(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が55%以上である大豆乳化組成物を含有することを特徴とする、パン類。
乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が55%以上である大豆乳化組成物を使用することを特徴とする、パン類の製造方法。
乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が55%以上である大豆乳化組成物を含有することを特徴とする、パン類の品質改良剤。
乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が55%以上である大豆乳化組成物を使用することを特徴とする、ソフト感、老化防止または体積増加の付与によるパン類の品質改良方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(大豆乳化組成物)
本発明のパン類は、下記に説明する「大豆乳化組成物」を含有することが特徴である。大豆乳化組成物の詳細は、特開2012−016348号に開示されるものであるが、以下、該大豆乳化組成物について説明する。
【0014】
<大豆乳化組成物>
本発明のパン類に用いられる大豆乳化組成物は、大豆を由来とし、蛋白質のうち、グリシニンやβ−コングリシニン以外の脂質親和性蛋白質(あるいは別の指標としてリポキシゲナーゼ蛋白質)の割合が特に高く、中性脂質及び極性脂質を多く含む乳化組成物である。すなわち、乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、乾物あたりの脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が乾物あたりの蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が55%以上、好ましくは60%以上であることを主要な特徴とするものである。
【0015】
(脂質)
一般に脂質含量はエーテル抽出法で測定されるが、本発明に用いられる大豆乳化組成物中には中性脂質の他にエーテルで抽出されにくい極性脂質も多く含まれるため、本発明における脂質含量は、試料を凍結乾燥後、クロロホルム:メタノールが2:1(体積比)の混合溶媒を用い、常圧沸点において30分間抽出された抽出物量を総脂質量として、脂質含量を算出した値とする。溶媒抽出装置としてはFOSS社製の「ソックステック」を用いることができる。なお上記の測定法は「クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法」と称するものとする。
【0016】
本発明に用いられる大豆乳化組成物は、この大豆粉の脂質含量/蛋白質含量の比よりも高い値の脂質を含み、特に極性脂質に富むことが特徴である。該脂質は原料となる大豆に由来する脂質である。
【0017】
本発明に用いられる大豆乳化組成物の脂質含量は、乾物あたりの蛋白質含量に対して100重量%以上、好ましくは120〜250重量%、さらに好ましくは120〜200重量%であり、蛋白質よりも脂質が多いことが特徴である。また構成に必須ではないが、脂質含量を絶対量で表す場合、乾物あたり35重量%以上、好ましくは40重量%以上であるのが適当である。大豆乳化組成物を繊維質等が除去されたものとすれば脂質含量を乾物あたり50重量%以上にもすることができる。また脂質含量の上限は限定されないが、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
【0018】
(蛋白質)
本発明に用いられる大豆乳化組成物の蛋白質含量は乾物あたり25重量%以上、好ましくは30重量%以上である。また蛋白質含量の上限は限定されないが、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
【0019】
○蛋白質含量の分析
本発明における蛋白質含量はケルダール法により窒素量として測定し、該窒素量に6.25の窒素換算係数を乗じて求めるものとする。
【0020】
○蛋白質の各成分の組成分析
