特許第6040716号(P6040716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040716処理液、容器用鋼板、および、容器用鋼板の製造方法
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  • 特許6040716-処理液、容器用鋼板、および、容器用鋼板の製造方法 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040716
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】処理液、容器用鋼板、および、容器用鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/58 20060101AFI20161128BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C23C22/58
   C23C22/78
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-247218(P2012-247218)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-95121(P2014-95121A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 幹人
(72)【発明者】
【氏名】大島 安秀
(72)【発明者】
【氏名】重國 智文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 威
(72)【発明者】
【氏名】中丸 裕樹
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−242182(JP,A)
【文献】 特開2009−299145(JP,A)
【文献】 特開2009−191284(JP,A)
【文献】 特開2008−184630(JP,A)
【文献】 特開2012−062521(JP,A)
【文献】 特開2012−062518(JP,A)
【文献】 特開2009−068108(JP,A)
【文献】 特開2004−232040(JP,A)
【文献】 特開2006−291246(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0259756(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 30/00
C25D 1/00 − 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板および前記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、前記錫めっき層付き鋼板の前記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板の製造に用いられて、前記皮膜を形成するための処理液であって、
Zr化合物と、Si化合物と、硝酸化合物とを含有し、
Zr量が、3〜40mmol/Lであり、
Si量が、3〜30mmol/Lであり、
NO3-量が、10〜100mmol/Lであり、
F量が、0.1mmol/L未満であり、
前記Zr化合物、および、前記硝酸化合物の一部が、オキシ硝酸ジルコニウムであり、
前記Si化合物が、コロイダルシリカであることを特徴とする処理液。
【請求項2】
さらに、Ti化合物と、乳酸化合物とを含有し、
Ti量が、0.1〜1mmol/Lであり、
乳酸量が、0.2〜2mmol/Lである、請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
前記Ti化合物、および、前記乳酸化合物が、チタンラクテートである、請求項に記載の処理液。
【請求項4】
鋼板および前記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、前記錫めっき層付き鋼板の前記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、
前記皮膜は、請求項に記載の処理液を用いて形成され、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が1.0〜40.0mg/m2であり、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が1.0mg/m2以上60.0mg/m2未満であることを特徴とする容器用鋼板。
【請求項5】
鋼板および前記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、前記錫めっき層付き鋼板の前記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、
前記皮膜は、請求項またはに記載の処理液を用いて形成され、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が1.0〜40.0mg/m2であり、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が1.0mg/m2以上60.0mg/m2未満であり、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのTi換算の付着量が0.1〜1.0mg/m2であることを特徴とする容器用鋼板。
【請求項6】
前記錫めっき層付き鋼板と前記皮膜との間に、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのP換算の付着量が0.5〜30.0mg/m2であるリン含有層を有する、請求項またはに記載の容器用鋼板。
