(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040584
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ポリエチレン繊維からなるセメント系構造物補強用短繊維、およびセメント系構造物
(51)【国際特許分類】
C04B 16/06 20060101AFI20161128BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20161128BHJP
D01F 6/04 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
C04B16/06 A
C04B28/02
D01F6/04 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-135620(P2012-135620)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1087(P2014-1087A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】榎本 弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 徳一
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−018318(JP,A)
【文献】
特表2007−507416(JP,A)
【文献】
特開2003−049320(JP,A)
【文献】
特開2004−132015(JP,A)
【文献】
特開2006−214015(JP,A)
【文献】
特開2007−152938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
D01F 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が50,000〜300,000であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.5以下であり、引っ張り強度が10〜25cN/dtex、引っ張り弾性率が300〜800cN/dtex、伸度が4.0%以上である、ポリエチレン繊維からなるセメント系構造物補強用短繊維を、1.5体積%以上含有するコンクリート組成物であり、
一軸引張試験において引っ張り強度が3.0N/mm2以上、引張終局ひずみが1.0%以上あることを特徴とするコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維補強セメント複合体の破断に対する高強度化と高靭性化を付与できるポリエチレン繊維、およびこのような特性を発揮することができる繊維補強コンクリート組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、セメントを硬化させた硬化物は圧縮強度などが優れている為に、建築、土木分野の主材料として用いられてきた。
【0003】
しかし、セメントに砂や粗骨材、水、混和剤を加えただけのコンクリートは、圧縮強度に比べて引張強度が低く、一度ひびなどの亀裂が入ると、破壊までの靭性がほとんどないために、衝撃に対して脆い性質を有していた。そこで、引張強度を改善し、脆弱的な性質を改良する方法としてスチール製のカットコードを混ぜ合わせるなどが知られている、この方法により、コンクリートの曲げ強度や靭性を向上させ、亀裂の進行を防ぎ、より大きな衝撃にも耐えるコンクリートを得る方法が用いられている。
【0004】
スチール製のカットコード以外のコンクリート補強用繊維としては、有機繊維による補強も知られている。有機繊維としては高分子量ポリエチレン繊維、高強度ビニロン繊維、ポリエチレン繊維などが挙げられ、コンクリートに対して体積比で1%から2%程度混入したものが用いられている。高分子量ポリエチレン繊維はスーパー繊維に分類され、汎用繊維と比較して高価であり、材料費の中で大きな割合を占める繊維コストの低減が課題であった。また、衣料用途等にも用いられる、6cN/dtex以下の汎用繊維は断面積あたりの強力がスチールに劣り、コンクリート構造物にかかる荷重を負担できる限界が低く、ひび割れの発生直後では、ひび割れ面に作用している引張力を分担することができず、大変形領域に至るまで、繊維の混入効果が得られないといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−295877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた引張性状及び脆性的性質を有するセメント系構造物を提供し、実使用可能な性能を有するポリエチレン繊維からなるセメント系構造物補強短繊維を安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は特定のポリエチレン繊維を使用することを特長とする。またこのポリエチレン繊維を使用したセメント系構造物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、かかるポリエチレン短繊維を使用することにより、従来の超高分子量ポリエチレン繊維を使用したセメント系構造物補強用短繊維と比較して、同等の補強効果を得ることが出来ることを見出したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
