特許第6040718号(P6040718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040718ポリエステル組成物、ポリエステルフィルム、並びそれを用いたおよび太陽電池バックシート、ならびに、それらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040718
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物、ポリエステルフィルム、並びそれを用いたおよび太陽電池バックシート、ならびに、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20161128BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20161128BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20161128BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K3/04
   C08K3/02
   C08J5/18CFD
   C08J3/20
【請求項の数】9
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2012-249139(P2012-249139)
(22)【出願日】2012年11月13日
(65)【公開番号】特開2013-129820(P2013-129820A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2015年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-253520(P2011-253520)
(32)【優先日】2011年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
(72)【発明者】
【氏名】堀江 将人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘造
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−057924(JP,A)
【文献】 特開2008−056871(JP,A)
【文献】 特開2011−119651(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052290(WO,A1)
【文献】 特開平01−098635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/03
C08J 3/00−3/28
C08J 5/18
C08K 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(3)の要件を満たす、ポリエステルAとカーボンブラックを用いてなるポリエステル組成物を用いてなるポリエステルフィルム。
(1)ポリエステル組成物中のカーボンブラックの含有量がポリエステル組成物全体に対して1.5重量%以上3.0重量%以下であること。
(2)Mn、CaおよびAlからなる群から選ばれる1種類以上の金属元素を含有し、その含有量がポリエステル組成物全体に対して0.59mol/t以上11.15mol/t以下であること。
(3)リン元素を含有し、かつ、(i)式を満たすこと。
(i) 1.09≦M/P≦2.0
ただし、M=0.5×M1+M2+1.5×M3
また、M1はポリエステル組成物全体に対するアルカリ金属元素の含有量(mol/t)、M2はポリエステル組成物全体に対するMn元素含有量(mol/t)とCa元素含有量(mol/t)の合計(mol/t)、M3はポリエステル組成物全体に対するAl元素含有量(mol/t)、Pはポリエステル組成物全体に対するリン元素の含有量(mol/t)である。
【請求項2】
M/Pが下記式(iii)を満たす、請求項1に記載のポリエステルフィルム
(iii)1.09≦M/P≦1.5
【請求項3】
M/Pが下記式(iv)を満たす、請求項1に記載のポリエステルフィルム
(iv)1.09≦M/P<1.1
【請求項4】
ポリエステル組成物のΔTcgが45℃以上70℃以下である請求項1から3のいずれかに記載のポリエステルフィルム
【請求項5】
Mn、CaおよびAl以外の金属元素の含有量が、ポリエステル組成物全体に対して1000ppm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のポリエステルフィルム
【請求項6】
フィルムの光学濃度が4.0以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルム
【請求項7】
二軸配向されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルム
【請求項8】
下記(5)〜(7)の工程をその順で含む製造方法により得られるポリエステル組成物を用いてなる、請求項1からのいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
(5)2以上のカルボン酸基を有するカルボン酸成分a1と、2以上の水酸基を有するアルコール成分a2に、
酢酸Mnおよび/または酢酸Caを添加し、カルボン酸成分a1とアルコール成分a2を反応させ、
エステル化合物A1と、Mnイオンおよび/またはCaイオンを有する、エステル組成物α1を得る工程。
(6)エステル組成物α1に、リン酸を添加し、エステル化合物A1を重合し、
ポリエステルA、リン酸、ならびに、Mnイオンおよび/またはCaイオンを有するポリエステル組成物αを得る工程。
(7)ポリエステル組成物αにカーボンブラックを添加せしめて、ポリエステル組成物βを得た後に、該ポリエステル組成物βを用いてポリエステル組成物を得る工程。
【請求項9】
前記(5)の工程において、 下記(5−1)または(5−2)の条件を満足する、請求項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
(5−1)前記カルボン酸成分a1の一部が、カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11であり、かつ、該カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11の量が、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対して、0.025mol%以上1.5mol%以下であること。
(5−2)前記アルコール成分a2の一部が、水酸基を3つ以上有するアルコール成分a21であり、かつ、該水酸基を3つ以上有するアルコール成分a21の量が、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対して、0.025mol%以上1.5mol%以下であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿熱性と隠蔽性に優れるポリエステル組成物、ポリエステルフィルムおよび太陽電池バックシート、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレートなど)樹脂は機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。そのポリエステルをフィルム化したポリエステルフィルム、中でも二軸配向ポリエステルフィルムは、その機械的特性、電気的特性などから、太陽電池バックシート、給湯器モーター用電気絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料、磁気記録材料や、コンデンサ用材料、包装材料、建築材料、写真用途、グラフィック用途、感熱転写用途などの各種工業材料として使用されている。
【0003】
これらの用途のうち、電気絶縁材料(例えば太陽電池バックシートなど)では、長期にわたり過酷な環境下で使用されることが多く、ポリエステル樹脂は加水分解により分子量の低下と結晶化度の増大により脆化が進行して機械物性などが低下するため、長期にわたり過酷な環境下で使用される場合、耐湿熱性の向上が求められている。また、太陽電池においては、意匠性の観点から、発電素子への配線などが外側から見えないことが好ましく、太陽電池バックシートには高い隠蔽性も必要とされている。一般的に、フィルムの隠蔽性を向上させるためにはポリエステルフィルムを黒色化することが有効であり、黒色顔料としてポリエステルにカーボンブラックを添加したポリエステルフィルムが考案されている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−98635号公報
【特許文献2】特開2008−56871号公報
【特許文献3】特開2011−119651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエステルにカーボンブラックを添加すると、カーボンブラックが結晶化の核となってポリエステルの結晶化速度が速くなるため、延伸が困難になるだけでなく、該ポリエステルを用いたフィルムを湿熱雰囲気下に置いた場合、フィルムの結晶化度増大の速度が速く、早期に脆化し、フィルムの耐湿熱性が低下するという問題がある。特許文献1では結晶化度増大の速度を遅くするためカーボンブラック添加量を少なくした結果、充分な隠蔽性が得られない。また、特許文献2、3では、充分な隠蔽性が得られるものの、カーボンブラックを添加することによるフィルムの耐湿熱性低下が問題となる。