【請求項7】
前記錫めっき層付き鋼板が、表面にニッケル含有層を有する鋼板を用いて形成された、請求項のいずれか1項に記載の容器用鋼板。
【請求項8】
請求項に記載の容器用鋼板を得る、容器用鋼板の製造方法であって、
請求項に記載の処理液中に前記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した前記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、前記皮膜を形成することを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の容器用鋼板を得る、容器用鋼板の製造方法であって、
請求項またはに記載の処理液中に前記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した前記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、前記皮膜を形成することを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の容器用鋼板を得る、容器用鋼板の製造方法であって、
PO43-量が70〜800mmol/Lである前処理液中に前記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した前記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、前記リン含有層を形成した後に、請求項1〜のいずれか1項に記載の処理液中に、前記リン含有層が形成された前記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した前記リン含有層が形成された前記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、前記皮膜を形成することを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記錫めっき層付き鋼板が、表面にニッケル含有層を有する鋼板を用いて形成された、請求項10のいずれか1項に記載の容器用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用鋼板の製造に用いられる処理液、この処理液を用いて製造された容器用鋼板、および、この処理液を用いた容器用鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容器用鋼板(缶用表面処理鋼板)としては、従来から「ぶりき」と称される錫めっき鋼板が広く用いられている。このような錫めっき鋼板では、通常、重クロム酸などの6価のクロム化合物を含有する水溶液中に鋼板を浸漬する、または、この溶液中で電解処理を行うなどのクロメート処理によって、錫めっき表面にクロメート皮膜が形成される。
しかしながら、昨今の環境問題を踏まえて、Crの使用を規制する動きが各分野で進行しており、容器用鋼板においてもクロメート処理に替わる処理技術がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、「Crを用いず、樹脂密着性に優れ」るものとして([0013])、「金属板の少なくとも片面に、ZrおよびOを含む皮膜を有し、該皮膜のF量が片面あたり0.1mg/m2未満であることを特徴とする表面処理金属板」が開示されており([請求項1])、ここでいう「金属板」は「電気Snめっき鋼板」である([請求項3])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−184630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消費者の美観に関する要求の高まりによって、容器用鋼板に求められる種々の特性について、より一層の向上が求められている。
本発明者らは、特許文献1に開示された容器用鋼板(表面処理金属板)について、さらに検討を行なった。その結果、PETフィルム等の樹脂をラミネートした後にレトルト処理を行なった際に、樹脂であるフィルムに対する密着性(以下「樹脂密着性」ともいう)が不十分となる場合があることが分かった。
また、本発明者らは、ラミネート後の容器用鋼板を所定条件下でトマトジュースに浸漬すると、樹脂であるフィルムが変色する場合があり、変色に対する耐性(以下「耐変色性」ともいう)に劣ることが分かった。このとき、本発明者らは、この変色が、めっき層に含まれる錫(Sn)の酸化によるものであることを見出した。
【0005】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、樹脂密着性および耐変色性に優れる容器用鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、容器用鋼板の皮膜を、特定の成分を含む処理液を用いて形成することで、樹脂密着性および耐変色性がいずれも良好となることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(12)を提供する。
(1)鋼板および上記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、上記錫めっき層付き鋼板の上記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板の製造に用いられて、上記皮膜を形成するための処理液であって、Zr化合物と、Si化合物と、硝酸化合物とを含有し、Zr量が、3〜40mmol/Lであり、Si量が、3〜30mmol/Lであり、NO3-量が、10〜100mmol/Lであり、F量が、0.1mmol/L未満であることを特徴とする処理液。
(2)上記Zr化合物、および、上記硝酸化合物の一部が、オキシ硝酸ジルコニウムであり、上記Si化合物が、コロイダルシリカである、上記(1)に記載の処理液。
