(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係る液体噴射装置としてのプリンター1およびキャリッジ姿勢支持装置10について、
図1から
図7に基づいて説明する。なお、本実施の形態のプリンター1は、インクジェット式のプリンターである。このインクジェット式のプリンターとしては、インクを噴射して印刷可能であれば、いかなる噴射方法を採用した装置でも良い。
【0015】
また、以下の説明においては、下方側とは、プリンター1が設置される側を指し、上方側とは、設置される側から離間する側を指す。また、印刷媒体が供給される側を給送側(手前側)、印刷媒体が排出される側を排紙側(奥側)として説明する。また、後述するキャリッジ11が移動する方向を主走査方向、主走査方向に直交する方向であって印刷媒体が搬送される方向を副走査方向とする。
【0016】
<プリンター1の概略構成>
図1に示すように、プリンター1は、キャリッジ姿勢支持装置10を有し、他のプリンターと同様、キャリッジ11を主走査方向に往復移動させるキャリッジ機構12と、印刷媒体を副走査方向に搬送させる搬送機構13と、印刷機構14と、制御部(図示省略)と、各機構の外部を囲む筐体部15等を主要な構成要素として、保有している。なお、キャリッジ姿勢支持装置10の詳細については、各機構の説明の後で詳述する。
【0017】
<キャリッジ機構12の構成>
キャリッジ機構12は、1個のキャリッジ11と、キャリッジ11を往復動作させるための駆動源となるキャリッジモーター(図示省略)と、キャリッジ11が固定される1本のベルト21と、キャリッジ11を主走査方向に案内する1枚のガイド板22と、ベルト21が巻回される歯車プーリや従動プーリ(共に図示省略)などを備えている。
【0018】
キャリッジ11は、各色のインクカートリッジを搭載可能としている。このキャリッジ11には、
図2に示すように、1個のガイド部材23と、2つ付勢部材となる
図2の左側の左付勢バネ24と右側の右付勢バネ25が設けられている。キャリッジ11は、キャリッジ11に取り付けられたベルト21によって引っ張られることで、ガイド板22に沿って、主走査方向に移動する。ガイド部材23は、
図2の左側に配置される左付勢バネ24と、
図2の右側に配置される右付勢バネ25とにより付勢されており、キャリッジ11は、ガイド部材23によりガイド板22に押圧されることで安定した姿勢を保持する。なお、キャリッジ11の下方側には、インク滴を噴射可能な印刷ヘッド32が設けられている。
【0019】
また、ベルト21は、無端ベルトであり、その一部がキャリッジ21の背面に固定されている。このベルト21は、歯車プーリと従動プーリに巻回され、両者の間に張設されている。そして、キャリッジモーター(図示省略)によって歯車プーリが駆動されることで、ベルト21は、主走査方向に往復動をする。ガイド板22は、キャリッジ11を主走査方向に貫通するように設置されている。
【0020】
<搬送機構13の構成>
搬送機構13は、
図1に示すように、印刷媒体(ターゲットに対応)を搬送するためのPFモーター(図示省略)やそのPFモーターを駆動源として回転する給紙ローラー31を下方側に具備している。また、給紙ローラー31よりも排紙側(奥側)には、印刷媒体を搬送/挟持するための不図示のPFローラー対が設けられている。印刷媒体は、搬送機構13によって、手前側の下方側から、排紙側の上方側に搬送される。
【0021】
<印刷機構14の構成>
キャリッジ11には、インク滴を印刷媒体に噴射可能な印刷ヘッド32(
図2参照)が設けられている。印刷ヘッド32は、プラテン33に対向する様に配設されている。印刷ヘッド32は、アクチュエータユニットと、流路ユニットとを備えている。このプリンター1は、不図示のインクタンクからチューブ(図示省略)を介してインクを印刷ヘッド32に供給する方式のものである。しかし、プリンターとしては、インクカートリッジを備えるものとし、インクが無くなると、対象となるインクカートリッジを新しいものに交換する方式のものとしても良い。
