(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040864
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】板状アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02N 2/08 20060101AFI20161128BHJP
H02N 10/00 20060101ALI20161128BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
H02N2/08
H02N10/00
H02N11/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-111400(P2013-111400)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-230475(P2014-230475A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(72)【発明者】
【氏名】橋本 広幸
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−534286(JP,A)
【文献】
特開平5−5481(JP,A)
【文献】
実開平1−125277(JP,U)
【文献】
特開平9−257398(JP,A)
【文献】
特開昭60−217710(JP,A)
【文献】
特開平6−246826(JP,A)
【文献】
特表2012−517790(JP,A)
【文献】
特開2005−104722(JP,A)
【文献】
特開2002−36199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/08
H02N 10/00
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体のボディの一部を変形させるための板状アクチュエータであって、湾曲した板状構造を有し、該板状構造の蠕動によって、前記ボディの一部の可動部分が移動される板状アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1の板状アクチュエータであって、可撓性の湾曲した板状部材と、前記板状部材にてその湾曲方向に概ね沿って延在するよう装着された伸縮可能な帯状の変形素子とを含み、前記板状部材の蠕動を生ずるよう長さの変化した前記変形素子の位置が変更されることにより、前記蠕動が前記板状構造に於いて進行する板状アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2の板状アクチュエータであって、前記変形素子の長さが短縮することにより前記板状部材に於いてその湾曲面の内方へ窪んだ凹領域が形成され、短縮した前記変形素子の位置が変更されることにより、前記板状部材の凹領域が移動し、該移動する前記板状部材の凹領域が前記ボディの少なくとも一部の可動部分を押圧することにより前記ボディの少なくとも一部の可動部分を変位させる板状アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2乃至3のいずれかの板状アクチュエータであって、更に、前記板状部材上にて交差することなく延在する2本の帯状導電性領域が設けられ、前記変形素子がその両端間にて延在する導電部を有し、前記2本の帯状導電性領域のそれぞれと前記変形素子の導電部のそれぞれの端とが導通した状態にて前記変形素子が前記2本の帯状導電性領域の延在する方向に沿って移動可能に配置され、前記2本の帯状導電性領域と前記変形素子の導電部に電流を流すことによって前記長さの変化した変形素子が前記2本の帯状導電性領域の延在する方向に沿って移動することにより前記蠕動の進行が生ずる板状アクチュエータ。
【請求項5】
請求項2乃至3のいずれかの板状アクチュエータであって、複数本の前記変形素子が互いに隔置されて前記板状部材に装着され、前記複数本の変形素子の長さを選択的に変化させることにより、前記蠕動の進行が生ずる板状アクチュエータ。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかの板状アクチュエータであって、前記変形素子の温度によって前記変形素子の長さが変化する板状アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6の板状アクチュエータであって、前記変形素子の温度が前記変形素子に電流を流すことにより発生するジュール熱によって制御される板状アクチュエータ。
【請求項8】
請求項2乃至7のいずれかの板状アクチュエータであって、前記板状部材に熱可塑性樹脂製薄板が貼着され、前記変形素子がその温度が上昇することにより長さが短くなる素子であり、前記熱可塑性樹脂製薄板に於いて長さが短くなった前記変形素子に近接する領域が軟化して、前記変形素子の延在領域に沿って前記板状部材の湾曲面の内方へ窪んだ凹領域が形成され、前記変形素子の温度が上昇しその長さが短くなった後に前記変形素子の温度が低減しその長さが長くなった後に前記熱可塑性樹脂製薄板に於ける凹領域が残留する板状アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体を変形するためのアクチュエータに係り、より詳細には、移動体のボディ等の構造体の変形に有利に用いられる板状アクチュエータに係る。
