(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040771
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】車両用エンジンの排気ガス還流装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/41 20160101AFI20161128BHJP
F02M 26/30 20160101ALI20161128BHJP
F02M 26/50 20160101ALI20161128BHJP
【FI】
F02M26/41 301
F02M26/30
F02M26/50
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-288966(P2012-288966)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129801(P2014-129801A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 康臣
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−106420(JP,A)
【文献】
特開平07−269392(JP,A)
【文献】
特開2001−342907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 47/08−47/10
F02F 1/00− 1/42、 7/00
F02M 26/00−26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する車両用エンジンの排気ガス還流装置において、
シリンダヘッドの前記気筒列と交差する方向の一方の端部に取付けられ、前記各気筒の吸気ポートに接続される吸気マニホルドと、
前記シリンダヘッドの前記気筒列と交差する方向の他方の端部に取付けられ、前記各気筒の排気ポートに接続される排気マニホルドと、
前記排気マニホルドに取付けられ、前記排気ポートから排出される排気ガスを検出する排気ガスセンサと、
前記シリンダヘッドに形成され、前記排気ポートを流れる排気ガスの一部を前記吸気ポート又は前記吸気マニホルドに還流する排気ガス還流通路と、
前記排気ガス還流通路を構成し、前記シリンダヘッドの前記気筒列と交差する方向の他方の端部側で前記排気ポートから前記気筒列方向に向けて形成され、底面が前記排気ポート側から遠ざかるにつれて低くなる上流側通路部と、
前記排気ガス還流通路を構成し、前記上流側通路部に接続して前記気筒列と交差する方向に向けて形成され、冷却水通路内の冷却水によって冷却される下流側通路部と、
前記上流側通路部の前記排気ポート側端部に形成され、前記底面から天井面に向けて突出し且つ前記天井面に対して予め設定された隙間を有する突出壁とを備え、
前記突出壁の上端部を、前記上流側通路部が接続される前記排気ポートの断面中心よりも高い位置に設定したことを特徴とする車両用エンジンの排気ガス還流装置。
【請求項2】
前記突出壁の上端部を、前記上流側通路部と前記下流側通路部との接続口の上端部より高い位置に設定したことを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジンの排気ガス還流装置。
【請求項3】
前記上流側通路部は、前記突出壁から前記気筒列方向に遠ざかるほど前記気筒列と交差する方向の断面積が大きいことを特徴とする請求項2に記載の車両用エンジンの排気ガス還流装置。
【請求項4】
前記突出壁を第1の突出壁とした場合、前記上流側通路部の前記第1の突出壁と前記接続口との間で前記天井面から前記底面に向けて突出する第2の突出壁を形成し、前記第2の突出壁の下端部を、前記第1の突出壁の上端部より低い位置に設定したことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用エンジンの排気ガス還流装置。
【請求項5】
前記第1の突出壁及び前記第2の突出壁の少なくとも何れか一方の前記排気ポートと反対側の面を凹ませて凹曲面を形成したことを特徴とする請求項4に記載の車両用エンジンの排気ガス還流装置。
【請求項6】