本発明に用いられる大豆乳化組成物の蛋白質の各成分組成はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析することができる。
界面活性剤であるSDSと還元剤であるメルカプトエタノールの作用によって蛋白質分子間の疎水性相互作用、水素結合、分子間のジスルフィド結合が切断され、マイナスに帯電した蛋白質分子は固有の分子量に従った電気泳動距離を示ことにより、蛋白質に特徴的な泳動パターンを呈する。電気泳動後に色素であるクマシーブリリアントブルー(CBB)にてSDSゲルを染色した後に、デンシトメーターを用い、全蛋白質のバンドの濃さに対する各種蛋白質分子に相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により求めることができる。
【0021】
(リポキシゲナーゼ蛋白質)
本発明に用いられる大豆乳化組成物は、一般に大豆中のオイルボディにはほとんど含まれないリポキシゲナーゼ蛋白質が特定量以上含まれることが大きな特徴であり、大豆乳化組成物中の全蛋白質あたり少なくとも4%以上含有し、好ましくは5%以上含有するものである。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではリポキシゲナーゼ蛋白質は可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではリポキシゲナーゼ蛋白質が原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
蛋白質中におけるリポキシゲナーゼ蛋白質の割合が高まることによって油脂の乳化状態が安定化されるばかりでなく、グロブリン蛋白質を主体とした通常の大豆蛋白質組成では得られない滑らかな物性の食感を得ることができ、また素材にコクのある風味が付与される。
【0022】
リポキシゲナーゼ蛋白質の場合は通常L-1、L-2、L-3の3種類が存在し、上記の電気泳動法により、リポキシゲナーゼ蛋白質に相当するこれらのバンドの濃さから含量を算出できる。
【0023】
(脂質親和性蛋白質)
本発明に用いられる大豆乳化組成物は、蛋白質の種類の中では脂質親和性蛋白質(Lipophilic Proteins)が一般の大豆素材より多く含まれることが特徴である。脂質親和性蛋白質は、大豆の主要な酸沈殿性大豆蛋白質の内、グリシニン(7Sグロブリン)とβ−コングリシニン(11Sグロブリン)以外のマイナーな酸沈殿性大豆蛋白質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。以下、単に「LP」と略記することがある。
LPは雑多な蛋白質が混在したものであるが故、各々の蛋白質を全て特定し、LPの含量を厳密に測定することは困難であるが、下記LCI(Lipophilic Proteins Content Index)値を求めることにより推定することができる。これによれば、大豆乳化組成物中の蛋白質のLCI値は通常55%以上であり、好ましくは58%以上、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは63%以上、最も好ましくは65%以上である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではLPは可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明に用いられる大豆乳化組成物の場合、LPが原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
蛋白質中におけるLPの割合が高まることによって油脂の乳化状態が安定化されるばかりでなく、グロブリン蛋白質を主体とした通常の大豆蛋白質組成では得られない滑らかな物性の食感を得ることができ、また素材にコクのある風味が付与される。
【0024】
〔LP含量の推定・LCI値の測定方法〕
(a) 各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ蛋白質(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α’)+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆蛋白のLP含量を加熱殺菌前に測定すると凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
