(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
図1は、この発明の実施の形態による車両の構成を模式的に示す図である。
図1を参照して、車両100は、エンジン20と、エンジン20を冷却するためのエンジン冷却装置10とを含む。
【0012】
エンジン冷却装置10は、電動ウォータポンプ(以下、「電動ポンプ」とも称する。)30と、ラジエータ40と、ラジエータ循環通路50と、バイパス通路60と、サーモスタット70と、エンジン側冷却水温センサ80と、ラジエータ側冷却水温センサ90と、制御装置(以下、ECU(Electronic Control Unit)とも称する。)200とを備える。
【0013】
エンジン20は、冷却水によってエンジン20を冷却するためのウォータジャケット24を有する。ウォータジャケット24は、エンジン20のシリンダの周囲に形成され、冷却水を通水する冷却水路25を構成する。冷却水路25は、入口部27と、出口部26との間に設けられ、入口部27からの冷却水を出口部26から送出する。冷却水路25内に流れる冷却水がエンジン20と熱交換を行うことによってエンジン20が冷却される。これにより、エンジン20が燃焼に適した温度に維持される。
【0014】
電動ポンプ30は、電動機によって駆動されてエンジン20の冷却水を循環させるポンプである。電動ポンプ30は、エンジン本体の取付側面部22に装着される。電動ポンプ30は、入口部27から冷却水路25内へ冷却水を送出する。
【0015】
電動ポンプ30は、ECU200から受ける制御信号によって駆動および停止が制御される。さらに、電動ポンプ30は、ECU200から受ける制御信号によって電動ポンプ30から吐出される冷却水の吐出量が制御される。
【0016】
出口部26は、分岐部120を構成する。分岐部120は、ラジエータ循環通路50と、バイパス通路60とに接続される。分岐部120によって、冷却水路25からの冷却水がラジエータ循環通路50への冷却水と、バイパス通路60への冷却水とに分けられる。
【0017】
ラジエータ循環通路50は、エンジン20、電動ポンプ30、およびラジエータ40間に冷却水を循環させるための通路である。ラジエータ循環通路50は、配管50a,50bとラジエータ40とを含む。配管50aは、分岐部120とラジエータ40の入口部42との間に設けられる。配管50bは、ラジエータ40の出口部44とサーモスタット70との間に設けられる。エンジン20で暖められた冷却水は、ラジエータ40を通過することによって冷却される。
【0018】
ラジエータ40は、ラジエータ40内を流れる冷却水と外気との間で熱交換を行うことによって冷却水の熱を放熱する。ラジエータ40には、冷却ファン46が設けられる。冷却ファン46は、送風によって熱交換を促進してラジエータ40内の冷却水の放熱効率を向上させる。ラジエータ40で冷却された冷却水は、出口部44から送出される。
【0019】
バイパス通路60は、ラジエータ40を迂回して冷却水を循環させるための通路である。バイパス通路60は、配管60a,60bと、熱機器300とを含む。配管60aは、分岐部120と熱機器300との間に設けられる。配管60bは、熱機器300とサーモスタット70との間に設けられる。
【0020】
熱機器300は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)クーラ28と、配管29と、排気熱回収器32と、ヒータ36と、スロットルボディ35と、EGRバルブ34とを含む。
【0021】
EGRクーラ28は、冷却水によってEGRガスを冷却する。排気熱回収器32は、排気ガスの熱によって冷却水を温めることによって低温時の始動性を高める。スロットルボディ35は、冷却水によって暖められることによって固着等の発生が防止される。EGRバルブ34は、冷却水によって冷却される。
【0022】
サーモスタット70は、ラジエータ循環通路50を通過した冷却水と、バイパス通路60を通過した冷却水とを合流させる合流部110に配置される。合流部110は、配管50bを介してラジエータ40に接続されるとともに、配管60bに接続される。合流部110からの冷却水は、電動ポンプ30の吸込口へ戻される。
【0023】
サーモスタット70の内部には、弁体が備えられる。サーモスタット70の弁体は、弁体付近の冷却水の温度に応じて、閉状態および開状態のいずれかに切り替えられるように構成される。
【0024】
