(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
蓄熱材は、空調設備や電子部品等種々の分野で利用されている。このような蓄熱材としては、物質の相変化による潜熱を利用するものが注目されている。
相変化による潜熱を利用する蓄熱材(「潜熱型蓄熱材」ともいう)としては、例えば特許文献1に記載されているようにろうやワックスなどのパラフィン類を用いたもの等が知られている。
【0003】
このような潜熱型蓄熱材は、固体から液体への相変化の際に蓄熱し、液体から固体への相変化の際に放熱するため、固体から液体に相変化するときに、ワックス等が流動して漏れ出すことがある。
【0004】
ワックス等の漏れ出しを抑制する方法としては、袋や密閉容器に収容する方法、多孔質物質内に収納する方法、蓄熱材として用いられるワックス等をマイクロカプセル化する方法等が採られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、袋や密閉容器に収容する方法では、充分な強度の容器が必要となってコスト高となることがあったり、使用する容器によっては収容されたワックス等が滲み出してくる可能性もあった。また、多孔質物質内に収納する方法およびマイクロカプセル化する方法では、製造工程が複雑となってコスト高となるうえに、ワックス等の収納量が制限されて充分な性能が得られなかったり、多孔質物質やマイクロカプセルからワックス等が滲み出すこともあった。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ワックスなどの材料の滲みだし(ブリードアウト)を抑制した蓄熱材組成物および蓄熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体を含んだ蓄熱材組成物を用いて作製した蓄熱材では、従来の蓄熱材と比較して顕著にブリードアウトが抑制されることを見出した。本発明はかかる新規な知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体と、パラフィン系ワックスと、を含む蓄熱材組成物である。
また、本発明は、前記蓄熱材組成物を成形してなる蓄熱材である。
【0010】
本発明において、蓄熱材組成物には、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体が含まれるから、当該蓄熱材組成物を用いて作製した蓄熱材においてブリードアウトを抑制することができる。
【0011】
本発明は以下の構成とするのが好ましい。
蓄熱材組成物は、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体を軟化するパラフィン系プロセスオイルをさらに含んでいる構成としてもよい。このような構成とすると、蓄熱材に柔軟性を付与することができ、蓄熱材の用途が広がるので好ましい。
【0012】
スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体100質量部に対して、パラフィン系ワックスを300質量部以上1000質量部以下含んでいてもよい。
ワックスの量が多いと蓄熱性は高まるが、長時間高温状態におかれること等によりワックス等がブリードアウトしやすくなる。そこで上記のような構成とすると、長時間高温状態においても、ブリードアウトを抑制する効果に優れているので好ましい。
【0013】
スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体100質量部に対して、パラフィン系プロセスオイルを100質量部以上250質量部以下含んでいてもよい。
パラフィン系プロセスオイルの量が多いと、長時間高温状態におかれることなどによりプロセスオイル等がブリードアウトしやすくなる。そこで、上記のような構成とすると、適度な柔軟性を有しつつブリードアウトを抑制することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブリードアウトを抑制した蓄熱材組成物および蓄熱材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の蓄熱材組成物は、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体と、パラフィン系ワックスと、を含む。
蓄熱材組成物に含まれるスチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(以下「SEEPS共重合体」ともいう)は熱可塑性ポリマーであり、重量平均分子量が200,000〜400,000で、SEEPS共重合体中のスチレン含有量が25質量%〜35質量%のものが好ましい。
【0017】
SEEPS共重合体としては、当該共重合体を構成するモノマー(スチレン、エチレン、プロピレン)を重合させることによって得られるポリマーや、市販品等を用いることができる。市販品としては、例えば(株)クラレ製のSEPTON(登録商標)4033、SEPTON(登録商標)4055、SEPTON(登録商標)4077、およびSEPTON(登録商標)4099等を用いることができる。SEEPS共重合体としては、ワックスの配合量が多くても蓄熱材の形状を維持できるという点で(株)クラレ製の、SEPTON(登録商標)4055が好ましい。
