【実施例1】
【0017】
始めに、実施例1のブラケット(下部固定体12A)の構成について、
図1〜
図5を用いて説明する。本実施例のブラケット(下部固定体12A)は、
図1に示すように、自動車のリヤシート1のフレーム(後述する丸パイプ13:本発明の「シートフレーム」に相当する。)をフロアF上に取り付けるための取付具として構成されている。上述したリヤシート1は、自動車の2列目の座席を構成する3人掛け用のシートとして構成されており、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を備えている。シートクッション3は、3人掛け可能な長い横幅を有したひと続きの構成となっており、シートバック2は、左右で4:6の比率で分割された1人掛け用と2人掛け用とに分かれた構成となっている。上記リヤシート1の後ろ側の領域は、車両の荷室となっており、図示しない後側のドアから荷物が置けるようになっている。
【0018】
上述したシートバック2は、その4:6分割された各部分が、それぞれ支持構造10により、フロアFに対して互いに同軸回りに前後回転することができる状態に支持された状態とされている。具体的には、上記4:6分割されたシートバック2の各部分は、それぞれ、それらの外側の下端部が、フロアF上に設置された左右のサイド支持具11の可動体11Bに結合されており、それらの内側の下端部が、同じくフロアF上の中央箇所に設置された中央支持具12の各可動体12Cにそれぞれ結合された状態とされている。
【0019】
上述した各サイド支持具11は、フロアF上に一体的にボルト締結されて設けられた固定体11Aと、固定体11Aに回転軸11Cによって前後回転可能な状態に枢着されて設けられた可動体11Bと、を備えている。両固定体11Aの間には、円鋼管製の丸パイプ13が両者に貫通して一体的に溶着されて架橋された状態とされている。これにより、左右の固定体11Aが上記丸パイプ13を介して互いに一体的に結合された状態とされている。また、中央支持具12は、フロアF上に一体的にボルト締結されてその上部に上述した丸パイプ13の中間部が一体的に結合された下部固定体12Aと、上記結合された丸パイプ13の中間部上に一体的に結合されて設けられた上部固定体12Bと、上部固定体12Bの両側部に回転軸12Dによって前後回転可能な状態に枢着されて設けられた左右一対の可動体12Cと、を備えた構成となっている。
【0020】
上述した各サイド支持具11の可動体11Bと中央支持具12の各可動体12Cとは、互いに同軸まわりに回転することができるように各側の固定体11A又は中央支持具12の上部固定体12Bに枢着された状態とされている。したがって、上記構成の支持構造10により、上述したシートバック2の4:6分割された各部分は、それぞれ、上述した回転軸11C,12Dを中心に個別に自由に回転することができるように設けられた状態とされている。上記シートバック2の4:6分割された各部分は、常時は、それらの車両外側の肩口部に設けられた図示しない各係合部が、車室側壁に設けられた被係合部にそれぞれ係合して回転止めされることにより、それらの背凭れ角度が定位置に固定されて保持された状態とされている。そして、上記シートバック2の各部分は、上記各係合構造が解除されることにより、シートクッション3の上面部に畳み込める状態に切り替えられるようになっている。
【0021】
シートクッション3は、その前部の左右2箇所に設けられた、フロアF上に押し込みによって係合させることのできる図示しない押込み式の結合構造と、その後縁部の左右2箇所に設けられた、上述した丸パイプ13の左右2箇所に設けられた図示しない各フックにそれぞれ引掛けて係合させることのできる図示しない非常用の掛かり構造と、を備えた構成となっている。上述した押込み式の結合構造は、フロアF上の左右2箇所に設けられた図示しない押込み孔内にそれぞれ押し込まれることにより、これら押込み孔と係合して抜け止めされた状態となって、シートクッション3を通常時、フロアF上から剥離させないようにフロアF上に結合した状態に保持することのできる結合強度を発揮する構成となっている。
【0022】
