【実施例1】
【0015】
始めに、実施例1の乗物用シートの構成について、
図1〜
図6を用いて説明する。本実施例の乗物用シートは、
図1に示すように、自動車の2列目の座席を構成する3人掛け用のリヤシート1として構成されている。このリヤシート1は、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を備えて構成されている。シートクッション3は、3人掛け可能な長い横幅を有したひと続きの構成となっており、シートバック2は、左右で4:6の比率で分割された1人掛け用と2人掛け用とに分けられた構成となっている。
【0016】
上述したシートバック2は、その4:6分割された各部分が、それぞれ支持構造10により、フロアFに対して互いに同軸回りに前後回転することができる状態に支持された状態とされている。具体的には、上記4:6分割されたシートバック2の各部分は、それぞれ、それらの外側の下端部が、フロアF上に設置された左右のサイド支持具11の可動体11Bに結合されており、それらの内側の下端部が、同じくフロアF上の中央箇所に設置された中央支持具12の各可動体12Cにそれぞれ結合された状態とされている。
【0017】
上述した各サイド支持具11は、フロアF上に一体的にボルト締結されて設けられた固定体11Aと、固定体11Aに回転軸11Cによって前後回転可能な状態に枢着されて設けられた可動体11Bと、を備えている。両固定体11Aの間には、円鋼管製の丸パイプ13が両者に貫通して一体的に溶着された状態に架橋された状態とされている。これにより、左右の固定体11Aが上記丸パイプ13を介して互いに一体的に結合された状態とされている。また、中央支持具12は、フロアF上に一体的にボルト締結されてその上部に上述した丸パイプ13の中間部が一体的に結合された下部固定体12Aと、上記結合された丸パイプ13の中間部上に一体的に結合されて設けられた上部固定体12Bと、上部固定体12Bの両側部に回転軸12Dによって前後回転可能な状態に枢着されて設けられた左右一対の可動体12Cと、を備えた構成となっている。
【0018】
上述した各サイド支持具11の可動体11Bと中央支持具12の各可動体12Cとは、互いに同軸まわりに回転することができるように各側の固定体11A又は中央支持具12の上部固定体12Bに枢着された状態とされている。したがって、上記構成の支持構造10により、上述したシートバック2の4:6分割された各部分は、それぞれ、上述した回転軸11C,12Dを中心に個別に自由に回転することができるように設けられた状態とされている。上記シートバック2の4:6分割された各部分は、常時は、それらの車両外側の肩口部に設けられた図示しない各係合部が、車室側壁に設けられた被係合部にそれぞれ係合して回転止めされることにより、それらの背凭れ角度が定位置に固定された状態に保持された状態とされている。そして、上記シートバック2の各部分は、上記車室側壁との間に設けられた各係合構造が解除されることにより、シートクッション3の上面部に畳み込めるように回転させられる状態に切り替えられるようになっている。
【0019】
シートクッション3は、その前部の左右2箇所に設けられた、フロアF上に押し込みによって係合させることのできる図示しない押込み式の結合構造と、その後縁部の左右2箇所に設けられた、上述した支持構造10の丸パイプ13に結合された左右2箇所の各フック14にそれぞれ引掛けて係合させることのできるストライカ3Sと、を備えた構成となっている。上述した押込み式の結合構造は、フロアF上の左右2箇所に設けられた図示しない押込み孔内にそれぞれ押し込まれることにより、これら押込み孔と係合して抜け止めされた状態となって、シートクッション3を通常時、フロアF上から剥離させないようにフロアF上に結合した状態に保持することのできる結合強度を発揮する構成となっている。
【0020】
また、各ストライカ3Sは、
図2〜
図3に示すように、上述した丸パイプ13の左右2箇所に結合された各フック14に下方側から引掛けられることにより、これらフック14によって前方側や上方側に抜けないように掛けられた状態に保持されるようになっている。上記各ストライカ3Sと各フック14との掛かり構造は、車両の前突が発生した際に、シートクッション3がその弾みでフロアF上から前方側や上方側に剥離しようとする動きを防止する非常時の掛かり構造として機能するものとなっている。また、上記非常時の掛かり構造は、車両の後突が発生した際にも、シートクッション3が後突発生後の反動でフロアF上から前方側や上方側に剥離しようとする動きを防止できるように機能するようになっている(