前記上流側通路部の前記底面のうち前記突出壁と前記接続口との間に下方に凹んだ凹溝を形成したことを特徴とする請求項2に記載の車両用エンジンの排気ガス還流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられる車両用エンジンの排気ガス還流装置に関し、排気ポートを流れる排気ガスの一部を吸気ポート又は吸気マニホルドに還流する排気ガス還流通路をシリンダヘッドに形成する場合に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
このように排気ガス還流通路をシリンダヘッドに形成する車両用エンジンの排気ガス還流装置としては、例えば下記特許文献1に記載されるものがある。この車両用エンジンの排気ガス還流装置では、排気マニホルドが取付けられるシリンダヘッドの一側面に排気ポートに連続する凹み溝を気筒列方向、即ちクランク軸方向に形成する。この凹み溝の排気ポートと反対側部分は、吸気マニホルドが取付けられるシリンダヘッドの他側面に向けて当該シリンダヘッド内に形成された排気ガス還流通路下流部に接続される。そして、排気マニホルドに一体に設けられた蓋板で凹み溝を覆って排気ガス還流通路上流部を構成する。その際、蓋板の凹み溝を覆う部分をシリンダヘッドの一側面から遠ざかるように変形して膨らみ部を形成し、この膨らみ部と凹み溝とで排気ガス還流通路上流部を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−43096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載される車両用エンジンの排気ガス還流装置のように、シリンダヘッド内に排気ガス還流通路を形成するのは、シリンダヘッド内の冷却水通路内の冷却水によって排気ガス還流通路内を流れる排気ガスが冷却される場合が多い。前記特許文献1に記載される車両用エンジンの排気ガス還流装置でも、シリンダヘッド内に形成される排気ガス還流通路下流部の近傍に冷却水通路があり、排気ガス還流通路下流部を流れる排気ガスは冷却水通路内の冷却水によって冷却される。一方、前記特許文献1に記載される車両用エンジンの排気ガス還流装置では、凹み溝及び膨らみ部で構成される排気ガス還流通路上流部の高さが排気ポートから遠ざかるほど高く、排気ポート側ほど低くなっている。前述のように排気ガス還流通路下流部の排気ガスが冷却水通路内の冷却水によって冷却されると、排気ガス還流通路下流部内には排気ガスが凝縮した凝縮水が発生する可能性がある。このとき、排気ガス還流通路上流部の排気ポート側が低くなっていると、排気ガス還流通路下流部で発生した凝縮水が排気ガス還流通路上流部から排気ポート側に流れ込み易くなる。例えば、運転者がアクセルペダルを一気に踏み込んだ場合、気筒から排気ポートに流れる排気ガスの流速が急激に高まり、それに伴う負圧によって排気ガス還流通路上流部内の凝縮水が排気ポートに引っ張り込まれる。そして、排気ポートに引っ張り込まれた凝縮水は、排気ガスの流速によって排気マニホルドに流れ、更に排気マニホルドに配置される排気ガスセンサへと流れ、排気ガスセンサが凝縮水に触れて、排気ガスセンサが被水割れしたり、性能が低下したりする虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、シリンダヘッド内の排気ガス還流通路内で発生した凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することが可能な車両用エンジンの排気ガス還流装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、発明の実施態様は、複数の気筒を有する車両用エンジンの排気ガス還流装置において、シリンダヘッドの前記気筒列と交差する方向の一方の端部に取付けられ、前記各気筒の吸気ポートに接続される吸気マニホルドと、前記シリンダヘッドの前記気筒列と交差する方向の他方の端部に取付けられ、前記各気筒の排気ポートに接続される排気マニホルドと、前記排気マニホルドに取付けられ、前記排気ポートから排出される排気ガスを検出する排気ガスセンサと、前記シリンダヘッドに形成され、前記排気ポートを流れる排気ガスの一部を前記吸気ポート又は前記吸気マニホルドに還流する排気ガス還流通路と、前記排気ガス還流通路を構成し、前記シリンダヘッドの前記気筒列と交差する方向の他方の端部側で前記排気ポートから前記気筒列方向に向けて形成され、底面が前記排気ポート側から遠ざかるにつれて低くなる上流側通路部と、前記排気ガス還流通路を構成し、前記上流側通路部に接続して前記気筒列と交差する方向に向けて形成され、冷却水通路内の冷却水によって冷却される下流側通路部と、前記上流側通路部の前記排気ポート側端部に形成され、前記底面から天井面に向けて突出し且つ前記天井面に対して予め設定された隙間を有する突出壁とを備え