【背景技術】
【0002】
移動体の空力性能の変更のためのそのボディの変形など、構造体の変形のために種々の形式のアクチュエータが提案され、利用されている。かかる構造体を変形するためのアクチュエータとしては、一般的には、例えば、ピストン・シリンダ形式にて伸縮するアクチュエータが用いられている(例えば、特許文献1)。また、移動体のボディやその他の構造体の一部に、アクチュエータとして温度によって寸法が伸縮する形状記憶合金を用い、形状記憶合金の伸縮により構造体の一部を変形させ或いは可動部分を駆動する構成が種々提案されている(例えば、特許文献2−8)。更に、人工食道などの輸送管の構成として、管上の複数の個所に帯状の形状記憶合金を巻き付けて、管の蠕動(ぜんどう)が惹起するように帯状形状記憶合金の伸縮をスイッチング制御することにより、管内にて物質を移動する構成も提案されている(特許文献9)。更にまた、アクチュエータの駆動力として、電磁力を使用した構成(特許文献10、11)或いは圧電素子の直線的な伸縮を回転軸の回転駆動に用いる構成(特許文献12)なども種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平01−125277
【特許文献2】特開平09−257398
【特許文献3】実開昭62−112971
【特許文献4】実開昭59−123674
【特許文献5】実開昭61−113174
【特許文献6】特開2002−319343
【特許文献7】特開平09−126116
【特許文献8】特開2007−92556
【特許文献9】特開2005−104722
【特許文献10】特開2008−125301
【特許文献11】特開2006−329575
【特許文献12】特開平5−316757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
移動体のボディ等の構造体の変形のために上記の例に挙げられている如き従前のアクチュエータを利用することを想定した場合に、高荷重(若しくは高出力)及び高変位を両立させようとすると、一般に、アクチュエータが大型化し、軽量化及び省スペース化を図ることが困難である。例えば、ピストン・シリンダ形式のアクチュエータの場合、変形されるべき構造体の外郭とは別にピストン・シリンダ装置を設けられることとなるので、アクチュエータのための空間を確保することが必要となる。特に、流体圧式にて動作するピストン・シリンダ装置の場合には、流体の供給・制御をするための流体回路等の装備も必要となる。
【0005】
一方、アクチュエータとして、条件(温度、電圧等)に応じて伸縮又は変形する形状記憶合金や圧電素子等の変形素子を用いる場合、変形素子自体を変形されるべき構造体の一部として組み込むことが可能なので、アクチュエータ自体の占有する空間は、比較的小さくすることが可能である。しかしながら、それらの変形素子の単位長さ当たりの変位量は、一般に小さく、変形素子の変形から直接的に大きな変位を得ようとする場合には、変形素子を大型化することが必要となる。即ち、典型的な変形素子に於ける結晶格子間距離の変位量又は相構造の変化の際の寸法の変位量は、最大の場合でも、30%であり、長さLの素子の最大変位δは、たかだか、δ=0.3L程度となるので、アクチュエータによって発生させたい要求変位量Δが、素子の単位長さ当たりの最大変位よりも相当に大きい場合には、素子の最大変位δが要求変位量Δを十分に達成できるように、素子の長さLを大きくせざるをえず、かくして、アクチュエータが大型化されることとなる。かかる変形素子の変位量が小さいという問題について、従来の技術に於いては、
図7に模式的に描かれている如く、力点に変形素子を配置し作用点を駆動されるべき対象物を配置したリンク機構を構成し、てこの原理を利用して大きな変位量を得る手法が取られる場合がある。その場合、変形素子の変位δに対して、作用点の変位(即ち、駆動変位)Δは、Δ=δ×B/Aとなるところ(力点−支点間距離A<作用点−支点間距離B)、変形素子の発生駆動力fに対して、作用点に於ける駆動力Fは、F=f×A/Bとなってしまい、作用点で得られる駆動力Fが変形素子の発生駆動力fよりも大幅に低減してしまうこととなる。即ち、
図7の如きてこの原理を利用したリンク機構を利用しても、原理的に、高い駆動力と大きな変位を同時に得ることはできない。
【0006】
かくして、占有空間の比較的小さい変形素子を利用し、しかも、高い駆動力と大きな変位を同時に得ることの可能なアクチュエータがあれば、移動体のボディ等の構造体の変形のために有利に用いることができるであろう。
【0007】
従って、本発明の一つの課題は、移動体のボディ等の構造体の変形に用いられるアクチュエータであって、条件に応じて伸縮又は変形する形状記憶合金や圧電素子等の変形素子を用いて変形素子の持つ駆動力を殆ど低減させずに構造体に於いて(従前に比して)大きな変位を与えることのできるアクチュエータを提供することである。
【0008】
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如きアクチュエータであって、アクチュエータ本体の占有空間をさほどに大きくせずに構造体に於いて大きな変位の得ることのできるアクチュエータを提供することである。