【0026】
(乾物含量)
本発明に用いられる大豆乳化組成物は通常生クリーム様の性状であり、通常の乾物(dry matter)は20〜30重量%程度であるが、特に限定されるものではない。すなわち加水により低粘度の液状としたものや、濃縮加工されてより高粘度のクリーム状としたものであってもよく、また粉末加工されて粉末状としたものであってもよい。
【0027】
(大豆乳化組成物の製造態様)
本発明に用いられる大豆乳化組成物は、例えば水溶性窒素指数(Nitrogen Solubility Index、以下「NSI」と称する。)が20〜77、好ましくは20〜70、乾物あたりの脂質含量が15重量%以上の全脂大豆などの含脂大豆に対して、加水して懸濁液を調製する工程の後、該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させて、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を除去し、不溶性画分を回収することにより得ることができる。以下、該製造態様について示す。
【0028】
・原料大豆及びその加工
大豆乳化組成物の原料である大豆としては、全脂大豆あるいは部分脱脂大豆等の含脂大豆を用いる。部分脱脂大豆としては、全脂大豆を圧搾抽出等の物理的な抽出処理により部分的に脱脂したものが挙げられる。一般に全脂大豆中には脂質が乾物あたり約20〜30重量%程度含まれ、特殊な大豆品種については脂質が30重量%以上のものもあり、特に限定されないが、用いる含脂大豆としては、少なくとも脂質を15重量以上、好ましくは20重量%以上含むものが適当である。原料の形態は、半割れ大豆、グリッツ、粉末の形状でありうる。
過度に脱脂され脂質含量が少なすぎると本発明に用いられる脂質に富む大豆乳化組成物を得ることが困難となる。特にヘキサン等の有機溶媒で抽出され、中性脂質の含量が1重量%以下となった脱脂大豆は、大豆の良い風味が損なわれ好ましくない。
【0029】
上記含脂大豆は天然の状態では蛋白質の多くが未変性で可溶性の状態にあり、NSIとしては通常90を超えるが、本発明においては、NSIが20〜77好ましくは20〜70になるよう加工処理を施した加工大豆を用いるのが適当である。より好ましいNSIの下限値は40以上、より好ましくは41以上、さらに好ましくは43以上、最も好ましくは45以上とすることができる。より好ましいNSIの上限値は75未満、より好ましくは70未満とすることができ、またさらに65未満、あるいは60未満、あるいは58未満の低NSIのものを用いることができる。
そのような加工大豆は、加熱処理やアルコール処理等の加工処理を行って得られる。加工処理の手段は特に限定されないが、例えば乾熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波処理等による加熱処理や、含水エタノール処理、高圧処理、およびこれらの組み合わせ等が利用できる。
【0030】
NSIが低すぎると、大豆乳化組成物中の蛋白質の割合が高くなりやすく、蛋白質に対する脂質含量が低くなる。また過加熱による焙煎臭等の雑味が生じやすくなる。逆にNSIが例えば80以上の高い数値になると大豆乳化組成物中の蛋白質の割合が低下し、大豆からの脂質の回収率も低下しやすくなる。また風味は青臭みが強くなる。
例えば過熱水蒸気による加熱処理を行う場合、その処理条件は製造環境にも影響されるため一概に言えないが、おおよそ120〜250℃の過熱水蒸気を用いて5〜10分の間で加工大豆のNSIが上記範囲となるように処理条件を適宜選択すれば良く、加工処理に特段の困難は要しない。簡便には、NSIが上記範囲に加工された市販の大豆を用いることもできる。
【0031】
なお、NSIは所定の方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(重量%)で表すことができ、本発明においては以下の方法に基づいて測定された値とする。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
【0032】
