特許第6040675号(P6040675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040675
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】アレルゲン性能の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20161128BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   G01N33/53 Q
   G01N33/543 545A
   G01N33/53 N
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-213175(P2012-213175)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-66644(P2014-66644A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】鷹野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小林 武
(72)【発明者】
【氏名】大木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】洞ヶ瀬 朝達
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−144635(JP,A)
【文献】 特開2001−214367(JP,A)
【文献】 特開2001−212806(JP,A)
【文献】 特開2007−077372(JP,A)
【文献】 特開2007−177068(JP,A)
【文献】 特開2008−297335(JP,A)
【文献】 特開2011−047778(JP,A)
【文献】 特開2014−066643(JP,A)
【文献】 特開2014−066645(JP,A)
【文献】 特開2014−066646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験製品の抗アレルゲン性能を測定する方法であって、
アレルゲンを含有する固体状試料を、被験製品の被測定面に供給する第1工程、
前記固体状試料を供給した被験製品の被測定面に、当該被測定面と同一表面組成を有する被覆部材を被せ、被測定面と被覆部材との間に前記固体状試料を挟持させた状態で、前記被験製品にアルコールをスプレーすることなく一定時間維持させる第2工程、及び
第2工程後の固体状試料を回収し、固体状試料中のアレルゲンの抗原性を測定する第3工程、
を含むことを特徴とする、抗アレルゲン性能の測定方法。
【請求項2】
前記固体状試料が、ハウスダストである、請求項1に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【請求項3】
前記第3工程におけるアレルゲンの抗原性の測定が酵素免疫法により行われる、請求項1又は2に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【請求項4】
前記被験製品が、建材、又はプラスチック、ゴム、及びセラミックスよりなる群から選択される少なくとも1種を構成素材として含む板状部材である、請求項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【請求項5】
前記被験製品が、その表面の少なくとも一部に抗アレルゲン剤を含有している、請求項1〜4のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【請求項6】
前記被験製品が、少なくとも基材層と表面層を含み、当該表面層が抗アレルゲン剤及び樹脂を含む樹脂組成物により形成されている積層体である、請求項1〜5のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験製品のアレルゲン性能を測定する方法に関する。より詳細には、本発明は、実際の使用環境に近い状態で、しかも高い精度をもって被験製品の抗アレルゲン性能を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルギー疾患に罹患する人が増加傾向にあり、アレルギー疾患の発症防止のために、アレルギー疾患の原因となるダニや花粉等のアレルゲンを室内空間から除去又は不活化することが求められている。そこで、建築物の床材、壁材等の内装用建材、衣服、寝具等の繊維製品等の様々な分野で、抗アレルゲン剤を配合した抗アレルゲン加工製品が開発されている。そこのような抗アレルゲン剤を配合した製品の性能評価の上では、抗アレルゲン性能を測定することが不可欠である。
【0003】