【0022】
<キャリッジ姿勢支持装置10の構成>
キャリッジ姿勢支持装置10は、
図2、
図3に示すように、液体を噴射する印刷ヘッド32を搭載し、主走査方向に移動可能なキャリッジ11と、キャリッジ11を主走査方向に案内するガイド板22と、キャリッジ11に取り付けられガイド板22に案内されるガイド部材23と、キャリッジ11の姿勢保持のためにキャリッジ11に設けられる2つの付勢部材となる、
図2の左側に配置される左付勢バネ24と、
図2の右側に配置される右付勢バネ25とを有する。
【0023】
キャリッジ11は、
図3に示すように、略立方形の箱状であり、その中にインクカートリッジや印刷ヘッド32や他の機構部が配置されたものである。そして、
図2に示すように、一端側(
図2では上側の端部)にて、ベルト21に固定されている。ガイド板22は、1枚の平板から構成され、その平面部がガイド部材23に対向するように、かつベルト21に平行となるように設置されている。
【0024】
ガイド板22は、SUSなどの金属から形成された板部材とされているが、樹脂材としてもよい。ガイド板22は、
図1に示すように、主走査方向に伸びる長尺状とされ、その両端は、キャリッジ11に固定されている。また、ガイド板22は、上述したように、キャリッジ11を主走査方向に貫通するように設置されている。
【0025】
ガイド部材23は、
図2に示すように、キャリッジ11が停止状態では、ベルト21およびガイド板22に平行となるように、かつ左付勢バネ24と右付勢バネ25とを橋渡しするように設置される。そして、ガイド部材23は、キャリッジ11と共に主走査方向に移動する。ガイド部材23は、キャリッジ11とガイド板22との間に、副走査方向に移動可能に組み込まれるが、
図2に示す設置状態では、手前側はガイド板22に当接し、奥側(背面側)は、左付勢バネ24と右付勢バネ25とに当接し、手前側にも奥側にも移動できないようになっている。ガイド部材23は、
図2に示すように、ガイド板22の平面部分に接する部分が2箇所存在しており、一方は、左付勢バネ24に押される左当接部41となり、他方は、右付勢バネ25に押される右当接部42となっている。
【0026】
左当接部41は、ガイド板22に当接する部分(
図2の下側部分)と、左付勢バネ24に当接する部分(
図2の上側部分)が樹脂材とされ、その両者に挟まれる部分には、心材としての金属が埋め込まれ、金属芯部43とされている。左当接部41の背面側には、左付勢バネ24が配置されているが、この左付勢バネ24の中心を通るように、円柱部44がガイド部材23の背面から垂直に突出している。この円柱部44は、左付勢バネ24を支持するものであり、左付勢バネ24の長さが拡大、縮小できるよう、左付勢バネ24の設置時の長さより小さくされている。
【0027】
また、左当接部41は、
図2において、紙面に対し垂直方向に伸びる三角状の切欠き筋45が設けられることで、図において左右に分離され、かつ隣接することとなる2つの当接面を有するものとなっている。各当接面は、四角形状の平面とされている。左当接部41の近傍であって、ガイド部材23の中心に近い側に四角状のたわみ用切欠き部46が設けられ、左当接部41がたわみ用切欠き部46からたわみ可能とされている。このたわみ用切欠き部46の背面には、ガイド部材23をキャリッジ11に対し支持し、位置決めするため、およびガイド部材23の排紙側(奥側)への移動と主走査方向への移動を阻止するために、その先端と外側の面がキャリッジ11に当接または近接する支持軸47がその背面から垂直方向に突出している。また、左当接部41の背面で
図2の左側には、キャリッジ11に勘合し、ガイド部材23の確実な位置決めを行う小さな突起部48が設けられている。
【0028】
