(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも、直流電源(10)と、該直流電源(10)の電源電圧を昇圧する昇圧回路(1)と、該昇圧回路(1)に接続せしめた一次巻線(40)の電流の増減により二次巻線(41)に高い二次電圧(V2)を発生する点火コイル(4)と、前記一次巻線(40)への電流の供給と遮断を切り換える点火用開閉素子(3)と、前記二次巻線(41)に接続され、前記二次巻線(41)からの二次電圧(V2)の印加により、内燃機関の燃焼室内に火花放電を発生させる点火プラグ(5)と、を具備して、内燃機関の点火を行う点火装置であって、
前記点火用開閉素子(3)の開閉によって、前記点火プラグ(5)の放電を開始した後に、前記昇圧回路(1)からの放電と停止とを重畳的に行うことによって、前記二次巻線(41)に流れる電流を増加する補助用電源(2)とを具備し、
前記補助用電源(2)が、該補助用電源(2)からのエネルギ投入と停止を切り換える補助用開閉素子(20)を備え、該補助用開閉素子(20)はターンオン速度よりも、ターンオフ速度を緩やかにするソフトオフ回路(22、22a、21b)とを具備することを特徴とする点火装置(7、7a、7b)
前記補助用電源(2)からのエネルギ投入の開始と停止とを指示する放電期間信号(IGw)にしたがって、前記補助用開閉素子(20)を、一又は複数回に亘って開閉駆動する補助用素子駆動ドライバ(21、21a、21b)を具備する請求項1の点火装置(7、7a、7b)
前記ソフトオフ回路(22、22a、22b)が、前記補助用開閉素子(20)のゲートソース間に接続した、1又は複数のソフトオフ用キャパシタ(22、221、222、223)を含む請求項1又は2に記載の点火装置(7、7a、7b)
前記補助用電源(2)からのエネルギ投入は前記一次巻線(40)の低圧側から実施することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の点火装置(7、7a、7b)
前記補助用電源(2)が、前記キャパシタ(15)と前記一次巻線(40)との間に介装され、前記キャパシタ(15)からの放電と停止とを切り換える補助用開閉素子(20)と、前記キャパシタ(15)から前記一次巻線(40)への電流を整流する第2の整流素子(23)と、前記直流電源(10)と、前記インダクタ(11)と前記キャパシタ(15)とからなる請求項6に記載の点火装置(7、7a、7b)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態における点火装置7の概要について説明する。
本発明の点火装置7は、図略の内燃機関の気筒毎に設けられ、燃焼室内に導入された混合気に火花放電を発生させて点火を行うものである。
点火装置7は、昇圧回路1と、補助用電源2と、点火用開閉素子3と、点火コイル4と、点火プラグ5と、外部に設けた電子制御装置6(以下、ECU6と称する。)と、によって構成されている。
【0011】
昇圧回路1は、電源10に接続したエネルギ蓄積用インダクタ11(以下、インダクタ11と称する。)と、インダクタ11への電流の供給と遮断を所定の周期で切り換える昇圧用開閉素子12(以下、開閉素子12と称する。)と、並列に接続したキャパシタ15と、インダクタ11からキャパシタ15への電流を整流する第1の整流素子14と、点火コイル4の一次巻線40とからなり、いわゆるフライバック型の昇圧回路を構成している。
直流電源10(以下、電源10と称する。)は、車載バッテリや、交流電源をレギュレータ等によって直流変換した公知の直流安定化電源等が用いられ、例えば12V、24Vといった一定の直流電圧を供給する。
本実施形態において、昇圧回路1には、いわゆるフライバック型の昇圧回路が用いられた例を示しているが、これに限定するものではなく、いわゆるチョパ型の昇圧回路を用いることもできる。
【0012】
インダクタ11には、所定のインダクタンス(L0、例えば、5〜50μH)を有するコア付きコイル等が用いられる。
開閉素子12には、サイリスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等のパワートランジスタが用いられている。
開閉素子12には、昇圧素子駆動用ドライバ(以下、ドライバ13と称する。)が接続されている。
ドライバ13には、機関の運転状況に応じてエンジン制御装置6(以下、ECU6と称する。)から点火信号IGtが発信される。