従来、抗アレルゲン加工製品の抗アレルゲン性能の測定方法として、抗アレルゲン加工製品の被測定面にアレルゲンを含有する試験液を供給し、試験液を供給した抗アレルゲン加工製品の被測定面に被覆フィルムを被せ、被覆フィルムと被測定面との間に試験液を広げた状態で抗アレルゲン剤を反応させた後の試験液を回収し、試験液中のアレルゲンの濃度を測定する方法が知られている(特許文献1参照)。通常、抗アレルゲン加工製品は、気相中でアレルゲンと接触して抗アレルゲン性能を発揮するが、特許文献1の方法では、アレルゲンと抗アレルゲン加工製品との接触が液相で行われるため、実際の使用環境における抗アレルゲン加工製品の抗アレルゲン性能を適切に測定できないという問題点がある。また、特許文献1の方法では、抗アレルゲン加工製品が吸水性を示す場合には、測定に使用する試験液が抗アレルゲン加工製品に浸透するため、抗アレルゲン性能を正確に評価できないという問題点もある。更に、特許文献1の方法では、使用する被覆フィルムの特性によって、測定中に試験液のアレルゲン濃度が変動することがあり、精密な測定ができないという欠点もある。具体的には、被覆フィルムとして疎水性のものを使用すると、被覆フィルムが試験液をはじき、それによって測定中に試験液が蒸発して試験液中のアレルゲン濃度が変化することがあり、また、被覆フィルムとして親水性のものを使用すると、被覆フィルムが試験液を吸収してアレルゲン濃度が変化することもあり、測定中に試験液中のアレルゲン濃度を安定に維持できず、これが測定誤差を生じる一因にもなっている。
【0004】
また、抗アレルゲン性能の測定方法として、ダニアレルゲンを直接乗せたフェルト上に抗アレルゲン性不織布を乗せ、アルコール水をスプレーして乾燥した後に、抗アレルゲン性不織布に残存するダニアレルゲン濃度を測定する方法も知られている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の方法では、抗アレルゲン剤にアルコールをスプレーしているため、アルコールによってアレルゲンが変性してしまい、抗アレルゲン性能を正確に測定できないという欠点がある。
【0005】
更に、抗アレルゲン剤を添加した繊維又は繊維製品の抗アレルゲン性能の測定方法として、被験繊維の表面に標準ハウスダストを付着させて一定時間放置した後、当該被験繊維に残存するアレルゲン量を測定する方法も知られている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3の方法では、被験繊維の表面に標準ハウスダストが露出した状態で付着されており、測定中に被験繊維から標準ハウスダストが飛散するため、正確な抗アレルゲン性能を測定することができないという欠点がある。
【0006】
このように、従来の抗アレルゲン性能の測定方法では、実際の使用環境とはかけ離れた状態での測定方法であったり、測定値にバラツキが生じやすい測定法であったりするため、実際の使用環境においてどの程度の抗アレルゲン性能を発揮できるかを正確に評価できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−47778号公報
【特許文献2】特開2001−214367号公報
【特許文献3】特開2008−297335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、実際の使用環境に近い状態で、しかも高い精度をもって被験製品の抗アレルゲン性能を測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、(1)アレルゲンを含有する固体状試料を、被験製品の被測定面に供給する工程、(2)前記固体状試料を供給した被験製品の被測定面に、当該被測定面と同一表面組成を有する被覆部材を被せ、被覆部材と被測定面との間に前記固体状試料を挟持させた状態で一定時間維持させる工程、(3)前記工程後の固体状試料を回収し、固体状試料中のアレルゲンの抗原性を測定する工程を順次実施することにより、被験製品の実際の使用環境に近い状態で、しかも高い精度をもって被験製品の抗アレルゲン性能を測定できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の測定方法を提供する。
項1. 被験製品の抗アレルゲン性能を測定する方法であって、
アレルゲンを含有する固体状試料を、被験製品の被測定面に供給する第1工程、
前記固体状試料を供給した被験製品の被測定面に、当該被測定面と同一表面組成を有する被覆部材を被せ、被測定面と被覆部材との間に前記固体状試料を挟持させた状態で一定時間維持させる第2工程、及び
第2工程後の固体状試料を回収し、固体状試料中のアレルゲンの抗原性を測定する第3工程
を含むことを特徴とする、抗アレルゲン性能の測定方法。