図6参照)。
【0021】
上述したシートクッション3は、先ず、その後縁部の左右2箇所に設けられた各ストライカ3Sを各フック14に下方側から引掛けた状態にしてから、その前部に設けられた上述した図示しない押込み式の結合構造をフロアF上に押し込んで係合させることにより、フロアF上に取り付けられた状態とされる構成となっている。このような取付構造とされていることにより、シートクッション3は、フロアF上に簡便に取り付けられる構成でありながら、車両の衝突発生時にフロアF上から剥離しにくい状態に支えられる構成とされている。
【0022】
しかし、上述した各ストライカ3Sと各フック14との掛かり構造は、
図5に示すように、車両の後突が発生した際には、シートバック2に着座乗員の背凭れ荷重が強く圧し掛かる作用によって、各フック14が各ストライカ3Sとの引掛かり状態から上方側に引き抜かれるように外力を受けるようになっている。具体的には、上記シートバック2に車両の後突発生に伴う大荷重が入力されると、このシートバック2を下方側から支えている各サイド支持具11及び中央支持具12に後方側への強い曲げの負荷がかけられる。これにより、各サイド支持具11及び中央支持具12のフロアFと固定された根本側の各固定体11A及び下部固定体12Aに、フロアF上から後方側に押し曲げられる強い曲げの負荷が集中してかけられるために、これら固定体11Aや下部固定体12Aが後方側に押し曲げられる態様で変形し、これらの間に架橋された丸パイプ13がこれらと一体的となって後方側に押し回されるように回転変位する。
【0023】
そして、この丸パイプ13の回転変位により、丸パイプ13上に一体的に結合された各フック14がそれぞれ各ストライカ3Sに引掛けられた初期位置から上方側に押し上げられるように回転変位しようとするため、各フック14が各ストライカ3Sとの引掛かり状態から上方側に引き抜かれようとする。しかし、本実施例では、上記のような各フック14の上方側への回転変位が起こらないようにするために、各フック14を着座乗員の尻部から入力される荷重によって後下方向に押し込んで各ストライカ3Sとの引掛かり状態を維持できるようにする構成が採用されている。
【0024】
具体的には、シートクッション3のクッションパッド3Pの後縁上部3Pbに後述する形状出しワイヤ3Pfが埋設されており、この形状出しワイヤ3Pfが、車両の後突発生時に、着座乗員の尻部が後下方向に強く圧し掛けられる力の作用によって、各フック14に前方側からの押圧力を作用させて、各フック14を衝突発生前の初期位置よりも更に後下方向に強制変位させるように押し曲げて、各フック14の引き抜き方向(浮き上がり方向)の変位を抑える構成となっている。したがって、上記押さえ込み構造により、
図6に示すように、車両の後突発生後の反動でシートクッション3がフロアF上から前方側や上方側に剥離しようとする動きがあっても、各フック14が各ストライカ3Sを引掛けられる状態に保たれるため、上記シートクッション3の剥離移動が良好に阻止されるようになる。ここで、丸パイプ13が本発明の「ブラケット」に相当し、形状出しワイヤ3Pfが本発明の「硬質押さえ部」及び「埋設ワイヤ」に相当する。
【0025】
以下、上述した各ストライカ3Sと各フック14の掛かり構造について、シートクッション3の基本構造と併せて詳しく説明していく。ここで、シートクッション3は、
図4に示すように、そのクッション構造を成す発泡ウレタン製のクッションパッド3Pの内部に、図示しない骨組みを構成する枠状のワイヤフレームが埋設されており、クッションパッド3Pの表面全体には布製のクッションカバー3Cが覆い被された構成となっている。ここで、クッションパッド3Pが本発明の「パッド」に相当する。
【0026】
上記クッションパッド3Pは、
図1及び
図4に示すように、その着座乗員の尻部を支える尻支え部3Paより後側の後縁上部3Pbが、後方側に庇状に張り出した形に形成された構成となっている。そして、このクッションパッド3Pの後方側に張り出した後縁上部3Pbの内部には、同後縁上部3Pbの張り出し形状に沿ってシート幅方向に延びる形状出しワイヤ3Pfが埋設されている。この形状出しワイヤ3Pfは、鋼線材によって形成されており、上述したクッションパッド3P内に埋設された図示しないワイヤフレームと一体的に繋がれた状態に設けられていて、クッションパッド3Pの後縁上部3Pbの形状を内側から支えて、同部の形状が上述したクッションカバー3Cの張設力などによって潰れないようにする形状維持部材として機能するものとなっている。
