特許第6040561号(P6040561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040561
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20161128BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20161128BHJP
   H04M 1/00 20060101ALI20161128BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H04R3/00 310
   H04R1/02 104Z
   H04M1/00 R
   H04R1/00 311
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-101793(P2012-101793)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-229827(P2013-229827A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123940
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 辰一
(72)【発明者】
【氏名】関山 良男
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−018685(JP,A)
【文献】 特開2007−067897(JP,A)
【文献】 特開2011−205196(JP,A)
【文献】 特開2012−044433(JP,A)
【文献】 特開2011−188191(JP,A)
【文献】 特開2010−035053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04M 1/00
H04R 1/00
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカと、
該スピーカを駆動する増幅回路と、
前記スピーカの前面に設けられたスピーカグリルと、
自身が水面または水中に落下したこと(以下「水没」と呼ぶ)を検出するとともに、前記水面または水中から取り上げられたこと(以下「取り上げ」と呼ぶ)を検出する水没検出部と、
前記取り上げが検出されたことに応じて、前記スピーカグリル内に侵入した水を排水するための排水音信号を生成して前記増幅回路に入力する制御部と、
前記増幅回路に供給する電源をオン/オフする電源供給回路と、
前記電源供給回路の前記電源供給を手動でオン/オフするスイッチと、
を備え
前記制御部は、前記スイッチがオフの場合、前記水没が検出されたことに応じて前記電源供給をオンし、前記排水音信号の生成が終了したとき前記電源供給をオフする
電子機器。
【請求項2】
前記制御部は、前記排水音信号の生成および前記増幅回路への入力を、予め定めた時間実行する請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記増幅回路の前段に、該増幅回路に入力される音声信号の信号レベルを調整する音量調整回路を備え、
前記制御部は、前記排水音信号を、前記音量調整回路を介さずに前記増幅回路に入力する請求項1または請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記制御部による前記増幅回路への排水音信号の入力に同期して、前記増幅回路に供給する電源電圧を通常動作の電圧よりも高くする昇圧部をさらに備えた請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電子機器。
【請求項5】
発光素子を有し、前記制御部による前記増幅回路への排水音信号の入力と並行して、前記発光素子を点灯または点滅させる発光回路をさらに備えた請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子機器。
【請求項6】
前記制御部は、前記水没から前記取り上げまでの間、自身の存在位置を報知するアラーム音信号を生成して前記増幅回路に入力する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電子機器。
【請求項7】
前記水没検出部は、一対の電極を有し、これらの電極が相互に導通することによって前記水没を検出し、そののち非導通になることによって前記取り上げを検出する請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器に関し、特にはスピーカグリルで前面を保護されたスピーカを有する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