【0006】
本発明の課題は、かかる従来技術を鑑み、耐湿熱性を低下させることなく充分な隠蔽性を発現するポリエステル組成物およびそれを用いてなるポリエステルフィルムを提供し、さらに、該ポリエステルフィルムを用いた太陽電池バックシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
[I] 下記(1)から(3)の要件を満たす、ポリエステルAとカーボンブラックを用いてなるポリエステル組成物。
(1)ポリエステル組成物中のカーボンブラックの含有量がポリエステル組成物全体に対して1.5重量%以上3.0重量%以下であること。
(2)Mn、CaおよびAlからなる群から選ばれる1種類以上の金属元素を含有し、その含有量がポリエステル組成物全体に対して0.59mol/t以上11.15mol/t以下であること。
(3)リン元素を含有し、かつ、(i)式を満たすこと。
【0008】
(i) 1.09≦M/P≦2.0
ただし、M=0.5×M1+M2+1.5×M3
また、M1はポリエステル組成物全体に対するアルカリ金属元素の含有量(mol/t)、M2はポリエステル組成物全体に対するMn元素含有量(mol/t)とCa元素含有量(mol/t)の合計(mol/t)、M3はポリエステル組成物全体に対するAl元素含有量(mol/t)、Pはポリエステル組成物全体に対するリン元素の含有量(mol/t)である。
[II]M/Pが下記式(iii)を満たす、[I]に記載のポリエステル組成物。
(iii)1.09≦M/P≦1.5
[III]M/Pが下記式(iv)を満たす、[I]に記載のポリエステル組成物。
(iv)1.09≦M/P<1.1
[IV]ポリエステル組成物のΔTcgが45℃以上70℃以下である[I]から[III]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
[V]Mn、CaおよびAl以外の金属元素の含有量が、ポリエステル組成物全体に対して1000ppm以下である、[I]から[IV]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
[VI] [I]〜[V]のいずれかの記載のポリエステル組成物を用いてなるポリエステルフィルム。
[VII]フィルムの光学濃度が4.0以上である、[VI]に記載のフィルム。
[VIII]二軸配向されてなる、[VI]または[VII]に記載のフィルム。
[IX]下記(5)〜(7)の工程をその順で含む、[I]から[V]のいずれかに記載のポリエステル組成物の製造方法。
(5)2以上のカルボン酸基を有するカルボン酸成分a1と、2以上の水酸基を有するアルコール成分a2に、
酢酸Mnおよび/または酢酸Caを添加し、カルボン酸成分a1とアルコール成分a2を反応させ、
エステル化合物A1と、Mnイオンおよび/またはCaイオンを有する、エステル組成物α1を得る工程。
(6)エステル組成物α1に、リン酸を添加し、エステル化合物A1を重合し、
ポリエステルA、リン酸、ならびに、Mnイオンおよび/またはCaイオンを有するポリエステル組成物αを得る工程。
(7)ポリエステル組成物αにカーボンブラックを添加せしめて、ポリエステル組成物βを得た後に、該ポリエステル組成物βを用いてポリエステル組成物を得る工程。
[X]前記(5)の工程において、 下記(5−1)または(5−2)の条件を満足する、[IX]に記載のポリエステル組成物の製造方法。
(5−1)前記カルボン酸成分a1の一部が、カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11であり、かつ、該カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11の量が、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対して、0.025mol%以上1.5mol%以下であること。
(5−2)前記アルコール成分a2の一部が、水酸基を3つ以上有するアルコール成分a21であり、かつ、該水酸基を3つ以上有するアルコール成分a21の量が、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対して、0.025mol%以上1.5mol%以下であること。
[XI] [IX]または[X]に記載のポリエステル組成物を用いてなるポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期に渡る高い耐湿熱性と、隠蔽性を満足するポリエステル組成物やポリエステルフィルムを提供することができる。さらには、かかるフィルムを用いることで、高い耐湿熱性と隠蔽性を兼ね備えた太陽電池バックシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエステル組成物は、ポリエステルAとカーボンブラックを用いてなるものである。
【0011】
本発明のポリエステル組成物におけるポリエステルAの含有率は、ポリエス組成物全体に対して85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。ポリエステルAの含有率を上記の範囲とすることによって、ポリエステル組成物の機械特性を向上させることができる。
【0012】
本発明にて用いられるポリエステルAは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。
【0013】
かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0014】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、芳香族ジオール類等のジオール、上述のジオールが複数個連なったものなどが例としてあげられるがこれらに限定されない。
【0015】
また、本発明のポリエステルAの主成分であるポリエステルは、機械特性、結晶性、耐湿熱性の観点からテレフタル酸とエチレングリコールを主たる構成成分とするポリエステルであることが好ましい。テレフタル酸とエチレングリコールを主たる構成成分とするポリエステルとは、全ジカルボン酸構成成分中におけるテレフタル酸構成成分の割合が90mol%以上100mol%以下、好ましくは95mol%以上100mol%以下であり、かつ全ジオール構成成分中のエチレングリコール構成成分の割合が90mol%以上100mol%以下、好ましくは95mol%以上100mol%以下のポリエステルである。テレフタル酸構成成分の割合が90mol%に満たない、および/またはエチレングリコール構成成分の割合が90mol%に満たないと、機械特性が低下したり、結晶性が低下し耐湿熱性が低下する場合がある。
【0016】
本発明のポリエステル組成物は、ポリエステル組成物全体に対してカーボンブラックを1.5重量%以上3.0重量%以下含有する必要がある。カーボンブラック含有量が1.5重量%に満たないと隠蔽性が充分ではなく、3.0重量%を超えるとポリエステル組成物の結晶化速度が速くなり、耐湿熱雰囲気下での結晶化による脆化が進行しやすく、耐湿熱性に劣る。特に、ポリエステル組成物の形状がフィルム状であるときは、カーボンブラックの含有量を上記の範囲内とせしめることが、隠蔽性や耐湿熱性の点で特に重要である。
【0017】
また、本発明のポリエステル組成物は、耐湿熱性向上の観点から、Mn、CaおよびAlからなる群から選ばれる1種類以上の金属元素を含有する必要がある。本発明における金属元素とは、原子だけではなく、イオン状態でポリエステル組成物中に存在するものも含む。なお、一般的には金属元素はポリエステル組成物中ではイオン状態として存在する。
【0018】
一般的に、湿熱雰囲気下におけるポリエステル組成物の劣化は、ポリエステル組成物中に含有される水分子による加水分解に起因する。この加水分解を抑制するためには、ポリエステル組成物中に存在する金属イオンによって水分子を安定化させることが効果的である。つまり、水分子を金属に水和せしめることが効果的である。この効果の指標として、金属イオンの水和エンタルピーと金属イオンの半径の積を用いることができる。特に、Mn、Ca、Alイオンはこの積が大きいため、より効果的に水分子を安定化させることが可能であり、その結果ポリエステル組成物の耐湿熱性を向上させることができる。Mn、Ca、Al元素の合計の含有量が0.59mol/tに満たないと、水分子を安定化させる効果が充分でない。Mn、Ca、Al元素の合計の含有量が11.15mol/tを超えると、湿熱雰囲気下でのポリエステル組成物に含有される金属元素を触媒とした加水分解反応が優位となり、耐湿熱性が低下する。
【0019】
一方で、Mn、Ca、Al元素はポリエステル組成物中でイオン状態であるため、導電性を持つカーボンブラックと電気的な相互作用を持つと考えられる。この相互作用により、該イオンの周囲にカーボンブラックが凝集する。カーボンブラックが凝集した結果、粗大な凝集粒子が形成され、該粗大粒子がポリエステルの結晶化を促進する。
【0020】
なお、ポリエステル組成物の結晶化のしやすさを示す指標として、ΔTcgがある。