右当接部42は、ガイド部材23の中心線51を基準として、左当接部41と対称な形状とされている。また、ガイド部材23自体がその中心線51を基準として、対称な形状とされている。さらに、ガイド部材23の両端部52,52は、先端が細くなる断面三角状にされ、両当接部41,42をたわみ易くしている。ガイド部材23自体が対称な形状とされている結果、金属芯部43と同様な金属芯部53が右当接部42に配置されている。すなわち、ガイド板22に当接する部分(
図2の下側部分)と、右付勢バネ25に当接する部分(
図2の上側部分)が樹脂材とされ、その両者の中心には心材としての金属が埋め込まれ、金属芯部53が形成されている。
【0029】
右当接部42の背面側には、右付勢バネ25が配置されているが、この右付勢バネ25の中心を通るように、円柱部44と同様な円柱部54がガイド部材23の背面から垂直に突出している。この円柱部54は、右付勢バネ25を支持するものであり、右付勢バネ25の長さが拡大、縮小できるよう、右付勢バネ25の設置時の長さより小さくされている。この円柱部54と上述した円柱部44は、共に、次のような形状としてもよい。すなわち、ガイド部材23とキャリッジ11の両者から突出した部材を設け、その両先端を対向させ、かつ間隔をあけるように設置したり、キャリッジ11側のみに設置したり、時には、省略したりしてもよい。
【0030】
また、右当接部42は、
図2において、紙面に対し垂直方向に伸びる三角状の切欠き筋55が設けられることで、図において左右に分離され、かつ隣接することとなる2つの当接面を有するものとなっている。この切欠き筋45,55は、ガイド部材23の摩耗粉を逃がす役割を果たしている。また、右当接部41の近傍であって、ガイド部材23の中心に近い側に四角状のたわみ用切欠き部56が設けられ、右当接部42がたわみ用切欠き部56からたわみ可能とされている。このたわみ用切欠き部56の背面には、ガイド部材23をキャリッジ11に対し支持し、位置決めするため、およびガイド部材23の排紙側(奥側)への移動と主走査方向への移動を阻止するために、その先端と外側の面がキャリッジ11に当接または近接する支持軸57がその背面から垂直方向に突出している。また、右当接部42の背面で
図2の右側には、キャリッジ11に勘合し、ガイド部材23の確実な位置決めを行う小さな突起部58が設けられている。この突起部58は、上述の突起部48と共に、その両者の外側の面が、キャリッジ11の内側方向に向いた面であって主走査方向で対向するように設けられた各面に当接しつつ、嵌合し、ガイド部材23の主走査方向の位置決めを行っている。また、ガイド板22をはさんでガイド部材23と対向するようにガイド対向部材59が配置されている。ガイド部材23とガイド対向部材59とで、ガイド板22を挟み込むことで、キャリッジ11がスムーズに案内されることになる。
【0031】
左付勢バネ24と右付勢バネ25は、共に、キャリッジ11の一部と、ガイド部材23の背面との間に設置されている。設置状態では、共に、縮小状態(被押圧状態)とされ、キャリッジ11とガイド部材23の両者を押す(=付勢する)状態とされている。この結果、ガイド部材23の両当接部41,42は、ガイド板22を押圧している状態となり、キャリッジ11は、安定した姿勢状態となる。
【0032】
左付勢バネ24と右付勢バネ25とは、同じ形状の圧縮コイルバネとなっているが、この実施の形態では、左付勢バネ24と右付勢バネ25の付勢力の比を「0.8:1」とし、左付勢バネ24の付勢力を右付勢バネ25の付勢力より弱くしている。このような付勢力の差が生じていても、
図2に示すような停止状態や低速移動状態では、キャリッジ11を回動させるような力が発生しておらず、その姿勢が傾くことはない。しかし、右付勢バネ25の付勢力が左付勢バネ24の付勢力より大きくなっているので、右当接部42におけるガイド板22への押圧力は大きくなり、右当接部42での摩耗量は、左当接部41での摩耗量より大きくなる。ただし、従来は、大きい付勢力に合わせていたので、従来の技術思想では、左当接部41での摩耗量は、右当接部42での摩耗量と同じとなり、この実施の形態に比べ、従来の場合の合計の摩耗量は多くなる。