、前記突出壁の上端部を、前記上流側通路部が接続される前記排気ポートの断面中心より高い位置に設定したことを特徴とする車両用エンジンの排気ガス還流装置である。
【0008】
また、前記突出壁の上端部を、前記上流側通路部と前記下流側通路部との接続口の上端部より高い位置に設定した。
【0009】
また、前記上流側通路部は、前記突出壁から遠ざかるほど断面積を大きくした。
【0010】
また、前記突出壁を第1の突出壁とした場合、前記上流側通路部の前記第1の突出壁と前記接続口との間で前記天井面から前記底面に向けて突出する第2の突出壁を形成し、前記第2の突出壁の下端部を、前記第1の突出壁の上端部より低い位置に設定した。
【0011】
また、前記第1の突出壁及び前記第2の突出壁の少なくとも何れか一方の前記排気ポートと反対側の面を凹ませて凹曲面を形成した。
【0012】
また、前記上流側通路部の前記底面のうち前記突出壁と前記接続口との間に下方に凹んだ凹溝を形成した。
【発明の効果】
【0013】
而して、発明の実施態様によれば、車両用エンジンが複数の気筒を有する場合に、各気筒の吸気ポートに接続される吸気マニホルドをシリンダヘッドの気筒列と交差する方向の一方の端部に取付ける。また、各気筒の排気ポートに接続される排気マニホルドをシリンダヘッドの気筒列と交差する方向の他方の端部に取付ける。排気マニホルドには、排気ポートから排出される排気ガスを検出する排気ガスセンサを取付ける。そして、排気ポートを流れる排気ガスの一部を吸気ポート又は吸気マニホルドに還流する排気ガス還流通路をシリンダヘッドに形成する。この排気ガス還流通路は、シリンダヘッドの気筒列と交差する方向の他方の端部側で排気ポートから気筒列方向に向けて形成され、底面が排気ポート側から遠ざかるにつれて低くなる上流側通路部と、上流側通路部に接続して前記上流側通路部に接続して前記気筒列と交差する方向に向けて形成され、冷却水通路内の冷却水によって冷却される下流側通路部とを備える。そして、上流側通路部の底面から天井面に向けて突出し且つ天井面に対しては予め設定された隙間を有する突出壁を上流側通路部の排気ポート側端部に形成する。従って、排気ガス還流通路内で生じた排気ガスの凝縮水は、上流側通路部内で排気ポート側に流れにくい。また、凝縮水が上流側通路部内で排気ポート側に流れたとしても、突出壁によって凝縮水が排気ポート内に引っ張り込まれるのを抑制することができ、従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができる。そして、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【0014】
また、突出壁の上端部を、上流側通路部が接続される排気ポートの断面中心より高い位置に設定した。これにより、凝縮水が排気ガスの流れによって排気ポート内に引っ張り込まれても、凝縮水を排気ポートの天井面に付着させることができる。これにより、排気ポート内の排気ガスの主流から凝縮水をずらすことができ、排気ガスの流れに乗る凝縮水量を低減することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【0015】
また、突出壁の上端部を、上流側通路部と下流側通路部との接続口の上端部より高い位置に設定した。これにより、下流側通路部内の凝縮水が接続口の上端部から上流側通路部に流れ込んだとしても、その凝縮水が排気ポート内に引っ張り込まれるのを突出壁によって抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【0016】
また、上流側通路部は、突出壁から遠ざかるほど断面積を大きくした。これにより、上流側通路部に凝縮水が溜まったとしても、その凝縮水を下流側通路部との接続口側に集めることができる。接続口側に溜まった凝縮水は排気ポートまでの距離が長いので、その凝縮水が排気ポート内に引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【0017】