ΔTcgとは、示差走査型熱量測定(DSC)で得られる冷結晶化温度(Tc)(℃)とガラス転移温度(Tg)(℃)との差、すなわちΔTcg=Tc−Tgである。Tcは、JIS K7122(1999)に準じて、昇温速度20℃/minでポリエステル組成物を25℃から300℃まで20℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)、その状態で5分間保持後、次いで25℃以下となるよう急冷し、再度25℃から20℃/minの昇温速度で300℃まで昇温を行って得られた2ndRUNの示差走査熱量測定チャート(縦軸を熱エネルギー、横軸を温度とする)における、吸熱ピークである結晶化ピークのピークトップの温度として求められるものであり、Tgは同様の方法で得られるガラス転移温度である。
【0021】
一般に、ΔTcgの値が小さいほどポリエステル組成物の結晶化速度が速くなり、ポリエステル組成物の耐湿熱性が低下する傾向が見られる。そして、ポリエステル組成物中に、粗大な凝集体がある場合、ΔTcgの値は大きく低下する。
【0022】
したがって、本発明のポリエステル組成物のΔTcgの値は、45℃以上70℃以下であることが好ましい。ΔTcgが45℃に満たないと、結晶化速度が大きいため、湿熱雰囲気下でのポリエステル組成物の結晶化速度が速く、脆化が進行し易いため好ましくない。70℃を超えると、結晶化速度が遅く、ポリエステル組成物が機械特性に劣るため好ましくないことがある。
【0023】
Mn、Ca、Al元素のイオンとカーボンブラックの相互作用を抑制しつつ、ΔTcgを上記の好ましい範囲とするためには、Mn、Ca、Al元素のイオンと相互作用する、ポリエステル組成物中で陰イオンとなる化合物を添加する必要がある。本発明では、ポリエステル組成物中で陰イオンとなる化合物は、耐湿熱性の観点からリン酸であることが好ましい。
【0024】
ポリエステル組成物中で陰イオンとして存在するリン酸の負電荷は、Mn、Ca、Al元素の陽イオンの正電荷と相互作用することで、これら陽イオンの正電荷を打ち消すことになる。その結果、カーボンブラックとMn、Ca、Al元素のイオンとの電気的な相互作用が無くなるため、該イオンの周囲にカーボンブラックが凝集することを抑制することが可能となる。
したがって、本発明のポリエステル組成物はリン元素を含むことが必要である。
【0025】
一方で、リン酸はポリエステル組成物中で陰イオンとして存在するので、ポリエステル組成物中に過剰のリン酸が存在したならば、導電性を持つカーボンブラックと電気的な相互作用を持つと考えられる。この相互作用により、リン酸イオンの周囲にカーボンブラックが凝集する。カーボンブラックが凝集した結果、粗大な凝集粒子が形成され、該粗大粒子がポリエステルの結晶化を促進する。つまり、ポリエステル組成物のΔTcgが大きく低下することになるので、該ポリエステル組成物の耐湿熱性も大きく低下する。
【0026】
そのため、Mn、Ca、Al元素とリン酸の含有量や含有量比を制御することが非常に重要となる。Mn、Ca、Al元素のイオンとカーボンブラックの相互作用を抑制しつつ、ΔTcgを上記の好ましい範囲とするためには、(i)式を満たす必要がある。
【0027】
(i) 0.8≦M/P≦2.0
ただし、M=0.5×M1+M2+1.5×M3
また、M1はポリエステル組成物全体に対するアルカリ金属元素の含有量(mol/t)、M2はポリエステル組成物全体に対するMn元素含有量(mol/t)とCa元素含有量(mol/t)の合計(mol/t)、M3はポリエステル組成物全体に対するAl元素含有量(mol/t)、Pはポリエステル組成物全体に対するリン元素の含有量(mol/t)である。
この式におけるMは、ポリエステル組成物において、リン酸に由来する陰イオンと相互作用する、金属元素の陽イオンの含有量を表すものである。リン酸に由来する陰イオンと相互作用する、金属元素の陽イオンとして、Mn、Ca、Alだけではなく、電気陰性度が大きいアルカリ金属元素の陽イオンも考慮する必要がある。
ただし、ポリエステル組成物中でリン酸に由来する陰イオンは2価であるので、2価の金属元素の陽イオンと1:1で相互作用する。そのため、ポリエステル組成物中で1価の陽イオンとなる金属元素の含有量M1に対しては係数0.5を乗じる必要があり、3価の陽イオンとなる金属元素の含有量M3に対しては係数1.5を乗じる必要がある。
【0028】
M/Pは、より好ましくは0.8以上1.5以下、さらに好ましくは0.8以上1.1未満である。M/Pが小さい場合は、リン化合物が過剰となる。一方、M/Pが大きい場合は、金属イオンが過剰となる。過剰となった金属イオンあるいはリン化合物とカーボンブラックが相互作用することにより、カーボンブラックが凝集し、ポリエステルの結晶化を促進する結果、ΔTcgが低下して耐湿熱性が低下する。
【0029】
M/Pを上記の数値範囲内とすることによって、カーボンブラックをポリエステルに含有せしめても、ポリエステルのΔTcgを低下させることが無く、耐湿熱性と隠蔽性を両立せしめたポリエステル組成物とすることが可能となる。
【0030】
本発明のポリエステル組成物は、金属元素としてMn、Ca、Al元素以外に、アルカリ金属元素(特に、Na元素および/またはK元素)を含んでも良い。これは、本発明のポリエステル組成物にリン酸のアルカリ金属塩(特にリン酸とナトリウムの塩、および/または、リン酸とカリウムの塩)を含有せしめると、耐湿熱性をさらに向上させることができるためである。ただし、アルカリ金属元素をポリエステル組成物に含有せしめる場合は、(i)式が充足される必要がある。
【0031】
また、本発明のポリエステル組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で上記以外の金属元素を含んでいても良い。例えば、Sb、Ti、Geなどは、ポリエステルの重合触媒として有用であるので、本発明のポリエステル組成物はSb元素、Ti元素、Ge元素を含んでも良い。
【0032】
一方で、ポリエステル組成物中に過剰に金属元素が存在したならば、ポリエステル組成物のΔTcgが大きく低下し、ポリエステル組成物の耐湿熱性が著しく低下することがある。したがって、Mn、Ca、Alおよびアルカリ金属元素以外の金属元素を含有せしめる場合は、ポリエステル組成物のΔTcgが上述の範囲外とならないことが重要である。つまり、Mn、Ca、Alおよびアルカリ金属元素以外の金属元素の含有量は、できるだけ少ないことが好ましく、具体的には1000ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、Mn、Ca、Al以外の金属元素の含有量は、500ppm以下であることが好ましい。なお、ここでいう金属元素含有量とは、ポリエステル組成物に可溶な金属元素のことをあらわし、酸化チタンや硫酸バリウムなどのポリエステル組成物に不溶な金属化合物に由来する含有量を含めない。
【0033】
本発明のポリエステル組成物は、固有粘度が0.6以上1.0以下であることが機械特性、耐熱性、耐湿熱性の点から好ましい。より好ましくは、0.65以上0.8以下である。
【0034】
本発明のポリエステル組成物は、COOH末端基量が18eq./t(equivalent/ton)以下であることが耐湿熱性の点から好ましい。さらに好ましくは15eq./t以下である。
【0035】
本発明のポリエステル組成物は、必要に応じて本発明の効果が損なわれない範囲で、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、有機系/無機系の易滑剤、有機系/無機系の微粒子、充填剤、核剤、分散剤、カップリング剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0036】
本発明のポリエステル組成物に含有するカーボンブラックの平均二次粒径は0.5〜50μmであることが好ましい。0.5μm未満以下の場合粒子が細かすぎて充分な隠蔽性が得られないことがある。50μmを超えると、カーボンブラックの凝集が大きすぎて、耐湿熱性が低下する場合がある。また、本発明のポリエステル組成物に含有するカーボンブラックの平均二次粒径を上記の範囲とするためには、ポリエステル組成物に添加するカーボンブラックの平均一次粒径を10nm以上100nm以下とすることが好ましい。
【0037】
一次平均粒径は、電子顕微鏡写真にてカーボンブラックの直径を10個測定し、その平均値を算出することにより求める。
【0038】
次に、本発明のポリエステル組成物の製造方法について、その一例を説明するが、本発明は、かかる例のみに限定されるものではない。
【0039】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、下記(5)から(7)の工程をこの順で含むことが、本発明の効果をより効率的に発現させる観点や、本発明のポリエステル組成物を効率的に得る観点から好ましい。
【0040】
(5)2以上のカルボン酸基を有するカルボン酸成分a1と、2以上の水酸基を有するアルコール成分a2に、酢酸Mnおよび/または酢酸Caを添加し、カルボン酸成分a1とアルコール成分a2を反応させ、エステル化合物A1と、Mnイオンおよび/またはCaイオンを有する、エステル組成物α1を得る工程。
【0041】
(6)エステル組成物α1に、リン酸を添加し、エステル化合物A1を重合し、ポリエステルA、リン酸、ならびに、Mnイオンおよび/またはCaイオンを有するポリエステル組成物αを得る工程。
【0042】
(7)ポリエステル組成物αにカーボンブラックを添加せしめて、ポリエステル組成物βを得た後に、該ポリエステル組成物βを用いてポリエステル組成物を得る工程。
【0043】