【0018】
ワックスとしては、飽和炭化水素を主成分とし、常温で固体状あるいは半固体状のものを用いることができる。ワックスとしては、例えば融点(相転移温度)が30〜170℃のものを用いることができ、用途や用いる場所等により選択可能である。
【0019】
ワックスとしては、炭素数が20〜80のノルマルパラフィンを二種以上含むパラフィン系ワックスや、炭素数20〜70のイソパラフィン類やシクロパラフィン類を多く含むマイクロクリスタリンワックス等があげられる。ワックスの具体例としては、日本精蝋(株)製の、SP−0145、FNP−0090、FT−0115、HNP−10、Paraffin Wax−115およびHiMic(登録商標)−2045等があげられる。ワックスとしては、パラフィン系ワックスが好ましい。
【0020】
本発明の蓄熱材組成物には、SEEPS共重合体を軟化する軟化剤として作用するパラフィン系プロセスオイル(以下、「プロセスオイル」ともいう)が含まれていてもよい。プロセスオイルが含まれる蓄熱材組成物から得られる蓄熱材は柔軟性を有しており、蓄熱材としてだけでなく緩衝材としても好適に用いることができる。
【0021】
プロセスオイルとしては、分子量が400〜800のものが好ましい。プロセスオイルの具体例としては、例えば出光興産製PWシリーズ(PW−32、PW−90、PW−380)等があげられる。
【0022】
蓄熱材組成物には、SEEPS共重合体100質量部に対し、パラフィン系ワックスが300質量部以上1000質量部以下含まれているのが好ましい。ワックスの量が多いと蓄熱性は高まるが、長時間高温状態におかれることによりブリードアウトしやすくなる。そこでワックスの含有量を上記のような構成とすると、長時間高温状態におかれた場合でも、ブリードアウトを抑制する効果に優れているので好ましい。
【0023】
蓄熱材組成物には、SEEPS共重合体100質量部に対し、プロセスオイルが、通常0質量部以上500質量部以下含まれている。プロセスオイルの量が多いと、長時間高温状態におかれることなどによりプロセスオイル等がブリードアウトしやすくなるが、プロセスオイルの含有量を、SEEPS共重合体100質量部に対して、100質量部以上250質量部以下とすると、適度な柔軟性を有しつつブリードアウトを抑制することができるので好ましい。
【0024】
本発明の蓄熱材組成物は、SEEPS共重合体およびパラフィン系ワックス、必要に応じプロセスオイルを混合することにより得られる。
SEEPS共重合体およびワックス等の混合方法としては、各成分を混練機に投入して、180〜200℃に加熱した状態で、所定時間混練する方法等があげられる。蓄熱材組成物に、プロセスオイルを配合する場合には、SEEPS共重合体およびワックスとともに混練機に投入して混練する。混練する際の温度および混練時間は、各成分の配合割合やワックスの種類等により適宜調整することができる。
【0025】
次に、本発明の蓄熱材組成物を用いた蓄熱材の作製方法の一例について説明する。蓄熱材組成物を成形用の金型に入れ、プレス機で加圧する(加圧工程)。蓄熱材組成物を加圧する際に、金型に入れた蓄熱材組成物を、軟化可能な温度に加熱すると、蓄熱材を所望の形状に加工しやすくなる。加圧工程を経た後、金型に入れた状態で蓄熱材組成物を室温まで冷却して金型から取り出すと、蓄熱材が得られる。
【0026】
本発明の蓄熱材組成物を用いて作製した蓄熱材は、電子部品において発生する熱を吸熱して温度変化を抑制する用途や、自動車などの空調用途等において有用である。
【0027】
<実施例>
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
(1)蓄熱材(サンプルA1〜D1およびサンプルa1〜d1)の作製
(サンプルA1の作製)
SEEPS共重合体として100質量部の(株)クラレ製、SEPTON(登録商標)4055(重量平均分子量200,000〜300,000)と、ワックスとして100質量部の日本精蝋(株)製のパラフィンワックスSP−0145(分子量500、融点63℃)と、プロセスオイルとして300質量部の出光興産(株)製のパラフィン系プロセスオイルPW380(分子量約760)とを、ニーダー[(株)東洋精機製作所製ラボプラストミル]に投入し、投入原料が180℃になるように加熱しつつ、5分間混練して組成物A1を得た。
【0028】
組成物Aを、シート形状の金型(成形サイズ120mm×120mm×2mm)に流し入れ、加熱プレス機[(株)井元製作所製IMC−180C]を用いて金型温度が150℃となるように加熱しつつ、20MPaの圧力で加圧成形した。加圧成形後、放冷し、金型から取り出したシート状の成形物から20mm×20mm×2mmのシート状のサンプルを切りだしてサンプルA1とした。
【0029】
(サンプルB1、C1、D1の作製)
ワックスの量およびプロセスオイルの量を表1に記載の量に変えたこと以外はサンプルA1と同様にして、サンプルB1、サンプルC1、およびサンプルD1を作製した。
【0030】