また、前記の突出壁を第1の突出壁とした場合、上流側通路部の第1の突出壁と接続口との間で天井面から底面に向けて突出する第2の突出壁を形成し、その第2の突出壁の下端部を第1の突出壁の上端部より低い位置に設定した。これにより、上流側通路部内の迷路状にすることができ、凝縮水が上流側通路部から排気ポートに引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【0018】
また、第1の突出壁及び第2の突出壁の少なくとも何れか一方の排気ポートと反対側の面を凹ませて凹曲面を形成した。これにより、上流側通路部内を排気ポート側へと移動する凝縮水は凹曲面に当たって逆方向、つまり下流側通路部方向に戻され、凝縮水が上流側通路部から排気ポートに引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【0019】
また、上流側通路部の底面のうち突出壁と接続口との間に下方に凹んだ凹溝を形成した。これにより、凹溝内に凝縮水が溜まり、凝縮水が上流側通路部から排気ポートに引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルドに取付けられている排気ガスセンサを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の排気ガス還流装置が適用された車両用エンジンの第1実施形態を示す正面図である。
【
図3】
図1の車両用エンジンのシリンダヘッドの斜視図である。
【
図5】
図1の車両用エンジンの排気ガス還流通路内の排気ガスの流れの説明図である。
【
図6】
図4の排気ガス還流通路の上流側通路部周辺の拡大平面図である。
【
図7】
図4の排気ガス還流通路の上流側通路部の正面図である。
【
図8】本発明の車両用エンジンの排気ガス還流装置の第2実施形態を示す排気ガス還流通路の上流側通路部の正面図である。
【
図9】本発明の車両用エンジンの排気ガス還流装置の第3実施形態を示す排気ガス還流通路の上流側通路部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の車両用エンジンの排気ガス還流装置の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の車両用エンジンの正面図、
図2は、
図1の車両用エンジンの側面図である。本実施形態の車両用エンジンは、シリンダブロック1の上端面にシリンダヘッド2が取付けられ、シリンダヘッド2の上端面にシリンダヘッドカバー3が取付けられる。シリンダブロック1の下部にはクランクケース4が形成され、このクランクケース4内にクランク軸5が回転自在に収納される。また、シリンダブロック1の下端面には、図示しないオイルパンが取付けられる。この車両用エンジンには、
図1の図示右方に図示しない変速機が取付けられる。
【0022】
シリンダヘッド2のシリンダブロック1との接合面には、気筒列に沿って複数、本実施形態では3つの図示しない燃焼室が形成される。従って、クランク軸5の軸線は、燃焼室の配列方向、即ち気筒列と平行である。なお、エンジン本体は、種々の向きで車両に搭載されるが、凡そシリンダブロック1に対してシリンダヘッド2が上方になるように搭載されるので、その方向をエンジン上方、逆方向をエンジン下方と定義する。
【0023】
図3は、
図1の車両用エンジンのシリンダヘッドの斜視図、
図4は、
図1のX−X断面図である。各燃焼室には、当該燃焼室に混合気を吸気するための吸気ポート6、及び当該燃焼室から排気ガスを排気するための排気ポート7が接続される。本実施形態では、各燃焼室に、吸気ポート6及び排気ポート7が夫々2つずつ接続される。吸気ポート6の燃焼室側端部の吸気口は図示しない吸気バルブによって開閉され、排気ポート7の燃焼室側端部の排気口は排気バルブによって開閉される。なお、特に燃焼室や排気ポートは高温になるため、それらの周囲にはウォータジャケットと呼ばれる冷却水通路が形成され、この冷却水通路を流れる冷却水によって冷却される。冷却水は、冷却水入口部12からシリンダヘッド2内の冷却水通路に流入する。
【0024】
全気筒の吸気ポート6は吸気マニホルド8に接続され、全気筒の排気ポート7は排気マニホルド9に接続される。吸気マニホルド8は、シリンダヘッド2のうち、
図4の下側端面、即ち気筒列方向と交差する方向の一方の端面に取付けられている。また、排気マニホルド9は、シリンダヘッド2のうち、