項2. 前記固体状試料が、ハウスダストである、項1に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項3. 前記第3工程におけるアレルゲンの抗原性の測定が酵素免疫法により行われる、項1又は2に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項4. 前記被験製品が、建材、又はプラスチック、ゴム、及びセラミックスよりなる群から選択される少なくとも1種を構成素材として含む板状部材である、項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項5. 前記被験製品が、その表面の少なくとも一部に抗アレルゲン剤を含有している、項1〜4のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項6. 前記被験製品が、少なくとも基材層と表面層を含み、当該表面層が抗アレルゲン剤及び樹脂を含む樹脂組成物により形成されている積層体である、項1〜5のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定方法によれば、被験製品が発揮する抗アレルゲン性能を気相中で測定するので、実際の使用環境に近い状態での被験製品の抗アレルゲン性能を測定でき、被験製品の実際の使用において発揮される抗アレルゲン性能を正確に反映することができる。
【0012】
また、本発明の測定方法によれば、測定値にバラツキが少なく、高い精度で被験製品の抗アレルゲン性能を測定できるので、被験製品の抗アレルゲン性能を高い信頼性をもって評価することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の測定方法は、被験製品の抗アレルゲン性能を測定する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする:
(1)アレルゲンを含有する固体状試料を、被験製品の被測定面に供給する第1工程、
(2)前記固体状試料を供給した被験製品の被測定面に、当該被測定面と同一表面組成を有する被覆部材を被せ、被測定面と被覆部材との間に前記固体状試料を挟持させた状態で一定時間維持させる第2工程、及び
(3)第2工程後の固体状試料を回収し、固体状試料中のアレルゲンの抗原性を測定する第3工程。
以下、本発明の測定方法について詳述する。
【0014】
被験製品
被験製品とは、本発明の測定方法において抗アレルゲン性能の測定対象となる製品である。本発明の測定方法は、抗アレルゲンの添加の有無に拘わらず、被験製品の抗アレルゲン性能を評価できるので、本発明の測定方法に適用される被験製品は、抗アレルゲン剤を含有している製品(以下、抗アレルゲン剤含有製品と表記することもある)、抗アレルゲン剤を含有していない製品、又は抗アレルゲン剤の含有の有無が不明な製品のいずれであってもよい。抗アレルゲン剤含有製品を被験製品とする場合には、当該製品の抗アレルゲン性能の優劣を定性的又は定量的に測定することができる。また、抗アレルゲン剤が添加されていない製品又は抗アレルゲン剤の添加の有無が不明な製品を被験製品とする場合には、当該製品の抗アレルゲン性能の有無ないし優劣を定性的又は定量的に測定することができる。
【0015】
本発明の測定方法において、被験製品の好適な例としては、抗アレルゲン剤含有製品が挙げられる。また、本発明の測定方法では、被験製品の表面において発揮される抗アレルゲン性能を測定するので、抗アレルゲン剤含有製品の中でも、とりわけ、製品の表面の少なくとも一部に抗アレルゲン剤を含有しているものが、被験製品として好適に使用される。
【0016】
被験製品に含有される抗アレルゲン剤としては、アレルゲンを不活化又は分解し得るものであればよく、その種類については特に制限されないが、例えば、水酸基を含有する化合物(即ち、水酸基含有化合物)、好ましくはフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。抗アレルゲン剤として使用可能なフェノール性水酸基を有する化合物としては、具体的には、分子内に複数のフェノール性水酸基、即ちベンゼン環やナフタレン環等の芳香環に結合した水酸基を有する化合物が挙げられる。フェノール性水酸基を有する化合物として、より具体的には、ポリパラビニルフェノール;ポリ(3,4,5−ヒドロキシ安息香酸ビニル);エピカテキン、ガロタンニン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、カテキン等の低分子量ポリフェノール;タンニン酸等の高分子量のポリフェノール等が挙げられる。
【0017】
被験製品の形状については、特に制限されないが、測定簡易性の観点から、フィルム状、シート状、板状等の平面を形成できるものが挙げられる。なお、被験製品が折り曲げ部や円弧部を有するものである場合には、当該被験製品から平面を形成できる部分を選び、必要に応じて切り取って、本発明の測定方法に適用される。
【0018】
被験製品としては、具体的には、壁紙、壁材、床紙、床材、木質シート、樹脂シート等の建材;プラスチック、ゴム、及びセラミックスの少なくとも1種を構成素材として含む板状部材等が挙げられる。また、これらの被験製品は、抗アレルゲン剤を含む樹脂組成物からなる層が表面層として形成されているもの、抗アレルゲン剤を混合した樹脂組成物から成形したもの、抗アレルゲン剤を担持させたもの等であってもよい。
【0019】
本発明の測定方法に適用される被験製品の好適な一例として、少なくとも基材層と表面層を含み、当該表面層が抗アレルゲン剤及び樹脂を含む樹脂組成物により形成されている積層体が挙げられる。当該表面層の形成に使用される樹脂は、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等のいずれであってもよい。また。このような積層体からなる被験製品の好適な具体例としては、壁紙、壁材、床紙、床材等の内装用建材が挙げられる。
