(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、バッテリ電圧が電子制御装置へ直接供給されるため、電子制御装置内部において電力損失による発熱が大きくなるおそれがある。これについては、バッテリ電圧を降圧回路で降下させることにより解決することができる。しかし、上記昇圧回路と上記降圧回路とを直列に接続しているために、出力リップル電圧が大きくなり制御安定性が悪化するとともに、過渡応答性も悪化するという問題があった。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、電源電圧制御装置の制御安定性と過渡応答性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の電源電圧制御装置では、昇圧回路が、電源電圧が予め設定された昇圧設定電圧値以下である場合に、電源電圧を昇圧設定電圧値まで上昇させる昇圧動作を実行し、降圧回路が、電源電圧が予め設定された降圧設定電圧値以上である場合に、電源電圧を降圧設定電圧値まで降下させる降圧動作を実行する。また、昇圧設定電圧値は、降圧設定電圧値よりも小さくなるように設定されており、昇圧回路は、電源電圧が昇圧設定電圧値を超えている場合には、昇圧動作を実行しないように構成され、降圧回路は、電源電圧が降圧設定電圧値未満である場合には、降圧動作を実行しないように構成されている。
【0008】
このように構成された電源電圧制御装置では、電源電圧が降圧設定電圧値以上となることにより降圧回路が降圧動作を実行しているときには、昇圧回路が昇圧動作を実行しない。また、電源電圧が昇圧設定電圧値以下となることにより昇圧回路が昇圧動作を実行しているときには、降圧回路が降圧動作を実行しない。
【0009】
つまり、本発明の電源電圧制御装置では、昇圧回路と降圧回路が同時に動作を実行することがないため、制御安定性と過渡応答性を確保することができる。
さらに本発明の電源電圧制御装置では、昇圧設定電圧値が降圧設定電圧値よりも小さくなるように設定されているため、電源電圧が昇圧設定電圧値と降圧設定電圧値の間である場合には、昇圧回路と降圧回路の両方が動作しない。このため、昇圧設定電圧値と降圧設定電圧値との差を大きくすることにより、昇圧回路と降圧回路の両方が動作しない電源電圧領域が広くなるように設定することができる。これにより、電源電圧の変動時、および負荷変動による回路電流変化時においても、昇圧と降圧の排他動作を可能とし、制御安定性と過渡応答性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態の電子制御装置(Electronic Control Unit)1(以下、ECU1という)は、車両に搭載され、車両のエンジンを始動させるためのスタータを制御する。
【0012】
図1に示すように、車両内においてECU1の外部には、キースイッチ2、メインリレー3、バッテリ4およびヒューズ5,6が設けられている。
キースイッチ2は、車両のキーが挿入されるイグニッションキーシリンダに取り付けられている。イグニッションキーシリンダは、挿入された車両のキーを運転者が回転させることで、オフ(OFF)位置、アクセサリ(ACC)位置、イグニッション(IG)位置およびスタータ(ST)位置の4つのキー位置のうちの何れか1つに切り替えられる。
【0013】
またキースイッチ2は、バッテリ端子21、オフ端子22、アクセサリ端子23、イグニッション端子24およびスタータ端子25を備えている。そして、バッテリ端子21にバッテリ4の正極が接続される。
【0014】
またキースイッチ2は、キー位置がオフ(OFF)位置、アクセサリ(ACC)位置、イグニッション(IG)位置およびスタータ(ST)位置である場合にそれぞれ、バッテリ端子21を、オフ端子22、アクセサリ端子23、イグニッション端子24およびスタータ端子25に接続させる。これによりキースイッチ2は、イグニッションキーシリンダのキー位置に応じて車両の通電状態を切り替える。
【0015】
メインリレー3は、端子31,32を備えており、端子31がヒューズ5を介してバッテリ4の正極に接続され、端子32がECU1に接続される。そしてメインリレー3は、イグニッションキーシリンダのキー位置がイグニッション位置であるときにオン状態になる。これにより、端子31と端子32とが接続され、バッテリ4のバッテリ電圧VBがECU1へ供給される。
【0016】
ECU1は、マイコン11、端子12,13、スタータスイッチ検出回路14および内部電源回路15を備える。
マイコン11は、CPU、ROM、RAM、I/O及びこれらの構成を接続するバスラインなどから構成され、ROMに記憶されたプログラムに基づいて各種制御処理を実行する。
【0017】
端子12は、ヒューズ6を介してキースイッチ2のスタータ端子25に接続される。端子13は、メインリレー3の端子32に接続される。
スタータスイッチ検出回路14は、端子12に接続され、端子12に印加された電圧値に基づいて、キー位置がスタータ位置であるか否かを判断する。そしてスタータスイッチ検出回路14は、キー位置がスタータ位置であると判断した場合に、キー位置がスタータ位置であることを示すスタータ位置報知信号を出力する。
【0018】
内部電源回路15は、端子13から入力したバッテリ電圧VBを降圧して、マイコン11を動作させるための電源電圧(以下、内部電源電圧という)を生成し、生成した内部電源電圧をマイコン11へ出力する。
【0019】
また内部電源回路15は、ダイオード41、昇圧回路42、ダイオード43、降圧回路44および定電圧回路45を備える。