【0013】
ドライバ13は、点火信号IGtにしたがって、所定のタイミングで所定の期間だけ、所定の周期でハイローが切り換えられる駆動パルスを発生する。
ドライバ13から開閉素子12のゲートGに駆動パルスが印加され、開閉素子12のオンオフが切り換えられる。
【0014】
キャパシタ15には、所定のキャパシタンス(C、例えば、100〜1000μF)を有するコンデンサが用いられている。
整流素子14には、ダイオードが用いられており、キャパシタ15からインダクタ11への電流の逆流を防止している。
ECU6から送信された点火信号IGtにしたがって、ドライバ12によって開閉素子12が開閉されると、電源10からインダクタ11に蓄えられた電気エネルギがキャパシタ15に重畳的に充電され、キャパシタ15の充放電電圧Vdcが電源電圧よりも高い電圧(例えば、50V〜数百V)に昇圧される。
【0015】
点火コイル4は、コイル線材をN1回巻き回した一次巻線40、N2回巻き介した二次巻線41、コイルコア42、ダイオード43等によって構成されている。
点火コイル4の一次巻線40には、昇圧回路1で昇圧された一次電圧V1が印加され、一次巻線40に流れる電流を増減することによって二次巻線41に二次電圧V2として、コイル巻き回数の比N2/N1によって定まる高い電圧(例えば、−20〜―50kV)を発生する。
【0016】
点火用開閉素子3(以下、点火用素子3と称する。)には、MOS FET、IGBT等のパワートランジスタPTrが用いられている。
点火用素子3は、機関の運転状況に応じてECU6から発信された点火信号IGtにしたがって一次巻線40への電流の供給と遮断を切り換える。
点火用素子3のスイッチングにより、一次巻線40への導通が遮断されると、磁界が急激に変化し、電磁誘導によって、二次巻線41に極めて高い二次電圧V2が発生し、点火プラグ5に印加される。
【0017】
補助用電源2は、キャパシタ15と一次巻線40との間に介装せしめた、補助用開閉素子20(以下、補助用素子20と称する。)と、補助用素子20を駆動する補助用素子駆動ドライバ21(以下、ドライバ21と称する。)第2の整流素子23と、電源10と、インダクタ11と、キャパシタ15と、本発明の要部であるソフトオフ回路22とによって構成されている。
補助用電源2は、昇圧回路1から点火コイル4の一次巻線40と点火用開閉素子3との接続点への放電と停止とを重畳的に行うことによって、二次巻線41に流れる二次電流I2を増加することができる。
補助用電源2からのエネルギ投入は一次巻線40の低圧側から実施される。
【0018】
補助用素子20には、MOSFET等の応答性が高い、パワートランジスタが用いられている。
第2の整流素子23には、ダイオードが用いられ、キャパシタ15から一次巻線40へ投入する電流を整流する。
【0019】
補助用素子20は、ドライバ21が接続され、開閉駆動されるようになっている。
ドライバ21は、ECU6から発信された放電期間信号IGwにしたがって、補助用素子20を開閉駆動する駆動信号V
GSを発生する。
本実施形態において、駆動信号V
GSは、矩形パルス信号となっており、所定のデューティで、補助用素子20の開閉駆動を行う。
【0020】
放電期間信号IGwは、補助用素子20の開閉と停止を指示する。
補助用素子20により、キャパシタ15からの放電と停止とを切り換えることによって、点火コイル4の一次巻線40に電流を流し二次巻線41に発生している電流・電圧が増強され、吹き消えを抑制できる。
このとき、点火コイル4の一次巻線40からエネルギを投入するため、二次巻線41側から投入する場合よりも低電圧で投入することができる。
【0021】
本発明の要部であるソフトオフ回路22は、補助用素子20が開閉駆動される際に、ゆっくりと導通を遮断し、二次電流I2の急激な変化を抑制している。
本実施形態においては、ソフトオフ回路として、補助用素子20として設けられたnチャンネルMOSFETのゲートソース間に所定の容量(C22、例えば、0.1〜100μF)のキャパシタ22が設けられている。
【0022】
このような構成とすることにより、ドライバ21によって補助用素子20が開閉駆動されたときに、開閉素子として用いられてMOSFETのターンオン速度よりもターンオフ速度を遅くすることができる。