【0020】
第1工程
第1工程では、アレルゲンを含有する固体状試料を、被験製品の被測定面に供給する。
【0021】
前記固体状試料に含まれるアレルゲンの種類については、被験製品の用途等に応じて適宜設定されるが、例えば、ダニ、花粉、虫、カビ、ペット等に由来するアレルゲンが挙げられる。より具体的には、チリダニ(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ等)排泄物由来アレルゲン(Der1)、チリダニ虫体由来アレルゲン(Der2)、コナヒョウヒダニの排泄物由来アレルゲン(Derf1)、コナヒョウヒダニ虫体由来アレルゲン(Derf2)、ヤケヒョウヒダニの排泄物由来アレルゲン(Der p1)、ヤケヒョウヒダニ虫体由来アレルゲン(Der p2)、スギ花粉由来のアレルゲン(Cryj1、Cryj2等)、ペット由来アレルゲン(Can f1、Can f2、Fel d1、Fel d2等)、カビ由来アレルゲン(Alta1、Asp f1等)等が挙げられる。これらのアレルゲンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
また、前記固体状試料は、アレルゲンの精製品又はアレルゲンの粗精製品であってもよく、またハウスダストのようにアレルゲンを精製してない状態のものであってもよい。
【0023】
前記固体状試料に含まれるアレルゲン含量については、特に制限されないが、例えば、0.0000001〜100質量%、好ましくは0.000001〜100質量%が挙げられる。
【0024】
また、前記固体状試料を供給する被験製品の被測定面については、特に制限されないが、測定精度をより一層高めるという観点から、通常4〜100000cm2、好ましくは16〜10000cm2に設定すればよい。
【0025】
被験製品の被測定面に対して前記固体状試料を供給する量については、測定対象となる被験製品の使用環境中のアレルゲン存在量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、被験製品の被測定面1cm2当たり、アレルゲン量が0.001〜10ng、好ましくは0.01〜1ngが挙げられる。
【0026】
被験製品の被測定面に、前記固体状試料を供給する方法については、特に制限されず、例えば、被験製品の被測定面に前記固体状試料を振り掛ければよい。また、被験製品の被測定面に前記固体状試料を振り掛けた後に、必要に応じて、刷毛等を用いて、前記固体状試料を被測定面でより均一になるように広げてもよい。
【0027】
第2工程
第2工程では、前記固体状試料を供給した被験製品の被測定面に、該被測定面と同一表面組成を有する被覆部材を被せ、被測定面と被覆部材との間に前記固体状試料を挟持させた状態で一定時間維持させる。斯して、被測定面と被覆部材との間に前記固体状試料を挟持させることにより、前記固体状試料に含まれるアレルゲンが被測定面及び被覆部材による抗アレルゲン反応を受ける。
【0028】
被験製品の被測定面に被せる被覆部材は、当該被測定面と同一表面組を有するものであればよい。即ち、被覆部材は、その表面部分が被験製品の表面部分(被測定面)と同一組成であることを要するが、被覆部材の表面部分以外の組成や層構造は、被覆部材と同一であってもよく、被覆部材とは異なっていてもよい。被覆部材として、具体的には、被験製品と同一の製品;被験製品の表面部分(被測定面)を形成する組成物と同一の組成物を用いて形成された単層部材;被験製品の表面部分(被測定面)を形成する組成物と同一の組成物を用いて形成された表面層が基材層上に積層されてなる積層部材等が挙げられる。なお、前記積層部材において、基材層と表面層との間には、1又は2以上の他の層が更に含まれていてもよい。
【0029】
被覆部材の形状については、被験製品の被測定面を覆うことができることを限度として特に制限されないが、被測定面に供給された固体状試料を安定に挟持させるという観点から、好ましくはシート状が挙げられる。
【0030】
被覆部材の厚さについては、特に制限されないが、例えば、15〜50000μm、好ましくは100〜20000μmが挙げられ、特にシート状の被覆部材を使用する場合には15〜2000μm、好ましくは100〜1400μmが挙げられる。
【0031】
第2工程では、前記固体状試料を供給した被験製品の被測定面の上に被覆部材を被せることにより、被験製品の被測定面と被覆部材で前記固体状試料を挟持させる。このように被覆部材と被測定面との間に前記固体状試料を挟持させた状態にすることで、被験製品の実際の使用環境に近い状態を作製しつつ、被測定面を固体状試料に含まれるアレルゲンと安定に接触させた状態で維持することができる。更に、固体状試料を挟持する被験製品と被覆部材の両表面が同一組成であるので、被験製品の抗アレルゲン性能をより正確に反映させて、固体状試料に含まれるアレルゲンに対する抗アレルゲン反応を進行させることができる。
【0032】