前記の加工大豆は水抽出の前に、予め乾式又は湿式による粉砕、破砕、圧偏等の組織破壊処理を施されることが好ましい。組織破壊処理に際して、あらかじめ水浸漬や蒸煮により膨潤させても良く、これによって組織破壊に必要なエネルギーを低減させたり、ホエー蛋白質やオリゴ糖等の不快味を持つ成分を溶出させ除去できると共に、保水性やゲル化性の能力が高いグロブリン蛋白質(特にグリシニン及びβ−コングリシニン)の全蛋白質に対する抽出比率、すなわち水溶性画分への移行比率をより高めることができる。
【0033】
・原料大豆からの水抽出
水抽出は含脂大豆に対して3〜20重量倍、好ましくは4〜15重量倍程度の加水をし、含脂大豆を懸濁させて行われる。加水倍率は高い方が水溶性成分の抽出率が高まり、分離を良くすることができるが、高すぎると濃縮が必要となりコストがかかる。また、抽出処理を2回以上繰り返すと水溶性成分の抽出率をより高めることができる。
【0034】
抽出温度には特に制限はないが、高い方が水溶性成分の抽出率が高まる反面、油脂も可溶化されやすくなり、大豆乳化組成物の脂質が低くなるため、70℃以下、好ましくは55℃以下で行うと良い。あるいは5〜80℃、好ましくは50〜75℃の範囲で行うこともできる。
【0035】
抽出pH(加水後の大豆懸濁液のpH)も温度と同様に高いほうが水溶性成分の抽出率が高まる反面、油脂も可溶化されやすくなり、大豆乳化組成物の脂質が低くなる傾向にある。逆にpHが低すぎると蛋白質の抽出率が低くなる傾向にある。具体的には下限をpH6以上、もしくはpH6.3以上、もしくはpH6.5以上に調整して行うことができる。また上限は脂質の分離効率を上げる観点でpH9以下、もしくはpH8以下、もしくはpH7以下に調整して行うことができる。あるいは蛋白質の抽出率を高める観点でpH9〜12のよりアルカリ性側に調整して行うことも可能である。
【0036】
・水抽出後の固液分離
水抽出後、含脂大豆の懸濁液を遠心分離、濾過等により固液分離する。この際、中性脂質のみならず極性脂質も含めた大部分の脂質を水抽出物中に溶出させず、不溶化した蛋白質や食物繊維質の方に移行させ沈殿側(不溶性画分)とすることが重要である。具体的には含脂大豆の脂質の70重量%以上を沈殿側に移行させる。また抽出の際に上清側にも少量の脂質が溶出するが、豆乳中の脂質のように微細にエマルション化されたものではなく、15,000×g以下、あるいは5,000×g程度以下の遠心分離によっても容易に浮上させ分離することができ、この点で遠心分離機を使用するのが好ましい。なお遠心分離機は使用する設備によっては10万×g以上の超遠心分離を使用することも可能であるし、本発明に用いられる大豆乳化組成物の場合は超遠心分離機を用いなくとも実施が可能である。
また水抽出の際あるいは水抽出後に解乳化剤を添加して豆乳からの脂質の分離を促進させることも可能であり、解乳化剤は特に限定されないが例えば特許文献2に開示されている解乳化剤を使用すればよい。ただし本発明に用いられる大豆乳化組成物を調製する場合は解乳化剤を用いなくとも実施が可能である。
【0037】
水抽出工程後の固液分離により、中性脂質のみならず極性脂質を不溶性画分に移行させ、これを回収することにより大豆乳化組成物の画分を得ることができる。
固液分離として遠心分離を用いる場合、二層分離方式、三層分離方式のいずれも使用することができる。二層分離方式の場合は沈殿層である不溶性画分を回収する。また三層分離方式を用いる場合は、(1)浮上層(脂質を含む比重の最も小さいクリーム画分)、(2)中間層(脂質が少なく蛋白質、糖質を多く含む水溶性画分)、(3)沈殿層(脂質と食物繊維を多く含む不溶性画分)、の三層の画分に分けられる。この場合、脂質含量の少ない水溶性画分の中間層(2)を除去又は回収し、不溶性画分として浮上層(1)又は沈殿層(3)を回収するか、あるいは(1)と(3)を合わせて回収するとよい。
【0038】
得られた不溶性画分(1)、(3)はそのまま、あるいは必要により濃縮工程、加熱殺菌工程、粉末化工程等を経て本発明に用いられる大豆乳化組成物とすることができる。
【0039】
・食物繊維の除去