【0009】
上記の課題を解決するに当たり、本発明の発明者は、変形素子自体の寸法の変位が小さいままでも、変位した変形素子の位置が変化すれば、変形素子の持つ駆動力を殆ど低減させずに大きな変位を与えることが可能であり、かかる変形素子によって変形されるべき構造体の一部を有意に変形駆動できることを見出した。より具体的には、湾曲した板状構造に於いて変位素子を配置し、変位した変形素子の位置を変化又は移動させることにより、板状構造に於いて蠕動変形を生じさせ、これにより、構造体の一部を有意に変位させることが可能となる。この場合、変位素子の力点と作用点とは一致し、変形素子の発生する駆動力が殆ど低減することなく、構造体の一部を大きく変位させられることとなる。本発明に於いては、かかる知見が利用される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記の課題は、移動体のボディの一部を変形させるための板状アクチュエータであって、湾曲した板状構造を有し、該板状構造の蠕動によって、ボディの一部の可動部分が移動される板状アクチュエータによって達成される。
【0011】
かかる構成に於いて、「移動体」とは、自動車等の車両、船舶、航空機、超小型モビリティ等の任意の移動体であってよい。「湾曲した板状構造の蠕動」とは、端的に述べれば、湾曲した板状構造に於いて、その湾曲方向に沿って局所的に伸縮した部分(湾曲面の内方へ窪んだ凹領域又は湾曲面の外方へ突出した凸領域)が湾曲方向に対して概ね垂直な方向に沿って移動していく運動を意味している。そして、かかる凹領域又は凸領域がボディの一部の可動部分に接触して押圧駆動することによって、ボディの一部の可動部分が移動されることとなる。かかる構成に於いては、力を発する部位は、凹領域又は凸領域であり、力の作用する部位は、凹領域又は凸領域に接触したボディの一部の可動部分となるので、力点と作用点とが略一致することとなり、
図7の如きてこの原理を利用した場合のような作用点に於ける力の低減は生じないこととなる。また、凹領域又は凸領域が湾曲した板状構造に於いて長い距離に亘って移動できるよう構成することによって、大きな変位が得られ、ボディの一部の可動部分を有意に変位させることが可能となる。そして、アクチュエータ本体の形状は、湾曲した板状であり、ボディ等の構造体の外郭に適用した場合にも、アクチュエータの占有する空間は、構造体の外郭に略沿った空間とすることが可能となるので、ピストン・シリンダ形式等のアクチュエータにして、占有空間を比較的小さく抑えることが可能となる。なお、ボディの一部の可動部分とは、ボディの可動式のフレームの一部、例えば、或る固定枠にヒンジ連結された可動枠部分などであってよい。
【0012】
上記の構成に於いて、板状アクチュエータは、より詳細には、可撓性の湾曲した板状部材と、板状部材にてその湾曲方向に概ね沿って延在するよう装着された伸縮可能な帯状の変形素子とを含み、長さの変化した変形素子の位置が、板状部材の蠕動を生ずるよう変更されることにより、蠕動が板状構造に於いて進行するようになっていてよい。可撓性の湾曲した板状部材としては、例えば、ポリウレタン(ウレタンゴム若しくはウレタン樹脂)や熱可塑性エラストマ等の任意の高弾性樹脂膜などが利用されてよい。伸縮可能な帯状の変形素子としては、帯状の成形された形状記憶合金、ピエゾ素子、高分子アクチュエータ等であってよく、好適には、通電することにより、長さの変化する帯状の変形素子が採用されてよい。変形素子は、上記の如く、板状部材の湾曲方向に概ね沿って延在して板状部材に装着されることになるので、湾曲した板状部材に沿って湾曲した帯状の形状を有することとなる。
【0013】
上記の湾曲した板状部材に帯状の変形素子を装着した構成に於いては、板状部材上にて変形素子の長さが変化し、これと共に変形素子の長さ方向に沿った板状部材の長さがその周辺に比して伸縮するとき、変形素子の位置に於いて板状部材の形状が凹状又は凸状に変化することとなる(凹領域又は凸領域が形成される)。そして、長さの変化した変形素子の位置を変化させることにより、板状部材上に於ける凹領域又は凸領域が移動することになるので、蠕動が板状構造に於いて進行することとなる。その際、長さの変化した変形素子の位置を板状構造の一方向へ変化させることによって、蠕動が板状構造にて一方向に進行していくことは理解されるべきである。なお、確実に、板状部材の形状を変化させるために、好適には、変形素子の長手方向の隔置された二点(典型的には両端)は、板状部材に於いて変形素子の長手方向の位置について拘束され、変形素子の伸縮に際して、その領域の変形素子と板状部材の曲率の変化が生ずるようになっていてよい。また、板状部材に於いて局所的に凹領域又は凸領域が形成されるように、板状部材内に於いて湾曲形状を保持する手段が付与されていることが好ましい。特に、板状部材に凹領域を形成するためには、典型的には、変形素子の長さは、その周囲の板状部材の長さに比して短くなるよう変化させられ、その場合、変形素子に追従して板状部材を変形させるためには、典型的には、変形素子は、湾曲した板状部材の外側に装着される。ただし、変形素子が湾曲した板状部材に接着されていれば、湾曲した板状部材の内側であってもよいことは理解されるべきである。
【0014】