サーモスタット70の弁体付近の冷却水の温度が所定の開弁温度(たとえば70℃程度)未満である場合、サーモスタット70の弁体は閉状態となる。この場合、バイパス通路60側の冷却水はサーモスタット70を通過してウォータジャケット24に出力されるが、ラジエータ循環通路50側の冷却水は当該弁体により流入が遮断されるためウォータジャケット24には出力されない。これにより、エンジン20の熱を奪った冷却水がラジエータ40で冷却されることなくエンジン20(ウォータジャケット24)に還流されるため、エンジン20が暖機される。
【0025】
一方、サーモスタット70の弁体付近の冷却水の温度が上記の開弁温度以上である場合、サーモスタット70の弁体は開状態となる。この場合、ラジエータ循環通路50からの冷却水とバイパス通路60からの冷却水とがサーモスタット70を通過してウォータジャケット24に出力される。また、弁体の開度は、冷却水の温度に応じて調整される。これにより、ラジエータ循環通路50からの冷却水とバイパス通路60からの冷却水との混合比率が調整され、ウォータジャケット24に通水される冷却水の温度がエンジン20の適温となるように保たれる。
【0026】
エンジン側冷却水温センサ80は、分岐部120に設けられる。エンジン側冷却水温センサ80は、出口部26から送出される冷却水の温度(以下、「エンジン出口水温ECT」あるいは単に「ECT」という)を検出し、検出結果(ECT検出値)をECU200へ出力する。なお、エンジン側冷却水温センサ80は、冷却水が常時循環している経路に設けられていればよく、たとえば、冷却水路25に設けられてもよい。
【0027】
ラジエータ側冷却水温センサ90は、配管50aに設けられる。ラジエータ側冷却水温センサ90は、ラジエータ循環通路50の配管50aに流れる冷却水の温度(以下、「ラジエータ入口水温RCT」あるいは単に「RCT」という)を検出し、検出結果(RCT検出値)をECU200へ出力する。なお、ラジエータ側冷却水温センサ90は、ラジエータ循環通路50に設けられていればよく、たとえば、配管50bに設けられてもよい。
【0028】
以上のような構成を有する車両100において、サーモスタット70が故障していると、弁体付近の冷却水温が開弁温度以上に上昇しても弁体が開かない閉故障や、弁体付近の冷却水温が開弁温度未満に下がっても弁体が閉じない開故障など異常が生じる。このような故障が発生している状態では、エンジン20の冷却水路25に適正水温の冷却水を供給できず、エンジン20の動作効率を低下させてしまう。このため、サーモスタット70が正常に機能しているか否かの故障診断を継続的に行ない、故障を早期に見つけることが好ましい。
【0029】
そこで、ECU200は、エンジン側冷却水温センサ80から受けるECT検出値と、ラジエータ側冷却水温センサ90から受けるRCT検出値とに基づいてサーモスタット70の故障診断を行なう。
【0030】
サーモスタット70が本来開かない水温領域(開弁温度未満の水温領域)においては、サーモスタット70が閉状態であるため、理論上は、バイパス通路60には冷却水が流れ、ラジエータ循環通路50には冷却水は流れない。そのため、ECT検出値とRCT検出値との間には所定値以上の差が生じる。したがって、サーモスタット70が本来開かない水温領域において、ECT検出値とRCT検出値との温度差が所定値未満であるときには、サーモスタット70が開いている、すなわちサーモスタット70が開故障していると判断することができる。
【0031】
しかしながら、実際には、サーモスタット70が正常に閉じていても、電動ポンプ30の駆動などによってラジエータ循環通路50の水圧が上昇すると、ラジエータ循環通路50内の冷却水がサーモスタット70から冷却水路25に僅かに漏れ出す。この場合、サーモスタット70が閉状態であるにもかかわらず、サーモスタット70の漏れ流量に相当する量の冷却水が冷却水路25からラジエータ循環通路50内に流れ込みラジエータ循環通路50内にあった冷却水と混合されるため、ラジエータ入口水温RCTはエンジン出口水温ECTに近づく。これにより、ECT検出値とRCT検出値との温度差が小さくなるため、故障診断の精度が低下するおそれがある。
【0032】
本実施の形態によるECU200は、サーモスタット70が正常であってもサーモスタット70から僅かに冷却水が漏れ出すことを考慮して、サーモスタット70の故障診断を行なう。具体的には、ECU200は、ECT検出値およびサーモスタット70の漏れ流量に基づいてラジエータ入口水温RCTの推定値を算出し、算出されたRCT推定値とRCT検出値との比較結果に基づいてサーモスタット70が開故障であるか否かを診断する処理(以下、「サーモスタット開故障診断処理」ともいう)を行なう。