トランシーバなどのスピーカを備えた電子機器には、水中に取り落とした場合でも機能が損なわれないように内部を防水したものが提案されている(特許文献1参照)。防水の機器の場合、水没しても電子回路等の機能に支障はないが、スピーカグリル内部に水が浸入してスピーカが発する音声が外部へ伝達できなくなる場合がある。
【0003】
これを解決するため、スピーカを強く振動させて、その圧力(音圧)でスピーカグリル内の水を排出させる技術も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−044433号公報
【0005】
【特許文献2】特許第4680011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の技術では、スピーカグリル内に侵入した水を排水することが可能であるが、この機能を作動させるには、ユーザが複数のキースイッチを組み合わせてオンするという操作う行わなければならず面倒であるうえ、電子機器を水没させて慌てて取り上げたユーザに、忘れずにこの操作行うことを要求するのは難しいことである。このため、排水機能を作動させることを忘れたユーザは、水中から取り上げた電子機器から音が聴こえてこないため、故障と間違えてしまう場合があった。
【0007】
また、水中から取り上げられた電子機器から音が聴こえていても、スピーカグリルの内部に水が残っていると考えられ、その状態のままで使用を再開するのは好ましいことではない。
【0008】
この発明は、水中に取り落とされた場合でも、取り上げられたのちに確実にスピーカグリル内の水を排出させるとことが可能な電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子機器は、スピーカと、該スピーカを駆動する増幅回路と、前記スピーカの前面に設けられたスピーカグリルと、自身が水面または水中に落下したこと(以下「水没」と呼ぶ)を検出するとともに、前記水面または水中から取り上げられたこと(以下「取り上げ」と呼ぶ)を検出する水没検出部と、前記取り上げが検出されたことに応じて、前記スピーカグリル内に侵入した水を排水するための排水音信号を生成して前記増幅回路に入力する制御部と、前記増幅回路に供給する電源をオン/オフする電源供給回路と、前記電源供給回路の前記電源供給を手動でオン/オフするスイッチと、を備え、前記制御部は、前記スイッチがオフの場合、前記水没が検出されたことに応じて前記電源供給をオンし、前記排水音信号の生成が終了したとき前記電源供給をオフすることを特徴とする。
【0010】
前記制御部は、前記排水音信号の生成および前記増幅回路への入力を、予め定めた時間実行するものとしてもよい。
【0011】
前記増幅回路の前段に、該増幅回路に入力される音声信号の信号レベルを調整する音量調整回路を備えている場合でも、前記制御部は、前記排水音信号を、前記音量調整回路を介さずに前記増幅回路に入力してもよい。
【0012】
上記発明において、さらに、前記制御部による前記増幅回路への排水音信号の入力に同期して、前記増幅回路に供給する電源電圧を通常動作の電圧よりも高くする昇圧部を備えてもよい。
【0013】
上記発明において、発光素子を有し、前記制御部による前記増幅回路への排水音信号の入力と並行して、前記発光素子を点灯または点滅させる発光回路をさらに備えてもよい。
【0014】
前記制御部を、前記水没から前記取り上げまでの間、自身の存在位置を報知すとるアラーム音信号を生成して前記増幅回路に入力するようにしてもよい。
【0015】
前記水没検出部を、一対の電極を有し、これらの電極が相互に導通することによって前記水没を検出し、そののち非導通になることによって前記取り上げを検出するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、電子機器が水中から取り上げられたとき、スピーカグリルに侵入した水を自動的に排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施形態であるトランシーバの外観図である。
図2】同トランシーバのスピーカグリル付近の縦断面図である。
図3】同トランシーバの電子回路のブロック図である。
図4】同トランシーバの制御部の動作を示すフローチャートである。