長さの変化した変形素子の位置を板状部材に於いて変化させる一つの態様としては、複数本の変形素子が互いに隔置されて板状部材に装着され、複数本の変形素子の長さを選択的に変化させることにより、蠕動の進行が生ずるようになっていてよい。かかる構成によれば、後述の実施形態の欄に於いて説明されている如く、板状部材に隔置された複数本の変形素子の長さを選択的に、例えば、隣接する変形素子の長さを順番に伸縮させることにより(変形素子の長さを伸縮するタイミングをずらすことにより)、板状部材上の局所的に形成された凹領域又は凸領域が移動していくこととなり、かくして、蠕動が達成されることとなる。なお、複数本の変形素子の長さを選択的に伸縮する制御は、変形素子が通電により伸縮する素子である場合、各変形素子に対する通電のタイミングを制御することによって達成可能である。
【0015】
長さの変化した変形素子の位置を板状部材に於いて変化させる別の態様としては、板状アクチュエータに於いて、更に、板状部材上にて交差することなく延在する2本の帯状導電性領域が設けられ、変形素子がその両端間にて延在する導電部を有し、2本の帯状導電性領域のそれぞれと変形素子の導電部のそれぞれの端とが導通した状態にて変形素子が2本の帯状導電性領域の延在する方向に沿って移動可能に配置されるようになっていてよい。かかる構成に於いては、2本の帯状導電性領域と変形素子の導電部に電流を流すことにより、2本の帯状導電性領域の間に発生する磁場によるローレンツ力によって、長さの変化した変形素子が2本の帯状導電性領域の延在する方向に沿って移動し、従って、長さの変化した変形素子に隣接する板状部材の部分に形成された凹領域又は凸領域が移動し、蠕動が進行することとなる。ここに於いて、変形素子の伸縮は、変形素子に対する通電を制御することにより達成可能である。なお、この態様によれば、一本の変形素子により、板状部材上に於ける蠕動を発生可能であることは、理解されるべきである。
【0016】
上記の板状アクチュエータに於いて伸縮可能な変形素子を利用する場合、変形素子としては、例えば、その温度によって長さが変化する形状記憶合金の如き素子が採用されてよい。そのような温度によって長さが変化する素子の場合、その温度は、かかる素子に対して通電する(電流を流す)ことによって発生するジュール熱によって制御可能であり、その場合、通電のON/OFFの切換及び/又は電流量の調節によって、変形素子の長さの制御が可能である。なお、変形素子の種類によっては、温度又は通電状態の制御によって変形素子の長さが一旦変化した後、温度又は通電状態を変化前の状態に戻しても、変形素子の長さが変化前の状態に完全に復元されない場合がある。そこで、変形素子に対してばね等を付与するなどして、変形素子の長さを一旦変化された後に変化前の状態に戻るように復元力を付与する手段が設けられていてよい。
【0017】
更に、上記の板状アクチュエータに於いて、変形素子がその温度が上昇することにより長さが短くなる素子である場合には、板状部材に熱可塑性樹脂製薄板が貼着されてよい。この場合、変形素子の温度が上昇することにより変形素子の長さが短くなるとともに、熱可塑性樹脂製薄板に於いて長さが短くなった変形素子に近接する領域が軟化するので、変形素子の延在領域に沿って板状部材と共に熱可塑性樹脂製薄板に於いて湾曲面の内方へ窪んだ凹領域が形成される。そして、変形素子の温度が上昇しその長さが短くなった後に変形素子の温度が低減しその長さが長くなった場合には、熱可塑性樹脂製薄板は、凹領域を残留させたまま硬化するので、板状部材の凹領域を残留させることが可能となる。かかる構成によれば、変形素子の長さが変化前の状態に戻った後も、熱可塑性樹脂製薄板によって凹領域を残留させることが可能となるので、板状アクチュエータにより、ボディの一部の可動部分が移動された状態の保持が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
かくして、上記の本発明によれば、移動体のボディ等の構造体の変形に用いられるアクチュエータとして、アクチュエータ本体の占有空間をさほどに大きくせずに、しかも変形素子の持つ駆動力を殆ど低減させずに大きな変位の得ることのできるアクチュエータが提供される。特に、アクチュエータの形状が板状であることから、移動体のボディの如く、内部に別の機能のための装置又は装備(移動体の駆動装置、操縦装置、座席など)が設けられる場合にも、アクチュエータがボディ内部の空間へ突出する程度を小さく抑えることができる点で有利である。また、帯状の変形素子であって、通電制御により変形素子の長さが制御される構成の場合には、変形素子の長さを制御するための装備は、基本的には、電気回路等のみなので、アクチュエータの作動に必要な装備も比較的小さく、従って、アクチュエータの更なる軽量化及び省スペース化が可能となる点でも有利である。
【0019】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(A)は、本発明による板状アクチュエータの模式的な斜視図であり、
図1(B)は、本発明による板状アクチュエータの模式的な分解斜視図である。
図1(C)は、本発明による板状アクチュエータに於ける変形素子を含む人工筋の端部付近の模式的な斜視図であり、人工筋の内部を示すべく、一部破断されて描かれている。
図1(D)は、人工筋の変形素子の長さが変化した場合の形状(曲率)の変化を模式的に示した図であり、