【0033】
図2は、ECU200がサーモスタット開故障診断処理を行なう場合の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、ECU200の起動中に所定周期で繰り返し実行される。なお、ECU200は、ユーザによるIGオン操作(車両100を走行可能な状態とするための操作)によって起動され、ユーザによるIGオフ操作(車両100を走行不能な状態とするための操作)によって停止される。このフローチャートは、ECU200に予め格納されたプログラムを所定周期で実行することによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0034】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、ECU200は、エンジン側冷却水温センサ80から受けるECT検出値およびサーモスタット70が閉状態であるときにラジエータ循環通路50に流れる漏れ流量に基づいて、ラジエータ入口水温RCTの推定値(RCT推定値)を算出する。
【0035】
具体的には、ECU200は、一例として、次式を用いてRCT推定値を算出することができる。
【0036】
RCT推定値=(ECT検出値×漏れ流量+RCT推定値(前回値)×(管路容積−漏れ流量))/管路容積 …(1)
式(1)では、管路容積に対する漏れ流量の割合に応じてECT検出値の冷却水とRCT推定値(前回値)の冷却水とが均一に混合されるものとして、RCT推定値が算出される。
【0037】
ここで、漏れ流量は、予め実験結果等によって決められた固定値であってもよいし、たとえば電動ポンプ30の流量が多いほど大きい値に設定される変動値であってもよい。
【0038】
また、管路容積は、エンジン側冷却水温センサ80からラジエータ側冷却水温センサ90までの冷却水が流れる管路の容積である。また、管路を任意の数の領域に分割し、分割された領域毎に上記(1)の式を適用することによって計算精度を高めることができる。
【0039】
S20にて、ECU200は、サーモスタット開故障診断処理を行なう前提条件(以下、単に「診断前提条件」ともいう)の成否を判定する処理を行なう。なお、本処理内容については後に詳述する。
【0040】
S30にて、ECU200は、S20の処理結果に基づいて、サーモスタット開故障診断処理を行なうか否かを判定する。
【0041】
S20の処理で診断前提条件が成立しているとの判定がなされなかった場合(S30にてNO)、ECU200は、サーモスタット開故障診断処理(S40〜S60の処理)を行なうことなく、処理を終了させる。すなわち、ECU200は、診断前提条件が不成立の場合、サーモスタット開故障診断処理を禁止する。
【0042】
一方、S20の処理で診断前提条件が成立しているとの判定がなされた場合(S30にてYES)、ECU200は、サーモスタット開故障診断処理(S40〜S60の処理)を行なう。
【0043】
S40にて、ECU200は、ラジエータ側冷却水温センサ90から受けるRCT検出値が、S10で算出されたRCT推定値よりも高いか否かを判定する。
【0044】
RCT検出値がRCT推定値よりも高い場合(S40にてYES)、ECU200は、サーモスタット70が開故障状態であると判定する(S50)。
【0045】
逆に、RCT検出値がRCT推定値以下である場合(S40にてNO)、ECU200は、サーモスタット70が正常であると判定する(S60)。
【0046】
図3は、
図2のS20の処理(診断前提条件判定)の詳細な流れを示すフローチャートである。
【0047】
S21にて、ECU200は、モニタ前提条件が成立しているか否かを判定する。モニタ前提条件とは、後述するS22、S23の処理で水温変化率をモニタ(監視)する前提として設定されている条件である。本実施の形態においては、ECU200は、以下の条件(a)〜(f)がすべて成立している場合に、モニタ前提条件が成立していると判定する。
【0048】
(a) 今回のIGオン操作後において、サーモスタット故障診断が未完了である。
(b) ECT検出値がサーモスタット70の開弁温度(たとえば70℃)未満である。
【0049】
(c) エンジン始動時のECT検出値が−10℃〜+56℃の範囲に含まれる。
(d) エンジン始動中である。
【0050】