図4の上側端面、即ち気筒列方向と交差する方向の他方の端面に取付けられている。吸気マニホルド8は図示しない吸気ダクトに接続され、排気マニホルド9には、触媒コンバータなどを介装する排気管10が接続される。なお、排気管10には、排気ガスを検出する排気ガスセンサ19が取付けられている。
【0025】
燃焼室で発生した排気ガスは排気ポート7から排気マニホルド9を経て排気管10から外部に排出される。本実施形態では、この排気ガスの一部を吸気側に還流する排気ガス還流装置がシリンダヘッド2に設けられている。図中の符号11は、この排気ガスの還流を制御するための制御バルブで、一般にEGRバルブと呼ばれる。EGRバルブ11の入口側は排気ポート7に接続され、EGRバルブ11の出口側は吸気マニホルド8に接続されている。従って、EGRバルブ11が開くと排気ガスの一部が吸気マニホルド8に還流される。また、EGRバルブ11が閉じているときには、排気ガスの一部は吸気側に還流されない。
【0026】
排気ガスは高温であるから、排気ガスの一部を吸気側に還流する際には、それを冷却しておくことが望ましい。本実施形態では、例えば
図4の図示右端側の排気ポート7内の排気ガスの一部を排気ガス還流通路13からEGRバルブ11に供給する。この排気ガス還流通路13は、前記排気マニホルド9が取付けられているシリンダヘッド2の気筒列方向と交差する方向の他方の端部に沿う上流側通路部14と、この上流側通路部14からシリンダヘッド2の気筒列方向と交差する方向の一方の端部に向かう下流側通路部15とを備えて構成される。前記EGRバルブ11は、排気ガス還流通路13の下流側通路部15の下流側端部に接続されている。
【0027】
このうち、排気ガス還流通路13の下流側通路部15は、
図3にも明示するように、外周面が冷却水入口部12の内部に位置している。そのため、排気ガス還流通路13の下流側通路部15内を流れる排気ガスの一部は、例えば冷却水入口部12内を流れる冷却水によって冷却され、冷却後にEGRバルブ11から吸気マニホルド8に供給される。一方、排気ガス還流通路13の上流側通路部14は、排気マニホルド9が取付けられるシリンダヘッド2の気筒列方向と交差する方向の他方の端面に開口する凹溝部16からなる。この凹溝部16は、例えば
図7に示すように、底面22が排気ポート7側から遠ざかるにつれて低くなる。
図5は、排気ガス還流通路13内の排気ガスの流れの説明図、
図6は、
図4の排気ガス還流通路の上流側通路部周辺の拡大平面図である。
図6に明示するように、パッキン17を介し、排気マニホルド9をシリンダヘッド2に取付けるための蓋部材18で凹溝部16を覆うことにより、上流側通路部14が構成される。なお、上流側通路部14と下流側通路部15の接続部を接続口20と称する。
【0028】
図7は、
図4の排気ガス還流通路13の上流側通路部14の正面図である。本実施形態では、上流側通路部14の排気ポート7側端部に第1の突出壁21を形成している。この第1の突出壁21は、上流側通路部14の底面22から天井面23に向けて突出し且つ天井面23に対して予め設定された隙間を有する。本実施形態では、前述したように排気ガス還流通路13の下流側通路部15にて、排気ガスの一部が冷却水入口部12内を流れる冷却水によって冷却されるため、下流側通路部15内で凝縮水が発生する可能性がある。
【0029】
図7の白抜きの矢印は、凝縮水の流れを示している。例えば、下流側通路部15内で発生した排気ガスの凝縮水が上流側通路部14内を排気ポート7側に流れる。例えば、運転者がアクセルペダルを一気に踏み込むと、気筒から排気ポート7に流れる排気ガスの流速が急激に高まり、それに伴う負圧によって排気ガス還流通路13の上流側通路部14内の凝縮水が排気ポート7に引っ張り込まれる可能性がある。そして、排気ポート7内に引っ張り込まれた凝縮水は、排気マニホルド9を経て排気管10に流れ込む。排気管10には排気ガスセンサ19が取付けられており、この排気ガスセンサ19に凝縮水が付着すると、排気ガスセンサ19が被水割れしたり、性能が低下したりする虞がある。
【0030】