【0027】
そして、上述したクッションパッド3Pの後縁部の左右2箇所には、上述したクッションパッド3Pの後方側に張り出した後縁上部3Pbの庇下の凹んだ空間領域内に張り出すかたちで上述したストライカ3Sが設けられている。これらストライカ3Sは、それぞれ、U字状に折り曲げられた鋼線材によって形成されている。これらストライカ3Sは、それぞれ、それらのU字の曲げ返し部分が後方側を向いてU字内空間が上向きとなるように配設された状態とされており、それらの前方側へ延びるU字の両端がクッションパッド3P内に入り込んで、同クッションパッド3P内に埋設された上述した図示しないワイヤフレームに一体的に結合された状態として設けられている。これにより、各ストライカ3Sは、クッションパッド3Pから後方側に引き抜かれないようにクッションパッド3P内に強固に一体的に結合された状態とされている。
【0028】
上述した各ストライカ3Sは、上述したように、クッションパッド3Pの後縁部から後方側に張り出す形に設けられた状態とされている。しかし、各ストライカ3Sは、予め、上述した図示しないワイヤフレームに一体的に結合された状態として、ワイヤフレームと一緒に、クッションパッド3Pの発泡成形型内にセットされて発泡成形が行われることにより、形状全体がクッションパッド3Pの形状によって覆われた状態に形成された状態とされている。なお、上記成形後の各ストライカ3SのU字内開口には、上述した発泡成形の際に、成形型内に各ストライカ3SのU字内空間に発泡樹脂を通させない壁が設定されていることにより、各フック14を上方側から通すことのできる通し孔3Pcが形成された状態とされている。
【0029】
このように、各ストライカ3Sがクッションパッド3Pの形状によって直接外部に露呈しないように外側から覆われた構成となっていることにより、これらが通常時、車両走行時の振動などによって、これらが引掛けられる金属製の各フック14に対して、直接接触して異音を発生させることがないように保護されるようになっている。上述した各ストライカ3Sは、
図4に示すように、それらのU字の曲げ返し部分が、上述したクッションパッド3Pの後縁上部3Pb内に埋設された形状出しワイヤ3Pfよりも後方側かつ下方側に離間した位置に配置された状態とされている。これにより、各ストライカ3Sを各フック14に下方側から引掛ける作業時に、形状出しワイヤ3Pfが各フック14に干渉しにくいようになっており、各ストライカ3Sの引掛け作業が阻害されることなくスムーズに行えるようになっている。
【0030】
各フック14は、
図2に示すように、上述した丸パイプ13の左右2箇所の上面部に溶接により強固に一体的に結合されて設けられた状態とされている。詳しくは、
図4に示すように、各フック14は、それらの後部領域の形状が、丸パイプ13の外周面形状に沿って湾曲した形に形成されており、丸パイプ13の頂点部から後面部までの外周面領域にあてがわれて溶接により強固に一体的に結合された状態とされている。そして、各フック14は、上記丸パイプ13の頂点部から、丸パイプ13の前方側に形状を延ばし、そこから前下方向に斜めに形状が折り曲げられて、更にその先の端部が鉤部14Aとして後下方向に折り返された形状とされた、下向き開口の鉤形状に形成された状態とされている。
【0031】
上記各フック14は、それらの鉤部14AとフロアFとの間に空いた隙間から上述した各ストライカ3Sを通して上方側に掛け入れることにより、それらの鉤部14Aが各ストライカ3SのU字内開口(通し孔3Pc)に通された状態として、各ストライカ3Sの前方側と上方側への移動をそれぞれ拘束した状態に保持するようになっている。しかし、各フック14は、
図5において前述したように、車両の後突発生時には、シートバック2に着座乗員の背凭れ荷重が強く圧し掛けられる作用によって後方側に押し回される丸パイプ13に引き連れられる形で、各ストライカ3Sとの引掛かり状態から上方側に引き抜かれるように回転変位しようとする構成となっている。
【0032】
しかし、上記各フック14の引き抜き方向の移動は、後突発生時に、併せて、着座乗員の尻部がシートクッション3のクッションパッド3Pの尻支え部3Paや後縁上部3Pbに強く圧し掛けられる大荷重の作用によって、後縁上部3Pbに埋設された形状出しワイヤ3Pfが各フック14に前方側から押し当てられることで抑止されるようになっている。具体的には、上記クッションパッド3Pの後縁上部3Pbに埋設された形状出しワイヤ3Pfは、上記着座乗員の尻部からの強い押圧荷重を受けることにより、各フック14に強く押し当てられて、各フック14を衝突発生前の初期位置よりも後下方向に変位させるように押し曲げるようになっている。これにより、各フック14は、