(サンプルa1の作製)
SEEPS共重合体100質量部に代えて、Kraton Performance Polymers,Inc製のKRATON(登録商標)G1651H[重量平均分子量200,000〜300,000のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS共重合体)]を100質量部使用したこと以外はサンプルA1と同様にしてサンプルa1を作製した。
【0031】
(サンプルb1、c1、d1の作製)
パラフィンワックスの量およびパラフィン系プロセスオイルの量を表1に記載の量に変えたこと以外はサンプルa1と同様にして、サンプルb1、サンプルc1、サンプルd1を作製した。
【0033】
(2)評価試験1
実施例であるサンプルA1、B1、
及び比較例であるサンプルC1、D1
、a1、b1、c1、d1を用いて、以下の方法によりブリードアウト抑制効果についての評価試験を行った。
【0034】
本評価試験では、各サンプルを、加熱条件(詳細は後述する)ごとに準備した。例えばサンプルB1については、加熱温度80℃で加熱時間が、1時間、2時間、4時間、14時間、24時間、加熱温度100℃で加熱時間が、0.5時間、1時間、2時間、4時間、14時間、24時間、加熱温度120℃で加熱時間が1時間、2時間、4時間の14条件における評価試験を行うので、14個のサンプルを準備した。サンプルb1についてもサンプルB1と同様の加熱条件で評価試験を行うので、14個のサンプルを準備した。サンプルA1およびサンプルa1についてはそれぞれ11個のサンプル、サンプルC1およびサンプルc1についてはそれぞれ10個のサンプル、サンプルD1およびサンプルd1についてはそれぞれ1個のサンプルを準備した。
【0035】
評価試験に先立ち、各サンプルの質量を予め測定し、当該測定値をサンプル初期質量とした。
【0036】
各サンプルを、
図1に示すように、濾紙(JIS P3801 5種A、東洋濾紙株式会社製No.5A直径125mm)の中央に置き、所定温度(80℃、100℃または120℃)に設定した加熱チャンバー内で、所定時間(表2参照)加熱した後、サンプルと濾紙を分離してサンプルの質量を測定した(加熱後のサンプル質量)。
図1中、Rは濾紙、Sはサンプルを示す。
【0037】
サンプル初期質量の測定値および加熱後のサンプル質量の測定値を用いて、以下の式(1)により質量損失(%)を算出して表2に記載した。
質量損失(%)=100×
(サンプル初期質量−加熱後のサンプル質量)/サンプル初期質量 (1)
質量損失の数値が大きいものほど、ブリードアウト量が多いといえる。本評価試験では、質量損失が1%以下の場合、ブリードアウトしないと判断した。
【0038】
さらに、サンプルB1およびサンプルb1をそれぞれ100℃で所定時間(0.5時間、1時間、2時間、4時間、14時間、24時間)加熱したときにおける質量損失を対比するグラフを
図2に示し、サンプルD1とサンプルd1をそれぞれ100℃で24時間加熱した後の質量損失を対比したグラフを
図3に示した。
【0040】
(3)結果と考察
表2、
図2および
図3に示すように、加熱条件(温度および時間)が同一で、ポリマー以外の組成が同一のサンプル同士(例えばサンプルB1のうち100℃で24時間加熱したものと、サンプルb1のうち100℃で24時間加熱したもの)を比較すると、SEEPS共重合体を用いて作製したサンプルA1、B1、C1、D1においてSEBS共重合体を用いて作製したサンプルa1、b1、c1、d1(特許文献1に記載のポリマーを含む蓄熱材組成物から作製した比較の蓄熱材)よりも質量損失が小さいという結果が得られた。
この結果から本発明によれば、公知の蓄熱材よりもブリードアウトを抑制した蓄熱材組成物および蓄熱材を得ることができることがわかった。
【0041】
なお、ワックスおよびプロセスオイルの含有量が少ないサンプルA1では、ブリードアウトしないという結果が得られた。
さらに、SEEPS共重合体100質量部に対して、ワックスを300質量部以上1000質量部以下含む組成物を用いて作製した蓄熱材では、特にブリードアウトが少ないという結果が得られた。この結果よりワックスの量はSEEPS共重合体100質量部に対して300質量部以上1000質量部以下とするのが好ましいということが分かった。
【0042】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、SEEPS共重合体として、(株)クラレ製、SEPTON(登録商標)4055を用いた例を示したが、他のSEEPS共重合体、例えば、SEPTON(登録商標)4033、SEPTON(登録商標)4077、およびSEPTON(登録商標)4099等を用いてもよい。
(2)上記実施例ではワックスとして、日本精蝋(株)製のパラフィンワックスSP−0145を用いた例を示したが、他のワックス、たとえば、日本精蝋(株)製のFNP−0090、FT−0115、HNP−10、Wax−115およびHiMic−2045等を用いてもよい。
(3)上記実施例ではプロセスオイルとして、出光興産製PW−380を用いた例を示したが、他のプロセスオイル、例えば、出光興産製PW−32、PW−90等を用いてもよい。