(3)さらに、Ti化合物と、乳酸化合物とを含有し、Ti量が、0.1〜1mmol/Lであり、乳酸量が、0.2〜2mmol/Lである、上記(1)または(2)に記載の処理液。
(4)上記Ti化合物、および、上記乳酸化合物が、チタンラクテートである、上記(3)に記載の処理液。
(5)鋼板および上記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、上記錫めっき層付き鋼板の上記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、上記皮膜は、上記(1)または(2)に記載の処理液を用いて形成され、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が1.0〜40.0mg/m2であり、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が1.0mg/m2以上60.0mg/m2未満であることを特徴とする容器用鋼板。
(6)鋼板および上記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、上記錫めっき層付き鋼板の上記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、上記皮膜は、上記(3)または(4)に記載の処理液を用いて形成され、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が1.0〜40.0mg/m2であり、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が1.0mg/m2以上60.0mg/m2未満であり、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのTi換算の付着量が0.1〜1.0mg/m2であることを特徴とする容器用鋼板。
(7)上記錫めっき層付き鋼板と上記皮膜との間に、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのP換算の付着量が0.5〜30.0mg/m2であるリン含有層を有する、上記(5)または(6)に記載の容器用鋼板。
(8)上記錫めっき層付き鋼板が、表面にニッケル含有層を有する鋼板を用いて形成された、上記(5)〜(7)のいずれかに記載の容器用鋼板。
(9)上記(5)に記載の容器用鋼板を得る、容器用鋼板の製造方法であって、上記(1)または(2)に記載の処理液中に上記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した上記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、上記皮膜を形成することを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
(10)上記(6)に記載の容器用鋼板を得る、容器用鋼板の製造方法であって、上記(3)または(4)に記載の処理液中に上記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した上記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、上記皮膜を形成することを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
(11)上記(7)に記載の容器用鋼板を得る、容器用鋼板の製造方法であって、PO43-量が70〜800mmol/Lである前処理液中に上記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した上記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、上記リン含有層を形成した後に、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の処理液中に、上記リン含有層が形成された上記錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した上記リン含有層が形成された上記錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、上記皮膜を形成することを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
(12)上記錫めっき層付き鋼板が、表面にニッケル含有層を有する鋼板を用いて形成された、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の容器用鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂密着性および耐変色性に優れる容器用鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】180°ピール試験を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔容器用鋼板〕
本発明の容器用鋼板は、錫めっき層付き鋼板と、錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有し、この皮膜が、後述する本発明の処理液を用いて形成されることにより、樹脂密着性および耐変色性に優れる。
以下に、錫めっき層付き鋼板、および、皮膜の具体的な態様について詳述する。まず、錫めっき層付き鋼板の態様について詳述する。
【0011】
<錫めっき層付き鋼板>
錫めっき層付き鋼板は、鋼板および鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する。以下に、鋼板および錫めっき層の態様について詳述する。