本発明によらず、補助用素子20を速やかに開閉した場合には、点火プラグ6へのエネルギ供給は間欠的となるが、本実施形態では、キャパシタ22からの放電によってドライバ21から供給された駆動電圧V
GSの立ち下がりが緩やかになり、補助
用電源2から点火コイル4へのエネルギ供給が連続的となり、二次電流の急激な変化を抑制し、二次電流の吹き消えを防止して、より安定した着火が実現可能となる。
【0023】
図2A、
図2Bを参照して、実施例1として、点火装置7の作動について説明する。
本図(a)に示すように、ECU6から点火信号IGtが発信され、(c)に示すようにIGtの立ち上がりに同期して、開閉素子12のオンオフが開始され、同時に(f)に示すように、開閉素子3がオンとなる。
【0024】
開閉素子12のオンオフにより、キャパシタ15にインダクタ11からの電気エネルギが充電され、本図(g)に示すように、放電電圧Vdcが徐々に上昇する。
点火信号IGtの立ち下がりに同期して、開閉素子12の駆動は停止され、同時に開閉素子3が遮断されると、(i)に示すように、点火コイル4の二次側に高い二次電圧V2が発生し、点火プラグに印加されることで放電が開始し(j)に示すように、ある一定の期間二次電流I2が流れ続ける。
【0025】
このとき、従来の火花点火装置では、本図(j)中、比較例1として、一点鎖線で示したように、点火コイル4に蓄積されたエネルギ量だけ、二次電流I2が流れ続ける。
しかし、本発明においては、本図(b)に示す放電期間信号IGwの立ち上がりに同期して、本図(d)に示すように、所定のデューティでハイローが切り換わる駆動電圧V
GSが補助用素子20のゲートソース間に入力される。
【0026】
このとき、本発明の要部であるソフトオフ回路として、補助用素子20のゲートソース間にソフトオフ用キャパシタ22(以下、キャパシタ22と称する。)が設けられているので、本図(e)に示すように、補助用素子20のターンオン期間に比べターンオフ期間が長くなる。
このため、本図(g)に示すように、補助用素子20の切り換えによってキャパシタ15からの放電と停止が繰り返され、これによって、点火コイル4の一次巻線40に流れる電流が変化し、本図(h)に示すように、二次巻線41から、点火プラグ5に放電エネルギが投入される。
【0027】
このとき、二次電流I2の変化を成り行きに任せるのではなく、
図2Bに示すように、補助用素子20のソフトオフによって、放電エネルギの投入停止がゆっくりと行われるため、二次電流I2の急激な変化が抑制される。
このことにより、二次電流I2が、放電期間信号IGwの立ち下がりまで、放電吹き消え限界電流I
REFを下回らないため、放電が維持され、エネルギ投入が可能となる。
【0028】
ここで、
図3A、
図3Bを参照して、比較例1として示す、本発明の要部であるソフトオフ回路22を用いない場合の問題点について説明する。
比較例1は、ソフトオフ回路22を設けていない点以外は、実施例1として示した
図1の構成と同様である。
【0029】
図3Aに示すように、比較例1では、
図3A(d)、
図3A(e)に示すように、ドライバ13からの駆動パルスにしたがって、補助用素子20が開閉駆動されたとき、キャパシタ15の放電と停止が繰り返され、
図3A(h)に、示すように放電エネルギが投入される。
しかし、
図3A(i)、
図3Bに示すように、放電エネルギ投入停止後の二次電流I2の上昇がなりゆき任せであり、放電維持エネルギ投入による二次電流I2の増加速度よりも、放電エネルギ投入停止による二次電流I2の減少速度の方が速い。
【0030】
比較例1では、
図3A(h)のA部に示すように、キャパシタ15からの放電が繰り返されているにも拘わらず、
図3A(j)に示すように、二次電流I2が、放電吹き消え限界電流I
REFを下回るために、放電の吹き消えが発生し、エネルギが投入できずに無駄となっていることが判明した。
このため、燃焼室内に強い筒内気流が発生している場合や、極希薄燃焼などの着火性の低い条件下で、十分な放電維持が図れず、着火が不安定となるおそれがある。
【0031】
図4A、
図4Bを参照して、本発明の第2の実施形態における点火装置7aについて説明する。
本実施形態においては、上記実施形態と同様の構成を基本とし、ソフトオフ回路22aとして、
図4Aに示すように、容量の異なる複数のキャパシタ221、222、223と、内燃機関の運転状況に応じて、使用するキャパシタ221、222、223のいずれかを選択する切り換え手段220とを設け、ドライバ21aが、補助用素子20の駆動のみならず、切り換え手段220の切り換えを行うようにした点が相違する。