(e) エンジン始動後、所定時間(たとえば1sec)以上経過している。
(f) エンジン側冷却水温センサ80およびラジエータ側冷却水温センサ90が正常である。
【0051】
ここで、条件(a)は、本実施の形態において、サーモスタット故障診断を1トリップ(IGオン操作後から次にIGオフ操作されるまでの期間)中に1回行なうことを前提とするものである。条件(b)は、サーモスタット70が本来であれば(正常であれば)閉じられていることを担保するための条件である。条件(c)、(d)は、エンジン始動後にECT検出値がサーモスタット故障診断可能な態様で増加することを担保するための条件である。条件(e)は、ECT検出値あるいはRCT検出値の初期ばらつきを排除するための条件である。条件(f)は、ECT検出値あるいはRCT検出値の信頼性を担保するための条件である。なお、モニタ前提条件には、少なくとも条件(b)が含まれていればよく、他の条件を必要に応じて変更あるいは削除するようにしてもよい。
【0052】
S22にて、ECU200は、第1サンプリング周期で算出されるECT検出値の変化率(以下、「第1水温変化率ΔECT1」(単位:℃/sec)ともいう)が所定値α未満であるか否かを判定する。ここで、所定値αは、ECT検出値が増加から減少に転じる時の変化率として設定された値(たとえば0.1℃/sec)である。
【0053】
S23にて、ECU200は、第1水温変化率ΔECT1よりも、第2サンプリング周期で算出されるECT検出値の変化率(以下、「第2水温変化率ΔECT2」(単位:℃/sec)ともいう)が小さく、かつ第1水温変化率ΔECT1と第2水温変化率ΔECT2との差が所定値β以上であるか否かを判定する。すなわち、ECU200は、第1水温変化率ΔECT1から第2水温変化率ΔECT2を差し引いた値(=ΔECT1−ΔECT2)が所定値β以上であるか否かを判定する。
【0054】
ここで、第2サンプリング周期は、第1サンプリング周期よりも短い値に設定されている。すなわち、第2水温変化率ΔECT2の算出周期は、第1水温変化率ΔECT1の算出周期よりも短い。なお、第1水温変化率ΔECT1および第2水温変化率ΔECT2は、ECU200によって別途算出される。また、所定値βは、第1水温変化率ΔECT1と第2水温変化率ΔECT2との差(乖離)がエンジン出口水温ECTが増加から減少に転じた時の差になったことを素早く検出できるような値に予め実験等によって設定される。
【0055】
第1水温変化率ΔECT1から第2水温変化率ΔECT2を差し引いた値が所定値β未満である場合(S23にてNO)、ECT検出値が増加中であるとして、「診断前提条件成立」と判定する(S24)。
【0056】
一方、第1水温変化率ΔECT1から第2水温変化率ΔECT2を差し引いた値が所定値β以上である場合(S23にてYES)、ECU200は、ECT検出値が増加から減少に転じたとして、「診断前提条件不成立」と判定する(S25)。
【0057】
図4は、サーモスタット70の開弁温度未満の水温領域でエンジン出口水温ECTが増加から減少に転じた場合におけるサーモスタット故障診断処理の禁止タイミングの一例を模式的に示す図である。なお、
図4においては、サーモスタット70が正常に閉じている(開故障していない)場合が示されている。
【0058】
サーモスタット70が閉じられた状態でエンジン20が始動されると、エンジン20の熱を奪った冷却水はラジエータ40で冷却されることなくバイパス通路60を通ってエンジン20(ウォータジャケット24)に還流されるため、エンジン出口水温ECTは増加する。この際、上述したように、理論上はラジエータ入口水温RCTは増加しないが、実際にはサーモスタット70の漏れ流量の影響でラジエータ入口水温RCTもエンジン出口水温ECTに近づくように増加する。ただし、サーモスタット70が正常であれば漏れ流量は微小であるため、ラジエータ入口水温RCTがエンジン出口水温ECTにまで達することはない。したがって、エンジン出口水温ECTの増加中においては、
図4の時刻t1以前に示されるように、エンジン出口水温ECTがラジエータ入口水温RCTよりも所定値以上高い状態が維持される。
【0059】
ところが、たとえばバイパス通路60に設けられたヒータ36がオンされた時には、バイパス通路60の冷却水がヒータ36との熱交換によって冷却される。そのため、エンジン20の発熱量が小さい場合には、