【0012】
(鋼板)
錫めっき層付き鋼板中の鋼板の種類は特に制限されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板(例えば、低炭素鋼板、極低炭素鋼板)を用いることができる。この鋼板の製造方法、材質なども特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。
【0013】
鋼板は、必要に応じて、その表面にニッケル(Ni)含有層を形成したものを用い、該Ni含有層上に錫めっき層を形成してもよい。Ni含有層を有する鋼板を用いて錫めっきを施すことにより、島状Snを含む錫めっき層を形成することでき、溶接性が向上する。
Ni含有層としてはニッケルが含まれていればよく、例えば、Niめっき層、Ni−Fe合金層などが挙げられる。
鋼板にNi含有層を付与する方法は特に制限されず、例えば、公知の電気めっきなどの方法が挙げられる。また、Ni含有層としてNi−Fe合金層を付与する場合、電気めっきなどにより鋼板表面上にNi付与後、焼鈍することにより、Ni拡散層を配位させ、Ni−Fe合金層を形成することができる。
Ni含有層中のNi量は特に制限されず、片面当たりの金属Ni換算量として50〜2000mg/m2が好ましい。上記範囲内であれば、耐硫化黒変性により優れ、コスト面でも有利となる。
【0014】
(錫めっき層)
錫めっき層付き鋼板は、鋼板表面上に錫めっき層を有する。該錫めっき層は鋼板の少なくとも片面に設けられていればよく、両面に設けられていてもよい。
錫めっき層中における鋼板片面当たりのSn付着量は、0.1〜15.0g/m2が好ましい。Sn付着量が上記範囲内であれば、容器用鋼板の外観特性と耐食性に優れる。なかでも、これらの特性がより優れる点で、0.2〜15.0g/m2が好ましく、加工性がより優れる点で、1.0〜15.0g/m2がさらに好ましい。
【0015】
なお、Sn付着量は、電量法または蛍光X線により表面分析して測定することができる。蛍光X線の場合、金属Sn量既知のSn付着量サンプルを用いて、金属Sn量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、同検量線を用いて相対的に金属Sn量を特定する。
【0016】
錫めっき層は、鋼板表面上の少なくとも一部を覆う層であり、連続層であってもよいし、不連続の島状であってもよい。
【0017】
錫めっき層としては、錫をめっきして得られる錫めっき層、または、錫めっき後通電加熱などにより錫を加熱溶融させ、錫めっき最下層(錫めっき/地鉄界面)にFe-Sn合金層が一部形成した錫めっき層も含む。
また、錫めっき層としては、Ni含有層を表面に有する鋼板に対して錫めっきを行い、さらに通電加熱などにより錫を加熱溶融させ、錫めっき最下層(錫めっき/地鉄界面)にFe−Sn−Ni合金、Fe−Sn合金層などが一部形成した錫めっき層も含む。
【0018】
錫めっき層の製造方法としては、周知の方法(例えば、電気めっき法や溶融したSnに浸漬してめっきする方法)が挙げられる。
例えば、フェノールスルフォン酸錫めっき浴、メタンスルフォン酸錫めっき浴、またはハロゲン系錫めっき浴を用い、片面あたり付着量が所定量(例えば、2.8g/m2)となるように鋼板表面にSnを電気めっきした後、Snの融点(231.9℃)以上の温度でリフロー処理を行って、錫単体のめっき層の最下層にFe−Sn合金層を形成した錫めっき層を製造できる。リフロー処理は省略した場合、錫単体のめっき層を製造できる。
【0019】
また、鋼板がその表面上にNi含有層を有する場合、Ni含有層上に錫めっき層を形成させ、リフロー処理を行うと、錫単体のめっき層の最下層(錫めっき/鋼板界面)にFe-Sn−Ni合金層、Fe−Sn合金層などが形成される。
【0020】
<皮膜>
皮膜は、上述した錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面上に配置される。
皮膜は、その成分として、Zr(ジルコニウム元素)およびSi(ケイ素元素)を含有する。さらに、皮膜は、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量(以下、「Zr付着量」ともいう)が1.0〜40.0mg/m2であり、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量(以下、「Si付着量」ともいう)が1.0mg/m2以上60.0mg/m2未満である。
上記Zr付着量は、樹脂密着性および耐変色性がより優れるという理由から、5.0〜25.0mg/m2が好ましく、9.0〜22.0mg/m2がより好ましい。
上記Si付着量は、樹脂密着性がより優れるという理由から、10〜40mg/m2が好ましく、15〜30mg/m2がより好ましい。
【0021】
ここで、皮膜のSiとZrとの質量比(Si/Zr)については、樹脂密着性および耐変色性がより優れるという理由から、0.10以上2.00未満が好ましく、0.60〜1.50が好ましく、0.75〜1.00がより好ましい。
【0022】
皮膜は、さらにTi(チタニウム元素)を含有していてもよい。皮膜がSiと併用してTiを含有することで、Siの作用による樹脂密着性の効果がより優れる。このとき、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのTi換算の付着量(以下、「Ti付着量」ともいう)は、例えば、0.1〜1.0mg/m2であり、上記効果がさらに優れるという理由から、0.7〜1.0mg/m2が好ましく、0.5〜1.0mg/m2がより好ましい。
【0023】