なお、被覆部材として、被覆部材と同一の製品を使用する場合であれば、2つの被験製品を準備し、その内の一方を被覆部材として使用してもよく、また1つの被験製品の表面を被測定面と被覆部材用面に領域分けして使用してもよい。即ち、後者の場合であれば、1つの被験製品を準備し、その表面を被測定面と被覆部材用面とに領域分けを行い、当該被測定面に前記固体状試料を供給した後に、当該被覆部材用面で当該被測定面を覆うように被験製品を折り曲げることにより、本第2工程が行われる。
【0033】
また、被験製品の被測定面と被覆部材の間で前記固体状試料を安定に挟持させるために、必要に応じて、被覆部材の上に錘を置いてもよい。
【0034】
第2工程において、被測定面と被覆部材との間に前記固体状試料を挟持させた状態を維持する時間(即ち、前記固体状試料に含まれるアレルゲンが抗アレルゲン反応を受ける時間)については、特に制限されないが、例えば1〜200時間、好ましくは10〜100時間が挙げられる。
【0035】
第3工程
第3工程では、前記第2工程後の固体状試料を回収し、固体状試料中のアレルゲンの抗原性を測定する。
固体状試料の回収方法については、被測定面と被覆部材との間に挟持されている固体状試料を回収できる方法である限り、特に制限されないが、例えば、溶液洗浄法、吸引回収法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0036】
溶液洗浄法とは、アレルゲンを失活又は変性させない溶液を回収溶液として使用して、被験製品の被測定面と被覆部材の表面を洗い流し、アレルゲンを含む溶液を回収する方法である。前記回収溶液としては、例えば、リン酸緩衝液等の各種緩衝液、精製水、イオン交換水等が挙げられる。これらの回収溶液の中でも、好ましくは緩衝液、更に好ましくはリン酸緩衝液が挙げられる。また、これらの回収溶液には、アレルゲンをより一層安定な状態で回収するために、牛血清アルブミン(BSA)、ウシ胎児血清(FBS)等が含まれていてもよい。
【0037】
また、吸引回収法とは、空気の吸引により固体状試料を回収する方法である。
【0038】
これらの回収法の中でも、再現性をより高めるという観点から、好ましくは溶液洗浄法が挙げられる。
【0039】
回収された固体状試料中のアレルゲンの抗原性の測定方法については、特に制限されないが、例えば、酵素免疫法(ELISA;Enzyme-linked immunosorbent assay)、イムノクロマト法等が挙げられる。これらの測定方法の中でも、アレルゲンの抗原性を高精度に定量するという観点から、好ましくは酵素免疫法が挙げられる。なお、使用するアレルゲンに応じてELISAキットやイムノクロマトキットが市販されており、これらの市販品を使用して、アレルゲンの抗原性を測定することができる。
【0040】
斯して、固体状試料中のアレルゲンの抗原性を測定し、残存しているアレルゲン量に応じて、被験製品が備える抗アレルゲン性能が判定される。即ち、固体状試料中に残存しているアレルゲン量が少ない程、被験製品が備える抗アレルゲン性能が高いと判定され、固体状試料中に残存しているアレルゲン量が多い程、被験製品が備える抗アレルゲン性能が低いと判定される。また、試験前の固体状試料中のアレルゲン量に対して試験後に減少したアレルゲン量の割合をアレルゲン不活化率(%)として算出することにより、被験製品が備える抗アレルゲン性能を客観的に数値化することもできる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
1.実験材料
被験製品
[被験製品1]
被験製品1として、基材層/プライマー層/抗アレルゲン剤を含む表面保護層が順に積層された積層シート(各々5cm角の四角形)を、常法に従って製造したものを使用した。なお、当該被験製品1における基材層は、厚さ60μmの透明ポリプロピレンフィルムに対して、厚さ80μmの着色ポリエチレンを押し出して形成した複層シート(厚さ140μm)を用いた。また、当該被験製品1におけるプライマー層は、「EBRプライマー」(昭和インク工業株式会社製)で塗工量1.5g/m2として形成した。更に、当該被験製品1における表面保護層は、数平均分子量1200の4官能ウレタンアクリレートオリゴマー100質量部、ポリフェノール化合物がジルコニウム化合物に担持された抗アレルゲン剤(「アレリムーブ」、東亞合成株式会社製)10質量部、及び平均粒径5μmの不定形シリカ16質量部を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を、塗工量15g/m2として形成後、電子線(加速電圧165kV、照射量30kGy)を照射することで硬化させることにより形成した。
[被験製品1a]
上記被験製品1の基材層側と厚さ15mmの合板を、接着剤を介して貼り合せて化粧材を製造し、被験製品1aとして使用した。
[被験製品2]
被験製品2として、基材層/プライマー層/抗アレルゲン剤を含まない表面保護層が順に積層された積層シートを、常法に従って製造したものを使用した。当該被験製品2の各層の組成、厚さ、形状、大きさ等については、表面保護層に抗アレルゲン剤を含まないこと以外は、上記被験製品1と同様である。