図5】同トランシーバの制御部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照してこの発明の実施形態であるトランシーバについて説明する。図1はトランシーバの外観図である。同図(A)はトランシーバの正面図、同図(B)はトランシーバの右側面図、同図(C)はトランシーバの背面図である。
【0019】
まず、このトランシーバ1の概要を説明する。このトランシーバ1は、船舶通信用のハンディ機器であり、マリンVHFバンドの無線通信を行う。トランシーバ1は、本体10の上面にロッドアンテナ12を設けた外観をしている。トランシーバ1は、電源として軽量且つ大容量のリチウムイオン電池を用いたこと等により全体の重量が軽量化され、筐体11が防水されていることと相まって、水に落下したときでも沈むことなく水面に浮きあがる。トランシーバ1は、内部の重心バランスにより、筐体11の前面が上、背面が下になった姿勢で水面に浮かぶ。なお、この明細書では、水面に落下することを便宜上「水没」と呼ぶ。
【0020】
筐体11の背面には、一対の電極13、13が設けられている。電極13、13は、トランシーバ1が水没し、水を介して短絡することにより相互に導通する。この導通によって、内部の回路が起動し、ユーザに水没および所在位置を知らせる水没告知動作が実行される。水没告知動作では、ディスプレイ16およびキーパネル17のバックライトが点滅するとともに、スピーカ25(図2参照)からアラーム音が放音される。また、水面からトランシーバ1が取り上げられたとき、水没告知動作のうちアラーム音の放音が停止され、これに代えて、スピーカグリル排水動作が実行される。スピーカグリル排水動作は、スピーカ25から、大きな音量の排水音を放音し、その音圧でスピーカグリル18に詰まった水を排出する動作である。
【0021】
次に、トランシーバ1の外観について詳細に説明する。上述したように、トランシーバ1は、筐体11を含む本体10、および、筐体11の上面に設けられたアンテナ12を有する外観をなしている。アンテナ12は、筐体11の上面に上方に向けて設けられている。アンテナ12は、コイル状のアンテナ線を樹脂パイプに収納したロッド状のアンテナである。
【0022】
筐体11の前面には、上から順に、ディスプレイ16、キーパネル17、および、スピーカグリル18が設けられている。スピーカグリル18の内部には、スピーカ25が設けられている。筐体11の右側面にはPTT(プッシュ・トゥ・トーク)スイッチ19が設けられている。筐体11の上面のアンテナ12の向かって左側には防水キャップが被せられたSP/MICコネクタ14が設けられている。
【0023】
ディスプレイ16は、液晶(LCD)ディスプレイであり、背面にバックライトとしてLED61(図3参照)を有している。ディスプレイ16には、通信チャンネル、音量のほか、各種の設定項目が表示される。キーパネル17には、排水キー170、ディレクションキー171、パワーキー172を含む複数のキースイッチが配列されている。パワーキー172は、電源をオン/オフするためのキースイッチであり、ユーザが一定時間(たとえば2秒以上)このボタンをオンすると、トランシーバ1の電源がオフからオンまたはオンからオフに切り換えられる。ディレクションキー171は、上下左右キーと決定キーを有し、ディスプレイ16上に表示された設定項目などを選択・設定する場合などに使用される。排水キー170は、上述したスピーカグリル排水動作を手動で実行させる場合に使用される。また、キーパネル17の背面にもバックライトとしてLED61(図3参照)が設けられている。キーパネル17の各キースイッチは、キートップが透明または半透明になっており、バックライトの点灯により背面から照明される。
【0024】
筐体11の背面にはクリップホルダ15および一対の電極13、13が設けられている。背面の中央に設けられているクリップホルダ15には、ベルトクリップが取り付けられる。電極13、13は、背面の上部左右にそれぞれ設けられており、トランシーバ1が水没したとき、水を介して短絡することによって相互に導通する。トランシーバ1の制御部である制御部30(図3参照)は、この導通によって、トランシーバ1の水没を検出する。
【0025】
図2は、スピーカグリル18付近の一部縦断面図である。スピーカーグリル18は、筐体11前面に横方向に形成された複数の桟180を有している。各桟180は、筐体内側から筐体外側に向けて下向きに傾斜する形状の断面を有し、各桟180の間に形成された開口部181は、下向きに開口して雨水などの浸入が抑制されている。
【0026】