図1(E)は、板状アクチュエータの蠕動駆動によって対象物が変位される状態を模式的に示した図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明による板状アクチュエータの第一の実施形態の模式的な斜視図であり、
図2(B)は、その構造を説明する概念図である。
図2(C)は、板状アクチュエータの第一の実施形態に於いて蠕動が進行する過程を模式的に表した図であり、
図2(D)は、コンピュータシミュレーションによる蠕動の進行を示した図である。
【
図3】
図3(A)は、本発明による板状アクチュエータの第二の実施形態の構造と作動を説明する概念図である。
図3(B)は、板状アクチュエータの第二の実施形態に於いて蠕動が進行する過程を模式的に表した図である。
【
図4】
図4(A)は、本発明による板状アクチュエータの第三の実施形態の模式的な分解斜視図であり、
図4(B)は、熱可塑性樹脂薄板によって、人工筋の収縮が無くなった後にも板状部材の凹領域が残留する状態を模式的に示している。
【
図5】
図5(A)〜(B)は、本発明による板状アクチュエータが適用された車両の模式的な斜視図であり、(A)が変形前の状態を示し、(B)が板状アクチュエータの作動によって変形した状態を示している。
【
図6】
図6(A)は、本発明による板状アクチュエータの実験例に於いて、人工筋の変形素子に印加される電圧の時間変化を示しており、
図6(B)は、板状アクチュエータに於いて実際に蠕動が進行する様子を示した写真である。
図6(C)は、実験に於いて参照した板状アクチュエータの凹領域に於ける測定値を説明する図であり、
図6(D)は、熱可塑性樹脂薄板が用いられた板状アクチュエータの蠕動実験に於いて、変形素子への通電後に残留する凹領域の深さの復元距離を説明する図である。
【
図7】
図7は、従前の変形素子を用いたアクチュエータに於けるリンク機構の動作を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0021】
1…板状アクチュエータ
2…弾性内皮
3…成型バテン
4…人工筋
5…レール
6…外皮
7…伸縮素子(変形素子)
8…電極
9…板ばね
10…導電性板部材
11…熱可塑性樹脂薄板
100…車両ボディ
100a…車輪
100b…アンダーボディ
101…リーディングエッジ
102…インナフレーム
110…アッパボディフレーム
111…トレーリングエッジ
120…ヒンジ
130…アッパボディパネル
130a…アッパボディパネルの継ぎ目
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0023】
板状アクチュエータの構成と作動
(1)板状アクチュエータの構成
図1(A)、(B)を参照して、本発明による板状アクチュエータ1に於いては、図示の如く任意の曲率にて一方向に湾曲された弾性内皮2上に、伸縮可能な帯状の素子(変形素子)を組み込んだ帯状の人工筋4が、弾性内皮2の曲面に沿うように配置される。弾性内皮2に於いては、その湾曲形状を保持するべく複数本の成型バテン3(湾曲形状を保持する手段)が弾性内皮2上に固定されるか又は弾性内皮2内に埋設されていてよい。なお、埋設される場合、二枚の内皮によって成型バテン3を挟み込むようになっていてよい。弾性内皮2は、典型的には、ポリウレタン(ウレタンゴム若しくはウレタン樹脂)や熱可塑性エラストマ等の任意の高弾性樹脂膜などから成る膜状部材であってよく、成型バテン3は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)などの絶縁材料で調製されてよい。弾性内皮2上に於ける人工筋4の配置については、より詳細には、人工筋4の両端が弾性内皮2の縁近傍にて弾性内皮2の湾曲方向に対して略垂直に延在して装着されたレール5に対して、弾性内皮2の湾曲方向(人工筋4の長手方向)の位置が移動しないように配置される。なお、レール5の長手方向についての人工筋4の両端の装着ついては、後に説明される如く、実施形態によって、人工筋4の両端は、レール5に対して固定される場合と、レール5に沿って移動可能に装着される場合がある。
【0024】
上記の人工筋4は、より詳細には、
図1(C)に模式的に示されている如く、絶縁材料から成る外套膜7aに覆われた帯状の伸縮素子7から構成される。かかる伸縮素子7は、典型的には、電流又は電圧を印加すると(通電すると)、数パーセントの長さの収縮が生じ、通電を止めると、長さの回復が生ずる形状記憶合金、ピエゾ素子、高分子アクチュエータ等の材料から構成されてよい。従って、伸縮素子7への通電を制御するために、伸縮素子7の両端には、
図1(C)に示されている如く、伸縮素子7に導通した電極8が設けられ、電極8は、伸縮素子7へ選択的に通電する制御回路(図示せず)に電気的に接続される。なお、特に、温度が上昇すると短縮する形状記憶合金の場合には、細径の連続した線状材を折り返して数本の束にすることにより、電気抵抗値が増大し、通電した際のジュール熱が大きくなるので、通電によって自己発熱のみで有意な収縮を惹起することが可能となる。また、上記の如き伸縮素子7の場合、一旦収縮した後に伸長する際に、長さが完全に復元しない場合があるので、通電停止後の長さの復元を確実にするために、伸縮素子7の下面又は側面に於いて板ばね9が装着されてよい。更に、後述の第二の実施形態に於いては、人工筋4に対してその両端間に導電性板部材10が装着され、レール5と電気的に導通された状態にて且つレール5に沿って人工筋4が摺動できるように配置される。この場合、レール5は、導電性材料から製作された帯状導電性領域を成す。