【0033】
以上の構成のキャリッジ姿勢支持装置10は、以下の特徴を有する。すなわち、付勢部材としては、ガイド板22に沿って、
図2において、左側の左付勢バネ24と右側の右付勢バネ25の計2つが設けられていること。さらに、各付勢バネ24,25の付勢力を、キャリッジ11に加わる回転モーメント力によって各付勢バネ24,25に印加される押圧力に対応させたものとしている。この実施の形態では、回転モーメント力は、各付勢バネ24,25が位置する場所での力とし、「各付勢バネ24,25が位置する場所」としては、後述する点M1や点M2またはガイド板22へのガイド部材23の接触部としている。この形態も、各付勢バネ24,25が位置する場所に該当するものとする。
【0034】
<押圧力に対応させた構成とキャリッジ11の動作>
以下に、「押圧力に対応させた」の内容とキャリッジ11の動作について、
図4〜
図7を参照しながら説明する。
【0035】
プリンター1は、印刷開始の信号を受けて、キャリッジ11が主走査方向に動く。
図4と
図6は、キャリッジ11が図において左から右に加速する時にキャリッジ11に加わる力を示したものである。ベルト21が右方向である矢示Aの方向に引っ張られることで、キャリッジ11は加速する。この加速力を
図6で、B1(右向きの矢示)と表示する。キャリッジ11は、ガイド板22の
図6で示す上側部分に比べ、下側部分の重さがより大きいため、キャリッジ11には、点M1(ガイド板22の中心線P1と、左付勢バネ24の中心線P2の交点)を中心とし、時計回り方向に回転モーメントC1が発生し、キャリッジ11は、
図4と
図6において、時計回り方向に回転しようとする。一方、右付勢バネ25は、ガイド板22を押しており、その押す力の反力N1がキャリッジ11に加わり、反時計方向(矢示C2方向)にキャリッジ11を回転させようとする。回転モーメントC1は、加速力B1×距離L1(点M1からベルト21の中心までの距離)、となる。点M1における右付勢バネ25による回転モーメントC2は、反力N1×距離R1(点M1から点M2での距離)、となる。ここで、点M2は、ガイド板22の中心線P1と、右付勢バネ25の中心線P3の交点である。なお、回転モーメントC1は、点M2または接触部S1では、「C1×(R1÷L1)」となる力(
図6で下方に向く力)が働く。なお、回転モーメントC1、C2を計算する場合、ガイド板22の中心線P1上の点M1,M2や距離R1を採用しているが、これは考え方や計算をしやすくするためのもので、実際は、ガイド板22とガイド部材23の接触部S1,S2やガイド板22とガイド対向部材59の接触部などが基準となる。
【0036】
回転モーメントC1が回転モーメントC2より大きくなる、すなわち、「C1÷R1」の値が反力N1より大きくなると、キャリッジ11の矢示C1方向の回転が生じ、インクの着弾ズレが起こる。すなわち、キャリッジ11の回転により、右付勢バネ25が押し縮められると、キャリッジ11が矢示C1の方向に回転し、キャリッジ11の姿勢が傾く。よって、キャリッジ11の回転を抑え、姿勢を安定させるためには、キャリッジ11の回転モーメントC1に耐え得る右付勢バネ25の付勢力、すなわち、キャリッジ11の加速に耐え得る付勢力、を発生させる必要がある。なお、右当接部42とガイド板22の接触部分は、右当接部42の当接面全体であるが、計算の都合上、その中心を接触部S1としたり、ガイド板22の中心線P1と右付勢バネ25の中心線との交点である点M2としたり、してもよい。また、当接面全体を考慮した計算方法や他の計算方法を採用してもよい。
【0037】
キャリッジ11の急加速が行われた後、キャリッジ11は定速走行される。この定速移動時において、印刷媒体にインクが噴射される。その後、キャリッジはゆっくりと減速される。
図5と