ダイオード41は、電流逆流防止用のダイオードであり、端子13と降圧回路44との間を接続する電源配線VL1上において、降圧回路44から端子13へ向けて電流が流れないように設置される。すなわちダイオード41は、アノードが端子13に接続されるとともにカソードが降圧回路44に接続される。
【0020】
昇圧回路42は、端子13と昇圧回路42との間を接続する電源配線VL2と、降圧回路44と昇圧回路42との間を接続する電源配線VL3とに接続されている。このため昇圧回路42は、電源配線VL2を介して入力したバッテリ電圧VBを、予め設定された昇圧設定電圧値V1に昇圧し、電源配線VL3を介して出力する。
【0021】
また昇圧回路42は、スタータスイッチ検出回路14からスタータ位置報知信号が入力しているときには昇圧動作が可能となり、スタータ位置報知信号が入力していないときには昇圧動作が禁止されるように構成されている。
【0022】
ダイオード43は、電流逆流防止用のダイオードであり、電源配線VL3上において、降圧回路44から昇圧回路42へ向けて電流が流れないように、アノードが昇圧回路42に接続されるとともにカソードがダイオード41と降圧回路44との接続点に接続される。
【0023】
降圧回路44は、電源配線VL1を介して端子13からバッテリ電圧VBを入力するか、電源配線VL3を介して昇圧回路42から出力された電圧を入力し、入力した電圧を予め設定された降圧設定電圧値V2に降圧して出力する。
【0024】
定電圧回路45は、降圧回路44から入力した電圧を更に降圧して、マイコン11を動作させるための電源電圧(以下、内部電源電圧という)を生成し、生成した内部電源電圧をマイコン11へ出力する。
【0025】
次に、内部電源回路15の動作を
図2を用いて説明する。
図2に示すように、内部電源回路15は、まずS10にて、バッテリ電圧VBが上記昇圧設定電圧値V1以下であるか否かを判断する。ここで、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1以下である場合には(S10:YES)、S20にて、バッテリ電圧VBがECU始動電圧値V3以上であるか否かを判断する。なおECU始動電圧値V3は、エンジンを始動させるためにスタータを駆動することが可能なバッテリ電圧VBの下限値である。
【0026】
ここで、バッテリ電圧VBがECU始動電圧値V3未満である場合には(S20:NO)、S30にて、昇圧回路42と降圧回路44の両方を作動させない。これにより、バッテリ電圧VBは、昇圧回路42による昇圧と降圧回路44による降圧が行われることなく定電圧回路45に供給される。そして、S30の処理が終了すると、S10に移行する。
【0027】
一方、バッテリ電圧VBがECU始動電圧値V3以上である場合には(S20:YES)、S40にて、スタータスイッチ検出回路14からのスタータ位置報知信号に基づいて、キー位置がスタータ位置であるか否かを判断する。ここで、キー位置がスタータ位置である場合には(S40:YES)、S50にて、昇圧回路42を作動させるとともに、降圧回路44を作動させない。これにより、昇圧回路42によりバッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1に昇圧され、昇圧設定電圧値V1の電圧が定電圧回路45に供給される。そして、S50の処理が終了すると、S10に移行する。一方、キー位置がスタータ位置でない場合には(S30:NO)、S30に移行する。
【0028】
またS10にて、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1を超えている場合には(S10:NO)、S60にて、バッテリ電圧VBが上記降圧設定電圧値V2以下であるか否かを判断する。ここで、バッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2以下である場合には(S60:YES)、S30に移行する。
【0029】
一方、バッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2を超えている場合には(S60:NO)、S70にて、降圧回路44を作動させるとともに、昇圧回路42を作動させない。これにより、降圧回路44によりバッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2に降圧され、降圧設定電圧値V2の電圧が定電圧回路45に供給される。そして、S70の処理が終了すると、S10に移行する。
【0030】
このように構成された内部電源回路15では、
図3に示すように、バッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2を超えている場合には、降圧設定電圧値V2の電圧が定電圧回路45に供給される(破線L1を参照)。また、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1を超えており且つ降圧設定電圧値V2未満である場合には、バッテリ電圧VBが定電圧回路45に供給される(実線L2を参照)。
【0031】
また、バッテリ電圧VBがECU始動電圧値V3以上であり且つ昇圧設定電圧値V1以下である場合において、キー位置がスタータ位置であるときには、昇圧設定電圧値V1の電圧が定電圧回路45に供給され(1点鎖線L3を参照)、キー位置がスタータ位置でないときには、バッテリ電圧VBが定電圧回路45に供給される(点線L4を参照)。
【0032】
また、バッテリ電圧VBがECU始動電圧値V3未満である場合には、バッテリ電圧VBが定電圧回路45に供給される(実線L5を参照)。