得られた不溶性画分が食物繊維を含む場合、例えば上記(3)又は(1)及び(3)の画分である場合、必要により加水し、高圧ホモゲナイザーあるいはジェットクッカー加熱機等による均質化した後、該均質化液をさらに固液分離して上清を回収する工程を経ることにより、食物繊維(オカラ)を除去することもでき、コクのある風味がより濃縮された大豆乳化組成物を得ることができる。該均質化の前後いずれかにおいて必要により加熱処理工程、アルカリ処理工程等を付加することにより蛋白質をより抽出しやすくすることもできる。この場合、乾物あたりの食物繊維含量は10重量%以下であり、5重量%以下がより好ましい。なお、本発明において食物繊維含量は、「五訂増補日本食品標準成分表」(文部科学省、2005)に準じ、酵素−重量法(プロスキー変法)により測定することができる。
【0040】
(大豆乳化組成物の特徴)
本発明に用いられる上記の大豆乳化組成物は、脂質(中性脂質及び極性脂質)及び蛋白質が特定の範囲で含まれ、蛋白質のうち特にLP含量が高く、必要により繊維質も含まれる乳化組成物であり、大豆が本来有する自然な美味しさが濃縮されており、従来の問題とされていた青臭味や収斂味、渋味等の不快味がないか非常に少なく、非常にコクのある風味を有するものである。
通常の大豆粉や分離大豆蛋白に水、油脂を加えて該大豆乳化組成物と類似の組成の乳化組成物にすることは可能であるが、リポキシゲナーゼ蛋白質含量あるいはLCI値を同等なレベルに調整することは困難である。そして本技術により調製された大豆乳化組成物は、このような組み立て製品に比べて格段に風味が良好であり、食品素材としての利用適性が高いことに特徴を有する。
【0041】
(パン類)
本発明のパン類は、大豆乳化組成物を含有する。ここで、パン類は小麦粉や米粉等の穀粉を主原料とし、これに大豆乳化組成物を添加する他、水、油脂類(ショートニング,ラード,マーガリン,バター,液状油等)、糖類(砂糖,上白糖,グラニュー糖,グルコース,トレハロース,マルトース等)、澱粉類、調味料、卵、乳製品、イーストフード、酵素類(α-アミラーゼ,グルコアミラーゼ,グルコースオキシダーゼ,プロテアーゼ等)、乳化剤、フレーバー等の原料を必要に応じて添加し、パン酵母の添加の有無に関わらず混捏工程を得て得られた生地を焼成、蒸し等により加熱することにより得られる。
パン類として、例えば、食パン、菓子パン、特殊パン(グリッシーニ、マフィン等)、テーブルロール、調理パン、デニッシュペストリー、ピザ、ピタパン、ナンなどのパン酵母による発酵を行うものだけでなく、蒸しパン、中華まん、チャパティ、プーリー、ホットケーキ、ワッフル、蒸しケーキ、スポンジケーキ、クレープ、饅頭などのように発酵しないものも広く含まれる。
本発明においてパン類の製法としては、一般的に使用される中種法、ストレート法、冷凍生地法、冷蔵生地法などを用いることができる。
【0042】
本発明のパン類は、大豆乳化組成物が添加されることで品質が改良される。具体的にはソフト感が付与され、さらに老化防止効果や体積増加効果、しっとり感等が付与される。
また、本発明のパン類は大豆の青臭みは感じられず、非常に風味が良好である。
【0043】
また、大豆乳化組成物をパン生地に添加した場合、生地の伸展性が向上する効果もあり、作業性が改善される。
【0044】
本発明に使用する大豆乳化組成物中の大豆固形分の割合は概ね2〜35重量%であり、好ましくは15〜25重量%が適当である。大豆固形分が少なすぎるとソフト感等の効果が少なくなる場合があり、又大豆固形分が多すぎても効果に差がでない場合がある。
【0045】
本発明の大豆乳化組成物のパン生地中への添加方法として、他の原料と一緒に直接混合する方法や、予め大豆乳化組成物を水相と油相から成る油脂乳化組成物に添加しておき、該組成物をパン生地に混合する方法等を採用できる。
【0046】
大豆乳化組成物のパン生地への添加量は、大豆固形分として、生地中の小麦粉100重量部に対し概ね1.0〜8.0重量部、好ましくは2.0〜5.5重量部である。
【0047】
大豆乳化組成物のパン類中の含有量は、大豆固形分として、生地中の小麦粉100重量部に対して概ね1.0〜8.0重量部、好ましくは2.0〜5.5重量部含有する。大豆乳化組成物の含有量が少なすぎると、本発明の効果が低くなる場合がある。また、大豆乳化組成物の含有量が多すぎても効果に差が出ない場合がある。
【0048】
(パン類の品質改良剤)
本発明のパン類の品質改良剤は、大豆乳化組成物を含有することを特徴とする。本発明の品質改良剤が含有したパン類は、ソフト感が付与され、さらに老化防止効果や体積増加効果、しっとり感等が付与される。また、生地の伸展性を向上させる効果もあり、作業性が改善される。