また、皮膜は、より優れた樹脂密着性および耐変色性が得られるという理由から、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのF換算の付着量(以下、「F付着量」ともいう)が、0.2mg/m2未満であるのが好ましく、0.1mg/m2未満がより好ましく、0.07mg/m2未満がさらに好ましく、0.05mg/m2未満が特に好ましく、皮膜がF(フッ素元素)を実質的に含有しない態様が最も好ましい。
【0024】
上述したZr付着量、Si付着量、およびTi付着量は、蛍光X線による表面分析により測定することができる。
F付着量は、XPS分析により皮膜の最表面におけるZrとFとの原子比を測定し、上記の蛍光X線による表面分析で測定したZr付着量を基に算出することができる。
【0025】
なお、皮膜中のZr、Si、Ti等は、それぞれ、各種のジルコニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物として含まれ、これら化合物の種類や態様は特に限定されない。
【0026】
また、後述する本発明の処理液に、チタンラクテート〔Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2〕等の乳酸化合物が含まれる場合においては、皮膜の赤外線吸収(IR)スペクトルにおいて、波数1050〜1150cm-1の範囲に、第二級ヒドロキシ基(CH−OH)に由来する吸収ピークを示す、すなわち、皮膜中に第二級ヒドロキシ基が含まれると考えられる。
【0027】
赤外線吸収(IR)スペクトルの測定条件は、例えば以下のものが挙げられる。
装置: Varian製 FTS−3100
測定方法: ATR/GEプリズム
分解能: 4cm-1
積算回数: 32回
【0028】
<リン含有層>
本発明の容器用鋼板は、上述した錫めっき層付き鋼板と、上述した皮膜との間に、P(リン元素)を含有するリン含有層を有するのが好ましい。具体的には、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのP換算の付着量(以下、「P付着量」ともいう)が、0.5〜30.0mg/m2であるリン含有層を有するのが好ましい。
このようなリン含有層を有することで、本発明の容器用鋼板における錫めっき層の酸化が抑制されて、耐変色性がより優れる。また、リンを含有する層は、PETフィルム等の樹脂に対する密着性が劣る場合があるが、本発明において、リン含有層は上述した皮膜に覆われるため、樹脂密着性も良好である。
そして、本発明の容器用鋼板の耐変色性がさらに優れるという理由から、リン含有層のP付着量は、1.0〜10.0mg/m2が好ましく、2.0〜5.0mg/m2がより好ましい。なお、P付着量は、蛍光X線による表面分析により測定できる。
【0029】
〔容器用鋼板の製造方法、処理液〕
上述した本発明の容器用鋼板を製造する方法としては、後述する本発明の処理液中に錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、本発明の処理液中に浸漬した錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、上述した皮膜を形成する皮膜形成工程を少なくとも備える方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)であるのが好ましい。
以下、本発明の製造方法について説明を行い、この説明の中で、併せて本発明の処理液についても説明する。
【0030】
<皮膜形成工程>
皮膜形成工程は、錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面上に、上述した皮膜を形成する工程であって、後述する本発明の処理液中に錫めっき層付き鋼板を浸漬する(浸漬処理)、または、浸漬した鋼板に陰極電解処理を施す工程である。陰極電解処理は、浸漬処理よりも、より高速に、均一な皮膜を得ることができるという理由から好ましい。なお、陰極電解処理と陽極電解処理とを交互に行う交番電解を実施してもよい。
以下に、使用される本発明の処理液、陰極電解処理の条件などについて詳述する。
【0031】
(本発明の処理液)
本発明の処理液は、概略的には、上記皮膜にZrを供給するZr供給源としてZr化合物を含有し、上記皮膜にSiを供給するSi供給源としてSi化合物を含有する。本発明の容器用鋼板は、本発明の処理液を用いて皮膜が形成されることにより、樹脂密着性および耐変色性に優れる。
上記効果が得られるメカニズムは明らかではないが、皮膜中に析出するSi化合物が大きな比表面積かつ針状の形状を有しており、この化合物によるアンカー効果によって樹脂(フィルム)と皮膜との密着性が向上する、樹脂と皮膜との界面において高温下での水分の拡散が抑制されることで錫めっき層におけるSnの酸化が抑制される、皮膜中でZrとの複合化合物を形成することで上記効果が相乗的に向上する等の理由が考えられる。
なお、上記メカニズムは推測であり、上記メカニズム以外であっても本発明の範囲内であるとする。
【0032】
本発明の処理液が含有するZr化合物について、Zrに換算した量(「Zr量」ともいう)は、3〜40mmol/Lである。Zr量が3mmol/L未満であると、形成される皮膜において、樹脂密着性を確保するためのZr付着量の確保が困難となる。一方、Zr量が40mmol/Lを超えると、効果が飽和し、コストの観点からも好ましくない。しかし、Zr量が3〜40mmol/Lであれば樹脂密着性が優れる。この効果がより優れるという理由から、Zr量は、5〜30mmol/Lが好ましく、10〜20mmol/Lがより好ましい。
【0033】
本発明の処理液が含有するZr化合物としては、処理液のpH変動に対して沈殿が発生せず、安定的であるという理由から、オキシ硝酸ジルコニウムであるのが好ましい。オキシ硝酸ジルコニウム〔ZrO(NO32〕は、硝酸ジルコニルとも呼ばれる。本発明の処理液がオキシ硝酸ジルコニウムを含有することで、ジルコンフッ化カリウム等のフッ素系のジルコニウム供給源が不使用となり、皮膜のF付着量が低減される。
【0034】