【0032】
これにより、
図4Bに示すように、キャパシタ221、222、223を切り換えることで、ゲートソース間に並列に接続される静電容量C1、C2、C3が変化し、これに応じて、補助用素子20のターンオフ時間も変化し、ソフトオフがより一相緩やかとなり、二次電流I2の変化も緩やかとなる。
さらに、本実施形態において、ソフトオフ用のキャパシタ221、222、223の切換時にそれぞれのキャパシタ221、222、223がオープンとならない様に、放電期間信号IGwがオンの時に切り替えたり、または、補助用素子20がオンとなっている時に切り換えたり、各キャパシタ221、222、223にON/OFF回路を構成して、順次オンさせたりするようにしても良い。
【0033】
なお、本実施形態においては、複数のキャパシタとして、3つのキャパシタ221、222、223を設けた例を示してあるが、キャパシタの数を特に限定するものではなく、内燃機関に応じて適宜変更可能である。
二次電流I2の変化が大きい程、補助用素子20のゲートソース間に介装するキャパシタの容量を大きくするのが望ましい。
【0034】
図5A、
図5Bを参照して、本発明の第3の実施形態における点火装置7bの概要と、その効果について説明する。
上記実施形態においては、ソフトオフ回路22、22aとして、補助用素子20のゲートソース間に並列に容量成分を設けることでドライバ21から矩形パルスとして送信された駆動信号V
GSが立ち下がっても、補助用素子20、20aをゆっくりとオフとすることで、急に二次電流I2の放電が終了されないようにした構成を示したが、本実施形態においては、ドライバ21bから出力される駆動信号V
GSを制御することで、補助用素子20のソフトオフを実行するようにした点が相違する。
【0035】
また、上記実施形態においては、ドライバ21から出力される駆動信号V
GSを放電期間信号IGwが立ち上がっている間に複数回に亘って補助用素子20を開閉駆動させる矩形パルス信号として発生した例を示したが、本実施形態においては、放電期間信号IGwの立ち上がりに同期して一回だけ駆動信号V
GSを発生し、放電期間信号IGwの立ち下がりに同期して、徐々に駆動信号V
GSを低下するようにドライバ21bを構成してある。
なお、本実施形態においても、上記実施形態と同様、補助用素子20を複数回に亘って開閉駆動するようにしても良い。ただし、この場合には、放電期間信号IGwは、前記実施形態と同様の期間とする。
【0036】
本実施形態における効果について、比較例2との相違と合わせて説明する。
図5Bに点火装置7bを用いた場合を実施例3として実線で示し、比較例2を一点鎖線で示してある。
実施例3では、放電起算信号IGwの立下りに同期して、本図(d)に実線で示すように、ドライバ21bの出力V
GSがゆっくりと立ち下がるように制御されている。
この制御は、ドライバ21b内で(ソフトオフ用のキャパシタを設けて)アナログ回路的にコントロールするようにしても良いし、ドライバ21b内の演算回路でデジタルにコントロールするようにしても良い。
一方、比較例2では、本発明の要部であるソフトオフ回路を設けておらず、本図(d)に示すように、ドライバの出力が急峻に立ち下がるようになっており、本図(e)に示すように、補助用素子20も、これに合わせて、急峻に立ち下がるようになっている。
【0037】
その結果、本図(i)に示すように、補助用素子20からの放電により流れる二次電流I2は、補助用素子20がオンとなっている状態では実施例3と比較例2とで差がないが、補助用素子20がオフとなる際に、実施例3では、ゆっくりとオフされるのに対し、比較例2では、急峻にオフされ、そのため二次電流I2の上昇速度を比較例2に比べて実施例3は遅くなり、結果的に放電期間を長く維持できることが判明した。
したがって、本実施形態においても、上記実施形態と同様、放電エネルギの無駄をなくし、長期に亘って放電を維持し、安定した着火を実現できる。
なお、本実施形態において、上記実施形態と同様に、ソフトオフ用キャパシタを併用しても良いし、ドライバ21bの出力をプログラムによってソフトオフする用にしても良いし、ドライバ21bに、ソフトオフ用キャパシタを内蔵させ、アナログ回路的にソフトオフを実現するようにしても良い。