即ち、本発明は以下の構成からなる。
1、重量平均分子量が50,000〜300,000であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が4.5以下であるポリエチレン繊維からなるセメント系構造物補強用短繊維。
2、溶融成形加工により得られるポリエチレン繊維からなる前記1に記載のセメント系構造物補強用短繊維。
3、2から40mmの長さにカットして得られるポリエチレン繊維からなる前記1〜2いずれかに記載のセメント系構造物補強短繊維。
4、引っ張り強度が10〜25cN/dtex、引っ張り弾性率が300〜800cN/dtex、伸度が4.0%以上であるであるポリエチレン繊維からなる前記1〜3いずれかに記載のセメント系構造物補強短繊維。
5、一軸引張試験において引っ張り強度が3.0 N/mm
2以上、引張終局ひずみが1.0%以上あることを特徴とする前記1〜4いずれかに記載のポリエチレン繊維を用いたセメント系構造物。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
製造する方法は新規な手法が必要であり、例えば以下のような方法が推奨されるが、それに限定されるものではない。
すなわち本繊維の製造に当たっては原料ポリエチレンの重量平均分子量が60,000〜600,000であることが重要であり、繊維状態での重量平均分子量が50,000〜300,000であり、繊維状態での重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.5以下であることが重要である。好ましくは原料ポリエチレンの重量平均分子量が70,000〜500,000であることが重要であり、繊維状態での重量平均分子量が55,000〜200,000であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.0以下であることが重要である。さらに好ましくは原料ポリエチレンの重量平均分子量が80,000〜400,000であることが重要であり、繊維状態での重量平均分子量が60,000〜200,000であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が3.0以下であることが重要である。
【0011】
本発明におけるポリエチレンとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とする。このポリエチレン中に少量の他のモノマー、例えばα−オレフィン、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィンなどのホモポリマーとのブレンド体が含まれていても良い。特にプロピレン、ブテン−1などのα−オレフィンと共重合体を用いることで短鎖あるいは長鎖の分岐をある程度含有させることは本繊維を製造する上で、特に紡糸・延伸においての製糸上の安定を与えることになりより好ましい。しかしながらエチレン以外の含有量が増えすぎると反って延伸の阻害要因となるため、高強度・高弾性率繊維を得るという観点からはモノマー単位で0.2mol以下、好ましくは0.1mol以下であることが望ましい。もちろんエチレン単独のホモポリマーであっても良い。また、繊維状態の分子量分布を上記値にコントロールするために溶解押し出し工程や紡糸工程で意図的にポリマーを劣化させても良いし、予め狭い分子量分布を持つ例えばメタロセン触媒を用いて重合されたポリエチレンを使っても良い。
【0012】
本発明のポリエチレン繊維は溶融成形加工により得られるが、原料ポリエチレンの重量平均分子量が60,000未満となると溶融成形加工は容易となるものの分子量が低い為に実際に得られる糸の強度も小さいものとなる。また、原料ポリエチレンの重量平均分子量が600,000を越えるような高分子量ポリエチレンでは溶融粘度が極めて高くなり、溶融成型加工が極めて困難となる。又、繊維状態の重量平均分子量と数平均分子量の比が4.5以上となると同じ重量平均分子量のポリマーを用いた場合と比較し最高延伸倍率が低く又、得られた糸の強度も低くなる。これは、緩和時間の長い分子鎖が延伸を行う際に延びきることができずに破断が生じてしまうことと、分子量分布が広くなることによって低分子量成分が増加するために分子末端が増加することにより強度低下が起こると推測している。
【0013】
本発明のポリエチレン繊維はコンクリート等と混練される短繊維であることが好ましい。該短繊維は長繊維を適度な長さにカットしたものであり、その長さは好ましくは2mmから40mm以下、さらに好ましくは4mmから30mm以下、特に好ましくは6mm以上20mm以下である。この範囲のカット長により、コンクリートへの混入時の取り扱い性とコンクリート材料の補強効果の両方を満たすことが可能である。
【0014】
ここで使用するポリエチレン繊維の引っ張り強度、引っ張り弾性率としては引っ張り強度が10cN/dtex以上、引っ張り弾性率が300cN/dtex以上であることが好ましい。この理由は、有機繊維の混入による高いコンクリート補強効果を得るには繊維自体が破断し難いものとするのが良いためである。上限は特に制限は無いが、高すぎると高価な繊維を使用することになるため好ましくは、強度25cN/dtex以下、800cN/dtex以下、さらに好ましくは強度20cN/dtex以下、600cN/dtex以下であっても使用可能である。
【0015】