本発明の処理液が含有するSi化合物について、Siに換算した量(「Si量」ともいう)は、3〜30mmol/Lである。Si量が3mmol/L未満であると、形成される皮膜において、樹脂密着性を確保するためのSi付着量の確保が困難となる。一方、Si量が30mmol/Lを超えると、耐変色性が劣るため好ましくない。しかし、Si量が3〜30mmol/Lであれば樹脂密着性および耐変色性に優れる。この効果がより優れるという理由から、Si量は、5〜20mmol/Lが好ましい。
【0035】
本発明の処理液が含有するSi化合物としては、処理液の安定性と成膜性に優れるという理由から、コロイダルシリカであるのが好ましい。コロイダルシリカは、SiO2を基本単位とする水中分散体である。水分の量は特に限定されないが、通常コロイダルシリカ中に、固形分量として20〜30質量%のSiO2を含有する。
本発明に用いるコロイダルシリカの平均粒子径は、特に限定されないが、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。コロイダルシリカの平均粒子径がこの範囲であれば、皮膜中に析出するSi化合物の比表面積がより大きくなり、樹脂密着性がより優れる。
一方、コロイダルシリカの平均粒子径の下限値は特に限定されず、例えば、1nm以上が好ましい。
なお、平均粒子径はBET法(吸着法による比表面積から換算)により測定できる。また、電子顕微鏡写真から実測した平均値で代用することも可能である。
このようなコロイダルシリカとしては、市販品を用いることができ、具体的には、例えば、日産化学工業社製のスノーテックスO(平均粒子径:10〜20nm)、スノーテックスOXS(平均粒子径:4〜6nm)、スノーテックスOS(平均粒子径:8〜11nm)、扶桑化学工業社製のPL−2L(平均粒子径:15〜20nm)等が挙げられる。
【0036】
さらに、本発明の処理液は、硝酸化合物を含有し、硝酸イオン(NO3-)に換算した量(「NO3-量」ともいう)は、10〜100mmol/Lである。NO3-量が10mmol/L未満であると、処理液中の伝導度の確保が困難となり、高速操業性が低下する。一方、NO3-量が100mmol/Lを超えると、形成される皮膜において、樹脂密着性を確保するためのZr付着量およびTi付着量の確保が困難となる。しかし、NO3-量が10〜100mmol/Lであれば、高速操業性および樹脂密着性が優れる。この効果がより優れるという理由から、NO3-量は、20〜80mmol/Lが好ましく、20〜50mmol/Lがより好ましい。
【0037】
本発明の処理液が含有する硝酸化合物としては、硝酸イオン(NO3-)を与えるものであれば、特に限定されず、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム等の硝酸塩が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、処理液の安定性に優れるという理由から、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムが好ましい。
また、本発明の処理液は、硝酸化合物として、これら硝酸塩のほかに、上記Zr化合物としてのオキシ硝酸ジルコニウムを含有していてもよい。すなわち、本発明の処理液においては、Zr化合物が硝酸化合物を兼ねていてもよい。
【0038】
さらに、本発明の処理液は、形成される皮膜のF付着量を低減する観点から、F換算したF化合物の量(「F量」ともいう)が、0.1mmol/L未満であり、0.05mmol/L未満が好ましく、F化合物を実質的に含有しない態様が特に好ましい。
【0039】
本発明の処理液は、さらに、上記皮膜にTiを供給するTi供給源として、Ti化合物を含有していてもよく、Tiに換算した量(「Ti量」ともいう)が、0.1〜1mmol/Lが好ましい。Ti量が0.1mmol/L未満であると、形成される皮膜において、樹脂密着性を確保するためのTi付着量の確保が困難となる場合がある。一方、Ti量が1mmol/Lを超えると、耐変色性が劣化する場合がある。しかし、Ti量が0.1〜1mmol/Lであれば、樹脂密着性および耐変色性がより優れる。これら効果がさらに優れるという理由から、Ti量は、0.2〜0.8mmol/Lが好ましい。
【0040】
本発明の処理液が含有するTi化合物としては、例えば、チタンラクテート、チタンフッ化水素酸、六フッ化チタン酸カリウム、シュウ酸チタニルカリウム、硫酸チタン等が挙げられるが、形成される皮膜において、樹脂密着性を確保するためのTi付着量を確保しやすいという理由から、チタンラクテートであるのが好ましい。チタンラクテート〔Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2〕は、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタンとも呼ばれ、本発明では、そのアンモニウム塩(モノアンモニウム塩、ジアンモニウム塩)をも含むものとする。
本発明の処理液がこのようなチタンラクテートを含有することで、形成される皮膜は第二級ヒドロキシ基(CH−OH)を有すると考えられる。また、チタンフッ化水素酸等のフッ素系のチタン供給源が不使用となるため、皮膜のF付着量が低減される。
【0041】
そして、本発明の処理液は、乳酸化合物を含有していてもよく、乳酸(CH3CH(OH)COOH)に換算した量(「乳酸量」ともいう)は、0.2〜2mmol/Lであるのが好ましい。乳酸量が0.2mmol/L未満であると、形成される皮膜において、樹脂密着性が劣化する場合がある。一方、乳酸量が2mmol/Lを超えると、効果が飽和し、コストの観点からも好ましくない場合がある。しかし、乳酸量が0.2〜2mmol/Lであれば、樹脂密着性がより優れる。この効果がさらに優れるという理由から、乳酸量は、0.4〜1.6mmol/Lが好ましい。
【0042】