本発明でいうカルボン酸基とは、カルボン酸基そのもの、またはカルボン酸のエステルのことを指す。反応性とCOOH末端基低減の観点から、カルボン酸基はカルボン酸のメチルエステルであることが好ましい。
【0044】
工程(5)におけるエステル組成物α1は、エステル化合物A1と、Mnイオンおよび/またはCaイオンの他に、未反応のカルボン酸成分a1とアルコール成分a2を含んでいても構わない。
【0045】
本発明における工程(6)の重合の触媒として、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液、三酸化アンチモン、チタンアルコキシド、チタンキレート化合物などを添加することも好適に行われる。
【0046】
なお、リン酸アルカリ金属塩を添加する場合は、(6)の工程において添加することが好ましい。リン酸、リン酸アルカリ金属塩の添加方法としては、あらかじめエチレングリコールなどに溶解し、混合して添加することが耐湿熱性の点から好ましい。このときの溶媒、分散媒の種類は、本発明のポリエステルに含有される炭素数2〜4の直鎖状アルキレングリコールと同じアルキレングリコールを用いることが耐熱性、耐湿熱性の点から好ましい。異なる種類のアルキレングリコールを使用すると、共重合され、耐熱性が低下することがある。特に、このときの混合液のpHを2.0以上6.0以下の酸性に調整することが異物生成抑制の点から好ましい。さらに好ましくは4.0以上6.0以下である。これらのリン化合物は重合触媒と添加間隔を5分以上あけて添加することが重合反応性の点から好ましく、重合触媒の添加後でも添加前でも構わない。
【0047】
(6)の工程においてリン酸とリン酸アルカリ金属塩を添加する場合、それらの添加量は、ポリエステル組成物αに対してアルカリ金属元素として1.3mol/t以上3.0mol/t以下とし、リン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して、モル数で0.4倍以上1.7倍以下添加することが耐湿熱性の点から好ましい。
【0048】
工程(6)においては、ポリエステル組成物αの固有粘度が0.5以上となるまで重合する事が好ましい。
【0049】
ここで、ポリエステル組成物αの固有粘度を0.5以上に高める場合においては、COOH末端基量を20等量/t以下の範囲で、さらにより少なくする事ができるという点で、重合反応温度をTm(α)+30℃以下とするのが好ましい。ここでTm(α)はポリエステル組成物αの融点である。
【0050】
本発明においては、固有粘度を増加させる観点とCOOH末端基量低減の観点から、工程(6)において固有粘度0.5以上0.6以下で一旦チップ化した後、固相重合反応を行うことが好ましい。本発明における固相重合反応は、重合温度をポリエステル組成物αのTm(α)−30℃以下、Tm(α)−60℃以上、真空度0.3Torr以下で行うことが好ましい。
【0051】
工程(7)では、ポリエステル組成物αにカーボンブラックを添加せしめる手段として、ポリエステル組成物αとカーボンブラックを溶融混練せしめる手段が好ましい。
【0052】
なお、ポリエステル組成物βは、本発明のポリエステル組成物であっても良いし、そうでなくとも良い。これは、ポリエステル組成物βに、それとは別のポリエステルやポリエステル組成物(例えば、ポリエステル組成物α)などを添加せしめて、本発明のポリエステル組成物を得ても良いからである。ポリエステル組成物βにそれとは別のポリエステルなどを添加せしめる手段として、ポリエステル組成物βと別のポリエステルなどを溶融混練せしめる手段が好ましい。
【0053】
また、本発明においては、機械特性、耐湿熱性を向上させる観点から、上記工程(5)において、次の条件(5−1)および/または(5−2)を満たすことが好ましい。
【0054】
(5−1)前記カルボン酸成分a1の一部が、カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11であり、かつ、該カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11の量が、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対して、0.025mol%以上1.5mol%以下であること。
【0055】
(5−2)前記アルコール成分a2の一部が、水酸基を3つ以上有するアルコール成分a21であり、かつ、該水酸基を3つ以上有するアルコール成分a21の量が、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対して、0.025mol%以上1.5mol%以下であること。
【0056】
カルボン酸成分a1の一部がカルボン酸成分a11である場合、またはアルコール成分a2の一部がアルコール成分a21である場合、a11またはa22の部分で分子鎖同士が架橋される。架橋された結果、分子鎖の分子運動性が低下し、加水分解の進行がより抑制されるため好ましい。a11としては、トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ブタンテトラカルボン酸、長鎖脂肪族カルボン酸を3量体化したトリマー酸などの多価カルボン酸およびその無水物やエステル、a21としては、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシヘキサンなどの多価アルコールを挙げることができる。
【0057】
本発明のポリエステル組成物は、その形状を問わない。本発明のポリエステル組成物の具体的な形状として、チップ、ペレット、繊維、フィルム、シートなどを例示することができる。特に、体積に対して表面積が大きい形状であるフィルムでは、一般に耐湿熱性に劣りやすい傾向にあるが、本発明の組成物とすることによって、耐湿熱性を著しく向上させることができる。
【0058】
次に、本発明のポリエステル組成物の形状がフィルムである場合について、特に詳しく説明する。
【0059】
本発明のポリエステルフィルムの光学濃度は4.0以上であることが好ましい。光学濃度が4.0に満たないと隠蔽性が充分でないため好ましくないことがある。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムは、耐湿熱性、機械特性の観点から、二軸配向せしめたフィルムであることが好ましい。一般的に、ポリエステルを配向させると、配向させた方向にヤング率が高くなる。二軸配向させることにより、フィルム平面に対して平行な方向の全方向においてヤング率が均等に高くなり、フィルムの機械特性、加工性、耐湿熱性を向上せしめることができる。本発明においては、ヤング率Eと音波の伝搬速度Cが下記式(a)の相関をもつところ、かかるCはフィルム平面の全方向の平均値で2.0km/s以上であり、かつCの最大値Cmaxと最小値Cminが、下記式(b)を満たすことが好ましい。
(a)E∝C2
(b)1.0≦Cmax/Cmin≦1.3。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは10μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上300μm以下がより好ましい。更に好ましくは、25μm以上250μm以下である。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムは、高い耐湿熱性と隠蔽性を有するものであり、その特長を生かして太陽電池バックシート、給湯器モーター用電気絶縁材料や、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料を始めとした耐湿熱性と隠蔽性が重視されるような用途に好適に使用することができる。これらの中で、太陽電池用バックシート用フィルムとして好適に用いられる。
【0063】
次に、本発明のポリエステル組成物を用いてなるフィルムの製造方法について説明する。この場合、前記(7)の工程の後に、以下の(8)の工程を有することが好ましい
(8)ポリエステル組成物を用いて、フィルムを得る工程。
【0064】
(8)の工程を以下に詳しく説明する。本発明のフィルムが単膜構成の場合、必要に応じて乾燥した原料(ポリエステル組成物など)を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。その他の方法として、原料を溶媒に溶解させ、その溶液を口金からキャストドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して膜状とし、次いでかかる膜層から溶媒を乾燥除去させてシート状に加工する方法(溶液キャスト法)等も使用することができる。
【0065】
また、押出機に投入する原料として、本発明のポリエステル組成物を用いても良いし、ポリエステル組成物βおよびそれとは異なるポリエステルなどを用いても良い。後者の場合、押出機内にてポリエステル組成物βおよびそれとは異なるポリエステルが溶融混練され、該溶融混練体が本発明のポリエステル組成物となる。そして、これを上記の方法で押出すことによって、シート状に成形された本発明のポリエステル組成物を得ることができる。
【0066】
フィルムを溶融キャスト法により製造する場合、乾燥した原料を、押出機を用いて口金からシート状に溶融押出し、表面温度10℃以上60℃以下に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸シートを作製する。この未延伸シートを二軸延伸する事により本発明のポリエステルフィルムを得ることができる。
【0067】