【0025】
なお、好適には、弾性内皮2上に人工筋4が装着された状態で、更にその上に外皮6が装着されてよい。外皮6は、剛性を有する膜であってよく、弾性内皮2に対して周縁部にて任意の手法にて、例えば、圧着にて、接合されてよい。
【0026】
(2)板状アクチュエータの作動
図1(A)〜(C)の構成に於いて、人工筋4に対して通電を実行すると、
図1(D)に示されている如く、人工筋4は両端の高さが固定された状態にて短縮するので、人工筋4の両端間の位置が低減して曲率が変化し(曲率は、増大する。)、弾性内皮2の人工筋4の周辺が、
図1(E)に示されている如く窪むこととなる(凹領域の形成)。その際、人工筋4の下方に対象物Obが存在すると、図示の如く、凹領域に押圧されて対象物Obが変位駆動されることとなる。そして、短縮した人工筋4の位置が移動すると、弾性内皮2の凹領域も移動され、即ち、弾性内皮2の蠕動が発生し、これにより、弾性内皮2の蠕動によって、対象物Obが更に変位されていくこととなる。その際、対象物Obに作用する力は、人工筋4(伸縮素子)によって与えられることとなるので、アクチュエータの力についての力点(人工筋4)と作用点(対象物Ob)とは近接しており、人工筋4にて発生する力が殆ど低減することなく(弾性内皮2と板ばね9の変形に費やされる力が低減するのみである。)、対象物Obに作用されることとなる。そして、短縮した人工筋4の位置、即ち、凹領域の位置の変位を大きくすることによって、対象物Obの変位も大きくすることが可能となる。
【0027】
短縮した人工筋4の位置、即ち、凹領域の位置を変化させる機構としては、例えば、以下に詳述する実施形態のように実現されてよい。
【0028】
(3)短縮した人工筋4の位置を移動する機構の第一の実施形態
短縮した人工筋4の位置を移動する機構の第一の実施形態としては、
図2(A)に示されている如く、弾性内皮2上に複数本の人工筋4が、弾性内皮2の湾曲方向に対して略垂直に並列される。その際、各人工筋4の両端は、レール5に固定されてよく(
図1(C)中の導電性板部材10は、不要である。)、各端部の電極8は、
図2(B)に示されている如く、それぞれ、通電制御用の電気回路に接続される。通電制御用の電気回路は、例えば、トランジスタアレイの如きスイッチングリレーと直流電源とを含む回路であってよく、人工筋4の端子間g+〜gGND、h+〜hGND、i+〜iGND、j+〜jGND…に対して順々に通電と遮電とを実行するよう動作する。かかる構成によれば、短縮した人工筋4の位置が、
図2(C)〜(D)に示されている如く、g、h、i、j…の順に変化し(ここで、レール5は、各人工筋4の両端の高さ方向の位置を保持するよう機能する。)、これにより、弾性内皮2の凹領域が進行していく蠕動が惹起されることとなる。なお、各人工筋4に於いて、通電後の遮電の際に、通電前の長さの復元は、各人工筋4の板ばね9によって補助されることとなる。更に、本実施形態に於いて、通電と遮電とを実行する人工筋4の順番を逆転させることにより、蠕動の進行方向の逆転が可能であり、また、一時に複数の凹領域を発生させて、複数の蠕動の波を発生させてもよい。
【0029】
(4)短縮した人工筋4の位置を移動する機構の第二の実施形態
短縮した人工筋4の位置を移動する機構の第二の実施形態に於いては、
図1(A)、(C)に描かれている如く、導電性板部材10を備えた一本の人工筋4が弾性内皮2上に装着される。その際、既に触れた如く、レール5は、導電性材料で作成され、人工筋4の両端に於いて、導電性板部材10がレール5と導通し、且つ、レール5に沿って人工筋4が摺動できるよう構成される。なお、レール5と導電性板部材10とは、互いの接触面に於いて酸化被膜等を除去し、電気抵抗を低くした銅、銀等の高導電性材料から形成されてよい。そして、
図3(A)に示されている如く、レール5に於いて電流Iを選択された方向に流すための直流電源VsとスイッチSwとを含む回路の端子が、2本のレール5のそれぞれへ電気的に接続される。
【0030】
上記の構成の作動に於いては、まず、人工筋4の電極g+〜gGND間に電圧又は電流が印加され、これにより、変形素子の短縮及び凹領域の形成が為される。また、これと同時に、2本のレール5間にも、電流Iが流されると、
図3(A)の如く、電流Iは、人工筋4の導電性板部材10を通過して流れることとなる。その際、2本のレール5の間の内側には、レール5を流れる電流Iによる磁場Bが図中の点線矢印の方向に発生し(アンペールの法則)、電流Iが流れる導電性板部材10は、磁場Bにより太矢印の方向にローレンツ力Fを受けることとなる。かくして、導電性板部材10を担持した人工筋4は、短縮し凹領域を形成した状態でローレンツ力Fによりレール5に沿って移動することとなるので、
図3(B)の如く、弾性内皮2上にて凹領域が移動し、蠕動が進行することとなる。かかる構成によれば、必要な人工筋4は、少なくとも一本でよく(2本以上設けられ、一時に複数の蠕動が進行するようになっていてよい。)、人工筋4の通電制御のための回路の構成が簡単化される。なお、人工筋4を逆方向に移動する場合には、スイッチSwの接続方向を転換し、レール5を流れる電流Iの向きを逆転させればよい。