図7は、キャリッジ11が図において、左から右に移動している状態(矢示A)から減速する時にキャリッジ11に加わる力を示したものである。この減速力を
図7で、B2(左向きの矢示)と表示する。キャリッジ11は、ガイド板22の
図7で示す上側部分に比べ、下側部分の重さがより大きいため、キャリッジ11には、点M2を中心とし、反時計回り方向に回転モーメントC3が発生し、キャリッジ11は、
図5と
図7において、反時計回り方向に回転しようとする。一方、左付勢バネ24は、ガイド板22を押しており、その押す力の反力N2がキャリッジ11に加わり、時計方向(矢示C4方向)にキャリッジ11を回転させようとする。回転モーメントC3は、加速力B2×距離L2(点M2からベルト21の中心までの距離)、となり、点M2における左付勢バネ24による回転モーメントC4は、反力N2×距離R2(点M2から左付勢バネ24までの距離)、となる。回転モーメントC3は、点M1または接触部S2では、「C3×(R2÷L2)」となる力(
図7で下方に向く力)が働く。なお、この実施の形態では、距離R1と距離R2が等しくなっている。また、インクの噴射は、定速走行の時のみに行うのが良いが、加速時または/および減速時にも行うようにしても良い。
【0038】
回転モーメントC3が回転モーメントC4より大きくなる、すなわち、「C3÷R2」の値が反力N2より大きくなると、キャリッジ11の矢示C3方向の回転が生じ、インクの着弾ズレが起こる。すなわち、キャリッジ11の回転により、左付勢バネ24が押し縮められると、キャリッジ11が矢示C3の方向に回転し、キャリッジ11の姿勢が傾く。よって、キャリッジ11の回転を抑え、姿勢を安定させるためには、キャリッジ11の回転モーメントC3に耐え得る左付勢バネ24の付勢力、すなわち、キャリッジ11の減速に耐え得る付勢力、を発生させる必要がある。なお、左当接部41とガイド板22の接触部分は、左当接部41の当接面全体であるが、計算の都合上、その中心を接触部S2としたり、ガイド板22の中心線P1と左付勢バネ25の中心線P2との交点である点M1としたり、してもよい。また、当接面全体を考慮した計算方法や他の計算方法を採用してもよい。
【0039】
加速力と減速力が同じであり、距離L1と距離L2が同じであれば、回転モーメントC1と回転モーメントC3が等しくなり、左付勢バネ24と右付勢バネ25の付勢力は等しい設定が最適であるが、加速力と減速力が異なる場合または/および距離L1と距離L2が異なる場合は、それぞれの付勢力を別々に設定することが望ましい。なお、接触部S1,S2での回転モーメント力を考慮するのは、ガイド板22とガイド部材23との接触部分の負荷が問題とされるためである。
【0040】
この実施の形態のプリンター1では、距離L1と距離L2を同じとしているが、矢示A方向では、加速力を大きくし(急加速とし)、減速力を小さくし(緩やかな減速とし)、矢示Aとは逆方向では、加速力を小さくし(この値の絶対値は、矢示A方向の減速力と同じ)、減速力を大きくしている(この値の絶対値は、矢示A方向の加速力と同じ)。このため、キャリッジ11がどちらの方向に動いても、右付勢バネ25側に対し、より大きな回転モーメント力が働き、回転モーメントC1は回転モーメントC3に比べ大きくなる。このため、右付勢バネ25の付勢力を、左付勢バネ24の付勢力より、大きくしている。具体的には、矢示A方向の加速力と矢示Aとは反対方向の減速力の合計と、矢示A方向の減速力と矢示Aとは反対方向の加速力の合計との比、すなわち両者の回転モーメント力の比、が「1:0.8」となっているため、反力N1と反力N2との比が、「1:0.8」となるようにしている。すなわち、右付勢バネ25と左付勢バネ24の付勢力の比を、押圧力の比に対応させ、「1:0.8」としている。このように構成した点が「押圧力に対応させた」の内容である。しかし、後述するように、押圧力の比と完全に対応させるのではなく、単に、押圧力が大きい方の付勢部材の付勢力を大きくし、押圧力が小さい方の付勢部材の付勢力を小さくする場合などを含むものである。