本発明の処理液が含有する乳酸化合物としては、特に限定されず、例えば、乳酸ならびに従来公知の乳酸塩、乳酸エステル、乳酸キレート等が挙げられるが、本発明の処理液は、このような乳酸化合物として、上記Ti化合物としてのチタンラクテートを含有することができる。すなわち、本発明の処理液においては、乳酸化合物がTi化合物を兼ねていてよい(または、Ti化合物が乳酸化合物を兼ねていてよい)。
【0043】
なお、本発明の処理液中の溶媒としては、通常水が使用されるが、有機溶媒を併用してもよい。
【0044】
本発明の処理液のpHは、特に限定されないが、pH2.0〜5.0が好ましい。この範囲内であれば、処理時間を短くすることができ、かつ、処理液の安定性に優れる。
pHの調整には公知の酸成分(例えば、リン酸、硫酸、硝酸)・アルカリ成分(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水)を使用することができる。
【0045】
本発明の処理液には、必要に応じて、ラウリル硫酸ナトリウム、アセチレングリコールなどの界面活性剤が含まれていてもよい。また、付着挙動の経時的な安定性の観点から、処理液には、ピロリン酸塩などの縮合リン酸塩が含まれていてもよい。
【0046】
再び皮膜形成工程の説明に戻る。皮膜形成工程において、処理を実施する際の処理液の液温は、皮膜の形成効率、組織の均一性により優れ、かつ、低コストの点から、20〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0047】
皮膜形成工程において、陰極電解処理を実施する際の電解電流密度は、形成される皮膜の樹脂密着性および耐変色性がより優れるという理由から、低電流密度であることが好ましく、より具体的には、0.05〜7.0A/dm2が好ましく、0.5〜5.0A/dm2がより好ましい。本発明の処理液を用いることにより、低電流密度での皮膜の形成が可能となる。
【0048】
このとき、陰極電解処理の通電時間は、付着量低下がより抑制されて安定的に皮膜の形成ができ、形成された皮膜の特性低下がより抑制される点から、0.1〜5秒が好ましく、0.3〜2秒がより好ましい。
【0049】
なお、陰極電解処理の後、必要に応じて、未反応物を除去するため、得られた鋼板の水洗処理および/または乾燥を行ってもよい。なお、乾燥の際の温度および方式については特に限定されず、例えば、通常のドライヤーや電気炉乾燥方式が適用できる。
なお、乾燥処理の際の温度としては、100℃以下が好ましい。上記範囲内であれば、皮膜の酸化を抑制することができ、皮膜組成の安定性が保たれる。なお、下限は特に限定されないが、通常室温程度である。
【0050】
<前処理工程>
本発明の製造方法は、上述した皮膜形成工程の前に、以下に説明する前処理工程を備えていてもよい。
前処理工程は、アルカリ性水溶液(特に、炭酸ナトリウム水溶液)中で錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施す工程である。
通常、錫めっき層の作製時にその表面は酸化されて、錫酸化物が形成される。該鋼板に対して、陰極電解処理を施すことにより、不要な錫酸化物を除去して、錫酸化物量を調整できる。
前処理工程の陰極電解処理の際に使用される溶液としては、アルカリ性水溶液(例えば、炭酸ナトリウム水溶液)が挙げられる。アルカリ性水溶液中のアルカリ成分(例えば、炭酸ナトリウム)の濃度は特に制限されないが、錫酸化物の除去がより効率的に進行する点から、5〜15g/Lが好ましく、8〜12g/Lがより好ましい。
陰極電解処理の際のアルカリ性水溶液の液温は特に制限されないが、40〜60℃が好ましい。陰極電解処理の電解条件(電流密度、電解時間)は、適宜調整される。なお、陰極電解処理の後に、必要に応じて、水洗処理を施してもよい。
【0051】
また、本発明の製造方法が備える前処理工程は、上記工程に限定されず、例えば、リン供給源を含む溶液中に、錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施す工程であってもよい。
このような前処理工程を経ることにより、錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面には、上述したリン含有層が形成される。その後、リン含有層が形成された錫めっき層付き鋼板は、上述した皮膜形成工程を経ることで、皮膜が形成される。
【0052】
ここで、リン含有層を形成する前処理工程に使用される溶液(以下、「本発明の前処理液」ともいう)に含まれるP供給源としては、リン酸イオン(PO43-)を与えるP化合物であれば特に限定されず、例えば、リン酸(オルトリン酸)、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸マンガンなどのリン酸および/またはその塩が挙げられる。
本発明の前処理液中のP化合物について、リン酸イオン(PO43-)に換算した量(「PO43-量」ともいう)は、70〜800mmol/Lであるのが好ましい。PO43-量が70mmol/L未満であると、形成されるリン含有層において、耐変色性を確保するためのP付着量を確保するのが困難となる場合がある。一方、PO43-量が800mmol/Lを超えると、耐変色性の効果が飽和し、コストの観点からも好ましくない場合がある。しかし、PO43-量が70〜800mmol/Lであれば、耐変色性がより優れ、この効果がさらに優れるという理由から、100〜500mmol/Lがより好ましく、200〜400mmol/Lがさらに好ましい。
【0053】
本発明の前処理液を用いてリン含有層を形成する前処理工程において、浸漬または陰極電解処理の際の液温は特に制限されないが40〜60℃が好ましい。また、陰極電解処理の電解条件は適宜調整されるが、例えば、陰極電解処理を実施する際の電解電流密度は、所望のリン付着量を得るという理由から、0.05〜15.0A/dm2が好ましく、1.0〜12.0A/dm2がより好ましい。