【0031】
(5)変形素子の通電停止後に凹領域を保持する構成(第三の実施形態)
ところで、上記の板状アクチュエータに於いて、人工筋4の通電を停止すると、短縮した人工筋4の長さは通電前の状態に復元し、弾性内皮2上の凹領域は消滅する。凹領域が消滅した場合には、凹領域により変位された対象物Obは保持されず、対象物Obにそれを元の位置に戻す復元力が作用している場合には、対象物Obが元の位置に戻ることとなる。この点に関し、板状アクチュエータの適用の目的によっては、板状アクチュエータにより、対象物Obを変位させた後、その状態を保持したい場合もある。その場合、もちろん、人工筋4の通電を(その位置を変化させずに)継続することにより、対象物Obを変位させた位置に保持することも可能であるが、その場合には、人工筋4の通電に要するエネルギーが消費されることとなる。
【0032】
そこで、上記の本発明の板状アクチュエータに於いて、人工筋4の通電停止後にも凹領域を保持できる構成が設けられていてよい。具体的には、
図4(A)に模式的に示されている如く、人工筋4と弾性内皮2との間に、熱可塑性樹脂薄板11が挟み込まれる。熱可塑性樹脂薄板11は、温度が上昇すると軟化して変形可能となり、変形した状態で温度が低下すると、硬化する任意の熱可塑性樹脂材料で構成された薄板であってよく、好適には、炭素・ガラス・アラミド等の強化繊維で補強された熱可塑性繊維強化プラスチック薄板であってよい。また、人工筋4は、通電時に発熱する形式のものが用いられる。作動に於いては、
図4(B)上段を参照して、人工筋4に通電が為されると、短縮し且つ発熱し、これにより、熱可塑性樹脂薄板11は、軟化され、弾性内皮2と共に凹領域を形成する。しかる後、人工筋4の通電停止が為されると、
図4(B)下段の如く、人工筋4は、元の位置に戻るが、熱可塑性樹脂薄板11が、その温度の低下により、略その状態にて硬化し、従って、弾性内皮2上に凹領域が残留することとなる(凹領域の深さは、若干、低減する場合がある。)。かくして、人工筋4の通電停止後の凹領域が残留することとなるので、人工筋4の通電のためのエネルギーを消費することなく、対象物Obを変位した位置に保持できることとなる。また、熱可塑性樹脂薄板11が存在することによって、蠕動作動中に於いて凹領域が形成されていない領域の剛性を向上する効果も得られる。
【0033】
移動体ボディの変形への板状アクチュエータの適用
上記に説明された板状アクチュエータは、例えば、自動車等の車両、船舶、航空機、超小型モビリティ等の任意の移動体のボディの変形に有利に利用可能である。特に、本発明のアクチュエータの形状は、板状であり、例えば、移動体のボディの外郭の内側近傍に配置することが可能であり、占有空間の大きさが非常に小さく、軽量である点で有利である。板状アクチュエータが実際に力を作用する対象物は、例えば、移動体のボディの外郭に於けるフレーム又は骨組み等であってよい。
【0034】
図5(A)は、本発明の板状アクチュエータが適用されるボディ形状が変形可能な車両の模式的な斜視図を示している。同図を参照して、車両100に於いては、車輪100aを有するアンダーボディ100b上にその前端にて強固に固定されたリーディングエッジ101と、後方にて強固に固定されたインナフレーム102と、アンダーボディ100bへその中間にてそれぞれ両端がヒンジ120により前後方向に枢動可能に連結された複数のアッパボディフレーム110と、アンダーボディ100bの後端にてヒンジにより前後方向に枢動可能に連結されたトレーリングエッジ111とが設けられる。また、リーディングエッジ101とトレーリングエッジ111との間にて、アッパボディフレーム110及びインナフレーム102を覆うように複数に分割されたアッパボディパネル130が配置され、隣接するアッパボディパネル130の間のアッパボディパネルの継ぎ目130aは、任意の弾性材料等によって接続される。かかる構成に於いて、本発明の板状アクチュエータは、例えば、図中、βにて示されたボディの上部領域のアッパボディパネル130下側のそれぞれにて装着され、その際、それぞれの板状アクチュエータは、その蠕動によって、対応するアッパボディフレーム110又はインナフレーム102に対してボディの前後方向に相対的に変位するよう位置決めされる(一つのアッパボディフレーム110又はインナフレーム102に対して、1枚の板状アクチュエータが設けられる。)。
【0035】
上記の構成の作動に於いては、アッパボディパネル130下側に装着された板状アクチュエータのそれぞれが作動し、板状アクチュエータに形成された凹領域がボディの後ろ方向に移動すると、
図1(E)に示されている如く対象物Obに相当するアッパボディフレーム110が
図5(B)中の矢印の如くボディの後ろ方向へ枢動変位されて後傾することとなる。また、インナフレーム102に作用する板状アクチュエータについては、インナフレーム102が固定されているので、板状アクチュエータは、インナフレーム102に対してボディの前方向の力を作用し、アッパボディパネル130と共に、ボディの後方へ移動するようになっていてよい。かくして、板状アクチュエータがアッパボディフレーム110又はインナフレーム102を変位させることによって、アンダーボディ100bに対するアッパボディフレーム110の高さが低減されると、