本実施形態では、上流側通路部14の排気ポート7側端部に第1の突出壁21を形成しているため、この突出壁21が邪魔となって排気ポート7内に凝縮水が引っ張り込まれるのを抑制することができ、結果的に排気ガスセンサ19を保護することができる。また、本実施形態では、第1の突出壁21の上端部を、上流側通路部14が接続される排気ポート7の断面中心Oより高い位置に設定した。排気ガス流れによって上流側通路部14内の凝縮水が排気ポート7内に引っ張り込まれた場合でも、凝縮水は排気ポート7の天井面に付着する。排気ポート7内の排気ガスの主流は排気ポート7の断面中心O付近であるから、凝縮水の付着位置が排気ガス主流からずれ、排気ガスの流れに乗る凝縮水の量を低減することができる。
【0031】
また、第1の突出壁21の上端部を、上流側通路部14と下流側通路部15との接続口20の上端部より高い位置に設定した。従って、接続口20の上端部から上流側通路部14に流れ込んだ凝縮水がそのまま排気ポート7内に引っ張り込まれるのを抑制することができる。また、
図6に明示するように、上流側通路部14の断面積を、第1の突出壁21から遠ざかるほど大きくした。これにより、上流側通路部14に溜まった凝縮水を下流側通路部15との接続口20側に収集することができる。接続口20側に溜まった凝縮水は排気ポート7までの距離が長いので、その凝縮水が排気ポート7内に引っ張り込まれるのを抑制することができる。
【0032】
このように本実施形態の車両用エンジンの排気ガス還流装置では、車両用エンジンが複数の気筒を有する場合に、各気筒の吸気ポート6に接続される吸気マニホルド8をシリンダヘッド2の気筒列と交差する方向の一方の端部に取付ける。また、各気筒の排気ポート7に接続される排気マニホルド9をシリンダヘッド2の気筒列と交差する方向の他方の端部に取付ける。排気マニホルド9には、排気ポート7から排出される排気ガスを検出する排気ガスセンサ19を取付ける。そして、排気ポート7を流れる排気ガスの一部を吸気ポート6又は吸気マニホルド8に還流する排気ガス還流通路13をシリンダヘッド2に形成する。この排気ガス還流通路13は、シリンダヘッド2の気筒列と交差する方向の他方の端部側で排気ポート7から気筒列方向に向けて形成され、底面22が排気ポート7側から遠ざかるにつれて低くなる上流側通路部14と、上流側通路部14に接続して気筒列と交差する方向に向けて形成された下流側通路部15とを備える。下流側通路部15は、冷却水入口部(通路)12内の冷却水によって冷却される。そして、上流側通路部14の底面22から天井面23に向けて突出し且つ天井面23に対しては予め設定された隙間を有する第1の突出壁21を上流側通路部14の排気ポート7側端部に形成する。従って、排気ガス還流通路13内で生じた排気ガスの凝縮水は、上流側通路部14内で排気ポート7側に流れにくい。また、凝縮水が上流側通路部14内で排気ポート7側に流れたとしても、第1の突出壁21によって凝縮水が排気ポート7内に引っ張り込まれるのを抑制することができ、従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができる。そして、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。
【0033】
また、第1の突出壁21の上端部を、上流側通路部14が接続される排気ポート7の断面中心Oより高い位置に設定した。これにより、凝縮水が排気ガスの流れによって排気ポート7内に引っ張り込まれても、凝縮水を排気ポート7の天井面に付着させることができる。これにより、排気ポート7内の排気ガスの主流から凝縮水をずらすことができ、排気ガスの流れに乗る凝縮水量を低減することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。
【0034】
また、第1の突出壁21の上端部を、上流側通路部14と下流側通路部15との接続口20の上端部より高い位置に設定した。これにより、下流側通路部15内の凝縮水が接続口20の上端部から上流側通路部14に流れ込んだとしても、その凝縮水が排気ポート7内に引っ張り込まれるのを第1の突出壁21によって抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。
【0035】
また、上流側通路部14は、第1の突出壁21から遠ざかるほど断面積を大きくした。これにより、上流側通路部14に凝縮水が溜まったとしても、その凝縮水を下流側通路部15との接続口20側に集めることができる。接続口20側に溜まった凝縮水は排気ポート7までの距離が長いので、その凝縮水が排気ポート7内に引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。