このように構成された内部電源回路15では、昇圧回路42が、バッテリ電圧VBが予め設定された昇圧設定電圧値V1以下である場合に、バッテリ電圧VBを昇圧設定電圧値V1まで上昇させる昇圧動作を実行し、降圧回路44が、バッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2以上である場合に、バッテリ電圧VBを降圧設定電圧値V2まで降下させる降圧動作を実行する。また、昇圧設定電圧値V1は、降圧設定電圧値V2よりも小さくなるように設定されており、昇圧回路42は、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1を超えている場合には、昇圧動作を実行しないように構成され、降圧回路44は、バッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2未満である場合には、降圧動作を実行しないように構成されている。
【0033】
このように構成された内部電源回路15では、バッテリ電圧VBが降圧設定電圧値V2以上となることにより降圧回路44が降圧動作を実行しているときには、昇圧回路42が昇圧動作を実行しない。また、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1以下となることにより昇圧回路42が昇圧動作を実行しているときには、降圧回路44が降圧動作を実行しない。
【0034】
つまり内部電源回路15では、昇圧回路42と降圧回路44が同時に動作を実行することがないため、制御安定性と過渡応答性を確保することができる。
さらに内部電源回路15では、昇圧設定電圧値V1が降圧設定電圧値V2よりも小さくなるように設定されているため、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1と降圧設定電圧値V2の間である場合には、昇圧回路42と降圧回路44の両方が動作しない。このため、昇圧設定電圧値V1と降圧設定電圧値V2との差を大きくすることにより、昇圧回路42と降圧回路44の両方が動作しないバッテリ電圧領域が広くなるように設定することができる。これにより、バッテリ電圧VBの変動時、および負荷変動による回路電流変化時においても、昇圧と降圧の排他動作を可能とし、制御安定性と過渡応答性を確保することができる。
【0035】
また内部電源回路15では、昇圧回路42は、降圧回路44に接続されてバッテリ電圧VBを供給する電源配線VL1に対して並列に接続されている。
そしてダイオード41が、電源配線VL1上において、昇圧回路42へバッテリ電圧VBを入力する電源配線VL2と電源配線VL1との接続点P1と、昇圧回路42からバッテリ電圧VBを出力する電源配線VL3と電源配線VL1との接続点P2との間に設けられ、接続点P2から接続点P1に向けて電流が流れるのを阻止する。
【0036】
またダイオード43が、電源配線VL3上において、接続点P2と昇圧回路42との間に設けられ、接続点P2から昇圧回路42に向けて電流が流れるのを阻止する。
これにより、昇圧回路42が昇圧動作を実行することにより、接続点P2での電圧が接続点P1での電圧よりも大きくなった場合であっても、電源配線VL1を介して接続点P2から接続点P1に向けて電流が流れたり、電源配線VL2,Vl3を介して接続点P2から接続点P1に向けて電流が流れたりすることがない。
【0037】
このため、昇圧回路42が昇圧動作を実行している場合には、電源配線VL2,VL3を介して降圧回路44へバッテリ電圧VBが供給される。一方、昇圧回路42が昇圧動作を実行していない場合には、電源配線VL1を介して降圧回路44へバッテリ電圧VBが供給される。
【0038】
そして、昇圧回路42が昇圧動作を実行するのは、エンジン始動時にバッテリ電圧VBが一時的に低下してマイコン11でリセットが発生するのを抑制するためである。
したがって、電源配線VL2,VL3を通って昇圧回路42内を流れる電流は、マイコン11が動作可能な電力を供給できる量であればよい。このため、昇圧回路42を構成する部品(例えば、昇圧コイル、昇圧ダイオードなど)の定格を通常より小さくすることができる。
【0039】
また昇圧回路42は、バッテリ電圧VBが昇圧設定電圧値V1以下であり且つキー位置がスタータ位置であるときである場合にのみ、昇圧動作を実行するように構成されている。
【0040】
これにより、エンジン始動時以外でバッテリ電圧VBが低下した場合において無駄に昇圧動作が実行されるということがなくなり、内部電源回路15の電力消費を抑制することができる。
【0041】
以上説明した実施形態において、内部電源回路15は本発明における電源電圧制御装置、バッテリ電圧VBは本発明における電源電圧、電源配線VL1は本発明における第1電源配線、電源配線VL2は本発明における第2電源配線、電源配線VL3は本発明における第3電源配線、ダイオード41は本発明における第1逆流阻止部、ダイオード43は本発明における第2逆流阻止部である。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
例えば上記実施形態では、降圧回路44にバッテリ電圧VBを入力する電源配線VL1に対して並列に昇圧回路42が接続されているものを示したが、降圧回路44からバッテリ電圧VBを出力する電源配線に対して並列に昇圧回路42が接続されるようにしてもよい。
【0043】
また上記実施形態では、イグニッションキーシリンダのキー位置がスタータ位置である場合に昇圧回路42が昇圧動作を実行するものを示したが、昇圧回路42が昇圧動作を実行するのはスタータを作動させるときであればよく、例えば、スマートエントリシステムにおいてブレーキが踏まれた状態でスタートボタンが操作された場合に昇圧回路が昇圧動作を実行するようにすればよい。