押出機での溶融押出する際は、窒素雰囲気下で溶融させ、押出機へのチップ供給から、口金で押出されるまでの時間は短い程良く、目安としては30分以下、より好ましくは15分以下、更に好ましくは5分以下とすることが、COOH末端基量増加抑制の点で好ましい。
【0068】
この得られた未延伸シートを、ポリエステル組成物のTg以上の温度にて二軸延伸する。二軸延伸する方法としては、フィルムの長手方向とフィルムの幅方向(フィルムの長手方向に垂直な方向)の延伸とを分離して行う逐次二軸延伸方法の他に、長手方向と幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸方法が挙げられる。
【0069】
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、Tg以上Tm未満の温度で1秒間以上30秒間以下の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却することによって、二軸配向せしめたポリエステルフィルムが得られる。
【0070】
本発明のポリエステルフィルムは、機械特性と耐湿熱性の観点から、下記(9)および(10)の工程をこの順で含む方法で製造されてなることが好ましい。
【0071】
(9)シート状に成形したポリエステル組成物をTg以上Tg+40℃以下の温度で、面積倍率12倍以上に逐次二軸延伸する工程(ここでTgは示差走査熱量測定により得られるポリエステル組成物のガラス転移温度(℃)である))。
【0072】
(10)(9)の工程の後、下記式(c)を満たす範囲で熱処理を実施し、ポリエステルフィルムを得る工程。
(c)20℃≦Tm−Th≦90℃
(ここで、Tmは示差走査熱量測定により得られるポリエステル組成物の融点(℃)、Thは熱処理温度(℃)である)。
【0073】
延伸温度がTg以下である場合、延伸ができない。また、Tg+40℃を超えると、フィルムを配向させることができないため好ましくない。面倍が12倍に満たないと、配向が充分でなく、耐湿熱性に劣る。熱処理温度高が高く、(c)式を外れると、結晶化度が高くなり、湿熱雰囲気下での結晶化が促進され、耐湿熱性に劣る。熱処理温度が低く、(c)式を外れると熱寸法安定性に劣る。本発明のフィルムは、上記(9)および(10)の工程をこの順で含む方法で製造することにより、耐湿熱性に優れた二軸配向フィルムとすることができる。
【0074】
このようにして得られたポリエステルフィルムは、耐湿熱性、隠蔽性に優れたものとなる。そのため、本発明のフィルムは、高い耐湿熱性、隠蔽性を要求される太陽電池バックシートの用途に特に好適に用いることができる。
【0075】
[特性の評価方法]
A.ポリエステル組成物の固有粘度IV
オルトクロロフェノール100mlにポリエステル組成物を溶解させ(溶液濃度C=1.2g/dl)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定する。また、同様に溶媒の粘度を測定する。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(d)により、[η](dl/g)を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とする。
(d)ηsp/C=[η]+K[η]・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度(dl/g)/溶媒粘度(dl/g))―1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0076】
B.ポリエステル組成物のリン元素の含有量、ポリエステル組成物の金属元素(ただし、アルカリ金属元素を除く)の含有量
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定する。
【0077】
C.ポリエステル組成物のアルカリ金属元素の含有量
原子吸光分析法(曰立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180−80。フレーム:アセチレンー空気)にて測定する。
【0078】
D.ポリエステル組成物のCOOH末端基量
Mauliceの方法によって測定する(文献M.J. Maulice, F. Huizinga, Anal.Chim.Acta,22 363(1960))。
【0079】
E.ポリエステル組成物の融点(Tm)
JIS K7122(1999)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC−RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて、下記の要領にて、測定を実施する。
【0080】
サンプルパンにポリエステル組成物を5mg秤量し、試料を25℃から300℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し(1stRUN)、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷する。直ちに引き続いて、再度25℃から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行って、2ndRUNの示差走査熱量測定チャート(縦軸を熱エネルギー、横軸を温度とする)を得る。当該2ndRunの示差走査熱量測定チャートの、発熱ピークである結晶融解ピークにおけるピークトップの温度を求め、これをTm(℃)とする。2以上の結晶融解ピークが観測される場合は、最も温度が低いピークトップの温度をTm(℃)とする。
【0081】
F.ポリエステル組成物のガラス転移温度(Tg)
JIS K7122(1999)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC−RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて、下記の要領にて、測定を実施する。
【0082】
サンプルパンにポリエステル組成物を5mg秤量し、試料を25℃から300℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し(1stRUN)、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷する。直ちに引き続いて、再度25℃から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行って測定を行い、2ndRUNの示差走査熱量測定チャート(縦軸を熱エネルギー、横軸を温度とする)を得る。当該2ndRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、ガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から求める。2以上のガラス転移の階段状の変化部分が観測される場合は、それぞれについて、ガラス転移温度を求め、それらの温度を平均した値をポリエステル組成物のガラス転移温度(Tg)(℃)とする。
【0083】
G.ポリエステル組成物の冷結晶化温度(Tc)、ポリエステル組成物のΔTcg
JIS K7122(1999)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC−RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて、下記の要領にて、測定を実施する。
【0084】
サンプルパンにポリエステル組成物を5mg秤量し、試料を25℃から300℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し(1stRUN)、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷する。直ちに引き続いて、再度25℃から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行い、2ndRUNの示差走査熱量測定チャート(縦軸を熱エネルギー、横軸を温度とする)を得る。当該2ndRUNの示差走査熱量測定チャートから、吸熱ピークである冷結晶化ピークのピークトップの温度として求め、これをTc(℃)とする。2以上の冷結晶化ピークが観測される場合は、それぞれのピークのピークトップ温度から冷結晶化温度を求め、それらの温度を平均した値をポリエステル組成物の冷結晶化温度(Tc)(℃)とする。
【0085】
前記の方法で求められるTgとTcを用いて、以下の(e)式からΔTcg(℃)を求める。
(e)ΔTcg=Tc−Tg。
【0086】
H.フィルムの破断伸度測定
ASTM−D882(1997)に基づいて、フィルムを1cm×20cmの大きさに切り出し、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの破断伸度を測定する。なお、サンプル数はn=5とし、また、フィルムの長手方向、幅方向のそれぞれについて測定した後、それらの平均値を求め、これをフィルムの破断伸度とする。
【0087】
I.フィルム中の音波伝搬速度
野村商事株式会社製配向性測定装置SST−4000を用い、フィルム平面に150mmの間隔をあけて発信振動子と受信振動子を置き、音波が伝わる速度を測定する。測定はフィルム長手方向を0°とし、フィルムの垂線を軸としてフィルムを回転させ、5°間隔で全方位測定し、それらの平均値を算出する。また、全方位で測定した音波の伝搬速度のうち、最大伝搬速度Cmaxと最低伝搬速度Cminの比率を算出する。