スピーカグリル18の内側にスピーカ25と同径の凹部が形成されており、この凹部にスピーカ25がはめ込まれて固定されている。スピーカ25の前面には、異物侵入防止ネット24が取り付けられている。スピーカ25は、防水型のものが使用されている。桟180と異物侵入防止ネット24との間には、空間26が設けられている。この空間26は、スピーカ25の振動(音波)がスピーカグリル18から外部に放出しやすくしているとともに、スピーカグリル18内に浸入した水を縦方向に排水する排水路の機能を果たしている。
【0027】
図3のブロック図を参照してトランシーバ1の回路構成について説明する。この図ではトランシーバ1の回路のうち、電源制御およびオーディオ信号処理に関連する回路を示している。トランシーバ1は、制御部である制御部30、電源制御回路31、受信回路32、および、LED点灯回路33を有している。制御部30は、CPUに加えて、メモリ、各種のインタフェース、A/D,D/Aコンバータ等を備えたいわゆるマイクロコントローラ(MCU,μC)であり、図4図5のフローチャートに示す水没監視動作を含むトランシーバ1の全体動作を制御する。電源制御回路31はバッテリ44を有し、制御部30、受信回路32、LED点灯回路33への電源の供給を制御する。受信回路32は、高周波信号の受信およびオーディオ信号の放音を処理する回路である。受信回路の最終段に図2に示したスピーカ25が接続されている。LED点灯回路33は、制御部30から入力されるLED点灯信号LONに応じて、LED61を点灯させる回路である。上述したように、LED61は、ディスプレイ16およびキーパネル17を背面から照明するバックライトとして用いられるとともに、水没時には点滅制御されてトランシーバ1の所在位置を知らせる機能を果たす。
【0028】
電源制御回路31は、電源スイッチング回路40、水没検出回路41、OR回路42、電源供給回路43およびバッテリ44を有している。バッテリ44は、たとえばリチウムイオン電池であり、その電圧はたとえば7.4Vである。電源スイッチング回路40は、上述のパワーキー172およびホールド回路40Aを有する。ホールド回路40Aは、電源スイッチオン信号PSONを出力する。ホールド回路40Aは、パワーキー172が一定時間以上オンされたときPSONの状態(H/L)を反転する。PSONはOR回路42に入力される。水没検出回路41は、上述の電極13、13を含み、水没信号WETを出力する。水没検出回路41は、電極13、13が導通している間、WETをHに立ち上げる。WETはOR回路42および制御部30に入力される。OR回路42には、PSON、WETに加えて、制御部30から出力される電源維持信号PONも入力される。PONについては後述する。
【0029】
OR回路42の出力は、電源供給回路43に入力される。電源供給回路43は、OR回路42からH信号が入力されたとき、バッテリ44の電力を制御部30、受信回路32およびLED点灯回路33に供給し、トランシーバ1を電源オン状態にする。
【0030】
したがって、パワーキー172によってオン操作がされたとき(PSONがHのとき)、水没が検出されているとき(WETがHのとき)、または、制御部30の電源維持信号PONがHのとき、OR回路42はHを出力し、電源供給回路43によって、トランシーバ1の電源がオンされる。
【0031】
電源供給回路43は、バッテリ44の電圧を、各回路の動作電圧に合わせて、降圧/昇圧し、または、そのままの電圧で、各回路に供給する。具体的には、制御部30に対しては3Vの電源電圧を供給し、受信回路32およびLED点灯回路33には5Vの電源電圧を供給する。
【0032】
受信回路32は、受信復調回路50、電子ボリューム51、信号切換回路52、AFアンプ53、スピーカ25、および、昇圧回路54を備えている。受信復調回路50は、通信相手からの信号を受信してオーディオ信号である受信信号に復調する回路である。復調された受信信号は、電子ボリューム51に入力される。電子ボリューム51は、入力された受信信号の信号レベルを調整する回路であり、可変ゲインアンプ方式、ラダー抵抗方式等種々の方式を採用することが可能である。電子ボリューム51は、制御部30から入力されるボリューム制御信号VOLによって制御される。
【0033】
信号切換回路52は、電子ボリューム51から入力される受信信号、制御部30から入力されるオーディオ信号のいずれか一方の信号をAFアンプ53に入力する。制御部30からは、アラーム音、排水音、および、各種のビープ音がオーディオ信号として信号切換回路52に入力される。信号切換回路52は、制御部30から入力される制御信号であるオーディオ切換信号ACHにより、電子ボリューム51側、制御部30側のどちらを選択するかを切り換える。
【0034】
アラーム音は、水没告知動作時に発生される間欠的に鳴動する音声であり、人間の聴覚で感度よく聴こえる3kHz付近の正弦波である。また、AFアンプ53に入力されるアラーム音信号の信号レベルは、最大レベルでもよいが、ユーザに存在位置を知らせ、且つ、バッテリ44の消耗を抑えることのできる適当なレベルに決定されればよい。
