位置する不透水層4を貫通するように空気導入管12を地盤2に配置してあるとともに、該空気導入管の下端位置を被圧帯水層3の上面(不透水層4の下面)に位置あわせしてなり、かかる構成により、空気導入管12内の水位が被圧帯水層3の上面を下回ったとき、該空気導入管を介して被圧帯水層3に空気が自然流入するように構成してある。
【0031】
空気導入管12は、アースオーガ等の重機を用いて地盤2に掘削孔を形成した後、該掘削孔に中空管を建て込むようにすればよい。
【0032】
図2は、空気導入管12を設けない場合において不透水層4に圧密が生じる様子を示した説明図である。同図(a)でわかるように、水中ポンプ8及び真空ポンプ7を作動させて被圧帯水層3の地下水を揚水すると、該被圧帯水層の全水頭は、初期位置(地盤2の表面位置よりも高い位置で水平に延びるライン)から井戸管5の下方から斜め上方に延びる低下状態へと移行する。この場合、井戸管5の地点における水頭と井戸内水位の差分は真空ポンプにより生じる負圧である。この際に、井戸管5の底部と被圧帯水層3との間では地下水が連続的に満たされているため、井戸管5の内部空間6における減圧状態は、地下水を介して被圧帯水層3に伝達するとともに、該被圧帯水層の直上に位置する不透水層4が難透気層でもあることから、被圧帯水層3では、空気の流入がほとんど起こらず、負圧領域13が形成され、減圧状態となる。減圧された負圧領域13には、地下水に混入している空気あるいは井戸管周辺からのわずかな空気が流入し、不飽和領域が生じる場合もある。
【0033】
同図(b)は、井戸管5の減圧状態が被圧帯水層3に伝達して該被圧帯水層内に負圧領域13が形成される圧力機構を示したモデル図である。同図に示した圧力モデル20は、上方空間を減圧可能なタンク21と、気密に構成されたタンク22と、それらを互いに連通する連通管23とで構成してあり、同圧力モデルにおいて、タンク21の上方空間を減圧すると、タンク22内の上方空間が大気に連通されていないため、タンク22内の上方空間は、大気圧よりも小さな負圧状態へと減圧される。ここで、左側のタンク21は井戸管5に、該タンク内の上方空間は井戸管5の内部空間6に、右側のタンク22は空気導入管12を設けない場合の被圧帯水層3に、該タンク内は被圧帯水層3に形成された負圧領域13にそれぞれ相当する。
【0034】
このように、井戸管5の内部空間6を減圧することで、被圧帯水層3も減圧されるが、かかる状態では、同図(c)に示すように、不透水層4内の間隙水が被圧帯水層3に移動して間隙水圧が減少し、それが原因で地上では地盤沈下が引き起こされる。
【0035】
一方、本実施形態に係る地下水位低下システム1においては、図3に示すように、真空ポンプ7を作動させないときの全水頭ラインAから、真空ポンプ7を作動させた場合の全水頭ラインBの方向に水頭が移動し、空気導入管12の底部に達した段階で地表の空気が空気導入管12を介して負圧領域13に自然流入し、該負圧領域内の圧力を上昇させるとともに、空気導入管12の外側の被圧帯水層3の負圧を減じさせる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システム1及び工法によれば、被圧帯水層3に形成された負圧領域13に空気導入管12を介して空気が自然流入するように構成したので、空気導入管12より外側(井戸管と反対側)の被圧帯水層3内の負圧が軽減される。
【0037】
つまり、被圧帯水層3における全水頭は図4に示すように上昇することとなり、それに伴って不透水層3の広い範囲にわたる圧密を回避し、地盤沈下を抑制することができる。
【0038】
また、従来においては、井戸管5の内部空間6に形成された減圧状態が被圧帯水層3の遠方まで伝達し、それが原因で広い範囲にわたり地盤沈下が生じていたが、本実施形態に係る地下水位低下システム1及び工法によれば、被圧帯水層3での負圧状態が空気導入管設置位置より外側(井戸管と反対側)で軽減されるため、上述した地盤沈下を抑制することができる。
【0039】
本実施形態では、揚水開始の時点から空気導入管12が存在するものとして説明したが、揚水を継続している段階であって負圧領域13が既に被圧帯水層3に形成されている段階であっても、本発明を適用することが可能である。
【0040】
かかる構成においては、空気導入管12を設置した時点で該空気導入管を介した被圧帯水層3への空気流入が行われるが、被圧帯水層3の負圧状態は上述した実施形態とほぼ同様に限定される。
【0041】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、図5に示したように、空気導入管12から水平方向に離間した位置であって井戸管5と反対の側となるようにかつ下端が被圧帯水層3に位置するように地盤2に注水管51を配置し、揚水を行っている間、該注水管を介して被圧帯水層3に注水を行う構成とすることが可能であり、本変形例では、注水管51を用地境界52に沿ってその内側に複数配置してある。
【0042】
かかる構成によれば、井戸管5から見て注水管51以遠の領域、すなわち用地境界52の外側において、被圧帯水層3の全水頭を概ね、初期の高さに戻すことができるため、用地境界52の外側における地盤沈下をさらに確実に防止することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、空気導入管12に水位計を設置するとともに、空気導入管12内の空気流量を調整する流量調整ダンパーを該空気導入管に設置する構成とすることができる。
【0044】
かかる構成においては、揚水開始当初、空気導入管12内の地下水位が所定水位より高いときは流量調整ダンパーを閉じ、揚水が進行して空気導入管12内の地下水位が所定水位以下になったときから流量調整ダンパーを開いて、該空気導入管内を大気に連通させる。
【0045】
このようにすれば、揚水開始当初において未だ全水頭が高いとき、被圧帯水層3内の地下水が地上に噴出するのを防止することができる。
【0046】
また、空気導入管12からの空気流入量が多すぎて真空ポンプの効果が十分に発揮されない場合には、流量調整ダンパーを絞ることで、適量の空気を流入させることが可能である。
【0047】
また、上述した水位計に加えて、不透水層4の間隙水圧を計測する間隙水圧計を空気導入管12に取り付ける構成とすることが可能であり、かかる構成によれば、不透水層4の間隙水圧の推移を監視することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 地下水位低下システム
2 地盤
3 被圧帯水層
4 不透水層(粘土層)
5 井戸管
6 内部空間
7 真空ポンプ
8 水中ポンプ
12 空気導入管
13 負圧領域
51 注水管
図1
図2
図3
図4
図5