また、非常用の掛かり構造は、上述した丸パイプ13の左右2箇所に結合された図示しない各フックに下方側から引掛けられることにより、これらフックによって前方向や上方向に抜けないように掛け止められた状態に保持されるようになっている。上記非常用の掛かり構造は、車両の前突が発生した際に、シートクッション3がその弾みでフロアF上から前方側や上方側に剥離しないように、その動きを止める機能をするものとなっている。また、上記非常用の掛かり構造は、車両の後突が発生した際にも、シートクッション3が後突発生後の反動でフロアF上から前方側や上方側に剥離しようとする動きを防止できるように機能するようになっている。
【0023】
上述したシートクッション3は、先ず、その後縁部の左右2箇所に設けられた非常用の掛かり構造を上述した丸パイプ13の図示しない各フックに下方側から引掛けた状態にしてから、その前部に設けられた上述した図示しない押込み式の結合構造をフロアF上に押し込んで係合させることにより、フロアF上に取り付けられた状態とされる構成となっている。このような取付構造とされていることにより、シートクッション3は、フロアF上に簡便に取り付けられる構成でありながら、車両の衝突発生時にフロアF上から剥離しにくい状態に支えられる構成とされている。
【0024】
ところで、上述した丸パイプ13の中間部をフロアF上に固定している下部固定体12Aは、
図2及び
図4に示すように、常時は、丸パイプ13をフロアF上に一体的に結合した状態として、丸パイプ13をフロアF上から剥離させないように下方側から強く一体的に支えた状態となっている。しかし、上記下部固定体12Aは、車両の前突発生時に、リヤシート1の後側の荷室に積まれた積荷C(ワインケースなどの重量物)が後側から強く押し当てられることにより、そのフロアF上にボルト締結されたフロア取付部12A1に無理な負荷がかけられて、フロアF上から外されてしまうおそれがある。そこで、本実施例では、上記下部固定体12Aの積荷Cが押し当てられることのある後側の領域部に、積荷Cが押し当てられた際に積極的に塑性変形して、積荷Cからの入力荷重がフロア取付部12A1に伝達されるのを抑制するエネルギ吸収構造EA(貫通孔12A7)が設定されている。ここで、上述した積荷Cが本発明の「乗物内の配置物」に相当する。
【0025】
以下、上記下部固定体12Aの具体的な構成について詳しく説明する。上述した下部固定体12Aは、
図2に示すように、一枚の鋼板材がプレス加工されて形成されており、フロアF上にあてがわれて取り付けられるフロア取付部12A1と、丸パイプ13が取り付けられるシート取付部12A2と、車両の前突発生によって荷室に積まれた積荷Cがぶつかってきた時の荷重を受け止める受止部12A3と、を有する。具体的には、下部固定体12Aは、上記プレス加工により、フロアF上にあてがわれる底面部12A4と、底面部12A4の左右両側の縁から起立する形に折り曲げられた立面部12A5と、を有する略U字板状の形に形成されている。上述した底面部12A4は、その後側の縁部が、後方側に山状に張り出した形に形成されている。
【0026】
上述した底面部12A4の中央部には、その上面に、矩形状の薄い金属板から成る補強用の当て板12A4aがあてがわれて結合されていると共に、これらに貫通するように丸孔状の通し孔12A4bが形成されている。また、各立面部12A5は、それらの後側の縁面12A5aにおいて上述した積荷Cが後側からぶつかってくる荷重を受け止める構成となっており、これら後側の縁面12A5aを含む各後側領域片12A5bが、各前側領域片12A5cに対して、それぞれ、外開き状に斜め外側に折り曲げられた形に形成された状態とされている(屈曲部12A6)。ここで、各後側領域片12A5bが本発明の「縁側領域」に相当する。上記各後側領域片12A5bは、それらの後縁側の上角部が斜めに面取りされた形に形成されており、各角部の後方側への出張りが抑えられた形に形成されている。また、各前側領域片12A5cの前縁側の上角部には、それぞれ、上述した丸パイプ13を上方側から受け入れて嵌合させることのできる円弧状に湾曲した凹状の嵌合面12A5dが形成されている。
【0027】