さらにポリエチレン繊維の伸度としては、4.0%以上が必要である。引張強度が25cN/dtex以下であっても、伸度が4.0%以上を有することで、コンクリート補強材として使用した際の補強効果を満たすことを本願では見出したものである。
伸度は高い方が好ましいが所定の強度を得るためには高くすることは難しく、4.3%以上、より好ましくは4.5%以上である。上限も特に制限されないが7%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは5.5%以下である。
【0016】
また、本発明のコンクリート組成物は前記のコンクリート補強ポリエチレン繊維を含有させたものである。公知のコンクリート組成物に対して前記ポリエチレン繊維を常法に従って混合することにより得られる。このコンクリート組成物は、各種コンクリートの強度、特に引張強度、曲げ強度、ひび割れ抵抗性等を向上させるために使用することができる。コンクリート組成物のうち、ポリエチレン繊維以外に含まれるものとしては例えば、水、セメント、細骨材、粗骨材、混和剤等が挙げられる。
【0017】
コンクリート組成物中のポリエチレン繊維の含有量は通常、0.1%〜10体積%程度とすることができる。これにより得られるコンクリート構造物は、ひび割れの生成及び進展を効果的に抑制でき、高い破断強度を有するという特徴を有している。
【0018】
そして、このポリエチレン短繊維をコンクリート補強材として使用し、繊維を1.5
体積%以上混入し3カ月間水中養生した場合に一軸引張試験において引っ張り強度が3.0 N/mm2以上、引張終局ひずみが1.0%以上あるセメント系構造物とする。
【0019】
本発明に用いるポリエチレン繊維を前記のような引張強度−歪曲線を有するとすれば、コンクリート構造物の破壊後の崩壊を防げる可能性が高くなり、例えばかぶり部分のコンクリートにひび割れが生じてもコンクリート片として落下せず、内部鉄筋を拘束する能力やコンクリート構造物としての耐久性を維持することができる。
【0020】
なお、ひび割れ性状を確認するには一軸引張試験を行うことが一般的である。
【0021】
コンクリート構造物においては、ある荷重が作用してひび割れが生じた場合であっても、ひび割れが大きく進展せず、コンクリート構造物が崩れ落ちにくい性能を有している必要がある。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0023】
(1)強度、弾性率
本発明における強度、弾性率は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、曲線の破断点での応力を強度(cN/dtex)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線により弾性率(cN/dtex)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0024】
(2)(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及びMw/Mn)
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及びMw/Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としてはWaters製GPC 150C ALC/GPCを持ち、カラムとしてはSHODEX製GPC UT802.5を一本UT806Mを2本用いて測定した。測定溶媒はo−ジクロロベンゼンを使用しカラム温度を145度とした。試料濃度は1.0mg/mlとし、200マイクロリットル注入し測定した。分子量の検量線は、ユニバーサルキャリブレーション法により分子量既知のポリスチレン試料を用いて構成されている。
【0025】
(3)コンクリート組成物の一軸引張試験方法一軸引張試験方法
ダンベル供試体を用い、供試体の肩の部分で引張張力を伝達する試験装置を用いた。次にHPFRCCについては表1に示す配合で作製し、水中養生を行い、材齢3ヶ月で引張試験を行った。引張試験において、引張強度点(引張応力が最大点)のひずみを終局ひずみと定義した。
【0026】
(実施例1)
表1に記載のコンクリート配合比で厚さ30mm、幅60mm、長さ330mmのダンベル型供試体に引張強度が14.4cN/dtex、引張弾性係数が566cN/dtex、伸度4.5%の物性を有するポリエチレン繊維を12mmの長さにカットして、1.5
体積%混入した。3ヶ月間水中養生した後、一軸引張試験を実施した。この試験により、引張強度、引張終局ひずみを求めた。
なお、溶融紡糸法により得られたポリエチレン繊維の重量平均分子量は115000、Mw/Mnは2.3であった。
【0027】
(比較例1)
表1に記載のコンクリート配合比で厚さ30mm、幅60mm、長さ330mmのダンベル型供試体に引張強度が26.8cN/dtex、引張弾性係数が907cN/dtex、伸度3.7%の物性を有するポリエチレン繊維を12mmの長さにカットして、1.5
体積%混入した。3ヶ月間水中養生した後、一軸引張試験を実施した。この試験により、引張強度、引張終局ひずみを求めた。
なお、溶液紡糸法により得られたポリエチレン繊維の重量平均分子量は3、200、000、Mw/Mnは6.3であった。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の高強度ポリエチレン繊維を2mmから40mmの長さにカットしたものを用いたセメント系構造物は、一軸引張試験において優れた引抜き抵抗力を示し、コンクリート補強材として有効であり、産業界に寄与すること大である。