【0035】
排水音は、スピーカグリル排水動作時に発生される音声であり、300Hzの矩形波である。なお、排水音の周波数および波形は、スピーカ25の特性、スピーカグリル18内の容量、通信機の形状などの条件に合わせて適宜決定すればよいが、100Hz〜500Hzの周波数および矩形波または鋸波の波形が好適である。また、排水音信号は、AFアンプ53の最大入力電圧の振幅を有する信号である。上記のような周波数、波形、振幅の排水音信号でスピーカ25を振動させることで、スピーカグリル18に詰まった水を効率的に排水することができる。
【0036】
また、この受信回路32では、信号切換回路52を電子ボリューム51の後段に設け、AFアンプ53に入力される排水音信号およびアラーム信号が電子ボリューム51の影響を受けないようにしたことにより、最大音量の信号をAFアンプ53に入力することができる。なお、通常のビープ音信号をこの位置からAFアンプ53に供給する場合は、制御部30で予めレベル調整をして信号切換回路52に入力するようにすればよい。
【0037】
AFアンプ53は、入力されるオーディオ信号をスピーカ25を駆動できるレベルに増幅する。増幅されたオーディオ信号はスピーカ25に出力される。AFアンプ53には、昇圧回路54を介して電源電圧が供給される。昇圧回路54は、制御部30から入力される電圧切換信号ECHに応じて、電源供給回路43から供給される電圧(5V)を、そのまま、または、昇圧してAFアンプ53に供給する回路である。昇圧回路54は、ECHがLの場合には、バイパス線路を介して、電源供給回路43から入力された電圧をそのままAFアンプ53に供給する。昇圧回路54は、ECHがHの場合には、電圧を8Vに昇圧してAFアンプ53に供給する。昇圧回路54は、チャージポンプ回路が好適であるが、他の方式の回路(たとえばチョッパ回路)であってもよい。また、電圧を昇圧させる回路を設けず、ECHがHの場合、バッテリ44の電圧(7.4V)を直接導いてAFアンプ53に供給するようにしてもよい。
【0038】
AFアンプ53の最大出力は、通常の電源電圧(5V)では、0.8W程度であり、昇圧された電源電圧(8V)では、1.8〜2.0W程度である。昇圧された電源電圧を用いて大きな出力(振幅)の排水音信号でスピーカ25を振動させることにより、高い音圧でより効率的にスピーカグリル18の排水を行うことができる。なお、スピーカ25は、2Wの入力に耐えられるものを用いる。
【0039】
このように、排水時にAFアンプ53の電源電圧を高くし、且つAFアンプ53に最大入力電圧の振幅の排水音信号を入力するようにしたので、スピーカ25を極めて高い音圧で振動させることができ、高い排水効果を得ることができる。
【0040】
制御部30は、電源供給回路43から電源電圧が供給されることによって起動し、トランシーバ1の動作を制御し、特に、水没検出回路41から入力される水没信号WETの変化を監視し、以下の動作を実行する。
【0041】
水没検出部41から入力されるWETがLからHに変化すると、トランシーバ1が水没したと判断して以下の動作を行う。電源オフ状態であっても、WETがHに変化するとOR回路42の出力がHになり、電源供給回路43を介してバッテリ44の電力が制御部30に供給されるため、制御部30が起動し、以下の動作が実行される。
(1)LED61を点滅させる。このため、LED点灯回路33に入力するLED点灯信号LONを約0.5秒間隔でH/Lを切り換える。LED点灯回路33は、LONがHになったときLED61に電流を通じて点灯させる。LONが周期的にH/Lを繰り返すため、LED61は点滅する。
(2)アラーム音を発生させる。このため、オーディオ切換信号ACHをHに立ち上げて信号切換回路52を制御部30側に切り換え、アラーム音のオーディオ信号を信号切換回路52に入力する。スピーカグリル18内が完全に水で塞がっていなければ、このアラーム音は外部に放音され、ユーザに到達する。
(3)電源維持信号PONをHに立ち上げる。すなわち、制御部30は、一連の水没対応動作(水没告知動作およびスピーカグリル排水動作)の間、PONをHに立ち上げてOR回路42に入力し、電源スイッチオン信号PSONの状態にかかわらず電源オン状態を維持する。
【0042】
こののち、WETがHからLに変化すると、制御部30は、トランシーバ1が水面から取り上げられたと判断し、次の動作を実行する。
(1)アラーム音を停止し、排水音を発生させる。すなわち、信号切換回路52に入力するオーディオ信号をアラーム音信号から排水音信号に切り換える。