そして、上記底面部12A4と各立面部12A5との角部には、それぞれ、これらに跨る形で貫通した矩形状の貫通孔12A7が形成されている。詳しくは、これら貫通孔12A7は、上述した各立面部12A5に形成された屈曲部12A6にかかるように、底面部12A4と各立面部12A5との角部にそれぞれ形成された状態とされている。また、上記底面部12A4の前部には、その中央部が左右両側の領域部を残して上方側に切り起こされた支持片12A8が形成されている。上記支持片12A8は、上述した各立面部12A5の凹状の嵌合面12A5dに嵌め込まれてセットされる丸パイプ13の底面部12A4に下方側からあてがわれて、丸パイプ13を各立面部12A5と共に下方側から支える構成となっている。
【0028】
上記下部固定体12Aは、上述した各立面部12A5の凹状の嵌合面12A5dに丸パイプ13を嵌合させて一体的に溶接して結合すると共に、上記嵌合に伴って丸パイプ13の底面部12A4にあてがわれる支持片12A8も丸パイプ13の底面部12A4に一体的に溶接して結合することにより、丸パイプ13に対して強固に一体的に結合された状態とされている。そして、上記丸パイプ13に一体的に結合された下部固定体12Aは、その底面部12A4をフロアF上にあてがえて、底面部12A4の中央部に形成された通し孔12A4b内に締結ボルト12A9を上方側から差し通してフロアF下に設けられた固定ナットFnに螺合締結することにより、フロアF上にあてがえられた状態に一体的に結合された状態とされている。これにより、下部固定体12Aが、上述した丸パイプ13をフロアF上に一体的に結合した状態として、丸パイプ13をフロアF上から剥離させないように下方側から強く一体的に支えた状態となっている。
【0029】
上述した下部固定体12AのフロアF上に取り付けられるフロア取付部12A1は、上述した締結ボルト12A9によってフロアF上に取り付けられる底面部12A4の中央領域部として形成されている。また、上述した下部固定体12Aの丸パイプ13が取り付けられるシート取付部12A2は、上述した丸パイプ13が嵌め込まれて結合される各立面部12A5の凹状の嵌合面12A5dが形成された前側の領域部や、丸パイプ13に下方側からあてがわれて結合される支持片12A8によって形成されている。また、上述した下部固定体12Aの車両の前突発生時に積荷Cがぶつかってくる荷重を受け止める受止部12A3は、各立面部12A5の後側の縁面12A5aに入力された荷重を受け止める各立面部12A5や底面部12A4の後側領域によって形成されている。詳しくは、上記受止部12A3は、上述したフロア取付部12A1から積荷Cがぶつかってくる後ろ方面に向かって延出する底面部12A4の後側領域や各立面部12A5の後側領域によって形成されている。
【0030】
上記下部固定体12Aは、
図3及び
図5に示すように、車両の前突発生により荷室内の積荷Cが後方側からぶつかってくると、その左右両側の立面部12A5の後側の縁面12A5aにおいてその荷重を受け止めて、各立面部12A5の外開き状に折れ曲がった後側領域片12A5bをそれぞれ両外側に更に折り曲げさせる態様で塑性変形する。そして、この塑性変形に伴うエネルギ吸収により、積荷Cからの入力荷重がフロア取付部12A1に伝達されにくくなるように抑制されて、フロア取付部12A1がフロアF上から外れてしまうことが防止されるようになっている。
【0031】
詳しくは、上記下部固定体12Aは、その受止部12A3が、フロアF上にあてがわれる底面部12A4と、底面部12A4の左右両側の縁から起立する方向に折り曲げられて、積荷Cがぶつかってくる方向とは垂直な方向(シート幅方向)に面を向けた各立面部12A5と、を有し、各立面部12A5の起立した後側の縁面12A5aにて積荷Cがぶつかる荷重を受け止める構成となっている。そして、エネルギ吸収構造EAとなる各貫通孔12A7が、底面部12A4と各立面部12A5とに跨る角部に貫通して形成されている。このような構成となっていることにより、各立面部12A5の後側の縁面12A5aは、積荷Cから荷重を受けても、各立面部12A5の剛性により、それらの起立した形状状態を維持しやすいため、積荷Cからの荷重を長く受け止め続けることができる。したがって、このような各立面部12A5と底面部12A4とに跨る角部に各貫通孔12A7が形成されることにより、剛性の高い各立面部12A5や各立面部12A5と底面部12A4との角部をそれぞれ効果的に退避変形させながら、積荷Cからの荷重を長く受け止め続けられる(吸収し続けられる)ようになっている。