図4の時刻t1以降に示されるように、エンジン出口水温ECTが増加から減少に転じる場合がある。このような場合には、サーモスタット70が正常であっても、エンジン出口水温ECTとラジエータ入口水温RCTとの温度差が小さくなり、やがてラジエータ入口水温RCTがエンジン出口水温ECTよりも高くなってしまう。このような状態では、サーモスタット70が正常であるにも関わらず、RCT検出値が
図2のS10の処理で算出されるRCT推定値よりも高くなるため、サーモスタット開故障判定処理(
図2のS40〜S60)において、「RCT検出値がRCT推定値よりも高い」(
図2のS40にてYES)と判定されて「開故障状態」(
図2のS50)と誤って判定されてしまう。
図4に示す例では、サーモスタット70が正常であるにも関わらず、時刻t2以降において、RCTがECTよりも高くなるため「RCT検出値」が「(ECT検出値から推定される)RCT推定値」よりも高くなり、開故障と誤判定され得る。
【0060】
このような誤判定を抑制するために、本実施の形態においては、算出周期の長い第1水温変化率ΔECT1が所定値α以上である場合(すなわちΔECT1に基づいてECT検出値が増加中であると判定されている場合)であっても、算出周期の長い第1水温変化率ΔECT1から算出周期の短い第2水温変化率ΔECT2を差し引いた値が所定値β以上である場合には、ECT検出値が増加から減少に転じたものとして、サーモスタット開故障診断処理(
図2のS40〜S60の処理)を禁止することにした。
【0061】
算出周期が長い第1水温変化率ΔECT1は水温変化に対する追従性が悪いため、エンジン出口水温ECTが実際に増加から減少に急変したことを早期に検出できない。そのため、サーモスタット開故障診断処理を禁止するタイミングが遅れてしまう可能性がある。
図4に示す例では、第1水温変化率ΔECT1が所定値α未満と判定される時刻t3が、RCTがECTよりも高くなってしまう時刻t2以降となってしまう。この場合、時刻t2〜t3の期間は、RCTがECTよりも高くなっているにも関わらず、第1水温変化率ΔECT1が所定値α未満と判定されない。したがって、仮に「第1水温変化率ΔECT1が所定値α未満である」という条件のみでサーモスタット開故障診断処理を禁止したとすると、時刻t2〜t3の期間は、RCTがECTよりも高くなっているにも関わずサーモスタット開故障診断処理が禁止されず、誤判定される可能性がある。
【0062】
しかしながら、本実施の形態においては、第1水温変化率ΔECT1が所定値α以上である場合であっても、第1水温変化率ΔECT1から第2水温変化率ΔECT2を差し引いた値が所定値β以上である場合には、サーモスタット開故障診断処理が禁止される。ここで、算出周期が短い第2水温変化率ΔECT2は、算出周期が長い第1水温変化率ΔECT1よりも、水温変化に早期に追従する。したがって、エンジン出口水温ECTが増加から減少に転じる場合には、
図4に示すように、第2水温変化率ΔECT2は、第1水温変化率ΔECT1よりも早期に低下し、第1水温変化率ΔECT1との間に差(乖離)が生じる。本実施の形態においては、この点に着眼し、第1水温変化率ΔECT1と第2水温変化率ΔECT2との差(乖離)が所定値βよりも大きい場合(ただしΔECT1>ΔECT2である場合)に、ECT検出値が増加から減少に転じたものとして、「診断前提条件不成立」と判定し、サーモスタット開故障診断処理を禁止する。
【0063】
図4に示す例では、第1水温変化率ΔECT1と第2水温変化率ΔECT2との差が所定値β以上となった時刻t1から、サーモスタット開故障診断処理が禁止される。すなわち、RCTがECTよりも高くなってしまう時刻t2よりも早期にサーモスタット開故障診断処理を禁止することができる。これにより、エンジン水温センサの出力が増加から減少に転じたことを早期に検出し、サーモスタット故障診断処理を適切に禁止することができる。その結果、サーモスタット故障診断処理による誤診断を適切に抑制することができる。
【0064】
以上のように、本実施の形態によるECU200は、算出周期の長い第1水温変化率ΔECT1が算出周期の短い第2水温変化率ΔECT2よりも大きく、かつ第1水温変化率ΔECT1と第2水温変化率ΔECT2との差が所定値β以上である場合には、ECT検出値が増加から減少に転じたものとして、サーモスタット開故障診断処理を禁止する。そのため、サーモスタット故障診断処理による誤診断を適切に抑制することができる。
【0065】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。