【0041】
両付勢バネ24,25は、圧縮コイルバネとしている。このような圧縮コイルバネの場合、右付勢バネ25の付勢力を大きくし、左付勢バネ24の付勢力を小さくする方法としては、種々の方法が採用できる。たとえば、両付勢バネ24,25のコイル長を同じとし、ばね定数(ニュートンN/長さmm)を右付勢バネ25の方を大きくする方法がある。また、同じばね定数とし、ばね長さを変える方法でも良い。この場合、設置時に、右付勢バネ25の方のたわみ量が大きくなり、右付勢バネ25の付勢力が、左付勢バネ24の付勢力に比べ、大きくなる。このような方法の中の1つを採用することで、上述の分力N11に耐え得る付勢力を有する右付勢バネ25としている。そして、左付勢バネ24の付勢力は、右付勢バネ25の付勢力の0.8倍の付勢力のものとしている。
【0042】
<本実施の形態の主な効果>
キャリッジ11を走査する時の負荷は、左付勢バネ24の付勢力と右付勢バネ25の付勢力の総和(バネにかかる荷重の総和)に比例する。従来は、上述の例で言えば、左付勢バネ24の付勢力を、右付勢バネ25の付勢力と同じ大きさである「1」としていた。このため、キャリッジ11を走査する時の負荷は、大きなものとなっていた。上述の例で言えば、「1+1=2」の大きさとなっていた。この実施の形態のキャリッジ姿勢支持装置10では、加速力、減速力に応じてそれぞれの付勢力を設定することで、キャリッジ11の姿勢安定に必要な合計付勢力を最小にでき、キャリッジ11の走査時の姿勢安定を低負荷で実現することできる。この実施の形態では、上述の例に従えば、「1+0.8=1.8」の付勢力となる。このため、キャリッジ11を駆動するキャリッジモーター(図示省略)を小出力なもの、すなわちサイズの小さなもの、にすることができ、小型化でき、低価格なものにすることができる。また、負荷が小さくなるので、キャリッジ11の駆動時の消費電流が少なくなり、環境に好ましいものとなる。さらには、ガイド部材23の摩耗が減少し、耐久性が向上する。また、印字も、主走査方向の往復動のいずれの方向の動作時においても、従来と同様、安定した印字が行える。
【0043】
この実施の形態では、キャリッジ11の往復動作のときのキャリッジ11の加速力と減速力を異ならせ、各接触部S1,S2におけるキャリッジ11に加わる回転モーメント力を異ならせている。そして、右付勢バネ25と左付勢バネ24の各付勢力を、各接触部S1,S2におけるキャリッジ11に加わるキャリッジ11の加速時と減速時の回転モーメント力に対応させたものとしている。上述の例で言えば、接触部S1における回転モーメントC1と回転モーメントC2が等しくなるように右付勢バネ25のバネ力を決め、接触部S2における回転モーメントC3と回転モーメントC4が等しくなるように左付勢バネ24のバネ力を決めることになる。このため、印字時におけるキャリッジ11の動作制御の自由度が高まり、効率的な印字動作にできる確率が高まると共に付勢部材の合計負荷を小さくでき、低負荷のキャリッジ姿勢支持装置10とすることができる。
【0044】
<他の態様について>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は要旨を変更しない限り、種々変更することができる。たとえば、上述の実施の形態では、「各付勢部材となる左付勢バネ24と右付勢バネ25の各付勢力を、各付勢バネ24,25が位置する場所でのキャリッジ11に加わる回転モーメント力に対応させたものとしている」の例として、右付勢バネ25と左付勢バネ24の付勢力の比を、各接触部S1,S2における押圧力の比に対応させ、「1:0.8」としているものを示した。しかし、押圧力の比が「1:0.8」の場合、右付勢バネ25と左付勢バネ24の付勢力の比を、「1:0.75」としたり、「1:0.85」としたり、「1:0.9」としてもよい。
【0045】