【0032】
また、各立面部12A5は、それらの積荷Cがぶつかる荷重を受け止める後側の縁面12A5aを含む後側領域片12A5bが、予め、積荷Cがぶつかってくる方面に斜めに面を向けるように折り曲げられた形に形成されている。また、各貫通孔12A7が、各立面部12A5の曲げられた屈曲部12A6にかかるように形成されている。このように各立面部12A5が予め折り曲げられた形に形成されていることにより、各立面部12A5の後側の縁面12A5aに積荷Cがぶつかってきた際に、各立面部12A5がその屈曲部12A6を有した形状により曲げ力を受けて変形しやすくなるため、変形に突っ掛かりが生じにくくなる。したがって、各立面部12A5において効果的なエネルギ吸収をすることができる。
【0033】
また、底面部12A4の両側の縁から各立面部12A5が起立して形成されており、それぞれが外開きを成す形に折り曲げられて形成されていることにより、積荷Cを広くバランス良く受け止めることができる。また、各立面部12A5の変形方向が互いに干渉し合わない外向きに進行するようになるため、各立面部12A5の変形に突っ掛かりが生じにくくなる。したがって、各立面部12A5において効果的なエネルギ吸収をすることができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明のブラケットは、シートフレームを乗物フロアに取り付けるための用途に適用されるものであればよく、鉄道等の自動車以外の車両や、航空機、船舶等の他の乗物にも広く適用することができるものである。
【0035】
また、ブラケットのフロア取付部は、かしめや螺合、接着、圧入等のボルト締結以外の方法によって乗物フロアに取り付けられるものも含む。また、シート取付部は、シートフレームのどの構成部位が取り付けられるものであってもよい。また、その取付構造も、シートフレームを嵌め込んで溶接する取り付け構造に限定されず、横から圧入して取り付けるものや、ボルト締結を用いて取り付けるものなどであってもよい。また、受止部は、乗物の衝突発生時に乗物内の配置物がぶつかってくる荷重を受け止める構成となっているものであればよく、乗物内の配置物を広い面で受け止めるようになっているものや、部分的に突出した突起部で受け止めるようになっているものであってもよい。
【0036】
また、上記受止部にぶつかってくる乗物内の配置物は、上記実施例で示したような荷室内の積荷に限定されず、乗物の衝突発生時にぶつかってくることが想定される様々な物であってもよい。また、受止部は、乗物の前突発生時に限らず、後突発生時や側突発生時などの他の衝突発生時に乗物内の配置物がぶつかってくる荷重を受け止めるように形成されていてもよい。また、受止部を構成する立面部が、底面部の縁から起立する方向に折り曲げられて乗物内の配置物がぶつかってくる方向に面を向けて形成されたものであってもよい。また、立面部は、底面部から垂直に起立する形に折り曲げられたものに限らず、斜めに起立したものや、湾曲した形に起立するもの、または段差状に折れ曲がって起立するものなどであってもよい。
【0037】
また、上記受止部に形成されるエネルギ吸収構造は、貫通孔に限らず、受止部を部分的に肉薄化したり波打ち状の形にしたりして脆弱化する脆弱部によって形成したものであってもよい。また、エネルギ吸収構造は、受止部の中間部に形成される必要はなく、受止部のフロア取付部から乗物内の配置物がぶつかってくる方面に向けて延出する領域部内のいずれかの箇所に形成されていればよく、受止部の乗物内の配置物がぶつかってくる当接面に臨む箇所に形成されていてもよい。また、立面部に形成される屈曲部は、折り曲げでなく、湾曲状に屈曲させるものであってもよい。屈曲部は、上記実施例で示したような外向きではなく、内向きに折り曲げられて形成されていてもよい。