【0036】
図8は、本発明の車両用エンジンの排気ガス還流装置の第2実施形態を示す排気ガス還流通路13の上流側通路部14の正面図である。本実施形態の排気ガス還流装置は、前記第1実施形態の排気ガス還流装置に類似している。そこで、同等の構成要件には同等の符号を付して、その詳細な説明を省略する。本実施形態の車両用エンジンの主要構成は、前記第1実施形態の
図1〜
図4と同様である。また、本実施形態の排気ガス還流通路13の主要構成は、前記第1実施形態の
図5、
図6と同様である。
【0037】
本実施形態の排気ガス還流通路13では、上流側通路部14内の構成が、前記第1実施形態の
図7のものから
図8のものに変更されている。この上流側通路部14では、前述した排気ポート7側端部の第1の突出壁21に対し、当該第1の突出壁21と接続口20との間に第2の突出壁24を形成し、当該第2の突出壁24と接続口20との間に第3の突出壁25を形成している。このうち、第2の突出壁24は、上流側通路部14の天井面23から底面22に向けて突出形成され、底面22との間に予め設定された隙間を有する。また、第3の突出壁25は、上流側通路部14の底面22から天井面23に向けて突出形成され、天井面23との間に予め設定された隙間を有する。更に、第2の突出壁24の下端部を第1の突出壁21の上端部より低い位置に設定し、第3の突出壁25の上端部を第2の突出壁24の下端部より高い位置に設定した。
【0038】
このように複数の突出壁21、24、25を互い違いに突出形成することで、上流側通路部14内をラビリンス(迷路)構造とすることができる。従って、
図8に白抜きの矢印で示す凝縮水の流れを迷路的にして、凝縮水が排気ポート7に引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。特に、本実施形態のように、シリンダヘッド2の気筒列と交差する方向の(他方の)端面に凹溝部16を形成して上流側通路部14を構成する場合には、前述のような互い違いの突出壁21、24、25を形成しやすい。
【0039】
また、本実施形態では、第1の突出壁21及び第2の突出壁24及び第3の突出壁25の排気ポート7と反対側の面を凹ませて凹曲面26を形成した。これにより、
図8に白抜きの矢印で示すように、上流側通路部14内を排気ポート7側へと移動する凝縮水が各突出壁21、24、25の凹曲面26に当たって逆方向、つまり下流側通路部15方向に戻され、凝縮水が上流側通路部14から排気ポート7に引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。
【0040】
図9は、本発明の車両用エンジンの排気ガス還流装置の第3実施形態を示す排気ガス還流通路13の上流側通路部14の正面図である。本実施形態の排気ガス還流装置は、前記第1実施形態の排気ガス還流装置に類似している。そこで、同等の構成要件には同等の符号を付して、その詳細な説明を省略する。本実施形態の車両用エンジンの主要構成は、前記第1実施形態の
図1〜
図4と同様である。また、本実施形態の排気ガス還流通路13の主要構成は、前記第1実施形態の
図5、
図6と同様である。
【0041】
本実施形態の排気ガス還流通路13では、上流側通路部14の底面22のうち第1の突出壁21と接続口20との間に下方に凹んだ凹溝27を形成した。これにより、同図に白抜きの矢印で示すように、凹溝27内に凝縮水が溜まり、凝縮水が上流側通路部14から排気ポート7に引っ張り込まれるのを抑制することができる。従って、凝縮水が排気マニホルド9内に飛散するのを抑制することができ、その結果、排気マニホルド9に取付けられている排気ガスセンサ19を保護することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 シリンダブロック
2 シリンダヘッド
3 シリンダヘッドカバー
4 クランクケース
5 クランク軸
6 吸気ポート
7 排気ポート
8 吸気マニホルド
9 排気マニホルド
10 排気管
11 EGRバルブ
12 冷却水入口部
13 排気ガス還流通路
14 上流側通路部
15 下流側通路部
16 凹溝部
17 パッキン
18 蓋部材
19 排気ガスセンサ
20 接続口
21 第1の突出壁
22 底面
23 天井面
24 第2の突出壁
25 第3の突出壁
26 凹曲面
27 凹溝