すなわち、各接触部S1,S2におけるキャリッジ11に加わる回転モーメント力から生ずる押圧力のうち、最も大きいものが生ずる位置(上述の例では接触部S1)における付勢部材(上述の例では右付勢バネ25)の付勢力を最も大きくし、他の付勢部材(上述の例では左付勢バネ24)の付勢力を、最も大きくした付勢力より小さくしたものとするようにしても良い。この場合にも、すべての付勢部材の合計負荷を小さくでき、低負荷のキャリッジ姿勢支持装置とすることができる。なお、小さい方の付勢力をあまり小さくしすぎると、姿勢安定の面では弱くなることがあり、好ましくは、押圧力に耐えうる値以上(上述の例では、左付勢バネ24は、右付勢バネ25の付勢力の0.8倍以上の付勢力)とするのが良い。
【0046】
また、キャリッジ11の往復動作のときの一方方向のみで印字が行われる場合や両方向で印字が行われる場合があるが、負荷と印字品質の両者を考えると、両方向での回転モーメント力を考慮する必要があり、各接触部での両方向に対する各最大押圧力の比を取ることとなる。負荷のみを考慮する場合も、両方向での押圧力を考え、各接触部での両方向での各最大押圧力の比をとることとなるが、このときは、印字品質も必然的に安定する。印字品質のみを考慮する場合は、印字が行われる方向での押圧力のみを考慮すれば良い。ただし、仮に、両方向で印字が行われる場合には、両方向での押圧力を考慮することとなり、結果として、負荷と印字品質の両者を考えることとなる。なお、
【0047】
また、各接触部S1,S2に発生するキャリッジ11に加わる各回転モーメント力から生ずる力の比に基づき各付勢バネ24,25の付勢力の比を求め、その比を、最も大きくした付勢力(上述の例では、右付勢バネ25の付勢力)を「1」とし、他の付勢力(上述の例では、左付勢バネ24の付勢力)を「0.X」(Xは正の値:上述の例では8)となる値としたとき、他の付勢力の実際の値を「0.X」以上で「1」未満とするようにしてもよい。この場合には、印字ずれを防ぐことができると共に付勢部材(上述の例では、左付勢バネ24と右付勢バネ25)の合計負荷を小さくでき、低負荷のキャリッジ姿勢支持装置とすることができる。
【0048】
また、上述の実施の形態では、キャリッジ11の加速力と減速力を異ならせているが、同じとした場合にも、距離L1,L2が異なる場合がある。この場合、各接触部S1,S2におけるキャリッジ11に加わる回転モーメント力が異なることとなるので、各押圧力も異なる確率が高い。よって、キャリッジ11の加速力と減速力が同じであっても、各付勢バネ25,24の付勢力を押圧力の比に対応させて異なるものにするのが好ましい。
【0049】
さらに、上述の実施の形態では、印刷ヘッドに対しインクを供給するためのチューブを有するプリンター1となっており、キャリッジ11の回転モーメント力には、チューブの剛性によって生じる回転モーメント力を含むようにするのが好ましい。このようなプリンター1の場合には、キャリッジ11の往復動作のときの加速と減速によって生じる回転モーメント力だけではなく、チューブの剛性によって生じる回転モーメント力を考慮するのが好ましい。このような考慮により、各付勢部材の付勢力を一層適切なものとすることができ、付勢部材の合計負荷をより小さくでき、より低負荷のキャリッジ姿勢支持装置とすることができる。なお、チューブの剛性によって生じる回転モーメント力が小さい場合や計算しづらい場合などでは、チューブの剛性によって生じる回転モーメント力を考慮しないようにしても良い。なお、交換可能なインクカートリッジを使用するプリンターの場合には、キャリッジの往復動作のときの加速と減速によって生じる回転モーメント力だけのみを考慮すれば良い場合が多い。
【0050】
付勢力を求めるため、回転モーメント力を計算する場合、キャリッジ11内のインクの量が満杯のときを対象として計算するのが好ましい。これは、そのときが、最大の回転モーメント力となるからである。しかし、印字品質をある程度、保ちつつ、負荷を小さくしたい場合などでは、キャリッジ11内のインクの量が満杯と空のときの中間のときを対象として計算しても良い。インクカートリッジを使用する場合も、すべてのインクカートリッジのインクが満杯のときを対象とするのが好ましいが、各カートリッジが満杯と空の中間のときの状態を対象として計算しても良い。