図6に示すように、各ストライカ3Sを引掛ける鉤部14Aの引掛け角度が衝突発生前の初期角度よりも後方側に深める形に押し曲げられた状態となる。したがって、各フック14は、後突発生後の反動でシートクッション3がフロアF上から前方側や上方側に移動しようとする時には、各ストライカ3Sを強く引掛けることができる状態となるため、シートクッション3の前方側や上方側への剥離移動が各フック14によって良好に阻止される。
【0033】
このように、本実施例のリヤシート1(乗物用シート)は、車両の衝突発生により、丸パイプ13(ブラケット)が押し曲げられて、各フック14が各ストライカ3Sに引掛けられた状態から引き抜かれようとしても、クッションパッド3Pよりも硬質な形状出しワイヤ3Pf(硬質押さえ部)が衝突発生に伴う入力荷重によって各フック14に力をかけることにより、各フック14の引き抜き方向の変位が抑えられる。したがって、車両の衝突発生時に、フロアF上に設けられた丸パイプ13の各フック14が、シートクッション3に取り付けられた各ストライカ3Sとの引掛かり状態から外されないようにすることができる。
【0034】
また、各フック14が、形状出しワイヤ3Pfによって、それらの各ストライカ3Sを引掛ける引掛け角度を衝突発生前の初期角度よりも後方側に深める形に押し曲げられるようになっている。このように、各フック14が衝突発生時に上記形状に押し曲げられることにより、各ストライカ3Sが各フック14からより抜けにくくなる。したがって、各フック14を各ストライカ3Sとの引掛かり状態からより外れにくくすることができ、衝突発生による反動で各ストライカ3S(シートクッション3)が各フック14から離れる方向に動く移動を良好に抑えることができる。
【0035】
また、上記各フック14の引き抜き方向の変位を抑える「硬質押さえ部」が、シートクッション3のクッションパッド3P内部に配設された形状出しワイヤ3Pfによって構成されている。このような構成とすることにより、衝突発生時にシートクッション3のクッションパッド3Pに強い押し付け力を作用させる着座乗員の荷重を利用して、各フック14に効果的な押し付け力をかけられる構成とすることができる。また、このような構成を、シートクッション3のクッションパッド3P内部にワイヤを埋設する簡単な構成によって得ることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明の「乗物用シート」は、自動車のリヤシート以外のシートにも適用することができるほか、鉄道等の自動車以外の車両に適用されるシートであってもよく、また、航空機、船舶等の様々な乗物用に供されるシートにも広く適用することができるものである。
【0037】
また、「ストライカ」は、ワイヤがU字状の形に折り曲げられて形成されたものに限らず、プレートの一部にフックを引掛けられる孔を設けて形成したものや、2部材の間にフックを引掛けられるアームを架橋させて形成したものなど、フックを引掛けられる構成となっているものであれば、どのような形態のものであっても構わない。また、「ストライカ」を「フック」に引掛ける引掛け方向は、上方側からの引掛け方向であってもよく、また、側方側や前方側、後方側からの引掛け方向であってもよい。また、「ストライカ」が「フック」に対して、シートクッションの後突発生時に後方側への剥離移動を防止するように掛けられる構成であってもよい。
【0038】
また、「フック」が設けられるフロア上に取り付けられた「ブラケット」は、シートバックを支える支持ブラケット以外の用途で設けられるものであってもよく、フックを設けるためだけに設けられるものであってもよい。また、「硬質押さえ部」は、シートクッションのパッド内部に埋設される埋設ワイヤ以外にも、パッドの裏面に硬質材を設けて構成したものや、パッド内部に硬質のプレート材を配して構成したものであってもよい。
【0039】
また、「フック」は、乗物の衝突発生時に「硬質押さえ部」から受ける押圧力の作用によって引き抜き方向の変位が抑えられるようになっていればよく、ある程度、初期位置から引き抜き方向に変位が進行してしまう構成や、初期位置と変わらない位置に保持される構成であっても構わない。すなわち、「フック」は、「硬質押さえ部」によってその引き抜き方向の変位が抑えられることで、ストライカとの引掛かり状態から外されないようになっていればよい。