このとき、陰極電解処理の通電時間は、特に制限されないが、0.1〜10.0秒が好ましく、0.3〜7.0秒がより好ましい。
短時間で所望のリン付着量を得るためには陰極電解処理を行うことが好ましい。
なお、浸漬または陰極電解処理の後に、必要に応じて、水洗処理を施してもよい。
【0054】
本発明の製造方法によって得られた本発明の容器用鋼板は、DI缶、食缶、飲料缶など種々の容器の製造に使用される。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
<錫めっき層付き鋼板の製造>
以下の2つの方法[(K−1)および(K−2)]によって、錫めっき層付き鋼板を製造した。
(K−1)
板厚0.22mmの鋼板(T4原板)について電解脱脂と酸洗を行い、その後錫めっきを施した。引き続き、錫の融点以上の温度で加熱溶融処理し、第4表に示す片面当たりのSn付着量の錫めっき層をT4原板の両面に形成した。
(K−2)
板厚0.22mmの鋼板(T4原板)を電解脱脂し、ワット浴を用いて第4表に示す片面当たりのNi付着量でニッケルめっき層を両面に形成後、10vol.%H2+90vol.%N2雰囲気中にて700℃で焼鈍してニッケルめっきを拡散浸透させることによりFe−Ni合金層(Ni含有層)(第4表にNi付着量を示す)を両面に形成した。
引き続き、上記表層にNi含有層を有する鋼板を、錫めっき浴を用い、第4表中に示す片面当たりのSn付着量でSn層を両面に形成後、Snの融点以上でリフロー処理を施し、錫めっき層をT4原板の両面に形成した。
【0057】
<皮膜の形成>
第1表に示すに示す組成の前処理液(溶媒:水)に錫めっき層付き鋼板を浸漬し、第3表に示す条件にて、陰極電解処理を行い、リン含有層を形成した(前処理工程)。
その後、得られた鋼板を水洗し、pHを2.4に調整した第2表に示す組成の処理液(溶媒:水)を用い、第3表に示す浴温、電解条件(電流密度、通電時間)で陰極電解処理を施した。その後、得られた鋼板を水洗して、ブロアを用いて室温で乾燥を行い、皮膜を両面に形成した(皮膜形成工程)。
【0058】
作製した鋼板に対して、以下の方法で、樹脂密着性および耐変色性を評価した。各成分量、および、評価結果を第4表にまとめて示す。
リン含有層のP付着量、ならびに、皮膜のZr付着量、Si付着量、Ti付着量およびF付着量は、上述の方法により測定した。
【0059】
<樹脂密着性>
作製した容器用鋼板の両面に、厚さ25μm、共重合比12mol%のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタラートフィルムをラミネートして、ラミネート鋼板を作製した。ラミネートは、210℃に加熱した鋼板とフィルムを一対のゴムロールで挟んでフィルムを鋼板に融着させ、ゴムロール通過後1sec以内に水冷して行った。このとき、鋼板の送り速度は40m/min、ゴムロールのニップ長は17mmであった。ここで、ニップ長とは、ゴムロールと鋼板が接する部分の搬送方向の長さのことである。そして、作製したラミネート鋼板について、次の樹脂密着性の評価を行った。
樹脂密着性の評価は、温度150℃、相対湿度100%のレトルト雰囲気における180°ピール試験により行った。180°ピール試験とは、図1(a)に示すようなフィルム2を残して鋼板1の一部3を切り取った試験片(サイズ:30mm×100mm)を用い、図1(b)に示すように、試験片の一端に重り4(100g)を付けてフィルム2側に180°折り返して30min間放置して行うフィルム剥離試験のことである。そして、図1(c)に示す剥離長5を測定し、次のように樹脂密着性を評価し、◎または○であれば樹脂密着性が良好であるとした。
◎:剥離長が10mm未満
○:剥離長が10mm以上15mm未満
△:剥離長が15mm以上50mm未満
×:剥離長が50mm以上
【0060】
<耐変色性>
作製した容器用鋼板の両面に、樹脂密着性を評価したときと同様にしてラミネートし、ラミネート鋼板を作製した。市販のトマトジュースを入れたビーカーに、ラミネート鋼板の試験片(サイズ:50mm×100mm)を入れ、55℃の恒温槽に20日間放置する試験を行った。気相部(トマトジュースに浸かっていない部分)の変色を評価した。
試験前後のラミネート鋼板のL値、a値、b値をスガ試験機製カラーメーターSM-Tで測定し、試験前後の色差を以下のように計算して求めた。
ΔE=((L試験前−L試験後)2+(a試験前−a試験後)2+(b試験前−b試験後)20.5
その結果、次のように耐変色性を評価し、◎または○であれば耐変色性が良好であるとした。
◎:色差が2未満
○:色差が2以上、7未満
△:色差が7以上、15未満
×:色差が15以上
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
上記第1〜4表に示す結果から明らかなように、本発明例はいずれも樹脂密着性および耐変色性に優れることが確認された。
これに対して、比較例1〜16は、樹脂密着性および耐変色性が劣っていた。
とりわけ、Si量が0mmol/Lである処理液B22またはB23を用いた比較例1,2,12および13は、樹脂密着性が特に劣っていた。Si量が3mmol/L未満である処理液B28を用いた比較例14は、樹脂密着性が良好ではなかった。
また、Zr量が3mmol/L未満である処理液B24またはB25を用いた比較例3,4,7,10および11も、樹脂密着性が特に劣っていた。
また、NO3-量が100mmol/Lを超える処理液B26またはB27を用いた比較例5,6,8および9も、樹脂密着性が特に劣っていた。
また、Si量が30mmol/Lを超える処理液B29を用いた比較例15は、耐変色性が特に劣っていた。
さらに、F量が0.1mmol/Lを超える処理液B31を用いた比較例16は、樹脂密着性および耐変色性がともに劣っていた。
【符号の説明】
【0071】
1 容器用鋼板
2 フィルム
3 鋼板の切り取った部位
4 重り
5 剥離長
図1