【0051】
また、仮に、キャリッジ11が矢示A方向に動く場合の接触部S1に加わる回転モーメント力から発生する付勢部材の軸方向かつ手前側への力をD11とし、接触部S2に加わる回転モーメント力から発生する付勢部材の軸方向かつ手前側への力をD21とし、キャリッジ11が矢示Aとは反対方向に動く場合の接触部S1における同様の力をD31とし、接触部S2における同様の力をD41としたとき、上述の実施の形態の場合、各力が、D11=D31、D21=D42、であった。すなわち、接触部S1では、矢示A方向とその反対のいずれの方向でも同じ大きさの力が加わり、また接触部S2でも、いずれの方向でも同じ大きさの力が加わっていた。その両者の比は、1:0.8であった。しかし、D11とD31が異なり、D21とD41が異なる場合がある。このような場合、各接触部S1,S2では、大きい方の値を取るようにしてもよい。たとえば、D11<D31、D21>D41であった場合、分力の比を得るときは、接触部S1ではD31を取り、接触部S2ではD21を取ることとなる。
【0052】
さらに、上述の実施の形態では、右付勢バネ25と左付勢バネ24の2つの付勢部材を有するプリンター1を示したが、付勢部材は複数であればよく、3つや4つでも良い。また、付勢部材としては、圧縮コイルバネからなるものを示したが、皿バネとしたり、板バネとしたり、引っ張りコイルバネとしたり、さらには、バネ以外の弾性部材(たとえば、ゴム、伸び縮みする樹脂材)としても良い。なお、引っ張りコイルバネの場合、ガイド板22を乗り越えるように設けられ、分力が大きくなる側の引っ張り力を、分力が小さくなる側の引っ張り力に比べ、小さくするようにする。
【0053】
また、回転モーメント力を計算するに当たって、各当接部42,41とガイド板22の接触部分である各接触部S1,S2の所での回転モーメント力を考慮したが、各付勢バネ24,25への押圧力は、実際は、各付勢バネ24,25とキャリッジ11との当接部分に加わる。このため、回転モーメント力の計算において、各付勢バネ25,24とキャリッジ11との当接部分である当接部T1,T2(
図6参照)の所での回転モーメント力と各付勢バネ25,24の軸方向の力を計算してもよい。また、上述したように、各接触部S1,S2を点M1,M2で代用してもよい。
【0054】
回転モーメント力などを計算するに当たって、さらには、各付勢バネ24,25の長さ方向の途中部分の所での回転モーメント力とその軸方向の力を計算してもよい。いずれにしても、ある程度の誤差は生ずるが、回転モーメント力と各付勢バネ25,24の軸方向の力は、各付勢バネ24,25の位置のいずれかの部分や接触部S1,S2や点M1,M2で計算すればよい。すなわち、各付勢部材の付勢力は、各付勢部材が位置する場所やその近傍でのキャリッジ11に加わる回転モーメント力から発生する付勢部材の軸方向の力に対応させたものとすれば良い。
【0055】
なお、距離L1とL2が同じで、距離R1とR2が同じ場合、回転モーメント力の比が、各付勢バネ24,25の押圧力の比に一致する。このように、回転モーメント力の比が、各付勢バネ24,25の押圧力の比に一致する場合は、回転モーメント力の比によって付勢部材の付勢力に差を設けるようにしてもよい。
【0056】
液体噴射装置としては、液体噴射のターゲットとなる紙に印字・描画するプリンター1以外に、ターゲットとなる時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液をターゲットとなる基板上に噴射する噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体をターゲットに噴射する噴射装置等がある。