[被験製品2a]
上記被験製品2の基材層側と厚さ15mmの合板を、接着剤を介して貼り合せて化粧材を製造し、被験製品2aとして使用した。
【0043】
被覆部材
[被覆部材1]
被覆部材1として、上記被験製品1を使用した。
[被覆部材1a]
被覆部材1aとして、上記被験製品1aを使用した。
[被覆部材2]
被覆部材2として、上記被験製品2を使用した。
[被覆部材2a]
被覆部材2aとして、上記被験製品2aを使用した。
[被覆部材3]
被覆部材3として、ポリエチレンフィルム(厚さ130μm、4cm角の四角形)を使用した。
【0044】
アレルゲン含有試料
[固体状試料]
固体状試料として、一般家庭から採取したダニを含むハウスダスト(「ハウスダスト(ダニ)」、株式会社東京環境アレルギー研究所製)を使用した。当該ハウスダスト1mg中には、Derf1が4ng含有されている。
[液状試料]
液状試料として、精製ダニ抗原Derf1(株式会社シバヤギ社製)をアレルゲン濃度が50ng/mLとなるようにリン酸緩衝液(「Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline D8537」、シグマアルドリッチジャパン株式会社製)に溶解した溶液を使用した。
【0045】
2.実験方法
[実施例1]
被験製品及び被覆部材として同一製品を使用して、アレルゲン含有試料として固体状試料を用いて、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、以下の方法で、抗アレルゲン剤含有被験製品、及び抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能を測定した。
【0046】
抗アレルゲン剤含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品1aの表面保護層の上(全面)に固体状試料3mgを均一に振り掛けた。その上に、被覆部材1aを、その抗アレルゲン剤を含む表面保護層が固体状試料と接するように被せて、25℃で24時間静置し、抗アレルゲン反応を進行させた。
【0047】
次いで、1質量%ウシ血清アルブミン(和光純薬工業株式会社製)を含むリン酸緩衝液(「Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline D8537」、シグマアルドリッチジャパン株式会社製)1mlを用いて、被験製品と被覆部材を洗浄することにより固形状粉末を回収した。得られた回収液を遠心分離(12000rpm、60分間)に供することにより、固形物を分離し、アレルゲンが溶解しているアレルゲン溶解液を得た。
【0048】
得られたアレルゲン溶解液に含まれるアレルゲンDerf1量を、Der f1 ELISA kit (6A8/4C1)(Indoor biotechnologies製)を用いてサンドイッチELISA(N=2)を行うことにより定量した。アレルゲン溶解液のアレルゲン量から、回収された前記固形粉末に残存しているアレルゲン量を算出し、下記式に従って、アレルゲンの不活化率を求めた。
【0049】
【数1】
【0050】
前記条件での実験を、5回繰り返して実施し(測定回数(N数)を5回)、求められたアレルゲンの不活化率の測定誤差σ(標準偏差)を下記式に従って算出した。
【0051】
【数2】
【0052】
抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品1a及び被覆部材1aの代わりに、被験製品2a及び被覆部材2aを使用すること以外は、上記抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0053】
[実施例2]
被験製品及び被覆部材として同一製品を使用し、アレルゲン含有試料として固体状試料を用いて、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、以下の方法で、抗アレルゲン剤含有被験製品、及び抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能を測定した。
【0054】
抗アレルゲン剤含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品1と被覆部材1を使用して、抗アレルゲン性能の測定を行った。具体的には、被験製品1a及び被覆部材1aの代わりに被験製品1及び被覆部材1を使用し、被験製品1上の固体状試料を被覆部材1で被覆した際に、当該被覆部材1の上に錘(0.2g、5cm角の四角形状)を乗せたこと以外は、上記実施例1と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0055】
抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品2と被覆部材2を使用して、抗アレルゲン性能の測定を行った。具体的には、被験製品1及び被覆部材1の代わりに、被験製品2及び被覆部材2を使用したこと以外は、上記抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0056】