図5(B)に描かれている如く、アッパボディパネル130の高さで低減し、ボディの前投影面積が小さくなるように、ボディの外郭が大きく後傾することとなる。その際、アッパボディパネル130の継ぎ目130aのずれは、そこに設けられた弾性材料によって吸収される。また、板状アクチュエータとして、
図4に関連して説明された熱可塑性樹脂薄板11を備えたものを採用することにより、人工筋4の通電を継続しなくても、ボディの外郭が後傾した状態を保持することが可能となる。
【0036】
かくして、上記の如く、本発明による板状アクチュエータを移動体ボディの外郭に採用すれば、大型のアクチュエータを用いることなく、略既存のボディ骨格のスペースにて、例えば、移動体の走行速度に応じて空気抵抗を低減させる後傾状態を任意に設定可能となる。
【0037】
なお、上記までの実施形態の説明に於いては、湾曲した板状構造に於いて形成された凹領域が進行する蠕動の形式について説明したが、上記の構成に於いて人工筋として、長さが伸長する変形素子を用いた場合には、湾曲した板状構造に於いて局所的に凸領域が形成され、かかる凸領域を進行させることによっても湾曲した板状構造の外側に位置する対象物の変位駆動が達成可能である。長さの伸長した変形素子の位置の変化は、上記の第一又は第二の実施形態の例と同様に達成されてよい。板状構造に凸領域を形成し蠕動を発生させる場合も本発明の範囲に属することは理解されるべきある。
【0038】
上記に説明した本発明の有効性を検証するために、以下の如き実験を行った。なお、以下の実施例は、本発明の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
【実施例1】
【0039】
板状アクチュエータの構成要素は、それぞれ、以下の如く作成した。:弾性内皮は、2層のポリウレタンフィルム(長さ500mm、幅500mm、厚み70μm)の間に、一方向プリプレグ(GF:75g/m
2,RCwt:33%)から成形して得た成型バテン(長さ500mm、幅3mm、厚み0.12mm、湾曲方向の曲率2×10
−3[1/mm]、湾曲方向に垂直な方向の曲率0[1/mm])を100mmピッチで配列し加熱圧着して得た。人工筋は、一方向プリプレグ(GF:75g/m
2,RCwt:33%)から成形硬化して得た板ばね(長さ450mm、幅5mm、厚み0.5mm、湾曲方向の曲率2×10
−3[1/mm]、湾曲方向に垂直な方向の曲率0[1/mm])上に、伸縮素子として、Ni−Ti形状記憶合金の線材(形状記憶:1%収縮、線径200μm)を板ばねの端部にて折り返しながらピッチ0.5mmにて配置し、両端部をエポキシ接着剤にて、その他の全領域を外套膜としてウレタン変性接着剤にて、ディッピングし、更にカプトンフィルムで覆うことにより調製した。レールは、長さ600mm、幅25mm、厚み0.3mmの銅板を用いた。外皮(長さ500mm、幅500mm)は、一方向プリプレグ(GF:75g/m
2,RCwt:33%)を湾曲方向の曲率2×10
−3[1/mm]、湾曲方向に垂直な方向の曲率0[1/mm]の一定円弧となるように130℃×2時間にて加熱硬化して調製した。また、熱可塑性樹脂薄板として、PA12をマトリックス樹脂とする2×2Tillの炭素繊維強化熱可塑性樹脂板(厚み0.3mm、湾曲方向の曲率2×10
−3[1/mm]、湾曲方向に垂直な方向の曲率0[1/mm])を成形した。なお、炭素繊維強化熱可塑性樹脂板の軟化点温度は、約60℃であり、形状記憶合金の形状回復(収縮)温度の70℃よりも低くなるよう設定した。
【0040】
第一の実施形態の実験例の構成に於いては、
図2(A)の如く、8本の人工筋を弾性内皮上に均等に配置し、2並列のトランジスタアレイ(耐圧50V、出力1.5A、4ch)の端子を各人工筋の銅電線に接続し、各人工筋へ下記の表のタイミングにて、
図6(A)に示されているスイッチングプロファイルのDC1Aの電流を印加した(DC15V印加)。
【表1】
【0041】
第二の実施形態の実験例の構成に於いては、
図1(A)の如く、1本の人工筋を弾性内皮上に配置し、レール4にDC24Vを印加した。また、第三の実施形態の実験例の構成として、上記の第一の実施形態の実験例の構成に、更に、熱可塑性樹脂薄板を組み込んだ構造を構成し、第一の実施形態の実験例の場合と同様に各人工筋へDC1Aの電流を印加した。
【0042】
結果に於いて、上記のいずれの構成に於いても、板状構造上で凹領域が移動する蠕動が観察された(
図6(B)参照。同図は、第一の実施形態の実験例のものである。)。上記の実験例に於ける人工筋通電時の凹領域の深さδ及び移動速度V(
図6(C)参照)と、人工筋通電停止後の凹領域の復元距離ξ(
図6(D)参照)は、以下の通りであった。
【表2】
これらの結果から理解される如く、第一及び第二の実施形態に於いては、人工筋通電時には有意な深さに形成された凹領域が板状構造上を移動する蠕動が発生し、人工筋通電停止後には、凹領域が消滅することが確認された。また、熱可塑性樹脂薄板を組み込んだ第三の実施形態の場合には、人工筋通電時には有意な深さに形成された凹領域が板状構造上を移動する蠕動が発生し、人工筋通電停止後には、凹領域が残留することが確認された。
【0043】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。