【0088】
J.フィルムの耐湿熱性
フィルムの機械特性の耐湿熱性は、フィルムを測定片の形状(1cm×20cm)に切り出した後、タバイエスペック(株)製プレッシャークッカーにて、温度125℃、相対湿度100%RHの条件下にて処理を行い、その後上記F.項に従って破断伸度を測定する。なお、測定はn=5とし、また、フィルムの長手方向、幅方向のそれぞれについて測定した後、その平均値を破断伸度E1とする。また、処理を行う前のフィルムについても上記F.項に従って破断伸度E0を測定し、得られた破断伸度E0,E1を用いて、次の(f)式により伸度保持率を算出し、伸度保持率が50%となる処理時間を伸度半減期とする。
(f) 伸度保持率(%)=E1/E0×100。
【0089】
得られた伸度半減期から、フィルムの耐湿熱性を以下のように判定した。
伸度半減期が55時間以上の場合:S
伸度半減期が50時間以上55時間未満の場合:A
伸度半減期が45時間以上50時間未満の場合:B
伸度半減期が40時間以上45時間未満の場合:C
伸度半減期が40時間未満の場合:D
S〜Cが良好であり、その中でもSが最も優れている。
【0090】
K.フィルムの光学濃度
マクベス社製光学濃度計TR−927を用いて測定する。同じサンプルについて同様の測定をランダムに場所を変えて5回行い、得られた平均値を光学濃度とする。
【0091】
フィルムの厚みは50μmとし、厚みが50μmではないフィルムは、50μmになるように、薄い場合は重ねて、厚い場合はミクロトームで削って測定する。
【0092】
隠蔽性については、以下のように評価する。
光学濃度が4.0以上:隠蔽性○
光学濃度が4.0未満:隠蔽性×。
【0093】
L.ポリエステル組成物のカーボンブラック含有量
ポリエステル組成物100gにオルトクロロフェノール1.0リットルを加え120℃で3時間加熱した後、日立工機(株)製遠心分離装置55P−72を用い、30000rpmで40分間遠心分離を行い、得られた粒子を100℃で真空乾燥した後、計量し、含有量とする。
【実施例】
【0094】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0095】
(ポリエステル組成物α−1)
ポリエステル組成物α−1を以下の方法で製造した。
[中間体の製造工程]テレフタル酸ジメチル100質量部、酢酸マンガン4水和物0.0147質量部、および、三酸化アンチモン0.03質量部を、150℃、窒素雰囲気下で、エチレングリコール57.5質量部に、溶融または溶解させ、中間体(液体)を得た。
[エステル交換反応工程]次いで、前工程にて得られた中間体を、撹拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させることによって、エステル交換反応せしめ、エステル交換反応物を得た。
[エステル組成物α1の製造工程]リン酸0.00098質量部をエチレングリコール0.5質量部に溶解せしめたエチレングリコール溶液を作製した。
前工程にて得られたエステル交換反応物に該エチレングリコール溶液を230℃下で添加し、エステル組成物α1を得た。
[重合工程]前工程にて得られたエステル組成物α1を真空下で重合せしめ、ポリエステル組成物αを得た。重合温度は以下のとおりである。
重合温度:230℃にて重合を開始し、徐々に温度を上げて、最終的に285℃とした。
なお、得られたポリエステル組成物αのガラス転移温度は80℃、冷結晶化温度は157℃、融点は255℃、固有粘度は0.52、COOH末端基量は15.0eq./tであった。
[固相重合工程]前工程にて得られたポリエステル組成物αを160℃で6時間、真空下に置いて、ポリエステル組成物の乾燥および結晶化を行った。その後、これを220℃で8時間、真空下に置いて、固相重合せしめ、ポリエステル組成物α−1を得た。得られたポリエステル組成物α−1のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は165℃、融点は255℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は10.2eq./tであった。
【0096】
(ポリエステル組成物β−1)
ポリエステル組成物α−1を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−1を得た。得られたポリエステル組成物β−1のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は125℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は22eq./tであった。
【0097】
(ポリエステル組成物α−2)
ポリエステル組成物α−2を以下の方法で製造した。
[中間体の製造工程]テレフタル酸ジメチル99.87質量部、トリメリット酸トリメチルエステル0.13質量部、酢酸マンガン4水和物0.0386質量部、および、三酸化アンチモン0.03質を、150℃、窒素雰囲気下で、エチレングリコール57.5質量部に、溶融または溶解させ、中間体(液体)を得た。
【0098】
その後は、ポリエステルα−1の場合と同様の方法を用いて、ポリエステルα−2を得た。得られたポリエステル組成物α−2のガラス転移温度は83℃、冷結晶化温度は167℃、融点は255℃、固有粘度は0.83、COOH末端基量は11.0eq./tであった。
【0099】
(ポリエステル組成物β−2)
ポリエステル組成物α−2を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−2を得た。得られたポリエステル組成物β−2のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は126℃、融点は255℃、固有粘度は0.64、COOH末端基量は23eq./tであった。
【0100】
(ポリエステル組成物α−3)
ポリエステル組成物α−3を以下の方法で製造した。
[中間体の製造工程]テレフタル酸ジメチル100質量部、グリセリン0.047質量部、酢酸マンガン4水和物0.0386質量部、および、三酸化アンチモン0.03質を、150℃、窒素雰囲気下で、エチレングリコール57.5質量部に、溶融または溶解させ、中間体(液体)を得た。
その後は、ポリエステル組成物α−1の場合と同様の方法を用いて、ポリエステルα−3を得た。得られたポリエステル組成物α−3のガラス転移温度は83℃、冷結晶化温度は167℃、融点は255℃、固有粘度は0.83、COOH末端基量は11.0eq./tであった。
【0101】
(ポリエステル組成物β−3)
ポリエステル組成物α−3を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−3を得た。得られたポリエステル組成物β−3のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は126℃、融点は255℃、固有粘度は0.64、COOH末端基量は23eq./tであった。
【0102】
(ポリエステル組成物α−4)
ポリエステル組成物α−4を以下の製造方法で製造した。
リン酸0.0540質量部とリン酸二水素ナトリウム2水和物0.0078質量部をエチレングリコール0.5質量部に溶解せしめたエチレングリコール溶液を作成した。
ポリエステル組成物α−1の製造過程で得られたエステル交換反応物に、該エチレングリコール溶液を、添加し、エステル組成物α4を得た。
その後はポリエステル組成物α−1の場合と同様の方法を用いて、ポリエステル組成物α−4を得た。得られたポリエステル組成物α−4のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は165℃、融点は255℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は9.2eq./tであった。
【0103】
(ポリエステル組成物β−4)
ポリエステル組成物α−4を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−4を得た。得られたポリエステル組成物β−4のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は125℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は20eq./tであった。
【0104】
(ポリエステル組成物α−5)
以下の点を除き、ポリエステル組成物α−1と同様の方法で、ポリエステル組成物α−5を得た。
・[中間体の製造工程]において用いられる原料のうち、酢酸マンガン4水和物に代えて、酢酸マグネシウム4水和物0.0129質量部を用いた点。
なお、得られたポリエステル組成物α−5のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は165℃、融点は255℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は11.0eq./tであった。
【0105】
(ポリエステル組成物β−5)
