【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、掘削領域においては十分な地下水位の低下を実現しながら、掘削領域から離隔した周辺領域においては地盤沈下を抑制することが可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステムを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法は請求項1に記載したように、下端が被圧帯水層に位置するように地盤内に配置された井戸管の内部空間を真空ポンプで減圧しつつ、該井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を前記井戸管の底部近傍に設置された水中ポンプで揚水する
ことで、掘削空間への地下水湧出又は該掘削空間の底面における盤膨れを防止可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法において、
一端が大気に他端が前記被圧帯水層にそれぞれ連通するようにかつ前記被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように前記地盤
であって前記掘削空間の外側に
空気導入管を配置するとともに、前記真空ポンプの作動によって前記被圧帯水層に形成された負圧領域に
前記空気導入管を介して空気を自然流入させる
ことにより、前記被圧帯水層のうち、前記井戸管から見て前記空気導入管よりも以遠の領域における負圧を減少させるものである。
【0013】
また、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法は、前記空気導入管から水平方向に離間した位置であって前記井戸管と反対の側となるように前記地盤に配置された注水管を介して前記被圧帯水層への注水を行うものである。
【0014】
また、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムは請求項3に記載したように、地盤内の被圧帯水層に下端が位置するように該地盤に配置された井戸管と、該井戸管の内部空間を減圧する真空ポンプと、前記井戸管の底部近傍に設置された水中ポンプと、該水中ポンプに接続され前記井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を揚水する揚水管とを備え
てなり、前記井戸管に流入した前記被圧帯水層の地下水を揚水することで、掘削空間への地下水湧出又は該掘削空間の底面における盤膨れを防止可能なバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムにおいて、
一端が大気に他端が前記被圧帯水層にそれぞれ連通するようにかつ前記被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように前記地盤
であって前記掘削空間の外側に配置された空気導入管を備え
るとともに、前記真空ポンプの作動によって前記被圧帯水層に形成された負圧領域に前記空気導入管を介して空気を自然流入させることにより、前記被圧帯水層のうち、前記井戸管から見て前記空気導入管よりも以遠の領域における負圧を減少させるように構成したものである。
【0015】
また、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下システムは、前記空気導入管から水平方向に離間した位置であって前記井戸管と反対の側において下端が被圧帯水層に位置するように前記地盤に配置された注水管を備えたものである。
【0016】
バキュームディープウェル工法は、井戸管内の空気圧を真空ポンプで減圧することで該井戸管内を大気圧よりも低い圧力(負圧)に維持しながら、井戸管の底部近傍に設置した水中ポンプで地下水を揚水するものであって、吸引による強制排水作用とディープウェルによる重力排水作用とが相乗することにより、掘削工事に必要な地下水位の低下を様々な地盤に対して十分に実現させることが可能であるが、被圧帯水層の場合には、井戸周辺の広い範囲にわたって地盤沈下が生じることは上述の通りである。
【0017】
本出願人は、バキュームディープウェル工法を被圧帯水層に適用した場合、井戸管内の減圧操作が広い範囲にわたって不透水層の圧密を引き起こして地盤沈下を招く可能性が高いことを見出すとともに、不透水層での圧密を抑制するにはどうすればよいか、又はいったん発生した圧密を停止するにはどうすればよいかに着眼して研究開発を行った結果、上述した発明をなすに至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明に係るバキュームディープウェルを用いた地下水位低下工法及びシステムにおいては、被圧帯水層の直上に位置する不透水層を貫通するように地盤に配置された空気導入管を介して、
真空ポンプの作動によって被圧帯水層に形成された負圧領域に空気を自然流入させる。
【0019】
ここで、井戸管の底部と被圧帯水層との間では地下水が連続的に満たされているため、空気導入管がない場合、すなわち従来技術においては、井戸管内を減圧すると、その減圧状態が地下水を介して被圧帯水層に伝達するとともに、該被圧帯水層の直上に位置する不透水層(粘土層)が難透気層でもあることから、被圧帯水層では、空気の流入がほとんど起こらずに広い範囲にわたって減圧状態となる。
【0020】
そのため、不透水層内の間隙水が被圧帯水層に移動して間隙水圧が減少し、それが原因で地上では地盤沈下が引き起こされる。
【0021】
一方、本発明のように空気導入管を介して被圧帯水層に空気を自然流入させる場合においては、空気導入管の外側(井戸管の反対側)の負圧が昇圧されることで小さくなり、圧密が発生する範囲を大いに狭めることで広い範囲にわたる地盤沈下が抑制される。
【0022】
加えて、減圧による圧密が生じている場合であっても、土粒子構造の塑性変形に至っておらず、可逆的な状態にとどまっている場合には、減圧状態の解消によって間隙水圧が上昇し、地盤面での沈下が縮小することも期待できる。
【0023】
本発明の前提となるバキュームディープウェル工法は、井戸管への空気流入を阻止可能な構造、例えば地下水流入部を二重管とした構造を用いることが想定されるが、これに限らず、減圧による強制排水と重力排水とを併用した工法であれば、どのようなものでも採用可能である。
【0024】
空気導入管は、被圧帯水層に空気を自然流入させることができる限り、その構成は任意であって、必ずしも鉛直に立設される必要はない。また、確実な空気導入を実現するために適当な間隔で複数設けるようにしてもかまわない。
【0025】
また、空気導入管をどこに設けるかも任意であって、例えば井戸管近傍に設けてもよいし、井戸管から離隔させてもよいが、空気導入管を介して被圧帯水層に形成された負圧領域に空気を導入するためには、地下水位が不透水層の下面(被圧帯水層の上面)を下回る必要がある。そのため、確実な空気導入のためには、揚水時に地下水位が低くなる井戸管近傍位置に空気導入管を設けるのが望ましい。
【0026】
ここで、空気導入管から水平方向に離間した位置であって井戸管と反対の側となるように地盤に配置された注水管を介して被圧帯水層への注水を行うようにすれば、井戸管から見て注水管以遠の領域においては、被圧帯水層の全水頭を概ね元の高さに戻すことができるため、例えば用地境界の外側における地盤沈下をさらに確実に防止することが可能となる。