(2)AFアンプ53の電源電圧を高電圧に切り換える。このため、昇圧回路54に出力する電圧切換信号ECHをHに立ち上げる。
(3)LED61の点滅時間、排水音の発生時間を測定するタイマ1、2を起動する。なお、取り上げ後のLED61の点滅時間を決定するタイマ1のタイムアップ時間は、5〜30秒の間でユーザが設定可能である。また、排水音の発生時間を決定するタイマ2のタイムアップ時間は、スピーカグリル18の大きさ、形状、スピーカ25の出力等に基づいて適当な時間を設定すればよく、たとえば10秒程度が適当である。また、ユーザによる設定を可能にしてもよい。このとき、排水音がスピーカ25に与えるストレスを考慮し、タイマ2のタイムアップ時間に上限を設け、この上限を超えるタイムアップ時間の設定を受け付けないようにしてもよい。
【0043】
こののち、タイマ1がタイムアップすると、LED61の点滅を停止させる。すなわち、LON信号をLに固定する。また、タイマ2がタイムアップすると、排水音の発生を停止する。すなわち、制御部30は、排水音信号の出力を停止するとともに、オーディオ切換信号ACHをLに落として信号切換回路52を電子ボリューム51側に切り換える。さらに、電圧切換信号をLに落としてAFアンプ53に供給される電源電圧を低電圧に切り換える。
【0044】
スピーカ25から排水音を発生させるスピーカグリル排水動作では、スピーカグリル18内が水で満たされている場合、当初は、排水音は外部に伝わらず、排水音の音圧によってスピーカグリル18から水が噴き出すのみである。そして、スピーカグリル18内の水が減少してくると、排水音が外部に聞こえ始める。10秒程度の動作時間でスピーカグリル18内の水はほぼ完全に排出される。
【0045】
トランシーバ1が水面から取り上げられたのち、タイマ1、タイマ2のうち一方がタイムアップするまでは、LED61の点滅と排水音の発生が並行して行われる。これにより、ユーザは、取り上げたトランシーバ1から排水音が聴こえなくても、LED61が点滅していることで、排水音が発生していることを認識することができる。
【0046】
タイマ1、タイマ2の両方がタイムアップすると、制御部30は、LED61の点滅、排水音の発生の両方を停止させたのち、PONをLに落とす。パワーキー172の操作によって電源スイッチオン信号PSONがHになっている場合には、電源オンの状態がそのまま維持されるが、PSONがLの場合には、PONがLになることによって電源がオフされる。すなわち、電源供給回路43が電源の供給を停止する。
【0047】
なお、制御部30に接続されている排水キー170は、ユーザによるマニュアル操作でスピーカグリル排水動作を実行させるためのキースイッチである。排水キー170がオンされると、制御部30に入力されるDON信号がHにプルアップされる。制御部30は、このDON信号のHを検出している間、オーディオ切換信号ACHをHに立ち上げて信号切換回路52を制御部30側に切り換え、排水音信号を信号切換回路52に入力する。さらに、昇圧回路54に出力する電圧切換信号ECHをHに立ち上げて、AFアンプ53の電源電圧を高電圧に切り換える。
【0048】
図4図5のフローチャートを参照して、制御部30による上記水没監視処理について説明する。なお、この処理では、水没対応処理の段階を表すステータスフラグSTを設けているが、必須ではない。ステータスフラグSTは0,1,2,3の4つの状態を持ち、デフォルトは0である。
【0049】
図4(A)は、水没監視処理のメインルーチンを示すフローチャートである。この処理は、所定時間毎(たとえば10ms毎)に実行される。この処理では、水没信号であるWETがLからHに立ち上がったか(S1)、WETがHからLに立ち下がったか(S2)、タイマ1がタイムアップしたか(S3)、および、タイマ2がタイムアップしたか(S4)をそれぞれ判定する。
【0050】
ここで、WETの立ち上がりおよび立ち下がりは、WETとステータスフラグSTとを比較することで検出される。すなわち、ステータスフラグSTが1以外の状態でWETのHが検出されたとき、WETが立ち上がったと判定される。その直後の水没処理でステータスフラグSTは1に書き換えられるため、取り上げられたのち再度水没するまで「ST≠1且つWET=H」となることはない。なお、ステータスフラグSTは、制御部30が起動したとき0にリセットされるため、電源オフ中にトランシーバ1が水没した場合でも、制御部30が起動して最初に図4(A)のメインルーチンを実行したとき、「ST=0且つWET=H」となっているため、これによってWETの立ち上がりを検出することができる。また、WETの立ち下がりは、ステータスフラグSTが1の状態でWETのLが検出されたことによって判定される。