本発明のパン類の品質改良剤は大豆乳化組成物を含有するが、パン類中の大豆乳化組成物のパン類中の含有量は、大豆固形分として、生地中の小麦粉100重量部に対して概ね1.0〜8.0重量部、好ましくは2.0〜5.5重量部含有する。大豆乳化組成物の含有量が少なすぎると、本発明の効果が低くなる場合がある。また、大豆乳化組成物の含有量が多すぎても効果に差が出ない場合がある。
本発明のパン類の品質改良剤を使用したパン類の製法として、例えば、主原料の小麦粉や米粉等の穀粉に品質改良剤を添加し、この他、水、油脂類(ショートニング,ラード,マーガリン,バター,液状油等)、糖類(砂糖,上白糖,グラニュー糖,グルコース,トレハロース,マルトース等)、澱粉類、調味料、卵、乳製品、イーストフード、酵素類(α-アミラーゼ,グルコアミラーゼ,グルコースオキシダーゼ,プロテアーゼ等)、乳化剤、フレーバー等の原料を必要に応じて添加し、パン酵母の添加の有無に関わらず混捏工程を得て得られた生地を焼成、蒸し等により加熱することにより得られる。本発明のパン類の品質改良剤にあらかじめ上記の原料を混合しておくこともできる。
【0049】
(パン類の品質改良方法)
本発明では大豆乳化組成物を使用することにより、ソフト感、老化防止または体積増加、しっとり感等を付与することで、パン類の品質を改良することができる。また、生地の伸展性を向上させる効果もあり、作業性が改善される。大豆乳化組成物のパン生地への添加量は、大豆固形分として、生地中の小麦粉100重量部に対し概ね1.0〜8.0重量部、好ましくは2.0〜5.5重量部である。添加量が低すぎる場合、本発明の改良効果が低くなる場合がある。また添加量が多すぎても効果に差が出ない場合がある。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り、「%」と「部」は重量基準である。
【0051】
○製造例1(大豆乳化組成物の調製)
特開2012−016348号の実施例1の記載に基づいて、大豆乳化組成物を調製した。得られた大豆乳化組成物の乾物含量は20.0%、乾物あたり蛋白質含量および脂質含量はそれぞれ32.2%と43.0%(蛋白質含量に対して133.5%)であり、LCI値は67%であった。
【0052】
○比較製造例1(全脂豆乳の調製)
脱皮脱胚軸大豆1部に水10部を加え、25℃で60分間以上浸漬して十分に吸水した脱皮脱胚軸大豆(水分含量40〜55%)1部に対し、水(20℃)3部を加えたものをグラインダーで処理した。これをホモゲナイザー(APV社製)に供給し、150kg/cm
2で均質化処理した。均質化した磨砕液を遠心分離(3000×g、5分)しておからを分離し、全脂豆乳を得た。この全脂豆乳の固形分は12.0%、蛋白質は6.3%でpH6.6であった。
【0053】
○実施例1、比較例1〜2 −大豆乳化組成物を配合したパン類−
製造例1で得られた大豆乳化組成物を添加して、表2の配合に基づき、表3の作業工程により約5kg規模で、70%中種法にて食パンを作製した。小麦粉としては強力粉「イーグル」(日本製粉株式会社製)を、イーストとしては生イースト「オリエンタルイースト」(オリエンタル酵母工業株式会社製)を、油脂としてはショートニング「パンパスLB」(不二製油株式会社製)を用いた(実施例1)。なお、比較例として、比較製造例1で得られた全脂豆乳を添加したもの(比較例1)、豆乳・大豆乳化組成物を添加していないもの(比較例2)を評価した。
作製した食パンの評価(ソフト感、老化防止、体積増加)を、×:不良、△:やや不良、○:良好、◎:非常に良好の4段階で評価した。なお、老化防止は、食パン作製後2日後に評価した。評価した結果を表4に示した。
【0054】
(表2)配合表
数値は「ベーカーズ%」(全小麦粉を100として表示)
【0055】
(表3)作業工程
【0056】
(表4)食パンの評価
【0057】
表4の結果のように、実施例1の食パンは、比較例1、比較例2よりもソフトな食感を有していた。また、老化防止効果やパンの体積増加効果も比較例より優れており良好であった。また、実施例1のパンの風味も良好であった。
また、実施例1は比較例1や2に比べて、しっとり感や生地の伸展性が良好であった。