[実施例3]
被験製品及び被覆部材として、同一表面組成の製品を使用し、アレルゲン含有試料として固体状試料を用いて抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、以下の方法で、抗アレルゲン剤含有被験製品、及び抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能を測定した。
【0057】
抗アレルゲン剤含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品1aと被覆部材1を使用して、抗アレルゲン性能の測定を行った。具体的には、被覆部材1aの代わりに、被覆部材1を使用し、被験製品1a上の固体状試料を被覆部材1で被覆した際に、当該被覆部材1の上に錘(0.2g、5cm角の四角形状)を乗せたこと以外は、上記実施例1と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0058】
抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品2a及び被覆部材2を使用して、抗アレルゲン性能の測定を行った。具体的には、被験製品1a及び被覆部材1の代わりに、被験製品2a及び被覆部材2を使用したこと以外は、上記抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0059】
[比較例1]
被覆部材を使用せず、アレルゲン含有試料として固体状試料を用いて、被験製品の抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、以下の方法で、抗アレルゲン剤含有被験製品、及び抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能を測定した。
【0060】
抗アレルゲン剤含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品として被験製品1aを使用し、被覆部材を使用せずに抗アレルゲン性能を測定した。具体的な測定条件は、被覆部材1aを使用しなかったこと以外は、上記実施例1と同様である。
【0061】
抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品として被験製品2aを使用し、被覆部材を使用せずに抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1aの代わりに、被験製品2aを使用したこと以外は、上記抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0062】
[比較例2]
被験製品及び被覆部材として表面組成が異なる製品を使用し、且つアレルゲン含有試料として液状試料を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、以下の方法で、抗アレルゲン剤含有被験製品、及び抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能を測定した。
【0063】
抗アレルゲン剤含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品1aの表面保護層の上に液状試料0.4mlを滴下した。その上に、被覆部材3を被せて、被験製品1aの表面保護層と被覆部材3との間に液状試料を均一に広げた。この状態で、25℃、相対湿度90%で3時間静置し、抗アレルゲン反応を進行させた。次いで、ピペットを用いて液状試料を回収し、Der f1 ELISA kit (6A8/4C1)(Indoor biotechnologies製) (N=2)を行うことによりアレルゲンDerf1量を定量し、前述する方法に従ってアレルゲンの不活化率を求めた。
前記条件での実験を、測定回数(N数)を5回として実施し、求められたアレルゲンの不活化率の測定誤差σ(標準偏差)を前述する方法に従って算出した。
【0064】
抗アレルゲン剤不含有被験製品の抗アレルゲン性能の測定
被験製品2a及び被覆部材3を使用し、液状試料を用いて、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1aの代わりに、被験製品2aを使用したこと以外は、上記抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0065】
2.実験結果
得られた結果を表1に示す。この結果から、被覆部材として被験製品と同一表面組成のものを使用し、且つアレルゲン含有試料として固体状試料を使用した場合には、測定値のバラツキが少なく、被験製品の抗アレルゲン性能を高精度に測定できることが明らかとなった(実施例1〜3)。一方、被覆部材を使用しなかった場合(比較例1)、及びアレルゲン含有試料として液状試料を使用した場合(比較例2)では、測定値のバラツキが大きくなり、被験製品の抗アレルゲン性能を正確に測定できていなかった。
【0066】
【表1】