【0051】
WETが立ち上がった場合には(S1でYES)、トランシーバ1が水没したとして、水没処理(図4(B))を実行する(S5)。WETが立ち下がった場合には(S2でYES)、トランシーバ1が水面から取り上げられたとして、取り上げ処理(図4(C))を実行する(S6)。タイマ1がタイムアップした場合には(S3でYES)、LED61の点滅時間が終了したとして、点滅停止処理(図5(A))を実行する(S7)。そして、タイマ2がタイムアップした場合には(S4でYES)、排水音の発生時間が終了したとして、排水停止処理(図5(B))を実行する(S8)。
【0052】
以下、図4(B)〜図5(B)を参照して、水没処理、取り上げ処理、点滅停止処理、および、排水停止処理について説明する。
【0053】
図4(B)は、WETがLからHに立ち上がったとき実行される水没処理を示すフローチャートである。水没処理では、まず、LED61の点滅を開始させる(S11)。すなわち、LED点滅信号発生ルーチンを起動する。LED点滅信号発生ルーチンは、LED点灯信号LONを約0.5秒間隔でH/Lを切り換え、LED点灯回路33に入力するルーチンである。アラーム音の発生をスタートさせる(S12)。すなわち、アラーム音信号生成ルーチンを起動する。アラーム音信号生成ルーチンは、アラーム音の信号波形(たとえば1kHzの最大振幅の正弦波)を生成するルーチンである。生成された信号波形は信号切換回路52に入力される。PON信号を立ち上げる(S13)。そして、ステータスフラグSTに1をセットする(S14)。
【0054】
図4(C)は、WETがHからLに立ち下がったとき実行される取り上げ処理を示すフローチャートである。取り上げ処理では、アラーム音を停止し(S21)、排水音を発生させるスピーカグリル排水動作を開始する(S22)。すなわち、アラーム音信号生成ルーチンを停止し、排水音発生ルーチンを起動するとともに、昇圧回路54に出力する電圧切換信号ECHをHに立ち上げる。排水音信号生成ルーチンは、排水音の信号波形(たとえば300Hzの最大振幅の矩形波)を生成するルーチンである。生成された信号波形は信号切換回路52に入力される。タイマ1、2をスタートさせる(S23)。そして、ステータスフラグSTに2をセットする(S24)。
【0055】
図5(A)は、タイマ1がタイムアップしたとき実行される点滅停止処理を示すフローチャートである。まず、LED61の点滅を停止させる(S30)。すなわち、LED点滅信号発生ルーチンを停止する。次に、ステータスフラグSTが、既に他方のタイマ(タイマ2)がタイムアップしていることを示す「3」であるか否かを判定する(S31)。ステータスフラグSTが3の場合には(S31でYES)、PONをHからLに立ち下げるとともに(S32)、ステータスフラグSTに水没なしを示す0をセットして(S33)、動作を終了する。ステータスフラグSTが3でない(2のままである)場合には(S31でNO)、ステータスフラグSTに3をセットして(S34)、動作を終了する。
【0056】
図5(B)は、タイマ2がタイムアップしたとき実行される排水停止処理を示すフローチャートである。まず、スピーカグリル排水動作を停止させる(S40)。すなわち、排水音信号生成ルーチンを停止するとともに、オーディオ切換信号ACHをLに落として信号切換回路52を電子ボリューム51側に切り換え、電圧切換信号をLに落としてAFアンプ53に供給される電源電圧を低電圧に切り換える。次に、ステータスフラグSTが、既に他方のタイマ(タイマ1)がタイムアップしていることを示す「3」であるか否かを判定する(S41)。ステータスフラグSTが3の場合には(S41でYES)、PONをHからLに立ち下げるとともに(S42)、ステータスフラグSTに水没なしを示す0をセットして(S43)、動作を終了する。ステータスフラグSTが3でない(2のままである)場合には(S41でNO)、ステータスフラグSTに3をセットして(S44)、動作を終了する。
【0057】
この実施形態では、船舶通信用のハンディトランシーバを例にあげて説明したが、この発明の電子機器は、ハンディトランシーバに限定されない。また、据置型の電子機器であってもよい。
【0058】
また、この実施形態のトランシーバ1は防水かつ水に浮く(水よりも比重が小さい)構成であったが、水と比重が同じまたは水よりも比重が大きい電子機器に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 トランシーバ
11 筐体
18 スピーカグリル
25 スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5