ポリエステル組成物α−5を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−5を得た。得られたポリエステル組成物β−5のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は125℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は23eq./tであった。
【0106】
(ポリエステル組成物α−6)
以下の点を除き、ポリエステル組成物α−1と同様の方法で、ポリエステル組成物α−6を得た。
・[中間体の製造工程]において用いられる原料のうち、酢酸マンガン4水和物に代えて、酢酸コバルト4水和物0.0149質量部を用いた点。
なお、得られたポリエステル組成物α−6のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は165℃、融点は255℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は11.0eq./tであった。
【0107】
(ポリエステル組成物β−6)
ポリエステル組成物α−6を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−6を得た。得られたポリエステル組成物β−6のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は125℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は23eq./tであった。
【0108】
(ポリエステル組成物α−7)
以下の点を除き、ポリエステル組成物α−1と同様の方法で、ポリエステル組成物α−7を得た。
・[中間体の製造工程]において、用いる原料を、テレフタル酸ジメチル98質量部、イソフタル酸ジメチル2質量部、酢酸マンガン4水和物0.0498質量部に変更した点。
・[エステル組成物α1の製造工程]において、リン酸の添加量を0.0024質量部に変更した点。
なお、得られたポリエステル組成物α−7のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は170℃、融点は253℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は11.0eq./tであった。
【0109】
(ポリエステル組成物β−7)
ポリエステル組成物α−7を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−7を得た。得られたポリエステル組成物β−7のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は130℃、融点は253℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は22eq./tであった。
【0110】
(ポリエステル組成物α−8)
以下の点を除き、ポリエステル組成物α−1と同様の方法で、ポリエステル組成物α−8を得た。
・[中間体の製造工程]において、用いる原料を、テレフタル酸ジメチル95質量部、イソフタル酸ジメチル5質量部、酢酸マンガン4水和物0.0498質量部に変更した点。
・[エステル組成物α1の製造工程]において、リン酸の添加量を0.0024質量部に変更した点。
なお、得られたポリエステル組成物α−8のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は172℃、融点は251℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は11.0eq./tであった。
【0111】
(ポリエステル組成物β−8)
ポリエステル組成物α−8を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−8を得た。得られたポリエステル組成物β−8のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は132℃、融点は251℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は22eq./tであった。
【0112】
(ポリエステル組成物α−9)
以下の点を除き、ポリエステル組成物α−1と同様の方法で、ポリエステル組成物α−9を得た。
・[中間体の製造工程]において、酢酸マンガン4水和物の量を0.0498質量部とした点。
・リン酸0.182質量部とリン酸二水素カリウム0.0231質量部をエチレングリコール0.5質量部に溶解せしめたエチレングリコール溶液を作製し、該溶液を、[エステル組成物α1の製造工程]において、エステル交換反応物に添加し、エステル組成物α9を得た点。
その後はポリエステル組成物α−1の場合と同様の方法を用いて、ポリエステル組成物α−9を得た。得られたポリエステル組成物α−9のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は165℃、融点は255℃、固有粘度は0.85、COOH末端基量は9.2eq./tであった。
【0113】
(ポリエステル組成物β−9)
ポリエステル組成物α−9を80重量部と、一次平均粒径が40nmのカーボンブラック20重量部とを、ベントした押出機に投入し、該押出機内で溶融混練せしめ、ポリエステル組成物β−9を得た。得られたポリエステル組成物β−9のガラス転移温度は82℃、冷結晶化温度は125℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、COOH末端基量は20eq./tであった。
【0114】
以下、実施例1、6、11、16、21、26、31、36、41、43、45、47、53、55、57、59、69、74、76、78、80は、参考例1、6、11、16、21、26、31、36、41、43、45、47、53、55、57、59、69、74、76、78、80と読み替えるものとする。
(実施例1)
ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1を、それぞれ、180℃の温度で2時間真空乾燥せしめた。次いで、窒素雰囲気下で、(ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1の合計に対して)カーボンブラックの含有量が表1に記載の値となるように、ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1を混合し、これを押出機に供給した。
【0115】
押出機内にて、ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1を溶融混練せしめ、押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートをフィルムの長手方向に延伸温度90℃、延伸倍率3.5倍で延伸したのち、フィルムの幅方向に延伸温度95℃、延伸倍率3.75倍で延伸し、熱処理を225℃で8秒間行い、厚さ50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0116】
得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0117】
(実施例2〜48、実施例51〜52、61〜64、比較例1〜18)
ポリエステル組成物の組成または厚みなどを表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0118】
ただし、原料はポリエステル組成物α−1およびポリエステル組成物β−1をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。例えば、フィルムにCa元素を含有せしめる実施例においては、ポリエステル組成物α−1の製造に際して、原料として用いられる酢酸マンガンの全部または一部に代えて、酢酸カルシウムを用いた。また、フィルム中の各成分の含有量を変化せしめた実施例においては、ポリエステル組成物α−1やβ−1の製造に際して用いられる各原料の添加量を調節した。
【0119】
(実施例49、71−73)
原料として、ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1に代えて、ポリエステル組成物α−2とポリエステル組成物β−2を用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
ただし、実施例71から73においては、原料はポリエステル組成物α−2とβ−2をそのまま用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。
【0120】
(実施例50)
原料として、ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1に代えて、ポリエステル組成物α−3とポリエステル組成物β−3を用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0121】
(実施例53)
原料として、ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1に代えて、ポリエステル組成物α−4とポリエステル組成物β−4を用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0122】
(実施例54〜60)
ポリエステル組成物の組成または厚みなどを表1に記載のように変更した以外は、実施例53と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0123】
ただし、原料はポリエステル組成物α−4およびポリエステル組成物β−4をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。例えば、フィルムに含有せしめるリン酸アルカリ金属塩の量を変更した実施例においては、ポリエステル組成物α−4の製造に際して、リン酸二水素ナトリウム2水和物の添加量を変更した。また、フィルム中の各成分の含有量を変化せしめた実施例においては、ポリエステル組成物α−4やβ−4の製造に際して用いられる各原料の添加量を調節した。
【0124】
(実施例65、66)
原料として、ポリエステル組成物α−7とポリエステル組成物β−7を用い、ポリエステル組成物の組成または厚みなどを表に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0125】
ただし、実施例66では原料はポリエステル組成物α−7およびポリエステル組成物β−7をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。具体的には、リン酸の含有量を変更した実施例66においては、ポリエステル組成物α−7の製造に際して、リン酸の添加量を調節した。
【0126】
(実施例67、68)
原料として、ポリエステル組成物α−8とポリエステル組成物β−8を用い、ポリエステル組成物の組成または厚みなどを表に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0127】
ただし、実施例68では原料はポリエステル組成物α−8およびポリエステル組成物β−8をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。具体的には、リン酸の含有量を変更した実施例68においては、ポリエステル組成物α−8の製造に際して、リン酸の添加量を調節した。
【0128】
(実施例69、70)
原料として、ポリエステル組成物α−1とポリエステル組成物β−1に代えて、ポリエステル組成物α−9とポリエステル組成物β−9を用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。ただし、実施例70では原料はポリエステル組成物α−9およびポリエステル組成物β−9をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。具体的には、リン酸の含有量を変更した実施例70においては、ポリエステル組成物α−9の製造に際して、リン酸の添加量を調節した。
【0129】
(比較例19〜22)
原料として、ポリエステル組成物α−5とポリエステル組成物β−5を用い、ポリエステル組成物の組成または厚みなどを表に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0130】
ただし、原料はポリエステル組成物α−5およびポリエステル組成物β−5をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。例えば、リン酸の含有量を変更した実施例においては、ポリエステル組成物α−5の製造に際して、リン酸の添加量を調節した。また、フィルム中の各成分の含有量を変化せしめた実施例においては、ポリエステル組成物α−5やβ−5の製造に際して用いられる各原料の添加量を調節した。
【0131】
(比較例23〜26)
原料として、ポリエステル組成物α−6とポリエステル組成物β−6を用い、ポリエステルフィルムの組成または厚みを表に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0132】
ただし、原料は、ポリエステル組成物α−6およびポリエステル組成物β−6を、全ての比較例にそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。例えば、リン酸の含有量を変更した実施例においては、ポリエステル組成物α−6の製造に際して、リン酸の添加量を調節した。また、フィルム中の各成分の含有量を変化せしめた実施例においては、ポリエステル組成物α−6やβ−6の製造に際して用いられる各原料の添加量を調節した。
【0133】
以上から、比較例1〜8のフィルムは、実施例のフィルムに比べて耐湿熱性に劣ることがわかる。また、実施例54〜60のフィルムは、リン酸アルカリ金属塩を加えたことにより、耐湿熱性が向上することがわかる。
【0134】
一方、比較例9〜14のフィルム(ポリエステル組成物)はカーボンブラックの含有量が多いため、ΔTcgが低下し、実施例のフィルムに比べて耐湿熱性に劣ることがわかる。また、比較例15〜18のフィルムは、カーボンブラックの含有量が少ないので、耐湿熱性に優れるものの、隠蔽性に劣ることが分かる。また、比較例19〜26のフィルムは、Mn、Ca、または、Al元素を含まないため、耐湿熱性に劣ることがわかる。
【0135】
(実施例74〜81)
ポリエステル組成物の組成または厚みなどを表25に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を得た。得られたポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)の特性等を表に示す。
【0136】
ただし、原料はポリエステル組成物α−1およびポリエステル組成物β−1をそのままに用いるのではなく、最終的に得られるポリエステルフィルムの組成が表に記載のとおりになるように調節した原料を用いた。例えば、フィルムにAl元素を含有せしめる実施例においては、ポリエステル組成物α−1の製造に際して、原料として用いられる酢酸マンガンの全部または一部に代えて、酢酸アルミニウムを用いた。また、フィルム中の各成分の含有量を変化せしめた実施例においては、ポリエステル組成物α−1やβ−1の製造に際して用いられる各原料の添加量を調節した。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
【表5】
【0142】
【表6】
【0143】
【表7】
【0144】
【表8】
【0145】
【表9】
【0146】
【表10】
【0147】
【表11】
【0148】
【表12】
【0149】
【表13】
【0150】
【表14】
【0151】
【表15】
【0152】
【表16】
【0153】
【表17】
【0154】
【表18】
【0155】
【表19】
【0156】
【表20】
【0157】
【表21】
【0158】
【表22】
【0159】
【表23】
【0160】
【表24】
【0161】
【表25】
【0162】
【表26】
【0163】
なお、表において、「ポリエステルA」とはポリエステルフィルム(ポリエステル組成物)を構成するポリエステルである。
また、「カルボン酸成分a1」とは、ポリエステルAを構成する2以上のカルボン酸基を有するカルボン酸成分である。
また、「アルコール成分a2」とは、ポリエステルAを構成する2以上の水酸基を有するアルコール成分である。
また、「カルボン酸成分a10」とは、ポリエステルAを構成する2以上のカルボン酸基を有するカルボン酸成分a1のうち、カルボン酸基の数が2であるカルボン酸構成成分である。
また、「アルコール成分a20」とは、ポリエステルAを構成する2以上の水酸基を有するアルコール成分a2のうち、水酸基の数が2であるアルコール構成成分である。
また、「カルボン酸成分a11」とは、ポリエステルAを構成する2以上のカルボン酸基を有するカルボン酸成分a1のうち、カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸構成成分である。
また、「アルコール成分a21」とは、ポリエステルAを構成する2以上の水酸基を有するアルコール成分a2のうち、水酸基を3つ以上有するアルコール構成成分である。
また、「カルボン酸成分a10の量(mol%)」と「カルボン酸成分a11の量(mol%)は、ポリエステルAを構成する全カルボン酸構成成分に対する当該成分のモル分率である。
また、「アルコール構成成分a20の量(mol%)」と「アルコール構成成分a21の量(mol%)」は、ポリエステルAを構成する全ジオール酸構成成分に対する当該成分のモル分率である。
また、「a1とa2の合計に対する、a11の量(mol%)」は、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対する、カルボン酸基を3つ以上有するカルボン酸成分a11の量のモル分率である。
また、「a1とa2の合計に対する、a21の量(mol%)」は、カルボン酸成分a1およびアルコール成分a2の合計に対する、水酸基を3つ以上有するアルコール構成成分a21の量のモル分率である。
また、CBとはカーボンブラックである。
また、表中の「含有量」は、「フィルム(ポリエステル組成物)全体に対する含有量」である。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明のポリエステルフィルムは、高い耐湿熱性と隠蔽性を有するものであり、その特長を生かして太陽電池バックシート、給湯器モーター用電気絶縁材料や、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料を始めとした耐湿熱性と隠蔽性が重視されるような用途に好適に使用することができる。これらの中で、太陽電池用バックシート用フィルムとして好適に用いられる。